皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
|
---|---|
平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.1305 | 6点 | 刑事の約束- 薬丸岳 | 2016/12/31 14:04 |
---|---|---|---|
警視庁・東池袋署刑事・夏目信人を主人公とするシリーズ。2014年発表。
短篇集「刑事のまなざし」、長編「その鏡は嘘をつく」に続く三作目が本作。 今回も作者らしい重いテーマを扱っているのだが・・・ ①「無縁」=小学生が犯した犯罪。しかし、その子供は世間と隔絶された生活を送り、自身がどこの誰なのか分からなかった(!) 作者が繰り返し挑むテーマが「少年犯罪」なのだが、今回も大人の事情の犠牲となった子供が登場する。黒幕として登場するある人物は前作で「影」を見せていた人物で・・・ ②「不惑」=夏目の高校の同級生の男。彼は同窓会&結婚式の舞台で過去の「恨み」を晴らそうと画策していた(!) しかし、夏目が看過した真実は違ったものに・・・。「恩」って時には残酷だな。 ③「被疑者死亡」=刑事が追い詰めた男が、目の前で車に轢かれてしまう(!) その男の行動を追ううちに、意外な事実が浮かび上がってくる・・・。少しでも家族のために贖罪しようとしていた男の姿に涙! ④「終の住処」=認知症を患っている老婆が、日頃世話になっている介護職員を突き飛ばし、大怪我を負わせてしまう。なぜ、老婆はそんな行動を取ったのか?というテーマなのだが、この超高齢化社会ではよくある光景なのかもしれない。犯罪者を息子に持つ老婆の、母親としての愛情に涙! ⑤「刑事の約束」=①~④にも増して重いテーマである。本編は「刑事のまなざし」を先に読んでいることが前提となるので注意。「…まなざし」で夏目が救ったはずの少年に再びスポットライトが当たるのだが、少年の心には思いもつかないような闇が広がっている・・・。何とも言い様がない悲しみに涙! 以上5編。 最初書いたように、何とも「重い」「重い」テーマである。 今回も少年や老婆、元犯罪者など、社会的に弱い立場にある人々が犯罪に落ちていく様が描かれている。 そして、その犯罪を見つめるのが、夏目刑事ということになる。 人はなぜ犯罪を犯すのか、環境のせいなのか、人間性の問題なのか? どれも読者の心に強く訴えてくる作品になっている。 特にラストの⑤。ここまでヒドイ話にする必要があるのかとさえ感じてしまった。 果たして、裕馬少年に未来はあるのだろうか? フィクションながら、心配せざるを得ない、そんな気にさせられてしまった。 (続編も読むんだろうな・・・) |
No.1304 | 5点 | 四人の女- パット・マガー | 2016/12/31 14:03 |
---|---|---|---|
1950年発表。
「被害者を搜せ」や「七人のおば」など、一風変わったミステリーで知られる作者の長編作品。 原題は“Follows,as the night” ~前妻、現夫人、愛人、そしてフィアンセ・・・。人気絶頂のコラムニスト・ラリーを取り巻く四人の女性。彼は密かに自宅バルコニーの手摺に細工をしたうえで、四人を揃って招待し、ディナーパーティーを開いた。彼にはその中のひとりを殺さねばならない切実な理由があった。その夜遅く、NYはイーストリバー近くの路上に落下したのは誰か? 才人マガーがものにした傑作恋愛小説にして、「被害者探し」の新手に挑んだ傑作ミステリー~ これは・・・ミステリーじゃないな。 紹介文のとおりで、「被害者は一体誰なのか?」という魅力的な謎は存在する。 これまでも「被害者」や「目撃者」など、単純な「犯人探し」ではない趣向を凝らしてきた作者だから、本作も一筋縄ではいかないプロットなのかと身構えたのだが・・・ そういう方向性とは違ったわけだ。 ストーリーテリングはさすが。 シャノン、クレア、マギー、ディー・・・四人の女性もそれぞれが強い個性を持ち、ラリーと絡む中で、人間臭さを魅せ続ける。 中でも最初の妻であるシャノンとのパートが一番ボリュームがあり、そこにプロットの鍵があることに・・・(ネタバレっぽいが) 本作の白眉はもちろんラストの展開なんだろうけど、因果応報っていうか何というか、「人間ってやっぱりそうなんだよねぇ」っていう感想になった。 ついつい華やかなものに目を奪われがちだけど、幸せってそういうところにはないんだと言いたいんだろうか? きっとそうなんだろうな。 何だか全然ミステリー書評じゃなくなっているから、本作はやっぱり普通のミステリーとは違うんだろう。 でも「恋愛小説」っていうのも違うしなア・・・ とにかく独特の雰囲気を持つ作品ということ。 (あまり好みの方向性ではないのだが・・・) |
No.1303 | 7点 | あなたに似た人- ロアルド・ダール | 2016/12/21 23:01 |
---|---|---|---|
最近では「チャーリーとチョコレート工場」でも注目された作者。
この第一作品集も昔からかなり有名ということは知ってましたが、ミステリー風味は薄いのだろうと長らく敬遠したまま・・・で、やっと今回読了。 1948年の発表。 ①「味」=ひとこと、という実に潔いタイトルの作品だが、中身は人間のドロドロした部分がえげつなく書かれている。オチは明示されてないけど、“盗み見した”っていうことだよね? ②「おとなしい凶器」=これが“短篇ミステリーのスタンダードとしてあまりにも有名”という惹句が冠された著名作。確かに狂気の隠し場所としては実に皮肉が効いてて面白い。焼いたら臭わないしね・・・ ③「南から来た男」=これはいわゆる“最後の一撃”的プロットのやつだ。こんな無茶な賭けに乗る男も男だが・・・。 ④「兵士」=完全に理解できないけど、これもラストの一行勝負の作品だろう。途中のやり取りは正直よく分からんけど・・・ ⑤「わが愛しき妻、かわいいひとよ」=こんな風に思っていた夫も、妻の本性を知ると・・・って火を見るよりも明らか。美しいor可愛い女性ほど内面は○○○ってよくあるパターン。 ⑥「プールでひと泳ぎ」=これもよく理解できない作品なのだが、ラストの一行でニヤリとさせられるタイプのやつ。 ⑦「ギャロッピング・フォックスリー」=通勤電車で偶然向かい側の席に座った男をめぐる主人公の煩悶の話。自分の辛い過去を振り返って苦しむ主人公と、それをあざ笑うかのようなラストのオチがきれいに嵌っている。良作。 ⑧「皮膚」=刺青に関するストーリーなのだが、あまり響いてこず。 ⑨「毒」=“ヘビもの”(ってそんなジャンルあるのか?) 「だからなに?」って思った。 ⑩「願い」=なぜか続けて“ヘビもの”。「だからなに?」×2。 ⑪「首」=これは・・・。ラストは当然バジル卿が首を××するんだろう・・・って思ってたら、卿ってやさしいのね・・・。何となく作者の女性に対するスタンスが分かる一編。 以上11編。 さすがに長らく読み継がれるだけのことはあると感じた。 ミステリーという観点だけなら②以外あまり見るべきものはないかもしれないけど、どれも短編らしい、短編でしか味わえない切れ味と余韻を残す作品だと思う。 訳者あとがきで、開高健氏の解説が引用されているけど、言い得て妙。まさにシニカル! 他の作品も機会があれば読みたい。 (やはり②がベストだろう。⑦もよい。①も悪くない。他はうーん・・・) |
No.1302 | 5点 | 黒い列車の悲劇- 阿井渉介 | 2016/12/21 23:00 |
---|---|---|---|
1993年発表。
警視庁・牛深警部を探偵役とし、全十作からなる「列車シリーズ」の最終作となるのが本作。 ~トンネル内で列車が消え、犯人からの身代金要求は六億円。三陸海岸に沿って走る北リアス線の車輌が、百メートルもないトンネルに入ったままで出てこない。数分後、反対方向からやって来た車輌は、何事もなかったかのようにトンネルを抜けていった! 単線の鉄道でなぜこんなことが起こる? 牛深警部シリーズ最後の事件~ 本シリーズは個人的にも思い出深い作品が多い。 本作も発表当時読了しており、今回が再読となるが、これほど強烈な不可能趣味を前面に押し出したシリーズは他に類を見ないし、社会派的とも取れる、何とも重々しい雰囲気とのコラボレーションというのもあまり他に例がないように思う。 本作で登場する「不可能趣味」もかなり強烈。 ①(紹介文のとおり)単線のトンネル内で列車が消えたとしか思えない状況で、反対方向から来た列車が無傷で通り過ぎる謎 ②消えた列車が海の上を通るのを目撃された謎 この二つが冒頭から牛深警部の前に立ち塞がることになる。 これまでも、駅が消えたり、乗客全員が消えたり、八両連結の中の一両だけが消えたりと、とにかく「消す」ことにかけては手を変え品を変えチャレンジしてきた本シリーズ。 でも今回は過去最大級。何しろ列車そのものを消すのだから・・・ ただ、この解法が問題! このトリックはあまりにもリアリティを無視しているのではないか? 現実の鉄道車両をなにかプラレールのようなものと取り違えているのではないか。これを「机上の空論」と言わずして何と言う! としか思えないのだ。②も同様にちょっとヒドイ。 まぁ今回はトリック云々というよりは、牛深警部の暗く重い過去とシンクロさせ、発表当時話題となっていた外国人労働者の問題やら戦後の日本の闇などに焦点を当てたかったのだろう。 さすがに十作目ともなれば、トリックにも切れ味はもはや感じられないということか。これ以上シリーズが続けられなかったのも自明。 かなり辛口に書いてきたけど、本シリーズが好きで読んでいたことは事実で、こんな荒唐無稽なトリックにチャレンジするだけでも価値のあることだと思う。 小島正樹といい、作者といい、島田荘司の影響ってやっぱりスゴイと感じた次第。 (偶然、今晩「報道ステーション」で北リアス鉄道が紹介されてた。とにかく三陸鉄道の全面復旧、お祝い申し上げます。) |
No.1301 | 6点 | 武家屋敷の殺人- 小島正樹 | 2016/12/21 22:59 |
---|---|---|---|
2009年発表の<那珂邦彦>シリーズの第一作。
作者の作品はこれまで<海老原浩一>探偵もの(?)しか読んでこなかったため、本シリーズは初読となる。 他の方も触れられているとおり、『やりすぎ』ミステリー、略して『やりミス』全開! ~孤児院育ちの美女から生家を探して欲しいとの依頼を受けた弁護士・川路弘太郎。唯一の手掛かりは、二十年前の殺人事件と蘇るミイラについて書かれた異様な日記のみ。友人・那珂邦彦の助けを借りてついに生家を突き止めるが、そこは江戸時代から存続する曰くつきの屋敷だった。そして新たな殺人が・・・。謎とトリック二倍増しミステリー~ 思ったよりも「まともな」ミステリーだったというのが最初の感想。 なんでだろうと考えながら、千街氏の巻末解説を読んでいると、今回の文庫化に伴い、ノベルズ版から大幅に改稿されたことが判明。 なるほど。そのせいか・・・ 確かに以前読んだ書評で、鹿児島弁がいらない、表現が回りくどすぎ・・・etcというのを読んでいたので、その辺りは作者も意識したんだろうな。かなり読みやすくなっている。 ただし、プロットそのものは変わっていないわけで、当然「やりすぎ」は「やりすぎ」だ。 本作は死体移動や氷室が消えるなどの不可思議現象は出てくるものの、大掛かりな物理トリックというよりは、日記・手記等を目眩しとし、読者の思考のズレを誘うタイプの作品。 特に、○人○○(ネタバレ?)を効果的に使っているところはセンスを感じる。 (人間のカンを無視したこの手のトリックはどうしてもリアリティを感じないけどね・・・) ただなぁー、あまりにも詰め込みすぎているため、トリックを成立させるための舞台設定というか、材料があちこちに置かれすぎて、どうしても「とっちらかっている」印象になってしまう。 ラストに畳み掛けられているドンデン返しも、一応理由付けは成されているものの、そこまでダミー推理がいるか?という感覚にはなってしまった。 でも、それをなくしてしまうと「小島正樹でなくなる」んだろうし、難しいところだ。 いろいろな批判はあるだろうけど、とにかくこれからも「やりすぎ」に拘って、小島正樹のミステリーを追求してほしい。 一本格ファンとしてはそう思う。 |
No.1300 | 6点 | 猫とアリス- 芦原すなお | 2016/12/11 21:07 |
---|---|---|---|
「雪のマズルカ」に続き、女探偵・笹野里子を主人公としたシリーズの連作短篇集。
「青春デンデケデケデ」で直木賞を受賞した作者のハードボイルド・ミステリー。 2015年発表。 ①「青蛇」=この連作短編の“影の主役”的存在の通称「青蛇」。決して目立たない風貌ながら、恐ろしい程の柔術を扱い、簡単に人を誌に至らしめる男・・・。本編は「青蛇」と里子との出会いが語られる。 ②「クリスクロス・六本木」=六本木交差点で突如巻き起こる殺人事件。謎多き「クラブ」へ潜入捜査する里子だが、そこにはまた「青蛇」の影が・・・ ③「猫とアリス」=①②とは若干時間軸が変わり、里子の同業者であり、長編「月夜の晩に火事がいて」にも登場するふーちゃんこと、山浦歩との出会いが語られる一編。一匹の猫を介した出会いなのだが、ふたりが行き着いた先にはあの男の影が・・・っていう展開。 ④「ディオニソスの館」=今度はいかにも怪しげな新興宗教の館に潜入捜査を行う里子。大方の予想どおり捕らえられてしまうのだが、そこにまた「青蛇」が現れて・・・。ここで黒幕がついに登場! ⑤「無間奈落」=連作の最終譚らしい一編。意味深なタイトルどおり、謎の男「青蛇」の正体がついに明らかにされる。そして、彼がここまで罪を重ねる理由も詳らかにされて・・・。何とも哀しく切ないラスト。 以上5編。 芦原すなおというと、どうしても「青春・・・」や「ミミズクとオリーブ」シリーズのような、ほのぼのした話を連想してしまうのだが、このシリーズだけは別。 何ともダークでドライ、そして虚無的な雰囲気をまとった作品。 (さすがに達者だね) 女ハードボイルドの主人公として描かれる里子の造形も、魅力的なのだが、何とも孤独で幸薄い感じ。 レギュラー的位置づけの登場人物も実に人間臭く、いい塩梅にアウトローだ。 前作「雪のマズルカ」はあまりパッとしない印象だったのだが、それと比較して本作は格段に面白かった。 それもこれも「青蛇」のおかげかも。 なかなか筋の通った連作に仕上がっていると思う。 続編にも期待。 |
No.1299 | 10点 | 64(ロクヨン)- 横山秀夫 | 2016/12/11 21:06 |
---|---|---|---|
乱読も積もりに積もって、ついに1,300冊目の書評となる今回。
(いつも薄っぺらい書評で申し訳ないのだが・・・) ということで、満を辞してセレクトしたのが、今年映画化もされた横山秀夫久々の長編。 2012年に発表され、その年の「このミス」第一位にも選ばれた大作。 ~元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官・三上義信。記者クラブとの匿名問題で揉めるなか、<昭和64年>に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。だが被害者遺族からは拒絶され、刑事部からは猛反発をくらう。そして視察前日、最大の危機に瀕したD県警を更に揺るがす事件が起きる! 驚愕、怒涛の展開、感涙の結末。ミステリー界を席巻した著者の渾身作~ とにかく、もう、何ていうか、「圧倒的な筆力」(!) 一言で表現するなら、それに尽きる。ひとつひとつの台詞や行間までもが読者の心にビシバシ伝わってくる感覚。 これは作家・横山秀夫のひとつの到達点であり、日本の警察小説史上最大級の傑作といっても差し支えない。 (あくまでも私見ですが・・・) 物語は冒頭から終章まで、主人公・三上広報官の「葛藤」が描かれる。 一人娘が失踪したことへの「葛藤」、妻とのギクシャクした関係に対する「葛藤」、記者クラブとの軋轢に対する「葛藤」、キャリア上司や警察組織の矛盾に対する「葛藤」、そして自分の身の上や広報室の部下との関係に対する「葛藤」・・・・・・ 横山作品ではデフォルト的に描かれる警察組織内の争い。 本作でも強烈に描かれてるし、三上もそこに最大の「葛藤」や「悩み」を抱くことになる。 以前の作品でも書いたように思うけど、作者の作品って、もはやミステリーの枠組みを超越して組織論の話に近い。 如何にして「上」は組織を掌握するのか、当然ながらそのためには「人事権」を最大限利用しなければならない・・・etc 同じく組織の中で生きている私にとっても実に身につまされる話の数々・・・って感じだ。 今回はラストが実にミステリーっぽく、伏線まで鮮やかに回収してくれる。 あの人物のあの言葉、あの行動が最後になって繋がっていくのだ。この辺りもさすが! 他の方も触れているとおり、D県警といえばあの「二渡参事官」を重要な役柄で再登場させているのがニクイ。 とにかく、これは我が国ミステリー界の財産といっても過言ではないのではないか? それほどの傑作だと感じた。当然評価は満点しかない。 (『警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。・・・大半は日の当たらない縁の下の力持ちの仕事。・・・それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持を持って職務を果たさねばこんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。広報室には広報室の矜持があります!』・・・今回この言葉が一番響いた) |
No.1298 | 7点 | あなたは誰?- ヘレン・マクロイ | 2016/12/11 21:04 |
---|---|---|---|
精神科医ベイジル・ウィリングを探偵役とするシリーズとしては四作目に当たる長編。
原題は“Who's Calling”ということで、直訳すれば「(電話で)どちらさまですか?」っていう意味。 1942年発表。 ~『ウィロウ・スプリングには行くな』。匿名の電話の警告を無視して、フリーダは婚約者の実家へ向かったが、到着早々何者かが彼女の部屋を荒らす事件が起きる。不穏な空気のなか、隣人の上院議員邸で開かれたパーティーでついに殺人事件が・・・。検事局顧問の精神科医ウィリング博士は、一連の事件にはポルターガイストの行動の特徴が見られると指摘する。本格ミステリーの巨匠マクロイの初期傑作~ 『ポルターガイスト』とは、いわゆる心霊現象の一種で、そこにいる誰ひとりとして手を触れていないのに、物体の移動、物を叩く音の発生、発光、発火などが繰り返し起こるとされる通常では説明のつかない現象。 (By ウィキペディア) ・・・だそうだ。 いかにもウィリング博士ものらしいテーマだなという感想。 これまでも本シリーズでは、精神医学の専門知識を駆使したプロットがよく出てくるけど、本作も同様。 ポルターガイスト以外にも、中盤で出てくるドゥードゥル実験(テレパシーのようなものか?)も非常に興味深く拝読した。 でも、今回のプロットのまとまりは他作品との比較でも上位だろう。 田舎町の仲良しの二家族。そこに波風を巻き起こす闖入者がふたり・・・闖入者とともに不可思議な事件が頻発し、ついに発生する殺人事件・・・という具合なのだが、ひとつの事象をきっかけに、ガラガラと音を立てるように真実が姿を現す刹那。 「表」から見ている形も、角度を変えてみればまったく違うように見える、ということなのだ。 見えていた姿をずらして真実を明らかにするというプロットはクリスティも旨いが、作者もかなりのもの。 今回は初期作品ということで、サスペンス的脚色は薄く、純粋な本格ミステリーとして楽しめる内容だ。 フーダニットの興味も最後まで引っ張ってくれるし、まずは上質なミステリーと言えるのではないか。 個人的には有名作の「幽霊の2/3」や「殺す者と殺される者」よりは上という評価。 |
No.1297 | 5点 | アリバイ崩し- 鮎川哲也 | 2016/12/03 20:38 |
---|---|---|---|
光文社編集による作品集。
タイトルどおり、テーマはまさに「アリバイ崩し」・・・というわけで作者の名人芸が堪能できるかどうか? ①「北の女」=“古川”って出てきた段階で、あのことかなぁーと思っていたらやっぱりそうだった。アリバイトリックそのものはそれほど高度ではないけど、電話やメモの使い方なんかはさすがと思わせる。 ②「汚点」=舞台が仙台というのが珍しいなぁと思っていたら、やっぱり理由があったのね・・・。一応列車を使ったアリバイトリックが登場するけど、時刻表云々ではなくてアリバイトリックの王道のようなヤツ。タイトルが最後になって効いてくるのが旨い。 ③「下着泥棒」=これは・・・どうかなぁー。下着泥棒に間違われた哀れな新聞記者が巻き込まれる事件を扱っているのだが、これもある小道具がアリバイトリックの鍵となっている。でも普通警察は気付くだろ! ④「霧の湖」=ロマンチックなタイトルだけど、真相解明につながる理由が温泉に纏るある事実にあるところはややいただけない。フーダニットも自明すぎ。 ⑤「夜の疑惑」=これだけは中編といえるボリューム。それだけにプロットには工夫が凝らされていて、真犯人が用いた欺瞞もなかなか複雑。逆に言えばここまで複雑にする理由がよく分からないということになる。他の方も触れているが、ラストがなかなかの衝撃。「悪女だねぇ・・・」 以上5編。 アリバイ崩しとはいえ、鬼貫警部シリーズではないので、時刻表が登場するタイプではない。 場所の錯誤や時間の錯誤などを用いた、まさにアリバイトリックの正道が使われている。 ただ・・・地味だね。 短篇には切れ味が必須だと考えているわたしにとっては、ちょっと食い足りない作品集だった。 好意的にとれば、よくまとまっているとは言えるし、さすがの名人芸ではある。 評価はこんなもんだろう。 (一応⑤がベストかな。他はあまり差はない) |
No.1296 | 4点 | 薔薇の輪- クリスチアナ・ブランド | 2016/12/03 20:37 |
---|---|---|---|
1977年といえば作者最晩年というべき頃の作品。
「猫とねずみ」(1950)以来となるチャッキー警部を探偵役とする長編。 ~ロンドンの女優エステラ。彼女の絶大な人気は娘ドロレスとの交流を綴った新聞の連載エッセイに支えられていた。体が不自由でウェールズに住んでいるという愛しのあの子。夫のアルはシカゴの大物ギャングで、妊娠中のエステラに暴力をふるった危険人物だが服役中。しかしアルが病気のため特赦で出所し、死ぬ前にどうしても娘に会いたいと言い出してから・・・。そしてついに勃発した怪事件に挑むチャッキー警部~ これは・・・面白いか? もしかしたら訳のせいかもしれないけど、作者らしからぬ“薄っぺらい”作品のように思えた。 ブランドといえば重厚な本格ミステリーというイメージを持っていたけど、本作のプロットは何とも頼りない。 殺人事件というよりは、エステラの娘(スイートハート)が存在するか否かという謎を最後まで引っ張っているのだけど、正直なところ長編を支えるほどの軸にはなっていない。 しかもその真相も想定内ときてる。 これでは大作家の名が泣くのではないか? 電話を使ったアリバイトリックは、当時の最新なのかもしれないけど、どうにもこうにもピンとこない。 (イギリス国内の話だから当たり前か?) それと一番気になったのは、人物描写の薄っぺらさだ。 ギャングのボスとして登場するアルなんて、まるでコントのような造形ではないか? その他の人物も如何せん感情移入できないしなぁー さすがに大作家ブランドも寄る年波には勝てなかったということだろうか。 かなり酷評になってしまったけど、最近読んだ作品の中では最低ランクに近い。 やっぱり40~50年代の作品が黄金期ということだろう。 |
No.1295 | 5点 | 輝天炎上- 海堂尊 | 2016/12/03 20:36 |
---|---|---|---|
2013年発表。
「チームバチスタの栄光」以降、綿々と続くシリーズの到達点とも言える作品。 ~桜宮市の終末医療を担っていた碧翠院桜宮病院の炎上事件から一年後、東城大学の劣等医学生・天馬は課題で「日本の死因究明制度」を調べることに。同級生の冷泉と取材を重ねるうち、制度の矛盾に気付き始める。同じ頃、桜宮一族の生き残りが活動を始めていた。東城大学への復讐を果たすために・・・。天馬は東城大学の危機を救えるのか? シリーズ史上最大の因縁がいま解き明かされる!~ 本作は、碧翠院事件の顛末について語った「螺鈿迷宮」の続編的位置づけの作品。 「螺鈿・・・」で主役を張った劣等生・天馬が再び本作では主人公&視点人物として成長した姿を読者に晒すこととなる。 前作で死んだはずのすみれ・小百合のふたりの生死が本作のプロットの軸となっている。 (結局すみれの方は実体なのか或いは・・・?) 本作は同様に「ケルベロスの肖像」(既読)の裏表となる作品ということにもなっている。 「ケルベロス・・・」では物語の終盤、突如として天馬やら桜宮一族らが姿を見せるのだが、その理由と背景が本作では語られることとなる。 ただし、作者の言いたいことは、死因究明社会であり、それを実現可能とするAiの導入ということは相変わらず。 既存勢力VS新興勢力の争いが今回も繰り返されることになる。 毎回思うけど、この海堂ワールドはスゴイよね。 本作でも他作品に登場した人物が数多く再登場。 他作品で触れられたアノことやアノことが、実は伏線でありこういうところに繋がっているという箇所がそこかしこ! この世界観の構築だけでも作者のスゴさが分かろうというものだ。 本作はどうだって? まぁ良いではないですか。 伏線に気付くだけでも本作を読む価値はありでしょう。 でも本作を最初に読むことはお勧めしません。順番に読んでこそのシリーズ。 |
No.1294 | 6点 | 夏を殺す少女- アンドレアス・グルーバー | 2016/11/23 13:37 |
---|---|---|---|
2009年発表。
作者はオーストリア・ウィーン出身の中堅作家。本作はドイツ国内で人気を博した模様・・・ ~酔った元小児科医がマンホールにはまって死亡。市会議員が山道を運転中にエアバックが作動し運転を誤り死亡。どちらもつまらない案件のはずだった。事故の現場にひとりの娘の姿がなければ。片方の案件を担当していた先輩弁護士が謎の死を遂げていなければ。一見無関係な出来事の奥に潜むただならぬ気配。弁護士エヴェリーンは次第に事件に深入りしていく。一方ライプチヒ警察のヴォルターは病院での少女の不審死を調べていた。オーストリアの弁護士とドイツの刑事、ふたりの軌跡が出会うとき、事件がその恐るべき真の姿を現し始める・・・~ 計算し尽くされたプロット・・・と言っていいと思う。 確かに既視感はある。 BSやCSでよくやってるミステリーorサスペンスもののような雰囲気、と評すればいいんだろうか。 でもまあ悪い意味ではなく、十分に引き込まれたし、達者な作家だなという印象ではあった。 紹介文のとおり、物語はオーストリアの女弁護士とドイツの刑事、ふたりの視点から交互に語られる。 それぞれの事件が奥深い展開を見せ始め、やがて事件の鍵は北ドイツの田舎町にあることが分かる・・・ ミステリー的にあまり捻りはなく、終盤のサプライズもそれほどの衝撃度はない。 謎にも大凡の決着が付けられた終盤以降、弁護士と刑事はまさにピンチの連続。 読者もハラハラさせられながら、やがて訪れるハッピーエンド・・・ という具合。 まアサスペンスの基本を押さえながら、上質なエンタメ小説に仕上げましたということだ。 手練の読者には不満もあるかもしれないけど、まずまず楽しめるレベルにはある。 ヒロイン役の弁護士エヴェリーンのキャラもまずまず。 何よりかつて行ったことのあるオーストリアやドイツの風景が描かれてるのがよかった。 お国柄かもしれないけど、実に生真面目なミステリーって感じだね。 |
No.1293 | 6点 | 噂の女- 奥田英朗 | 2016/11/23 13:36 |
---|---|---|---|
2012年発表。連作仕立ての長編というべきなのか、どうなのか?
~『侮ったらそれが恐ろしい女で』。高校まではごく地味。短大時代に潜在能力を開花させる。手練手管と肉体を使い、事務員を振り出しに玉の輿婚を成し遂げ、高級クラブのママにまでのし上がった、糸井美幸。彼女の道行にはいつも黒い噂がつきまとい・・・~ ①「中古車販売店の女」=糸井美幸の振り出しは国道沿いの中古車販売店の事務員から。中古車の不備に難癖をつけにくるグループと所長のやり取りが物悲しい・・・ ②「麻雀荘の女」=続いては雀荘で働き始めた美幸と彼女に引き寄せられるブルーカラーの男たち。男たちの真打として、ある土建屋の若社長が颯爽と登場し・・・。 ③「料理教室の女」=結婚前に料理教室に通い始めた女性三人。やれ公務員やら年収が低い旦那やら、田舎の結婚事情はこんな感じなんだね・・・。それを尻目にますますのし上がる美幸。 ④「マンションの女」=なんと美幸はいつの間にか、六十代の資産家の男と再婚していた! 財産目当てと疑う男の子供たちなのだが、交渉役として駆り出された婿は見事、彼女の手練手管の犠牲者に・・・ ⑤「パチンコの女」=失業給付をいいことにパチンコに精を出す独身女ふたり。そんな女たちに絡んでいく美幸。それにはある謀略がありそうな雲行きなのだが・・・ ⑥「柳ケ瀬の女」=“柳ケ瀬”といえば岐阜を代表する繁華街である。そんな柳ケ瀬に高級クラブを開店した美幸。そして資産家の男はなんと! ⑦「和服の女」=公共工事が生命線の田舎の土建屋グループ。そして田舎のしがらみを断ち切ろうとする、二代目の若手経営者。そこにも何と美幸の「毒手」が・・・(スゴイ女だ!) ⑧「檀家の女」=寺の客殿建替えで檀家に法外なお布施を要求する二代目の住職。お布施の減額を求める檀家を代表することとなった不幸な男。何とそこにも美幸の影が・・・。いつも負けるジャンケンにひたすら爆笑!! ⑨「内偵の女」=ついに美幸に追求の手が! と思われたのだが、地方の警察内部のゴタゴタやらしがらみでやる気をなくす若手刑事・・・トホホだな。 ⑩「スカイツリーの女」=ワカメ酒を飲まされる議員秘書(女)の姿に涙!! 以上10編(というべきかどうか) 相変わらずの旨さです。 「最悪」「邪魔」「無理」の三部作でも地方で暮らすことのしがらみを面白おかしく書いてきたが、本作でも全開!! なんていうか、小市民というのか、読んでて悲しくなって、最後には笑ってしまうというのか、とにかく旨いのである。 作品の雰囲気は全然違うのだが、美幸視点から決して語られないというプロットは、東野圭吾の「白夜行」を彷彿させるところがある。 って褒めすぎだろうか? でもまあ十分楽しめる作品。そういうこと! |
No.1292 | 5点 | ドミノ倒し- 貫井徳郎 | 2016/11/23 13:34 |
---|---|---|---|
2013年発表のノンシリーズ長編。
よく訪れる書店で“店員オススメ”のポップが付けられた作品なのだが・・・ ~地方都市・月影市で探偵業を営む十村は、亡くなった元恋人の妹から「殺人事件の容疑者となっている男の無実を証明して欲しい」と依頼される。久し振りの依頼に十村は旧友の警察署長も巻き込んで癖のある月影市の住人たちを相手に早速調査に着手する。しかし、調査を進めていくうちに過去に月影市で起きた別の未解決事件との奇妙な共通点が見つかり、さらに別の殺人事件との繋がりも浮かび上がる。ドミノ倒しのように真実を追えば追うほど異様に広がっていく事件。その真相に迫るとき、恐るべき結末が待ち受ける!~ タイトルや紹介文のとおりなのだが、ひとつの事件がやがて多くの事件に繋がっていく・・・ というプロットの作品。 これだけ取り出せば、特に本作オリジナルというわけではなく、過去にも似たようなプロットはあったと思う。 (タイトルは思い出せないが・・・) じゃあ何が本作のオリジナルかというと・・・ これはネタバレとなる。 でもちょっと安易だよなアー 広げに広げたプロットをとにかく強引に回収しました、と言わんばかりの結末。 ロジックやトリックというミステリーのガジェットからは程遠い解決方法ではないか? ここまでブッ飛ぶなら、なぜこういうブッ飛んだことになったのか、せめて理由付けは納得感が欲しかった。 (一応「狂気」ということでいいんだろうか?) 一人称ハードボイルド風の世界観も違和感ありあり。 警察署長のキャラも練り込み不足かな。 もともと正統派ミステリーの書き手ではないから、こういう強引な変化球を投げなきゃいけないんだろうな。 でもこんな変化球は誰も空振りしないと思うんだけどね。 何か、フォアボールで終了、って感じだった。 |
No.1291 | 5点 | 大癋見警部の事件簿- 深水黎一郎 | 2016/11/13 21:17 |
---|---|---|---|
「ジャーロ」誌に随時掲載されたものを単行本化に当たって大幅に加筆修正した作品集(とのこと)。
“芸術探偵シリーズ”に登場する大癋見警部を主役としたスピンオフ作品。 2014年発表。 ①「国連施設での殺人」=<ノックスの十戒>の第五項が問題となる作品・・・っていうか初っ端からこれかよ!ってツッコミしか思い浮かばない。なんでノルウェー人? ②「耶蘇生誕節の夜の殺人」=一応アリバイがテーマとなる一編なのだが、当然まともなトリックではない。 ③「現場の見取り図」=ふざけすぎにも程がある! ○○なんて名前あるか!(っていうツッコミすら虚しい) ④「迷走経路の謎」=これは・・・叙述トリックということなのでしょうか?(全く意味ないけど・・・) ⑤「名もなき登場人物たち」=これはなかなか爆笑(!?) レッドヘリングの極地! ⑥「図像学と変形ダイニングメッセージ」=<ヴァン・ダインの二十則>に突入。ダイニングメッセージがテーマではあるが、相変わらずボケ倒す。 ⑦「テトドロトキシン連続殺人事件」=いわゆる「後期クイーン問題」が俎上に上げられる一編。とにかく刑事たちが可哀想・・・ ⑧「この中のひとりが・・・」=CC(クローズド・サークル)の極地。全員に配られた飲み物のなかでひとりだけが毒殺される謎! あれやこれやと弄り回した結論が・・・ ⑨「宇宙航空研究開発機構(JAXA)での殺人」=完璧な密室殺人を扱った一編。理系ミステリーを標榜しているが・・・全然分からん! ⑩「薔薇は語る」=「見立て」殺人テーマなのだが、このアイデアはなかなか秀逸・・・なわけないだろ!! ⑪「青森キリストの墓殺人事件」=ラストまできてトラベルミステリーとは・・・。 以上11編。 とにかくもう・・・ひたすら脱力! これを怒りなしに読み切るミステリー好きがいたら尊敬するなぁー でもなぁ・・・光文社もチャレンジャーだね 作者も懐が深いというべきなのか、アホというべきなのか・・・ ミステリーへの造詣の深さや愛情はそれなりに感じるんだけど・・・ これを時間の無駄と思うか思わないかは読み手のあなた次第だな。 |
No.1290 | 5点 | 写楽百面相- 泡坂妻夫 | 2016/11/13 21:16 |
---|---|---|---|
1993年発表。
私個人が読んだ「写楽」に関するミステリーとしては、高橋克彦の「写楽殺人事件」・島田荘司「写楽~閉じた国の幻」に続いて三作目となったのだが・・・ ~時は寛政の改革の世の中、版元の若旦那二三(にさ)は、芸者卯兵衛の部屋で見た役者絵に魅入られる。斬新な構図、デフォルメの奇抜さ。絵師の正体を探るうちに、幕府と禁裏を揺るがす大事件が浮かび上がり・・・。芝居、黄表紙、川柳、相撲、手妻にからくりなど、江戸の文化と粋を描き、著者のすべてを注いだ傑作~ 「写楽」の正体だけにフォーカスした作品ではなく、寛政~文化・文政ころの江戸文化に焦点を当てたエンターテイメント小説、という感覚だった。 登場人物も主役として登場する二三のほか、葛飾北斎(作中いろいろな名で登場する)や蔦屋重三郎、十返舎一九、そして多くの歌舞伎役者や相撲取り、松平定信をはじめとする武士たち・・・ 正直なところ頭の中が混乱すること請け合い。 「写楽」の正体については、本作は突飛な説を唱えているわけではなく、阿波藩お抱えの絵師という現状の説で最も有力な人物だとしている。 写楽の「絵」に関してもそれほど触れているわけでなく、写楽の正体に興味・関心のある読者にとって本作はお勧めできない。 (そういう意味ではこのタイトルはあまり相応しくない気がする) でもこの頃の江戸の街って面白そうだね・・・ 島田荘司が昔の作品のなかで、よく「江戸」を理想郷とするようなことを書いていたけど、人間が実に人間臭く、生き生きしているように思える。 それを思えば、現代はもちろん技術的には飛躍的に進歩してるんだろうけど、人間そのものとしては退化しているのかもしれない。 そんなことを感じた。 「浮世絵」なんて見てると、時代を超えたパワーというか、魅力を感じるもんね。 って全然作品の書評になってないような・・・ ラストはさすがに作者らしくうまい具合にまとめてます。(一応フォローしておく) |
No.1289 | 7点 | 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー | 2016/11/13 21:15 |
---|---|---|---|
1939年に発表されたお馴染みギデオン・フェル博士を探偵役とする長編。
長らく旧約のままだった作品が東京創元社より新訳版で登場!! 当然手に取って読むべしということで・・・ ~小さな町の菓子店の商品に毒入りチョコレートボンボンが混ぜられ、死者が出るという惨事が発生した。事件を巡って村人が疑心暗鬼となるなかで、村の実業家が自ら提案した心理学的なテスト中に殺害される。透明人間のような風体の人物に緑のカプセルを口に入れられるという寸劇で、青酸を飲まされたのだ。目撃証言は当てにならないという実業家の仮説どおりに食い違う証言。事件を記録していた映画撮影機の謎。そしてフェル博士の毒殺講義。シリーズを代表する傑作ミステリー~ いやいや『さすがの出来栄え』という一言。 読後しばらくたった今だからこそこういう感想になるが、読後すぐの段階では正直「えっ?」と思うことが多かった。 密室を中心とする不可能趣味こそがJ.Dカーという先入観のせいなのか、本作の独特のプロットのせいなのか、とにかく違和感を感じさせられたわけだ。 でも、よくよく考えると、本作のスゴさが理解できてくる。 やっぱりマーカムの実験だ。 マーカムの十の質問には、作者の悪魔的な奸計が存分に込められている。 目の前で見ていたはずの三人の証言がことごとく食い違うのはなぜか? そして何より、マーカムに毒入りカプセルを飲ませた犯人は誰なのか? 三人のうちのひとりなら、どのような早業でそれがなし得たのか? etc それらの謎を見事に収束させる終章は読み応え十分。 とにかく円熟期とも言える作者のテクニックが満喫できる作品だろう。 ただ細かいところではアラというか疑問符のつくところがあるのも事実。 (最初の毒チョコ事件の方は単なる前フリだったのか?) 有名な毒殺講義も「三つの棺」で登場する密室講義と比べるとあまり響かなかった。 ということで他の有名作よりも高評価は難しいかな。 |
No.1288 | 6点 | アルファルファ作戦- 筒井康隆 | 2016/11/08 22:22 |
---|---|---|---|
1976年に発表された作品集。
中公文庫版の「帯」によると、『永遠に前衛』・・・だそうである。(まぁ確かに) ①「アルファルファ作戦」=この老人だらけの世界観というのは、発表された時代からすると先取り感があるのかも。オチはそれほど旨いとは思わないんだけどね・・・。 ②「近所迷惑」=いわゆるパラレルワールド的な一編なのだが、そこは筒井康隆だけあって、普通の作品には収まらない。アメリカ大統領夫妻まで巻き込んで、時代をまたぐドタバタ劇が展開される。(巻末解説で曽野綾子氏も触れておられる“噛み合わない会話”がチョー面白い) ③「慶安大変記」=自宅の横にできた予備校にまつわるドタバタ劇。70年代だとこんな感じになるのかな・・・ ④「人口九千九百億」=人口があまりにも増えすぎた地球・・・っていうのもよくある設定かもしれないけど。一番笑ったのは、超スピードで動くエレベーター式トイレ。ウ○コが撒き散らされるだろ! ⑤「公共伏魔殿」=“外務省は伏魔殿”と言ったのは田中眞紀子だったか・・・(古いな)。本作の場合はNHKだが・・・ ⑥「旅」=これって桃太郎モチーフか?と思わせておいて、最後には「ああー西遊記」っていつの間にか変わってた! ⑦「一万二千粒の錠剤」=一錠飲んだら年齢が十歳若返るという夢の錠剤。それを巡って繰り広げられる醜い葛藤・・・。本当にあったらやっぱりこうなるんだろうね。 ⑧「懲戒の部屋」=いやぁー勘違いした女(特にオバサン)ほど手に負えないものはない、って男なら思うよね。 ⑨「色眼鏡の狂詩曲」=作者自らが登場する一編。 以上9編。 作者らしい「風刺魂」で溢れた作品が並んでいる。 最近いわゆる“SF”と呼称される作品を読む機会が増えてきたけど、読むたびに感じてしまう。 「SFってなに?」 我々の暮らす社会の規範や常識、価値観など(広義のね)とは異なる世界観で描かれる小説・・・ というような意味合いと捉えてはいるのだけど、なんかモヤモヤしてる。 まぁ結局面白ければそれでよいということで、本作もそれなりの面白さを備えた作品。 これでいいのだ。 (②がベストかな。④も割とストライク。あと⑧のオバサンどもの言葉に相当カチンとくる) |
No.1287 | 7点 | 死の殻- ニコラス・ブレイク | 2016/11/08 22:20 |
---|---|---|---|
1936年発表。
「証拠の問題」に続いて発表された作者の第二長編が本作。 で、探偵役はナイジェル・ストレンジウェイズだ(長い!)。 ~ファーガス・オブライエンは空軍での人間業とは思えぬ戦績や数々の伝説的逸話から英国の空の英雄と讃えられていた。その彼の元に、復讐を誓う脅迫状が届けられた。殺害予告の日はクリスマス。私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイズは彼の護衛を引き受けたものの、まんまと犯人に出し抜かれてしまう。事件の真相を探るナイジェルは、オブライエンの秘められた過去に辿り着くのだった。終幕で浮かび上がる悲劇的な復讐者の姿は、強く読者の胸に残るだろう・・・~ 十分に佳作と呼べる出来だと思う。 これがシリーズ二作目とするなら、やはり作者は只者ではないと言える。 何よりプロットの秀逸さが光る。 序盤~中盤まで、本作っていわゆる「雪密室」がメインテーマなのか? っていうふうに読み進めていた。 ナイジェルも警察もそこを中心に捜査してるし、いかにも黄金期の本作ミステリー追随って感じだなと思っていたのだ。 ただし、連続殺人事件に発展する終盤以降はテーマが一変。 被害者の過去に遡る動機&事件の背景探求がメインとなる。 そして何より、真犯人の○で収束したはずの後、終章こそが本作の白眉となる。 ナイジェルによって事件の反転した構図が語られるわけだ・・・(ネタバレっぽいが) これが実に見事に嵌っている。 伏線の妙というか、これはやはりミステリーとしてのクオリティの高さだろう。 ナイジェルの造形は確かに後の作品に比べて若いというか、溌剌という感じだ。 それもなかなか好感度が高い。 いかにも英国風ミステリーという味わいも本作では心地よかった。 |
No.1286 | 5点 | 赤い森- 折原一 | 2016/11/08 22:18 |
---|---|---|---|
2010年に発表された長編、と言うべきか、“ツギハギ”作品と言うべきか・・・
「黒い森」という作品が先行して発表されているが、直接的なつながりはない。 ~「あの家で何が起こったのか、実際のところ誰も知らないんだ・・・」。樹海の入口に立つ民宿の主人は、客の反応を窺いながら満足げにうなずいた。森の奥深くにある山荘で起こったとされる一家惨殺事件。その真相を知ろうと足を踏み入れた者が遺した「遭難記」。謎に惹かれ、また新たな若者が森の奥へと招かれた・・・。迷いと惑い、恐怖が錯綜する驚愕のダークミステリー~ 本作は祥伝社の400円文庫として刊行された「樹海伝説~騙しの森へ」と「鬼頭家の惨劇~忌まわしき森へ」の二作をそれぞれ章立てとし、新たな書き下ろしである「第三章」を加えてひとつなぎとした形式。 「樹海」をめぐるリドルストーリーという共通項はあるものの、どうだろうな・・・やっぱり無理矢理つなげた感は否めないかな。 「盛り上げ方」はいかにも折原っぽい。 一見して狂った人物や、実は狂っている人物が次から次へと主人公たちを恐怖に追い込んでいく。 読者の期待もそれに従っていやがうえにも高まっていく・・・ これでミステリー的に納得感のあるオチが付けられれば「良作」という評価になるのだけど、本作ではそのようなオチは用意されていなかった。 これをリドルストーリーとして好意的に捉えるか、「なんじゃこりゃ? オチがないじゃん!」って捉えるかは読み手次第。 (まぁ一応オチらしきものはあるのだが・・・) 折原ファンの私としては、「まぁこれも折原らしいかな・・・」というような感想になる。 これだけの作品数を誇る作家なのだから、全作品が素晴らしいということにはならないだろう。 まずまず、という評価でいいのではないか? かなり甘めですが・・・ (文庫版のP.403~406がツボ! 相当こわい) |