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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1812件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.672 7点 陽気なギャングの日常と襲撃- 伊坂幸太郎 2012/04/15 12:43
話題作となった「陽気なギャングが地球を回す」の続編。
またもや「あの4人」が復活! ドタバタしているように見えて、決めるところは決める。

~嘘を見抜く名人は刃物男騒動に、演説の達人は「幻の女」探し、精確な体内時計を持つ女は謎の招待券の真意を追う。そして、天才スリ師は殴打される中年男に遭遇・・・。天才強盗4人組が巻き込まれた4つの奇妙な事件。しかも、華麗な銀行襲撃の裏に「社長令嬢誘拐」がなぜか連鎖する。知的で小粋で贅沢な軽快サスペンス~

相変わらず面白いなぁー
本作は「陽気なギャング」の続編なのだが、パワーアップしてる。
4人のキャラは最高。特に「響野」。
こんな面白い奴、なかなかいないよ。

本作は当初、4人がそれぞれ主人公として登場する「連作短編」として発表される予定だったものを長編に改編されたのだが、ミステリー的には正解だと思う。
まぁ、そもそも正統なミステリーではないのだが、一見無関係に見える4つの事件が、同じ登場人物や事件の舞台をとおして1つに収斂していくというのは、読んでて気持ちいい。

とにかく「伊坂ワールド」には強い引力があるとしか思えない。
こんな癖のある文章や世界観なのに、いつの間にか作者の世界(舞台か?)に引き込まれてしまう。
これこそが、作家としての力量なんだろう。素直に脱帽。
続編も是非出して欲しい。
(どうでもいいが、大久保が良子さんと無事結婚できたのかが気になる)

No.671 6点 ミミズクとオリーブ- 芦原すなお 2012/04/15 12:42
直木賞受賞作「青春デンデケデケデ」で有名な作者が描くミステリー。
恐らく作者がモデルと思われる主人公と、安楽椅子型探偵役の妻が織り成す、しみじみと味わいのある連作短編集。

①「ミミズクとオリーブ」=美人妻に逃げられた旧友を救うため、ひと肌脱ぐことになった主人公。ただし、実際に謎を解いたのは妻ということで、ここに人妻兼名探偵が新たに生まれることに。
②「紅い珊瑚の耳飾り」=今度はちゃんとした(?)殺人事件が舞台。主人公の友人で刑事の河田から情報を得るだけで、見事に謎を解く。本編だけではないが、女性独特の感性や見方が、事件解決の端緒になるというプロットが目立つ。
③「おとといのおとふ」=タイトルは犬や猫にとって「耳障りがいい」と感じる言葉なんだそうです。(「お」行が動物にとっては一番いいとのこと) 今回も殺人事件の謎を解くのだが、これくらいならいくら田舎の警察だって分かりそうなものだが・・・
④「梅見月」=本編は、主人公と妻が結婚する契機になった過去の事件。これもなぁ、実に何てことない真相。
⑤「姫鏡台」=これも女性独特の見方が事件解決のきっかけとなる。確かに、男性目線では気付きにくいのかもしれないが、女の勘は怖いってことだよね。
⑥「寿留女」=“スルメ”と読む。これも何てことない夫婦間のちょっとした揉め事を妻が見事に大岡裁きでケリを付けるというプロット。そんなことより、妻がつくる酒の肴の数々がおいしそうで・・・
⑦「ずずばな」=讃岐地方の方言で「ヒガンバナ(曼珠沙華)」のことらしい。同じマンションの部屋で夫は溺死、妻はフグの毒に当って死ぬという珍しい事件なのだが・・・あっさり解決。

以上7編。
何とも味わい深くて良い作品。
さすがに直木賞作家だけのことはあって、特になんてことない描写なのに、実に心地よく読者の心に染みてくる。
(出てくる妻の料理の数々も何ともおいしそうで・・・特に魚料理!)

殺人事件は出てくるが、作風としては「This is 日常の謎系」とでも言うべきもので、好き嫌いはあるでしょうが、本格物やサスペンス、ハードボイルドなど「硬い読み物」ばかり読んだ後、こういう作品に出合うとホッとさせられる。
誰にでもお勧めできる佳作という評価でよいのではないでしょうか。
(②がベストかな。後はどれも同レベル)

No.670 6点 暁の死線- ウィリアム・アイリッシュ 2012/04/15 12:39
名作「幻の女」と並ぶ作者の代表作。
1944年発表のタイムリミット・サスペンス。

~故郷に背を向け、大都会NYの虜になったダンサー稼業の女性の前に、突然姿を現した風来坊青年。彼は奇しくも女性と同じ故郷、同じ町の出身、すぐ隣の家の子であった。その青年がいま殺人の嫌疑に問われているという。潔白を証明するための時間はあとわずか5時間しか残されていない。深夜のNYを舞台に、孤独な若い2人が繰り広げる犯罪捜査のドラマ~

さすがに時代を感じさせるが、タイムリミットサスペンスの古典的名作という評価は正しい、
というのが感想。
他の方が書評しているとおり、夜明けまでに「何が何でも」解決しなければならないという理由はないように思う。
(どうしてもそうしたいなら、もっと強い理由があった方がいい。)
そこが、サスペンスとしての致命的な弱さにつながってるのは確か。
こんな短い時間で次々と証拠や関係者が出てくるというのも、「ご都合主義」と言われても仕方ないんだろうなぁ・・・

まぁでも、本作の「肝」はそんなことより、NYという得体のしれない「怪物」に挑む若い2人の姿を描きたかったんではないか?
2人の本当の敵は、真犯人なんかではなく、NYという巨大都市の夜の闇という訳です。
この辺りは、東京に来た田舎者と同じで、ある意味時代を感じさせる・・・(今どき、こんなこと考えないだろうから)

全体としてサスペンスにあるべき緊張感にはやや欠けるが、何ともいえない作者の文章を味わえるのがいい。
ちょっと煮え切らない書評ではあるが・・・
(さすがに「幻の女」よりは1枚落ちる)

No.669 7点 六つの手掛り- 乾くるみ 2012/04/07 21:26
「林兄弟の三男坊」で、大道芸とマジックの達人・林茶父を探偵役とした作品集。
作者がロジックに徹底的に拘った6つの作品が小気味よく並びます。

①「六つの玉」=大雪に囲まれた一軒家で一晩を過ごすことになった4人。初対面なのに翌朝に発生した密室殺人というわけで、典型的なミステリーっぽいのが本作ですが・・・茶父の解き明かす真相はかなり「突飛」ではないか? 「六つの玉」とツララから、そこまでのことが次々に解き明かされるとは・・・。
②「五つのプレゼント」=1人の女性に届く5つのプレゼントのうち、1つが何と爆弾だった、という謎なのだが、茶父の解法はなかなか見事。それよりも、茶父の姪・仁美が前座的に指摘した解法の方が個人的には面白いと思った。これって人間心理だからね。
③「四枚のカード」=事件現場に残った4つのESPカード(十字やら波、星のマークを書いたカードね)。しかもそのうち3枚は端っこが破られていた・・・。アリバイとマジックをうまい具合に融合させてるのがいい。動機はまぁ、置いといて・・・
④「三通の手紙」=これは、まぁワン・アイデアから膨らました作品なんだろうな。固定電話を使ったごく単純なアリバイトリックが、写真を使ったミスディレクションとうまく連動できている。
⑤「二枚舌の掛け軸」=6編のなかでも本作がどうやら一番評価が高いようなのだが、個人的にはあまりピンとこなかった。掛け軸の薀蓄はなかなか面白かったが・・・
⑥「一巻の終わり」=さすがにこれはムリヤリ感がある。どうしても「一」に関するものを書きたくて、しかも洒落たタイトルで・・・というのが先にあったんだろうか? そもそもこんなアリバイトリックなんて、警察の捜査が入ればすぐに崩れるのでは・・・

以上6編。
6編ともロジックを追求して追求した作品。
リアリティは全く無視した特殊な設定下(犯人と被害者が初対面など)なのだが、パズラーの面白さが満載といっていい。
たまには、動機やら事件の背景なんかは無視して、徹底的に「犯人当て」に取り組むというのもいいのではないか。
(作者が楽しそうに書いてる感じがするのも好ましい)

No.668 7点 緑は危険- クリスチアナ・ブランド 2012/04/07 21:23
本格ミステリー黄金世代を継承したC.ブランドの長編代表作。
戦時下の野戦病院を舞台に、コックリル警部が探偵役として登場、真犯人を見事解き明かす。

~ヘロンズ・パーク陸軍病院には、戦火を浴びた負傷者が次々と運び込まれていた。郵便配達人のヒギンズもその1人だった。3人の医師のもと、彼の手術はすぐ終わると思えた。だが、患者は喘ぎだし、まもなく死んでしまう。しかも彼は殺されていたのだ! なぜ、こんな奇妙な場所で、一介の郵便配達人は死を迎えることになったのか。「ケントの恐怖」の異名をとるコックリル警部登場。黄金期の探偵小説の伝統を正統に受け継ぐ傑作本格ミステリー~

さすがに評判どおり、端正なパズラーという印象が残った。
「戦時下の野戦病院」という舞台設定のためか、全体的に重々しく暗い雰囲気が漂い、独特の読み心地を感じた。
医療ミステリーの“はしり”なのかもしれないが、それほどの医療知識は不要であり、純粋に「犯人当て」が楽しめる。
特に、第2の殺人で、「被害者が手術着を着ていた」謎を解き明かすロジックが見事。
ある医療用具を使ったトリックとの連動であり、それが連続殺人の動機にもつながっていて、本作の「肝」と言える。

ただ、トリックを解き明かした後の真犯人の絞り込みについては、何となくモヤモヤ感が残った。
コックリルの説明が今一つのためかもしれないが、故意に「ある人物」を真犯人に誤認させる(ミスディレクション)手口があからさますぎる気が・・・
(まぁ、好みの問題かもしれないが)

でも、完成度としてはやはり秀逸な本格ミステリー。「古き良きミステリー」を堪能できる1冊なのは確かでしょう。
(訳がせいか、ちょっと読みにくさを感じた)

No.667 5点 ひらけ!勝鬨橋- 島田荘司 2012/04/07 21:20
1987年発表、作者初期のノン・シリーズ作品。新装版にて読了。
世間から見捨てられた「老人たち」を主人公にした珍しい(?)作品。

~館長が悪質な詐欺に引っ掛かり、ヤクザに引き渡しを要求されたO老人ホーム。威圧的なヤクザと能天気な老人たちの熾烈な攻防が始まった。ついに立ち退きを賭けてゲートボールの試合で決着をつけることになった。コーチ役の翔子を中心に結束を固めた老人たちの「青い稲妻」チーム。汚い手口でプレーするヤクザなチーム。そんなとき、老人ホームで殺人事件が発生する。笑いと涙のユーモア長編ミステリーの傑作~

これはミステリーじゃないな。
一応連続殺人事件が起きるが、これはほんの付け足し程度の扱いだし、真相も何だかウヤムヤのまま収束してしまう。
本作の読みどころはズバリ「ゲートボールの実況中継」シーンと「月島での老人たちのカーチェイス」シーンの2つだけと言いたい。
(別に悪い意味ではないのだが、正直ほかの場面は全く記憶に残らなかった・・・)

「ゲートボール」については、ルール解説を交えながら「青い稲妻」チームのキャプテンである本田叡吉が、さながら将棋のように相手チームと戦法の読み合いを行う・・・ゲートボールってそんなに頭を使うスポーツだったんだねぇー
そして極めつけが、老人たちがポルシェ911を駆って、ベンツに乗ったヤクザたちをカーチェイスの末に海へ落とすという無茶苦茶さ!
まさに「ミスター荒唐無稽」というべき作者の本領発揮でしょう。
この2つ以外の部分が実に冗長なのですが、「負け組」の象徴として登場する老人たちが最後に見せてくれる「意地」にまずはスッとさせられます。

ポルシェやバイクなど、作者の趣味が存分に生かされていて、初期の頃の何とも言えないエネルギーが行間から伝わってくる。
まっ、作者のファン以外には面白くもない作品かもしれませんが・・・
(主人公の老人たちが、本田・鈴木・山波・豊田・川崎って・・・凝り過ぎ!)

No.666 7点 鮫島の貌 新宿鮫短編集 - 大沢在昌 2012/04/01 16:35
ゾロ目666冊目の書評は、大好きなシリーズの最新刊で。
「新宿鮫シリーズ」初の短編作品集。
短編になっても、やっぱり鮫島は鮫島なのだが、本作では超意外なあの人たちもゲスト出演(!)

①「区立花園公園」=新宿署に異動したばかりの鮫島が登場。そういう意味で、本作は「新宿鮫エピソード1」的な位置付けかも。とにかく、今は亡き桃井警部の雄姿が読めて、それだけでもうれしくなった。
②「夜風」=①に続いて悪徳警官が登場し、鮫島と対決。ヤクザと警官は紙一重とはよく言ったものだ。
③「似たものどうし」=本作ではさるマンガで有名な「あのキャラクター」がなぜか登場。しかも鮫島と知り合いの様子。でも、なぜ知り合いなのかは全く不明・・・(モッ○リはしなかったのか?)
④「亡霊」=死んだはずの男が新宿の街をうろついている・・・まさに「亡霊」かと思いきや、真相は?
⑤「雷鳴」=これはラストの捻りが効いている秀作。お得意のヤクザの抗争をネタに意外な真相がラストに用意されている。
⑥「幼馴染み」=③に続いて超意外な「あの人物」がなぜかゲスト出演。しかも、なぜか藪鑑識員の幼馴染みとしての登場・・・舞台が浅草で警察官といえばこの人でしょう。そう「両○○吉」(!)
⑦「再会」=鮫島が高校の同窓会に出席。これ自体も珍しいエピソードだが、元クラスメートとして登場する視点人物にはある秘密があって・・・鮫島のカッコよさが引き立つ。
⑧「水仙」=鮫島に協力を申し出る1人の美女。その美女のおかげで、凶悪犯を逮捕できたのだが、彼女には大きな秘密があった・・・
⑨「五十階で待つ」=新手の詐欺事件に引っ掛かる半端者たち。ラスト、鮫島に真相を知らされた感想は「なーんだ」。
⑩「霊園の男」=「新宿鮫Ⅸ~狼花」で華々しく散った「間野」。彼の墓参時に会ったある肉親。ある意味好敵手だった男の死は鮫島にとっても一抹の寂しさを誘う・・・

以上10編。
「新宿鮫シリーズ」には独特の雰囲気があり、それが鮫島のキャラクターや新宿・歌舞伎町の雰囲気と何とも言えない相乗効果を生み出している。
本作は、短編としても短めの作品が並んでおり、1つ1つはいつもより薄味なのだが、逆に鮫島のいろいろな一面が窺えて、ファンとしては面白く読むことができた。
ただ、やっぱり本シリーズは長編が読みたい。序盤からヒリヒリしたような緊張感、そして中盤から一気に加速して終盤に突き進んでいくスピード感。そして、何とも言えない余韻の残るラスト・・・
これこそが20年経っても色褪せない「新宿鮫」の魅力だろう。
(しかし、まさかあんなキャラクターを出してくるとはねぇ・・・懐深いわ!)

No.665 6点 死の扉- レオ・ブルース 2012/04/01 16:32
英国の正統派本格ミステリー作家、L.ブルースの長編第9作目。
素人探偵・キャロラス・ディーンの初登場作品。最近、創元文庫で出版されたものを読了。

~のどかな英国のニューミンスターにある小間物屋で発生した二重殺人事件。深夜の凶行によって店を営む強欲な老婦人エミリーと、地区を巡回していたスラッパー巡査が犠牲となった。町にあるパブリックスクールの歴史教師で犯罪研究を趣味とするキャロラス・ディーンは、事件の調査に乗り出すことに。町の嫌われ者だったエミリーのおかげで、容疑者にはこと欠かないこの事件を、素人探偵はいかに推理するのか?~

実に正統派な「英国本格推理小説」という評価がピッタリ。
一夜にして二人の男女が惨殺されるのだが、重々しさや暗さは一切なく、ただ純粋に謎解きが楽しめるプロットは賞賛できる。
そして、このL.ブルースという作者。ものの本には、英国でA.クリステイと並び称される「ミス・ディレクションの名手」とのこと・・・
本作もその評価を地でいく作品なのは確か。
素人探偵・ディーンが、多くの容疑者や関係者たちに順番に丹念に話を聞くのだが、そこには伏線と読者を誤った道へ導くべく罠が待ち構えているのだ。

そうやって書くと、何だかスゴイ作品のように思えるが、正直な感想「そこまでスゴクはない」。
パズラーものとして、連続殺人を犯す「動機」としては有りだとは思うが、現実的ではないよなぁ・・・
あと、殺害時刻前後の登場人物の絡み具合が複雑すぎて、ちょっと途中で整理がつかなくなってしまった点、ちょっとやり過ぎかも。

まっ、でも決して嫌いなジャンルではありませんし、他作品にも手を伸ばしたくはなった。
(英国本格物で「意外な犯人」というと、なんで「この職業の人」が多いんだろうか? 単に思い過ごし?)

No.664 5点 智天使の不思議- 二階堂黎人 2012/04/01 16:31
二階堂蘭子と双璧をなす作者のシリーズ探偵・水乃サトル登場作品。
シリーズ初の倒叙ミステリーとのことだが・・・

~昭和28年、一人の金貸しが殺された。警察は没落華族の若い女性とその家の元使用人を犯人と断定。だが、2人には難攻不落のアリバイがあり、事件は迷宮入りしてしまう。その女性は後に一躍人気マンガ家になるが、34年後今度は彼女の元夫が不審死を遂げる・・・2つの事件を追う名探偵・水乃サトルは、悪魔的な完全犯罪計画を見破れるのか?~

可もなく不可もなくといった感想。
倒叙物ということで、犯人視点から事件が語られるわけだが、それが水乃サトルが耳にする事実(伝聞)と微妙に食い違っている・・・
その「食い違い」こそが、作者が仕掛けた「欺瞞」なのだが、如何せんサプライズが小さすぎる。
結構もったいぶって引っ張り、警察が解き明かせず迷宮入りしたという割にはアリバイトリックがしょぼい。
(「紅白歌合戦」ネタの奴ね)
「智天使」とか、悪魔的な犯人と煽るほど、真犯人のキャラ・造形が強くないのもちょっと興ざめ。

まぁ、本シリーズ自体、当初からそれほど面白いわけでもなく、なんでこのシリーズに拘るんだろうと個人的には思ってるんだけど・・・
特に今回は、いつもの軽いノリではなく、シリアスな作風・展開のため、サトルのキャラにも合ってない。

この手の倒叙ミステリーが好きな方以外にはあまり薦められないねぇ。
(ラストの「大オチ」もちょっと唐突だし、取って付けたような感じ)

No.663 4点 シャーロック・ホームズ最後の解決- マイケル・シェイボン 2012/03/24 00:39
世界のミステリー史上に燦然と輝く名探偵・シャーロック・ホームズのパスティーシュ作品。
時は1944年、ホームズは何と齢89歳(!)という設定。

~声を失ったその少年には親友のオウムがいた。彼の代わりのように不思議な数列を連呼するオウムが・・・。少年は9歳。親を失い、祖国を離れ、英国南部の片田舎で司祭の営む下宿屋に引き取られていた。彼が巻き込まれた奇禍とはある殺人事件とオウムの失踪。養蜂家の老人に司祭一家のドラ息子、謎の下宿人。オウムはどこに? そして犯人は?~

新潮文庫で150頁程度の中編というべき分量で、中身も含めて小品。
ホームズは1903年に探偵業を引退し、サセックスの丘陵地帯で養蜂家となって余生を過ごしたという設定になっており、紹介文に出てくる「養蜂家の老人」とはつまりホームズのこと。
89歳という年齢には勝てず、老骨に鞭打って少年のために最後の冒険を試みる姿や、久しぶり帰ってきたロンドンで、第2次世界大戦で傷つき、アメリカ人が跋扈する姿を見て感慨にふける姿など、ホームズファンならば何とも言えない気持ちになりそう。

一応、殺人事件が起きるのだが、解決のための材料が読者に与えられる訳でもなく、事件は唐突に解決してしまう。
しかも、その場面が何と「鳥目線(!)」
ホームズものの秀作の雰囲気を真似てるかというと、そこまでのレベルに達しているということでもないので、パスティーシュ作品としても中途半端な印象。

まぁ、本当のシャーロキアン以外ならスルーしてもOKでしょう。
(1人寂しく余生を過ごすホームズというのも何だか切ない・・・)

No.662 7点 i(アイ)―鏡に消えた殺人者- 今邑彩 2012/03/24 00:38
警視庁捜査一課・貴島柊志シリーズの第1作。
作者らしい、オカルト風味の効いた本格ミステリー。

~作家・砂村悦子が殺された密室状態の部屋には、鏡の前で途絶える足跡の血痕が・・・遺された原稿には「鏡」にまつわる作家自身の恐怖が自伝的小説として書かれていた。鏡の中から見つめているのは、死んだはずの「アイ」(!?)。貴島刑事が鏡に消えた殺人者に挑む。傑作本格ミステリー~

うまくできてるなぁーとまずは感心。
作者の書くミステリーは、プロットが実に丁寧で好感が持てる。
本作も、「密室」や「鏡の中に消えたように見える血の足跡」など、提示された「謎」はそんなに突飛なものではないが、真相解明の段階で1つ1つのピースがうまい具合に嵌っていく快感を味わうことができる。
トリックも、アリバイと「密室」や「足跡」がきれいに連動しており、まずは十分合格点を与えたくなる。

大方の真相解明後に残された最終章がちょっと問題。
オカルト的な風味を付けたかったのだろうが、いくら○子だといっても、それはすぐに気付くんじゃないのか?
そこはちょっと強引すぎる気がしてやや首を捻ってしまった。
ただ、それを差し引いても高評価はできる佳作。
(貴島刑事の秘密は次作以降で明らかになるのかな?)

No.661 5点 ソフトタッチ・オペレーション- 西澤保彦 2012/03/24 00:36
神麻嗣子、保科匡緒らお馴染みのメンバーが活躍する“チョーモンイン”シリーズの作品集。
既出の短編4作品+書き下ろしの中編表題作という「豪華な(?)」構成。

①「無為侵入」=「あくまでも本人の意志により住んでいる家から立ち退かせることができるのか?」という命題から入る本作。いきなりサイコキネシスやらお得意の超能力全開だが、真相は一応ロジカルなものに。
②「闇からの声」=ライトホラーっぽい作品。プロットはよくある手のものだが、単純なだけにラストの反転が鮮やかに決まった印象はある。
③「捕食」=自分が作った料理を食べた人間が必ず死ぬ(!)という宿命を背負った男・・・そこには息子に対する母親の異常な愛情と怨念があった。これは見せ方が面白い。
④「変奏曲<白い密室>」=雪の降り積もったお屋敷と殺人事件・・・そう、まさに「雪密室」を扱った正統な「本格ミステリー短編」だよな? でもこの真犯人ってどうなの? 背景についての説明が全くないって!?
⑤「ソフトタッチ・オペレーション」=ある居酒屋で呑んでる途中で急に意識を失い、気付けば核シェルターのような密閉空間に閉じ込められた3人・・・作中で岡島二人の「そして扉が閉ざされた」が引き合いに出されてますが、そこは当然西澤風の味付けがなされてるわけで・・・個人的には「そして扉が・・・」+「麦酒の家の大冒険」というような感覚だった。ただ、プロットは大味。

以上5編。
正直、あまり面白いとは思えなかった。
多分にキャラ小説のような味わいで、超能力+ロジックというのが特徴なのだろうが、中途半端という印象しか残らない。
まぁ、このシリーズが好きな方には面白いのかもしれないが・・・
本編とは関係ないが、文庫版あとがきにある作者から故・宇山日出臣さん(元講談社の名物編集者ね)宛ての回顧文が味わい深くてなかなか良い。
(③がベスト。④⑤も楽しめはするが・・・)

No.660 5点 - ドナルド・E・ウェストレイク 2012/03/19 23:45
2000年発表のノン・シリーズ。
作者は不運な泥棒“ドートマンダー”シリーズなどユーモア系ミステリーが有名だが、本作はシリアスな心理サスペンス風。

~「きみの小説を俺の名前で出版しよう」・・・ベストセラー作家の提案に中堅作家であるウェインの心は揺れた。収入は山分け、55万ドルが手に入るのだ。だが条件が一つあった。ウェインはその作家の妻を殺さなければならないのだ。殺しに狂わされ、徐々に荒廃していく人間の内面を描き、傑作「斧」に続いて名称が放つ戦慄の犯罪サスペンス!~

何とも言えない「粘着性」のある作品。
紹介文のとおり、書けなくなったベストセラー作家のゴーストライターを務めることになった中堅作家が、高収入を得る代わりに前者の妻を殺してしまうのだが、その後は殺した方の作家ではなく、依頼した方の作家が徐々に狂っていく様子が描かれていく。
2人の心理が交互に、そして執拗に描かれ、読み手の心に浸透していく感覚・・・作者のウマさは感じられた。

ただ、結局殺人事件は警察がマトモな捜査をせず、殺人者として追い詰められるといったようなサスペンスは一切なし。
ベストセラー作家も若干狂ってきたものの、それほどのインパクトはないまま、静かに終局を迎えてしまった。
というように、「サスペンス」とは銘打っているにしては大変地味なプロット&ストーリーなのだ。

正直、こういう作品を「好みか?」と聞かれると、「いやぁー」というしかないなぁ。
せめてもう少し「緩急を付けた」作品にしてほしかったというのが偽らざる感想。

No.659 6点 ビブリア古書堂の事件手帖- 三上延 2012/03/19 23:44
北鎌倉の住宅街にひっそり佇む古書店「ビブリア古書堂」・・・
店主である栞子さん(美人で巨乳!)とアルバイト店員の五浦を中心として、古書を巡る不思議な世界が紡がれる。

①「夏目漱石『漱石全集・新書版』」=五浦が本を読めなくなった理由がこの夏目漱石全集の中の1冊、「それから」。栞子さんと出会い本に関する彼女の類まれなる推理力で、五浦の祖母の秘密が明らかになる。
②「小山清『落穂拾い・聖アンデルセン』」=ビブリア古書堂の常連の「せどり屋」が巻き込まれた古書の盗難事件。で、盗まれたのがタイトルにある小山清の作品なのだが、「新潮文庫」だけにある「ある特徴」が事件の鍵に・・・本好きならすぐに分かるよね。
③「ヴノグラードフ・クジミン『論理学入門』」=タイトルだけ見ると、「何だそりゃ?」という気になるが、ストーリーは不器用な男と、男を一途に愛する馬鹿な女のちょっと泣かせる話。「三段論法」なんて小難しい話にしなくてもいいのに・・・
④「太宰治『晩年』」=本作では、栞子さんのある秘密が明らかになる。そして知る敵の存在。古書の世界ってこんない熱いものなんだなぁー。そして今後に期待を抱かせるラスト・・・

以上4編。
さすがに売れてるだけのことはあって、軽そうにみえてしっかりしたプロットを感じる作品集。
1冊の古書は多くの人の人生を背負って書店の棚に並んでるんだねぇ・・・
そう考えると、某「Book-○○○」で無造作に並べてある均一本に対しても愛着が湧くかもしれません!

連作形式で、「栞子さん」の謎が徐々に解きほぐされるのもなかなか良い。
ミステリー的なガジェットとは無縁だが、まずは軽~い気持ちで読める佳作でしょう。
(ベストは①。②④はまずまずだが、③はちょっとなぁ・・・)

No.658 7点 どんなに上手に隠れても- 岡嶋二人 2012/03/19 23:42
1984年発表のノンシリーズ長編。
作者得意の「誘拐ミステリー」の秀作。

~多くの人が出入りするテレビ局から、白昼売出し中のアイドル歌手が誘拐される事件が発生する。しかも、その直前この誘拐を暗示する奇妙な匿名電話が警察に入っていた。芸能プロダクションやCMのスポンサーたちの対応、駆け引き、警察の地道かつ執拗な捜査、そして事件の驚嘆すべきトリックまで、リアルに描ききった傑作長編推理~

とにかく「プロットの妙」を感じさせてくれる作品。
こういった「劇場型」の誘拐事件を扱ったミステリーは割と目にするが、ここまで明快で計算されたプロットというのはちょっとないと思う。
事件はいわば「三重構造」になっていて、「誘拐の当事者」=「誘拐を利用した敏腕プロデューサー」=「真のフィクサー」という構造がうまく隠ぺいされ、ラストで収束させる手口が実に鮮やか。

本作のもう1つのうまさが「動機」。
もちろん、誘拐事件の動機だから「金」に決まってますけど、ただ単純な「金」ではない。
これには正直「アッ」と言わされた。ここがプロットの「肝」だよなぁ・・・

作者らしいリーダビリティーと軽いノリも本作の魅力で、とにかく万人受けする作品でしょう。
(さすがに「誘拐モノ」はうまいねぇー)

No.657 7点 死の接吻- アイラ・レヴィン 2012/03/13 22:49
作者23歳の処女作かつ1953年のアメリカ探偵小説最高のエドガー賞受賞作。
海外ミステリーのランキングには必ず登場する有名作。

~2人は学生同士の恋人だった。女性は妊娠しており、男性は結婚を迫られていた。拳銃、薬物、偽装事故と、いく通りかの殺人方法を調べ上げてみた。結局偽装自殺に決めたのだが、遺書のために女性の筆跡を入手しなければならない。自信はあった・・・戦慄すべき完全犯罪を行おうとするアプレゲールの青年の冷酷非情な行動と野心とは・・・~

まずは評判通りの面白さではないでしょうか。
冒頭からしばらくは三人称(彼は・・・)で物語が進行したため、勘のいい(普通?)読者なら、何らかの叙述的なトリックが仕掛けられるのを感じる。
ある一家の3姉妹が順に登場する3部構成となっているが、連続殺人事件が起こる2部の終盤で読者は「アッ」と言わされるはず。
この辺りは発表された年代を勘案すると、実に斬新で読者の心を惹きつける小憎らしい演出だと思う。

ミステリー的な観点でみると、第2部の終了時点で事件の構図が大筋見えてしまうため、第3部が若干冗長に感じるのが難。
「因果応報」というのが第3部のテーマなのだろうが、もう少しサスペンス性というか、欲を言えば「ドンデン返し」的趣向があるとさらに高水準なミステリーにはなったんだろうなぁ・・・
真犯人が弄した犯罪もやや雑だなぁという印象は残った。

まぁ、でもこれはこれでシンプルだし、余計な演出を加えなくても十分に楽しめる作品なのは間違いない。
なかなかお勧め。
(23歳でこれを書いたのは確かにスゴイこと)

No.656 6点 中途半端な密室- 東川篤哉 2012/03/13 22:47
光文社から出版された、鮎川哲也編「本格推理」と二階堂黎人編「新・本格推理」に編入された作者の短編を1冊にまとめた作品。
東川人気にあやかった文庫オリジナル。

①「中途半端な密室」=十川一人が唯一探偵役として登場。四方を高いフェンスに囲まれ、ただ1つの出入口に鍵のかかったテニスコート内で刺殺された男が発見される。十川が解き明かす真相(?)はなかなかロジカルで切れ味がいい。
②「南の島の殺人」=これ以降は、岡山の大学生・敏ちゃんとミキオのコンビが探偵&ワトスン役として登場。本作は2人の友人である柏原がバカンスに出かけた「とある南の島」で起きた殺人事件の謎。死体が「全裸」ということで、E.クイーンの「スペイン岬」が作中でも引き合いに出されてますが、真相とは一切関係なし。それよりも「南の島」の件がなかなかバカバカしい・・・
③「竹と死体と」=ふとしたことから昭和11年の古新聞から興味深い事件を見つけた2人がまさに「安楽椅子型探偵」に乗り出す1編。高さ20メートルを超える竹で首を括った状態で発見された老婆の謎。ある歴史上の有名な事件が真相解明のヒントになる。
④「十年の密室・十分の消失」=本作のメインテーマは「建物の消失」。このテーマというと、クイーン「神の灯」や泡坂妻夫「砂蛾家」、はたまた折原一「鬼首村」などが思い浮かびますが、トリック自体はオリジナリティあり。ただ「こんなことするかぁ!」というツッコミは想定済みなんだろうなぁ・・・
⑤「有馬記念の冒険」=有馬記念の走破時間約2分30秒がアリバイトリックに・・・というと興味深いように聞こえますが、要はあるAV機器の機能を利用しただけのワンアイデア。でも見せ方はさすが。

以上5編。
作者の思いとは違った形で突然の大ブレイクを果たした作者ですが、本来は本作のようなロジック&ユーモアを基調としたマニア向けの作品がメインのはず。
でもまぁ、売れるだけの力量は十分に感じられますねぇ。
長編デビュー前の小品をまとめただけの作品集ですが、やっぱりキラッと光る原石のような印象は残りました。
どれも短くまとめられてるだけあって、短編らしい切れ味を感じる作品ですし、いい意味で手軽に読める作品という評価ですね。
(やっぱり表題作である①が一番いい。後は②④辺りか)

No.655 7点 原子炉の蟹- 長井彬 2012/03/13 22:44
あの日からちょうど1年。いまだ震災の爪痕を残す最大の要因こそが「原発」。
ということで3月11日を挟んだ読書には本作をセレクト。
1981年発表の第27回江戸川乱歩賞受賞作を新装版で読了。

~関東電力九十九里浜原子力発電所の建屋内で、一晩中多量被ばくした死体がドラム缶詰めで処分されたという。失踪した下請け会社の社長なのか? だが中央新聞の大スクープは一転して捏造記事という批判を浴びる。事実は隠ぺいされ、原子炉という幾重にも包囲された密室が記者らの前に立ちはだかる。乱歩賞受賞の社会派推理の傑作~

本作が発表されたのが今からざっと30年前ということを考えれば、何とも感慨深い。
1年前に露呈した原発神話の崩壊や、東電の安全管理の杜撰さ、そして政府・電力会社の隠ぺい体質・・・
全てが本作で起こる事件内で指摘されているわけではないが、やっぱり自然界の一存在でしかない人間が、放射能物質を100%コントロールすることの難しさを感じずにはいられない。
ただ、だからといって「原発を全て廃炉に」という主張にもやはり素直に首肯することはできない。
実は私の実家も、とある原発の比較的近くにあり、周辺には直接・間接に関わらず原発産業に依存している人々が多い。
もちろん、電力という現実的な問題もある現在、できる限りの安全性を追求しながら、依存度を下げていくという体制が現実的な選択肢だろうと思う。(何だか煮え切らない評論家みたいで嫌だが・・・)

ということで、本筋の殺人事件に話を戻すと、
「原子炉」という特殊な建物を舞台にした「密室殺人」と「サルカニ合戦」をモチーフにした「見立て殺人」という、本格ミステリーの2大ガジェットが本作のメインテーマ。
密室については、1箇所しかない出入口で全ての進入者がコンピュータ制御されたという不可能状況の設定は面白い。その解法自体は複雑なものではなく、簡単に言えば「隙を突く」というようなプロバビリティ的要素があるのがやや難。見せ方にもう少し工夫があればもう少し劇的なものに感じられたかもしれないので、ちょっと惜しい気はした。
「サルカニ合戦」の見立ては、確か阿井渉介の作品でも取り上げていたが本作が先。まぁ「旧悪に対する恨みをはらす」というモチーフが重なるので使いやすいのだろうと思うが、例えばトリック等と連動しているということでもないので、必然性については疑問符。

まあ、こういう作品を早速「新装版」として書店に並べる出版社もあざとい気はするが、歴史的な出来事を忘れず、「原発」についての自分自身のスタンスを考えてみるということだけでも手に取る価値はあるのだろう。
(作者は2002年に逝去されているが、大震災を目にしていたらどう思っていたのだろう・・・)

No.654 5点 我らが隣人の犯罪- 宮部みゆき 2012/03/10 00:43
ノン・シリーズの短編集。
作家としてのうまさを堪能できる作品という巷の評価ですが・・・

①「我らが隣人の犯罪」=乱歩の「屋根裏の散歩者」を少し思い出してしまった。やっぱり、主人公が少年というのがある「間違い」のもとになっているのかな? ミリー(スピッツ犬ね)の件はあまりにもクドく書かれてるので、それがプロットに直結してるのが見え見えになってる気はした。
②「この子誰の子」=プロットこそ単純だが、まとまってて面白い作品。何か秘密のありそうな主人公の少年、そして判明する運命のいたずらのような偶然・・・基本的にはいい話。
③「サボテンの花」=これもラストにホロッとくるいわゆる「いい話」。ただ、この教頭先生の人物描写部分がそんなにないので、生徒たちがここまで「思ってくれる」のにちょっと違和感。なんで校長先生になっちゃいけないんだろう?
④「祝・殺人」=バラバラ殺人を扱った本格色の比較的強い作品。真相はワン・アイデアから導き出されるものでたいしたことはないのだが、新米刑事と関係者の女性との会話が面白い。
⑤「気分は自殺志願」=奇妙な病気に罹った、とあるレストランのボーイ長と駆け出しミステリー作家が共謀して演出した「詐欺」事件を明るく見せた作品。この作品、面白いけど確かにオチがない。

以上5編。
「うまい」のは確か。さすが「宮部みゆき」というのが正直な感想&評価。
ただなぁ・・・基本的に合わないんだよねぇ。この作風は・・・
どの作品も練られたうえに、ムダを削ぎ落とすだけ削ぎ落とした作品なのだが、ミステリー的な観点からみれば、もう一捻り欲しいとしか言いようがない。
これは作者が悪いのではなく、あくまで私個人の好みの問題なのでしょう。

面白いことは間違いないし、手頃な分量ですので、初心者から上級者まで楽しめる作品という評価にはなります。
(どれがいいかなぁ? 敢えて言えば①か④)

No.653 6点 悪魔の涙- ジェフリー・ディーヴァー 2012/03/10 00:41
文書鑑定士パーカー・キンケイドを探偵役に据えた唯一の長編。
シリーズ探偵のリンカーン・ライムはカメオ出演に留まるが、それなりの存在感あり。

~世紀末の大晦日午前9時、ワシントンの地下鉄駅で乱射事件が発生。間もなく市長宛てに2000万ドルを要求する脅迫状が届く。
正午までに「市の身代金」を支払わなければ、午後4時、午後8時、そして午前0時に無差別殺人を繰り返すとあった。手掛かりは手書きの脅迫状だけ・・・FBIは筆跡鑑定の第一人者であるパーカー・キンケイドに出動を要請した~

まずまず水準級の面白さ、というのが正直な感想。
プロット自体はこの手の作品によくある感じがして、あまり新鮮味があるものではない。
ただ、「文書鑑定士」という特異なプロフェッショナルを主役に据えた当たりは、さすがにベストセラー作家という気はした。
タイトルにある「悪魔の涙」というのが、最後に効いてくるのがニクイ。

結構な分量ですが、本作の肝は第4章以降。
殺人鬼の死亡で事件が収束したかに思えた後、FBIの施設内で発生する殺人事件。そして判明する意外な犯人。
これが噂の「ドンデン返し」かぁ・・・
ただ、この真犯人が「肩書き」を偽ってFBIに近づいたことになっているのだが、もしそうだとしたらFBIって相当緩い諜報機関だぞ!
プロットにはそんなに影響はないけど、どうにもリアリティに欠けるように思えて気になった。

正直ジェットコースター・サスペンスというほどのスピード感はなかったが、良質なサスペンスという評価は特に否定しない。
(パーカー・キンケイドの人物造形にも深みがあり、好感の持てる存在)

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