皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
|
---|---|
平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.1349 | 5点 | 星籠の海- 島田荘司 | 2017/06/03 21:57 |
---|---|---|---|
単行本として2013年に発表された本作。文庫版上下分冊にて読了。
作品の時代設定としては、『ロシア幽霊軍艦事件』の後に位置するとのことで、御手洗が海外に旅立ってしまうちょっと前という記念碑的作品(らしい) ~瀬戸内海に浮かぶ小島に、死体がつぎつぎと流れ着く。奇怪な相談を受けた御手洗潔は石岡和己とともに現地・興居島へ赴き、事件の鍵がいにしえから栄えた港町・鞆の浦にあることを見抜く。その鞆では、運命の糸に操られるように一見無関係な複数の事件が同時進行で発生していた! 伝説の名探偵が複雑に絡み合った難事件に挑む~ 福山市かぁー 実際に数年間住んでいた街だけに思いもひとしお、っていう感覚。作中で福山の刑事たちがしゃべる方言も今では新鮮に感じる。(「・・・しちゃった」とか) 特に鞆の町は名所や建物(「鴎風亭」などなど)がそのまま登場していて、潮の香りまでも思い出してしまうようだった。 福山市が島田荘司の故郷ということは、「福山ばらの街ミステリー文学新人賞」を持ち出すまでもなく、いまや有名な話。 本作は「映画化」ありきで始まった企画のようで、それを意識したプロットなのだろう。 ただし、そのため何とも居心地が悪いというか、ムズムズしたような読後感になった。 それは多分に御手洗に対する違和感に違いない。 過去の著名作では、常に“人を喰ったような”、それでいて、底辺には博愛心を感じるような、最後には心が温かくなる・・・そんな存在だったはず。 対して本作の御手洗はどうだ? 冷徹な探偵ロボットのような存在として書かれているようにしか見えない。悪くいえば「血が通ってない」ように思える。 ミステリー書評としてこんなこと書くのもどうかとは思うけど、特別な存在であるだけにどうにも首肯できないというか、「昔がよかった!」という感覚になってしまう。 まぁ、私自身も島田氏も年を取ったということなのかな? とっくに円熟期に入った作者だし、今さら若き頃の作風にしろと言われても困るよねぇ・・・ 今回は脇筋の視点人物多すぎだし、御手洗・石岡の捜査行(?)的なシーンが少なすぎたのも原因なのだろう。 これだけの大作なのに心躍る読書には遠かったかな。 (まさか常石造船の会長がこんな大活躍をするとは・・・。当然本人も公認なんだろうな) |
No.1348 | 7点 | 自覚- 今野敏 | 2017/05/22 21:24 |
---|---|---|---|
「隠蔽捜査5.5」というサブタイトルが付いているとおり、竜崎伸也署長を取り巻く“名脇役”たちにスポットライトを当てたスピンオフ短篇集。
同じく「隠蔽捜査3.5」と名付けられた作品集『初陣』は、盟友(?)伊丹刑事部長が主役だったが、本作は一編ごとに主役が変わっていくスタイル。 ①「漏洩」=大森署の貝沼副署長が主役。竜崎赴任までは影の署長として辣腕を振るっていた貝沼が竜崎赴任後は一変、竜崎へ報告できない自分に不安になりイライラする姿が微笑ましい。まさに「組織」だねぇ・・・ ②「訓練」=パート3『疑心』で、あの竜崎に恋心を抱かせた畠山警視が主役。男だらけのスカイマーシャルの訓練で自信を失ってしまった彼女に、竜崎の「檄(?)」が心に染みる。でもこれって、あくまで男目線からの女性心理なわけで、本当の女性からするとどうなんだろう? ③「人事」=“憎まれ役”野間崎管理官が主役。まぁ、まさに「中間管理職」ってやつだね。偉そうに振る舞いたいんだけど、あっち立てれば、こっちが立たず、とでも言うべきなのか・・・。組織内にはこんな奴多いんだけどね・・・。気が小さいだけなんだろう。 ④「自覚」=大森署・関本刑事課長が主役。これまた名物キャラクターの戸高刑事が起こした発砲事件。それを問題視して右往左往する関本と、一刀両断する竜崎。「器の違い」といえばそれまでだが・・・ ⑤「実地」=大森署・久米地域課長が主役。交番に配属された新配(新入社員のこと)が引き起こした大きなミス! 野間崎も巻き込んで大騒ぎとなるが、竜崎の英断により一変! ⑥「検挙」=大森署・小松強行犯係長が主役。検挙率を上げろという「上」からのお達し。この「お達し」ってやつは、どこの世界でもやっかりなのは同じ、ってことだろう。これはもう竜崎の言うとおり。「無視」するに限る。 ⑦「送検」=ラストはお馴染み、伊丹刑事部長が主役を張る。相変わらず、竜崎に頼り切る(?)伊丹は優秀なのか愚鈍なのか? いずれにしても、こういう奴が組織では生き残る。 以上7編。 もう、これは、安定感たっぷりの作品集。 シリーズファンなら必読でしょう。 これまでのシリーズで馴染みとなった脇役たちが、ここぞとばかり大活躍! みんなが組織の中で、誰かに気を使って右往左往する中、竜崎だけは微動だにしない。そんな竜崎の言動にみんなが惹かれてしまう・・・。 誰もがこんな上司になりたい、って思うんだけど、なかなかそうはいかないよねぇ・・・ ついつい余計なことを考えてしまうし、これってやっぱり「器」なのかな? まっ、自分は自分で頑張るしかないってことで・・・ |
No.1347 | 5点 | ハイキャッスル屋敷の死- レオ・ブルース | 2017/05/22 21:22 |
---|---|---|---|
キャロラス・ディーンシリーズの第五長編となる本作。
1958年発表。 ~キャロラス・ディーンはゴリンジャー校長から直々に事件捜査の依頼を受ける。校長の友人である貴族のロード・ベンジが謎の脅迫者に命を狙われているというのだ。さらに数日後の夜、ロード・ベンジの住むハイキャッスル屋敷で、主人のオーヴァーを着けて森を歩いていた秘書が射殺される事件が発生。不承不承、現地に赴くキャロラスだったが・・・。捜査の進捗につれて次第に懊悩を深める探偵がやがて指摘する事件の驚くべき真相とは?~ このシリーズも「死の扉」「ミンコット荘に死す」に続いて三冊目。 他の方も書かれているとおり、端正な英国本格の香りを残したシリーズとして好ましいことは好ましい。 それは確かだろう。 本作は、「お屋敷」を舞台に、不穏な空気感や“間違い殺人”、外部にいる謎の人物など、いかにもというレッド・ヘリングがそこかしこに撒かれている。 終章では、犯人足り得る「十三の条件」なるものまで登場し、消去法による鮮やかな真犯人解明! これぞ本格ファン垂涎のミステリー! となるはずなのだが・・・ そうはいかなかった。 クイーンを意識したかどうかよく分からないけど、真犯人特定のプロセスはロジックというよりは直感に頼ったものっぽい。 その辺りは、巻末解説の真田氏も「ミステリーとしての出来栄えを手放しで賞賛するわけにはいかない」と指摘されているとおりだろう。 (手放しで褒める解説者が多いけど、なかなか正直なお方!) 意外な真犯人を狙ったであろうフーダニットについても、中盤あたりからその臭いがプンプンしていたと感じる読者も多いに違いない。 というわけで、やや肩透かしという読後感になってしまったけど、雰囲気自体は決して嫌いではない。 キャロラスが真相解明を渋った理由が今ひとつ分からないけど、この頃の探偵役ってもったいぶる奴が多かったからね。 英国人らしい奥ゆかしさっていうことかも。 |
No.1346 | 6点 | 邪馬台国の秘密- 高木彬光 | 2017/05/22 21:21 |
---|---|---|---|
ノベルズ版は1973年の発表。
「成吉思汗の秘密」と並び、作者の歴史ミステリーの双璧とも言える大作。 ~邪馬台国はどこにあったのか? 君臨した女王・卑弥呼とは何者か? この日本史最大の謎に入院加療中の名探偵・神津恭介と友人の推理作家・松下研三が挑戦する。いっさいの詭弁、妥協を許さず、ふたりが辿りつく「真の邪馬台国」とは? 発表当時、さまざまな論争を巻き起こした歴史推理の一大野心作!~ 歴史ミステリーとしては、もはや語り尽くされた感のあるテーマ。 それが「邪馬台国」の謎・・・ということ。 私が中高生の頃から、畿内説と九州説があって、東大VS京大で・・・と教えられてきた。 結局は「魏志倭人伝」の解釈に帰結する問題で、これが100%正解ということが難しいテーマなのだろう。 だからこそ、専門家だけに限らず素人も巻き込んで喧々諤々の説が飛び交うことになる。 ということで、神津恭介=作者の推理なのだが・・・ 学問的に正しいかどうかという点は置いといて、なかなか面白いアプローチだとは思った。 確かに、あの場所に意味ありげにあの建物がたっているわけだしね・・・ ただ、個人的には、邪馬台国がどこにあったかという問題よりは、「卑弥呼」という存在そのものの謎、その方が断然興味を惹かれるし、応神天皇や神功皇后について、古事記や日本書紀の記述などから深く掘り下げて分析している内容は、割と新鮮に読めた。 (歴史好きの方には今さらなのかもしれませんが・・・) まぁ、作者の説が正しいのかどうかは神のみぞ知るということだろうけど、 読み物としてなら、「成吉思汗の秘密」の方が好みかな。 今回は、神津も完全に安楽椅子探偵に徹していて、作品のすべてが病室内での会話で終始している点もやや割引。 いくら神津恭介とはいえ、わずか3~4日で何十年も論争を続ける大いなる謎が解かれてしまっては、本職の方もつらいだろうね。 評価としては水準級+α。 (結局、最新の説ではどうなっているのか? ネットで調べてもよく分からないのだが・・・) |
No.1345 | 5点 | 今夜はパラシュート博物館へ- 森博嗣 | 2017/05/12 23:39 |
---|---|---|---|
「まどろみ消去」「地球儀のスライス」につづく第三短篇集。
2001年発表。 ①「どちらかが魔女」=久々のS&Mシリーズというだけで心が弾む(?)。やっぱり、犀川先生のクールさは群を抜いているし、物事の捉え方はもはや職人芸だ。あと、諏訪野も職人芸? ②「双頭の鷲の旗の下に」=犀川&喜多が母校の文化祭に招かれて・・・という一編。そして、同時に進行する謎の事件・・・。現実と過去が入り混じってよく分からなくなってくる。 ③「ぶるぶる人形にうってつけの夜」=とにかく“二倍男”がツボ! 途中まで「ぶるぶる」じゃなくて「ぷるぷる」だと思ってた。平面図の件は指摘されるまで気付かなかったな・・・ ④「ゲームの国」=アンチ・ミステリ、ということでよいのでしょうか? アナグラムか・・・まっ、どうでもいいって言うか・・・ ⑤「私の崖はこの夏のアウトライン」=ファンタジー? イメージの世界 ⑥「卒業文集」=小学校の卒業文集をそのまま載せ、そこにミステリーのスパイスを盛り込むというセンスの高い作品。そんな仕掛けが?と思ってると、最後の最後で「うーん」となる。 ⑦「恋之坂ナイトグライド」=一応、最後にオチがある。 ⑧「素敵な模型屋さん」=児童文学のような、大人向けのような、ラストには心が温まる・・・そんなストーリー 以上8編。 いやいや・・・読んでて、途中あまりの「分からなさ」に投げ出したくなった。 「いったい何がいいたいのだろう?」って多くの読者は思うのではないか? (特に私のような拙い読者は) そこはさすがに森氏で、もちろん企みや仕掛けがそこかしこに用意されている。 普段のシリーズ長編とは違って、よい意味では「前衛的」で「遊び心たっぷり」。 でも分かりにくいよネ・・・それが狙いなのかもしれないけど、「分かる人には分かる」っていうのは罪だという気もした。 評価はちょっと辛め。 ところで「パラシュート博物館」とはどういう意味なんでしょうか? |
No.1344 | 4点 | 大はずれ殺人事件- クレイグ・ライス | 2017/05/12 23:38 |
---|---|---|---|
1940年発表。
姉妹篇である「大あたり殺人事件」とともに、作者の代表作と言える長編。 原題は“The Wrong Murder”、小泉喜美子訳。 ~ようやくの思いでジェークがヘレンと結婚したパーティの席上、社交界の花形であるモーナが「絶対捕まらない方法で人を殺してみせる」と公言した。よせばいいのにジェークはその賭けにのった・・・。なにしろ彼女が失敗したらナイトクラブがそっくり手に入るのだ。そして翌日、群衆の中でひとりの男が殺された・・・。弁護士マローンとジェーク、ヘレンのトリオが織り成す第一級のユーモア・ミステリー~ なぜか「大あたり・・・」の方を先に読んでしまった後の本作。 まぁ別に関係なかったといえばなかった。 (ジェークとヘレンが新婚旅行へなかなか行けなかった訳が分かったくらいか・・・) 「大あたり・・・」の時にも感じたけど、どうもライスとは相性が悪いようだ。 まず“ユーモア・ミステリー”という惹句。これがいけない! 本作も三人のドタバタ劇に割かれてるページ数が多すぎないか? 本筋としてはそれほど複雑とは思わないんだけど、寄り道や行ったり来たりのせいで、何とも締まらない読書になってしまう。 (これがもし映像化されたら、昔のドリフのコントみたいに、会場からの笑いが挿入されそうな雰囲気・・・) 本筋もどうかなぁー 途中でちょっとゲンナリしてきて、あまり身が入ってなかったんだけど、どうもプロットの核っていうか、肝がよく分からなかった。 解説等を読んでると、動機もプロットの中心というふうに書かれているけど、ピンとこなかったなー フーダニットも「ふーん」としか感じられない。 ということで、どうにも煮え切らない感想になってしまった。 GWの比較的ヒマな時間に読んでしまったのが、逆にいけなかったのかな? これ以上、作者の作品を手にしようとは思えない。 |
No.1343 | 6点 | ○○○○○○○○殺人事件- 早坂吝 | 2017/05/12 23:37 |
---|---|---|---|
2014年発表の第五十回メフィスト賞受賞作。
いろんな意味で物議を醸したろう(?)作品を、今回文庫落ちに当たってようやく読了。 ~アウトドアが趣味の公務員・沖健太郎らは、仮面の男・黒沼が所有する孤島での夏休み恒例のオフ会へ参加することに。赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、メンバーのふたりが失踪、続いて殺人事件が起こる。さらには意図不明の密室が連続し・・・。果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは?~ 早坂吝(やぶさか)、1988年生まれかぁ・・・ 若いとか、老いたとか、年齢のことをとやかく言うのはあまり好きではないけど、作家生活ウン十年という人には逆立ちしても書けないミステリーだろう。 文庫版の解説はあの麻耶雄嵩氏が書かれているのだが(後輩だしね)、氏の処女作であり問題作(?)「翼ある闇」が発表されてから、はや二十年以上が経つんだよね・・・ 「翼・・・」初読時の際、作品全体に漂う“作り物感”や生意気な筆致(!)に何とも言えない妙な感覚に陥ったんだけど、今回、その麻耶氏から『世の中を舐めきった作品』と表現されてしまう本作。 本作がそれほどブッ飛んだ作品であると同時に、麻耶氏も『丸くなったもんだな・・・』という別の感慨も湧いてきてしまった。 しかし、とにもかくにも、京大推理研恐るべしだ。 綾辻氏から連綿とつながる、この新進気鋭の系譜。 どんな頭してたら、こんなプロットが思いつくのか? 興味はつきない。 因みに、文庫化に当たって、本作は大幅に改稿されていて、あろうことか○人○○までひとつ追加されている(とのこと)!! (理由についても「作者あとがき」に触れられているのでご参照ください。) で、本筋は?・・・って、まアいいじゃないですか。 他の方が的確な書評をすでに残されていますので、そちらをご参照ください。 まっ、敢えて書くとすれば、いくら○者とはいえ、自分で自分の○ン○の○○をするなんて、無理だろ! あと、いくら何でも○イ○○ツ○が○○やお○の○に入るわけないだろう!(まさか、いないよね) あと、そういう状況下だったら、男性の○ン○は常時○○してるのかな? というくらいかな。 (作者に倣って、○○多めの書評にしてみました) |
No.1342 | 8点 | 猟犬探偵- 稲見一良 | 2017/05/03 22:56 |
---|---|---|---|
名作「セント・メリーのリボン」に登場した猟犬探偵こと竜門卓を主人公とした作品集。
1994年、作者の死後すぐに発表されたのが本作であり、作者最後の作品となる。 ①「トカチン、カラチン」=“猟犬”の探偵であるはずの竜門が、クリスマスイブに探すことになったのは何と「トナカイ」と少年だった・・・。一年前のクリスマスイブには盲導犬を探していて(「セント・メリーのリボン」)、作中で竜門は何度も「なぜクリスマスイブに・・・」と嘆くことになる。とにかくラストが幻想的。何とファンタジックな光景なんだ! ②「ギターと猟犬」=今度はちゃんとした“猟犬”探しなのだが、探す場所が大阪のミナミ~キタというド繁華街! その猟犬は、なぜか「流しの艶歌師」と行動をともにしているのだ。猟犬を探し終えた竜門に待っていたのは、ひと組の心温まる家族の絆だった・・・。(ミナミの街中を狼連れて歩いてる男って・・・コワイよ!) ③「サイド・キック」=今回探すのは犬(シェパード)と「馬」、とおっさん!! しかも、この妙なトリオを追って、千葉~青森まで車を走らせることになる。この「おっさん」の行動が鍵となるのだけど、「そこまでするか!」という気にさせられる。あと、気になるのは赤いポルシェで竜門を追いかけてきた謎の美女。(因みにタイトルは「相棒」という意味だそうです) ④「悪役と鳩」=ラストは連続して発生した猟犬の“誘拐(盗難?)”事件がテーマ。竜門に捜索を依頼した大男・天童の男気にも惹かれるけど、やっぱり竜門のストイックさには脱帽! ラストの「詩」は染みるねぇ・・・ 以上4編。 前作(「セント・メリーのリボン」)があまりにも良かったため、続編的な位置付けである本作にも手を伸ばすことに。 いやいや、このただならぬ香気は何だ! 他の作家、他の作品では決して味わうことのできない、唯一無二の作品世界。 とにかく、登場人物のひとりひとりが何とも言えないキャラクターというか、「匂い」を発しているのだ。 現代日本という国に、こんな「ハードボイルド真っ只中」みたいな奴なんているか? っていうことを思わないでもないけど、それは野暮というもの。 とにかく夜更けの読書にはうってつけのシリーズ。世評の高さも十分に頷ける。そんな評価。 (どれがベストかな・・・? 敢えていえば②、いや④か・・・) |
No.1341 | 6点 | 黒衣の花嫁- コーネル・ウールリッチ | 2017/05/03 22:55 |
---|---|---|---|
早川文庫版の訳者あとがきによると、「幻の女」「暁の死線」と並ぶ、アイリッシュ=ウールリッチの三大傑作のひとつ・・・とのこと。
1940年の発表。 原題は“The Bride Wore Black”で、いわゆる作者の「黒」シリーズの第一作目。 ~ジュリーと呼ばれた女は、見送りの友人にシカゴへ行くと言いながら、途中で列車を降りてニューヨークへ舞い戻った。そして、ホテルに着くと自分の持ち物からイニシャルをすべて消していった。ジュリーはこの世から姿を消し、新しい女が生まれたのだ・・・。やがて、彼女はつぎつぎと五人の男の花嫁になった・・・。結婚式も挙げぬうちに喪服に身を包む冷酷な殺人鬼! 黒衣の花嫁。巨匠ウールリッチの黒のシリーズ冒頭を飾る名作~ 独特のいい雰囲気を持つ作品。 時代性を勘案すれば、このプロットは斬新だし、当時の読者の心を惹きつけたに違いない。 五人の男が、黒の衣装をまとった謎の女に殺害されていく。ひとり、またひとりと・・・ なぜ、女は男たちを殺していくのか? 単なる殺人鬼なのか? それとも? というわけで、一種のミッシング・リンクをテーマとした作品ともなっている本作。 第四部(四人目の男)=ファーガスンの章で、大凡の筋道は見えてくるのだが、このまま終了すると思いきや、ラストではなかなかの捻りが待ち構えている。 ここら辺は、ウールリッチ(アイリッシュ)らしいところなのだろう。 実に皮肉っていうか、悲劇的っていうか、因果応報っていうか・・・ 結局、作者はこれが書きたかったのかな? 確かに、そのまま終わってたら、「結構単調だったなぁー」っていう感想になったと思う。 ただ、「幻の女」や「暁の死線」にしても、本作にしても、21世紀の現在からすると、「もうワンパンチあればなあー」っていう印象にはなるんだよねぇ。 もちろんオリジナルとしての希少性はあるにしても、どうしても「高すぎる」評価に対しては違和感を覚えてしまう。 あまり要領を得てないですが、作者の作品に対してはいつもそんな感じになる。 |
No.1340 | 6点 | 悪いうさぎ- 若竹七海 | 2017/05/03 22:53 |
---|---|---|---|
2001年発表。
葉村晶シリーズの二作目は長編。最近妙に人気を獲得した(?)同シリーズということで、どうなのでしょうか? ~女探偵・葉村晶は、家出中の女子高生ミチルを連れ戻す仕事で大怪我を負う。一か月後、行方不明のミチルの友人、美和探しを依頼されることに。調査を進めると、ほかにも姿を消した少女がいた。彼女たちはどこに消えたのか? 真相を追う晶は、何者かに拉致・監禁される。飢餓と暗闇が晶を追い詰める・・・。好評の葉村晶シリーズ待望の長編~ 最近、個人的に気になる「葉村晶」である。 (乃南アサの女刑事「音道貴子」でも同じことを書いてるけど・・・) 四作目の「静かな炎天」を先に読んでしまって、彼女の年齢が若返っているのが逆に新鮮。 本作では、依頼人やら関係者やらに巻き込まれ続け、怪我&疲れでボロボロになった体を酷使することになる晶。 でもまあ、まだ三十代前半だからこそ、それができたわけで、四十代となった最新作ではとても無理だったに違いない。 ハードボイルドというと、どうしても男臭さや暴力溢れた世界観になってしまうのだが、女探偵を主人公とする本シリーズでは、どうしても読者へのアプローチ方法が違ってくる。 犯罪への怒りはもちろんだけど、暴力や裏社会への恐怖、恋愛や俗世間へ背を向けることへの諦観、それでも探偵であることの矜持etc・・・ この辺りが幅広いファン獲得の要因になっているのではないか? 確かに、本作も尺の割にはクイクイと読ませられる感じがした。 本筋については・・・どうかなぁー? 長編らしく、脇筋も結構書かれているんだけど、登場人物の多さと相俟って、どうも混乱気味のように思えた。 プロットそのものは単純極まりないんだけど、そこにたどり着くまでにエライ遠回りした感が強いのだ。 一番簡単に言えば、タイトルそのものだもんね。 やっぱり、本シリーズ&葉村晶はどちらかというと短編向きかな。 もちろん個人的な好みだし、晶とシンクロして読んでる方は断然長編というだろうけど・・・ (結局、晶の友人はどうなったのか?) |
No.1339 | 7点 | ウォッチメイカー- ジェフリー・ディーヴァー | 2017/04/24 21:10 |
---|---|---|---|
大好評(!)リンカーン・ライムシリーズも七作目となる本作。
今回は新キャラクターも登場! 2006年の発表。 ~“ウォッチメイカー”と名乗る殺人者あらわる! 手口は残忍でいずれの現場にもアンティークの時計が残されていた。やがて犯人が同じ時計を十個買っていることが判明、被害者候補はあと八人いる(?)・・・。尋問の天才・キャサリン・ダンスとともにライムはウォッチメイカー阻止に奔走する。2007年度のミステリー各賞を総なめにしたシリーズ第七弾~ 実にサスペンスフルで、実によくできた一級のエンターテイメント作品! と言って差し支えないだろう。 文庫版ではいつものように上下分冊なのだが、これまでのシリーズ作品と比べて、割と静かに流れた上巻から一変! 下巻に入るやいなや、怒涛のように押し寄せるドンデン返しの連続! 事件の様相がつぎつぎに入れ替わり、裏の裏ではなく、裏の裏の裏までひっくり返されることになる。 まさに「ジェットコースター・サスペンス」という言葉がピッタリ! 文庫版解説で、今は亡き児玉清氏も書かれているけど、今回犯人役を務める“ウォッチメーカー”はこれまで登場したなかでも最強クラスの敵となる。 ライム&アメリア、そして新登場のキャサリン・ダンスの超強力トリオをもってしても、ついに捕らえることができなかったわけで、それだけでもいかに狡智に長けていたか分かるというもの。 ここ二作(「魔術師」と「十二番目のカード」)がやや低調気味だったので、尚更本作の原点回帰ぶりが好ましくは映る。 ただ・・・ここまで褒めてきたけど、他の方も触れているとおり、「策士、策に溺れる」感が拭えないのも事実。 シリーズも七作目となると、もはや「ドンデン返し」は予定調和になっているわけで、それを超越したプロットが求められる。 今回は「ドンデン返しの連続技」で読者の期待に応えようとしたように思えるけど、それが余りにも無理筋に見える(または作り物めいて見える)ということなのだろう。 その辺りは難しいよなぁ・・・ でもまぁ、この安定感はやはり大したもの! キャサリン・ダンスもスピンオフに十分耐えうるキャラなのは本作で十二分に分かった。 ということで、次作以降も必ずや手に取るだろうな。 |
No.1338 | 5点 | 黒の貴婦人- 西澤保彦 | 2017/04/24 21:09 |
---|---|---|---|
”タック&タカチ”シリーズの三番目に当たる短篇集(とのこと)。
このシリーズの「迷走ぶり」(版元がいくつもに別れるやら時間軸の飛び具合etc)が作者あとがきに書かれてあるのが興味深い(?) 2003年発表。 ①「招かれざる死者」=本シリーズの特徴とも言える「タックの飛躍した想像」が発揮される作品。そもそもこういう舞台で殺人まで犯そうかという奴なんているのか、甚だ疑問。 ②「黒の貴婦人」=物語に出てくるのは「白の貴婦人」。いつも同じ居酒屋に決まった時間に現れる「貴婦人」の謎に迫る・・・ということなのだが、いつの間にかタカチのキャラクター解析のような話になっていた。 ③「スプリット・イメージまたは避暑地の出来心」=中編といっていい分量の作品。かといって特に力が入ったようには見えない。殺人事件云々よりもタックの料理の腕前の方が気になる・・・ ④「ジャケットの地図」=名前も明かされないまま登場する人物は、当然○○○。特段どうということもない作品。 ⑤「夜空の向こう側」=何だかsmapの曲名みたいだけど、全然関係なし。小ネタのような作品。 以上5編。 ミステリー的にどうだというよりは、タックとタカチをはじめとする登場人物たちのその後が描かれたシリーズ作品という側面が大きい。 それだけ、シリーズファンにとっては堪らないのかもしれないけど、そうでもない私のような人にとっては「ふーん」という感想になる。 でもまぁ、シリーズ化するなら、タカチのような美女は必須なんだろうね。 男性としてはどうしても気になってしまう。 (ついつい登場人物を自分と置き換えて読んじゃうから尚更だけど・・・) そこは、やはり作者の勝利なんだろう。 ミステリーとしての本筋は特段語るべきところはない。 短編らしいアイデアもないし、見るべきところはなし。 でもやっぱり気になる、タックとタカチのその後・・・って完全に作者の術中に嵌っている・・・ |
No.1337 | 5点 | プラチナタウン- 楡周平 | 2017/04/24 21:07 |
---|---|---|---|
2008年発表。
作者は元々米国系企業(コダック社の日本法人とのこと)に勤務していたバリバリのビジネスマン。 そんな作者が描く「介護ビジネス」に纏るエンタメ小説。 ~出世街道を外された総合商社部長の山崎鉄郎は、やけ酒を煽り泥酔。気が付いたときには膨大な負債を抱えた故郷・緑原町の町長を引き受けることに・・・。だが、就任して分かったことは、想像以上に酷い実情だった。私腹を肥やそうとする町議会のドンや、田舎ゆえの非常識。そんな困難にくじけず鉄郎が採った財政再建の道は、老人向けテーマパークタウンの誘致だったのだが・・・~ 作者のプロフィールからすると、今回の話はフィクションとはいえ、相当デフォルメされてるなと感じた。 どこかで聞いたような話を二つ三つつなげて、お手軽なエンタメ小説に仕上げた・・・ そんな感覚は拭えない。 ビジネスを題材としたエンタメ小説というと、昨今ならどうしても“池井戸潤”が思い浮かんでしまうのだが、プロットこそ共通している部分はあるとはいえ、ふたりの間で大きく違うのは、ずばり「熱量」の差! 池井戸なら、理想に燃えた主人公が、幾多の試練に揉まれながらも、仲間の協力を得て、最終的には勝利を勝ち取る・・・そんなプロットに仕上げるはず。 しかし、楡氏はそこまで熱くはならない。 それが「冷静」ということか、或いは「リアリティ」ということなのかもしれない。 でもなぁー、この話、明らかに「起承転結」がないんだよねぇ・・・ 普通は「転」のところで、逆境や困難に陥る主人公が描かれるはずで、そこがプロットの鍵になるんだけど・・・ 本作では割とスムーズに成功しちゃってるし・・・ そういう意味では作者の創作姿勢に疑問符を抱かせる作品かもしれない。 (読者を楽しませるかどうかという観点でね) あと、介護関連の薀蓄は2017年の現在からすると、若干古くてズレがあるので注意が必要。 |
No.1336 | 7点 | 死のある風景- 鮎川哲也 | 2017/04/15 09:52 |
---|---|---|---|
鬼貫警部シリーズの長編。
原型となる中編が「オール読物」誌で掲載されたのが1961年。長編化されて1965年に単行本化された作品。 今回は創元文庫版ではなく、ハルキ文庫版で読了。 ~結婚を目前に控えて、幸福に包まれているはずの女性が、ある日突然姿を消した。やがて彼女は阿蘇山の噴火口に自殺体となって発見される。一方、金沢の内灘海岸でもひとりの女性が射殺されるという事件が発生する。一見無関係に見えたふたつの事件の背後に、次第に明らかにされる犯罪の構図。堅牢にして緻密なアリバイを前に、鬼貫警部の推理が冴える! 本格推理小説の傑作~ まさに“正調”鮎川ミステリー、という表現が似合う作品だろう。 鬼貫警部シリーズも結構読んできたけど、ここまで「典型的」な作品は他にないかもしれない。 そんな気さえした。 何より、序盤の「謎の提示」が魅力的だ。 阿蘇火口と金沢・内灘海岸。一見まったく無関係の事件がそれぞれ描かれ、現地の警察の捜査が進められるものの、早々と挫折させられる。 さらに奥多摩での殺人事件まで登場し、混迷の度合いを深めるかと思いきや、ここで名“露払い”丹那刑事の出番となる。 ここまで来ると、「待ってました」とばかりに、犯人側が築いた堅牢なアリバイ砦が作中の刑事&読者の前に立ち塞がることになる。 もう・・・まさに“正調”って感じだろう・・・ 今回、「電報」がアリバイの鍵となる点など、いかにも時代性を感じさせるプロット。 列車を使ったアリバイトリックは、それほど凝ったところはないのだけど、あれほど堅牢と思えた「アリバイ砦」が、鬼貫警部のちょっとした“気付き”で、あっという間に崩されていくカタストロフィ! これこそが本シリーズの楽しみ方に違いない。 不満点も当然あるのだけど、そんなことはもういい。 名人芸の落語や漫談でも見たような、そんな満たされた気分にさせられた・・・感覚。 ファンにとっては堪えられない作品なのかもしれない。 (毎回思うけど、現在の時刻表ではこういうアリバイトリックって絶対不可能だよね・・・) |
No.1335 | 5点 | クロフツ短編集1- F・W・クロフツ | 2017/04/15 09:51 |
---|---|---|---|
~狡猾な完全犯罪を企む犯罪者や殺人鬼は、手口を偽装して現代警察の目を欺こうとする。一見、平凡な日常茶飯事や単純な事故の背後に、こうした恐るべき犯罪が秘められている場合が少なくない。本書はクロフツの数々の長編で活躍するフレンジ警部の目覚しい業績を収録した本格短篇集である・・・~
ということなのだが、全二十一編で構成される本作。ひとつひとつの作品は短編というよりショートショート+α程度の分量でしかない。 しかも、殆どが倒叙形式で、『犯人が止むにやまれぬ事情で殺人を犯す』⇒『アリバイを中心としたトリックを企図し弄する』⇒『ちょっとした穴をフレンチ警部(或いは警視)に発見される』⇒『逮捕』という構成になっている。 要は、限りなくワンパターンの作品が並んでいる、というわけだ。 これは・・・退屈だな。 クロフツもフレンチ警部の好きだけど、さすがに後半からはげんなりしてきた。Ⅱは読まないな。 一応、以下かいつまんで短評。 ①「床板上の殺人」=作者得意の列車を舞台とした殺人事件。ちょっとした物証が命取りとなる。 ④「シャンピニオン・ハイ」=これくらい気付けよ!っていうミスを犯す真犯人・・・ ⑨「ウオータールー、八時十二分発」=これも列車もの。結構多い。このミスも酷い。 ⑩「冷たい急流」=最後にガツン・・・っていうインパクト。死者の意地ってやつだな。 ⑫「新式セメント」=倒叙形式でない作品。かといって特別面白いわけではないのだが・・・ ⑮「山上の岩棚」=法定でフレンチが突如告発! 真犯人「ゾォー!」っていうラスト。 ⑰「ブーメラン」=犯人もまさに「アッ!」って思った見落としだろうな。 ⑳「かもめ岩」=犯人もまさに「アッ!」って思った見落としだろうな×2 全21編。 もう・・・お腹いっぱい(!) (ベストは・・・考えつかない。) |
No.1334 | 4点 | 星読島に星は流れた- 久住四季 | 2017/04/15 09:49 |
---|---|---|---|
2015年発表の長編。
作者プロフィールを読む限りでは、本作が初の本格ミステリー作品の様子だが・・・ ~天文学者サラ・ディライト・ローウェル博士は、自分の住む孤島で毎年天体観測の集いを開いていた。ネット上の天文フォーラムで参加者を募り、招待される客はほぼ異なる顔ぶれになるという。家庭訪問医の加藤も参加の申込みをしたところ、凄まじい倍率をくぐり招待客のひとりとなる。この天体観測の集いへの応募が毎年高倍率となるのはある理由があった。孤島に上陸した招待客たちの間に静かな緊張が走る中、滞在三日目、ひとりが死体となって海に浮かぶ・・・奇蹟の島で起きた殺人事件を描く!~ うーん。 こういうタイプというかプロットのミステリーは、あまりにも偉大な先達たちがいるためか、どうしても「アラ」が見えてしまう。 他の方も触れられているし、作者がラノベ出身だからなのかどうか分からないが、どうしようもない「薄っぺらさ」は私も感じてしまった。 本作のプロットや仕掛けの「肝」って、結局、隠された動機ってことになるよねぇ・・・ だとしたら、相当お粗末ではないか? 最初からいかにも怪しげで、裏に何かあるに違いないムードプンプンの集い。 これでは、読者も最初からかなりな部分を予測してから読み進めることになる。 参加者ひとりひとりの描き込みも不十分で、作品世界に入り込めないまま唐突に発生する殺人事件。 その割にはページ数の半分位は前フリに使われている・・・ 結局は「プロット倒れ」ということでよいのではないか? 多くの先達たちが手掛けた「孤島もの」にチャレンジするなら、もう少し(かなり?)練り込みが必要だろう。 ページ制限等あるのだろうけど、この内容では書店で平積みするほどの内容ではないと断言する。 とはいえ、こういう手のミステリーは決して嫌いではないので、またチャレンジして欲しいなとも思ったりする。 (アメリカが舞台となった理由は「作者あとがき」で分かったが、主要登場人物ふたりが日本人である理由はなんだ? 親近感か?) |
No.1333 | 6点 | ながい眠り- ヒラリー・ウォー | 2017/04/01 09:24 |
---|---|---|---|
1959年発表。
作者の主要キャラクターのひとりであるフレッド・フェローズ署長初登場作品。 原題は“Sleep Long, My Love” ~1959年2月28日の朝、<レストリン不動産>に出社した仲買人ワトリーは、事務所が盗難に遭ったことに気付く。しかし、刑事が尋ねると奇妙なことに、盗まれたのは賃貸契約書のファイルだけだと言う。そして、同社の貸家の一軒から、胴体だけの女性の死体が発見された。遺されていたのはスーツケースと「ジョン・キャンベル」という名前、そしてメモ用紙に筆圧で残った筆跡だけ。殺されたのは誰か? 殺したのは「ジョン・キャンベル」なのか? 僅かな手掛かりに基づくフェローズ署長の推理は、新たな反証につぎつぎと崩されてしまう・・・~ 今まで読んだウォー作品の中では一番好感が持てた。 そんな読後感。 ただ、「誰が殺したか」はもちろん、「誰が殺されたか」も判然としない中盤は、何とも曖昧模糊としており、読者としても我慢を強いられる。 フェローズ署長の捜査もかなり難航。 「ああでもない、こうでもない」と仮説を立てては、すぐに崩されていく展開なのだ。 (むしろ部下たちが喜んで崩していく・・・という感じ) もう残りページも僅かという段階まできて、急転直下、真相が判明する。 これをカタルシス!と取るか、唐突!と取るかは微妙なのだが、フーダニットの観点から見ると、実にミステリーらしいプロットなのは間違いないだろう。 確かに伏線はふんだんに張られており、この辺りは他の方も指摘しておられるとおり、本格ミステリーっぽい。 というわけで、ウォー=警察小説というイメージとは若干異なるのが本作と言える。 比較的万人が楽しめる作品・・・ではないか? (ただ、首切りの動機がこれではどうかと思うが・・・) |
No.1332 | 5点 | ビブリア古書堂の事件手帖7- 三上延 | 2017/04/01 09:23 |
---|---|---|---|
大人気ビブリオ・ミステリーシリーズの第七弾。
本作が一応の(?)完結編ということらしいのですが・・・ いつもの連作仕立てではなく、腰の据わった長編作品で「完」。 ~ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取引に訪れた老獪な道具屋の男。彼はある一冊の古書を残していく・・・。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった・・・。人から人へと受け継がれる古書と脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きの時が訪れる~ 作者も読者も「よくここまで続いたなぁー」というのが実感ではないか? (いや、いい意味でですよ・・・) 古書というものが、こんなにも深く広がりを見せるものだとは、読み始める前には知らなかった。 どこの世界にも「マニア」や「稀覯家」という存在はいるけど、絵画など芸術品に負けず劣らず、ファン心をくすぐるものなのだろう。 ということで、今回のテーマは紹介文のとおり“シェイクスピア”。 太宰治や江戸川乱歩など、今まで取り上げられてきたのは馴染みのある作家ばかりだったけど、完結編となる本作は世界に名立たるレジェンドを題材にしたわけだ。 正直、“ファーストフォリオ”をめぐる栞子親娘や老獪な男“吉原”との争い云々は、他の方も書かれているとおり、薄っぺらい印象は残った。こんな稀覯本が出たら、もっともっとドロドロした、虚々実々の争いがあって然るべきだろうし、きれいにまとめすぎだろ!っていう感想は免れない。 まぁでもよい。シリーズものは、いかに作品世界を楽しめるかにかかっているのだし、その意味では合格点と言える。 とにかく、栞子さんの“萌える”キャラ設定が、何より本作の白眉に違いない。 スピンオフ作品も予定されているとのことなので、引き続き楽しめそうなのは幸い。 |
No.1331 | 6点 | 少年時代- 深水黎一郎 | 2017/04/01 09:22 |
---|---|---|---|
ハルキ文庫書き下ろし。
本の帯では『昭和の香り漂う懐かしい風景から予想外のラストが待ち受ける連作小説』とあるが・・・ ①「天の川の預かりもの」=~町を歩くチンドン屋のシゲさんが吹くサキソフォンの音色に惹かれた僕は、あきらめないことの大切さを教えてくれた。ある日、町で殺人事件が起きて~という粗筋なのだが、この“あきらめないことの大切さ”が後々効いてくることになる・・・(ってネタバレ?) ②「ひょうろぎ野郎とめろず犬」=“ひょうろぎ”も“めろず”も山形県内陸地方の方言とのことだが、中身も方言満載で読みにくいこと夥しい・・・(深水氏も解説の池上冬樹氏も山形県出身とのこと)。薄汚れたビーグル犬“ツンコ”に纏る少年と両親の物語。最後は何だか泣けてくる。 ③「鎧袖一触の春」=本連作のメインはコレ。ある県立高校の弱小柔道部が舞台となった青春小説風(?)。OB連中の理不尽なシゴキに耐えた一年生たちが、三年生の県総体という大舞台で挑んだ相手は全国に名を轟く強豪校だった! そして最後に訪れるのはサプライズ!! 結構爆笑&ニヤリとさせられるシーンも多いけど、でも何だか泣けてくる不思議な話。まさに「汗臭い」青春小説だな。 以上3編。 上の①~③まで読んでると、「どこがミステリーなんだ?」って思うよね、普通。 そう。本作は全然ミステリーではありません。少なくとも「エピローグ」までは。 エピローグで始めて、作者の狙いが分かる仕組みになっているわけだ。 でも、そこはあまり響かなかった。 っていうか、どうでもいい感じだ。 本作の“ミステリー的な仕掛け=予想外のラスト”も、特段目新しいものではないし、それよりも、子供時代~青春時代のエピソードの数々がどこか懐かしく、それ以上にほろ苦い気持ちを思い出させてくれた、それこそが本作の良さだろう。 やっぱり達者な作家だなと再認識させられる一冊。 こういう軽い読み物でもまずまず満足させてくれるのだから・・・ (これってやっぱり深水氏の体験談なのだろうか?) |
No.1330 | 6点 | 闇に香る嘘- 下村敦史 | 2017/03/21 21:33 |
---|---|---|---|
記念すべき第六十回江戸川乱歩賞受賞作。
その年の各種ランキングでも上位を賑わした作品。2014年発表。 ~孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼ることに。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱くようになる。目の前の男は実の兄なのか? 二十七年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作!~ なるほど。評判に違わぬ力作・・・という評価。 「参考文献」として挙げられている膨大な資料を見ても、作者が本作に賭けた熱意、エネルギーが分かろうというものだ。 すでに他の方々が的確な書評を残されているので、今さらという気がしないでもないが・・・ まぁ雑感として書きたい。 まず否定的な意見から。 良くも悪くも乱歩賞らしいというか、要は処女作品らしい「粗さ」、「こなれてなさ」が目に付いた。 もちろんデビュー作なのだから当たり前といえば当たり前だけど、「行ったり来たり」している箇所も多かったように思えた。 「盲目」というのがプロットの軸になっているのだから致し方ないのだけど、そこに記憶喪失モドキも加わってくるので、どうにも「曖昧」というか「掴みどころのなさ」というのも感じたなぁ。 でも、終盤、たったひとつの「ある事実」がすべてを反転させ、収束させていく手際はやはり見事だ。 言われてみれば、割と容易に気付く可能性のある「反転」なのだが、作者の周到な「煙幕」の前に、うまい具合に隠蔽されていた・・・という感じ。 この「大技」を最大限に活かせる舞台、テーマ。それこそが「中国残留孤児」であり「盲目」だったわけだ。 こういうプロットを捻り出せる力こそ、ミステリー作家としての資質に違いない。 正直、あまり好きなタイプのミステリーではないので評点はこんなものだが、次作以降も大いに期待できる。 (点字の暗号の使い方はもう少しやりようがあったような気が・・・) |