皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
りゅうさん |
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平均点: 6.53点 | 書評数: 163件 |
No.10 | 6点 | 朱の絶筆- 鮎川哲也 | 2012/01/08 08:20 |
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光文社文庫版では、加筆後の長編版と加筆前の中編版の両方が掲載されています。個人的には、この中間ぐらいの長さが良かったような気がします。真相説明では、細かい伏線がうまく活かされた論理的な説明があって感心しましたが、長編版で「読者諸氏への挑戦」まで読んだ時には細部まで事細かには覚えておらず、メモを取りながら読めば良かったと思いました。犯人は予想どおりで(推理ではなく単なる予想)、1番目の殺人事件におけるある錯誤も想定どおりでしたが、3番目と4番目の殺人手法が全くわかりませんでした。真相説明を読んで、2番目以降の殺人動機に関する伏線の盛り込み方には非常に感心しました。1番目の殺人トリックもなかなかと感じましたが、2番目以降の殺人トリックに関しては、犯人が重大なミスを犯している箇所、証拠の後出し、不確実と感じる部分があって、評価を下げました。
(完全にネタバレをしています。要注意!) ・ 原稿の清書を田中自らが申し出ているような記述部分がちょっとアンフェアに感じました。この真相であれば、ふみ子が原稿の清書を田中に依頼するような記述にすべきではないでしょうか。 ・ 3番目の殺人(詩人殺し)で使ったトリックにはちょっと無理があります。証拠品の食器が鑑識に没収されて調べられるのは明らかで、犯人がこんな重大ミスをするものでしょうか。詩人が片腕だったという特性をうまく利用してはいるのですが、運まかせであり、不確実性も多すぎます。また、この鑑識結果は、真相説明で初めて明らかとなる後出しです。この鑑識結果がわかれば、星影龍三の登場がなくても事件は解決していたのではないでしょうか。 ・ 4番目の殺人における「火傷の跡」の証拠も後出しです。 |
No.9 | 6点 | 沈黙の函- 鮎川哲也 | 2011/12/20 20:28 |
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読んでいる最中は結構引き込まれ、読後も中々の作品だと思いましたが、冷静に考えてみるとそれほどでもないかなとの結論に達しました。
レコードや音楽に関する薀蓄、ハードボイルド系の探偵の粘り強い調査、蠟管レコードに添えられた言語の謎、容疑者が次々と変わっていく展開など、引き込まれる内容でした。「自分の首が入ったトランクを発送した男」という謎の提示も魅力的でした。作者らしい手の込んだ犯罪で、トリックも面白いのですが、犯人が策を弄しすぎで、ここまでやるかなと感じます。鮎川氏でなければ思い付かないような面倒くさいことをする犯人です。また、使われているトリックには不確実性を感じました。 (完全にネタバレをしています。要注意!) ・ 犯人は、荷物が重すぎてすぐに運べないからロッカーに一晩荷物を預けようと主張することで、トリックを成立させています。しかしながら、昭子がせっかく来たのだから荷物を運びましょうと強く主張すれば、このトリックは成立しません(その場合はトランクの入れ替えをしないだけかもしれませんが、それまでに苦労してやったことが無駄になります)。また、この荷物の受け取り時にアルバイトの大山がたまたま用事があって来れなかったことや、鍵を取り替えられたロッカーが引き続き確保できたことなど、都合が良すぎるように感じます。 ・ 犯人は、首をトランクに入れて送ることで犯行場所を誤認させようと企んでいるのですが、首をトランクで送った理由を正当化するために、わざわざ自作自演で新聞社に投書を送り、その反論の投書を送り、謝礼を受け取るための私書箱まで借りています。この投書が採用される保証はありませんし、こんな面倒くさいことをする人はまずいないでしょう。犯人が蠟管レコードの存在を知ってから犯行実施までに約2ヶ月かかっていますが、犯行を実施しなければならない日(落水がレコードを函館に取りに行く日)がわかっていたわけではないのですから、こんな悠長なことをしていられるでしょうか(それとも出張の差配は犯人が決める役割だったでしょうか)。 |
No.8 | 6点 | 偽りの墳墓- 鮎川哲也 | 2011/12/18 13:18 |
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警察の紆余曲折する捜査過程を読者が追いかけていく作品で、警察小説の要素が強いと感じました。作中ではハンセン氏病のことも扱われていて、社会派的な要素も盛り込まれています。容疑者が二転三転し、それに伴って謎も次々と変容していく作品で、作者らしく、読者を混乱させています。
時刻表がいくつか出てくるので、時刻表をもとにアリバイトリックを考察する作品なのかと思いましたが、さにあらず、あっさりと容疑者のアリバイの確定に使われているだけです。 ある人物が何に驚いたのかという謎から真相に迫っていく過程が面白く、アリバイトリックもそれを成立させる条件を誤認させる巧妙なものですが、見せ方がそれほどうまくなく、すっきりとその面白さが理解しにくい感じがしました。また、前半部と後半部のつながりが弱く、くっつけて長くしただけの印象を持ちました。 |
No.7 | 7点 | 人それを情死と呼ぶ- 鮎川哲也 | 2011/12/13 19:03 |
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本作品では鬼貫警部は後半になるまで登場せず、心中で死んだとみられる人物の妹である由美が活躍します。由美の洞察力や行動力がなければ、犯人の策略どおりに終わっていた犯罪です。消え入りそうな、かすかな手掛かりをたぐり寄せながら真相に迫っていく捜査の過程は読み応え十分です。犯人の策略は巧妙ですが、その割には不注意なところもあり、結果的にはその不注意さで墓穴を掘っています。最終的には、当初の事件の見掛けとはかけ離れた意外な真相が明らかになります。人間ドラマとしても良く出来ていて、特にラストが印象的です。二重の意味が込められたタイトルも秀逸。ただし、作品全体としては地味な印象で、読者が謎を解くようなミステリでもないので、この程度の評価にしておきます。
(完全にネタバレをしています。要注意!) 犯行目的を錯誤させる犯人の策略は、手が込んでいて実に巧妙です。一方、管理人殺しの際のアリバイトリックは、危険性が大きく、うまくいくとは思えません。寒参りの老人に扮するなどして、2日間にわたって偽装工作を行なっているのですが、近隣住民に2日間ともに現場を目撃される可能性があり、その場合は不審者がいたことを逆に印象付けることになりかねません。 |
No.6 | 8点 | 戌神はなにを見たか- 鮎川哲也 | 2011/02/20 17:45 |
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隠れた名作だと思います。個人的には、三重県の太郎生や湯の山温泉、岐阜県の石徹白と、登山で訪れたことのある場所が舞台となっており、興味を惹かれました。地道な捜査過程が丁寧に描かれており、引き込みも十分です。鮎川作品らしく、複雑系でやや難解な作品です。私は途中で少し混乱しました(今も混乱しているかもしれません)。
(ネタバレをしています。注意!) 犯人は、犯行動機の錯誤と犯行場所の錯誤という2つの錯誤を企てて、捜査を混乱させています。犯行動機の錯誤については、ここまでやるかなとは思いますが、それを自然に見せる犯人の設定がなされています。犯行場所の錯誤については、〇〇の移動ではなく、△△の移動とするアイデアがすばらしいと思います。他にも、瓦煎餅のトリック、酒屋殺しのトリックなど盛り沢山です。 |
No.5 | 5点 | 準急ながら- 鮎川哲也 | 2010/12/26 15:45 |
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トリックは、種明かしを読むと「なあんだ!」と思うぐらい拍子抜けするものでした。途中で、鬼貫警部がフィルムカメラを使ったトリックに関する推理をいくつか披露していますが、こんな方法で本当にうまくいくのだろうかと悩んでしまいました(フィルムカメラも懐かしいアイテムになってしまったということでしょうか)。隕石がぶつかって気を失う女性、土産物屋にこけしの売り込みで近づく犯人など、それにしても風変わりな設定ですね。 |
No.4 | 7点 | 黒い白鳥- 鮎川哲也 | 2010/05/23 07:24 |
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2つのアリバイトリック自体はそれほどでもないが、アリバイを補完するために使われているトリックは秀逸。逆転の発想とも言うべきもので、ちょっと思いつかないものだ(ここまでやるかとも思うが)。
不満は読者挑戦ものになっていないこと。時刻表などの謎解きに必要な情報が、種明かしの段階になってようやく明らかにされている。伏線も散りばめられているが同様で、その解釈に必要な情報が種明かしまで伏せられている。声優が気付いたことなどは、声優が生きている間にさりげなく語らせたほうが良かったのではないだろうか。 |
No.3 | 7点 | りら荘事件- 鮎川哲也 | 2010/04/24 10:53 |
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期待が大きかったせいか、期待ほどでもなかったと言うのが正直な感想。不満の原因は、犯人が使っているトリックがスマートではないと感じることだ(実際、トリックを使ったがために、さらに犯行を重ねるような結果になっている)。
多くのトリックが使われているが、中には読者が特殊な知識を持っていなければ看破できないものがあり、アンフェアな感じがする。殺人の動機も理解しがたいものが多く、最後の殺人が謎をより一層複雑にしている。読者が完全正解にたどりつくのはほとんど不可能だと思う。 細かな伏線が巧みに貼られていて、良く出来た作品だとは思うが。 |
No.2 | 6点 | ペトロフ事件- 鮎川哲也 | 2010/02/28 15:56 |
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犯人とおぼしき人物が3人登場するが、ストーリーの中頃ではほぼ1人に絞られる。その人物のタイムテーブルを作って、時刻表と突合わせることにより、鬼貫警部が途中で披露した推理と同じ結果に容易にたどりついた。しかし、この作品には最後に一ひねりがあった。この一ひねりがあったので評価が上がった。 |
No.1 | 10点 | 黒いトランク- 鮎川哲也 | 2009/10/06 15:59 |
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非常に複雑な構成を持った犯罪であり、私は正解にたどり着くことが出来なかったけれども、大いに楽しめました。読んでいて、XトランクとZトランクがよくゴッチャになりました。謎解きに必要な材料はすべて提供されており、論理的に破綻がありません。文章も非常に読みやすかったです。 |