皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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E-BANKERさん |
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| 平均点: 6.00点 | 書評数: 1862件 |
| No.1222 | 6点 | ラスト・ワルツ- 柳広司 | 2016/04/19 21:28 |
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| 結城中佐率いるスパイ組織「D機関」の活躍を描く好評シリーズ。
「ジョーカーゲーム」「ダブルジョーカー」「パラダイス・ロスト」につづく第四弾。 なのだが、タイトルからしてこれで打ち止め・・・っていうわけじゃないようね・・・ ①「ワルキューレ」=独ソ不可侵条約が締結され、日本とドイツの関係が怪しくなってきた時局が背景。ベルリンの映画撮影所内で起こるスパイゲームがテーマなのだが、いったい何重の騙し合いが演じられているのか? 現実と虚構の格差に付いていくのがやっと、っていう感じだ。 ②「舞踏会の夜」=奔放に生きてきた侯爵家の三女が唯一ときめいたのは、暴漢たちから救い出してくれた礼装の紳士・・・。ということで、舞踏会ごとに男の姿を追い求める女性なんていうと主題はなに?と思ってしまうのだが、そこはやはりスパイが出てくるわけで・・・。結局礼装の紳士の正体はアノ人なんだよね。 ③「パンドラ」=文庫版では書き下ろしの本作が追加編入されているのがお得。D機関とは若干のつながりしかないのだが、ロンドンで起こった密室殺人事件がテーマ。本作中では異色の本格ミステリー(?) ④「アジア・エクスプレス」=往年の鉄道ファンには垂涎の存在ともいえる満鉄の「超特急・あじあ号」を舞台に起きるスパイゲーム。久しぶりに登場した瀬戸の活躍が満喫できる一編。原点回帰したかのようなオーソドックスなスパイ小説。 以上4編。 さすがにシリーズ化、映画化までされただけのことはある。 それだけの安定感というか、劣化しない秀逸なプロットの面白さを感じる四編。 今回は、日独伊三国同盟~独ソ不可侵条約といった大戦前の緊張感高まる時代という舞台設定も効いている。 相変わらず影で存在感を見せつける結城中佐がスゴイ。 作者もいいキャラクター創ったよなぁー シリーズは是非続けて欲しい。続編に期待! (どれもなかなかの水準だが、敢えていえば原点回帰の④かな) |
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| No.1221 | 5点 | フレンチ警部と毒蛇の謎- F・W・クロフツ | 2016/04/19 21:27 |
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| クロフツ最後の未訳作品として話題となった本作。
1938年発表で作者として二十二番目の長編となる作品。 原題は“Antidote to Venom”ということで日本語訳すれば『解毒剤』ということかな? ~サリッジは英国第二の動物園で園長を務めている。申し分ない地位に就いてはいるが、博打で首は回らず、夫婦仲は崩壊寸前、ふと愛人に走る始末で老い先短い叔母の財産に起死回生の望みを託す。その叔母がいよいよ他界し、遺言状の検認がすめば晴れて遺産が手に入ると思いきや・・・。目算の狂ったサリッジは、悪事に加担する道を選ぶ。良心の呵責を別にすれば事はうまく運んでいた。フレンチという主席警部が横槍を入れるまでは・・・~ 作品中の殆どが動物園長を務めるサリッジの視点で書かれており、フレンチ視点の章は数えるほど。 要は倒叙形式のミステリーということなのだが・・・ 中盤までは彼が犯罪に手を染めるまでの過程が順に語られるとともに、伏線めいた材料がいろいろと撒かれていく。 彼と彼を犯罪に巻き込んだ共犯者の目論見が見事にはまり、検死審問で事故死という結論が出るが、フレンチ警部が登場するや否や、あっという間に形勢逆転。ふたりの夢は泡のように消えてしまう・・・ 粗筋を短くまとめるとこんな感じ。 計画がうまくいき、まとまった金が手に入ったことで、幸せをつかむはずだったはずのサリッジが、被害者となった老学者の影と罪の意識に悩まされ、徐々に追い込まれていくさま。 この辺りが本作の読みどころとなるのだろうが、印象的なラストと相俟って、作者の宗教観みたいなものが表れている。 倒叙形式というと、犯罪者たる主人公の心といかにシンクロできるかが面白さの鍵となるのだろうけど、作者はさすがにその辺りのツボは心得ている。 ただ「クロイドン」と比べると、やっぱり弱いかな。 他の方も書かれているとおり、本作の場合、主人公=実行犯ではないため、探偵役(=フレンチ)に自らが考え抜いたトリックを崩されるというカタルシスを味わえないことで、そこがどうしても弱くなっているのだと思う。 毒蛇をトリックと絡めてうまい具合に使っているのは感心したんだけど、犯罪計画を崩していく過程もちょっと安直かなと思うし、その辺のプロットがもう少し練られていたら、もう一段面白い作品になったのだろうと感じる。 評価としては可もなく不可もなくというところ。 (こういう男の心情ってイギリス人も日本人も一緒なんだなぁ・・・憐れ!) |
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| No.1220 | 5点 | 仮面病棟- 知念実希人 | 2016/04/19 21:26 |
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| 2014年発表。
2011年の「福山ばらのまちミステリー文学新人賞」受賞の作者が贈る五作目の作品。 作者は現役の医師(よく書ける時間あるよなぁー)。 ~療養型病院に強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。事件に巻き込まれた外科医・速水秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る・・・。閉ざされた病院で繰り広げられる究極の心理戦。そして迎える衝撃の結末とは? 現役医師が描く一気読み必至の本格ミステリー×医療サスペンス~ 「怒涛のドンデン返し!」という惹句を付けるほどか? と問われると、それほどではないと答えるしかない。 新聞の欄外広告でしつこいほど宣伝されていた本作なので、とりあえず読んでみるかと手に取った次第なのだけど・・・ まぁ結果は予想通りだった。 “病院に隠された秘密”については、犯人籠城が始まった瞬間から大凡の察しはついてしまう。 でもこれは恐らく作者の「撒き餌」なのだろう。 本来のポイントはラストに判明する真実・・・のはず。 でもこれも・・・かなり予想の範疇。 他の方もご指摘のとおりなのだが、少しでもミステリー好きを名乗る方なら気付くに違いない程度のサプライズ。 書き方もまだまだ稚拙さが目立つ。 イタズラに長くするのが良いとは思わないけど、前半からあまりにもトントン拍子でことが進みすぎ! 読者はもはや見え見えの決まった道筋を辿っていくだけ・・・という感じになってしまう。 主人公の速水医師もなぁ・・・結構イタイ奴になってるし。 ということで版元がここまで大々的に宣伝するほどのものではないという評価に落ち着いてしまう。 次作に期待! (解説の法月綸太郎が指摘しているのは、東野圭吾の「仮面○○殺人事件」の影響ってことだろうな・・・) |
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| No.1219 | 6点 | 生ける屍の死- 山口雅也 | 2016/04/13 20:31 |
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| 1989年発表。
作者のデビュー長編であるとともに、ミステリー史上に残るエポック・メイキング的作品となった一冊。 前々から読もう読もうと思っていた作品を、今回やっと読了したのだが・・・ ~米・ニューイングランドの片田舎で死者が相次いでよみがえった! この怪現象のなか、霊園経営者一族のうえに殺人者の魔の手が迫る! 死んだはずの人間が生き返ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか? 自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるのか? 作者会心の長編第一作~ なるほど・・・こういうプロットだったのか・・・ ようやく作品が終わりに近づいたところで、作者の大いなる企みに気付かされた! そんな感覚。 とにかく終盤までは、「(作者は)一体何が言いたいのか?」全然分からない感じだったのだ。 死んでも死なない(?)という超特殊な設定下で起こる連続殺人事件。 ましてや探偵さえも死人なのだから・・・ この冗談のような設定にも意味はあったのだ! でもまぁよくも理屈付けできたよなぁー あくまでも「死者が死者でない」という特殊設定だからこそのロジック&トリック。 動機もまさかそんな遠大なものだとは・・・ でも長いよなぁ・・・ 正直なところ、中盤はかなりキツイ! かなり多めの登場人物だし、似たような名前が多いし・・・途切れとぎれで読んでると、何がなんだか分からなくなってくる。 でも、特殊設定のミステリーという意味ではエポックメイクなのは間違いない。 本作にカタストロフィを味わう読者もいることだろう(いるか?) 評価はこんなもの。 |
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| No.1218 | 7点 | ママは何でも知っている- ジェームズ・ヤッフェ | 2016/04/13 20:30 |
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| 1952年より《EQMM》誌に断続的に発表された作品を本邦でまとめた連作短篇集。
ユダヤ系アメリカ人の「ブロンクスのママ」を探偵役とするシリーズ。 「安楽椅子型探偵」の代表例という評価は今さらという感じですが・・・ ①「ママは何でも知っている」=シリーズの端緒を飾る一編。息子が持ち込んだのは、場末の二流ホテルで起こった娼婦の殺人事件。“被害者の女がルージュをひいていなかった”という事実から、ママは意外な真相を暴き出す! アリバイは結局あまり関係なし。 ②「ママは賭ける」=あるレストランで起こった毒殺事件。被害者が飲んだスープに毒を入れるチャンスがあったのは、あるひとりの人物だけなのだが・・・ママは別の人物を指摘する。人の心理に基づいたひと捻りが秀逸な一編。 ③「ママの春」=夫に死に別れたママに、やもめの上司を紹介しようよする息子。そんな微笑ましい光景から始まる一編なのだが、これもある人物の心理に関してのママの推理が面白い。確かにこういう「見栄」って誰もが持ってる心理なのだろう・・・ ④「ママが泣いた」=父親に死なれた子供が親代わりとしたのは父親の弟。その弟が子供に突き落とされ死んでしま・・・ったかに思えた事件。事件が起こる前に子供が結んでいった父親にまつわるモノに推理のヒントが隠されていた。 ⑤「ママは祈る」=最愛の妻に死なれ、大学教授の職も追われた男に掛けられた殺人の嫌疑。状況証拠は男に圧倒的に不利なのだが、ママは息子の話をもとに意外な犯人を指摘する。 ⑥「ママ、アリアを唱う」=オペラマニアの男性ふたりの間で起こった殺人事件。これも②と同様、あるひとりの人物しか毒を入れることができなかったという状況がテーマの作品。こちらの方がプロットとしては上。 ⑦「ママと呪いのミンクコート」=手放したくなかったミンクのコートには前の持ち主の怨念が籠っていた?としか思えない事件が起こる。当たり前として捉えている事実・事象を疑ってかかるのが本作に共通するプロット。 ⑧「ママは憶えている」=ラストは死に別れたママの夫にまつわる過去の事件がテーマ。過去の事件の顛末を語るうちに、現在進行形の事件までも解決してしまう。ユダヤ教やユダヤ人に詳しければ、真相は自ずと導き出される。 以上8編。 巻末解説で法月氏が触れているとおり、本作は「隅の老人」や「黒蜘蛛後家会」など著名な安楽椅子型探偵シリーズにひけをとらない名シリーズ。 それより、個人的にはどうしても都筑氏の「退職刑事」シリーズを想起してしまう。 (子供である刑事が探偵役である親に事件の内容語るというのが丸カブりだものね) ①~⑧のいずれもこの人物しか犯人たる人はいないという状況下で、ママは警察の推理を反証し、真相を導き出すというプロット。 特別トリッキーでも切れ味が鋭いわけでもないが、とにかく安定感抜群! 動機や事件の背景をとおして、人の弱さや痛みを訴え、弱者の気持ちに寄り添うという姿勢が窺えるのもよい。 評判どおりの佳作という評価で間違いなし。 (毒殺を扱った②と⑥が個人的に双璧。①も意外によい) |
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| No.1217 | 4点 | ノエル: -a story of stories-- 道尾秀介 | 2016/04/13 20:29 |
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| 2012年発表のノンシリーズ長編。
三つの物語が紡ぎ出す独特の旋律・・・といった雰囲気の作品。 ~孤独と暴力に耐える日々のなか、級友の弥生から絵本作りに誘われた中学生の圭介。妹の誕生に複雑な思いを抱きつつ、主人公と会話するように童話の続きを書き始める小学生の莉子。妻に先立たれ、生きる意味を見失いながらボランティアで読み聞かせをする元教師の与沢。三人が紡いだ自分だけの<物語>は、哀しい現実を飛び越えていく・・・。最高の技巧に驚愕必至、傑作長編ミステリー~ 紹介文には長編とうたっているが、世界観を共有しつつ緩やかにつながった三つのストーリーから成り立っている。 いわゆる連作短篇といっても差し支えない構成。 紹介文にはミステリーとうたっているが、これは本当にミステリーなのか? どう読んでもファンタジー小説としか取れなかったのだが・・・ (謎の提示もなく、何かを解き明かしたわけでもなく、サスペンス的な展開もないのだから・・・) まぁそれは置いといて・・・ 本作で作者は何を言いたかったのか、何を伝えたかったのか? 「生きる喜び」なのか「人生というものの素晴らしさ、不思議さ」なのか? 哀しい現実に耐えている三人の主人公が、自分が創造した物語をとおして、確かな“何か”を得ていく・・・ う~ん どうもありきたりのような気がしてならんなぁ・・・ 三人ともそれほど不幸じゃないし、最終的にはハッピーになってるし・・・ やっぱり中途半端だ。 作者のことだから、当然うまくまとめているのだけど、正直なところ消化不良気味。 もう少し捻りや奥行きのある作品かと思っていたのだが・・・ やや期待はずれ。 |
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| No.1216 | 5点 | そして医師も死す- D・M・ディヴァイン | 2016/04/02 00:35 |
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| 1962年発表。
「兄の殺人者」に続いて発表された作者の第二長編。 原題は“doctor also die”とそのまんま・・・ ~診療所の共同経営者ヘンダーソンが不慮の死を遂げて二か月がたった。医師のターナーは、その死が過失によるものではなく、何者かが仕組んで事故に見せかけた可能性を市長のハケットから指摘される。もし他殺であるなら、かなり緻密に練られた犯行と思われた。ヘンダーソンに恨みや嫌悪を抱く者は少なくなかったが、機会と動機を兼ね備えた者は自ずと限られてくる。未亡人ともども最有力の容疑者と目されたターナーは独自の調査を始める・・・~ いつものディヴァイン節だが・・・ 名作の誉れ高い前作(「兄の殺人者」)や後の著作に比べると、出来としてはイマイチかな、と感じた。 ごく限られた世界(いわゆるクローズド・サークルだな)で展開する物語、奇をてらったトリックや複雑なプロットは全くないシンプルな謎解き、類まれなる人物描写の技・・・etc 本作でも作者の強みはいかんなく発揮されてはいる。 されてはいるのだが、何ともまだるっこしい・・・ 主人公のアラン・ターナーがこれまたとびっきりの優柔不断ぶり。 二人の美女に挟まれて、行ったり来たりしながら、事件の調査にも真剣になったり、投げ出したり・・・ と思うと、残り二十頁ほどになってようやく真相に思い当たるのだ。 確かに「論理の穴」をめぐる推理は旨いし、それなりの納得性はある。 あるのだけど・・・今さらそれに気付くか? という気がしてしまうのは私だけだろうか? 解説の大矢氏も書いているとおり、非常にトラディショナルな純英国風ミステリー。 こういう奴が好きな人には堪らないのかもしれない。 個人的にディヴァイン自体は決して嫌いではないのだが、本作はあまり評価できなかった。 (皮肉の効いたラストがやや印象に残った・・・) |
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| No.1215 | 6点 | 玉村警部補の災難- 海堂尊 | 2016/04/02 00:34 |
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| 「ナイチンゲールの沈黙」などに登場した警察庁の“デジタル・ハウンドドック(電子猟犬)”こと加納警視正と、警視正にこき使われる哀れな中年刑事・玉村警部補のコンビが贈る連作短篇集。
要は、最近はやりの「スピンオフ」ってやつだ。 2012年発表。 ①「東京都二十三区内外殺人事件」=東京都と神奈川県の境界線付近で発見された不審な死体をめぐるお話。日本においては正確に機能している監察医制度が東京二十三区にしかないという、作者が従来より主張している内容がテーマ。白鳥とふたりして○○をエッチラオッチラ運ぶ田口の姿を想像すると可笑しい・・・ ②「青空迷宮」=桜宮のサクラTVの名物番組で起こった殺人事件。巨大迷路という密室の中で誰も殺せたはずのないところに死体が・・・っていうと実にまともなミステリーっぽいが、本当にミステリーなのである。ロジックで犯人を追い詰める加納が強烈。 ③「四兆七千億分の一の憂鬱」=DNA鑑定がテーマの作品なのだが、この数字はDNA鑑定で同じ型が登場する可能性を表している(とのこと)。これも完璧と思えたトリックを無理矢理崩す加納と、それに付き合わされる玉村が強烈。 ④「エナメルの証言」=やくざの焼死体なら、歯型さえ一致すれば解剖されない・・・という司法の悪癖を付いた問題作!っていう感じか。これも「死因不明社会」に警鐘を鳴らす作者らしい作品と言える。まるでアーティストのような“坊や”のキャラがなかなか良い。 以上4編。 何だかはしゃぎ過ぎのような作品集。 いつものように「桜宮サーガ」の登場人物たちが大暴れするのだが、今回は主に「死因」にスポットを当てた作品が並んでいる。 そして数々の事件の捜査に当たるのが、デジタル・ハウンドドック=加納警視正! (普通警視正は直接捜査に当たらないよなぁー) 相変わらず独特のリズム感ある展開とプロットで読者をグイグイ引っ張る。 はしゃいではいるものの、時折専門的な話を出し、単なるエンタメ小説ではないことを主張する。 旨いもんです。 小粋な短篇集いっちょ上がり!!・・・っていう感じかな。 (ベストは①だろうが、④も捨て難い) |
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| No.1214 | 6点 | その鏡は嘘をつく- 薬丸岳 | 2016/04/02 00:33 |
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| 連作短篇集「刑事のまなざし」に登場した東池袋署・夏目刑事。
忌まわしい過去を持ちながら、刑事として人間として真正面から事件と対峙する男。 そんな夏目刑事を探偵役とした初の、そして続編としての長編作品。 2013年発表。 ~鏡ばかりの部屋で発見されたエリート医師の遺体。自殺とされたその死を、切れ者と評判の検事・志藤は他殺と疑う。その頃、東池袋署の刑事・夏目は同日現場近くで起こった不可解な集団暴行事件を調べていた。事件の鍵を握るのは未来を捨てた青年と予備校の女性講師。人間の心の奥底に光を当てる、作者ならではのミステリー~ 実に作者らしいテーマの作品。 デビュー作「天使のナイフ」以来、事件の背景や動機に拘った作品を上梓し続けている作者だが、本作でも重いテーマをぶつけてきた。 “医師となる宿命を背負った若者たち”の苦悩と痛み・・・これこそが本作で提示された「現実」。 他人を命を預かるという重い責任を負うのが医師という職業のはずなのだが、現実はさにあらず・・・ということなのだろう。 冒頭から複数のストーリーラインが進行していく展開。 主役である夏目のほかに、本作ではもうひとりエリート検事の志藤が登場し、ふたりの捜査が別々に触れられる。 それらがどう絡み合っていくのかがプロットの主軸。 殺人事件と暴行事件、三人の予備校生と女性講師、冤罪の痴漢事件・・・ ばらばらに見えた幾つもの事実がひとつに収斂していくとともに、目を背けたくなるような背徳の事実が浮かび上がってくるのだ。 この辺りは作者の十八番ともいえる技だろう。 すでに地上波ドラマ化もされた本シリーズ。 それはやはり夏目の魅力に負うところが大きい。 本作と同時期に連作短篇集「刑事の約束」も発表されており、そちらも手に取る予定。 出来としては正直なところ前作のほうが上だと思うが、こちらも読み応えはあり。 (被害者の行動はかなりちぐはぐで理解し難いのと思うのだが・・・) |
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| No.1213 | 4点 | マーチ博士の四人の息子- ブリジット・オベール | 2016/03/22 21:32 |
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| 1992年発表。
作者はフランスの女流作家で、本作を含めて四作の長編小説を著している。 で、本作がデビュー作に当たる(とのこと)。 ~医者のマーチ博士の広壮な館に住みこむメイドのジニーは、ある日たいへんな日記を発見した。書き手は生まれながらの殺人狂で、幼い頃から快楽のための殺人を繰り返してきたと告白していた。そして自分はマーチ博士の四人の息子・・・クラーク、ジャック、マーク、スターク、の中のひとりであり、殺人の衝動は強まるばかりであると! フランスの新星オベールのトリッキーなデビュー作~ 前々から気になっていた作品を読了したわけだが・・・ 紹介文ほど魅力的な作品ではなかった。 そんな読後感。 全編つうじて、『殺人鬼』と称する男(=マーチ博士の四人の息子のうちのひとり)とメイドのジニーが書き付けを通してやりとりするという展開。 「書き付け」や「手紙」ベースのミステリーというと、どうしても叙述系のトリックが仕掛けられているのだろうという先入観になってしまう。 そういった目線で読みすすめたわけなのだが・・・ 如何せん途中の展開がまだるっこし過ぎ!! ふたりのやり取りを通じて徐々にサスペンス感を盛り上げてるのだろうとは思うが、ここまで重ねられるとちょっとゲンナリ。 ラストの“ひっくり返し”はなかなか綺麗に決まっているだけに、そこが惜しいという感想になる。 ただ、「帯」のコメント(「驚愕保証のサプライズ・ミステリ!!」)は煽り過ぎだろう。 正直、そこまでではない。 ということで、書店で本作を手にして買おうか迷ってるのなら・・・あまりお勧めはしません。 (でもまぁそれは個人的な感想ですから・・・。人それぞれだとは思います) |
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| No.1212 | 7点 | 探偵ガリレオ- 東野圭吾 | 2016/03/22 21:31 |
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| 1996年より「オール讀物」誌に断続的に発表され、1998年に単行本化された連作短篇集。
などという紹介はもはや不要だろう。 「実に面白い!」という台詞をカッコ良く決める福山雅治の姿がすぐに目に浮かぶ天下の「ガリレオシリーズ」の記念すべき第一作目。 今さらながら手にとってみた次第・・・ ①「燃える」=突然人間の頭が燃え上がる・・・そんな不可思議な現象を扱ったシリーズ第一作目(地上波でも第一話だったよね)。湯川と草薙の名コンビが生まれた瞬間でもあるわけで・・・。 ②「転写る(うつる)」=ゴミの浮かんだ汚れた池から上がった金属製のデスマスク。いったいどうやったらこんな精巧なデスマスクができるのか? 事件の真相自体は小粒なのだが・・・ ③「壊死る(くさる)」=どうやって死んだのか分からない死体が風呂場で発見される。事件の渦中にはある女性と、その女性を一心に慕う男性が・・・っていうと「容疑者X」のパイロット版だろうか、などと考えてしまう。 ④「爆ぜる(=はぜる)」=湘南の海で突如として上がった火柱と別の現場で起きた殺人事件が結びつくとき・・・。爆発の原因はある化学物質なのだが、事件の背景には理系の男たちの現実があった・・・ ⑤「離脱る(=ぬける)」=見えるはずのない赤い車を見た少年。夢うつつの状態だった少年は本当に幽体離脱したのか? 苦手とする子供を相手に奮闘するガリレオの姿っていうと「真夏の方程式」に通じるけど・・・ 以上5編。 もはや書評するに及ばないような超有名作となった本作。 理系云々ということは作中で草薙刑事が再三言っているけど、あまりそういうことは気にならなかった。 これもまた端正な本格ミステリーと称してよいだろう。 作者の作品についてはこれまで「加賀恭一郎シリーズ」を中心に読んできたのだが、人間臭さを前面に押し出した「加賀シリーズ」ととにかく“科学的・ロジカル”に拘った本シリーズは好対照という感じだ。 どちらのシリーズもそつなくうまい具合に処理してしまう東野圭吾! やはりさすが!としか言いようがない。 「天才」という評価に相応しい作品。 (個人的には④が好き。あとは①かな) |
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| No.1211 | 5点 | 伊藤博文邸の怪事件- 岡田秀文 | 2016/03/22 21:29 |
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| 「本能寺六夜物語」や「太閤暗殺」など歴史小説で有名な作者が初めて著したミステリー。
月輪龍太郎を探偵役とするシリーズの一作目でもある本作。 2013年発表。 ~明治十七年、伊藤博文邸の新入り書生となった杉山潤之介の手記を小説家の「私」は偶然手に入れた。そこに書かれていたのは、邸を襲った恐るべき密室殺人事件の顛末だった。奇妙な住人たちに、伊藤公のスキャンダル・・・。不穏な邸の空気に戸惑いつつも、潤之介は相部屋の書生・月輪龍太郎とともに推理を繰り広げる。本格ミステリーの傑作、シリーズ第一弾!~ 確かに本格ミステリーとしての体裁は十分に整えている。 そういう読後感だった。 作者の本業とも言える歴史小説を背景に、密室殺人に終盤にアッと驚くサプライズ(○○○りトリックなのだが)など、本格ミステリーのガジェットを組み込んでいるのだ。 「歴史小説」部分に関してはさすが。 どこまでがフィクションでどこまでが史実なのかは分からないけど、伊藤博文を中心として維新の熱気冷めやらぬ明治時代中期という魅力的な設定。明治憲法草案に係る歴史的背景など、歴史好きの私にとってもなかなか興味深く読ませていただいた。 (津田うめや川上貞奴に関してはううーん?!だけど) 問題はミステリー部分なのだが・・・ まず「密室」はまったくもっていただけない。 この程度でお茶を濁すのであれば、最初から密室、密室と煽らない方がよいと感じた。 終盤のサプライズについてはさすがに驚かされた。 シリーズ第一弾でのこの手の“仕掛け”は別作品で読んだばかりなんだけど、一定の破壊力はある。 (森博嗣のアノ作品!) ただトータルとしてはどうかな・・・。ちょっと微妙な感じはする。 盛り上げ方が下手ということかもしれないけど、本業ではないから致し方ないかなという気もする。 要はちょっと中途半端ということなのだろう。 |
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| No.1210 | 5点 | 赤い列車の悲劇- 阿井渉介 | 2016/03/13 16:36 |
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| 1991年発表の「不可能犯罪シリーズ」七作目。
本作では牛深警部とコンビを組む“天敵”松島刑事が一切登場しない・・・というのが珍しい。 ~嵐の朝、岐阜・富山両県にまたがる神岡鉄道を走る「おくひだ一号」の運転士は、あるべき場所に駅がなく、線路まで消えていることに驚く。一方、終着駅の駅員は列車が乗客とともに消失したことを知らされる。だが、駅・線路・乗客・車両の四重消失は不可解極まる事件の発端でしかなかった。犯人からはビデオテープを全国のTVで放送せとの奇妙な要求が!~ 列車を舞台とした壮大なトリックと社会派的背景のミックスが特徴の本シリーズ。 走行中の列車から車両が一両だけ消えた前々作「列車消失」や、一車両の乗客が全員消えた前作「Y列車の悲劇」など、とにかく「無理だろう・・・」という不可能を可能に変えてきたシリーズなのだが・・・ 本作は何と、①駅②線路③乗客④車両、の四重消失というスケールのデカさ! 何もここまでやらなくても・・・と思わざるを得ないのだけど、ミステリー好きならやはり期待してしまう設定。 でもこれはなぁ・・・ 敢えて「動機」や「背景」の問題には触れないけれど、ひとことで言えばズバリ「絵空事」だ。 事件に関わった人数でいうと過去最大級ではないか? トリックの説明は相当あっさり片付けられてるし、そもそも人間の五感ってそこまで鈍感ではないだろう。 (走行中の列車を○○して、○○するなんて、あまりにも荒唐無稽ではないか?) 「動機」には触れないって書いたけど撤回。 この動機は理解不能だし、これでは壮大なトリックの必然性がまるでないことになる。 シリーズものは回を追うごとにスケールアップしていくのかもしれないけど、リアリティも大事だよなぁー これは本格ミステリーというよりは一種のファンタジーなのかもしれない。 最終章で牛深警部と真犯人が酒を酌み交わすシーンがあるのだが、要はこれが書きたかったのかな、作者は。 いずれにしても高い評価はできない。 |
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| No.1209 | 4点 | カーテンの陰の死- ポール・アルテ | 2016/03/13 16:35 |
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| 「第四の扉」「死が招く」につづく<ツイスト博士シリーズ>の三作目。
本作でも敬愛するJ.Dカーばりの不可能犯罪がテーマ(と思われる)。 1989年発表。 ~頭皮を剥いだ刺殺体が発見された。殺人現場に偶然居合わせたマージョリーは、犯人と同じ服装をした謎の人物が自分の下宿に入っていくのを目撃する。この下宿屋には曰くのありそうな人物たちが住み着いていた。変人のピアニスト、若い新聞記者、自称作家、酒浸りの老医師、盲目の元美容師・・・。続けて住人がカーテンで仕切られた密室状態の玄関で、背中にナイフを突き立てられ殺害されるに及び、ハースト警部とツイスト博士が捜査に乗り出すが、状況は七十五年前に起きた迷宮入り事件とそっくり同じだった・・・~ 何かどうもバランスの悪さが目に付く作品だった。 他の方もご指摘のとおり、一作目・二作目よりも明らかに出来は劣っている。 (生憎次作以降未読のため、シリーズ通して劣後しているのかは不明だが・・・) 誰にもできたはずのない殺人や頭皮を剥がされた死体など、今回も作者らしい展開は健在。 なかでも二番目の密室殺人が本作のメインなのだろう。 しかし、この密室トリックが相当ビミョー、というかかなり適当! 見取り図入りで示された殺人現場は、誰も侵入不可能&脱出不可能という状況。 どんなトリックなのかと思いきや、まさかの○○とは!! これって、もしかしてカーのあの有名トリックからのインスパイアなのだろうか?? 確かにビジュアルで言えば似てなくもないのだけど・・・でもあまりにも出来が違いすぎる! 他の二つの殺人の動機も問題。 動機は二の次なのはいいのだけど、ここまでリアリティがないのは如何だろうか。 などなど、突っ込みどころは尽きない。 まぁよい。シリーズもの書いていれば、作品ごとの出来不出来は当然起こる。 次作以降に期待というふうに寛大に捉えておこう。 (エピローグの付け方は工夫の跡が窺える。まさに因果応報っていうことだよね・・・) |
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| No.1208 | 6点 | 教場- 長岡弘樹 | 2016/03/13 16:34 |
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| 希望に燃え警察学校初任科第九十八期短期過程に入校した生徒たち。彼らを待ち受けていたのは、冷厳な白髪教官・風間公親だった!
2013年発表。その年の「週刊文春ミステリーベストテン」国内部門第一位に選ばれた作品。 短篇ミステリーの新たな旗手が贈る連作短篇集。 ①「職質」=主人公は教師という職を捨て、警察学校へ入校した宮坂。恩義のある警察官の息子・平田を常に気にかける宮坂だったが、思わぬ事態に巻き込まれる。そして、風間との出会いが・・・ ②「牢間」=主人公は楠本しのぶ。そう女性警官を目指す女性。優秀なデザイナーだった彼女が警官を目指すのには大きな理由があった・・・。その理由に大きく関係する一枚の写真の欺瞞について、風間がある指摘を・・・ ③「蟻穴」=主人公は白バイ警官を志す男・鳥羽。隣り部屋の稲辺と心通わすようになった鳥羽だが、ある事件の際ついた一つの嘘が稲辺を苦しめることになる。それはやがて自身への報復という形で帰ってくることに・・・ ④「調達」=主人公は元ボクサーの日下部。三十歳を超え警官を目指す彼にとっては、良い成績で卒業する必要に迫られていた。そんなさなか、年下の樫村とコンビで警備担当をすることになったが、あらぬ疑いをかけられることに・・・ ⑤「異物」=主人公は四輪の運転技術が随一の男・由良。一匹狼をきどり、決して他人に与しない彼には過去に起因する苦手なものがあった。それが黄色いある「異物」・・・。ここでの風間はかなりいい人。 ⑥「背水」=主人公は本作で唯一冒頭から登場していた生徒・都築。生徒総代を目指す彼に突然訪れた体調の変化。卒業文集の委員になった彼の下には①~⑤の主人公たちの文章が集まってきた。それを読んだ風間が放つ言葉に・・・ 以上6編。 「警察学校」というのは意表をついた舞台。 世間から隔絶されたある種異様な世界と、そこが似つかわしい異様な人物・風間。 警官を目指す若者たちの屈折した心理と、それを元に巻き起こる事件・・・ やはり新たな短編の名手という冠に偽りはなし。 確かに旨い。でも、何か足りない気がするのは私だけか・・・ それが何かはよく分からないのだけど、横山秀夫との比較ではやはり一枚も二枚も劣る、というのが感想。(まぁ当然かもしれないが) 好評を受けてパートⅡが出版されたとのことで、とりあえず続編は手に取るだろうな・・・ (他の方も書いてたけど、確かに「ジョーカー・ゲーム」シリーズと雰囲気が何となく似ている感はする) |
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| No.1207 | 6点 | 宰領- 今野敏 | 2016/03/05 20:48 |
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| 警視庁大森署署長・竜崎伸也を主人公とする「隠蔽捜査」シリーズ最新作。
シリーズも本作で第五弾ということで、作者を代表する人気シリーズといっても過言ではないだろう。 2013年発表。 ~衆議院議員が行方不明になっている。伊丹刑事部長にそう告げられた。牛丸真造は与党の実力者である。やがて、大森署管内で運転手の他殺体が発見され、牛丸を誘拐したと警察に電話が入る。発信地が神奈川県内ということで、警視庁・神奈川県警の合同捜査が決定。指揮を命じられたのは一介の署長にすぎない竜崎伸也だった。反目するふたつの組織、難航する事件の筋読み。解決の成否は竜崎に委ねられた!~ “今回も竜崎にブレなし”・・・まさにその言葉がピッタリハマる。 シリーズも五作目に入ったのだが、ますます竜崎のキャラクターに磨きがかかったような印象すら覚えた。 本作では、今や多くの人が知るところとなった警視庁と神奈川県警の冷戦状態が舞台。 さすがの竜崎もやりにくいに違いない・・・と思いきや。 ますます冴え渡るロジカルシンキング! っていう感じなのだ。 もはや私にとって本シリーズはミステリーでも警察小説でもなく、ビジネス書またはハウツー本なのかもしれない。 組織に生きる人間としてどう振舞うべきか。 サラリーマンとして日々過ごしている者にとっては毎日頭を痛めることも多いと思う。 きっと多くの方がネガティブな感情を持ちながらも、組織のしがらみに縛られた窮屈な普段に身をやつしているのだろう。 かくいう私もそう。 部下はきっと見ているのだろうなぁー。そして優柔不断な上司の姿に幻滅しているのかもしれない。 もちろん現実は小説のようにうまくはいかないけれど、たまには竜崎のように原理原則を貫く、格好いい上司でありたい。 そんなことを考えさせられた一冊。 ミステリーとしてはそれほど複雑なプロットがあるわけでもなく、ラストのドンデン返しもやや唐突感はあり。 「果断」にも登場したSATの下村隊長が今回もいい仕事をしているし、伊丹や野間崎も相変わらず。 とにかくシリーズファンにとっては必読なのは間違いなし。次作も期待大。 (邦彦もよかったね・・・) |
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| No.1206 | 6点 | 幽霊列車- 赤川次郎 | 2016/03/05 20:47 |
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| 1978年発表。警視庁捜査一課勤務、40歳でやもめの刑事と美しい(?)女子大生コンビが主役を務める連作短篇集。
特に表題作は作者がミステリー作家となるきっかけともなった重要な作品。 今回、文春文庫で復刊された版で読了。 ①「幽霊列車」=シリーズ一作目という記念碑に相応しい一編。走る列車から八人の乗客が忽然と消えてしまった謎がメインテーマなのだが、ユーモア風味とは異なり真相はなかなかブラック。長らくコンビとなる二人の出会いという意味でも重要な作品。 ②「裏切られた誘拐」=“誘拐”テーマのミステリーもいろいろと目にしたけれど、本作に類似したプロットはお目にかかったことはないなぁー。物事を一面だけから見てはいけない・・・という教訓でしょうか? でもこれって真犯人の自己負担も大きいけど! ③「凍りついた太陽」=バカンスに訪れた避暑地で二人が遭遇する殺人事件なのだが、死因は何と「凍死」! ホテルの大型冷蔵庫が現場だと判明したものの、そこには二重三重のドンデン返しがあった! ④「ところにより、雨」=雨でもないのにレインコートを付け、傘を持っている死体! これが連続殺人事件の被害者の共通項・・・というのが本編の謎。これも逆説的発想が事件解決の鍵となるのだが、設定の無理矢理感はともかくプロットは面白い。 ⑤「善人村の村祭り」=これも結構ブラックな一編。正月休みで二人が訪れた“善人村”が舞台となるのだが、村人は名前のとおりみんな善人なのだが、なぜか奇妙な出来事が続き、やがては大事件に遭遇することに・・・。どこかで見たプロットではあるけど・・・ 以上5編。 さすがは赤川次郎・・・という感じだ。 冴えない中年男と美しく頭も切れる女性のコンビというと、後に出世作となった「三毛猫ホームズ」シリーズを彷彿させるけど、何とも言えないほど安定感を感じさせるし、リーダビリティも半端ない。 結構シリアスでブラックなオチもあるのだけど、読後感は全然そんなことは感じさせない軽妙さもさすが。 プロットもまずまず練られてるし、短編らしい切れ味のある作品も揃っている。 逆説的な風味もあるし、まずは水準以上の出来と評して差し支えないだろう。 とにかく楽しめる作品なのは間違いなし。 シリーズ作品も機会があれば手にしていきたい。 (ベストはやはり①だろう。次点は④かな。②もまずまず) |
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| No.1205 | 5点 | バースへの帰還- ピーター・ラヴゼイ | 2016/03/05 20:46 |
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| 1995年発表の長編。
ピーター・ダイヤモンド元警視を主人公とするシリーズでは三作目となる作品。 ~深夜、元警視のダイヤモンドはかつての職場の警察署に呼び出された。四年前、ダイヤモンドが女性ジャーナリスト殺人事件で逮捕した男マウントジョイが脱獄し、副本部長の娘を誘拐したうえ、交渉相手にダイヤモンドを指名してきたという。マウントジョイとの会見に赴いた彼は、そこで四年前の事件の再捜査を要求される。やがて埋もれていた事実がつぎつぎと・・・。英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を受賞したシリーズ会心作!~ どうも何というか・・・しっくりこなかった。 というのが率直な感想 解説者の二階堂黎人氏は本格ミステリー度の高さを本作の特徴として上げているが、どうもその辺が??なのだ。 早川文庫版で400頁を超える当たりでようやくダイヤモンドの推理が開陳されるわけだけど、真犯人については唐突感たっぷり。正直、「こんな奴いたっけ?」としか思えなかった。 伏線らしきことの指摘もあるのだけど、そこに気付くのは相当ハイレベルというか無理だろう。 では本格ミステリー以外の部分はどうかというと、それも中途半端。 警察小説的な丁寧な捜査行としての一面も備えてはいるにしてもそれがウリとまではいかない。 なによりムダな描写や箇所がどうしても目についてしまった。 これしきのプロットならこれほどの分量は必要なかったのではないか? どうも感覚的な評価ばかりで、ミステリー的側面にふれてない気はするけど、如何せん冗長さを感じた次第。 他の方の評価が割と高いので気は引けるけど、これは「合うor合わない」の問題だろう。 もちろん著名な賞の受賞作だけあって、達者な筆致&表現力だし、ダイヤモンドとジュリー警部(女性)のかけあいの面白さもある。 でもまあ評点はこんなもんかな。 (これに懲りず他作品も読むつもり・・・) |
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| No.1204 | 6点 | グランドマンション- 折原一 | 2016/02/21 17:48 |
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| 2013年発表の連作短篇集。
(単行本化に当たって、「リセット」「エピローグ」の新章を加え、長編or連作形式にまとめたとのこと・・・) 「グランドマンション1号館」という集合住宅を舞台に相変わらずの折原ワールド全開となるのか?? ①「音の正体」=子供の跳ね回る音や赤ちゃんの泣き声etc・・・上階の騒音に悩まされる独り身の男。折原作品によく出てくるちょっと精神の歪んだ独身男なのだが、その男が右往左往した結果行き着いたところは・・・最後に反転! ②「304号室の女」=過去の折原に似たようなタイトルの短編があったけど、それとはちょっとテイストの異なるもの(過去のはホラー風味だったような・・・)。まっ、でもたいしたことはない。 ③「善意の第三者」=本作の主要登場人物のひとりとなる「民生委員を務める男=高田英治」が繰り広げるドタバタ劇の一編。いかにも折原らしいラストのツイスト感・・・っていう感じだ。 ④「時の穴」=急に密室殺人(じゃなくて密室窃盗)がテーマとなる一編。しかし、変わった人物ばかりが住んでるマンションだわ。 ⑤「懐かしい声」=タイトルどおり(?)「オレオレ詐欺」がテーマとなる一編。高齢者が多く暮らす「グランドマンション1号館」でオレオレ詐欺の被害者が続出するなか、容疑者らしき若者を追い詰めたところ・・・意外や意外・・・という展開。 ⑥「心の旅路」=ここまで来て新たな登場人物に纏わる話。これは時間軸をずらすというよくある叙述の手なのだが、さすがに折原がやると手馴れている感が半端ない。 ⑦「リセット」=追加された一編。八十代も半ばを過ぎ、ついに恍惚の状態に陥った老婆。元気で矍鑠としていたはずが、毎日毎日同じ質問を住人に繰り返すハメに・・・当然そこにはある仕掛けが・・・ってそれは分かるよ! 折原好きなら! ※エピローグ=ということでラストのオチ! 以上7編+α いやいや、これは旧タイプ折原作品。 とある集合住宅を舞台に住人たちが繰り広げるドタバタ劇というと、「天井裏の散歩者~幸福荘殺人日記」(1993)を思い出してしまうけど、プロットの軸は今回も同ベクトル。 それぞれの登場人物は一人としてまともではなく、それぞれどこかねじ曲がってるわけで、彼らが勝手に動き回るストーリーを名指揮者よろしく作者が最後にまとめあげる・・・という技なのだ。 まぁ小粒ではあるなぁー。 でも安心して楽しめる連作短編には仕上がってると思う。この手の作品が好きな方には十分お勧め。 (ある意味名人芸という域だと思うのだが・・・) |
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| No.1203 | 6点 | 湖畔に消えた婚約者- エド・マクベイン | 2016/02/21 17:47 |
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| 作者がリチャード・マーステン名義で1957年に発表した初期長編。
著名な87分署シリーズ以外の作品というのが珍しく貴重な作品。 ~婚約者とともに休暇旅行に出たフィルは、湖畔のモーテルで信じられない事件に遭遇する。深夜、人気のない隣室との壁から血が滲み出し、それと同時に別室に泊まっていた婚約者が荷物ごと消えてしまったのだ! 彼女がいたはずの部屋には他の宿泊客がおり、しかも出会ったすべての人がフィルは女性など連れていなかったと証言する・・・。いったい何が起きているのか? そして恋人はどこに消えたのか?~ 短いながら、なかなかよくまとまっている良質なサスペンス。 さすが巨匠マクベイン・・・っていう感じなのだ。 特に紹介文のとおり、謎の提示が魅力的。 モーテルどころか、街全体に漂う暗い影と謎に包まれた雰囲気・・・ 主人公であるフィルは刑事という権力ある存在なのだが、管轄外という縛りのなか苦しい戦いを強いられる。 ただしプロットはそんなに複雑なわけではなく、ひとりの女性の存在が明らかとなる中盤には大方の真相には察しがついてしまう。 この「女性」がなかなかのキャラ! 男を手玉に取り、簡単に篭絡してしまう凄腕なのだ。 伏線も最後にはきれいに回収されるし、とにかく最後までまとまりの良さが目立つ作品だった。 まとまりすぎてるところが逆に物足りなさにつながるかもしれないけど、時代性を考えれば仕方の無いところ。 そのリーダビリティを堪能すべきだろう。 評点はまァこんなもの。 (主人公を助けに来たのはいいが、なぜかヘビに噛まれて退散してしまう同僚の刑事・・・なかなかマヌケ!) |
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