皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.206 | 8点 | 眠りなき狙撃者- ジャン=パトリック・マンシェット | 2010/04/24 17:35 |
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若くして隠退した殺し屋のその後を暗くて研ぎ澄まされた文体で冷徹に描く、マンシェットの遺作。
米国風の派手なハードボイルドやサスペンスを期待して読むと、大きく裏切られるだろう。 「殺戮の天使」の女殺し屋とはだいぶタイプの異なる、使い捨ての殺し屋の皮肉でやるせない末路が、ノワール小説の傑作と言われる所以だと感じました。 |
No.205 | 7点 | 季節の終り- マイクル・Z・リューイン | 2010/04/24 16:10 |
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インディアナポリスの私立探偵アルバート・サムスン、シリーズ第6作。<ネオ・ハードボイルド>の代表格の一人です。
サムスンは地味な知性派の私立探偵で、物語の発端も派手さがありませんが、読み進めるうちに流れるような文体に引き込まれていき、最後はプロットの秀逸さに感心してしまいます。 シリアル・キラーを出して物語を盛り上げなくても充分面白いミステリが書けるという見本だと思います。 今作では、もう一つのシリーズの主役パウダー警部補が脇役で出ているように、二つのシリーズは世界を共有しています。 |
No.204 | 8点 | シャドー81- ルシアン・ネイハム | 2010/04/24 15:39 |
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冒険ミステリ界の「一発屋」ルシアン・ネイハムの傑作航空サスペンスです。先年、30年ぶりに復刊されたので再読しました。
ベトナム戦争の翳が時代を感じさせますが、ジェット戦闘機による航空機ハイジャックと身代金奪取のサスペンスは今読んでも全く色あせていない。主人公で犯人のグラント大尉の造形が、クライムサスペンスなのに暗さを感じさせないのもいい。第1部で張られた伏線が、最後のどんでん返しにつながるプロットの巧さも再確認できました。 第1回文春ミステリベスト10の第1位は伊達じゃない傑作。 |
No.203 | 5点 | 塩沢地の霧- ヘンリー・ウエイド | 2010/04/24 15:18 |
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作者は英国黄金時代の代表作家の一人ですが、比較的地味な作品が多く、日本での人気はいまいちのようです。
ジョン・プール警部というシリーズ探偵を創作していますが、本書はノンシリーズで、海岸べりに住む画家夫婦と引っ越してきた人気小説家が織りなす殺人事件を描いています。 半倒叙形式で、登場人物の心情と北海沿岸の荒涼とした情景や捜査活動を丁寧に綴っている点は読めるんですが、真相の隠蔽方法が稚拙で謎解きミステリとしては成功作と言えないと思います。 |
No.202 | 6点 | リヴァイアサン号殺人事件- ボリス・アクーニン | 2010/04/23 22:12 |
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ロシア外交官ファンドーリンを探偵役とする歴史ミステリ。
時代は19世紀末、舞台はインド行き豪華客船ということで、本格ミステリの美味しい雰囲気作りは満点です。 乗船しているパリの富豪一家殺人犯はだれか、日本人を含め多国籍の乗客の多視点で描写される人間模様は面白く読めます。 犯人当てとしては詰めの甘さを感じますが、ロシア人作家が書いた本格編ということで、珍品ではあります。 |
No.201 | 8点 | シンプル・プラン- スコット・B・スミス | 2010/04/23 21:25 |
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新人作家がデビュー作で、とてつもない傑作をものにする場合がありますが、本書がその代表例じゃあないでしょうか。
ちょっとした偶然から大金を手にした主人公たち、それを隠蔽する「簡単な計画」のはずが、歯車が狂いはじめ、どんどん深みに嵌っていく・・・正にシンプルなクライムサスペンス。 雪中の田舎町の情景や、主人公の刻々と変わっていく心情描写が優れていて、とても新人の作品とは思えない。終盤のアクション・シーンは物語の雰囲気にそぐわない気もしますが、エンディングとして仕方のないところでしょうか。 |
No.200 | 6点 | 祖国なき男- ジェフリー・ハウスホールド | 2010/04/23 20:47 |
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英国冒険小説の古典名作「追われる男」から40年以上経って書かれた続編。
前作発刊時は戦時中でヒトラーが在命中だったため、暗殺対象もドイツが舞台であることも明示されない異色の冒険スリラーでしたが、今作はヒトラー暗殺失敗後の欧州横断ものの冒険譚になっています。 主人公の手記の形で、スリリングに数々のエピソードが語られていくのは前作同様で、ブランクを感じさせない。最後が尻すぼみの感がありますが、読み応えのある一冊でした。 |
No.199 | 6点 | 黄昏の罠- 愛川晶 | 2010/04/23 18:21 |
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女子大生剣士・栗村夏樹を探偵役とするシリーズ第1作。「黄昏の獲物」改題。
誘拐もの、顔のない死体トリックに加えてプロットにもある工夫を凝らすなど色々トリックが入っていて楽しめました。 作者が通俗的な本格ミステリに転換した第1歩の作品で、まずまず成功していると思うんですが、シリーズ3作で終わったのは、某作家の女子高生剣士・武藤類子とキャラがカブってしまったからでしょうか。 |
No.198 | 8点 | 怪奇探偵小説名作選〈8〉日影丈吉集―かむなぎうた- 日影丈吉 | 2010/04/23 18:04 |
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幻想ミステリ短編選集、全16作収録されている「ちくま文庫」版。
舞台背景が、田舎、フランス、台湾のものや都会の幻想譚などバランス良く配置されていて、著者の短編全体を俯瞰できるラインナップだと思います。 表題作の「かむなぎうた」と「狐の鶏」は共に既読ですが、別格の完成度で本格ミステリ趣向と怪奇幻想趣向が融合した傑作です。特に表題作は、最後に一応の真相が明示されても、別の真相があるんじゃあないかと思わせる点が秀逸です。 ほかにも、怪奇話が現実的な殺人の罠に反転する「吉備津の釜」、大蛇を巡る軽妙話が怪奇譚になる「王とのつきあい」、武田勝頼家臣の戦国残酷譚のはずが亡きバーの女給へのオマージュに変わる「饅頭軍談」など、一筋縄ではいかない秀作揃いの短編集で堪能しました。 |
No.197 | 5点 | フランチャイズ事件- ジョセフィン・テイ | 2010/04/22 22:02 |
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フランチャイズ家の母娘が少女を監禁暴行したと訴えられた事件。
グラント警部シリーズ第3作ですが、弁護士ロバートが当初の探偵役でもあります。 母娘に不利な証拠ばかり出てくる中、冤罪だとすれば少女はその間どこにいたのか・・・・サスペンスにユーモアもまぶせた著者の本領が発揮された佳作だと思いますが、「美の秘密」同様に訳文がひどく、出来を損ねているのが残念です。 |
No.196 | 6点 | ウォンドルズ・パーヴァの謎- グラディス・ミッチェル | 2010/04/22 20:56 |
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心理学者ブラッドリー夫人を探偵役とするシリーズ第2作。
肉屋の鉤にぶら下がった首なし死体、現れては消える頭蓋骨など派手な演出とは裏腹に、作者はわざと読者の興味の逆を突くようなプロットを構成しているように思われます。肝心なところで盛り上げようとしないため、すんなりと推理に入れない感じを受けました。解説を読むと、それが作者の持ち味のようですが。 しかし、今作は「踊るドルイド」や「タナスグ湖の怪物」などの後期作と比べて本格ミステリをしていて、終盤の多重解決など、なかなか読み応えがありました。 |
No.195 | 8点 | 俺たちの日- ジョージ・P・ペレケーノス | 2010/04/22 20:28 |
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男たちの熱い生き様を活写した<ワシントン・サーガ>4部作の第1作。
今作は、のちの主人公ディミトリの父親でギリシャ移民の子ピート・カラスの物語で、1940年代のワシントンと草の根の男たちの造形が鮮やかに描かれています。 かつての親友がギャングとなり、相対する道に進んだ男が選んだ手段・・・・・私立探偵が出てこなくても、男が最後まで貫く信念を硬派に描いていて、まさにハードボイルドの傑作です。 |
No.194 | 4点 | ギデオンの一日- J・J・マリック | 2010/04/22 18:59 |
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モジュラー型警察小説ギデオン警視シリーズの第1作。
この作品の翌年に87分署シリーズの第1作が発表されているので、本書がこの形式の警察小説の先駆と言えます。 しかし、内容的にはいまいちです。主人公の役職が高いこともあると思いますが、事件そのものに直接タッチせず、複数の発生事件のうち解決しないものもあるなど、ミステリよりリアルな警察活動を描くことに重点が置かれているように思います。 著者は24のペンネームを持ち、本名のジョン・クリーシーでは「トフ氏」シリーズが有名です。 |
No.193 | 7点 | 悪夢のバカンス- シャーリー・コンラン | 2010/04/22 18:25 |
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冒険サバイバル小説。
鉱山会社の重役家族がリゾートで訪れた島でクーデターに巻き込まれ射殺される、生き残ったのは5人の妻だけだった。 軍隊の追撃、人喰い原住民、自然の猛威など次々と襲いかかる危難は迫力充分な上、それ以上に面白かったのは、セレブで贅沢に慣れ切っていた女性たちが密林でのサバイバルで徐々に変身していく様です。一人のヒーローものではなく5人がほぼ同等に描かれているのも珍しい、異色の冒険サスペンスだと思います。 |
No.192 | 6点 | 地下洞- アンドリュウ・ガーヴ | 2010/04/22 18:01 |
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自然界を舞台に巻き込まれ型サスペンスを量産したガーヴは、ディック・フランシスと並んで英国式冒険スリラー作家の典型と言えるかもしれません。
本書も、財宝探しのための地下洞での冒険で幕を開け、ある秘密を抱えた主人公と妻との心理的サスペンスへとつながる所まではいつものプロットなんですが、終盤とてつもない展開が待っています。 ガーヴの小説は、ある程度結末が予想できるものが多く、ミステリとして甘い点が不満でしたが、この作品はいい意味で予想を裏切っています。 |
No.191 | 7点 | 悪党どものお楽しみ- パーシヴァル・ワイルド | 2010/04/21 21:06 |
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元いかさまカード賭博の達人を主人公にしたコンゲーム風の連作ミステリ。
ほとんどの作品が、いかさま賭博のトリックを暴く本格ミステリの味わいがあり、またプロ対プロの戦いという点で賭博小説の趣もあります。なかでは、逆転の発想でラストが秀逸な「良心の問題」が気に入りましたが、逸品ぞろいの短編集だと思います。 |
No.190 | 7点 | スイート・ホーム殺人事件- クレイグ・ライス | 2010/04/21 20:43 |
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隣家で起きた殺人事件をミステリ作家のママのために解決しようとする3人の子供たち。ノンシリーズの傑作ユーモアミステリ。
マローン弁護士&ジャスタス夫婦シリーズはどちらかというとスプラスティックな味わいの面白さで読ませるのに対して、こちらはホンワカしたユーモアがあります。小さな子供たちが、捜査する警部とママを結びつけようと画策する場面など笑えます。 意外性も追求されていて本格ミステリとしても一級品だと思います。 |
No.189 | 6点 | シーザーの埋葬- レックス・スタウト | 2010/04/21 20:17 |
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蘭と美食を愛する安楽椅子探偵ネロ・ウルフ、シリーズ第6作。
前作は美食を求め珍しくウルフが外出したが、今回は蘭の品評会のため遠出する。探偵事務所に居座った状態だと、どうしてもプロットがパターン化するので、マンネリを避けたのでしょうか。 途中立ち寄った牧場で、全米チャンピオン牛シーザーの殺人容疑を晴らすべく奮闘する助手アーチーの減らず口も快調です。 二人の掛け合いを楽しむシリーズですが、今作は本格ミステリとしてもよく出来ていると思いました。 |
No.188 | 7点 | 西海道談綺- 松本清張 | 2010/04/21 18:32 |
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伝奇時代小説の巨編。
九州山中の隠し銅山の秘密を巡って延々と続く、謀略、冒険、恋愛、謎解きの壮大な物語世界を堪能できる。 清張の作家的体力には感嘆するしかありませんが、あまりにも長い。文庫500ページ超が4分冊、主人公の日田山中彷徨の場面は何度も同じシーンを読まされている気になりました。 それと、作者の作品にはよくあることながら、途中で本筋からズレてしまい、主人公が最後の方では主人公と言えるか疑問に思えてしまいました。 しかし、物語のリーダビリティが高く、かなり楽しめたのには間違いありません。 |
No.187 | 4点 | 古墳殺人事件- 島田一男 | 2010/04/21 18:02 |
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多摩古墳盗掘口での撲殺殺人を扱った古典的本格ミステリで著者の長編デビュー作。
古墳近郊に建つ「船を模した館」が出てきた段階で、ちょっと前に読んだバカミスを想起し、いやな予感に襲われましたが、案の定、力技のトリックが炸裂。これは捨てトリックでしたが、真相にはそれ以上に脱力しました。 結局、「犯人」は何もしない方が目的達成できたのではと思いますが。 併録のパスティーシュ短編「ルパン就縛」がまだ、しゃれた出来な分だけ読めます。 |