皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.405 | 6点 | 夜歩く- 横溝正史 | 2011/01/30 22:18 |
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金田一耕助シリーズ。
他の有名作品に埋もれがちですが、横溝作品のガジェットをこれでもかと詰め込んだ作品の一つ。 ~古神家の令嬢八千代に舞いこんだ「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と男の写真は陰惨な殺人事件の発端だった。卓抜なトリックで推理小説の限界に挑んだ作品~ まず、例の「アクロイド殺し」との関連性云々についてですが、個人的にはあまり気になりませんでした。 確かに、唐突にネタバレが行われるので、一瞬「エッ?」という感覚には陥りますが、読み慣れたファンが素直に読んでいれば、ミステリー的に真犯人足り得る人物は相当限定されるはずですし、まぁ想定の範囲内と言えなくもありません。 次に「首切り」についてですが、当然ながら「被害者は本当は誰なのか?」という魅力的な謎を構成させるための条件になっているわけです。 ただ、本作については、ここがかなりシンプルなトリックのため、あまり効果的ではなかったかなと・・・ 加えて気になったのは、「指紋」が全く無視されていること。この時代でも指紋捜査は存在してますよね?(もちろん、現在ならDNA鑑定等もあり、孤島や嵐の山荘でない限り首切りトリック自体不可能ではありますが) トータルでみて、非常によく練られた作品という評価でいいとは思うのですが、個人的な期待感にはやや達しなかったということで、こんな評点になっちゃいました。 (変人たちの間で渦巻く愛憎劇というのが、まさに「横溝!」という感じですよねぇ) |
No.404 | 7点 | 孔雀の羽根- カーター・ディクスン | 2011/01/28 22:05 |
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H.M卿の探偵譚第6作。
「孔雀の羽根」とは、殺人現場に残された肩掛け(?)の柄のこと・・・ ~2年前と同じ予告状を受け、警察はその空き家を厳重に監視していた。銃声を聞いて踏み込んだ刑事が見たものは、若い男の死体、孔雀模様のテーブル掛けと10客のティーカップ。何もかもが2年前の事件とよく似ていた。そのうえ、現場に出入りした者は被害者以外にはいないのだ。この怪事件をH.Mは32の手掛かりを指摘して推理する~ やはり本作のメインは第1の殺人での「準密室」。 警官や関係者など複数の目が光るなかで、被害者が2発の銃弾を浴びて死亡する。しかしながら、犯人の姿はなかった・・・何て魅力的な謎でしょうか! ただ、トリック自体はちょっと微妙・・・拳銃の仕組みはまぁいいとして、2発目はああいうことでいいんでしょうか? かなり乱暴なやり方のような気はしました。 その代わり「至近距離からの発射」については、「さすがカー」と言うべきで、HMのロジックに唸らされる結果に・・・ 最終章、HMが32もの手掛かりを明示して、事件の推理を懇切丁寧に行ってくれてます。これだけでも本作を読む価値はありでしょう。 確かに中盤はややダレますし、動機や関係者の動きに疑問符が付く部分もありますが、そこを考慮に入れても佳作という評価でいいと思います。 (「秘密結社」なんていう本筋に無関係の話を削ってれば、スッキリしたのにね。でもそれがカーということなんでしょう) |
No.403 | 6点 | 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題- 法月綸太郎 | 2011/01/28 21:45 |
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法月綸太郎シリーズの短編集。
相変わらず「短編はウマイ!」 ①「ギリシャ羊の秘密」=「要は漢字の読み方かよっ!」という感じ。タイトルは当然E.クイーンの名作のもじりですが、どっかカブってますかねぇ? ②「六人の女王の問題」=途中出てくる「6クイーンの問題」は面白かった。要はそうゆうパズルなんだね。 ③「ゼウスの息子たち」=ふたご座の話らしいネタ。読者をミスリードさせる手練手管は「流石!」と思わせます。 ④「ヒュドラ第十の首」=これもミスリードさせる手口ですが、ここまで単純化させられると、だいたい予想はつきますねぇ・・・ ⑤「鏡の中のライオン」=あまりパッとしない作品。 ⑥「冥府に囚われた娘」=これも今ひとつな感じ。ちょっとネタが尽きたか? 以上6編。 十二星座の順に、星座にちなんだ短編を書くという趣向は非常に面白いと思いますし、ギリシャ神話に少し詳しくなったような気がします。 ただ、他の方と同様、これまでの短編集に比べれば一枚落ちるかなぁという感想になっちゃいますねぇ・・・ (個人的には③がベスト。①⑤⑥辺りはやや落ちる印象) |
No.402 | 6点 | 違法弁護- 中嶋博行 | 2011/01/28 21:29 |
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現役弁護士でもある作者の第2長編。
乱歩賞受賞作「検察捜査」に続いて、またも法曹界の内幕に鋭く切れ込んでいくという内容です。 ~横浜本牧ふ頭の倉庫外で警官が射殺された。女性初の経営弁護士(パートナー)を目指し、ロー・ファームに勤務する弁護士・水島は、貿易会社の法的危機管理を担当するうち、巨大な陰謀に気付く。「依頼人」は古ぼけた倉庫に何を保管していたのか?~ 前作は「検察官」にスポットライトを当てていましたが、今回は「弁護士」が主役。ここに刑事警察や公安警察を絡ませながら、お互いのプライドやエゴやその他諸々を戦わせるといった内容・・・ 一応、連続殺人事件の謎解きがメインとはなりますが、裏に経済犯罪が絡んでいるので、倒産法制や債権法関連の用語がたびたび登場し、この辺に予備知識のない読者は少々分かりにくいかもしれません。 ただ、プロットの中心は勧善懲悪(!) 最後には悪い奴らが一網打尽にされるというごく単純なオチに収斂されるので、その辺りがスッキリすると言えばスッキリしますし、物足りないと言えば物足りないといった読後感なんですよねぇ・・・ まぁ、トータルでは「可もなく不可もなく」というところでしょうか。 (なんかモヤモヤした書評になってしまいましたが、決して駄作ではありません。) |
No.401 | 7点 | ロシア幽霊軍艦事件- 島田荘司 | 2011/01/24 23:35 |
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御手洗潔シリーズ。
1枚の「写真」から始まる歴史に埋もれた謎がスゴイ。 ~箱根のホテルに飾られていた1枚の古い写真。そこには、芦ノ湖に浮かぶ帝政ロシアの軍艦が写っていた。その軍艦は嵐の夜に突如として現れ、軍人たちが降りると忽然と姿を消してしまったというのだ。山間の湖にどうやって軍艦が姿を現せるというのか。御手洗はこの不可解な謎に挑むことになるのだが・・・~ 本作は殺人事件を手掛けるいつものシリーズ作ではなく、ロマノフ王朝最後の皇帝、ニコライ2世の娘「アナスタシア」と芦ノ湖に突如出現した「幽霊軍艦」を巡る、大いなる「歴史ミステリー」・・・ ただ、アナスタシアと軍艦の謎については、御手洗があっさりと解決してしまいます。 途中の脳科学関係の話は、いかにも島田氏らしい展開ですし、ドイツ製の○○○についてはいつもの「豪腕ぶり」を堪能させられます。(豪腕というか荒唐無稽というかは微妙だが・・・) 読んでるうちに、どこまでが史実でどこまでがフィクションなのか境界が分かりにくく感じるのですが、巻末の解説で作者自身がその境界について説明してくれてるので、その辺は理解できました。 私自身、ロシア革命とロマノフ王朝の謎については、他の文献等で多少かじったことがあるのですが、まさに歴史の「光と闇」を感じさせるテーマではあります。レーニン側から見る歴史とロマノフ側から見る歴史では180度違って見えるわけで、授業で学ぶ歴史がいかに不十分なものかを改めて感じさせられました。 (昨年の「写楽」もそうですが、島田氏の「歴史ミステリー」もなかなか面白いです。やっぱりスゴイ作家ですねぇー) |
No.400 | 8点 | オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン | 2011/01/24 23:15 |
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400冊目の書評は「パズラー推理小説の完成型」とも言える本作品で。(創元文庫解説の法月氏は『犯人当てロジック小説の理想型』という評価をしてます)
国名シリーズ第3弾。 ~オランダ記念病院の手術室では、今まさに重要な手術が執り行われようとしていた。患者は病院の創設者であるドーン氏で、応急手術を必要としていた。ところが、何か様子がおかしい。手術台の上の老婦人はすでに息を引き取っていたのだ。控え室では生きていた患者が、いつどうやって殺されたのか。推理するエラリーを嘲笑うかのように第2の殺人が起こる!~ さすがに、エラリーの探偵ぶりも大分落ち着いてきた印象を与えます。 さて、本作の”ウリ”はもちろん「真犯人特定のロジック」ですが、「靴」にしろ「絆創膏」にしろ確かにエラリーの考え方は分かるし、特に靴の敷革の件については決定的とも言えるでしょう・・・ ただ、ロジック自体のレベルとしては、評判ほどではないかなぁーというのが率直な感想。 (第2の殺人は特にそう感じる) これならば、「X」や「Z」の方に軍配を上げたくなります。 あと、「登場人物表」に出てくる人の数が異様に多い! 本筋とあまり関係ない人物も入ってる(カダヒーとか)ので、もう少し削ってもいいんじゃないかと思ってしまいます。 ということで、割と辛口評価になってしまいましたが、これは「期待の裏返し」という奴で、普通に判断すれば十分に高レベルなミステリーと呼べるでしょう。 病院や医療関係の描写もかなり正確に書かれてるので、その辺りの取材力も感じることができる良作です。 (個人的には、「エジプト」>「オランダ」ですかねぇ・・・) |
No.399 | 6点 | ファンレター- 折原一 | 2011/01/21 22:10 |
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講談社版では「ファンレター」ですが、文春文庫版では「愛読者」と改題し、同社の「~者」シリーズの1つとして発売されてます。
今回は文春文庫で再読。 謎の覆面作家「西村香」をめぐって巻き起こる事件の数々が、連作短編形式で綴られます。 ①「覆面作家」=徐々に高まる人間の「狂気」。折原得意のプロットですね。 ②「講演会の秘密」=これも同様。オチは想定内。 ③「ファンレター」=これも同様。オチも想定内。 ④「傾いた密室」=「手紙」形式が最後に効いてくる。決して「密室物」ではありませんので・・・ ⑤「二重誘拐」=「だから何?」 ⑥「その男、凶暴につき」=北野武とは何の関係もありません。パクリでもありません。 ⑦「消失」=中西智明の作品とは何の関係もありません。パクリでもありません。 ⑧「授賞式の夜」=①~⑦のオチ的作品。 ⑨「時の記憶」=⑧で終わりでよかったんじゃない? 以上9編+αあり。 共通するプロットが何度も登場します。全体的にシャレのような作品なので、あまり目くじら立てずに軽~い気持ちで読みましょう。 (覆面作家・西村香とは、もちろん北村薫氏のことですが、ここまで下世話に書かれて、よく出版させたなぁーと思ってしまいます) |
No.398 | 6点 | 新幹線殺人事件- 森村誠一 | 2011/01/21 21:56 |
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アリバイ崩しを主題とした作者初期の本格ミステリー。
光文社の新装版で読了。 ~「ひかり66号」に流れる鮮血。殺された男は、芸能プロダクションの実力者だった。折しも、万博の音楽プロデューサーという巨大な利権をめぐり、2大芸能プロの暗闘が続いていた。犯人はライバルプロダクションの人間か? 「ひかり」に絶対追いつけない「こだま」、新幹線の時間の壁が捜査陣の前に立ち塞がる~ 仕掛けられたアリバイトリックは2つですが、2番目のトリックは非常に分かりやすくてやや低レベル。(推理クイズなんかによく出てくるたぐいのものです) やはり、メインは新幹線を舞台にした最初のトリック。 もちろん、今読めば「なぁーんだ」という程度の感覚なのですが、トリック自体、作者らしく非常に丁寧に作りこまれているのがウレシイ・・・ 何より「発想の転換」とでもいうべき解法(作中では「水平思考アリバイ」などと呼んでますが・・・)がいいです。「ひかり」に決して追いつけないはずの「こだま」に乗っていた男が、いかにして殺人を行ったのか? 新幹線電話を使ったトリックというのも当時は斬新だったのでしょう。 「大阪万博を間近に控えた頃の芸能界」という舞台設定もなかなか面白く読ませていただきました。 (この頃の日本は、活気や夢があってきっといい時代だったんでしょうねぇ・・・) |
No.397 | 7点 | モルグ街の殺人・黄金虫 -ポー短編集Ⅱ ミステリ編-- エドガー・アラン・ポー | 2011/01/21 21:42 |
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E.A.ポーのミステリー(的な作品も含む)作品集の新潮文庫版。
小難しい例え話などがいろいろ挿入されていて読みにくいですが、やはり歴史的意義は感じさせてくれます。 ①「モルグ街の殺人」=言わずと知れた第1号ミステリー。もちろん、現代的感覚からすれば穴だらけの作品なのですが、「密室」や「意外な犯人」などその後の作品に与えた影響は計り知れないものがあると感じます。 ②「盗まれた手紙」=これまた言わずと知れた作品。ポーミステリーの最高傑作という評価も多いようですし、こういう発想自体に作者の力量を感じてしまいます。 ③「群衆の人」=「!?」 哲学的な話なのでしょうか? 高尚過ぎてよく分かりませんでした。 ④「おまえが犯人だ」=これは傑作。オチが何とも言えずブラックで、インパクト抜群。 ⑤「ホップフロッグ」=寓話的な勧善懲悪話。よくある話のように思いましたが・・・ ⑥「黄金虫」=これも有名な暗号モノ。暗号の仕掛けについては今となっては古典的ですが、何とも言えぬワクワク感を抱かせます。 以上6編。 珠玉の作品集と言っていいかもしれません。現代の目の肥えた読者にとって満足できるかといえば疑問符なのですが、ミステリー好きならば、やはり一度は手にとって読むべきでしょう。 (①②⑥辺りは有名ですが、④⑤もなかなか深い作品だと思います。) |
No.396 | 8点 | 天使のナイフ- 薬丸岳 | 2011/01/16 16:58 |
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第51回江戸川乱歩賞作品。
確かに近年の乱歩賞受賞作の中でも出色の出来と言っていいでしょう。 ~生後5か月の娘の前で妻は殺された。だが、犯行に及んだ3人は、13歳の少年だったため罪に問われることはなかった。4年後、犯人の1人が殺され、檜山は容疑者となる。「殺してやりたかった。でも俺は殺してない」。裁かれなかった真実と必死に向き合う男を描く!~ 本作のテーマは「少年(少女)犯罪」・・・。 少年3人に最愛の妻を殺された主人公桧山貴志が、加害者が殺されていく新たな事件に巻き込まれながら、過去の妻殺しの謎に迫っていきます。 まぁとにかく「重いテーマ」ですよねぇ・・・「少年犯罪と少年法」といえば、例の山口県光市で起きた母子殺人事件が思い浮かびますが、権利を保護すべきなのは「未成年」なのか「被害者家族」なのか・・・たいへんに難しい問題ですし、立場変われば意見も変わるという見本のような気はします。 それはさておき、ミステリーとしても本作はなかなかのレベル。処女作ですから、もちろんいろいろとアラはあるのですが、割と静かに淡々と進んでいく前半部分から一変、後半は隠されていた構図が次々と明らかになり、怒涛のラストへ・・・という展開。息つく暇がありません。 過去の「少年犯罪」がここまで複雑に、そして偶然に絡み合ってしまうやりきれなさ、そして最後に知る驚愕の事実・・・というわけで作者渾身のプロットと言っていいでしょう。 「こんな偶然あるわけない!」というのは当然の意見かもしれませんが、それが本作のエネルギーになっているんだろうという気がしますねぇ・・・ (作者の拘りと熱い思いに敬意を表します。) |
No.395 | 8点 | オレたち花のバブル組- 池井戸潤 | 2011/01/16 16:41 |
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前作「オレたちバブル入行組」に続く、銀行員半沢直樹を主人公としたシリーズ2作目。
経済ミステリーなどという中途半端なジャンルとは無関係・・・あえて言うなら「痛快! 銀行版勧善懲悪シリーズ」とでも言うべき作品です。 ~東京中央銀行営業第2部次長・半沢は、巨額損失を出した老舗ホテルチェーンの再建を押し付けられる。おまけに近々、金融庁検査が入ると言う噂が・・・金融庁には、史上最強の「ボスキャラ」が手ぐすね引いて待ち構える。一方、出向先で執拗ないびりにあう近藤は、またも精神のバランスを崩しそうになるが・・・空前絶後の貧乏くじを引いた男たち。絶対に負けられない男たちの戦いの行方は?~ 細かいストーリーや設定はさておき、「これ、越後屋。そちも悪じゃのぉー」「お代官様こそ!」という時代劇お決まりのシーンが、そのまま架空の銀行、「東京中央銀行」という本作品の舞台で繰り広げられます。 主人公・半沢のポリシーや行動力は、同じサラリーマンとしては羨ましい限り! 「自分もこんなセリフを上司(アイツとアイツ・・・)に言ってみたい!」などという熱い気持ちにさせられました。(無理だろうなぁ・・・) 本作のもう一人の主人公、近藤が悩みの中から自分自身を取り戻し、立ち直っていく姿にも大いに勇気付けられます。 いろんな意味で、日頃、会社や上司、社会、その他モロモロに虐げられているすべてのサラリーマン必見の一冊!と言いたい気分です。 ラストはやや中途半端でしたが、これは次回作への含みでしょうか? (「!」が非常に多い書評になり失礼しました。ついつい興奮したもので・・・) |
No.394 | 5点 | 天使の歌声- 北川歩実 | 2011/01/16 16:26 |
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元出版社社員、嶺原克哉を探偵役とする短編集。
一捻りの効いた作品が並びます。 ①「警告」=ラストがやや唐突。事件全体の構図が分かりにくいせいか、サプライズ感は今ひとつ感じませんでしたねぇ・・・ ②「白髪の罠」=プロットとしては面白い。こんな偶然の連続を看破する嶺原はなかなかスゴイ。登場人物すべてに何らかの役割が割り振ってるのがどうか? ③「絆の向こう側」=実の親と育ての親、そしてそれぞれの「絆」・・・感動するというほどではないですが・・・ ④「父親の気持ち」=これも何となく全体的な構図が分かりにくい。作者の狙いはよく分かりますが・・・ ⑤「隠れた構図」=殺人事件と盗撮事件そして、不倫。3つの事件の裏の繋がりを探るのが本作のプロット。 ⑥「天使の歌声」=表題作だが一番の駄作では? 以上、全6編。 「家族」や「親子」などがテーマになっている作品が多く、近しい人の間で意外な関係が! という仕掛けがあちこちに用意されてます。 「小粒でもピリリと辛い」という見方もできますが、ちょっとインパクトに欠け、何となくモヤモヤした作品が多いような気がしますねぇ・・・ (中では②か⑤辺りがお勧めレベルでしょうか) |
No.393 | 5点 | フレンチ警部と紫色の鎌- F・W・クロフツ | 2011/01/10 22:30 |
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フレンチ警部シリーズの第5作。
映画館の切符売りの女性だけが狙われる連続殺人事件の謎にフレンチが挑みます。 ~映画館の切符売りをしている娘がフレンチ警部の元に助けを求めてきた。ふとしたことから賭け事に深入りして大きな借りをつくり、怪しげな提案を受け入れざるを得なくなったというのだ。ところが、相手の男の手首に鎌のような紫色のあざを見たとき、変死した知り合いの娘のことが思い出されて・・・~ フレンチ警部といえば、地道かつ丹念な捜査を続けていくなかで、「ついに光明が!」という展開がいつものパターンですが・・・ 今回はいつにも増して苦労の連続。 自宅で捜査の助言を愛妻に頼るほど行き詰ることに・・・(フレンチの妻は実際、「フレンチ警部最大の事件」で事件を解く鍵をフレンチに与えた実績あり!) 殺人事件の謎よりも、切符売りの女性を利用してある大きな犯罪が行われており、本作ではこれを暴くことがメインテーマになります。 ただ、読者にとっては、事件のカラクリ自体の想像はつくものの、だからといって特にトリックやロジックがあるわけでもなく、サスペンス性もそれほどないわけで、どこを楽しんでいいのか分からない作品。ただ単に、フレンチがもがき苦しむさまを延々と読まされる感じになってしまいました。 ラストは犯人グループとの格闘シーンまであり!(ただし、ハードボイルド的な要素も特になし) |
No.392 | 8点 | 御手洗潔のダンス- 島田荘司 | 2011/01/10 22:16 |
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タイトルどおり、御手洗物の短編集。
久し振りに再読しましたが、この頃の「御手洗物」はよかったなぁ・・・という思いを新たにしました。 ①「山高帽のイカロス」=いかにも「御手洗物」の短編といった典型的作品。トリックの奇想天外さも作者らしさがよく出てます。普通の作家なら「空飛ぶ死体」止まりだと思いますが、東武電車まで登場しちゃいますからねぇ・・・(小田急も) ②「ある騎士の物語」=名作「数字錠」などとテイストが重なる暖かい作品。トリックは奇抜ですが、冒頭の地図を見た時点で予想の範囲内。あと、秋元静香に向けて言った御手洗のセリフが秀逸。(なかなか真似できないけど・・・) ③「舞踏病」=これも「御手洗物」らしく実に荒唐無稽である種笑える作品。伏線がかなりあからさまなので、石岡君以外なら真相に迫れるはず。 ④近況報告=読者の期待に応えて、御手洗の近況を報告するというレポート?(斬新!) わざわざこんなものを入れる意味はともかく、途中出てくる医学的な話題(DNAとか脳科学とか)はこの後の御手洗シリーズのメインテーマになっていくという意味では興味深い。 以上、3編+1。 やっぱり、御手洗物の短編集ならば「~挨拶」か「~ダンス」が突出してる気がします。 作品が短い分だけ、氏の奇想天外トリックが「唐突で付いていけない」という感覚を与えてしまう面もありますが、個人的には、やはり”島田荘司はこうでないと・・・”という気がしてなりません。 |
No.391 | 5点 | ジェシカが駆け抜けた七年間について- 歌野晶午 | 2011/01/10 21:58 |
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「葉桜~」の次作のノン・シリーズ作品。
少々変わった味わいを感じました。 ~米国ニューメキシコ州にある長距離専門の陸上競技クラブ。日本人が主宰するこのクラブの所属選手、エチオピア出身のジェシカは、日本人選手アユミ・ハラダの異変に気付いた。アユミは夜ごと合宿所を抜け出し、呪殺の儀式を行っていたのだ。アユミがそこまで憎む相手とは誰なのか。彼女の口から明かされたのは意外な人物の名前と衝撃の過去だった!~ ワン・アイデア一発勝負の叙述物ですよね? 普通の叙述作品では、読者にバレないよう時間軸がズラされるわけですが、本作の場合では設定そのものに「時間軸をズラす(というか解釈の違い?)」仕掛けが施されているということになります。 これを楽しめるかどうかで評価が分かれるということでしょう。 ごく最初に「エチオピア時間」なるものが出てきた時点で、作者の企みの方向性が分かってしまうことになってしまい、個人的な評価は微妙に・・・ あと、作品の構成自体ちょっといびつな気が・・・この章のあそことあの章のこの部分ねじれて・・・というのが正直分かりにくいし、やや唐突。(そもそも、ねじる意味あるの?) ということで、高い評価はできない作品ですが、やはり「目の付け所」には感心させられますねぇー (結局、「分身」の件は意味があったんでしょうか?) |
No.390 | 7点 | 獄門島- 横溝正史 | 2011/01/06 23:05 |
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金田一耕助シリーズの超有名作。
一応初読ですが、TVシリーズ(古谷一行の)や映画(石坂浩二の)で何度も見てるため、中味についてはほとんど知っている作品。 ~ニューギニアで共に戦った鬼頭千万太の最後の言葉を胸に、鬼頭家が網元として君臨する獄門島へ降り立った金田一耕助。耕助がそこで見たものは、雪枝・月代・花子の3姉妹がいる本家と、志保・儀兵衛が取り仕切る分家とが反目しあう一族の姿だった。やがて、千万太の予言どおり血も凍る殺人事件が発生する!~ まぁ何というか、一種の「様式美」というような気がしましたね。 金田一はやはり金田一で、途中、何度も殺人事件を防ぐチャンスがあったのに、いずれも邪魔が入り、結局三姉妹は全員殺されてしまうという展開・・・ 例の有名な「見立て」は、やっぱり映像で見るほうがいいですね。「見立て」というと、どうしてもその必然性が問題になるわけですが、本作ではトリック的な意味ではなく、いわば”強迫観念”とでもいうべき背景があり、あまり謎解きの面白みはないところが微妙です。 これも有名なフレーズ、「気○ちがい」(今では放送禁止用語?)については、作中に”これでもか”というくらい繰り返し出てきます。ただ、これも「与作松」が結局、事件に全く絡まないままフェードアウトしたところがちょっと物足りない気が・・・ 何となく辛口の書評になってしまいましたが、時代性を考えれば十分に評価できる作品だと思いますし、やはり「様式美」溢れる作品という評価で良いと思います。 |
No.389 | 6点 | ななつのこ- 加納朋子 | 2011/01/06 22:48 |
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作者デビュー作の連作短編集。
作中作として出てくる「ななつのこ」を巡って、主人公の駒子が作者である佐伯綾乃に送る書簡の中で日常の謎が鮮やかに解決されます。 ①「スイカジュースの涙」=道路に転々と落ちている赤いシミは血かスイカジュースか? 登場人物(と動物)を当て嵌めていけば自然に答えは出てくるような気がします。 ②「モヤイの鼠」=わずかの時間に絵画が入れ替わった謎は? 真相は「そんなこと?」という程度。 ③「一枚の写真」=アルバムの中から1枚だけ抜き取られた写真の謎? 真相は心温まる内容。 ④「バス・ストップで」=ここから本作中での重要人物”瀬尾”が登場。語られる老婦人の謎はちょっとしたこと。 ⑤「一万二千年後のヴェガ」=デパートの屋上にあるゴム製の恐竜が空を飛ぶ謎とは? 本筋よりも一万二千年後にはヴェガが北極星になるということの方が「へぇ-」という感想。 ⑥「白いタンポポ」=文字どおり白いタンポポの謎とは? 子供は元気ハツラツなだけがいいわけではない・・・ということ? ⑦「ななつのこ」=表題作に相応しいオチ。連作短編集らしく、これまでの話にも一連の”流れ”があったことが分かります。「ななつのこ」にも二重の意味があったんですね。 以上7編。 さすがに評判の作品だけあって、作品世界にどっぷりと浸ってしまいました。 いわゆる「日常の謎」ですが、個人的にはそれほど”ストライク”ではないのでこの程度の評点で・・・ |
No.388 | 7点 | 緋色の研究- アーサー・コナン・ドイル | 2011/01/03 13:07 |
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名探偵シャーロック・ホームズ初登場の記念すべき作品。
小学生時代にジュブナイル版で読んで以来の再読。 ~異国への従軍から病み衰えて帰国した元軍医のワトソン。下宿先を探していたところ、同居人を探している男を紹介され、共同生活をおくることになった。下宿先はベーカー街221番地。相手の名はシャーロック・ホームズ。2人が始めて手掛けるのは、米国人旅行者の奇怪な殺人事件。その背後に広がる、長く哀しい物語とは?~ プロット云々とうよりは、ホームズとワトソンの出会いや、探偵方法に対するホームズの考え方や姿勢など、それ以外のパートがなかなか興味深かった印象。 本作の白眉は、やはり「動機」について十二分にスポットを当てた「第2部」でしょう。ミステリーが単なる謎解きではなく、一つの「文学、読物」なのだという作者の強い意志を感じさせられます。 まぁ、ミステリー好きであれば、絶対に一度は接するべき作品という扱いでいいでしょう。 作品中の一場面、ホームズがデュパンやガボリオをこき下ろすシーンは、御手洗潔がホームズをこき下ろすシーン(「占星術殺人事件」)とぴったり符号するんですねぇ・・・ |
No.387 | 5点 | ダナエ- 藤原伊織 | 2011/01/03 12:56 |
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作者らしい作品が並ぶ短編集。
全体的には他の作品に比べて「やや弱いかな」という感想。 ①「ダナエ」=展示中にナイフで刻まれたレンブラントの名画「ダナエ」と同じように、刻まれ硫酸をかけられたある「絵画」をめぐる作品。一人の画家が有名になる過程では、その犠牲となった一人の女性がいた・・・作者らしいプロット。 ②「まぼろしの虹」=マスコミ関係者が主人公の作品は藤原氏お得意のプロット。登場する一人の女性がなかなか印象的。 ③「水母(クラゲ)」=これもマスコミや映像関係が舞台の作品。あまり印象に残らず・・・ 以上3編。 割合暗めの作品ばかりで、死期が迫っていたこの頃の作者の内面が表れているような気がします。 ①以外はちょっと駄作かなぁ・・・ |
No.386 | 7点 | ジーン・ワルツ- 海堂尊 | 2011/01/03 12:44 |
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クールウィッチ(冷徹な魔女)と渾名される産婦人科医、曾根崎を主役に据えた医療ミステリー。
来月には映画公開も控える話題作(?) ~帝華大学医学部の曾根崎理恵助教は、顕微鏡下体外受精のエキスパート。彼女の上司である清川五郎准教授もその才を認めていた。理恵は大学での研究のほか、閉院間近のマリアクリニックで5人の妊婦を診ている。年齢も境遇も異なる女性たちは、それぞれに深刻な事情を抱えていた。生命の意味と尊厳、そして代理母出産という難問に挑む~ これは深い「テーマ」。 正直、短いスパンで乱発気味の海堂作品は「もう(読まなくて)いいかなぁ・・・」的気分だったんですが、本作は例外で「十分面白く」読ませていただきました。 作品の主題となる不妊治療や人工授精、代理母の問題などは、仕事の関係で一時期リサーチをしていた経緯もあって、曾根崎の主張や、それに敵対する医学界・清川医師の保守的な考え方など、かなり興味深く、また考えさせられる問題だなぁという気分にさせられます。 確かに「ミステリー的要素」はあまりないのですが、そもそも「妊娠」そのものが今でも十分「ミステリー(神秘的という意味で)」でしょうから、まぁそれでよしということで・・・ それにしても、相変わらず海堂ワールドはスゴイですねぇ・・・ この人があの人とつながっていて、この女性はあの関係者で・・・ということですよねぇ。 (続編「マドンナヴェルデ」も楽しみ・・・) |