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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1809件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.31 4点 チェスプレイヤーの密室- エラリイ・クイーン 2024/10/06 14:15
「E.クイーン外典コレクション」と銘打って刊行された作品。
J.ヴァンス(個人的にはよく知らない作者だが)が代作者となる。原題は“A Room to Die in”
1965年の発表。

~父親の「自殺」で少なくない遺産を手にすることになったアン・ネルソン。現場は完全な密室状態であったという。しかし、あの父親が自殺するなんて考えられない。殺人であることを証明するためには、かの密室を破らなくてはならないのだが・・・~

作者名こそE.クイーンとなっているけれど、やっぱり「似て非なるもの」という読後感。
邦題では華々しく「密室」と打ち出されており、その名のとおり密室トリックも登場する。それらしい「挿入図」も出てくるし、材料は揃っているわけだけど・・・
うーん。でも本当に「一応」だよね。解説者はえらく誉めてはいるけれど、どうみても「パッとしない」し、「しっくりくる」ものではなかった。
(そもそもwhyが相当弱いし)

「犯人当て」の趣向としても、いいとこ二級品。
登場人物も少ないし、「いかにも分かりやすい」人物は真犯人でないはずなのが、割とそれに近い人物が結局真犯人だったりする。(ネタバレっぽいけど)

いいところは何かなあー? うーん。なんかある?
探偵役となるヒロインの造形くらいか。
やはり、クイーンの名は偉大で、所詮は代作者であったということなのか。
でも、外典シリーズではこれが一番との評もあるようなので、だとすると他の作品は手を出しにくい。
うん。ちょっと雑な書評だけれど、やむを得ない。

No.30 5点 間違いの悲劇- エラリイ・クイーン 2021/03/08 16:26
~クイーンの既刊短編集に収録されていない中短編七編と未完成長編の梗概からなる、最後の「聖典」作品集である。単なる落ち穂拾いではなく、優れた作品や興味深い作品が揃っているので、ミステリファンには格別な贈り物になるに違いない~という作品。原書は1999年の発表。

①「動機」=とある田舎の村で起こる連続殺人事件。若き副保安官が必死に動機&真犯人を突き止めようとするが・・・。いわゆるミッシング・リンクがテーマと思われるのだが、うーん。クイーンにしてはぼやけた作品かなぁーと感じた。雰囲気は確かにあるんだけどね。
②『クイーン検察局』での3編。いずれも短いながら、どこかにキラリとした輝きがある(ほんの少しだけどね)のは、さすがというところか。中では「結婚記念日」が一番だと思うが、「トナカイの手がかり」もトリビア的で好き。
③『パズル・クラブ』での3編。これはアシモフの「黒後家蜘蛛会」を思わせる設定。他の3人がエラリーに向けて推理クイズを出題し、エラリーがあっという間に真相を見抜くというパターン。3編ともワンアイデアで大したことはないのだが、それはクイズですから・・・
④「間違いの悲劇」=これこそが本作の白眉。本作に纏わる詳細は他の方の書評を参照していただくとして、これはやはり「もったいない」というのがまず最初の感想。梗概というレベルでもここまで「読ませる」ストーリーを編む力量はクイーンということなのだろう。テーマとなっている「操り」についても、それ自体がうまい具合にミスリードを誘うようになっていて、それだけにラストのサプライズが嵌まっている。もちろん、国名シリーズでの鮮烈なロジックは期待すべくもないけど、ちゃんとした作品にならなかったのが返す返すも悔やまれる。

以上、〇編?
中味はもちろんだが、巻末の有栖川有栖氏の本作発表についての経緯がなかなか興味深い。かのE.クイーンの作品を”おこす”なんていうことになれば、自作品を発表する以上に大変なんだろうな。

それはともかく、期待以上に楽しむことはできた。クイーンの未読作品も残ってはいるんだけど、その手の入りにくさもあって、どうしても後回しになっている現状なのだが、やはり避けては通れないと再認識した次第。
やっぱり、ミステリー界の巨人、いや巨星だな。クイーンは。

No.29 5点 ハートの4- エラリイ・クイーン 2019/01/24 22:56
「悪魔の報酬」に続くハリウッドシリーズの第二弾。
遠くハリウッドに進出(?)したエラリーは果たしてNYと同様に活躍できるのか?
1938年発表。

~作家兼探偵のエラリー・クイーンは映画脚本執筆のためにハリウッドに招かれたが、そこでも彼が直面したのはやはり殺人事件だった。銀幕の名優、スクリーンの美女、変わり者の脚本家や天才的プロデューサーなど、多彩な映画王国の登場人物をめぐる冷酷きわまる殺人、また殺人。前作「悪魔の報酬」につづき、クイーン中期を代表するハリウッドもの第二作~

何だか、無理矢理ハリウッドに合わせたかのような作品。
前作はまだクイーンらしさも十分残っていたように思うけど、本作はかなりくだけた印象。
まぁ、紹介文のとおり、登場人物が俳優や映画関係者など、いわゆる“業界人”だから、それもやむなしというところか。
硬質なミステリーという雰囲気は殆ど消え失せ、映像化を意識した軽い読み物っぽい。

で、本筋はというと・・・
本作のメインは一見「動機さがし」。ハリウッドを代表する俳優と女優の毒殺事件。でも、ふたりには少なくとも同時に殺される理由が見当たらない。そこへ現れるトランプのカードによる殺害の予告・・・
こう書くと魅力的な道具立てにも見えるのだが、これが単なるこけおどしなのだ。
動機はエラリーがさんざんもったいぶって披露するようなレベルではない。むしろ最初から明々白々・・・
それよりも、本筋の裏側で進行していた別の悪意の方がサプライズ。
こちらの方は伏線もなかなかうまい具合に回収されてクイーンっぽい感じだ。
(古典作品によくある○れ○わりなんだけど、やむにやまれずというか、必然性がある分納得感がある)

でも評価としては高くはならないよなぁー。
「駄作」と評されるのも仕方なしという感じだ。やっぱり、クイーンにはNYの街が似合うということなのかも。
(本作発表年は日本でいうと昭和10年代前半。戦前のきな臭い時期だったわけで、ハリウッドの華やかさとの差に愕然とさせられる・・・)

No.28 6点 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン 2017/11/29 21:11
「ハートの4」「悪の起源」へと続く“ハリウッド・シリーズ”の一作目に当たる本作。
1938年の発表。
原題“The Devil to Pay”(創元版では「悪魔の報復」だが、「報酬」の方が正しいように思える・・・)

~倒産した発電会社の社長ソリー・スペイスがハリウッドの別荘で殺された。彼は倒産にも関わらず狡猾な手段で私腹を肥やし、欺かれた共同経営者や一般投資家から恨みをかっていた。そして、正義感の強い彼の息子もまた父を憎んでいた。警察は直ちに共同経営者を逮捕したが、E.クイーンにはこの事件がそれほど単純でないことを見抜いたのだ・・・~

これって、年代順でいえば「日本樫鳥の謎」の次に発表された作品なんだね。
何となくかなり後期の作品かなぁっていう感覚だったんだけど、国名シリーズのすぐ後に書かれたというのが意外だった。
(ファンの方にとっては当たり前のことでしょうが)
それはともかく、前評判の低さよりは「まずまず楽しめる」レベルのように感じたのだが・・・

確かに作品全体に“浮ついた感”みたいなものが漂ってる。
これはハリウッドの成せる技なのか、はたまた作風の転換を図っていたためなのか・・・
主役級の男女ふたりのやり取りがどうにも“イタい”印象はあって、これに馴染めないという方も多いのだろう。
これを最後の最後まで引っ張る当たり、小説家としての(ミステリー作家としてではなく)クイーンの才能にやや疑問符すら感じてしまう。

ただ、終章でみせるエラリーの真相解明場面は一定のキレっていうか、「あぁやっぱりクイーンだね」という満足感は覚えさせてもらった。
物証なんかは後出しというか、読者が推理できるほどの伏線になっていないようには思えるんだけど、冷静に考えれば真犯人には行き着くよう配慮がなされている。
第三者が“余計な手出しをする”というプロットもマズマズ機能しているのではないか?
ということで、そこそこor水準級の評価はしたい。
でも、他の佳作と比べちゃうと、どうしてもねぇ・・・っていう感じにはなる。
(エラリーの変装は絶対気付くと思うんだけど・・・)

No.27 6点 最後の女- エラリイ・クイーン 2017/02/19 21:34
1970年に発表された作者第三十八冊目の長編。
翌年の「心地よく秘密めいた場所」発表後、共作者のダネイが急逝することより、本作はダネイ・リー共作の最後から二番目に当たることとなる。(訳者あとがきより)

~クイーンが手にとった受話器から聞こえてきたのは「殺される」というジョニー・Bの断末魔の叫びだった・・・。華々しい社交界の旋風のなかでしか充足できなかったジョニー・B。そんな彼が三人の元妻たちをライツヴィルの別荘に呼び集め、遺言状の書き換えを発表するというまさにその前夜の出来事だった。無残に撲殺されたジョニー・Bの謎に満ちた死と書き換えられないままの遺言状が引き起こす醜い争いは、たまたま別荘の別棟に逗留していたクイーンの飽くなき好奇心を刺激するには充分な事件だった・・・~

何といってもライツヴィルである。
このニュージャージの架空の街がよっぽどお気に入りだったのだろうか、シリーズ(?)前作に当たる「帝王死す」から何と二十年後に発表された本作。
この街を再び事件の舞台として起用する作者の心中はどうだったのか?
そして、本作に被害者として登場するジョニー・Bもまた、この街をひどく気に入り、自身の別荘を建て住まうこととなるのだ。
ノスタルジーなのかな?
巷のクイーン信奉者が数多の解説をしているけど、彼らの描きたい人間ドラマにライツヴィルはうってつけの舞台なのだろう。

それはさておき、本筋なのだが・・・
筋立ては実に魅力的だ。
三人の元妻が一堂に会する舞台設定や、現場に残された三つの謎の衣服、被害者からクイーンにかかってきたダイニングメッセージ、などなど、本格ファンの心をくすぐるガジェットがふんだんに用意されている。
ただし、エラリーはいつにも増して切れ味がない。
「なんあだかなぁー」っていう感じで捜査に参加しているのだが、終章も大詰めを迎えて、ようやく事件の裏側の真実に気付く始末。

この真相もなぁ・・・。言われてみれば「それもあり」とは思うんだけど、これだけでひとつの長編を引っ張るだけのネタではない。
例のダイニングメッセージについては結構笑った。
そんな回りくどい言い方しなくても・・・って!!
でもまあ、確かに1970年の作品なんだなと改めて気付かされる真相ではあった。

No.26 7点 十日間の不思議- エラリイ・クイーン 2016/07/08 23:08
「災厄の町」「フォックス家の殺人」に続く、架空の街・ライツヴィルを舞台としたシリーズ三作目。
1948年発表の大作。

~血まみれの姿でクイーンのもとを訪れた旧友のハワードは、家を出てから十九日間完全に記憶を失っていたという。無意識のうちに殺人を犯したかもしれないので、ライツヴィルへ同行してほしいと彼はエラリイに懇願した。しかし、エラリイが着くのも待たず、不吉な事件は幕を開けた。正体不明の男から二万五千ドルでハワードの秘密を買えという脅迫電話がかかってきたのだ! 三たびライツヴィルで起こった怪事件の真相とは?~

確かに、これは賛否両論に分かれるだろうし、読み手を選ぶ作品だろうと感じる。
クイーンといえば何といっても初期の「国名シリーズ」と思われる方にとって、本作は何とも形容のし難い作品なのだと思う。
脅迫事件こそ割と早い段階で起こるものの、殺人事件は終盤に差し掛かったことにようやく発生。
おまけにその犯人は明明白白な状況・・・といった具合。
これではロジックもトリックもあったものではない。

他の諸作に比べても著しく少ない登場人物。
エラリイ以外にはほぼ四人の登場人物だけにスポットライトが当てられるのだから、人間ドラマ的な色合いが濃くなるのは必然だろう。
そして本作のプロットの中心or根幹ともなるのが、終章の「十日目」。
エラリイの推理で一旦終結したはずの事件が、更なる奥深い暗黒を見せる刹那。
これは重い! あまりに重い真相だ。
ラストも何とも悲劇的だし、救いがない。

ハヤカワ文庫版の鮎川御大の解説に関しては、他の方も触れているとおりなのだが・・・
(ネタバレはご愛嬌か?)
クイーンらしからぬアンフェアな表現に対して辛辣な評価をしているをはじめ、本作が氏の好みでないであろうことが、筆致の端々に表れているのが興味深い。本作と宗教の関連についても慧眼。

そういうわけで評価は難しいな・・・
正直、最初は「なんじゃこりゃ?」っていう感想だったのだが、結構後からジワジワきた作品だった。
並みの作家がこんなプロットで書いたら、まず読めたものではないだろうし、それだけ作者の力量が卓越しているということなのだろう。
好みか?と聞かれれば、決してそうではないんだけどね。

No.25 5点 ダブル・ダブル- エラリイ・クイーン 2016/01/19 22:26
1950年発表。
「災厄の町」「フォックス家の殺人」「十日間の不思議」に続くライツヴィル・シリーズの四作目。
「四作目」なのだが、前作から久々にライツヴィルを訪れて・・・という設定。

~クイーンのもとへ匿名の手紙が届いた。なかにはライツヴィルのゴシップを知らせる新聞の切り抜き記事が数枚入っていた。“町の隠者”の病死、“大富豪”の自殺、“町の呑んだくれ”の失踪。この三つの事件の共通点は? 手紙の主は不敵にもクイーンに挑戦状を叩きつけてきたかのようだった。だが、懐かしの土地へ赴いた彼を待ち受けていたかのように古い童謡に憑かれて犯行を重ねる殺人鬼にクイーンもなすすべがなかった!~

後期クイーンの作品らしいと言えばらしい・・・作品。
紹介文のとおり、エラリーへの挑戦状や一見して無関係に見える連続死がエラリーの登場後、童謡通りの「見立て殺人」という共通項が発見されるなど、本格ファンにとっては魅力的なガジェットが盛り込まれている。
かといって、それが面白さにつながっているかと問われればやや疑問符。
メインテーマはもちろんフーダニットの謎になるのだろうが、そこが今いちピンボケのような感じなのだ。
連続殺人が進んでいき、最後の最後で大ヒントが与えられ、読者も「まさか?!」と思った・・・ところで最後のドンデン返しは待ち受けている。
そこはまぁいいのだが、これって要は「○乗殺人」ってことだよね・・・
その辺りがどうも整理されてなくって、すっきりしない感じになっているのではないか。
(動機も分かるようで、どうも納得性が薄い)
どちらかというと重厚な作品がつづいた時期だから、「九尾の猫」や本作でやや派手な仕掛けを込めたかったのか??

本作のもうひとつのポイントが「リーマ」の存在。
まるで妖精のような美少女なのだが野生児。エラリーがNYの高級店で淑女に仕上げていくところはまるで「プリ○○ウーマ○」??
完全に惚れてるのに、他の男に盗られてしまいジェラシーを感じるエラリー・・・
サイドストーリーとしてラブストーリーが書きたかったのかどうか? でもちょっと中途半端かな。
まっそれは作品全体をとおしてではあるが・・・

No.24 7点 犯罪カレンダー (7月~12月)- エラリイ・クイーン 2015/02/26 22:20
早川文庫版の上巻とも言える『犯罪カレンダー(1月~6月)』に続き、下巻である本書を読了。
その月に因んだ事件を扱うというのが大前提であるが、あまり関係のないような話も混じっているような気もする・・・
それはさておき、エラリーとニッキー・ポーターのコンビが何とも微笑ましい。

①「墜落した天使」=7月。とある館で起こる殺人未遂事件を扱っているが、誰も撃てるはずのない空間で銃撃された不可能趣味が謎の本筋。いかにも犯人らしい疑似餌を取り除いていけば、真犯人に迫るのは容易だろう。
②「針の目」=8月。冒頭に“海賊と略奪された財産の物語である”と書かれている本作。これもいかにも怪しい人物が登場しているので・・・こうなるよなぁー。
③「三つのR」=9月。他の方も上巻に出てきた短編との類似性を指摘されているが、言われてみれば確かに・・・という感じ。でも個人的には好きな作品。ある人物の書いた筋書きどおりに殺人事件が起きるなんて、あの名作(「○の悲劇」)を想像させるではないですか??
④「殺された猫」=10月。10月31日の復活祭の夜、ある建物の13階に集まる男女。照明の落とされた部屋に突然上がる悲鳴。明るくなった奥の部屋から発見される刺殺死体・・・っていう魅力的な謎を扱う本作。シンプル・イズ・ベストとでも言うべきエラリーの解法が見事に決まるラスト! ということで短編の良さが詰まった佳作。
⑤「ものをいう壜」=11月。作中にチェスタトンの「見えない男」が引き合いに出されるなど、プロットに類似性が見られる本作。
⑥「クリスマスと人形」=当然12月。貴重なダイヤモンドを散りばめた人形。その人形がクリスマスイブの当日NYのデパートで展示されることに。しかしあろうことか大怪盗“コーマス”がその人形を強奪することを宣言した・・・って、まさかクイーンがルパンばりの怪盗ものを書くなんて! コーマスにしてやられたはずのエラリーが余裕たっぷりなのが「なぜ?」って気がした。

以上6編。
突っ込みどころは結構あるのだが、短編集としてトータルで評価するなら十分水準以上だと思った。
上巻から通しで読むと同種のプロットに飽きがくるのかもしれないので、上下分けて読む方がベターかもしれない。

エラリーとポーター、そしてクイーン警視のやり取りはやっぱり魅力的だな。
時折登場するヴェリー部長刑事がすっかり道化役となっているのも面白い・・・(笑える)
(個人的ベストは④だが、③や⑥も好み。あとはイマイチかな。)

No.23 7点 犯罪カレンダー (1月~6月)- エラリイ・クイーン 2014/10/12 12:33
ミステリー歳時記とも言える「犯罪カレンダー」。
本作はそのうちの前半部分(1月~6月)を集録した前編。
優れたミステリー作家であると同時に、優れたアンソロジストでもあった作者が贈る珠玉の作品集。

①「双面神クラブの秘密」=1月。「双面神クラブ」のメンバーがひとりひとりと死んでいく連続殺人事件。なかなか魅力的なお膳立てが揃っているのだが、最終的に決め手となったのは“ことば遊び”的なやつ。向こうの作家ってこういうの好きだよね。
②「大統領の5セント貨」=2月。アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントン。彼が1791年2月、ある場所に記念の品を埋蔵した。その場所とは?というのが本編の謎。一世紀半の時空を超えて、ワシントンとエラリーが対決する。でもこれって、アメリカの歴史に精通してないとピンとこない。
③「マイケル・マグーンの凶月」=3月。所得税の申告書類が盗まれるという変わった事件から始まる本編。事件は意外な広がりを見せるのだが、それよりもアメリカでも確定申告の期限って3月15日だったってことが「へぇー」・・・
④「皇帝のダイス」=4月。銃で撃たれた被害者が握っていたイカサマ用のダイス。そのダイスが示している真犯人とは、ってことでダイニング・メッセージを扱った本編。ただし、最終的には更に意外な真相が待ち受けている。
⑤「ゲテイスバークのラッパ」=5月。南北戦争の激戦地として有名なゲテイスバーク。南北戦争に従軍したレジェンドの老人たちが、毎年ひとりひとりと死んでいく・・・。
⑥「くすり指の秘密」=ジューンブライドの6月。幸福な花嫁が毒殺される。しかも結婚指輪から放たれた毒によって・・・。エラリーが指摘した犯人特定のロジックはちょっとしたことなのだが、この辺りの“使い方”はさすがの熟練ぶり。まとまりのよい作品。(最後がエラリーが一本取られてしまうのだが・・・)

以上6編。
短編の良さが詰まった一冊。そんな感想がピッタリの作品。
短い作品なので、長編に比べれば複雑な事件背景も煩雑な人間関係も描かれず、ある意味実にシンプルなプロット。
シンプル過ぎると「無味乾燥」ということになるのだが、エラリーやクイーン警視、ニッキイなどお馴染みの登場人物たちが賑わすことで、小気味よい読後感にも繋がっている。

まぁ、幾分推理クイズ的な雰囲気なのは仕方ないだろう。
ミステリーの楽しさ、面白さを追求した作品ということで水準以上の評価としたい。
(④⑥を個人的には押したい。次が②③あたりか・・・)

No.22 7点 災厄の町- エラリイ・クイーン 2014/05/11 20:51
1942年発表。ライツヴィル三部作の一作目に当たるのが本作。
ロジック全開の国名シリーズから橋渡しのような数作品を経て、探偵として人間として成長したエラリーを味わえる作品。

~結婚式の前日に姿を消して三年、突然ジムは戻ってきた。ひたすら彼の帰りを待ち続けた許嫁のノーラは、何も訊かず、やがて二人は結婚して幸福な夫婦となった。そんなある日、ノーラは夫の読み止しの本の間から世にも奇怪な手紙を発見した。そこには夫の筆跡で、病状の悪化した妻の死を報せる文面が・・・。これは殺人計画なのか? こんなに愛している夫に私は殺される・・・? 美しく個性的な三人の娘を持つ旧家に起こった不思議な毒殺事件。架空の町・ライツヴィルを舞台に錯綜する謎と巧妙な奸計に挑戦するクイーンの名推理!~

さすがに読み応えあり。
ひとことで言うなら、そういう感想になる。
クイーンの作品群における本作の位置付けや意義については、今さらクドクド書くまでもないと思うが、パズラーとしてひたすら事件の謎そのものにスポットライトを当てた国名シリーズと比較すると、人間の「行動」或いは「心」の謎にスポットライトを当てているという印象が強く残った。

愛する夫との待ちわびた結婚生活、その幸福を打ち破る三通の手紙が本作のプロットの「肝」となる。
まるで未来の凶行を予言するかのような手紙を発見したノーラ、エラリー・・・。その手紙をなぞるかのように起こる奸計、そしてついに起こってしまう殺人事件。しかしながら、被害者はノーラではなかった!?
事件の謎そのものに複雑なロジックなどは仕掛けられていないのだが、その代わりに、ひとつひとつの事件を軸とした登場人物たちの動きが実に人間臭く、読者の興味を引き付けることになる・・・
ロジック&トリックのミステリーに限界を感じた作者の羅針盤は、本作という波止場を見つけた・・・という感じなのだろうか。
ミステリーでも人間の心の機微を描くことができる、という実感を得たに違いない。

初期の作品群とどちらが好きかと問われると、正直なところ「初期」と答えるのだが、本作の評価は揺るぎないものだと思う。
ということで、これ以下の評価は付けられない。
(エラリー・スミスって・・・普通気付きそうなものだが・・・)

No.21 7点 中途の家- エラリイ・クイーン 2013/11/17 16:03
国名シリーズからライツヴィルシリーズにつなげるための、まさに「中途」の作品として有名な本作。
これまでよき“相棒”だったクイーン警視も登場せず、エラリーが孤軍奮闘。ニューヨークとフィラデルフィアに挟まれた「中途の家」に関する謎を解く。

~ニューヨークとフィラデルフィアの中間にあるトレントンのあばら家で正体不明の男が殺された。その男はいったいどこの誰として殺されたのか? 美しいフィラデルフィアの人妻とニューヨークの人妻を巻き込んだ旋風のなかに颯爽と登場するクイーンは、「中途の家」と中途半端な被害者の生活からいかなる暗示を得て、この難事件を解決するのか。美と醜、貧と富の二重性。ひとりであってふたりの被害者という異常な設定のもとに会心の推理が進行する~

なかなか味わいのある良作、という読後感になった。
国名シリーズでは、NYという大都会を舞台に、劇場や百貨店、病院、競技場といった一種の閉鎖空間で殺人事件が起こり、クイーン父子が華々しい活躍をする・・・という派手めな印象だった。
それが本作では一変。
トレントンという地方都市のあばら屋という地味な舞台設定となった。

終盤まで、エラリーの捜査過程というよりは、法廷をはじめとする登場人物たちの動きが中心となり、エラリーの推理が開陳されるのは、「読者への挑戦」が挟まった後の終盤以降。
そこでは、真犯人足り得る6つの条件が提示され、容疑者ひとりひとりをふるいにかけ、消去法が試みられるなど、従来の国名シリーズの名残ともいえる展開。
燃えカスのマッチに関するロジックもクイーンらしさ全開っぽくて良い。

しかし、本作への評価はそういういわゆる従前のクイーンっぽさではなく、パズラーミステリーからの脱却を図り、エラリーを事件の渦中に飛び込ませることとした作風の変化についてなのだろう。
ただし、ライツヴィルシリーズほどその辺が徹底されていないところが、まさに「中途」の作品という評価に落ち着く。
個人的には好きだけどね。
(作者が本作を好きな作品のひとつとして言及したことは有名だが、何となく分かる気がする・・・)

No.20 5点 盤面の敵- エラリイ・クイーン 2013/01/23 22:30
1963年発表の長編作品。
名探偵エラリー・クイーンと真犯人との対決をチェスの対局になぞらえ、華麗な推理ゲームが展開される。

~四つの奇怪な城と庭園からなるヨーク館で発生した残虐な殺人事件・・・。富豪の莫大な遺産の相続権を持つ甥のロバートが、花崗岩のブロックで殺害されたのだ。エラリーは父親から事件の詳細を聞くや、俄然気負い立った。殺人の方法も奇抜ではあるが、以前からヨーク館には犯人からとおぼしき奇妙なカードが送られてきていたのだ。果たして犯人の真の目的は? 狡知に長けた犯人からの挑戦を敢然と受けて立つクイーン父子の活躍!~

この真相はかなり微妙だな。
他の方の書評にもあるが、自身の名作「Yの悲劇」を彷彿させる舞台設定(犯人の署名は「Y」、事件の舞台はヨーク家)、真犯人の筋書き通りに犯行を行う示唆殺人など、本作は実にゲーム性に満ちたプロットになっている。
途中で殺人の実行者が判明しながらも繰り返される殺人事件。そして、真犯人候補が徐々に狭められるなかで、最後の最後にやっと明かされる真犯人の正体。
そう、これが実に微妙なのだ・・・。

確かに、こういうプロットもありだとは思うし、時代性を考慮すれば先見性のあるものなのかもしれない。
ただなぁ・・・これだといろいろともったいぶって書かれた途中の展開が、「必要だったの?」っていう気になってしまう。
例の犯人からの手紙の署名についても、正直よく理解できなかった。
(キリスト教国では意味のある「こと」なのかもしれないが・・・)

まぁ、代作者の手による作品ということであるが、個人的な好みとはやや外れていたという感じは否めない。
作品の雰囲気や遊戯性自体は嫌いじゃないだけに、何か惜しいなぁ。

No.19 5点 帝王死す- エラリイ・クイーン 2012/09/28 22:25
1952年発表。後期クイーンの有名作。
ライツヴィル・シリーズではないが、架空の都市「ライツヴィル」が作品世界に影を落とす一作。

~第二次世界大戦当時の機密島を買い取り、私設の陸海空軍を持つペンディゴ帝国に君臨する軍需工業界の怪物キング・ペンディゴ。彼のもとに舞い込んだ脅迫状の調査を求められ、クイーン父子は突然ニューヨークから拉致された。その強引なやり方と島の奇妙な雰囲気にとまどいながらも、エラリイはついに意外な犯人を突き止めた。しかし次の瞬間、父子の眼前で不可解な密室殺人が起こる。冒険小説風に展開する奇抜な不可能犯罪の謎~

魅力的な舞台設定と腰砕けの真相。
本作の「密室」は他のどの作品にも負けないほど「超堅牢な」密室。
どこにも隙間のない特別製の部屋が完全に密閉されたうえ、ドアの前にはクイーン警視ほか1名の目が光る。しかも、犯人と目される人物の前にはエラリイがいる・・・という状況。
にもかかわらず、犯人と目される人物が持つ拳銃から放たれた銃弾で殺人が起こってしまうのだ!
これはJ.Dカーや島田荘司もびっくりの超抜トリックか! と思いきや、なんとも小粒なトリックが開陳されてしまう・・・

派手な設定が目立つ本作なのだが、作者の狙いはそんなところにないのだろう。
国家をも凌駕する軍需産業を率いるキング・ペンディゴという人物を通し、そんな人物ですら(そんな人物だからこそとも言えるが)出自や弱点から逃げられないという人間の弱さというかはかなさを示してくれる。
三兄弟の名前に込められた暗喩とともに、何とも言えない読後感が残った。

ただ、ロジック全開の初期作品を志向する読者にとっては(私もそうだが)、実に物足りない作品という評価になるのはしょうがないかな。
(正しくは、ライツヴィルシリーズを先に読むべきなんだろうなぁ・・・)

No.18 8点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2012/05/27 21:35
「エラリー・クイーンの冒険」に続く作品集第2弾。
本作は2部構成になっていて、前半は「~冒険」と同様、通常の短編。後半は後年のハリウッドシリーズの流れを汲み、助手として「ハートの4」で知り合ったポーラ・パリスとのコンビで4つのスポーツを舞台に起こる事件を解明する、という構成。

①「神の灯」=“建物が消失する謎”を解くという魅力的なプロットで有名な作品。さすがによくできているとの印象。建物消失ではやっぱり物理的トリックは不可能だろうから、どうしても本編のような解法になる。後年、本作を応用したような作品も多いが、結局は見た者の「誤認」を如何にうまく処理するかというのが腕の見せ所。そういう意味でも、本編はシンプルだがよくできてる。
②「宝捜しの冒険」=真珠の首飾りの盗難事件の容疑者たちに対して、エラリーが「宝捜しゲーム」を仕掛けるというのが本編の面白さ。まぁ、ゲームで真犯人の心理を推定するというプロット自体はありきたりとも言えるが・・・
③「がらんどう竜の冒険」=「日本庭園(樫鳥)の謎」と同様、クイーンの妙な日本人観が垣間見える作品。「ドア・ストップ」にああいうものを仕掛けるほどの空間はそもそもあるのだろうか?という疑問が湧いてきた。
④「暗黒の家の冒険」=舞台は遊園地のアトラクションとして設置された「真っ暗な家の中」。エラリーが発見するのは死亡したばかりの死体。これはクイーンらしいロジックの効いた佳作。ラストのさらなる「仕掛け」もなかなか効いてる。
⑤「血を吹く肖像画の冒険」=肖像画から人間の血が流れてきた(!)というのが本編の謎なのだが、あまり感心しなかった。特に、事件の背景というか、構図がさっぱり見えてこなかったのだが・・・
⑥「人間が犬を噛む」=舞台はNY。ワールドシリーズでのヤンキース対ジャイアンツ(当時はNYジャイアンツだったのね)が行われるスタジアム。観客席でサインをねだられていた元大投手が毒殺されてしまう。これも、実に短編らしいロジックの冴えを感じられる良作だろう。野球に熱狂するエラリーや警視、そして何より大男の部下・ヴェリー刑事(!)というのも面白い。
⑦「大穴」=タイトルどおり「競馬」に纏わる作品。「いかさま」を仕掛けようとした「ノミ師」が、逆に罠に嵌っていき、事件が起きる・・・舞台として登場する「サンタアニア競馬場」は個人的に是非行ってみたい場所。
⑧「正気にかえる」=こちらはボクシングの選手権会場が舞台。エラリーが車の中に置き忘れた「外套」が事件の鍵となるのだが、真犯人がなぜ外套を着なければならなかったのかというプロットは、どうしても「スペイン岬」を思い起こさせてしまう。
⑨「トロイアの馬」=本編はアメリカらしく、アメフトの対抗戦(?)。スター選手の妻となる娘に対し、父親が贈った高価なサファイアが試合当日に盗まれてしまう、という謎。この「隠し場所」はスゴイけど、「音」がするんじゃないか? と変な心配をしたりする・・・

以上9編。
面白い。実に出来のいい短編集だと思います。
作者らしいロジックの効いた作品が多く、またそれを明らかにしようとするエラリーも、単に推理を披露するに留まらないユーモアや仕掛けが用意されていて非常にいいです。
中では、やはり①が秀逸。「建物消失」というのは相当難しいプロットだと思うのですが、あまり長々引っ張らず、この程度の短さに留めたことも正解でしょう。
⑥~⑨のシリーズはそれぞれ「野球」「競馬」「ボクシング」「アメフト」というアメリカを代表するスポーツとミステリーとのコラボが実に新鮮。
読んで損のない傑作短編集という評価でよいのではないでしょうか。
(⑤以外はどれも水準以上の佳作)

No.17 6点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2012/01/28 00:01
名探偵E.クイーンが大活躍する作品集。
短編になり、ますますロジックの冴えた作品が並んでるなあという印象。

①「アフリカ旅商人の冒険」=エラリーが大学の教授となり、3名の学生に探偵術を指南するという趣向が面白い。学生が示した解答を全て退け、エラリーが解き明かす解答は、まさに「意外な真犯人」っていうやつ。
②「首つりアクロバットの冒険」=他に手っ取り早い殺害方法があるにも拘わらず、無理やり首つり殺人という方法を選んだ謎。ロープの結び目という1つの事象から全てが解き明かされる。
③「一ペニイ黒切手の冒険」=こちらは、ホームズものの名作「六つのナポレポン像」を思い起こさせるプロット。貴重な古切手が盗まれるが、ばら撒かれた証拠は全て○○○だったということ。
④「ひげのある女の冒険」=これは一種のダイイング・メッセージもの。それはいいのだが、この真相はあまりにもリアリティがないのではないか? いくら隠ぺいしたとしても、普通気付くよ!
⑤「三人のびっこの男の冒険」=殺人&誘拐現場に残った3人分の靴の跡。しかも全てが「びっこ」のような跡だった・・・。真相は短編らしい逆転の発想。ありがちといえば、ありがちだが。
⑥「見えない恋人の冒険」=本作のエラリーはなかなかアクロバティック。墓あばきにより、死体の検分を行った結果、「意外な真犯人」が判明する。これは切れ味のあるロジックが決まった作品。
⑦「チークのたばこ入れの冒険」=殺人現場に残された「たばこ入れ」から導かれるエラリーの明快なロジック。これも「意外な真犯人」というプロットなのだが、ちょっと分かりにくい印象。
⑧「双頭の犬の冒険」=旅の途中のエラリーが事件に巻き込まれていく様子がなかなか面白い。ただ、中身そのものはあまり感心しないが・・・
⑨「ガラスの丸天井付き時計の冒険」=これもダイイング・メッセージものだが、やや変化球気味。「閏年」をテーマにしたロジックがなかなか珍しい。ただ、そこまであからさまなことするかなぁ・・・という疑問は残る。
⑩「七匹の黒猫の冒険」=猫嫌いのはずの老婦人が、なぜか毎週黒猫を1匹ずつ買い求める謎。これは「謎」としてはかなり魅力的。
事件は殺人&殺猫(!)事件に発展するが、これもラストは「意外な真犯人」が華麗に指摘される。

以上10編。
さすがにクイーンは短編になってもクイーンってことかな。
どれも徹底したロジックが特徴的ですが、何となく「ロジックのためのロジック」というような作品も混じっている印象。
まぁ、でも読者が推理していくには楽しい作品が揃っているので、そういう意味ではやはり読む価値有りでしょう。
(①⑩が中ではお勧めかなぁ。ダイイング・メッセージものはちょっといただけない気がした)

No.16 4点 靴に棲む老婆- エラリイ・クイーン 2011/10/29 22:32
国名シリーズ後の第2期、ライツヴィルシリーズの合間に発表された作品。
確か、昔ジュブナイル版で読んだ記憶があるのだが・・・ほとんど覚えてなかった。

~靴の宮殿に住む百万長者の老婆の6人の子供。3人は精神異常者で3人はまとも。そのまともな子供が次々と殺されて、しかも手を下して殺した殺人犯は、真の犯人ではないという、クイーン一流の精緻を極めたプロット。クイーンの転身第2期の作品中の白眉とするに足る名作で、陰惨限りない雰囲気を柔らかな同様のユーモアでくるみ、一種独特の気品が滲み出ている・・・~

プロットは面白いが、何とも中途半端な読後感。
腹違いの兄弟が、時代遅れの決闘を行い、エラリーが空砲とすり替えたはずのピストルから、実弾が発射され、「まともな」方が殺されてしまう。誰が、実弾をすり替え得たか? というのが本作メインの謎。
一旦、納得できる解決が示されたと思いきや、ラストでひっくり返されるという、二重構造の鮮やかさ。
など、さすがに円熟期を迎えたクイーンの技巧の確かさは窺える。
ただねぇ、魅力的な「材料」を生かしきれてないのも事実。
マザーグースは結局どうしたかったんでしょうね? 単なる雰囲気つくりか?
事件の本筋とは全く関係ないため、完全に浮いている印象。
「まともでない」兄弟たちも、「まともでないのか」、「まともでない振りをしているのか」など、読者を惹きこむ役目を果たしていない。

ということで、やっぱり欠点の方がどちらかといえば目立つ作品でしょうね。
(ラストのニッキー・ポーターの逸話には、「へぇー」って思わされた。)

No.15 8点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2011/08/16 20:51
国名シリーズ第4弾。
シリーズどころか、クイーン最大の長編として君臨する作品。創元版で読了。
~NYのど真ん中に残された古い墓地の地下室から発見された2つの死体。その謎を追うエラリーは、1度、2度、3度までも犯人に裏をかかれて苦汁をなめるが、ついに4度目、あざやかに背負い投げをくわせる。大学を出て間もないエラリーが、四面楚歌の中で読者に先んじて勝利を得ることはできるだろうか?~

いやぁー長かった。
ただ、長いなりに充実した読書になりました。
個人的に国名シリーズで1番最後に取っておいた本作(※単に長いので後回しにしてただけですが・・・)。
まずは期待通り、評判に違わぬ水準と言っていいでしょう。
ロジックの切れ味という点では、「フランス白粉」や「オランダ靴」の方に軍配が挙がるような気も気もしますが、フーダニットの妙やトライアル&エラーで、真実を積み重ねていく過程、真犯人とエラリーとの知恵比べ的な要素も加えるなど、総合力ではシリーズNO.1かもしれません。
巻末解説でも触れてますが、本作が発表された1932年は、他にも「X」や「Y」、そして「エジプト十字架」も発表されるなど、クイーンが信じられないほどの充実期を迎えている時期にも当たります。
敢えて弱点を挙げるなら、中盤がやや冗長になっているところと、これだけの登場人物を並べた割には、簡単なロジックで犯人像がすぐ少数に絞られてしまうところでしょうか。
ただ、それを補って余りある真犯人の衝撃!(まさかアイツがねぇ) これこそがやはりミステリーの醍醐味!
(発表順と異なり、時代的には本作がエラリー最初の事件に当たる。それだけに、推理&捜査手法がまだ固まっていない。それだけに、逆にエラリーに感情移入しやすくなってる感じ)

No.14 7点 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン 2011/06/21 23:07
国名シリーズなのか、そうでないのか、いろいろな意見・見方が可能な作品。
「日本」が題材になっている点でも興味深いのですが・・・
~流行作家のNYの邸内に美しい日本庭園が作られた。だが、結婚を控え、幸せの絶頂にあった彼女がその庭を望む1室で謎の死を遂げる。窓には鉄格子がはめられ、屋根裏部屋へ通じる扉は開かず、事件現場に出入りした者は誰もいないようにみえた。密室と思われる状況下の悪夢の死に、エラリーの推理は?~

これは、いい意味で予想を裏切られた感じ。
国名シリーズも回を重ねるごとにクオリティが落ちており、本作もその延長線上なのかと思いきや・・・というわけです。
そういう意味では、国名シリーズのラストというよりは、やはり「中途の家」へつながる後期クイーンの端緒を切る作品という見方が合っているのでしょう。
邦訳の作品名よりは、原題の「The Door Between」の方が、この作品の本質を捉えており、「言い得て妙」のタイトルかなと思います。
そして、本作の「鍵」となるのが、「密室殺人」の謎。
ほぼ完全に密閉された部屋での殺人、唯一開閉可能なドアの前には、1人の人間の目が光る・・・という状況。
ただ、その解法については「鮮やか」とは言い難いのも事実・・・
「樫鳥」(琉球カケス?)の存在も、凶器との関連での「仕掛け」はちょっとミエミエでしたねぇー。
ラスト、大方の謎解きが終わった後の、更なるエラリーの悲痛な謎解きは、何となく後期クイーン作品を彷彿させられます。
なかなかの力作という評価でいいのではないですか。
(今回、創元版で読みましたが、キヌメの台詞が「・・・アル」って、中国人じゃないんだから・・・これってワザとか?)

No.13 5点 スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン 2011/04/29 23:25
国名シリーズ第9作目。
「ニッポン樫鳥の謎」は本来、国名シリーズではないですから、実質本作が同シリーズ最終作ということに。
~スペイン岬と呼ばれる花崗岩塊の突端にある別荘の海辺で発見されたジゴロの死体。事件が発生した当時、問題の家にはいずれも一癖ある客が招待され、そのうえ3人の未知の人物まで加わっていたらしい。被害者はなぜ裸になっていたのか?魅惑的で常軌を逸した謎だらけの事件・・・~

国名シリーズもここまで回を重ねると、当初の純粋パスラー小説から、かなり趣が変わったような気がします。
もちろん、最終章でのエラリーの推理には、真犯人たる条件が列挙され、お得意の消去法的推理も開陳されてますし、ロジック重視を念頭に置いていることには違いないんでしょうが・・・
本作の「肝」は、最初から徹底して、「なぜ被害者が裸になっていたのか?」という1点に尽きます。
ただ、相当引っ張った割には、真相はかなり呆気ないもの・・・(そりゃ当然だろ!って突っ込みたくなります)
中盤以降かなり冗長感がある分、ラストのサプライズ感を削いでいますねぇ。
やっぱりシリーズものは続けすぎると、どうしても「マンネリ感」が出るということなのかな?
(フーダニットも不満。途中から"あの人物”に関する記述が明らかに消されてるのは如何なものか?)

No.12 5点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2011/03/21 01:12
国名シリーズ第6作。
2万人の観客が見守るなか、ロデオのスターが銃殺されるというド派手な事件の謎をエラリーが追及します。
~NYのスポーツの殿堂でロデオが行われていた。40人のカウボーイが拳銃を片手に荒馬を操りトラックを駆け巡る。一斉に銃声がとどろく・・・その瞬間、先頭に立つロデオ・スターの体が馬上から転げ落ちた。2万人の大観衆が見守る中で、犯人は如何にして犯行を成し遂げ、凶器を隠せたのか?~

今回の謎は、フーダニットのほか、密閉された競技場というクローズド・サークルから忽然と姿を消した凶器(22口径)について・・・
ということは、変格の「密室モノ」という見方もできるわけですが、その真相はかなり強引というか、「そんなこと!」というようなもの・・・
(2万人の観客やロデオの関係者に対して、さんざん凶器探しをさせられたクイーン警視の立場はどうなる?)
フーダニットの方も、「ご都合主義」と揶揄されてもしようがないかもしれませんねぇ。「読者への挑戦」の中で、「ハリウッドへの手紙」云々という記述をわざわざ入れているのが伏線になってるのが、唯一納得させられたくらいです。
まぁ、ロジック的にはそれほど変ではないような気はするんですが、舞台設定がちょっと難しすぎたような気がします。(なぜ、こんな場所で殺人を起こしたのかが納得いかない)
他の良作に比べて評価が低くなるのも仕方ないかなという感じ。
(エラリーが最初から○○○に気付いていたというのは驚き。いかにそれが推理の帰結とはいえ、いきなりそんな結論になるかなぁ?)

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E-BANKERさん
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