皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.545 | 6点 | フレンチ警視最初の事件- F・W・クロフツ | 2011/09/11 14:59 |
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フレンチが警視に昇進(メデタイ!)して最初に手掛けた事件。
最近東京創元社から出た新訳版で読了。 ~愛しいフランクの言葉に操られて詐欺に手を染めたダルシーは、張本人のフランクがある貴族の個人秘書に納まり体よくダルシーのもとを去ってからも、良心の咎める行為を止められずにいた。そんなある日、フランクの雇い主が亡くなったと報じる新聞記事にダルシーの目は釘付けになった。フランクは何て運がいいんだろう。これは偶然だろうか。一方、検死審問で自殺と評決された事件の再審査が始まり、フレンチが出馬を要請された~ クロフツ作品の1つの「典型」とも言える作品でしょう。 中盤まではフレンチが登場せず、ある事件に巻き込まれる主人公の視点で、事件の概要や展開が描写されていく。 事件がのっぴきならない段階まで進展したところで、やっとフレンチが登場。捜査を開始するやいなや、加速度的に事件のからくりが解明されていく・・・ 本作もまさにこの「流れ」そのもの。 ただ、本作はそれ以外のプロットがやや変わっていて、そこは面白かった。 普通なら、『(事件に巻き込まれた)主人公』⇒『フレンチ』という流れだが、本作はとある理由のため、『主人公』⇒『著名な法律家』⇒『私立探偵』と『フレンチ』 とかなり複雑な構成になっているのだ。 ただ、フーダニットにしろハウダニットにしろ、やや中途半端な感は拭えない。 特に、自殺に見せかけた他殺の仕組みがちょっと分かりにくいところが難点。 というわけで、初期の佳作に比べれば、1枚落ちる作品という評価にしかならない。 |
No.544 | 5点 | 共犯マジック- 北森鴻 | 2011/09/11 14:57 |
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北森鴻といえば「連作短編」というわけで、本作もその例にもれない連作形式の作品。
占った人が必ず不幸になるという伝説の書「フォーチュンブック」を軸に展開される事件の連鎖。 ①「原点」=学生運動華やかな頃が舞台。タイトルどおり、この先の不幸な出来事の原点とも言える事件が起こる。 ②「それからの貌」=500円硬貨が初めて世に出た年、早速偽造硬貨が出回る。そして、1人の女性が捜査線上に浮かぶが・・・その女性は本編の主人公である新聞記者の元恋人だった。(ホテルニュージャパンの火災なんて、20代の方には分からないだろうな・・・) ③「羽化の季節」=1枚の油絵を見た男が突然膝まずいて涙を流す・・・そこには、過去の忌まわしい事件が! そして、ここにも「フォーチュンブック」の影がつきまとう。 ④「封印迷宮」=②の主人公だった新聞記者が再度登場。そして、懐かしい「グリコ森永事件」(知ってる?)。謎の男「サクラダ」の正体は実は「アイツ」。 ⑤「さよなら神様」=④まできて、連作の意図が垣間見えてきたと思ったところで、今までの流れからやや浮いているのがこの⑤。ただ、最後になって⑤の意味が分かる仕掛け。 ⑥「六人の謡える乙子」=ここでまたしても新顔の登場人物。埋められた彫刻作品の謎とは? ⑦「共犯マジック」=ついに、ここまで断片的に語られてきたストーリーがつながる! しかし、こんな大掛かりな話だったとはねぇー。 以上7編。 いやぁ、想像以上に大掛かりなプロットだった。 まさか、戦後の著名事件の数々(「グリコ森永」や「3億円事件」、ついには「帝銀事件」までも・・・)がつながっていたとは! 作者の連作テクニックがあればこそでしょう。 ただ、ちょっと上っすべりしているような気がしないでもない。(ここまで事件がつながってるなんて、正直荒唐無稽な感は否めない) 風呂敷を広げすぎたかな? |
No.543 | 7点 | プリズム- 貫井徳郎 | 2011/09/06 22:42 |
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いわゆる「多重解決型」を狙ったミステリー。
1つの殺人事件を連作形式で綴るのが特徴的な作品。 ~小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。ガラス切りを使って外された窓のロック、睡眠薬が混入されたチョコレート・・・平凡だったはずの女性教師の殴殺事件は予測不能の展開を見せる~ ①「虚飾の仮面」=第1話は教え子の小学生たちの推理。その結果は、意外な犯人へ辿りつく。 ②「仮面の裏側」=第2話の探偵役は①で犯人と目された人物。天真爛漫で誰からも愛された人物と思われた被害者に、実は意外な面があることが判明。 そして、①とは違う人物を真犯人とする結果に・・・ ③「裏側の感情」=今度は②で犯人と目された人物が探偵役に。またしても、被害者の違う一面が分かり、そして意外な人物が被害者と関わっていたことが分かる。最終的には違う人物を真犯人として指摘する。 ④「感情の虚飾」=③で真犯人と考えられた人物が主役。最後に辿りついた結論はかなり意外なものに。 「多重解決」といえば、当然「毒チョコ」が有名ですし、本作の「作者あとがき」でも「毒チョコ」を意識している旨が書かれてます。 まぁ、好みは分かれるかもしれませんが、個人的には面白いと思いますね。 本サイトの「毒チョコ」の書評でも書きましたが、ミステリー作品の真相なんて、作者の匙加減1つですから、こういった実験精神溢れる作品があっても何ら構わないと思いますね。 「プリズム」というタイトルには、「多重解決」という以外にも、被害者の人物像そのものが見る人(生徒や友人、恋人など)によって多面的に変わって見えるという意味も含んでいるのが印象的。 「連作形式」というプロットも嵌っていると思います。 トータルでは、一気読みできる佳作という評価。 |
No.542 | 6点 | 猫は知っていた- 仁木悦子 | 2011/09/06 22:36 |
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仁木兄弟シリーズの第1作目であり、江戸川乱歩賞受賞作。
ポプラ社からの復刻版で読了。 ~時は昭和、植物学専攻の兄・雄太郎と、音大生の妹・悦子が引っ越した下宿先の医院で起こる連続殺人事件。現場に出没するかわいい黒猫は何を見たのか? ひとクセある住人たちを相手に、推理マニアの凸凹兄弟探偵が事件の真相に迫ることに。鮮やかな謎解きとユーモラスな語り口で一大ブームを巻き起こした作品~ 確かに読み継がれるべき作品。 前半~中盤にかけては、いろいろな伏線を作中に仕掛けていて、本格ミステリー好きにはたまらない展開。 現場の遺留品や登場人物が偶然耳にした会話の切れ端などが、いかにも意味ありげに読者の脳を刺激するのが心地よい。 そして、ストーリーが進むにつれて、明らかに1人の人物を浮き上がらせていくミスリードも憎い。 トータルでみても、女流作家らしくたいへん丁寧なプロット&筆致だと思います。 ただ、逆に言えば、中盤はちょっとゴチャゴチャしすぎたかなという気も少し・・・ 本筋に関係のない伏線も撒かれていたり、窓からの目線の問題もそれほど真相に直結していないのでは? 「動機」はどうなんだろう? 正直、これで連続殺人やるか?という気がしないではない。 など、気になった点もありましたが、トータルではさすがの1冊という評価。 (猫のトリックもどうかなぁー。結構、プロバビリティの犯罪っぽい危うさがある) |
No.541 | 4点 | 検屍官- パトリシア・コーンウェル | 2011/09/06 22:35 |
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検屍官シリーズの第1弾。
いわゆる人気シリーズ(?)ということでちょっと期待して読み始めましたが・・・ ~襲われた女性たちはみな、残虐な姿で辱められ、絞め殺されていた。バージニアの州都・リッチモンドに荒れ狂った連続殺人に街中が震えあがっていた。犯人検挙どころか警察は振り回されっぱなしなのだ。最新の技術を駆使して捜査に加わっている美人検屍官・ケイにもついに魔の手が・・・~ 正直期待はずれ。 何より筆致のリズムが悪い。 これも処女作のせいでしょうか? 殺人事件そのものよりも、主人公であるケイ・スカーペッタ周辺の人物描写に終始している感があって、何とももどかしい感じ。 (もちろん、「意外な犯人」へのミスリードの狙いは分かるが・・・) 結局、盛り上げといてオチ(真相)もショボイので、中盤の冗長さが目立つ結果になっている。 まぁ、シリーズ中には面白い作品もあるそうなので、機会があれば今後も読んでみるかもね。 (ブックオフで売れ残っているのも分かる気がする・・・) |
No.540 | 5点 | 誰の死体?- ドロシー・L・セイヤーズ | 2011/09/02 22:42 |
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貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿が活躍する長編第1作目。
作者は英国ではクリスティと並び称される女流ミステリー作家。 ~実直な建築家の住むフラットの浴室に、ある朝見知らぬ男の死体が出現した。場所柄男は素っ裸で、身に着けているものといえば金縁の鼻眼鏡と金鎖のみ。いったいこれは誰の死体なのか? 折しも姿形の酷似した金融界の名士が前夜謎の失踪を遂げたことが判明したが、どうも同一人物ではないようなのだが ・・・~ 今ひとつ面白さが分からなかった。 登場人物が多くて、特に中盤は書かれている場面がどうも頭にスッと入ってこなかったなぁー 後半~真相解明までは、まずまず納得のいくものなのは間違いない。 ラスト、真犯人の手記もなかなかの味わい。 ただなぁ・・・どうにもインパクトは感じなかった。 ウィムジイ卿のキャラ自体はよいと思うし、シリーズキャラクターとなる周辺の登場人物もよい造形。 今回は読み方が悪かった気もするので、別作品を味わってみるか! |
No.539 | 6点 | ミステリアス学園- 鯨統一郎 | 2011/09/02 22:41 |
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作者が描く「ミステリー初心者」のためのミステリー入門書。
驚きと脱力の連作短編集。 ①「本格ミステリの定義」=冒頭から、本格ファンvs本格嫌いが対決! そんな中、ミステリー研究会の学生が死亡する。真相は何と・・・ ②「トリック」=仲間由紀恵&阿部寛ではない。いきなり、①が作中作であることが分かる。そしてまた殺人が・・・ ③「嵐の山荘」=本格物の定番「嵐の山荘」が実現。そしてやっぱり起こる殺人事件・・・②も作中作であることも判明。 ④「密室講義」=亜矢花の唱える「密室」の分類は新鮮。 ⑤「アリバイ講義」=こちらも新たな「アリバイトリック」分類が面白い。そして、本作の仕掛けも徐々に分かってくる・・・ ⑥「ダイイング・メッセージ講義」=ついに2人しかいなくなったミステリー研究会。ダイイング・メッセージかぁ・・・あまり好きじゃないなぁ。 ⑦「意外な犯人」=これは「意外」っていうか、訳が分からん! 以上7編。 いやはや、こんなこと考える作者には、ある意味敬服します。 トータルでいえば、「メタ・ミステリー」って言えるんでしょうか? 作中にはいろんなミステリー作家や作品が出てくるので、初心者にとっては有益かもしれませんねぇ。 「こんな訳の分からん作品があってもいいじゃない」っていう評価。 |
No.538 | 7点 | チョコレートゲーム- 岡嶋二人 | 2011/09/02 22:39 |
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作者初期の代表作の1つ。
日本推理作家協会賞受賞作。 ~学校という荒野を行く、恐るべき中学生群像。名門・秋川学園大付属中学3年A組の生徒が次々に惨殺される。連続殺人の原因として、百万円単位の金が絡んだチョコレートゲームが浮かび上がる。息子を失った1人の父親の孤独な闘いを辿るショッキング・サスペンス~ 短い作品ですが、よくまとまってるし十分楽しめた。 今からざっと25年前の作品ですから、中学校と中学生を取り巻く環境が若干違ってる気はしますが・・・(今だったら、こんな無責任な学校や教師、モンスターペアレンツから猛攻撃に遭いそう!) でも、まぁ「実は、影からこの人物が糸を引いてました」という手練手管はウマイ。 中学生が次々と殺されるというショッキングな展開のなかで、子供に無関心だった父親が、息子を信じ続け、ついには真相を見つけるというのが唯一の救いになってる。 (こういう所が、母親と父親の愛情の違いなんだろうね) 正直、トリックはショボいですが、トータルでは好評価の1冊。 (これを読んでると、J○Aのテラ銭がいかに高いのかがよく分かる・・・でも嵌るよねぇー) |
No.537 | 5点 | ジーヴズの事件簿 才気縦横の巻- P・G・ウッドハウス | 2011/08/27 19:50 |
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スーパー執事・ジーブズが活躍する作品集。
サブタイトルは「才智縦横の巻」。 ①「ジーブズの初仕事」=スーパー執事・ジーブズの登場。最初から能力全開。 ②「ジーブズの春」=主人公・バーティの親友・ビンゴ=リトルが登場。リトルが好きになった女性をめぐって、バーティとジーブズが活躍(?)する。 ③「ロヴィルの怪事件」=怪事件というほどではない。バーティが恐れるアガサ叔母をめぐって事件が発生。 ④「ジーブズとグロソップ一家」=またまたリトルが妙な女性を好きになって、2人が一肌脱ぐという展開に・・・ ⑤「ジーブズと駆け出し俳優」=今回の舞台はロンドンではなく、NY。アガサ叔母からお達しを受け、預かった男性をめぐって事件発生。 ⑥「同志ビンゴ」=今回のビンゴ=リトルの行動も意味不明(!) 懲りない奴だねぇ・・・ ⑦「バーティ君の変心」=有名人と勘違いされたバーティが、なぜか女学校の教壇に立つハメに・・・ 以上7編。 ミステリーというよりは、まぁイギリス版「ユーモア小説集」というべきでしょう。 ただ、正直、舶来のユーモアはよく分からん(!) 読みやすいのが唯一の救いでしょうか。 (ジーブズよりも、ビンゴ=リトルのキャラがかなり面白くて印象に残る・・・) |
No.536 | 3点 | 失踪トロピカル- 七尾与史 | 2011/08/27 19:48 |
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「このミステリーがすごい大賞」の隠し玉作品として出版された前作、「死亡フラグが立ちました」に続く長編第2作目。
前作とはうって変わって、サスペンス作品。 ~迷子の親探しに行ったまま、奈美が戻ってこない、誘拐か? 旅行先で国分は青ざめた。空港や観光街で撮ったビデオに映る、奈美に視線を這わす男。予感は確信に変わる。国分は奈美の兄マモル、私立探偵の蓮見と手分けして捜し始めた。事件の糸口をつかんだ蓮見は2人に連絡をとろうとするが・・・。蓮見の行方、マモルの決意、国分に迫る影、奈美の生死は? 息つく間もないシーンの連続!~ 「読むんじゃなかった・・・」というのが正直な感想。 まさか、こんなストーリーとは・・・ 前作が、東川篤哉を彷彿させるようなギャグミステリーだったし、今回も前作と同じようなふざけた(?)表紙だったから、同じようなテイストかと思ってました。 これが大違い。 巻末の作者あとがきを読むと、もともとはこんなサスペンス風味の作品を多く書いていたとのこと・・・そうだったのか。 行方不明になった女性を捜すため、本作の舞台であるタイ・バンコクの街をさまよい歩く3人が、闇の組織に関わったため、恐ろしいショーに遭遇する・・・という ストーリーですが、このショーがむご過ぎる。何しろ、生きながらにして人間が解体されるショーですから・・・ ただ、息つく間もないという展開の割には、今ひとつ緊張感が伝わってこないというか、盛り上げ方が拙いし、平板な印象が拭えない。 ラストも救いのないまま、中途半端に切れてます。 というわけで、お勧めできない作品という評価ですね。 (中盤、グロいシーンが続くので、そういうのが苦手な方は読まない方が賢明でしょう。) |
No.535 | 9点 | カラスの親指- 道尾秀介 | 2011/08/27 19:47 |
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作者の最高傑作との呼び声も高い作品。
本の帯コメント(道尾秀介の真骨頂がここに!)どおりでしょう。 ~人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年2人組。ある日、彼らの生活に1人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を賭け、彼らが企てた大計画とは? 息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして、感動の結末~ ただ一言、「面白かった!」 久々にこんな痛快かつすっきりとした騙され感を味わわせていただきました。 そうですかぁ、伏線はきっちり張られてたんですよね。 それでいて、見事なまでの逆転劇! 巻末解説では、「騙し」ではなく「マジック」だと評してましたが、まさにこの言葉(マジック)が言いえて妙。 たった一言で世界が反転する「痛快」は、やはり作者の非凡さを表しているのでしょう。 キャラも1人1人効いてます。 ラストはすべての伏線を回収したうえで、何だか「じーん」とするような感動までプラス。 とにかく、作者のファンならずとも手に取って読んで欲しい佳作です。 (貫太郎もいいが、やっぱりテツさん・・・ヤラレたなぁ・・・) |
No.534 | 7点 | つきまとわれて- 今邑彩 | 2011/08/23 22:11 |
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ノンシリーズの連作短編集。
作品中の登場人物の1人が、次の作品の主人公になるという凝った構成になってます。 ①「おまえが犯人だ」=なかなか面白い。2度ひっくり返されるとさすがにうならされる。そして、ラストには更なる毒が・・・ ②「帰り花」=①の登場人物が主役。出て行ったまま帰ってこない実の母親が、庭に埋められているのではないか?・・・ブルブル! ③「つきまとわれて」=②の主役の妻が今回の主役。「つきまとっている」のは本当は誰なのか? っていうこと。 ④「六月の花嫁」=③の登場人物が主役。今回のプロットは分かりやすかった。途中で真相は予想がつく。 ⑤「吾子の肖像」=④の登場人物が主役。ある「絵画」とその画家をめぐる謎。これも途中で予想がついた。 ⑥「お告げ」=⑤の登場人物が主役。夜中に突然、お告げをしてくるマンションの住人の謎。真相はなかなか気が利いてる。でも、こんな奴、ホントに嫌だな! ⑦「逢ふを待つ間に」=⑥の登場人物が主役。ネット上の仮想家族ゲームをめぐる、ちょっとしんみりする話。こんなゲーム、本当にあるのかな? ⑧「生霊」=⑦の登場人物が主役。そして、これが何と②につながっていく・・・ 以上8編。 短編らしい「切れと味わい」のある作品が多く、出来のいい短編集といっていいでしょう。 単なる「短編集」に留まらず、登場人物を共有化させるなど、読者を「ニヤリ」とさせる仕掛けもよい。 まずは、期待どおりの1冊でした。 (①~④まではなかなか面白かった。後半はやや落ちる) |
No.533 | 5点 | いたって明解な殺人- グラント・ジャーキンス | 2011/08/23 22:08 |
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米新人作家による法廷&心理サスペンス。
作者はアトランタ在住で、知的障害者の権利保護運動に携わってきた人物(らしい)。 ~頭を割られた妻の無惨な死体・・・その傍らには暴力壁のある知的障害の息子、クリスタルの灰皿。現場を発見した夫・アダムの茫然自失ぶりを見れば犯人は明らかなはずだった。担当するのはかつて検事補を辞職し、今は屈辱的な立場で検察に身をおくレオ。捜査が進むにつれ、明らかになる捩れた家族愛と封印された過去のタブー~ まぁ水準レベルの作品でしょうか。 若干、既視感のあるストーリーとプロットで、映画などでよく見る手合いです。(実際映画化されるようです) 前半は、子供を設けて幸せだったはずの家庭が、子供の知的障害を理由に、いびつに捩れていく過程が描かれ、そしてついに殺人が起こる。 後半は一転して法廷での場面が続き、 そして、お約束のようにどんでん返しが・・・ よく練られてる作品だとは思いますが、サプライズ感や刺激を求めるのならば、不満を感じるかもしれません。 ただ、処女作品ということを考えれば、十分に及第点は付けられるでしょう。 (ラスト、もう一捻りあればなぁー) |
No.532 | 6点 | 放課後- 東野圭吾 | 2011/08/23 22:06 |
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当代一の流行(ミステリー)作家となった作者のデビュー作。
第31回の乱歩賞受賞作でもあります。 ~校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。先生を2人だけの旅行に誘う問題児、頭脳明晰の美少女・剣道部の主将、先生をナンパするアーチェリー部の主将・・・と犯人候補は続々と登場する。そして、運動会の仮装行列で第2の殺人が起こる!~ 巨匠「東野圭吾」とはいえ、さすがに「若さ」を感じる作品だなぁという感想。 (もちろん、並みの作家ではないことはよく分かりますが・・・) 加賀シリーズなどでは、見事なストーリーテラー振りと緻密なプロットでスイスイ読ませますが、当然とはいえ、そこまでのレベルには至ってない。 本作の「核」は密室トリックと動機でしょう。 密室トリックは、正直弱すぎる。アーチェリーは全くの門外漢ですが、果たして「アレ」は「アレ」の代用品になり得るのでしょうか? 「捨てトリック」の方がよほど実現性が高い。(もちろん、アリバイとの絡みがあったことは認めるとして・・・) 「動機」はどうですかねぇー まぁ、真の動機が明らかになったときは、「エーッ!」というような軽い衝撃がありましたが、作者が主人公・前島に語らせる「女子高生特有の動機」という奴も連続殺人を画策するほどのものではないような気がしてなりません。 そして、ラストに用意されたもう1つのサプライズ! これにはヤラレました。個人的には、あの人物が本筋の真相に絡んでくるのか?と予想していただけに、逆の意味で驚かされた。 というわけで、作家・東野圭吾を知るためには、いろんな意味で欠かせない1冊のような気はしました。 (はぁー、女子高の運動会かぁー、体験してみてぇ・・・) |
No.531 | 7点 | 五番目のコード- D・M・ディヴァイン | 2011/08/20 17:00 |
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人気の英国パズラー作家、ディヴァインの第6長編。
今回も実にリーダビリティーの高い作品に仕上がってます。 ~スコットランドの地方都市で、帰宅途中の女性教師が何者かに襲われ、殺されかけた。この事件を発端に、街では連続して殺人事件が起こる。現場に残された棺のカードの意味とは? 新聞記者ビールドは、警察から事件への関与を疑われながらも犯人を追う。街を震撼させる謎の殺人鬼の正体と恐るべき真相 とは?~ いつもながら、実にうまい作家です。 何より読みやすい。それゆえか、すぐに作品世界に引き込まれます。 本作は、いわゆる「ミッシング・リンク」を取り扱った作品という評価ですが、その範囲はかなり限定的で、むしろちょっと広めの「クローズド・サークル」ものという方が正確かもしれません。 真犯人指摘については、かなり終盤まで引っ張りますが、サプライズ感はそれ程ではない。 あと、探偵役の主人公が真犯人に気付くきっかけというのが、「○○○らしくない行動をとった」というところだけというのが、かなり弱い気はする・・・ まっ、でも伏線は丁寧に張られてますし、連続殺人事件の王道をいく作品とは言えるでしょう。 やっぱり「本格もの」はこうでないとね! (さすがに「このミス」1位だけのことはあるでしょう) |
No.530 | 8点 | 異人たちの館- 折原一 | 2011/08/20 16:59 |
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折原叙述作品の1つの完成型といってよい作品ではないでしょうか。
久々に再読。 ~富士の樹海で失踪した息子・小松原淳の伝記を書いて欲しい。売れない作家・島崎に舞いこんだゴーストライターの仕事・・・。依頼人の広大な館で、資料の山と格闘するうちに島崎の周囲で不穏な出来事が起こり始める。この一家にはまだまだ秘密がありそうだ。5つの文体で書き分けられた折原叙述ミステリーの最高峰!~ やはり作者の「代表作」といえるでしょう。 看板に偽りなしで、それまでに培った作者の叙述テクニックが惜しげもなく挿入されてます。 折原作品といえば、日記やら手記やら、作中作などを使い分けて読者を煙に巻いていきますが、本作では『地の文+インタビュー形式の挿話』をメインとして、そこにモノローグやら作中作が織り込まれ、徐々に騙されていくことに・・・ 冒頭から「異人」を巡って不可思議な事件が起こり、メタミステリー的な雰囲気になりますが、ラストでは一応すべてが解決に導かれます。 まぁ、「脂の乗り切った」頃の作品ですねぇー これでもかという勢いで叙述トリックを仕掛けられ、作品自体に何ともいえないエネルギーを感じさせられました。 本作が、「沈黙の教室」や「~者シリーズ」など作者の代表作の基盤になっているように思えますし、長いですが十分読み応えのある作品ではないかと思います。 (モノローグはちょっとズルイよねぇー。その共通項には気付かなかった・・・) |
No.529 | 6点 | 幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート- 倉知淳 | 2011/08/20 16:57 |
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猫丸先輩シリーズ。
サブタイトル(「猫丸先輩のアルバイト探偵ノート」)どおり、猫丸先輩がアルバイト先で様々な事件に巻き込まれます。 (っていうか、積極的に飛び込んでいく) ①「猫の目事件」=猫の品評会会場が舞台。子供だましの密室が舞台。真相も子供だましみたいなやつ。 ②「寝ていてください」=学生時代によく聞いた「割のいいバイト」の1つ・・・それが新薬の治験バイト。しかし、このオチはなぁ・・・脱力感を覚える。 ③「幻獣遁走曲」=幻の生き物「アカマダラタガマモドキ」を探すバイトって・・・(何だその動物!) オチはなかなか心温まるもの。 ④「たたかえ、よりきり仮面」=今回のバイト先はデパートの屋上でのヒーローショウ。猫丸先輩が着ぐるみ着て、大活躍。これはもう大爆笑・・・特に、怪人! 「スーパーマルエー北船橋店を乗っ取る」悪の怪人って・・・ ⑤「トレジャーハント・トラップ・トリップ」=取り放題の松茸ってスゴイ! ただ、このオチはいくらなでもヒドイんじゃない? 以上5編。 まぁ、いつもどおりの「猫丸先輩シリーズ」です。 いわゆる「日常の謎」系ではありますが、真相はどれも脱力系・・・ ただ、何となく許して受け入れてしまうのが、本シリーズと作者のスゴイところかもしれません。 (どれも似たようなものだが、あえていえばやっぱり④かな。大爆笑必死!) |
No.528 | 8点 | ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン | 2011/08/16 20:51 |
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国名シリーズ第4弾。
シリーズどころか、クイーン最大の長編として君臨する作品。創元版で読了。 ~NYのど真ん中に残された古い墓地の地下室から発見された2つの死体。その謎を追うエラリーは、1度、2度、3度までも犯人に裏をかかれて苦汁をなめるが、ついに4度目、あざやかに背負い投げをくわせる。大学を出て間もないエラリーが、四面楚歌の中で読者に先んじて勝利を得ることはできるだろうか?~ いやぁー長かった。 ただ、長いなりに充実した読書になりました。 個人的に国名シリーズで1番最後に取っておいた本作(※単に長いので後回しにしてただけですが・・・)。 まずは期待通り、評判に違わぬ水準と言っていいでしょう。 ロジックの切れ味という点では、「フランス白粉」や「オランダ靴」の方に軍配が挙がるような気も気もしますが、フーダニットの妙やトライアル&エラーで、真実を積み重ねていく過程、真犯人とエラリーとの知恵比べ的な要素も加えるなど、総合力ではシリーズNO.1かもしれません。 巻末解説でも触れてますが、本作が発表された1932年は、他にも「X」や「Y」、そして「エジプト十字架」も発表されるなど、クイーンが信じられないほどの充実期を迎えている時期にも当たります。 敢えて弱点を挙げるなら、中盤がやや冗長になっているところと、これだけの登場人物を並べた割には、簡単なロジックで犯人像がすぐ少数に絞られてしまうところでしょうか。 ただ、それを補って余りある真犯人の衝撃!(まさかアイツがねぇ) これこそがやはりミステリーの醍醐味! (発表順と異なり、時代的には本作がエラリー最初の事件に当たる。それだけに、推理&捜査手法がまだ固まっていない。それだけに、逆にエラリーに感情移入しやすくなってる感じ) |
No.527 | 6点 | 犯罪小説家- 雫井脩介 | 2011/08/16 20:48 |
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作者らしいサスペンス作品。
久々に雫井作品を読了しました。 ~新進作家・待居涼司の出世作「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がった。監督・脚本に選ばれた奇才・小野川光は独自の理論を展開し、かつて世間を騒がせた自殺系サイト「落花の会」を主催していた木の瀬蓮美の伝説の死を映画に絡めようとする。一方、小野川に依頼されて蓮美の伝説の死の謎に迫り始めたライターの今泉知里は、事件の陰に待居に似た男の存在に気付き・・・~ 正直、期待したほどではなかったかなという読後感。 代表作「火の粉」なんかもそうですが、作者の佳作であれば、終盤に向けてジワジワと高まっていく緊張感みたいなものがあるはず、だった・・・ やっぱり、「火の粉」などと比べると1枚2枚落ちるという印象なんですよね。 本作、メインの登場人物がほぼ3人に限られ、そのうちの2人が果たして、犯罪者なのかそうではないのかという疑惑が、消えては浮上、消えては浮上して、ラストはどうなるのか? みたいな期待感を抱いたわけですが、どうにも中途半端に終わったなという感じ。 自殺サイトでの掲示板のやり取りも、結構な字数を割いたほどではなかったかなっと・・・ というわけで、いろいろと不満を述べましたが、これも期待の裏返しというわけで、それほど悪い作品じゃないですよ。 (小野川の濃いキャラも結局看板倒れだったのか・・・?) |
No.526 | 5点 | キリオン・スレイの生活と推理- 都筑道夫 | 2011/08/16 20:46 |
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アメリカ人の詩人、キリオン・スレイを探偵役としたシリーズ。
本作も作者の提唱する「トリックよりもロジック」を実践した作品集。 ①「最初の?」="なぜ自殺にみせかけられる犯罪を他殺にしたのか”というのがテーマ。まずはプロットが分かりにくい。今回は凶器(銃)の所在が問題となりまずが、真相はちょっと唐突。 ②「第二の?」="なぜ悪魔のいない日本で黒弥撤を行うのか”がテーマ。若い女性が怪しい性儀式に巻き込まれますが、スレイ氏の目には黒弥撤が別の儀式に見えていた。これも今ひとつピンとこない。 ③「第三の?」="なぜ完璧なアリバイを容疑者が否定したのか”がテーマ。これはいかにもありそうなプロット。 ④「第四の?」="なぜ殺人現場が死体もろとも消失したのか”がテーマ。居直り強盗が殺人を犯したはずの家から死体が消え、被害者の家族も殺人を否定する・・・一見すると魅力的な謎なのですが、被害者家族の背景を調査すれば簡単にからくりが判明してしまうのでは? ⑤「第五の?」="なぜ密室から凶器だけが消えたのか”がテーマ。これもやや喰い足りない。大掛かりなトリックは作者の好みでないのは分かりますが、こんなロジックでは「ふーん」としか言えない。 ⑥「最後の?」="なぜ幽霊は朝飯を食ったのか”が最後のテーマ。すでに死亡推定時刻を過ぎているのに、被害者が朝食を食べるのを目撃されていた・・・ということですが、まぁこういう真相になっちゃいますよねぇー。 以上6編。 感想を言うなら「喰い足りない」の一言。 謎の設定そのものは悪くないのですが、オチが面白みに欠ける印象だし、そもそもプロットに魅力を感じないのが痛い。 都筑氏の作品ということで、期待して読んでると期待を裏切られるかも・・・ (敢えて選べば③か④かなぁ・・・) |