皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1836件 |
No.1416 | 5点 | 虚空の逆マトリクス- 森博嗣 | 2018/01/27 11:31 |
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短篇集としては「今夜はパラシュート博物館へ」に続く第四弾となる。
S&Mシリーズが一編入ってるのがファンとしてはうれしい限り(なんだろうな)。 2003年の発表。 ①「トロイの木馬」=当然、あの有名な逸話がモチーフとなっているわけだけど、アレを森博嗣風にアレンジするとこういう感じになるんだねぇ・・・ということ? 入れ替わりが激しくて、最後は何が何だか分からくなったのは私だけだろうか。 ②「赤いドレスのメアリイ」=“奇妙な味”のミステリーっていうところだろうか。どこかで読んだような、焼き直しのような気はするけど、何ともオシャレな感じに仕上がってて、後味は悪くない。 ③「不良探偵」=途中、「これってもしかしてまともな謎解きミステリーなんだろうか?」と思ってしまった。オチは腰砕けのような、残尿感が残るような・・・。 ④「話好きのタクシードライバー」=『ヒトシ松○のスベラナイ話」に出てきそうなストーリー(特段笑いはないけど)。これって、作者が体験した実話なのか? ⑤「ゲームの国」=他の皆さんがおっしゃるように、とにかく「回文」「回文」またまた「回文」というお話。もう、本筋なんてどうでもよい。ところで、回文好きのサークルや集まりって、そんなに多いんだろうか? ⑥「いつ入れ替わった?」=S&Mシリーズ。またまた犀川先生と萌絵の歯痒い関係が描かれる・・・(もういいって)。本筋としては、誘拐事件の最中、身代金入りのカバンが石ころ入りのカバンに入れ替わる、っていう面白い謎なのだが・・・なんかうやむやで終わった感。 以上6編。 これは、森博嗣ファンブックだね。 ファンにとっては、犀川と萌絵のその後なんて堪らないだろうし・・・ 他の作品もひとことで言うなら「ごった煮」っていう感じなのだが、作者らしさという意味では“いかにも”ということかな。 長編ではできない、しないことも短編だからできるということなのだろう。 佳作とは言えないけど、決して嫌いではない。 そういう感想。 (ベストは?と問われたら、②or⑤かな・・・) |
No.1415 | 3点 | ナイフが町に降ってくる- 西澤保彦 | 2018/01/27 11:29 |
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1997年発表のノンシリーズ長編。
作者お得意の「SFミステリー」。要は“有り得ない設定”という奴です。 ~「どうなっちゃうの?」。女子高生・真奈は絶句した。突如「時間が停止」したのだ。謎の青年・末統一郎が何かに疑問を抱くと、この現象が発生するという。そして今まさに、ナイフの突き立った死体が眼前にあった。しかも、至るところに! この謎を解かない限り、ふたり以外すべての人間、物体は永遠にストップ状態。「時間牢」脱出をかけたふたりの謎解きが始まった!~ もちろん、この時期の作者なんだから、「特殊設定」というのは分かる。 でも・・・これはないだろう! 多分、最初から「ストップモーション」設定という“縛り”を自らに課したのだと思うが、いくらなんでも無理やりすぎる。 why done itも本当にこれでいいのかぁー? こじつけというか、何でもありというか、もうどうでもいいというか・・・ よくまぁ出版側も了承したよなぁ・・・ これ以上あまり書くことはない。 とにかく“イタイ”作品だった。 主人公ふたりのキャラも同様。相当“イタイ”。 |
No.1414 | 5点 | 恋恋蓮歩の演習- 森博嗣 | 2018/01/10 22:30 |
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2001年発表のvシリーズ第六作。
何とも意味深なタイトルだし、英文タイトルは“A Sea of Deceits”・・・ よく分かんねぇ・・・ ~世界一周中の豪華客船ヒミコ号に持ち込まれた天才画家・関根朔太(せきねさくた)の自画像を巡る陰謀。仕事のためその客船に乗り込んだ保呂草と紫子。無賃乗船した紅子と練無は、完全密室たる航海中の船内で男性客の奇妙な消失事件に遭遇する。交錯する謎、ロマンティックな罠。スリリングに深まるvシリーズ長編第六作!~ 航空機内の密室殺人を扱った前作「魔界天翔」。 お次は、豪華客船内で起こる不可思議な消失事件がメインテーマとなる。 航空機⇒船というのは作者らしい稚気なのか、最初からの計算ずくなのか? 前作でも、発生する事象は何とも「曖昧模糊」とした形をとっていたが、本作ではさらに「曖昧模糊」さがレベルアップした印象だ。 いったい何が書きたかったのか? 単にミステリーの一形態としての「船上ミステリー」に取り組みたかったのか? ラストで判明することとなるサプライズについても、恐らく本シリーズファンなら中途で「もしやそうではないか・・・」と薄々察したはず。 (かくいう私もそうだが) そんなことは作者も折り込み済だろうからなー 保呂草VS鈴鹿一族VS各務、そしてVS紅子、おまけでVS祖父江・・・ この図式は前作と同様なのだが、それぞれがそれぞれの思惑を抱いてついたり離れたり・・・ 何ともスマートでスリリングな展開。 もはや探偵を主役とした本格ミステリーというよりは、盗賊を主役としたアルセーヌ・ルパン或いはルパン三世シリーズのような風味になった感のあるシリーズ。 今後の展開は気になるけど、徐々に個人的な好みからは外れていってる印象。 でも、やっぱり気になる。特に保呂草の行く末に・・・ |
No.1413 | 6点 | 十二本の毒矢- ジェフリー・アーチャー | 2018/01/10 22:29 |
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J.アーチャーお馴染みの作品集。
どうも本作が「十○・・・」タイトルのシリーズ初っ端の作品だった模様。 1980年発表。『毒矢』に相応しい『毒』は含まれているのか? ①「中国の彫像」=価値があると思っていたものに価値はなく、価値なんかないだろうと思っていたものに価値がある。まぁ人生においてはよくある話です。多分。 ②「昼食」=いつの時代でも、古今東西問わず、男の“見栄”って奴は共通ってことなんだろう。例え、財布には小銭しか入ってなくても、大枚入ってるフリをしたい! 要は「小物」ってことかな。 ③「クーデター」=ひとことで言い表すならば、「万事塞翁が馬」っていうことなんだろうか?(合ってるのか?)。変な肩肘を張っていたことに気付いたとき、素直になれる人間は強い。 ④「最初の奇蹟」=キリスト教徒でないとイマイチ理解できないお話。ラストはキリストの故事に絡んだオチなのだろうと思う。 ⑤「パーフェクト・ジェントルマン」=これもオチが今ひとつ理解できず。プロットとしては作者の短編によくある手なのだが・・・(要は「風刺」) ⑥「ワンナイト・スタンド」=これも②と同様、「男の見栄」に関するお話。そんな男が「女の計算高さ」を前にしたら、赤子の手を捻るように、いいようにやられてしまう・・・。なんか、最近の文春砲の数々を思い出してしまった・・・ ⑦「センチュリー」=クリケットに関するお話なのだが、クリケットのルールを知らない読者に対しても、親切なことにラストでルールの解説をしていただいてる。でも、それでも分からん! ⑧「破られた習慣」=これが一番「赤面」だな。勝手に意識して、勝手にコケて、っていうことなんだけど、電車の中の日常の風景に落とし込む当たりが旨いよね。 ⑨「ヘンリーの挫折」=これは「見栄」+「赤面」かな。こういうお話も結構作者に多いパターン。 ⑩「信念の問題」=スコットランドの堅物の信念VSメキシコ人のラテン系信念、っていうお話。我慢できんよね。 ⑪「ハンガリーの教授」=ハンガリー人の老教授とイギリス人の若手アスリートの一日限りの交遊録。結局、「見てもないくせに・・・」っていう皮肉が書きたかったんだよね? ⑫「ある愛の歴史」=ふたりの天才の男女の愛の形を描いた最終譚。なまじ頭がいいだけに素直でなくひねくれてる。 以上12編。 こういう形式の短編はさすがの出来栄え。ただ、後年の作品の方がこなれてきた分、インパクトは大きいように思えた。 本作はそういう意味ではインパクトにやや欠ける作品が多かったかもしれない。 でもまぁ、十分楽しめたし、まずまず評価していいのではないか。 (個人的には③⑧当たりがオススメ。後は①かな) |
No.1412 | 7点 | 花嫁のさけび- 泡坂妻夫 | 2018/01/10 22:27 |
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2019年最初の読書となった本作。
最近、過去の名作(?)をどしどし復刊している河出文庫が「三作連続復刊!」と称して発表予定の作者過去作品の第一弾。 もともとは1980年の発表。 ~映画界のスター・北岡早馬と再婚し、幸せの絶頂にいた伊津子だったが、北岡家の面々は数ヶ月前に謎の死を遂げた先妻・貴緒のことが忘れられず、屋敷にも彼女の存在がいまだ色濃く残っていた。そんなある夜、伊津子を歓迎する宴の最中に悲劇が起こる。そして新たな死体が・・・。傑作ミステリー遂に復刊!~ う~ん。脂の乗り切った「実に旨い」作品だった。 幕開けから中盤過ぎまでは静かに進行していく展開。まさにイントロダクションなのだが、実はこのイントロダクションに結構な仕掛けが施されていたことが後々判明することになる。 中盤もかなり過ぎてからついに殺人事件が発生し、それ以降は急展開。 読者は急転直下、実は作者の企みに乗せられていたことに気付く。 これはいわゆる「反転」っていうことなのかな? 読者はまるで鏡に映った別の姿を見せられていた・・・っていうこと。(合ってるか?) 貴緒という強烈な印象を与える人物に、実は大いなる欺瞞が仕掛けられていたわけだ。 「蛇」の件にしても、「なんでこんな小道具を?」って考えてたけど、まさかアノためとはねぇ・・・ (でも、この見○ち○いは苦しいのではないか?) 細かいところではいろいろと瑕疵やら突っ込みどころは多そうなんだけど、何よりこの作品世界っていうか雰囲気に最後まで乗せられた感が強い。 巻末解説では「レベッカ」との比較云々に触れられてるけど、未読のためそこはよく分からなかった。 まぁ、読んでみてもいいかな・・・ (第二弾「妖盗S79号」、第三弾「迷蝶の島」も未読のため楽しみ!) |
No.1411 | 6点 | 福家警部補の報告- 大倉崇裕 | 2018/01/03 11:11 |
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「挨拶」「再訪」に続く第三弾は「報告」か・・・
『白戸修』と並び、作者を代表するシリーズとなった感のある福家警部補シリーズ。 先行して「ミステリーズ」誌に発表されたものをまとめたもの。2013年発表。 ①「禁断の筋書」=前作(「再訪」)では仲違いした漫才コンビによる殺人劇があったが、今回は同じく漫画家を目指していた女性ふたりが愛憎渦巻く殺人劇を展開する。通常、倒叙形式ならば十分に準備された事件を解き明かす・・・という形式になるはずが、今回は“もののはずみ”で起こってしまった事件が相手となる。それだけ「抜け」が多いのも事実で、早々に福家警部補に勘付かれることになる。 ②「少女の沈黙」=「中編」と言っていい分量のある作品。それだけ読み応えあり。任侠の世界で筋を通そうとする男というキャラは“今どき?”っていう気はするけど、しんみりさせられるラストもなかなか。 ③「女神の微笑」=ある意味、「殺人鬼」との対決が描かれる最終章(そんな雰囲気ではありませんが・・・)。動機は首肯しがたいけど、倒叙形式だとこういう魅力的な犯人キャラが必須でしょう。ラストの言葉(『楽しかったわ。またお会いしましょう。』)がオシャレ(!?) 以上3編。 うん。なかなかの出来栄えだと思う。 何より、主人公たる福家警部補の魅力が大きい。 倒叙といえば、やはり先人たち(コロン○警部や古○任三○)のように、少なくとも探偵役がキャラ立ちしていなくてはお話にならない。 その点、シリーズ三作目となって、堂々たる安定感を獲得したという感がある。 警察手帳を探すくだりも、お約束なんだけどそれがないと何だか落ち着かないっていうか・・・ とにかく、シリーズは十分軌道に乗ったと言えるのではないか? で、本筋なんだけど・・・ 作品の水準としては前二作の方がやや上かな。 ①でも触れたけど、①や②は無計画な殺人事件になっていて、そこが倒叙としてはちょっと弱いのかなという気がした。 やっぱり、緻密な計画犯罪VS探偵という図式がベストだろう。 今回、福家警部補が神格化されすぎた感はあるので、次は彼女が冷や汗をかくところも見たいかな。 などと、考えてしまう。 (ところで、彼女は独身なのかな? 多分そうだよな) |
No.1410 | 4点 | 007/カジノ・ロワイヤル- イアン・フレミング | 2018/01/03 11:10 |
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言わずと知れた007=ジェームズ・ボンド。
フレミングが発表した小説第一作目が本作なのは知らなかった・・・ 1953年の発表。 ~英国が誇る秘密情報部。なかでもダブル零(ゼロ)のコードを持つのは、どんな状況をも冷静に切り抜ける腕利きばかり。党の資金を使い込んだソ連の大物工作員がカジノの勝負で一挙に穴埋めを図るつもりらしい。それを阻止すべく、カジノ・ロワイヤルに送り込まれたジェームズ・ボンド。華麗なカジノを舞台に、息詰まる勝負の裏で、密かにめぐらされる陰謀。007ジェームズ・ボンド登場!~ ファンの方には申し訳ないけど、個人的には全く思い入れのない“007”シリーズ。 小説として読んだらこんな感じだったんだねぇ・・・ なる程。正直、趣味には合わなかった。 もちろん時代性もあるし、シリーズ一作目でこなれてないということもあるんだろうけど、全般的に陳腐さが目立った印象。 唯一、敵(ル・シッフル)とのバカラ勝負のシーンだけはやや興奮したけど、ボンドが窮地を脱したあとのヴェスパーとの“ラブゲーム”(?) ありゃないだろう。 もう展開が見え見えではないか? ジェームズ・ボンドのキャラも今ひとつ確立されてない感じがして、勝手な思い込みよりも、かなり軟派な印象だった。 序盤は「女なんて邪魔なだけだ・・・」とかなんとか言ってたくせに、大怪我を負った後は、ひたすらヴェスパーを追いかけ、求婚までする始末! ホロ苦い結末となるラストが救いかも知れない。 というわけで、うーん、高い評価は無理かな。 地上波でさんざん流された過去の映画も見たことないんけど、これからも多分見ないな・・・ |
No.1409 | 7点 | 風の墓碑銘- 乃南アサ | 2018/01/03 11:09 |
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2019年。そして平成最後の年となる30年。明けましておめでとうございます。
今年最初の書評ですが、実際に読了したのは昨年末ということで、新年一発目は未読の状態・・・(どうでもいいことですが)。では、今年もよろしくお願いします。 “女刑事 音道貴子シリーズ”の長編。 「凍える牙」以来になる、滝沢刑事との“迷”コンビが復活! 2006年の発表。文庫版で上下分冊の大作。 ~貸家だった木造民家の解体現場から白骨死体が発見された。音道貴子は家主の今川篤行から店子の話を聞こうとするが、認知症で要領を得ず収穫のない日々が過ぎていく。そんな矢先、その今川が殺害される・・・。唯一の鍵が消えた。捜査本部が置かれ、刑事たちが召集される。音道の相棒は滝沢保だった! 『凍える牙』の名コンビが再び、謎が謎を呼ぶ難事件に挑む傑作長編ミステリー~ またまた音道貴子である。 葉村晶も好きだが、音道貴子はもっと好きなのだ。 なぜだろう? 健気だからかな? ついに三十六歳になった貴子。でも寒い冬の日も、暑い夏の日も、靴底をすり減らして歩き回る毎日。 今回は信頼していた先輩にも裏切られ、ついに恋人にまでも・・・ 『頑張れ!!』って思うではないか!! でも、やっぱり女は強いしかなわない。 男ってどこか割り切れないもんだけど、割り切った女ほど強いものはない。 本作でも、並み居る刑事たちを差し置いて、貴子の推理&直感が冴えまくる。 そして、ついに姿を現す鬼畜のような真犯人! コイツは実にふてぇ野郎だ!! 終章の取調室で、彼女の怒りが爆発する場面こそ、本作の白眉かもしれない。 そして、薄日が差すかのようなラスト・・・ 『よかったなぁ・・・』と肩を撫でてやりたいような気分にさせられた。 分かりましたか? 本作の内容? 分からないでしょうねぇ・・・ (本作以来続編が発表されていない! 何とか続編をお願いできないものか! 切に願う) |
No.1408 | 7点 | 暗い越流- 若竹七海 | 2017/12/21 23:02 |
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雑誌掲載の三編に書き下ろしの二編を加えて単行本化された短篇集。
2014年発表。 表題作で第66回日本推理作家協会賞短篇部門も受賞。 ①「蠅男」=これは葉村晶シリーズで、彼女はまだ三十代という設定。というわけで割とアクティブに活動するわけだが、例によって“予想外の不幸”に遭遇することとなる。しかも「蠅男」である。いやだいやだ! こんな目に遭うなんて自分なら絶対に嫌だ!・・・って思った。 ②「暗い越流」=凶悪な死刑囚に届いたファンレターという魅力的な冒頭部から始まる表題作。事件はやがてあらぬ方向へ・・・っていうことになるんだけど、探偵役の「私」の境遇と徐々にシンクロしてきて・・・。作者の旨さが光る一編。 ③「幸せの家」=これも読者の引き込み方が旨い。大方のケリがついたあとで更にもうひと捻り・・・っていうのがなかなか。個人的にはこれがベストかも。 ④「狂酔」=ある男の独白だけで構成された作品。男が過去に巻き込まれた事件、そして現在進行形の事件。ふたつが徐々にシンクロしてきて・・・ラストに突如訪れる衝撃! ⑤「道楽者の金庫」=これも葉村晶シリーズなのだが、①よりも時代は進み、彼女も四十代に突入して・・・っていう設定。四十歳を超えても相変わらず不幸に遭遇してしまう彼女。今回の相手は何と「こけし」だ!(新日本プロレスのレスラーじゃないよ!) 以上5編。 葉村晶シリーズはもう安定感たっぷり。安心して楽しめる。 最近、人気に拍車がかかってきた感があるから出版側からの要望も強いかもしれないけど、あまり乱発させないで大事に続けて欲しいシリーズだと思う。 ノンシリーズの作品もなかなか上質。 それほどトリッキーとか斬新なアイデアが盛り込まれているわけではないけど、脂の十分のった作者の腕前が楽しめる作品。 推理作家協会賞の受賞も頷ける。 ということで高評価。 |
No.1407 | 5点 | 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー | 2017/12/21 23:01 |
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「夜歩く」に続いて発表されたアンリ・バンコランを探偵役とするシリーズ二作目。
原題“The Lost Gallows”。1931年発表。 今般、約六十年振りの新訳版で読了。 ~怪しげな人々が集うロンドンの会員制クラブを訪れたパリの予審判事アンリ・バンコラン。そこに届く不気味な絞首台の模型に端を発して霧深い街でつぎつぎと怪事件が起こる。死者を運転席に乗せて疾駆するリムジン、実在した絞首刑吏を名乗る人物からの殺人予告、そして地図にない幻の<破滅街(ルイネーション)>・・・横溢する怪奇趣味と鮮烈な幕切れが忘れがたい余韻を残す、カー初期の長編推理~ 「夜歩く」の書評でも書いた気がするけど、初期のアンリ・バンコランシリーズは、どうしても「習作」っていう感覚が拭えない。 四作目の「蝋人形館の謎」辺りまでくると、だいぶ“こなれてきた”印象になるんだけど、本作はどうにもプロットの未整理が目について、読みにくいこと甚だしい。 途中までは、一体どういう事件が起きて、事件の背景はどうなっていて、容疑者(として考えられるのは)どんな奴で、っていう基本的な事項がなかなか頭に入ってこない。 (新訳版でこれだから、旧約版では更に・・・って感じだったんだろうね) もちろん紹介文のとおり、「喉をかき切られた死者が運転する自動車」や「無人の部屋に突然出現する置物」など、カーお得意のオカルト&不可能趣味は登場するし、バンコランの造形も相まって、独特の作品世界を醸し出しているところは他の方も触れているとおり。 フーダニットはさすがにカーっていう感じで、まずまずのサプライズ感を味わうこともできる。 などと書いてると、それなりのレベルなんじゃないって思われそうだけど・・・ やっぱり・・・高い評価はできないなぁー トリックにしても腰砕けっていうか、「そんなこと!」っていうツッコミが入りそうなもんだしね。 こういう雰囲気が好きな人向け、っていうだけの作品ということかな。 ちょっと辛口かもしれんが・・・ |
No.1406 | 6点 | 少女Aの殺人- 今邑彩 | 2017/12/21 22:59 |
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1995年発表の長編。
作者あとがきを読んでいると、文庫化に当たってノベルズ版から大幅に手を加えたとのことだが・・・ ~『養父に身体を触られるのが、嫌でイヤでたまりません。このままでは自殺するか、養父を殺してしまうかも・・・』。深夜放送の人気DJのもとに届いたのは、「F女学院の少女A」という女子高生からのショッキングな手紙だった。家庭環境から当てはまる生徒三名の養父は、物理教師、開業医、そして刑事。直後、そのうちのひとりが自宅で刺殺され・・・~ この作者の作品って、やっぱり平均値高いよなぁー って思った。 よくできていると思う。 何て言えばいいのか、読者を作品世界に引き摺り込む術に長けているのだ。 “養父と娘の二人暮らし”っていう特殊環境の生徒が偶然にも同じ高校に三人もいて、しかも三人の養父が徐々に繋がってきて・・・ そこに人気DJと高校教師が絡まってきて・・・ って感じで、読者はついつい頁をめくらされてしまう。 探偵役となる中年刑事のキャラも程よく、真犯人も程よく魅力的。 実にまとまってると思う。 確かに「分かりやすい」「察しやすい」という批判は首肯できる。 「少女A」=(イコール)『あの人』だろう、と多くの方は終盤前には気付いてしまうかもしれない。 それがバレると、ドミノ倒しのように事件の構図が読めてしまう。 確かに・・・ やっぱり私が単純なのだろうか? 「多分こうなんだろうなぁー」って思いながらも、興味は減じることなく読了してしまった。 これはもう作者とのフィーリングの良さっていうことかな。 (返す返すも作者の死去が惜しまれる) |
No.1405 | 4点 | 風の証言- 鮎川哲也 | 2017/12/11 22:47 |
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鬼貫警部/丹那刑事。安定感抜群のコンビが登場するシリーズ長編。
長編とはいっても、もともとは「城と塔」という中編を引き伸ばしたもの(とのこと。もちろん悪い意味ではなく)。 1971年発表。 ~井之頭公園に隣接する植物園で音響メーカーの技師とバレエダンサーが死体となって見つかった。技師が同僚に「うちの研究がライバル会社に盗まれた件だが、スパイの正体をこの目で見届けたよ」と告げていたことから、疑惑を糾す矢先に消されたと判明。当局は色めき立つ。しかし最有力容疑者である男は、堅牢なアリバイを楯に犯行を否認。調べれば調べるほど膠着状態に陥る難局に挑む丹那刑事は、ある日歯科医院で思いがけない大発見をするのだが・・・~ 1971年というと後期の作品ということかな。 個人的には作者も、鬼貫警部シリーズも大好きなんだけど、本作はどうにも評価できない。 作家としての峠を越えてしまったせいかのか、マンネリなのか、中編を引き伸ばしたせいなのか、そこのところはよく分からないけど、傑作をつぎつぎと送り出していた全盛期と比べるべくもない・・・っていう感じだ。 鬼貫警部シリーズというともちろん「アリバイトリック」なのだが、本作は「時刻表」はいっさい登場せず、二つの「写真」に関するトリックがメインテーマとなる。 ただ、これがどうにもピンとこないのだ。 他の作品でも写真がアリバイトリックに使われたケースがあったけど、これでは鬼貫警部の存在価値が半減すると思うのは私だけだろうか・・・ 作品としてのランクが一枚も二枚も下のように感じてしまう。 あと「双子トリック」・・・これもちょっと酷くて、トリックとは呼べないレベル。 唯一、タイトルの意味が浮かび上がる終章だけが作者のセンスを味わうことができた。(なるほど、だからこのタイトルね) ということで、否定的なコメントばかりとなった本作。 でもまぁ正直なところ、本シリーズ中では今のところ最低ランクの作品だと思う。 もちろん、他に面白い作品が多数あるからということではあるけど・・・ (結局、最初のオメガ電機のくだりは何だったのか??) |
No.1404 | 5点 | ロウフィールド館の惨劇- ルース・レンデル | 2017/12/11 22:46 |
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1977年発表の長編。
「館」と名はつくものの、いわゆる日本の「館もの」とは一線を画すようで・・・ ~ユーニス・バーチマンがカヴァディル一家四人を惨殺したのは、確かに彼女が文字が読めなかったからである。ユーニスは有能な召使だった。家事を万端完璧にこなし、広壮なロウフィールド館をチリひとつなく磨き上げた。ただ、何事にも彼女は無感動だったが・・・。その沈黙の裏でユーニスは死ぬほど怯えていたのだ。自分の秘密が暴露されることを。一家の善意がついにその秘密を暴いたとき、すべての歯車が惨劇に向けて回転を始めた・・・~ ということで、本作は本格ミステリーではなく、サスペンスに分類される作品。 で、何といってもユーニス・バーチマンである。 コイツがなかなかのキャラクターなのだ。 そしてもうひとりの悪女ジョーン・スミス。こいつも結構ヒドイ。 悪女ふたりが奇跡的に出会い、融合してしまう刹那。こんな恐ろしい結末が待っていようとは・・・ 他の方も触れているように、冒頭の一文。 それだけで、読者を作中世界に引き込むことに成功した作者の作戦勝ちだろう。 読者はユーニスの発言や行動を知るごとに、彼女に薄ら寒い感情を抱き始める・・・ もちろん「文盲」に対する劣等感あってこそなんだけど、それ以上にあらゆる物事に感情を示さないことへの恐怖。 ロウフィールド家の人々も徐々に彼女の冷え切った心の中に気付き始めるんだけど、時すでに遅し、ってことになる。 評価としてはどうかなぁ・・・ 個人的にあまり好みのタイプとは言えなかったなぁ。 結末に向けて徐々に盛り上がってくるサスペンス感は確かにあったんだけど、今ひとつ興に乗らなかったというか、角度が若干ズレてるっていうのか・・・ 理由はよく分かりません。 |
No.1403 | 3点 | 屋上の名探偵- 市川哲也 | 2017/12/11 22:44 |
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~東京から来た黒縁メガネにおさげ髪の転校生、蜜柑花子という変わった名前のおとなしめの少女。普段は無口な彼女だが、鮮やかな推理で瞬く間に事件の犯人の名前を挙げる・・・~
というわけで、「名探偵の証明」シリーズの外伝的位置付けの連作短篇集(とのこと)。 ①「みずぎロジック」=愛する「姉」のスクール水着が消えた!という重大な事件が発生。現場に残された学校シューズと掃除用具が入ったロッカーという物証をもとに花子の推理が冴える。 ②「人体パニッシュ」=喫煙していた生徒を捕まえようとする教師。追い詰めたと思いきや、くだんの生徒は煙のように消えていた・・・。ということで大げさにいえば「人間消失」の謎に挑む第二編。ただ・・・このトリックはかなりショボイ。 ③「卒業間際のセンチメンタル」=分刻みのアリバイがテーマとなる第三編なのだが、花子の推理はとてもではないが「鮮やか」とは言い難い。 ④「ダイイングみたいなメッセージのパズル」=タイトルどおり“ダイイングメッセージ”がテーマとなる最終譚(死んではないんだけどね)。途中、ダイイングメッセージの分類を試みるなど(先例があるのかな?)、本作中では最もミステリー色の強い作品。ただ、中身のレベルは?? 以上4編。 「なんで、こんなの手に取ったんだろ??」って思わざるを得なかった。 どうにもこうにも褒めるべきところがなかったというのが偽らざる感想。 ロジックとかトリックもそうなんだけど、まずは「読み物」として失格ではないかと思う。 途中、飛ばし読みした箇所多数。 それでも大筋理解できたということで、本作のレベルが分かろうというものかな。 本作はシリーズ外伝というべき作品みたいなんで、もしかしたら長編はまともなのかもしれないけど(鮎川哲也賞だしね)、うーん。 読まないだろうね。 キャラクターも結構ヒドイと思う(かなりイタイ)。 |
No.1402 | 6点 | 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン | 2017/11/29 21:11 |
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「ハートの4」「悪の起源」へと続く“ハリウッド・シリーズ”の一作目に当たる本作。
1938年の発表。 原題“The Devil to Pay”(創元版では「悪魔の報復」だが、「報酬」の方が正しいように思える・・・) ~倒産した発電会社の社長ソリー・スペイスがハリウッドの別荘で殺された。彼は倒産にも関わらず狡猾な手段で私腹を肥やし、欺かれた共同経営者や一般投資家から恨みをかっていた。そして、正義感の強い彼の息子もまた父を憎んでいた。警察は直ちに共同経営者を逮捕したが、E.クイーンにはこの事件がそれほど単純でないことを見抜いたのだ・・・~ これって、年代順でいえば「日本樫鳥の謎」の次に発表された作品なんだね。 何となくかなり後期の作品かなぁっていう感覚だったんだけど、国名シリーズのすぐ後に書かれたというのが意外だった。 (ファンの方にとっては当たり前のことでしょうが) それはともかく、前評判の低さよりは「まずまず楽しめる」レベルのように感じたのだが・・・ 確かに作品全体に“浮ついた感”みたいなものが漂ってる。 これはハリウッドの成せる技なのか、はたまた作風の転換を図っていたためなのか・・・ 主役級の男女ふたりのやり取りがどうにも“イタい”印象はあって、これに馴染めないという方も多いのだろう。 これを最後の最後まで引っ張る当たり、小説家としての(ミステリー作家としてではなく)クイーンの才能にやや疑問符すら感じてしまう。 ただ、終章でみせるエラリーの真相解明場面は一定のキレっていうか、「あぁやっぱりクイーンだね」という満足感は覚えさせてもらった。 物証なんかは後出しというか、読者が推理できるほどの伏線になっていないようには思えるんだけど、冷静に考えれば真犯人には行き着くよう配慮がなされている。 第三者が“余計な手出しをする”というプロットもマズマズ機能しているのではないか? ということで、そこそこor水準級の評価はしたい。 でも、他の佳作と比べちゃうと、どうしてもねぇ・・・っていう感じにはなる。 (エラリーの変装は絶対気付くと思うんだけど・・・) |
No.1401 | 6点 | 眼球堂の殺人~The Book~- 周木律 | 2017/11/29 21:10 |
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2013年発表。
第47回のメフィスト賞受賞作であり、当然ながら作者のデビュー作。(もう40回以上も続いているということが驚き!) その後に続く「~堂シリーズ」の第一作目でもある。 ~神の書、“The Book”を探し求める者、放浪の数学者・十和田只人が記者の陸奥藍子と訪れたのは、狂気の天才建築学者・驫木煬(とどろきよう)の巨大にして奇怪な邸宅・「眼球堂」だった。ふたりと共に招かれた各界の天才たちをつぎつぎと事件と謎が見舞う。密室、館。メフィスト賞受賞作にして「堂」シリーズ第一作となった傑作ミステリー~ 序盤に挿入された「眼球堂」の平面図&立面図。 これを見ただけで、本格ファンならば大凡のトリックに気付くのではないか? 斯く言う私はどうか? ここでは気付かなかったが、さすがに中盤に差し掛かる頃には気付いた! 気付いて以降、なぜ“天才数学者”と称される探偵役・十和田がこのトリックに気付かないのか、それにイライラさせられた。 どうみても、島田荘司や綾辻、はたまた森博嗣の影響を存分に受けた二番煎じ・・・って誰かにこき下ろされる・・・ って思ってた矢先。 この作品はエピローグ以降が肝だったんだね。 これもまぁ想定内っていう手練の読者も恐らくいるのだろうが、ここまでアイデアを盛り込んできたことは素直に評価したい。 さすがにメフィスト賞受賞は伊達ではないということかな。 どうしても好き嫌いがはっきり分かれそうな作品なのは間違いなし。 リアリテイの欠片もない(?)トリックを“バカミス“と捉える方もいるだろうし、無機質でハリボテのような登場人物に後ろを向く方もいるだろう。 要はメフィスト賞作品が好きかどうか。嫌いと言うなら本作は手を出さない方がいいのでは・・・ 私はというと・・・続編も読むと思います。 |
No.1400 | 5点 | 御手洗潔の追憶- 島田荘司 | 2017/11/29 21:09 |
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~「ちょっとヘルシンキへ行くので留守を頼む・・・」。そんな置き手紙を残し、御手洗潔は日本を去った。石岡和巳を横浜に残して。その後、彼は何を考え、どこで暮らし、どんな事件に遭遇していたのか。活躍の場を世界へと広げた御手洗の足跡をたどり、追憶の中の名探偵に触れる番外作品集~
2016年発表。 ①「御手洗潔、その時代の幻」=LA在住の“あの方”が何と御手洗にインタビュー。 ②「天使の名前」=この作品こそ本作の白眉。御手洗の父親が戦前・戦中に遭遇した数奇な運命。そして御手洗の出生の秘密とは? というわけで、そこまで神秘的にしなくても、っていう気はした。 ③「石岡先生の執筆メモから」=犬吠里美がけっこうウザイ。 ④「石岡氏への手紙」=レオナから石岡への手紙という形態。 ⑤「石岡先生、ロング・ロングインタビュー」=永遠の小市民キャラ・石岡和巳へのインタビュー。インタビュアは①と同様、アノ方。 ⑥「ジアルヴィ」=?? ⑦「ミタライ・カフェ」=北欧の街・ウプサラ市。スウェーデン第四の都市であり、ノーベル賞受賞者を四人も輩出したウプサラ大学が著名な美しい古都・・・。行ってみてぇー 以上7編。 「追憶のカシュガル」と同様、ノン・ミステリーの連作集であり、御手洗潔及び石岡和巳のファンブックである。 よって、ファンでない方はスルーしても全く問題なし。 ファンという方も特段手に取る必要はない。その程度の作品。 ただし、②だけは別。「追憶のカシュガル」でも戦時中が舞台となる作品(「戻り橋と彼岸花」)があったが、今回はスケールアップし、日米開戦を何とか阻止せんとする気鋭の外交官として御手洗の父親が初めて(?)登場することとなる。 既視感のあるプロットではあるけど、やはりそこは島田荘司。行間からは何と言えない圧というか、エネルギーが迸るようだった。 この熱量がある限り、例えどんな批判があろうとも、島田荘司は永遠に不滅だと思う。 (願わくは吉敷竹史も復活させてはくれまいか、と切に願う私・・・) |
No.1399 | 7点 | 殺人鬼- 浜尾四郎 | 2017/11/18 10:56 |
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前から読もう読もうとしていた作品。(最近こういう書き方をしているケースが多いような気がする・・・)
ちょうど1,400冊目の書評に当たっていたため、今回本作を手に取ることにした次第。 創元文庫の「浜尾四郎集」収録版にて読了。1931(昭和6)年、名古屋新聞にて連載開始、翌1932年に単行本化された作者畢生の大作。 ~ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』に触発され、製紙王・秋川一家にまつわる連続殺人事件をテーマにして描かれた「殺人鬼」は、戦前日本探偵小説中、随一と言っていい本格物の一大収穫である。また、真の探偵小説は理論的推理による真犯人の暴露でなければならない、との持論を実践した作品でもある~ これは・・・実に重厚、実にクラシカルな一大本格探偵小説だな。 文庫版で500頁超。とにかく作者の探偵小説に対する熱量というか、「熱い想い」をビシバシ感じながらの読書となった。 ただし、「熱い」と言っても、決して冷静さを欠いているわけではない。 本作がヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」の本歌取りを志向した作品なのは著名だけど、「グリーン家」の模倣で終わることなく、その弱点を補い、違う角度から探偵小説を組み上げていこうという実験的&理論的な作品に仕上がっている。 フーダニットについては、中盤には大凡の察しがついてしまったけど、それは21世紀の今の読者目線での話であって、当時の人々にとっては斬新なプロットと写ったに違いない。 探偵役を務める藤枝真太郎についても、多少傲慢さは窺えるものの、ファイロ・ヴァンスの衒学趣味に比べればまぁ可愛いもんだろう。 もちろん難癖を付ける気になれば、枚挙に暇はない。 例えばアリバイに関する考察。 これは一応の注意を払われているものの、綱渡りのような動きが何回も成功していること自体、精緻なトリックとは言い難い。 あと、「なぜ真犯人は、容疑者が絞り込まれやすいCC設定に持ち込んだのか?」という根本的な疑問。 作者は、殺人に至る背景と“ある偶然のタイミング”をその解答として用意しているわけだが、読者としてはどうにも釈然としない。 などなど・・・ でもまぁそれは詮無き粗探しだろう。 戦前の日本でも、こんな正調で格式高い探偵小説が書かれていたことに対しては素直に敬意を払うべきではないか? 最近「鉄鎖殺人事件」も文庫で復刊されたらしいので、機会があれば手に取る(かもね)。 (とにかく謎解きパートのボリュームがすごい! 萎えるほど・・・) |
No.1398 | 6点 | アイネクライネナハトムジーク- 伊坂幸太郎 | 2017/11/18 10:54 |
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~情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短篇集~
ということで、本作もやはり「伊坂らしい」作品に仕上がっております! 2014年の発表。 ①「アイネクライネ」=ミュージシャン斉藤和義の依頼がきっかけとなり書かれた第一編であるとともに、本作が生まれるきっかけとなった作品。誰もがうらやむ美女とくっつく男って案外こういう奴が多いのはフィクションの中だけのような気がする。現実はそうはいかない! ②「ライトヘビー」=本作の鍵となる人物~“小野”が登場する第二編。途中でオチは想像がついたんだけど・・・ ③「ドクメンタ」=突如最愛の妻に別れを告げられた不幸な男・藤間。お気の毒に・・・。でも通帳をこんなことに使わないで欲しい! ④「ルックスライク」=顔がオヤジにそっくりって、そんなに嫌かなぁ? まっ、確かに嫌だよね。 ⑤「メイクアップ」=昔いじめられた相手に今さら遭遇してしまう! そんな偶然絶対に嫌だ! ⑥「ナハトムジーク」=すべてがつながる最終譚。時代設定がつぎつぎ入れ替わるので頭の整理がたいへん。 以上6編。 今回は作者には珍しく「恋愛小説」比率の高い作品。 織田一真など、いかにも伊坂っていうキャラクターは登場するけど、殺し屋や泥棒、超能力者などといったトリッキーな方々は出てこない。 それが新鮮でもあり、物足りなくもありといったところ。 前にも書いたような気がするけど、作品の平均値高いよなぁー、伊坂は。 今回は多少毛色が違うとはいえ、やっぱりいつもの伊坂らしさは十分に備えた作品なんだけど、飽きないんだよねぇ・・・ 評論家的にその理由を考えるなんてことはしないんだけど、何となく思うのは、“緩さの中の芯”っていうのか、とにかくいつも間にか伊坂ワールドに引き込まれ、あれやこれや接待を受けるうちに何となく契約させられる気弱な人間になったようなっていうのか・・・ 多分、次作も手に取らされ、また接待を受けていい気分にさせられるんだろうね 実に床上手な作家ということかな。 (意味不明な書評) |
No.1397 | 5点 | 赤い右手- ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ | 2017/11/18 10:53 |
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1945年発表。
国書刊行会から発表されたものを創元文庫にて先般復刊。今回は当然この復刻版にて読了。 ~エリナ・ダリーは縁あって裕福な実業家イニス・セントエーメと婚約し、車を駆ってハネムーンに出発した。ところが希望にあふれた旅路は、死んだ猫を抱えたヒッチハイカーとの遭遇を境に変容を余儀なくされる。幸福の青写真は引き裂かれ、婚約者と車を失ったエリナは命からがら逃げ惑うハメに。彼女を救ったリドル医師は、悪夢の一夜に起こった連続殺人の真相に迫ろうとするが・・・~ よく分からん! 読了後すぐの感想はどうしてもこうなる。(多くの読者がそうじゃないだろうか?) 巻末の訳者あとがきを読んでると、某法月綸太郎氏が『どこまでが作者の計算で、どこからが筆の勢いなのか判然としない、八方破れの語り口が結果的に成功を収めた・・・』と本作を評しているとのこと。 成功を収めたかどうかは別にして、後の部分は「なるほど・・・」である。 他の方も書かれているけど、とにかくフワフワした感覚とでも表現したらいいのだろうか。 確かに終盤ではミステリー的な解決が提示されるし、「そういう意味だったのね」ということも多かったのは事実。 でもなぁーいきなりアイツが実は○○で、アイツも実は××で・・・ などと書かれたら、もはやファンタジーみたいなもので、リアリテイの欠片も感じなくなってしまう。 そういう小説なんだと言われればそれまでなんだけど、これを「本格ミステリー」と呼称するのは何とも違和感がある。 時間軸の行ったり来たりについては、読んでてもはや混乱の極みだったし・・・ (これって、わざとかな) ということで、どうにもストレスの残る読書となった感のある今回。 こういう作品が好きっていう人もいるんだろうか? いるんだろうなぁー いわゆる“玄人受け”っていうことなのか? だとすると、素人の私にとってはハードルの高い作品だったのかもしれない。 機会があれば読み返しても・・・いや、読み返さないな、きっと。 |