皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1862件 |
No.1402 | 3点 | 屋上の名探偵- 市川哲也 | 2017/12/11 22:44 |
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~東京から来た黒縁メガネにおさげ髪の転校生、蜜柑花子という変わった名前のおとなしめの少女。普段は無口な彼女だが、鮮やかな推理で瞬く間に事件の犯人の名前を挙げる・・・~
というわけで、「名探偵の証明」シリーズの外伝的位置付けの連作短篇集(とのこと)。 ①「みずぎロジック」=愛する「姉」のスクール水着が消えた!という重大な事件が発生。現場に残された学校シューズと掃除用具が入ったロッカーという物証をもとに花子の推理が冴える。 ②「人体パニッシュ」=喫煙していた生徒を捕まえようとする教師。追い詰めたと思いきや、くだんの生徒は煙のように消えていた・・・。ということで大げさにいえば「人間消失」の謎に挑む第二編。ただ・・・このトリックはかなりショボイ。 ③「卒業間際のセンチメンタル」=分刻みのアリバイがテーマとなる第三編なのだが、花子の推理はとてもではないが「鮮やか」とは言い難い。 ④「ダイイングみたいなメッセージのパズル」=タイトルどおり“ダイイングメッセージ”がテーマとなる最終譚(死んではないんだけどね)。途中、ダイイングメッセージの分類を試みるなど(先例があるのかな?)、本作中では最もミステリー色の強い作品。ただ、中身のレベルは?? 以上4編。 「なんで、こんなの手に取ったんだろ??」って思わざるを得なかった。 どうにもこうにも褒めるべきところがなかったというのが偽らざる感想。 ロジックとかトリックもそうなんだけど、まずは「読み物」として失格ではないかと思う。 途中、飛ばし読みした箇所多数。 それでも大筋理解できたということで、本作のレベルが分かろうというものかな。 本作はシリーズ外伝というべき作品みたいなんで、もしかしたら長編はまともなのかもしれないけど(鮎川哲也賞だしね)、うーん。 読まないだろうね。 キャラクターも結構ヒドイと思う(かなりイタイ)。 |
No.1401 | 6点 | 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン | 2017/11/29 21:11 |
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「ハートの4」「悪の起源」へと続く“ハリウッド・シリーズ”の一作目に当たる本作。
1938年の発表。 原題“The Devil to Pay”(創元版では「悪魔の報復」だが、「報酬」の方が正しいように思える・・・) ~倒産した発電会社の社長ソリー・スペイスがハリウッドの別荘で殺された。彼は倒産にも関わらず狡猾な手段で私腹を肥やし、欺かれた共同経営者や一般投資家から恨みをかっていた。そして、正義感の強い彼の息子もまた父を憎んでいた。警察は直ちに共同経営者を逮捕したが、E.クイーンにはこの事件がそれほど単純でないことを見抜いたのだ・・・~ これって、年代順でいえば「日本樫鳥の謎」の次に発表された作品なんだね。 何となくかなり後期の作品かなぁっていう感覚だったんだけど、国名シリーズのすぐ後に書かれたというのが意外だった。 (ファンの方にとっては当たり前のことでしょうが) それはともかく、前評判の低さよりは「まずまず楽しめる」レベルのように感じたのだが・・・ 確かに作品全体に“浮ついた感”みたいなものが漂ってる。 これはハリウッドの成せる技なのか、はたまた作風の転換を図っていたためなのか・・・ 主役級の男女ふたりのやり取りがどうにも“イタい”印象はあって、これに馴染めないという方も多いのだろう。 これを最後の最後まで引っ張る当たり、小説家としての(ミステリー作家としてではなく)クイーンの才能にやや疑問符すら感じてしまう。 ただ、終章でみせるエラリーの真相解明場面は一定のキレっていうか、「あぁやっぱりクイーンだね」という満足感は覚えさせてもらった。 物証なんかは後出しというか、読者が推理できるほどの伏線になっていないようには思えるんだけど、冷静に考えれば真犯人には行き着くよう配慮がなされている。 第三者が“余計な手出しをする”というプロットもマズマズ機能しているのではないか? ということで、そこそこor水準級の評価はしたい。 でも、他の佳作と比べちゃうと、どうしてもねぇ・・・っていう感じにはなる。 (エラリーの変装は絶対気付くと思うんだけど・・・) |
No.1400 | 6点 | 眼球堂の殺人~The Book~- 周木律 | 2017/11/29 21:10 |
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2013年発表。
第47回のメフィスト賞受賞作であり、当然ながら作者のデビュー作。(もう40回以上も続いているということが驚き!) その後に続く「~堂シリーズ」の第一作目でもある。 ~神の書、“The Book”を探し求める者、放浪の数学者・十和田只人が記者の陸奥藍子と訪れたのは、狂気の天才建築学者・驫木煬(とどろきよう)の巨大にして奇怪な邸宅・「眼球堂」だった。ふたりと共に招かれた各界の天才たちをつぎつぎと事件と謎が見舞う。密室、館。メフィスト賞受賞作にして「堂」シリーズ第一作となった傑作ミステリー~ 序盤に挿入された「眼球堂」の平面図&立面図。 これを見ただけで、本格ファンならば大凡のトリックに気付くのではないか? 斯く言う私はどうか? ここでは気付かなかったが、さすがに中盤に差し掛かる頃には気付いた! 気付いて以降、なぜ“天才数学者”と称される探偵役・十和田がこのトリックに気付かないのか、それにイライラさせられた。 どうみても、島田荘司や綾辻、はたまた森博嗣の影響を存分に受けた二番煎じ・・・って誰かにこき下ろされる・・・ って思ってた矢先。 この作品はエピローグ以降が肝だったんだね。 これもまぁ想定内っていう手練の読者も恐らくいるのだろうが、ここまでアイデアを盛り込んできたことは素直に評価したい。 さすがにメフィスト賞受賞は伊達ではないということかな。 どうしても好き嫌いがはっきり分かれそうな作品なのは間違いなし。 リアリテイの欠片もない(?)トリックを“バカミス“と捉える方もいるだろうし、無機質でハリボテのような登場人物に後ろを向く方もいるだろう。 要はメフィスト賞作品が好きかどうか。嫌いと言うなら本作は手を出さない方がいいのでは・・・ 私はというと・・・続編も読むと思います。 |
No.1399 | 5点 | 御手洗潔の追憶- 島田荘司 | 2017/11/29 21:09 |
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~「ちょっとヘルシンキへ行くので留守を頼む・・・」。そんな置き手紙を残し、御手洗潔は日本を去った。石岡和巳を横浜に残して。その後、彼は何を考え、どこで暮らし、どんな事件に遭遇していたのか。活躍の場を世界へと広げた御手洗の足跡をたどり、追憶の中の名探偵に触れる番外作品集~
2016年発表。 ①「御手洗潔、その時代の幻」=LA在住の“あの方”が何と御手洗にインタビュー。 ②「天使の名前」=この作品こそ本作の白眉。御手洗の父親が戦前・戦中に遭遇した数奇な運命。そして御手洗の出生の秘密とは? というわけで、そこまで神秘的にしなくても、っていう気はした。 ③「石岡先生の執筆メモから」=犬吠里美がけっこうウザイ。 ④「石岡氏への手紙」=レオナから石岡への手紙という形態。 ⑤「石岡先生、ロング・ロングインタビュー」=永遠の小市民キャラ・石岡和巳へのインタビュー。インタビュアは①と同様、アノ方。 ⑥「ジアルヴィ」=?? ⑦「ミタライ・カフェ」=北欧の街・ウプサラ市。スウェーデン第四の都市であり、ノーベル賞受賞者を四人も輩出したウプサラ大学が著名な美しい古都・・・。行ってみてぇー 以上7編。 「追憶のカシュガル」と同様、ノン・ミステリーの連作集であり、御手洗潔及び石岡和巳のファンブックである。 よって、ファンでない方はスルーしても全く問題なし。 ファンという方も特段手に取る必要はない。その程度の作品。 ただし、②だけは別。「追憶のカシュガル」でも戦時中が舞台となる作品(「戻り橋と彼岸花」)があったが、今回はスケールアップし、日米開戦を何とか阻止せんとする気鋭の外交官として御手洗の父親が初めて(?)登場することとなる。 既視感のあるプロットではあるけど、やはりそこは島田荘司。行間からは何と言えない圧というか、エネルギーが迸るようだった。 この熱量がある限り、例えどんな批判があろうとも、島田荘司は永遠に不滅だと思う。 (願わくは吉敷竹史も復活させてはくれまいか、と切に願う私・・・) |
No.1398 | 7点 | 殺人鬼- 浜尾四郎 | 2017/11/18 10:56 |
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前から読もう読もうとしていた作品。(最近こういう書き方をしているケースが多いような気がする・・・)
ちょうど1,400冊目の書評に当たっていたため、今回本作を手に取ることにした次第。 創元文庫の「浜尾四郎集」収録版にて読了。1931(昭和6)年、名古屋新聞にて連載開始、翌1932年に単行本化された作者畢生の大作。 ~ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』に触発され、製紙王・秋川一家にまつわる連続殺人事件をテーマにして描かれた「殺人鬼」は、戦前日本探偵小説中、随一と言っていい本格物の一大収穫である。また、真の探偵小説は理論的推理による真犯人の暴露でなければならない、との持論を実践した作品でもある~ これは・・・実に重厚、実にクラシカルな一大本格探偵小説だな。 文庫版で500頁超。とにかく作者の探偵小説に対する熱量というか、「熱い想い」をビシバシ感じながらの読書となった。 ただし、「熱い」と言っても、決して冷静さを欠いているわけではない。 本作がヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」の本歌取りを志向した作品なのは著名だけど、「グリーン家」の模倣で終わることなく、その弱点を補い、違う角度から探偵小説を組み上げていこうという実験的&理論的な作品に仕上がっている。 フーダニットについては、中盤には大凡の察しがついてしまったけど、それは21世紀の今の読者目線での話であって、当時の人々にとっては斬新なプロットと写ったに違いない。 探偵役を務める藤枝真太郎についても、多少傲慢さは窺えるものの、ファイロ・ヴァンスの衒学趣味に比べればまぁ可愛いもんだろう。 もちろん難癖を付ける気になれば、枚挙に暇はない。 例えばアリバイに関する考察。 これは一応の注意を払われているものの、綱渡りのような動きが何回も成功していること自体、精緻なトリックとは言い難い。 あと、「なぜ真犯人は、容疑者が絞り込まれやすいCC設定に持ち込んだのか?」という根本的な疑問。 作者は、殺人に至る背景と“ある偶然のタイミング”をその解答として用意しているわけだが、読者としてはどうにも釈然としない。 などなど・・・ でもまぁそれは詮無き粗探しだろう。 戦前の日本でも、こんな正調で格式高い探偵小説が書かれていたことに対しては素直に敬意を払うべきではないか? 最近「鉄鎖殺人事件」も文庫で復刊されたらしいので、機会があれば手に取る(かもね)。 (とにかく謎解きパートのボリュームがすごい! 萎えるほど・・・) |
No.1397 | 6点 | アイネクライネナハトムジーク- 伊坂幸太郎 | 2017/11/18 10:54 |
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~情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短篇集~
ということで、本作もやはり「伊坂らしい」作品に仕上がっております! 2014年の発表。 ①「アイネクライネ」=ミュージシャン斉藤和義の依頼がきっかけとなり書かれた第一編であるとともに、本作が生まれるきっかけとなった作品。誰もがうらやむ美女とくっつく男って案外こういう奴が多いのはフィクションの中だけのような気がする。現実はそうはいかない! ②「ライトヘビー」=本作の鍵となる人物~“小野”が登場する第二編。途中でオチは想像がついたんだけど・・・ ③「ドクメンタ」=突如最愛の妻に別れを告げられた不幸な男・藤間。お気の毒に・・・。でも通帳をこんなことに使わないで欲しい! ④「ルックスライク」=顔がオヤジにそっくりって、そんなに嫌かなぁ? まっ、確かに嫌だよね。 ⑤「メイクアップ」=昔いじめられた相手に今さら遭遇してしまう! そんな偶然絶対に嫌だ! ⑥「ナハトムジーク」=すべてがつながる最終譚。時代設定がつぎつぎ入れ替わるので頭の整理がたいへん。 以上6編。 今回は作者には珍しく「恋愛小説」比率の高い作品。 織田一真など、いかにも伊坂っていうキャラクターは登場するけど、殺し屋や泥棒、超能力者などといったトリッキーな方々は出てこない。 それが新鮮でもあり、物足りなくもありといったところ。 前にも書いたような気がするけど、作品の平均値高いよなぁー、伊坂は。 今回は多少毛色が違うとはいえ、やっぱりいつもの伊坂らしさは十分に備えた作品なんだけど、飽きないんだよねぇ・・・ 評論家的にその理由を考えるなんてことはしないんだけど、何となく思うのは、“緩さの中の芯”っていうのか、とにかくいつも間にか伊坂ワールドに引き込まれ、あれやこれや接待を受けるうちに何となく契約させられる気弱な人間になったようなっていうのか・・・ 多分、次作も手に取らされ、また接待を受けていい気分にさせられるんだろうね 実に床上手な作家ということかな。 (意味不明な書評) |
No.1396 | 5点 | 赤い右手- ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ | 2017/11/18 10:53 |
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1945年発表。
国書刊行会から発表されたものを創元文庫にて先般復刊。今回は当然この復刻版にて読了。 ~エリナ・ダリーは縁あって裕福な実業家イニス・セントエーメと婚約し、車を駆ってハネムーンに出発した。ところが希望にあふれた旅路は、死んだ猫を抱えたヒッチハイカーとの遭遇を境に変容を余儀なくされる。幸福の青写真は引き裂かれ、婚約者と車を失ったエリナは命からがら逃げ惑うハメに。彼女を救ったリドル医師は、悪夢の一夜に起こった連続殺人の真相に迫ろうとするが・・・~ よく分からん! 読了後すぐの感想はどうしてもこうなる。(多くの読者がそうじゃないだろうか?) 巻末の訳者あとがきを読んでると、某法月綸太郎氏が『どこまでが作者の計算で、どこからが筆の勢いなのか判然としない、八方破れの語り口が結果的に成功を収めた・・・』と本作を評しているとのこと。 成功を収めたかどうかは別にして、後の部分は「なるほど・・・」である。 他の方も書かれているけど、とにかくフワフワした感覚とでも表現したらいいのだろうか。 確かに終盤ではミステリー的な解決が提示されるし、「そういう意味だったのね」ということも多かったのは事実。 でもなぁーいきなりアイツが実は○○で、アイツも実は××で・・・ などと書かれたら、もはやファンタジーみたいなもので、リアリテイの欠片も感じなくなってしまう。 そういう小説なんだと言われればそれまでなんだけど、これを「本格ミステリー」と呼称するのは何とも違和感がある。 時間軸の行ったり来たりについては、読んでてもはや混乱の極みだったし・・・ (これって、わざとかな) ということで、どうにもストレスの残る読書となった感のある今回。 こういう作品が好きっていう人もいるんだろうか? いるんだろうなぁー いわゆる“玄人受け”っていうことなのか? だとすると、素人の私にとってはハードルの高い作品だったのかもしれない。 機会があれば読み返しても・・・いや、読み返さないな、きっと。 |
No.1395 | 6点 | 江神二郎の洞察- 有栖川有栖 | 2017/11/07 22:23 |
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~英都大学に入学したばかりの1988年4月、すれ違いざまにぶつかって落ちた一冊・・・中井英夫『虚無への供物』。この本と江神部長との出会いが僕、有栖川有栖の英都大学推理小説研究会入部のきっかけだった・・・~
というわけで、“学生アリス”シリーズのエピソード・ゼロ的位置づけの作品集をようやく読了。 2012年の発表。 ①「瑠璃荘事件」=何てことないアリバイトリックなんだけど、学生アパートのむさ苦しい様子が行間から漂ってくるようだった・・・ ②「ハードロック・ラバーズ・オンリー」=“ラストの一撃が炸裂”って感じの一編で本作1、2の良作。道尾秀介の某短編を思い出した。 ③「やけた線路の上の死体」=実質的な作者のデビュー作ということで、実に瑞々しい作品(いい意味でも悪い意味でも)。「くろしお」かぁー・・・、それ聞いた段階でトリックは想像できてしまう自分。 ④「桜川のオフィーリア」=「女王国の城」へとつながる作品なのだが、特段どうということはない。 ⑤「四分間では短すぎる」=“推理クイズ”としては面白い試み。「点と線」のくだりは「確かにそうだけど、別にここまで書かなくても・・・」という感想。 ⑥「開かずの間の怪」=“若書き”感の残る作品。現場の描写がよく呑み込めなかった。 ⑦「二十世紀的誘拐」=京都タワーか・・・。そう言えば登ったことないなぁー ⑧「除夜を歩く」=江神部長とアリスの会話が何とも瑞々しい。これを齢五十を超えた作者が書いてるかと思うと、どこか微笑ましい・・・ ⑨「蕩尽に関する一考察」=マリアとの出会いが描かれた最終作。「蕩尽」=財産を使い果たすこと・・・って始めて知った! ひとつ勉強になりました。 以上9編。 『大学生に戻りてぇ・・・』っていうのがこれを読んでて最初に浮かんだ感想。 モラトリアムでも無為でもいいから・・・。でもあの自由で気ままだった時代にはもう二度と戻れないんだねぇ・・・ ある意味、EMCの四人ってかなりストイックだよな。 これって、つまり有栖川氏自身がストイックだったってことか・・・ 京都の街も何かいいよなぁー。隣の芝が青く見えるだけなのかもしれんけど、アリスたちが羨ましく思えた。 で、本筋の評価は?って、もうどうでもいい感じ。 ファンなら必読の作品だし、ファンでなければ別にスルーしてもいい作品でしょう。 私は・・・とにかく微笑ましい作品という評価です。(意味不明) |
No.1394 | 4点 | 怪しいスライス- アーロン&シャーロット・エルキンズ | 2017/11/07 22:21 |
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“スケルトン探偵シリーズ”で著名なA.エルギンス。
その作者が妻のシャーロットと共作したその名も「プロゴルファー・リーの事件スコア」シリーズ。 記念すべき第一作目が本作。1989年の発表。 ~プロ一年目の女子プロゴルファー・リー=オフステッド。あらゆる経費を切り詰める金欠なプロ生活を送る彼女は、出場した試合でスター選手ケイトの撲殺死体に遭遇する。捜査を担当するグレアム=シェルダン警部補がゴルフをまったく知らないとあって、リーも黙って見てはいられない。試合で知り合ったアマチュアゴルファーのペグと真相究明に乗り出すけれど・・・~ 最近どうもねぇー、アイアンが全然ダメなんだよね。 以前悩まされたドライバーのスライスはかなり改善できたんだけど、その代わりにアイアンのトップorシャンクが止まらない・・・ アプローチも下手くそだから、そうなるとスコアにならないんだよなぁ・・・ って、自分のゴルフの話はどうでもいい!! (ついつい自分に重ね合わせて読んでしまうもので・・・) 本作をひとことで言い表すならば、“アメリカ版二時間サスペンス”っていう感じかな。 それも二流どころの俳優陣が出てくるやつ(某テレビ○京でやってるような)。 一応殺人事件が起きて、素人&玄人探偵が捜査して、ラスト前に主人公がピンチに陥って、最後には何となく真犯人が指摘されてThe end! お手軽なミステリーがいっちょ上がり! ってとこだろう。 エルギンスも簡単だったんじゃないかな? きっと、豪邸の書斎かどこかで優雅にゴルフ番組でも見て、鼻歌でも歌いながら書いたに違いない! そんな軽~い作品です。 でも次作以降シリーズ化されたということは、一定のファンがついたということなのかな? どんな奴が読むんだろう? 女子プロ好きかな? (確かに最近可愛い女子プロ多いしね。) |
No.1393 | 3点 | 崇徳院を追いかけて- 鯨統一郎 | 2017/11/07 22:20 |
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宮田六郎と早乙女静香のコンビを主役とするシリーズ作品。
「邪馬台国はどこですか」「新・世界の七不思議」「新・日本の七不思議」に続く四作目にして初の長編。 2016年の発表。 ~星城大学の研究者・早乙女静香はバー<スリーバレー>でライターの宮田六郎と知り合った。歴史談義で角突き合わせるだけの関係だったが、どうしたわけか共に京都を旅する成り行きに。ところが、観光と洒落込む間もなく彼らの知人がつぎつぎと奇禍に遭い、被害者との接点に注目した警察はふたりを追及しはじめる。事件を解明すべく奔走する宮田と静香。歴史上の謎につうじるその真相とは?~ これは・・・駄作だな。 特に盛り上がる箇所もなく、作者が何がやりたかったのか分からないまま終了した感じだ。 本シリーズのファンは結構多そうなんだけど、これは読まなくても全然OKだと思う。 タイトルにもなってる“崇徳院”(崇徳天皇or上皇)が史上最強の怨霊っていうのは有名だし、当然本作はそれに新解釈を加えるのだろうという視点で読み進めてきた。 確かに、最終章では宮田の口から新解釈っぽい説が披露されるんだけど、これが相当眉唾っていうか、上滑りしてる。 新興宗教の設定も既視感たっぷりで食傷気味。 やっぱり、短篇ならともかく、小ネタひとつで長編を引っ張るのは無理だったんだろう。 本シリーズは、短篇しかもアームチェアディテクティブでこそ、 ということで、次作以降続けていただきたい。 宮田と早乙女のラブストーリーもいるかなぁー?? 個人的には全然なくていい。(表現も拙すぎるし・・・) |
No.1392 | 6点 | オデッサ・ファイル- フレデリック・フォーサイス | 2017/10/29 21:39 |
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1972年発表のポリティカル・スリラー長編。
“オデッサ”とは、南シベリアの都市名ではなく、”Organisation Der Ehemaligen SS-Augehorigen”(ドイツ語!)の略。 ~“オデッサ”とは、ナチス親衛隊(SS)のメンバーの救済を目的とする秘密組織のことである。ルポライター、ペーター=ミラーをオデッサと結び付けたのは、老ユダヤ人が遺した一冊の日記だった。それによれば、リガの殺人鬼と恐れられたナチ収容所長、ロシュマンは今もドイツ国内に生きているという。日記のある箇所がミラーの注意を惹いた。彼は憑かれたようにロシュマンの追跡を始めた。だが、組織の手は次第にミラーの身辺に及び始めた・・・~ フォーサイス節炸裂!である。 処女長編であり代表作でもある「ジャッカルの日」でもそうだったけど、「追う者」と「追われる者」の追跡劇が今回もプロットの軸に据えられている。 テーマはずばり「ナチス・ドイツ」。若き主人公ミラーは、歴史の闇に潜む謎を追ってドイツ・オーストリアを駆け回ることになる。 ナチスの蛮行についてはいろいろと読んできたので今さら・・・という感がなくもないけど、SS達の犯した殺戮劇が尋常ではないことを改めて知ることとなった。 読者としては、作中、ミラーが命の危険を犯してまでロシュマンを追い続ける理由が謎のままなのが気になる展開になっている。 このWhyについては最終盤に判明するんだけど、ちょっと「いかにも」すぎて、ここまで引っ張るほどじゃないだろ・・・って思ってしまった。 その辺りは捻りがもうひとつという評価になるのかもしれない。 (ノンフィクションじゃなくて、あくまでエンタメだからね・・・) あとは追跡劇もなぁー 追う側は殺し屋まで登場するんだけど、ちょっとマヌケすぎるんじゃないか? 別段警戒してない主人公なのに、勝手にズッこけてるのは作者のお遊びなのか、狙いなのか・・・ 緊張感やサスペンス性が薄れてる感がどうにも目に付いてしまった。 ということで、「ジャッカル-」よりは一枚も二枚も落ちるかなという評価。 面白くないというわけではないんだけどね。 |
No.1391 | 6点 | 群青のタンデム- 長岡弘樹 | 2017/10/29 21:38 |
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~警察学校での成績が同点一位だった戸柏耕史と陶山史香。彼らは交番勤務に配されてからも手柄争いを続けていた・・・。驚愕のラストを知ったとき、物語の表と裏がひとつになる・・・。
ということで、作者得意の警察小説+連作短篇集という体裁の本作。2014年の発表。 ①「声色」=連作の冒頭部となる第一編。紹介文のとおり、耕史と史香は手柄の象徴である「点数」争いを続けていた。そんな中、っ交番に現れる闖入者と意外な真犯人・・・って、いきなりこんな“手”でくるとはねぇー。 ②「符丁」=連続ストーカー事件の犯人を追って、デパートの張り込みを連日続ける史香。史香に不審感を抱くデパート警備員に気を取られるうちに、手柄は耕史の手に・・・。 ③「伏線」=①でも登場した“闖入者”・・・元警察官で耕史の祖父。痴呆症の祖父の世話に手を焼く耕史と施設の嫌われ者の管理者。そして真相は突然に判明するが、一体なにが「伏線」だったのか? ④「同房」=物語はいきなり時代を重ねて、耕史は四十代の警察学校教師となっていた!(突然?)。その警察学校内で起こる銃弾消失事件が本編のテーマ。もうひとりの主要登場人物“薫”の行動もどこか変。 ⑤「投薬」=出世を重ねた史香は、市長の肝いりで市の特命役に就くことに。そして部下の男は何と・・・。そして発生する大きな事件! ⑥「予兆」=物語はさらに時を重ねて・・・。で、ここですげぇ急展開! 一体なんの「予兆」なのか? ⑦「残心」=いよいよ最終章。耕史と史香は何と六十代。舞台は警察ではなく、なんと託児所って、なぜ? そしてエピローグ・・・サプライズが待っている! 以上7編で構成。 企みに満ちた連作集。触れてきたように、耕史と史香というふたりの主役は、ストーリー展開とともに年を重ねていくところが斬新。(この手の作品ではあまりお目にかかったことがないように思う) それもこれも、ラストのサプライズのための伏線だったのか・・・ あまり書くとハードルを上げちゃうし、ネタバレにつながるのでこれ以上は触れない。 でもなぁー・・・何か不自然っていうか、理解不能な箇所が多いんだよねぇ。 ノドに引っ掛かるような感覚。これが作者の狙いなら嵌ってることになるのだが・・・ |
No.1390 | 6点 | 母性- 湊かなえ | 2017/10/29 21:37 |
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2012年発表のノンシリーズ長編作品。
地上波ドラマ化など、相変わらず作者の作品はもてはやされていますが・・・ ~女子高生が自宅の中庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。・・・遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる真相。これは事故かそれとも・・・。圧倒的に新しい「母と娘」をめぐる物語~ これは・・・“ザ・湊かなえ”とでも呼びたくなる作品。 これまで何度も接してきた気がするのは錯覚だろうか? それでも最後まで飽きることなく読まされてしまう。これはやはり、作者の「腕」若しくは「計算」ということだろう。 本作は、ある「母」と「娘」そして「母の母(娘にとっては祖母)」の物語。(そして、時々「父」って感じだ) 血の繋がった母娘なのに、すれ違う想い、どこかねじ曲がった家族関係。 それは全てある台風の日の出来事が原因だった・・・ プロットの主軸は「手記」と「回想」というのが、何ともあやふやで読者を不安にさせる。 悲劇に向かって徐々に不穏な空気が生まれ、まとわりついてくる感覚。 ひとりひとりの登場人物が、それぞれどこかに「嫌な」部分を持っていて、それが読者の心に引っ掛かり、何とも言えないざらざらした感覚を与えていく・・・ まぁ旨いですわ。売れるはずです! ミステリーとしては当然薄味ですけど、これは敢えての薄味っていうか、人間の心をこうでもかっていうくらい抉られると、嫌だ嫌だと思いながらもついつい頁をめくってしまう。 まさに作者の術中にハマってしまう。そんな作品。 他の方も触れているとおり、確かに最終章はいらないというか、ここまでイヤミス風味だったんだから、最後までそれを貫いて欲しかったというのが本音。 激辛なのは分かってるんだけど、敢えて「30倍激辛カレー」を注文したい!みたいな感覚かな・・・ |
No.1389 | 7点 | 狂人の部屋- ポール・アルテ | 2017/10/18 22:41 |
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1990年に発表された作者五番目の作品。
アラン・ツイスト博士シリーズとしては、「カーテンの陰の死」に続く四作目ということになる。 今回も、“フランスのディクスン・カー”に相応しい本格ミステリーなのかどうか? ~ハットン荘のその部屋には忌まわしい過去があった。百年ほど前、部屋に引きこもっていた文学青年が怪死したのだ。死因はまったくの不明。奇怪なことに部屋の絨毯は水でぐっしょりと濡れていた・・・。以来、あかずの間となっていた部屋を現在の当主ハリスが開いた途端に怪事が屋敷に襲いかかった。ハリスが不可解な状況の下で部屋の窓から墜落死し、その直後に部屋の中を見た彼の妻が卒倒したのだ。しかも、部屋の絨毯は百年前と同じように濡れていた。果たして部屋で何が起きたのか?~ シリーズ四作目にして、ミステリーとしてのアイデアは最上位に評価できる作品に思えた。 (前作が酷かったということもあるが・・・) 作品全体にオカルト趣味を漂わせながら、その殆どを合理的に解決することには一応成功している。 (「全て」ではなく「殆ど」というところがミソ。過去の怪事件のことは結局置き去りのままだしね) 中盤までのモヤモヤした展開を、力技とはいえ最終段階でスパッと解決させた手腕は評価できるだろう。 最も感心したのは、作中でも一、二の謎として取り上げられている「予言」について。 単に作品世界を盛り上げる小道具としてではなく、トリックの軸としてうまい具合に処理されている。 本家カーの作品でもオカルティックな小道具は頻出するけど、ここまで有機的に使われている例は浮かんでこなかった。 後は、紹介文でも触れられている「ぐっしょり濡れた・・・」謎。 言われてみれば「そんなこと!」なのだが、伏線としてはあからさまなだけに、逆に効果的な演出だろうと思う。 瑕疵はまぁいろいろあるんだけど・・・ 動機の是非は許すとして(ある意味禁忌だよね)、墜落死の場面の無理矢理感はかなり酷い。 アリバイに関しては読者には推理不可能なレベルだし、○体をそこまで簡単に○○できんだろう! などなど、指摘すれば枚挙にいとまはない。 (ツイスト博士もラストで「(あまりの)偶然の連続」を嘆いてますから・・・) でも、楽しめたかどうかということなら、「結構楽しめた」ということに落ち着く。 本格好きなら手にとって損はないんじゃないかな? |
No.1388 | 7点 | 満願- 米澤穂信 | 2017/10/18 22:40 |
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『磨かれた文体』『完璧な技巧』『至高のエンターテイメント』・・・帯には豪華絢爛な惹句が書かれている。
それもその筈、何しろ史上初のミステリー三冠受賞作なのだから・・・(因みに「このミス」「週間文春ミステリーベスト」「ミステリが読みたい」の全てで第一位) 2014年の発表。 ①「夜警」=横山秀夫の警察小説を思わせる第一編。主人公を通して語られる問題の男“川藤”。殉職した「川藤」の行動を追ううちに判明するある事実。そして反転・・・。心の弱さというのはやはり行動に出るということなのかな。それだけ交番勤務というのは窮屈なものなのかも。 ②「死人宿」=トラベルミステリー風な序盤から、徐々に妙な方向にねじ曲がっていく第二編。自殺志願者は誰なのかというテーマなのだが、思わぬラストが待ち受ける。“旨さ”を感じられる作品。 ③「柘榴」=これは・・・背筋がヒンヤリとさせられる第三編。大人よりも大人な美少女。だいたいこんな男に限って女にモテルんだよね・・・。東野圭吾「白夜行」の主人公・西本雪穂を思い出してしまった。作中では最も印象的な一編。 ④「万灯」=これは・・・皮肉の効いたラストが見事に決まっている。バングラディシュでのやり取りも惹かれたが、そうか・・・まさに「因果応報」ってことだな。殺人の動機っていう意味ではかなり納得がいった。 ⑤「関守」=ラストはこうじゃないかな・・・って思っていたとおりだった。なので、できればもうひと捻りあればということなんだけど、これはこれで十分ゾォーっとする。 ⑥「満願」=これを連城風というなら、まぁそうかなと思わせる最終編。静かで緊張感のある序盤から中盤を経て、主人公の気付きから意外な真相が判明するラスト! まさに短編の見本とも言えるプロット。 以上6編。 作者の熟練した確かな力量を感じさせる作品集・・・ということで良い。 「儚い羊たちの祝宴」は背筋がザワザワするような感覚を残す、仕掛けの強い連作短篇集だったが、それに比べると本作は「王道」のような作品集。ただし、解説の杉江氏も触れているとおり、最後に「ザラリ」という後味が残るというのがいかにも作者らしいということなのだろう。 世評からするとハードルを上げたほうがよいのかもしれないけれど、個人的には十分に満足できる水準だった。 このレベルの作品を連発できるようなら、作者は稀代のミステリー作家ということになる。 まっ、「三冠」というのは偶然なのかもしれないけど・・・ |
No.1387 | 6点 | 生還者- 下村敦史 | 2017/10/18 22:39 |
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乱歩賞受賞作「闇に香る嘘」、二作目「叛徒」に続いて発表された長編三作目。
ミステリーの一分野とも言える「山岳ミステリー」に挑んだ野心作。 2015年の発表。 ~雪崩で死亡した兄の遺品を整理するうち、弟・増田直志はザイルに施された細工に気付く。死因は事故か、それとも・・・。疑念を抱くなか、兄の登山隊に関係するふたりの男が相次いで生還を果たす。真相を確かめたい増田だったが、ふたりの証言は正反対のものだった! ヒマラヤを舞台にいくつもの謎が絡み合う傑作山岳ミステリー~ まずは、作者の取材力に敬意を表したい。 山登り経験者なのかどうか分からないけど、本作を読み進めるほどに作者の丁寧で綿密な取材ぶりに驚かされる。 エベレスト、K2に次ぐ高峰“カンチェンジェンガ”・・・特に最終章での山の描写はなかなかの迫力。 実に映像化に向いた作品だと思う。 ただ、ミステリーとしての骨格は正直弱い。 紹介文のとおり、主たる謎は「山(カンチェンジェンガ)で何があったのか?」なのだが、最終的に反転があることは普通の読者なら途中で察してしまうだろう。 加えて、中盤のやり取りは結構まだるっこしくて、何がプロットの主軸となるのかが曖昧模糊としたまま進んでいくのもマイナス。 ただ、最後のヒマラヤ行の迫力がそれまでのモヤモヤを消し飛ばしていることは大いなる救い。 重厚な筆致も好みが別れるところかもしれない。 デビュー作と同様、良く言えば作者の生真面目さがよく表れているし、悪く言うなら“遊び心のなさ”ということだろう。 そういう意味では好き嫌いがはっきり別れるのかも。 個人的には・・・やや微妙。 「闇に香る嘘」の書評でも触れたが、好きなタイプとは言い難い。 でもまぁ軽めの作品がもてはやされる昨今。こういう生真面目なミステリーがあっても、それはそれで素晴らしい。 (「○○者」っていうと、どうしても折原と被るな。しかも山岳ミステリーとは・・・敢えてか?) |
No.1386 | 6点 | 黒い天使- コーネル・ウールリッチ | 2017/10/08 21:15 |
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「黒衣の花嫁」「黒のカーテン」「黒いアリバイ」に続く、いわゆる“黒のシリーズ”四作目。
前年にはアイリッシュ名義の名作「幻の女」が、翌年には「暁の死線」が刊行されるなど、作者の黄金期とも言える時期に発表されたのが本作。 1943年の発表。 ~夫はいつも彼女を“天使の顔”と呼んでいた。彼女を誰より愛していたのだ。ある日、彼女は夫の服がないことに気付く。夫は別の女性のもとに走ろうとしていた。裏切られた彼女は狂おしい思いを抱いて夫の愛人宅を訪ねる。しかし、愛人はすでに何者かに殺されており、夫に殺害容疑がかかる! 無実を信じる彼女は真犯人を探して危険な探偵行に身を投じる・・・~ ポケミスの旧約版で解説者の都筑道夫氏が、ウールリッチという作家の特徴が一番よく出ているのが本作ではないかとの指摘を行っていて、理由のひとつとして、『~女を書くのがうまい。ことに窮地に立った若い女性を書かせては比類がない』ことを挙げているとのこと。 う~ん。確かに。 何しろ、「天使の顔」などと呼ばれる女性なんて、どんだけ可愛い顔してるだろ? って思いながら読みすすめていた。 しかも、浮気までされた夫なのに、無実を信じて自ら危険も顧みず、果敢に行動するなんて・・・ アンビリーバブル!! ゲス不倫やら、W不倫やら、不適切な関係やら、まさに風紀の乱れ切った現代社会に比して一服の清涼剤のような女性・・・ って思ってたら、オイオイ! やっぱり他の男に行ってるじゃないか!! まぁでもそうだよねぇ・・・浮気されてんだもんね・・・ いくら七十年以上前の話だとしても、普通はその時点で「コイツ許せん!!」ってなるよなぁ。 ということで、最後は納得してしまった。 で、一体どんな作品なのかって? 他の皆さんが書かれてるとおりです。(オイオイ!) 確かに「黒衣の花嫁」とはプロットが似てるし、「幻の女」ともどことなく被ってるように感じます。 でも、そこはアイリッシュ=ウールリッチ好きの人にとっては気にならないのでしょう。 私は・・・結構気になりました。 |
No.1385 | 5点 | 謎亭論処- 西澤保彦 | 2017/10/08 21:14 |
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お馴染み(?)「タック&タカチ」シリーズの短篇集。
タックとタカチ、ボアン先輩とウサコ・・・今回もいつもの四人が酒を飲みながら四方山話といった風情。 「小説NON」誌を中心に書かれた短編をまとめたもの。2001年発表。 ①「盗まれる答案用紙の問題」=ボアン先輩が女子高の教師に! 何て羨ましい・・・。しかも同僚の女性教師が超美人とは! そんな都合のいいことあるのだろうか? 事件は・・・ってもうどうでもいいです。 ②「見知らぬ督促状の問題」=美しい女子大生のもとに届いた家賃の督促状。でもそれは全く身に覚えのないもの。しかも同じ大学の女性だけを狙い撃ちしていた! 推理結果はまぁそんなもんだろうね。 ③「消えた上履きの問題」=舞台は再び①の女子高。消えた上履きの謎もそうだけど、チューバのケースっていうのは例のコンドラバス・ケースをもじっているのか? こんな女子高生ってホントにいるのか? ④「呼び出された婚約者の問題」=結婚したウサコの旦那が警察官で、その夫から最近起きた事件の顛末を聞いて・・・っていう設定。まさにアームチェア・ディテクティヴの典型。 ⑤「懲りない無礼者の問題」=“安槻市”の悪口を言って、近県の“T**市”や“M**市”を持ち上げる・・・何となくその光景が想像できる。でも、この真相はかなり突飛っていうか想定できない! ⑥「閉じ込められる容疑者の問題」=中では一番本格ミステリーっぽい一編。なにしろ「密室」テーマですから。家中の鍵がかかり、玄関にはチェーンロックまでかかっているという堅牢な密室。探偵役となる男性はタカチの前で必死に推理を展開するが・・・ ⑦「印字された不幸の手紙の問題」=さすがに最近聞かないねぇ・・・「不幸の手紙」なんて。SNSでは同種のものが存在するのだろうか? タックの推理はこりゃ「想像」のレベルだね。 ⑧「新・麦酒の家の問題」=シリーズの名作「麦酒の家の問題」をリメークした作品なのだが、前作よりも設定&真相とも強引。 以上8編。 学生時代と社会人設定が混在して時系列がおかしいのが気になるけど、シリーズファンにとっては必読の一冊。 相変わらずタックとボアン先輩は飲んでるし、四人であることないこと推理してるし、このいつもの雰囲気はなぜか安心感がある。 でもまぁやっぱりタカチでしょう。 文庫版巻末解説はズバリ“美女タカチについての考察”というタイトル。 絶世の美女と安槻市(高○市)って、どうもアンバランスな気がして仕方がないけど、本シリーズはやっぱりタカチでもっているんだと思う。 本筋は、って? まぁそこそこっていう感じです。 (ベストは⑥かな。あとはどれもそこそこ・・・) |
No.1384 | 4点 | 牡牛の柔らかな肉- 連城三紀彦 | 2017/10/08 21:13 |
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1992年9月~1993年7月まで「週間文春」誌に連載され、後に単行本化された長編。
「終章からの女」「花塵」とともに、“平成悪女三部作”とも呼ばれているとのこと。(全然知らなかった・・・) ~「剃髪前の私は本当に恐ろしい顔でひとりの男の命を死にまで追い詰めた、人殺しと変わらない女なのですから・・・」。謎に満ちた過去を墨染めの衣の下に隠す美しき尼僧・香順。愛を失い、社会に居場所をなくした男たちを意のままに操る彼女は救世主か、それとも稀代のペテン師か? 万華鏡のごとき目眩く展開の会心作~ これは・・・一体どんなストーリーだったのか? 正直、途中でよく分からなくなった。 果たして、作者は分かっていたのだろうか? 自分がどんな物語を紡いでいたのかを・・・ もしかして、作者も分かっていなかったのではないか、という疑問すらも抱かせる、何とも曖昧模糊としたストーリー。 他の方は本作のミステリー的技巧にも気付かれたようですが、私にはもはや理解不能でした。 尼僧・香順の秘密めいた過去がプロットの中心になっていることは分かりますが、順次登場する男たちとの絡み合いは、どれだけ必要だったのか? 矢沢を思わせる稀代のロックスター桜木準なんて、その登場にどんな意味があったのでしょうか? 参議院選挙出馬には一体どんな意味があったのでしょうか? 最後の最後で、作者らしく反転による決着が付くのですが、このために500頁以上も読まされたのかと思うと、ただ脱力感に苛まれてしまったというのが本音。 巻末解説の香山氏も、さすがに「並みの書き手なら前半だけで読者に見捨てられかねない・・・」というフォローのようなフォローでないようなコメントを残しているのだから、こういう思いは私だけではないのだろう。 いやはや・・・これから本作を手に取ろうとしている方! 心して手に取るようご忠告します! |
No.1383 | 5点 | 見知らぬ乗客- パトリシア・ハイスミス | 2017/09/22 21:52 |
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「リプリー」(「太陽がいっぱい」)で広く知られるP.ハイスミスのデビュー長編がコレ。
発表の翌年にはヒッチコック監督で映画化もされた作品。 1951年の発表。 ~新進建築家のガイは、妻と離婚するために故郷へと向かう列車のなかで、ひとりの青年と出会う。ブルーノーと名乗るその男は富豪の息子で、父親を偏執的に嫌悪していた。ガイが彼に妻とのトラブルについて打ち明けると、ブルーノーは驚くべき計画・・・『交換殺人』を持ちかけた。心理サスペンスの金字塔として読み継がれるハイスミスの処女長編~ 本作のテーマは紹介文のとおり『交換殺人』。 昨今では『交換殺人』をテーマとするミステリーも増殖していて特に珍しくもない。 書き方としては、犯人視点となるのが殆どだから、どうしたって「倒叙形式」になる。 だから、フーダニットはもちろん、ハウダニットやホワイダニットという部分の興味は最初から期待薄となってしまう。 それは本作も同様。 ということで、心理サスペンス的なアプローチとなるわけだろう。 それ自体はまぁいいか・・・という感想になるんだけど、最近の「交換殺人」テーマっていうと、某法月氏の「キングを探せ」をはじめ、トリッキーで捻りの効いたものを期待してしまうだけに、本作に対してはどうしても「地味ィー」って思ってしまう。 でもそれは、“ないものねだり”っていうこと。 こういうテーマを生み出してくれたor広めてくれた作者には感謝。 本筋としては、う~ん・・・如何せん中盤がまだるっこしいよなぁー ブルーノーがアルコールに溺れて狂っていく様子や、罪の意識に犯されるガイの心理などなどが手を変え品を変え表現されていくんだよねぇ・・・ これは文章で追っていくというよりは、映像化に向いた作品なんだろうね。 その方が「余韻」というか、微妙な表現ができるように思えた。 でも本作は作者二十九歳の時の作品だって! それを考えればスゴイと思える。 |