皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.1205 | 5点 | バースへの帰還- ピーター・ラヴゼイ | 2016/03/05 20:46 |
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1995年発表の長編。
ピーター・ダイヤモンド元警視を主人公とするシリーズでは三作目となる作品。 ~深夜、元警視のダイヤモンドはかつての職場の警察署に呼び出された。四年前、ダイヤモンドが女性ジャーナリスト殺人事件で逮捕した男マウントジョイが脱獄し、副本部長の娘を誘拐したうえ、交渉相手にダイヤモンドを指名してきたという。マウントジョイとの会見に赴いた彼は、そこで四年前の事件の再捜査を要求される。やがて埋もれていた事実がつぎつぎと・・・。英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を受賞したシリーズ会心作!~ どうも何というか・・・しっくりこなかった。 というのが率直な感想 解説者の二階堂黎人氏は本格ミステリー度の高さを本作の特徴として上げているが、どうもその辺が??なのだ。 早川文庫版で400頁を超える当たりでようやくダイヤモンドの推理が開陳されるわけだけど、真犯人については唐突感たっぷり。正直、「こんな奴いたっけ?」としか思えなかった。 伏線らしきことの指摘もあるのだけど、そこに気付くのは相当ハイレベルというか無理だろう。 では本格ミステリー以外の部分はどうかというと、それも中途半端。 警察小説的な丁寧な捜査行としての一面も備えてはいるにしてもそれがウリとまではいかない。 なによりムダな描写や箇所がどうしても目についてしまった。 これしきのプロットならこれほどの分量は必要なかったのではないか? どうも感覚的な評価ばかりで、ミステリー的側面にふれてない気はするけど、如何せん冗長さを感じた次第。 他の方の評価が割と高いので気は引けるけど、これは「合うor合わない」の問題だろう。 もちろん著名な賞の受賞作だけあって、達者な筆致&表現力だし、ダイヤモンドとジュリー警部(女性)のかけあいの面白さもある。 でもまあ評点はこんなもんかな。 (これに懲りず他作品も読むつもり・・・) |
No.1204 | 6点 | グランドマンション- 折原一 | 2016/02/21 17:48 |
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2013年発表の連作短篇集。
(単行本化に当たって、「リセット」「エピローグ」の新章を加え、長編or連作形式にまとめたとのこと・・・) 「グランドマンション1号館」という集合住宅を舞台に相変わらずの折原ワールド全開となるのか?? ①「音の正体」=子供の跳ね回る音や赤ちゃんの泣き声etc・・・上階の騒音に悩まされる独り身の男。折原作品によく出てくるちょっと精神の歪んだ独身男なのだが、その男が右往左往した結果行き着いたところは・・・最後に反転! ②「304号室の女」=過去の折原に似たようなタイトルの短編があったけど、それとはちょっとテイストの異なるもの(過去のはホラー風味だったような・・・)。まっ、でもたいしたことはない。 ③「善意の第三者」=本作の主要登場人物のひとりとなる「民生委員を務める男=高田英治」が繰り広げるドタバタ劇の一編。いかにも折原らしいラストのツイスト感・・・っていう感じだ。 ④「時の穴」=急に密室殺人(じゃなくて密室窃盗)がテーマとなる一編。しかし、変わった人物ばかりが住んでるマンションだわ。 ⑤「懐かしい声」=タイトルどおり(?)「オレオレ詐欺」がテーマとなる一編。高齢者が多く暮らす「グランドマンション1号館」でオレオレ詐欺の被害者が続出するなか、容疑者らしき若者を追い詰めたところ・・・意外や意外・・・という展開。 ⑥「心の旅路」=ここまで来て新たな登場人物に纏わる話。これは時間軸をずらすというよくある叙述の手なのだが、さすがに折原がやると手馴れている感が半端ない。 ⑦「リセット」=追加された一編。八十代も半ばを過ぎ、ついに恍惚の状態に陥った老婆。元気で矍鑠としていたはずが、毎日毎日同じ質問を住人に繰り返すハメに・・・当然そこにはある仕掛けが・・・ってそれは分かるよ! 折原好きなら! ※エピローグ=ということでラストのオチ! 以上7編+α いやいや、これは旧タイプ折原作品。 とある集合住宅を舞台に住人たちが繰り広げるドタバタ劇というと、「天井裏の散歩者~幸福荘殺人日記」(1993)を思い出してしまうけど、プロットの軸は今回も同ベクトル。 それぞれの登場人物は一人としてまともではなく、それぞれどこかねじ曲がってるわけで、彼らが勝手に動き回るストーリーを名指揮者よろしく作者が最後にまとめあげる・・・という技なのだ。 まぁ小粒ではあるなぁー。 でも安心して楽しめる連作短編には仕上がってると思う。この手の作品が好きな方には十分お勧め。 (ある意味名人芸という域だと思うのだが・・・) |
No.1203 | 6点 | 湖畔に消えた婚約者- エド・マクベイン | 2016/02/21 17:47 |
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作者がリチャード・マーステン名義で1957年に発表した初期長編。
著名な87分署シリーズ以外の作品というのが珍しく貴重な作品。 ~婚約者とともに休暇旅行に出たフィルは、湖畔のモーテルで信じられない事件に遭遇する。深夜、人気のない隣室との壁から血が滲み出し、それと同時に別室に泊まっていた婚約者が荷物ごと消えてしまったのだ! 彼女がいたはずの部屋には他の宿泊客がおり、しかも出会ったすべての人がフィルは女性など連れていなかったと証言する・・・。いったい何が起きているのか? そして恋人はどこに消えたのか?~ 短いながら、なかなかよくまとまっている良質なサスペンス。 さすが巨匠マクベイン・・・っていう感じなのだ。 特に紹介文のとおり、謎の提示が魅力的。 モーテルどころか、街全体に漂う暗い影と謎に包まれた雰囲気・・・ 主人公であるフィルは刑事という権力ある存在なのだが、管轄外という縛りのなか苦しい戦いを強いられる。 ただしプロットはそんなに複雑なわけではなく、ひとりの女性の存在が明らかとなる中盤には大方の真相には察しがついてしまう。 この「女性」がなかなかのキャラ! 男を手玉に取り、簡単に篭絡してしまう凄腕なのだ。 伏線も最後にはきれいに回収されるし、とにかく最後までまとまりの良さが目立つ作品だった。 まとまりすぎてるところが逆に物足りなさにつながるかもしれないけど、時代性を考えれば仕方の無いところ。 そのリーダビリティを堪能すべきだろう。 評点はまァこんなもの。 (主人公を助けに来たのはいいが、なぜかヘビに噛まれて退散してしまう同僚の刑事・・・なかなかマヌケ!) |
No.1202 | 5点 | 人形式モナリザ- 森博嗣 | 2016/02/21 17:46 |
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1999年発表。
「黒猫の三角」に続くVシリーズの第二弾。 保呂草潤平、瀬在丸紅子ほかレギュラーメンバーが揃って避暑地で大活躍(!?) ~蓼科高原に建つ私設博物館「人形の館」に常設されたステージで、衆人環視のなか「乙女文楽」の演者が謎の死を遂げた。二年前に不可解な死に方をした悪魔崇拝者。その未亡人が語る「神の白い手」。美しい避暑地で起こった白日夢のような事件に瀬在丸紅子と保呂草淳平ら阿漕荘の面々が対峙する・・・。大人気Vシリーズ第二弾~ やはりS&Mシリーズとは微妙にテイストの異なるVシリーズ。 前作では、初っ端からいきなり「大技」というか「飛び道具」のような仕掛けに面食らったのだが、本作では一転してやや静かな展開。 事件自体は衆人環視のなかで起こる不可能犯罪、一種の密室殺人であり、そこは実に作者らしい。 誰も犯人足りえない状況のなかで紅子が指摘した真犯人に「アッ」と思わされることは間違いないだろう。 (観客の視線を一方に集めて別のところで・・・ってこれはマジックでよくやる手だな・・・) ただ、今回もトリック云々はプロットの本筋ではない。 「この犯罪を誰に見せたかったのか」・・・これが本作一番のメインテーマとなるのだ。 謎そのものも今までに接したことのないものだが、その真相もまた意外というか不可解(?) これが言いたかったことだとすれば、私の平凡な頭では理解不能としか言いようがない。 もともと動機へのアプローチは二の次というか、一般的な理解の範疇ではない本シリーズにしても本作はブッ飛んでいる。 紅子のキャラもまたスゴイ。 萌絵はまだ理解の範疇に入っていたけど、紅子の頭の中はもはや範疇ではない。 前作以上に彼女の心の揺れを読者は知ることになる。 (ついでに保呂草のキャラもまだまだ謎だらけだ) ただ、作品としてはどうかな? どうもボンヤリしていたというか、メリハリに欠けるというか、つかみどころのないまま終わった感が強い。 モナリザの謎と真相だけが現実的に思えた。 |
No.1201 | 6点 | 祟り火の一族- 小島正樹 | 2016/02/14 11:44 |
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2012年発表の<私立探偵・海老原>シリーズ五作目。
師匠・島田荘司をも超える(かもしれない)不可能趣味と大掛かり(すぎる)トリックの数々。 ついでにシリーズ探偵までも自ら「名探偵」と称するクドさ・・・ 本作もこの手のミステリーファンにとっては堪らない(!)作品になっているのか? ~殺したはずの女が蘇り、のっぺらぼうが林に立つ。包帯男に語り聞かせる怪談に興味を持った劇団員の明爽子は、刑事の浜中と探偵の海老原を巻き込んで捜査に乗り出した。舞台となった廃炭鉱では、連続殺人が起きていたと判明。解き明かされる真実から火に祟られた一族の宿命が浮かび上がる・・・。精緻に組み立てられた謎と驚愕の結末に感嘆必至の長編ミステリー~ 今回もかなりスゴイ・・・。 紹介文のほかにも『三本腕の男。足を動かさずに下がっていく女の幽霊。○○さんの死後目撃された池で水垢離する女性。水をかぶったかのように濡れていた遺体。』etc etc・・・ とにかく不可思議&不可能状況のオンパレード。 ここまで提示され続けると読者としても正直ついていけない状況だ。 そして海老原が示す解決編がまたスゴイ。 “島荘ばり”というより、もはや師匠を凌駕するほどの偶然とたまたまのオンパレード!! 「確かにこうなる可能性はある・・・」ということが積み重ねられていくと、もはや何がなんだか分からない・・・ような気にもなってくる。 更にどうしても気になるのがWHYの部分。 バラバラ死体についてはよくあるポ○○ビリ○○ということで理由付けがされていたが、「見立て」については結局恨みでしかないところがイタイところだ。(ネタバレっぽいけど・・・) とまぁ苦言を呈してきたのだけど、そんなことは読む前から分かってること。 もともと作者にそんな精緻なミステリーは期待していない。 大風呂敷を広げ、奇想天外と批判されてもいい、とにかくスケールの大きなミステリーを書いて欲しい・・・のだ。(多分) 伏線が明らかすぎて分かってしまう部分はあるけど、そんなことはいいじゃないか! 最後に明らかにされる真実を知ることで得られるカタルシス! これこそ本格ミステリーの醍醐味なのだから。 などと擁護してますが、でももう少しプロットは練って欲しいというのが正直なところ。 このままでは「イロモノ」で終わってしまう危険性大だし、何事も押すだけではなく、そろそろ引くことも覚えた方がよいと思う。 (何書いてるのか自分でもよく分かりませんけど・・・) |
No.1200 | 5点 | 望郷- 湊かなえ | 2016/02/14 11:43 |
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瀬戸内海に浮かぶ島、“白綱島”を舞台にした連作短篇集。
日本推理作家協会賞にも輝いた「海の星」ほか、島に生まれた人たちの島への愛と憎しみが生む幾篇の謎。 2013年発表。 ①「みかんの花」=母と妹を捨てて島を出た姉はベストセラー作家となって島へ凱旋した(!)。姉が島を出た秘密が最終章で明らかにされたとき、姉の隠された想いを知る・・・。このベストセラー作家って作者のことだろうな・・・ ②「海の星」=冒頭の紹介どおり、日本推理作家協会賞を受賞した作品。さすがにそれだけのことはある佳作。父親が行方不明になった母子家庭に足繁く通う“おっちゃん”。おっちゃんの行動の裏にはある事実が隠されていた! これも最終章で明らかに! ③「夢の国」=まさに夢の国=東京ディズニーランドのことです。確かに昔は田舎の子供たちの多くは、この「夢の国」に思いを馳せていたのだろう・・・。閉鎖的な世界に身を置く夢見る少女にとってはなおさら・・・ ④「雲の糸」=母が父を殺すという最悪の家庭に育った主人公。都会へ出た彼は人気歌手となって島へ凱旋する・・・(ってまたしても凱旋)。やっぱり人間って生まれ育った環境から多大な影響を受けるんだよね・・・。(本作のモデルってやっぱりポ○ノ・グ○フテ○だろうか?) ⑤「石の十字架」=父親が自殺し、父親の実家のある白綱島へやってきた少女。クラスでいじめに遭うなか、ひとりの少女と仲良くなるのだが、彼女も陰湿ないじめに遭っていた。そして、成長した少女が大型台風に遭遇した晩・・・ ⑥「光の航路」=これも「いじめ」を題材にした作品。小学校の教師となって故郷に帰ってきた主人公にもたらされたいじめ事件。その事件に対処するうち、同じく教師をしていた父親の過去を知ることになるのだが・・・ 以上6編。 「白綱島」のモデルは完全に広島県の因島で、作者の生まれ故郷である(とのこと)。 でも作者って故郷・因島を好きだったんだろうか? ひとつひとつの作品は人間の心の機微が描かれ、さすがに旨いとしかいいようのない作品が並んでいる。 ①や②は短篇ミステリーとしても上出来で、権威ある賞を受けるだけのことはあるのは間違いない。 でも個人的になんか好きになれないんだなぁー。 田舎と都会の対比って、このネット社会(この表現も古いけど)ではいかにも古臭いように思えてしまう。 確かに田舎のしがらみや閉鎖性は間違いないけど、ここまであけすけに書かれると、なんだか反発したくなってしまう。 それに暗すぎだろう。テーマが! 読み進めるうちにどんどん重い気分にさせられる読書だった。 (作品の質はまったく問題ありません。気分的な問題ということ) |
No.1199 | 9点 | ユダの窓- カーター・ディクスン | 2016/02/14 11:42 |
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本サイトでの書評もついに区切りの1,200冊目に到達!!
(いやぁーめでたい、メデタイ、目出度い・・・) ということで何を記念の書評にしようかちょっと前から悩んでいましたが、結果として本作をチョイスすることに。 (コレともうひとつで悩んだのだが・・・) 「三つの棺」や「火刑法廷」とならび、カーの最高傑作と名高い作品なのはもちろんだが、黄金期の本格ミステリーを代表する作品でもある。1938年発表。 最近創元文庫で刊行された新訳版で読了。 ~1月4日の夕刻、J.アンズウェルは結婚の許しを乞うため恋人メアリの父親E.ヒュームを訪ね書斎に通された。話の途中で気を失ったアンズウェルが目を覚ましたとき、密室内にいたのは胸に矢を突き立てられてこと切れていたヒュームと自分だけだった・・・。殺人の容疑者となったアンズウェルは中央刑事裁判所で裁かれることになり、HM卿が弁護に当たる。被告人の立場は圧倒的に不利、十数年ぶりに法廷に立つHM卿に勝算はあるのか?~ 今さら評するまでもない傑作。 ということで書評を終えてもよいのではないかと思えたほどの出来栄え。 他の多くの方も評価しているが、これほど秀逸なプロットはお目にかかったことがないほど。 当初は比類ないほど堅牢に立ち塞がっていた密室がHMの頭脳によりガラガラと崩れ去るカタルシス! 意外性溢れるフーダニットなど、まさに本格ミステリーのひとつの完成形だと思う。 (ちょっと褒めすぎかも?) 本作を有名にしたのはもちろん例の密室トリックなのだが、実現性云々は置いといて、とにかくそのインパクトがすごい。 「ユダの窓」というタイトルで読者の興味を惹きつけつつ、ここまでビジュアル的にも見事なトリックはないだろう。 ただ、本作のプロットの妙はそこではない。 目の前に見えている表の事件の裏側に、二重三重に仕掛けられた「作為」と、それをひとつひとつ解きほぐすHM卿の推理過程、それこそが真のメインテーマ。 終盤、HMの推理過程に沿った形で当日の時間経過表が挿入されているのだが、そこに作者の欺瞞の数々が込められているのだ。 いやいや、やはり名作に相応しい内容だし、香気すら漂っているかのような作品。 本作が後年の作家に及ぼした影響は計り知れないように思える。 これほど美しいミステリーは今後お目にかかれないかもしれない・・・そんなことを感じさせられた。 高評価なのは当然。 (巻末の四名のカーマニアによる座談会も読みどころ。) |
No.1198 | 6点 | 愚か者死すべし- 原尞 | 2016/02/07 22:42 |
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発表当初私立探偵沢崎の新シリーズ第一弾と称されたのだが、今となっては“最終譚”となってしまった感のある本作。
約九年もの歳月をかけて完成したというのはそれだけ苦心したということなのか・・・ ~大晦日の朝、私立探偵沢崎のもとを見知らぬ若い女性・伊吹啓子が訪ねてきた。銀行強盗を自首した父親の無実を証明して欲しいという。彼女を父親が拘束されている新宿署に送り届けた沢崎は、狙撃事件に遭遇してしまう。二発の銃声が轟き、一発は護送されていた啓子の父親に、もう一発は彼を庇おうとした刑事に命中した! 九年もの歳月をかけて完成した、新・沢崎シリーズ第一弾~ 年明け早々に読了したシリーズ前作「さらば長き眠り」にあまりに興奮したため、時間を置かずにとった次作。 なのだが・・・本作のプロットは作者の九年間の苦悩を表すかのような錯綜ぶり。 冒頭に起こるのは、紹介文のとおりの銃撃事件。 しかしながら、事件は次から次へと発生&展開し、沢崎も複数の事件を同時に追いかけている状態に。 一応、最後にはすべての伏線が回収され、「さすがは原尞」「さすがは本シリーズ」ということには落ち着く。 結局、「愚か者」とは誰のことを言っているのか? これが本作のメインテーマということでいいのだろう。 確かにこの人物=愚か者というのは、序盤では想像できないサプライズだしミステリーとしてのツボを押さえているのだが、如何せんこれまでの作品のような何とも言えない気品と寂寥感は感じられなかったというのが本音。 それもやはり錯綜というか、詰め込みすぎということが原因なのだろうと思う。 まぁでもそれは本シリーズに対するハードルの高さの裏返し。 普通のレベルの面白さは楽々とクリアしている。 相変わらず魅力的なキャラ(特に女性)は出てくるし、錦織警部や相良などお馴染みの脇役も登場する。(今回出番は少ないが) さあ次作が楽しみだと言いたいところなのだけど・・・ もう無理なのかな・・・。 これほどのシリーズにはなかなかお目にかかれないのになぁ・・・ (強盗に入られる銀行が実在の銀行名なのはどうなのか・・・・・・) |
No.1197 | 6点 | ザ・ポエット- マイクル・コナリー | 2016/02/07 22:41 |
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作者といえばやはりハリー・ボッシュシリーズとなるのだが、一作目のノンシリーズ作品として書かれたのが本作。
先にノンシリーズ二作目の「わが心臓の痛み」を読んでしまったので、早速一作目を手にとったというわけなのだが・・・ 1995年発表。 ~デンヴァー市警察殺人課の刑事ショーン・マカヴォイが変死した。自殺とされた兄の死に疑問を抱いた双子の弟で新聞記者であるジャック・マカヴォイは、最近全米各所で同様に殺人課の刑事が変死していることを突き止める。FBIは謎の連続殺人犯を<詩人>(ザ・ポエット)と名付けた。犯人は現場に必ず文豪エドガー・アラン・ポーの詩の一節を書き残していたからだ。FBIに同行を許されたジャックは、捜査官たちとともに正体不明の犯人を追うのだが・・・~ さすがに安定感たっぷりというか、安心して楽しめる水準には仕上がっている。 いつもながら結構な分量だし、事件は派手に目眩くような展開。 そして、終盤以降は逆転につぐ逆転というサスペンスフルな展開が待ち受けている。 この辺りはツボを押さえたプロットだなと思わされるのだが、それを「予定調和」とか「想定内」と感じる向きもあるだろう。 でも相変わらずフーダニットというか、犯人像の作り込みに旨さを感じてしまうよな・・・ 今回は被害者が全員刑事という特殊性、そしてその前に必ず“餌”となる殺人事件を起こしている! そんなのってどんな人間なんだ? って思ってると、いかにも犯人ですといわんばかりの人物が別視点で描かれる。 「こりゃ当然ミスリードだろう」と思うのだが、ではなぜこういうミスリードを仕掛けてくるのか?という疑問が湧く。 こうなると作者と読者の化かし合いだ。 そしてやっぱり最終的には黒幕の出番となるのだ。 いかにもジェットコースターミステリーと思って敬遠する方もいるかもしれないが、大波小波に乗ってとにかく楽しめる作品ではある。 中盤がちょっと冗長なのがいただけないけど、それ以外は特に欠点はない。 でも欠点がないというのが欠点かもしれない。ということでこの評点に。 (必ず登場する美女。そして必ず主人公の男性とメイクラブ・・・でも今回は割とほろ苦!) |
No.1196 | 7点 | 密室蒐集家- 大山誠一郎 | 2016/02/07 22:40 |
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時代を超越して神出鬼没な存在。その名も「密室蒐集家」。
彼を探偵役に据え、事件はもちろんすべて密室殺人事件・・・ とにかく密室に拘り抜き、ロジックを徹底的に追求した作品集。第十三回本格ミステリー大賞の受賞作! ①「柳の園」=時は1937年。夜中の音楽室で起こった不可思議な密室殺人事件を目撃した女子高生。逃げられるはずのない密室から犯人が消えたトリックとは? 本作中これが最もオーソドックスな解法っぽい。単行本当時は密室の“穴”が指摘されていたが、文庫版では改訂が施されている。 ②「少年と少女の密室」=時は1953年。東京郊外の住宅で高校生の男女の死体が発見される。しかも問題の家は刑事たちが張り込みをしているという堅牢な密室下だった! これはアリバイと密室の融合かと見せかけて、読者は見事に騙し絵を見せられることに・・・ ③「死者はなぜ落ちる」=1965年。苦心した跡が相当に伺えるプロットなのだが、やっぱりプロットのためのプロット、或いはトリックのためのトリックという側面があまりに強すぎるか? 他の方が触れていましたが、カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を彷彿させるところは確かにある。偶然性が強すぎるという指摘は仕方ないかな。 ④「理由ありの密室」=時は1985年。唯一倒叙形式で書かれていて(ただし、犯人は匿名)、他の作品とやや毛色の異なる作品。犯人が「なぜ密室をつくるか」を八つの理由に分け説明している(あとで九つに増えるのだが・・・)のが斬新。ということでWhy Do itに拘った一編。でもこんな名前の容疑者いたら疑ってしまうよなぁー ⑤「佳也子の屋根に雪ふりつむ」=最後は2001年という設定。タイトルどおりいわゆる「雪密室」テーマの作品。トリックはどこかで見たようなやつなのだが、真犯人の意外性が実に鮮やか・・・と言いたいのだが、動機に至る経緯がすべて後出しだからなぁ・・・ 以上5編。 このご時世にここまでロジックに拘り抜いたミステリーを読める幸せ! 密室トリックは出尽くしたと言われて久しいが、見せ方を工夫すればまだまだ面白いということがよく分かった。 ほぼ全ての作品に共通するのは「錯誤」を使ったトリックということ。 誰かが何かを「錯誤」したことで密室トリックが成立してしまう・・・そんな読後感。 偶然性に頼りすぎなのは百も承知で、「こう考えれば」超堅牢な密室もあっという間に瓦解してしまう! とにかく本格ファンにとっては実に楽しい読書になるはず。 (ベストはやっぱり⑤かな・・・。時代設定を変えているところに思ったほどの仕掛けがなかった点がやや割引材料) |
No.1195 | 5点 | ダブル・ダブル- エラリイ・クイーン | 2016/01/19 22:26 |
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1950年発表。
「災厄の町」「フォックス家の殺人」「十日間の不思議」に続くライツヴィル・シリーズの四作目。 「四作目」なのだが、前作から久々にライツヴィルを訪れて・・・という設定。 ~クイーンのもとへ匿名の手紙が届いた。なかにはライツヴィルのゴシップを知らせる新聞の切り抜き記事が数枚入っていた。“町の隠者”の病死、“大富豪”の自殺、“町の呑んだくれ”の失踪。この三つの事件の共通点は? 手紙の主は不敵にもクイーンに挑戦状を叩きつけてきたかのようだった。だが、懐かしの土地へ赴いた彼を待ち受けていたかのように古い童謡に憑かれて犯行を重ねる殺人鬼にクイーンもなすすべがなかった!~ 後期クイーンの作品らしいと言えばらしい・・・作品。 紹介文のとおり、エラリーへの挑戦状や一見して無関係に見える連続死がエラリーの登場後、童謡通りの「見立て殺人」という共通項が発見されるなど、本格ファンにとっては魅力的なガジェットが盛り込まれている。 かといって、それが面白さにつながっているかと問われればやや疑問符。 メインテーマはもちろんフーダニットの謎になるのだろうが、そこが今いちピンボケのような感じなのだ。 連続殺人が進んでいき、最後の最後で大ヒントが与えられ、読者も「まさか?!」と思った・・・ところで最後のドンデン返しは待ち受けている。 そこはまぁいいのだが、これって要は「○乗殺人」ってことだよね・・・ その辺りがどうも整理されてなくって、すっきりしない感じになっているのではないか。 (動機も分かるようで、どうも納得性が薄い) どちらかというと重厚な作品がつづいた時期だから、「九尾の猫」や本作でやや派手な仕掛けを込めたかったのか?? 本作のもうひとつのポイントが「リーマ」の存在。 まるで妖精のような美少女なのだが野生児。エラリーがNYの高級店で淑女に仕上げていくところはまるで「プリ○○ウーマ○」?? 完全に惚れてるのに、他の男に盗られてしまいジェラシーを感じるエラリー・・・ サイドストーリーとしてラブストーリーが書きたかったのかどうか? でもちょっと中途半端かな。 まっそれは作品全体をとおしてではあるが・・・ |
No.1194 | 7点 | 邪魔- 奥田英朗 | 2016/01/19 22:25 |
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2001年発表。
「最悪」「邪魔」「無理」と続く、作者初期の代表的シリーズ(特にシリーズ名はないが・・・)の二作目。 ~及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供二人と東京郊外の建売住宅に住む。スーパーのパート歴一年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がっていく・・・。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織り込んだ傑作!~ やっぱ達者だわ! 奥田英朗は! もう読み出したら止まらない。他にも佳作の多い作者だけど、この三部作は特にリーダビリティが半端ない。 平凡な主婦の及川恭子、最愛の妻に先立たれた刑事の九野薫、本当は臆病な不良少年の渡辺裕輔。 最初は主役級の三人の人となりが順番に語られ、静かな幕開け。 やがて三人の運命がまるで何かに導かれるようにクロスしていく刹那。 その瞬間から、まるでジェットコースターのように奈落の底へ向けて落ちていく三人・・・ 読者もハラハラしっぱなしだ! 特に酷いのが及川恭子。 小市民の典型のような生活をしていたはずの主婦のはずが、ほんのちょっとした弾みで落ちていく姿を見せ付けられる。 特にラストが何とも救いがない! あれだけ心の拠り所だった最愛の子供からも離れなくてはならなくなる・・・ああ救いがない! その後の物語は何も語られてないのだけど、どうなったのか是非とも知りたくなった。 (残された子供も本当に心配だ! って完全に物語の世界に入り込んでるな) まぁ正直なところ、「最悪」「無理」と同じようなプロットじゃないか!とも思ったのだが、それはそれで十分に楽しめる作品に仕上がっている。 時間のあるときに一気読みして、とにかくハラハラドキドキさせられることをお勧めします。 (人間の心ってなんて勝手なんだろう・・・って思っちゃうよね・・・) |
No.1193 | 5点 | 私の嫌いな探偵- 東川篤哉 | 2016/01/19 22:24 |
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依然として大好評(?)の烏賊川市シリーズ。
その第七弾にして、「はやく名探偵になりたい」に続く第二短編集がコレ。 相変わらず鵜飼と朱美のボケ=ツッコミが冴える(!)のか?? ①「死に至る全力疾走の謎」=タイトルからして何となく島田荘司の短篇「疾走する死者」を思い浮かべてしまう。恐らく作者もソレを意識してかいたのではあるマイカ? トリックも同系統だし・・・ ②「探偵が撮ってしまった画」=写真に偶然写りこんでしまったひとりの人物をめぐる大騒動(?)。いわゆる“雪密室”を扱った作品だけど、まさかこの程度のトリックで終わらせる気か? と思ってたら・・・。鵜飼の骨董品のようなアレが皮肉な結果を導くのではあるマイカ? ③「烏賊神家の一族の殺人」=これはなんとも言えないノリ・・・。烏賊のユルキャラ探偵「剣崎マイカ」が鵜飼に変わって謎を解く! トリックはなるほど・・・烏賊だけにっていう奴ではあるマイカ? ④「死者は溜め息を漏らさない」=シリーズではお馴染みの舞台“盆蔵山”で起こった転落死。調査に向かった鵜飼&明美の前に現れた怪しい男と生意気な中学生。そして中学生が見たという死者から吐かれた“溜め息”の正体とは? これもまぁー緩い話ではあるマイカ・・・ ⑤「二○四号室は燃えているか?」=これもまぁしようもないと言えばしようもない事件。プロットもかなり古臭いというか、他にネタはなかったんだろうかと思ってしまうのではあるマイカ・・・ 以上5編。 うーん。もともと軽いタッチのシリーズだけど、本作は相当ユルイ。 何とかミステリーとしてのネタを絞り出して膨らませてみました・・・っていう感じにしかとれない。 本作はいつもの鵜飼=流平のコンビではなく、朱美をサブキャラとしたのが唯一のヒットか。 とにかく最近多作すぎるのが面白さ半減の原因だろう。 もう少し骨のある本格ミステリーを望む!(無理かもしれないが・・・) (ベストは中味云々ではなく③。イカのユルキャラ探偵がとにかくツボ。再登場を求む!!) |
No.1192 | 5点 | 不安な産声- 土屋隆夫 | 2016/01/09 12:58 |
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前作「盲目の鴉」以降、九年間の沈黙を破って発表された長編。
千草検事シリーズの五作目であると同時に最終作であり、作者特有の文学的雰囲気を纏った作品。 1989年発表。 ~大手薬品メーカー社長宅の庭で、お手伝いの女性が強姦・殺害された。容疑者として医大教授の久保伸也の名があがり、犯行を自供する。名誉も地位もある男がなぜ? しかも久保にはアリバイがあり殺害動機もなければ証拠もない。担当検事・千草が見た理解を超える事件の裏に隠された衝撃の真相とは?~ 例えは悪いけど、「なんだか地上波の昼メロみたいな話だな・・・」って思ってしまった。 (フジTVで13:30からやってる奴ね) 過去に犯してしまった事件が回り回って、現在の自分に降りかかってくる運命。 運命を振りほどこうと更なる犯罪に手を染めてしまう主人公。 しかしそれは大いなる欺瞞だったのだ!!! ってプロット。昼メロっぽいでしょう? そう言ってしまうと何だか安っぽく思えてしまうのだけど、他の方が評価しているほどのめり込めなかったというのが本音。 確かにラストにはサプライズも用意されているし、全編中の2/3が主人公から千草検事への手紙という形式も斬新。 倒叙というスタイルを取ったことで、主人公の心情とシンクロし、サスペンス感を盛り上げることにも成功している。 「人工受精」というテーマもミステリーにはマッチしているだろうと思える。 でもねぇ・・・ 巻末解説者も触れているけど、1989年といえば新本格ムーブメントも一服してきた時期。 それを勘案するとどうしてもプロットの古臭さが目に付く。 もちろん本作が「動機」に拘った作品なのは分かるのだが、格調だけでは高評価しにくいのも事実。 千草検事が引退したのも・・・致し方ない感じだ。 |
No.1191 | 6点 | 十四の嘘と真実- ジェフリー・アーチャー | 2016/01/09 12:57 |
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作者の十八番・・・といえばポリティカルスリラーとツイストの効いた短編集。
ということで、これまでも数作よんできましたが、十一や十五のつぎは“十四”を読了。 2000年発表。 ①「専門家証人」=互いに無二の親友である検事と証人。しかも「専門家証人」(!)である。法廷劇も当然出来レースということになるのだろう・・・ ②「終盤戦」=チェスになぞらえたタイトルで本作中最も長い一編。富豪となった男が最も自身のことを考えてくれている者を相続人とするのだが・・・というプロット。欲に目のくらんだ兄弟と欲のない○○、っていうようなこと。 ④「犯罪は引き合う」=獄中であらゆる法律の条文を学習する男は、出所後ある犯罪に手を染める。しかも、条文を絶妙に利用した方法で・・・ということで犯罪は“引き合う”のか? ⑤「似て非なるもの」=これは皮肉の効いたなかなかの秀作。絵の才能があり母親が可愛くて仕方のない次男と、ただ只管真面目に生きてきた兄。順調に出世した兄に依存しつづけた弟に最後に強烈な一撃が打ち下ろされる!! (ざまあみろ!!) ⑥「心(臓)変わり」=南アフリカを舞台に白人と黒人の間の人種差別が巻き起こす一幕。 ⑦「偶然が多すぎる」=これも実に作者らしい一編(これも実話らしいが)。愛に溺れた女性ってやっぱり目が曇っているということかな。まぁ男も一緒だけど・・・。詐欺師ってうまいよね。 ⑨「挟み撃ち」=アイルランドとイギリス(アイルランド島北部ね)の国境にまたがって建つ家。家主はふたつの国の法律をうまく使って金儲けをしていたのだが・・・警察はそれに対して! さて! ⑩「忘れがたい週末」=結局この女性はこの男性が好きだったのか? 単なる当て馬だったのか? まあそっちだろうね。 ⑪「欲の代償」=このラストは・・・救いがないねぇ・・・。詐欺にあうくらいなら笑い話の範囲内だが、こういう結末では笑えない。でも好きな一編。 ⑭「隣の芝は・・・」=タイトルどおりで、要は他人を妬んではいけないという話。その人にはその人の本分があるということ。 以上14編。(4編は未書評) さすがにこういう短編集を書かせたら旨い! 作品ごとのレベル差はあるけど、どれもツイスト感を効かせたいかにも短篇という作りになっている。 14編中9編は実話に基づくというのも興味深い。 人間の欲や罪というのは洋の東西を問わず同じということかな。 無難といえば無難だが、やはり水準以上の評価はできる。 (個人的な好みでいえば⑤>⑦>②あたりかな。) |
No.1190 | 9点 | さらば長き眠り- 原尞 | 2016/01/09 12:56 |
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皆さま明けましておめでとうございます。(遅くなりましたが・・・)
2016年(平成28年)最初の書評はどうしようかなと熟考した結果・・・手にしたのがなぜか本作。 私立探偵沢崎シリーズの四作目にして最長の本作。 ~400日ぶりに東京に帰ってきた私立探偵沢崎を待っていたのは浮浪者の男だった。男の導きで、沢崎は元高校野球選手の魚住からの調査を請け負う。十一年前、魚住に八百長試合の誘いがあったのが発端で、彼の義姉が自殺した事件の真相を突き止めて欲しいというのだ。調査を開始した沢崎は、やがて八百長事件の背後にある驚愕の事実に突き当たる・・・。沢崎シリーズ第一期完結の渾身の大作!~ これは・・・スゴイ。 文庫版で600頁弱の大作。完成まで五年以上の歳月がかかったというのが頷ける中味。 事件の発端は十年前以上の事件なのだが、沢崎が事件に関わった途端、まるで現在進行形の事件であるかのように彼の周りに大きな“うねり”が発生する。 自殺として解決したはずの事件の裏には、複数の人間・組織の悪意や保身が隠されていた。 沢崎の孤独な調査が目眩く謎をひとつひとつ紐解いていく・・・ ひとりひとりの登場人物が実に魅力的だし、欲や保身、見栄のために犯罪に手を染めてしまうのがいかにも人間臭い。 もちろん本格ではないので、読者が謎解きを楽しむというプロットではないけれど、何重にも重ねられた事件の構造や意外性のあるラストなど、ミステリーファンにとっても十二分に満足できるストーリーだと思う。 今回は沢崎が探偵業に手を染めることになった渡辺の消息がひとつのサイドストーリーとなっている。 シリーズ当初より沢崎に付きまとう錦織刑事、そしてヤクザたち・・・彼らとの関係にも一定の結末が得られるなど、シリーズの分岐点としても重要な作品。 世評としては直木賞受賞作「私を殺した少女」の方が上なのだろうが、個人的には本作の方に魅力を感じる。 とにかく、新年から手応えのある作品に出会えたことに感謝したい。そんな気持ち。 よって、久々にこの点数。 |
No.1189 | 7点 | 下町ロケット2 ガウディ計画- 池井戸潤 | 2015/12/31 00:14 |
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2015年、そして平成27年の締めくくりは、今や“超売れっ子作家”になられた作者の最新作で。
阿部寛主演の地上波の好評も耳に新しい本作。 前作は直木賞まで受賞した代表作だけに、失敗のできない続編だが・・・ ~ロケットエンジンのバルブシステム開発により倒産の危機を乗り越えてから数年・・・。大田区の町工場・佃製作所はまたしてもピンチに陥っていた。量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発ではNASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペ話が持ち上がる。そんなとき、社長佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。しかし、実用化までの長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにリスクが大きい。苦悩の末、佃が出した決断は・・・?~ やはり今回も読み手の目頭を熱くさせる物語だった。 もはやストーリーなど紹介する必要もないのかもしれない。 いつもどおりの勧善懲悪・・・ 今回も佃航平をはじめとして佃製作所の社員たちは企業人として、熱くそしてプライドを持って仕事を全うしたし、貴船教授や日本クライン、そして佃のライバルとして登場するサヤマは見事なまでに悪人としての役割を果たしている。 あ~あ。またもやお涙頂戴の型にはまった“いい話”か・・・ って思う人も多いことだろう。 それでも引き込まれて読んでしまう。 なぜ作者の作品がつぎつぎとドラマ化され、高視聴率を稼ぎ出すのか? やっぱり、それは人の心に深く突き刺さる物語だからだろう。 特に、日頃悩んだり苦しんだり、時々いいことがあり・・・そんな小市民的な暮らしを営んでいる多くのサラリーマンたちにとっては、自分自身とシンクロするところもあるし、「そんなうまいことないよなあ」って思う気持ちもあるし・・・ とにかく、やっぱりうまい具合に引き込まれてしまう、ってことかな。 そうはいっても、違う展開や違うプロットの作品も出していかないとそろそろマズイのではないか? もはや全くミステリーとは呼べない作品ばかりになっているだけに、そろそろ初心に帰ってはどうか、っていう気もする。 でも、ついついまた手にとってしまうんだろうね。 (結局、今回のドラマも一回も見ないまま終了・・・) |
No.1188 | 6点 | 炎に絵を- 陳舜臣 | 2015/12/27 20:05 |
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直木賞作家にして歴史小説の大家でもある作者の傑作ミステリー。
前々から読もう読もうと思っていた作品。 1966年発表。 ~会社の神戸支店に転勤することになった葉村省吾は兄夫婦にある調査を依頼された。彼の父親は、辛亥革命の際に革命資金を略奪したとされているが、その汚名をはらして欲しいというのである。父親の記憶がほとんどない省吾はあまり気乗りがしなかったが、病床の兄のたっての頼みとあって事件の調査を開始する。怪しい影に命を狙われながら二転三転の末ようやくたどり着いた驚愕の真相とは? 風光明媚な港町・神戸を舞台に展開する謎また謎・・・~ なるほど、さすがに評判どおり端正に練られたミステリー・・・ そんな読後感。 典型的な「巻き込まれ型」探偵である主人公・省吾を軸として展開するミステリアスな事件の数々。 本筋である父親の汚名はらしに纏わる事件のほかに、自身の命が狙われる事件、自社の新製品に係る産業スパイなど複数の脇筋が複雑に絡み合う。 どのように一本に合流していくのか、と思いながら読み進めていた。 終盤はそれまでの若干まだるっこしい展開が一変。 激流に巻き込まれるようにスピードアップし、サプライズ感のある真相まで一直線に進んでいく。 2015年現在の目線で見ると、もちろん既視感はあるし、まぁ予想の範囲内ということにはなるのだが、発表当時はかなり衝撃的だったに違いない。 何よりもタイトルにもなっている「炎に絵を」だ。 ある人物が死の間際に放つ言葉なのだが、その意味が明らかにされるとき、人間の悪意があからさまにされる刹那! これこそが本作一番の読みどころになる。 巻末解説を読んでると、本作は作者のミステリーとしては本流ではないとのこと。 乱歩賞受賞作をはじめ、他にも食指の動く作品もありそうなので、折を見て手にとっていきたい。 さすがに名作と言われるだけのことはあるね。 (やっぱり女って怖いということが改めて再認識されるよなぁー・・・) |
No.1187 | 7点 | クリスマス・プレゼント- ジェフリー・ディーヴァー | 2015/12/27 20:05 |
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皆さまMerry Christmas!(ちょっと遅かった・・・)ということで、この時期に合わせてチョイスした本作。
作者初の短篇集という触れ込みの作品なのだが、短篇とはいえ、ディーヴァーらしい切れ味鋭い「捻り」を期待してしまう。 原題もそのものずばり“Twissted” ①「ジョナサンがいない」=不倫の男女の逢引(古い!)現場かと思いきや、妻が殺し屋に夫殺しを依頼する現場だった・・・。 ③「サービス料として」=精神に異常を感じた女性が通う精神科、そしてセラピスト。やがて起こるその女性による夫殺しなのだが・・・真相は?? ④「ビューティフル」=すべての男性を虜にするほどの美貌を持つスーパーモデル。その女性の悩みは「美しすぎること」。ストーカー被害に悩まされる彼女がとった意外すぎる撃退法とは? ⑤「身代わり」=不倫に興じている夫の殺害を通りすがりのたくましい男に依頼する妻。その肉体の虜になった男は夫殺しを引き受けるのだが、意外な結末が・・・って基本的なプロットは結構似てる。 ⑥「見解」=刑事と犯罪者。この関係もディーヴァーにかかると意外な結末に持っていかれる! まっでも普通かな。 ⑦「三角関係」=これは見事に騙された。他の方も高評価を与えているとおりの良作。後から読んでみると、確かにはっきり書いてないよなぁ・・・ ⑨「釣り日和」=これはなかなかブラック。無邪気な子供とブラックさがいいコントラストになっている。 ⑩「ノクターン」=これは“いい話”系の一編。甘いような気はするが・・・ ⑪「被包含犯罪」=法廷もの。これも最後のツイスト勝負の一編。ちょっと分かりにくいけど・・・ ⑫「宛名のないカード」=超猜疑心の強い夫が織り成す“悲劇”。こんな捻れた男がやたら登場するなぁ・・・ ⑬「クリスマス・プレゼント」=本作唯一の作者の大看板“リンカーン・ライム”もの。娘の取り越し苦労で終わったかに思えた失踪事件が意外な展開に・・・。短編でもサプライズを味わわせてくれる。 ⑮「パインクリークの未亡人」=これも短篇らしく、「実は・・・でした」というツイスト感溢れる一編。 ⑯「ひざまずく兵士」=ストーカー被害に悩まされる父娘。父親はついに相手の男を殺してしまうのだが、実は・・・っていうやつ。 以上16編。 短編でもディーヴァーはディーヴァーだったということ。 原題どおりにツイスト感を十二分に味わうことができる作品が目白押し。 是非第二短編集も手に取りたい・・・そう思わせる作品集に仕上がっている。 ある意味短編のお手本かもしれない。 (個人的ベストは⑦かな。⑤や⑥、⑬なども高評価。短評してない作品はちょっと感心しない) |
No.1186 | 6点 | Y列車の悲劇- 阿井渉介 | 2015/12/27 20:03 |
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1991年発表の長編。
警視庁捜査一課・牛深警部を主人公とする「列車シリーズ」の第四作。 “不可能犯罪”てんこ盛りがウリのシリーズ作品。 ~上り寝台特急「はやぶさ」のA寝台車の個室で、女性の惨殺死体が発見され、残りの乗客全員は走行中の列車から消えた。そして有名俳優の声を使った脅迫電話と呼応してつぎつぎと姿を現すのは乗客の死体! 不可解な事件が女流脚本家のシナリオのとおりに動いていることが判明したとき、謎はさらに混迷の度を深める!~ 相変わらず重い雰囲気を纏った・・・っていうか重苦しい雰囲気を纏った作品。 本作はTVドラマのシナリオどおりに殺人事件が行われるという、一種の「見立て殺人」のガジェットが取り入れられているのだが、その昔「特捜最前線」(懐かしい!)のシナリオも書いていたという、いかにも作者らしいプロット。 (「Y列車」もいったいなに?と思ってたけど、そういうことね・・・) 今回の最大の「不可能」は寝台特急の個室車両から六人の乗客が忽然と消えたという謎。 身元が判明した二人は殺害された姿で発見されるのだが、残りの乗客はなかなか発見されない・・・ まぁこのトリックに関しては・・・実に現実的! 島荘的な豪腕トリックではなく、現実的に考えればこうだろうという解放に落ち着いている。 (牛深が最初からこれを思い付かないということが問題ではあるが・・・) フーダニットについてはもったいぶりすぎ!! 本シリーズを読んでいる読者なら中途で気付くはず! この登場人物が犯人に違いないと!! もともとフーダニットにはあまり重きを置いていないシリーズなのだが、これはちょっとヒントありすぎだろう。 トリック重視の本格ミステリーと警察小説のハイブリッド、という意味では先進的ともいえる本シリーズ。 人間として、日本人として考えさせられる動機や背景・・・ もう少し評判になっても良かったのではと思うのだが・・・。 ただ本作はちょっと落ちるかな。 |