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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1785件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.12 6点 数奇にして模型- 森博嗣 2014/07/30 22:05
「すべてがFになる」から始まったS&Mシリーズも回を重ね、本作が9作目の長編となる。
1998年発表の大作。

~模型交換会会場の公会堂でモデルの女性の死体が発見された。死体の首は切断されており、発見された部屋は密室状態。同じ密室内で昏倒していた大学院生・寺林高司に嫌疑がかけられたが、彼は同じ頃にM工業大学で起こった女子大学院生密室殺人の容疑者でもあったのだ! 複雑に絡まった謎に犀川・西之園師弟コンビが挑む~

本作のメインテーマは・・・やっぱりホワイダニットなのだろうか?
紹介文を読むと、これまでのS&Mシリーズと同様、密室トリックあたりがメインテーマなのだろうと思ってしまうのであるが、最終的に判明する密室トリックは正直、本シリーズファンには軽い裏切りに近いものに見える。
(もっとも、シリーズも回を重ねるうちに、当初の純粋なトリックというよりは、変化球的なトリックが目立ってはきていたが・・・)
さらに今回は「首切り」まで登場するのだから、当然「首切り」についてもミステリーファン寄りのトリックを期待してしまうよなぁ・・・『なぜ真犯人は首を切ったのか』を!!

「見立て」などもそうだが、こういう“いかにも”というガジェットを加味する以上、必然性が問題となる。
ただし、本作で作者が用意した解答は相当な変化球!
(あまりにも鋭く内に曲がりすぎて、思わずのけぞるほどだった・・・)
こういうタイプの解答は全く予想していなかったし、ある意味初めての体験かも知れない。
それもこれも作者の舞台設定の勝利と言えるだろう。

でもなぁ・・・それが個人的な好みに合致しているかというと、そうではないというのが本音。
もちろん作者には豊富な球種があって、鋭く横に曲がるスライダーや縦に落ちるスプリットも投げられるだろうけれど、読者としては胸元ズバリのストレートを期待してしまうわけです。
(分かりにくい例えかもしれないけど・・・)

No.11 6点 地球儀のスライス- 森博嗣 2014/02/02 16:16
1999年発表。S&Mシリーズ二篇を含み全十作から成る作品集。
同系統の作品集としては、「まどろみ消去」に続く二作目に当たる。

①「小鳥の恩返し」=タイトルどおり民話「鶴の恩返し」をモチーフにした作品。殺人現場で飼われていた小鳥を逃がしたところ、その小鳥が献身的な看護婦になって現れるという夢のようなストーリーなのだが、そこは「夢」で終わらずミステリーらしい結末が付けられる。なかなかの佳作。
②「片方のピアス」=こちらは双子の入れ替わりがプロットとなった作品。終わりがあるようなないような結末・・・っていうことはリドルストーリーということか?
③「素敵な日記」=まさに日記で始まり、日記で終わる一篇。狙いは・・・??
④「僕に似た人」=いかにも曰く有りげな主人公やその他の登場人物たち・・・。きっと何かあるはずと大技を予想していたが、そういう方向性の作品ではなかった。でも、ラストの一行(或いは二行)はどういう意味(或いは意図)?
⑤「石塔の屋根飾り」=本編と続く⑥がS&Mシリーズ作品。本編は犀川が萌絵や喜多、国枝らにクイズを提供するというプロットとなっている。問題の方はちょっと“絵的に”思い浮かびにくかったんだけど、なる程という解答が示される。
⑥「マン島の蒸気鉄道」=本編については、謎がどうのこうのというより、とにかくマン島という存在自体が面白い。浅学にもこれを読むまでこんな島があることすら知らなかった。行ってみたいねぇ、乗ってみたいねぇ・・・蒸気機関車。
⑦「有限要素魔法」=書き下ろし作品なのだが、ある意味ファンタジックでブラックな一篇。
⑧「河童」=冒頭に示されているとおり、芥川の「河童」に触発されて書かれた作品なのかな? とにかく純朴なはずの田舎の女子高生・亜依子がコワイ・・・
⑨「気さくなお人形、19歳」=⑦に続く書き下ろし。プロットとしては特段目新しいものではないんだけど、とにかく纐纈老人の一途で偏屈な思いに最後はホロリとさせられる。でも「僕」っていうのは、もしかして叙述トリックかと思わされた(!)
⑩「僕は秋子に借りがある」=これも⑨に続き“いい話系”の作品。こういう美少女に振り回される役を一度はやってみたいよねぇ・・・

以上10編。
前作(「まどろみ消去」)と同様、「作者が書きたいものを書いて、それを集めました」という雰囲気の作品集。
ということで、凡そミステリーとは呼べないものもかなり含まれていて、長編と同じノリを期待するとガックリくるかも。
ただし、ストーリーテラーとしてやはり非凡な才能を十二分に感じさせられるし、レベルの高い作品集という評価。
どちらかというと、前作よりもこちらを押したい。
(個人的ベストは①かな。後は④⑥⑨というところか)

No.10 5点 まどろみ消去- 森博嗣 2013/08/25 14:02
1997年に発表された作者初の短編集が本作。
全11編から成る作品集のうち、2編だけがS&Mシリーズの流れを汲むものになっている。

①「虚空の黙祷者」=これはいきなりエグいシュートボールを放られたような感覚。田舎ののんびりとした光景のなかに、二人の悪意というか心の闇が最後に明らかにされる。
②「純白の女」=一応、ラストにサプライズが用意されてはいるのだが、正直肩透かしのように思えたのは私だけだろうか。ミステリーというよりはファンタジックな作品。
③「彼女の迷宮」=いわゆる「作中作」とでもいうべきガジェットが盛り込まれた作品。作中作で採り上げられた「謎」はかなり魅力的なのだが(何しろ、死体から髪や足が生えるんだから・・・)、これ自体は本筋ではなく、置いてけぼりにさせられる・・・
④「真夜中の悲鳴」=これはサスペンス的な味わいの作品なのだが、そういう意味での盛り上がりには欠ける。まぁ小洒落たラストが用意されてはいるのだが・・・
⑤「やさしい恋人へ僕から」=これは「叙述トリック」なのだろうか?? 
⑥「ミステリイ対戦の前夜」=ここにきて初めて萌絵が登場。いつもの研究室ではなく、ミステリ研の一員としてなのだが、これも真相自体は腰砕け気味。
⑦「誰もいなくなった」=本作で唯一、犀川&萌絵が登場するのが本編。踊る30人のインデイアンが忽然と消失する・・・と書くと、いつもの森ミステリーらしいトリックを期待してしまうのだが・・・これって、遠目でも分かるんじゃないかなぁ(?)
⑧「何をするためにきたのか」=これって、森先生自身がモデルなのだろうか?
⑨「悩める刑事」=さすがにラストのオチは予想がついてしまった。まぁ、合わない仕事ほどキツイものはないよね。
⑩「心の法則」=このタイトルの意味って? ちょっとよく分からなかった。
⑪「キシマ先生の静かな生活」=これも作者らしい価値観を感じる作品。文系の人間はこうはなれない。

以上、全11編。
他の方も書いているとおり、「実験的」とでも言いたくなる作品集。
作品を通して、作者の考え方や価値観、物の見方・捉え方のようなものが見え隠れしていて、作者のファンにとっては「いかにも」という思いを感じられる作品だろう。
トリックやロジックの効いた作品はないが、ラストの反転やツイスト感はさすがという感じ。

でもまぁ長編よりもこっちがいいとは決して思わないけどね。
(飛び抜けていい作品はなし。好みとしては①と⑦になる。)

No.9 6点 今はもうない- 森博嗣 2013/05/29 20:39
S&Mシリーズ第10作目の長編。
さすがにシリーズもここまで続くと「こう来るか・・・」という変化球が用意されている、のだが・・・

~避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋でひとりずつ死体となって発見された。二つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が上映されていた・・・。折しも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる事態に。S&Mシリーズ・ナンバーワンに挙げる声も多い清冽なミステリー~

これは「プロットの妙」ということに尽きる。
話は、事件が終結した後、萌絵が犀川にその顛末を聞かせる、というスタイルで始まるのだが、実際の語り手は事件に巻き込まれたある男性の視点で、「手記」という形式で読者には示される。
まぁ、普通考えるよなぁ、ミステリーファンなら・・・
「手記」には何かの仕掛けが施されていることを!
その「仕掛け」は作品終盤に開陳されるのだが、なかなかの衝撃。
(ただし、この衝撃は本シリーズをある程度最初から読んでいることが条件にはなるのだが)
なる程ね。何となく「違和感」は感じてましたが、これは叙述トリックで多用される「手」だけど、使い方がうまいとこんなに綺麗に嵌まるといういい見本だろう。

そして、本作もうひとつの肝が「W密室」。
ただ、これについてはかなり微妙、というか正直納得できない。
仮設を立てては崩すという過程が繰り返されるところまでは好ましいのだが、その結果判明した解答がコレか?っていう感想になる。
あと、せめて現場の見取り図は欲しいなぁ。
(説明を読んでも、今ひとつ状況が腹に落ちてこなかった)
結局、密室は「添え物」程度のガジェットだったのだろう、本作では。
読者としては、どうしても本シリーズには「密室トリック」を期待してしまうだけに、やっぱり「ネタ切れ」かという感じにはなった。

ということで、紹介文にある「シリーズ・ナンバーワン」という評価には決してならない。
この程度の評価が妥当なところ。

No.8 6点 夏のレプリカ- 森博嗣 2013/03/01 22:58
前作「幻惑の死と使徒」と同時並行で起こっていた事件を扱ったのが本作。
S&Mシリーズでありながら、犀川&萌絵は脇役という位置付けで、萌絵の親友・簑川杜萌を主役とした作品。

~T大学大学院生の簑沢杜萌は、夏休みに帰省した実家で仮面の誘拐者に捕らえられてしまう。杜萌も別の場所で拉致されていた家族も無事だったが、実家にいたはずの兄だけが、どこかへ消えてしまった。眩い光、朦朧とする意識、夏の日に起こった事件に隠された過去とは何か? 「幻惑の死と使徒」と同時期に起こった事件を描く~

今までのS&Mシリーズとは一味も二味も違う肌合い・・・そんな作品。
その訳は、最初に触れたとおり、事件の顛末がSでもMでもなく、簑沢杜萌という別の人物の目線で描かれるため。
犀川も萌絵も(特に萌絵は)同時期に発生したという設定の『幻惑の死と使徒』事件の方に忙殺され(?)ていて、終盤までほとんど出番はない。
というわけで、長野県警のキレ者警部も登場するが、終盤までは解決に向けて遅々として進まぬ展開が続いていく。

ただし、結局事件を解決するのは犀川であり萌絵。
相変わらずフーダニットはブッ飛んでるなぁ・・・。
今回は、恒例の密室やら不可能趣味は薄いが、この仕掛けにはやっぱり驚かされた。
「仮面」という物証が、作者が企んだ欺瞞の「鍵」であり、トリックの「肝」であった訳だ。(ネタバレっぽいが・・・)
この辺りの手練手管は「さすが」としか言いようがない。

まぁでも、これまでの作品との比較でいうなら、やっぱり落ちるかなぁー。
同時並行で進む二作品というアイデア自体は面白いが、そこにそれ程の仕掛けやサプライズがなかったのが逆にもったいない気はした。(もしかして、あったのか?)
(最後のチェス勝負のくだりは、ミステリーっぽくでいいね)

No.7 7点 幻惑の死と使途- 森博嗣 2012/12/08 15:19
S&Mシリーズの第6作目が本作。
今回はズバリ「マジックとマジシャン」がテーマ。で、文庫版あとがきは何と引田天功氏・・・

~「諸君が、一度でも私の名を呼べば、どんな密室からも抜け出してみせよう・・・」。いかなる状況からも奇跡の脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻が衆人環視のマジックショーの最中に刺殺された。しかも遺体は、葬儀の後霊柩車から消失。これは匠幻最後の脱出マジックか? 幾重にも重なる謎に秘められた真実を犀川・西之園の理系師弟コンビが解明する!~

うーん。この真犯人には正直たまげた。
まさか、あの人物とは・・・。こういうのはフーダニットの、もっと言えば本格ミステリーの醍醐味に違いない。
本作の良さは、このフーダニットのカタルシスが脱出トリックと有機的に結び付いているところ。
特に秀逸なのが、霊柩車の中に入れられた棺桶という「究極の密室」からの死体消失。
うまいよねぇ・・・。
事件関係者のほとんどがマジシャンという特殊設定を使い切ったところがミソ。
トリックは「裏のウラ」を付いて、いたってシンプルというのが作者の腕というか、凄みだろう。

ということで、ここまで褒めちぎってきましたが・・・
こういう見事なトリックの割に、ストーリーとしてはどことなくまとまってないような気にさせられた。
犀川と萌絵の関係も徐々に発展させながら、しかも萌絵の成長も見せながら・・・というサイドストーリー的要素が目に付きすぎるのが原因なのかな・・・?
動機も曖昧だし、そもそもマジックの最大のタネが「アレ」というのが大昔のミステリーみたいで「どうかなぁ・・・」というところもあって、ちょっと乱暴ではないかという感覚は残った。

まぁでも、トータルで評価すればよく出来てる本格ミステリーということでよいだろう。
(今さらだけど、本格もののギミックにここまで挑戦してきた作家というのはなかなかいないだろうから・・・)

No.6 7点 封印再度- 森博嗣 2012/08/27 16:26
「詩的私的ジャック」に続くS&Mシリーズの5作目。
ノベルズ版で発刊時に読んだ記憶があり、「なかなかよくできた作品だった」ような記憶があったのだが・・・

~50年前、日本画家である香山風采は息子・林水に家宝「天地の瓢(こひょう)」と「無我の匣」を残して密室の中で謎の死を遂げた。不思議な言い伝えのある家宝と風采の死の秘密は、現在に至るまで誰にも解かれていない。そして今度は、息子・林水が死体となって発見された。2つの死と家宝の謎に人気の犀川・西之園コンビが迫る!~

トータルで評すれば「よくできた」作品だと思う。
他の方の書評を拝見すると、本作に対する評価は「肯定派」と「否定派」に割とはっきり分かれているようだが・・・
まず、トリックに関しては、①例の「祐介(子供ね)の発言」に対する解釈、②密室の構成、③「天地の瓢」と「無我の匣」の仕掛け、の3つに分けられるかな。
まず、①については確かに「微妙」な気はする。作者もそれは感じていて、事前に伏線を不自然なくらい用意してる(幻魔大将軍のくだりね)のだろう。②については、いかにも「理系」的な密室アプローチともいえるが、これは初歩的な科学現象だし、途中で察する方も多いだろう。
やっぱり秀逸なのは③。『なぜ現場から凶器が消失したのか?』というミステリーテーマに斬新な解答を施しているのではないか?
もちろん、このような特異な物質の存在に関する知識云々の問題はあるが、犀川のトリック解明シーンでは久々にカタルシスを覚えた。

プロットでいえば、タイトルどおり『Who inside?』に拘った点が面白い。
本作は作者がこれまで拘ってきた密室構成そのものより、誰が密室内にいたか(或いは留まっていたのか)という謎に特化して提示される。
それが、トリックと有機的に結びつく点が作者のスゴ味。
ただ、そこに固執するあまりそれ以外の部分にやや無理が生じてしまったのがやや難点かな(→香山マリモの記憶の部分など)。

まぁ、否定派の皆さんが言及されてるとおり、ちょっと冗長感があるのは事実だし、犀川と萌絵のラブストーリー的要素が増殖したようなところもあり、その辺は評価が分かれるのはやむ得ないかも。
でも、個人的には十分出来のいい作品と評価したい。

No.5 6点 詩的私的ジャック- 森博嗣 2012/06/10 18:55
1997年発表、S&Mシリーズの4作目。
今回も「密室」をキーワードにした連続殺人事件が犀川の推理の対象に。

~大学の施設で女子大生が連続して殺された。現場は密室状態で死体には文字状の傷が残されていた。捜査線上に浮かんだのはロック歌手で大学生の結城稔。被害者と面識があったうえ、事件と彼の曲の歌詞が似ていたのだ。N大学工学部准教授・犀川創平とお譲様学生・西之園萌絵が、明敏な知性を駆使して事件の構造を解体する~

一般的な評判ほど悪い作品とは思わなかった。
(S&Mシリーズ作品としては評価の落ちる作品のようだが・・・)
「密室」については、howよりもwhyに拘ってる。
あまり書くと思いっきりネタバレになるが、第1,2の殺人そのものと密室トリックが、第3,4の殺人のいわば「前フリ」になっているというプロットは個人的には好き。
この辺りは、「理系ミステリー」というオリジナリティというよりも、実は古式ゆかしい本格ミステリーのプロットを応用したもので、水準以上の質の高さを窺わせる。
(死体に残した傷に関する欺瞞なんかも、まさに正統本格ミステリーそのもの)

他の多くの方が指摘している「動機」については、確かにちょっと荒唐無稽だ。
探偵役の犀川も動機の探求はそもそもやる気がないし、ラストに判明した動機については、そこまでその人物に対する書き込みや伏線もないのだから、アンフェアと言えなくもない。
でも、そもそも本シリーズの動機へのアプローチは、従来のミステリーとは一線を画している筈。
「どうでもいい」とまでは言わないが、まぁ二の次という取扱いでいいのだと思った。

以上のとおり、特に悪くはないのだが、他作品に比べるとちょっと落ちるかなという評価には賛成せざるをえないかな・・・

No.4 6点 笑わない数学者- 森博嗣 2012/02/26 14:15
「すべてがFになる」「冷たい密室と博士たち」に続く、S&Mシリーズ3作目。
今回は「数学」と「天文学(?)」にスポットライトを当てた理系ミステリー。

~偉大な数学者・天王寺翔蔵博士の住む「三ツ星館」。そこで開かれたパーティーの席上、博士は庭にある大きなオリオン像を消してみせた。一夜明けて、再びオリオン層が現れたとき、2つの死体が発見される・・・。犀川助教授と西之園萌絵の理系師弟コンビが館の謎と殺人事件の真相を探るが・・・~

本作も実に単純に面白かったですね。
これはまさに新本格系の作家が得意とする、「お館もの」+「物理トリック」の組み合わせ。
シンプルで分かりやすいトリック(オリオン像のやつね)の割には、犀川もやけに苦戦したなという印象は持った。
伏線も相当あからさまに出してたもんね。
真相に気付く読者も多かったろうと思います。(私は「アッ!」と思わされましたが・・・)

結局、天王寺博士の正体は誰なのか? というのがもう1つのポイントとなるわけですが・・・
これに対する解答は「不定」ということなんですかね?
犀川が最後思わせぶりに仄めかしてはいますが、やっぱり消化不良のような感覚。
ラストの公園のシーンもなかなか考えさせられる・・・

個人的には前2作よりは落ちるという評価ですが、やっぱり良質なミステリーという評価でいいのでは?
文庫版巻末に掲載された、数学者・森毅氏の解説がお宝もの。
(萌絵のように一瞬に計算できる能力。うらやましいねぇー)

No.3 7点 冷たい密室と博士たち- 森博嗣 2011/12/17 15:21
「すべてがFになる」に続くS&Mシリーズの長編2作目。
今回は犀川が所属するN大が事件の舞台に。

~同僚・喜多准教授の誘いで低温度実験室を訪ねた犀川准教授とお嬢様学生の西之園萌絵。だがその夜、衆人環視かつ密室状態の実験室の中で、男女2名の大学院生が死体となって発見された。被害者は、そして犯人はどうやって現場の部屋に入ったのか。人気の師弟コンビが事件を推理し真相に迫るが・・・~

本格好きなら単純に楽しめる作品だと思う。
前作もそうだが、本作もとにかく「密室」に拘った作品。
ただし、前作ではアクロバティックな解法であった密室が、本作では非常に「ミステリーらしい」解法が成されるのが特徴。
これは好みが分かれるのかもしれませんが、こと「密室」に関しては、個人的には前作よりも好感を持った。
犀川の推理過程はまさしく『困難は分割せよ』を地でいくものだし、ロジックはたいへんしっかりしている。
「低温室」に纏わる小道具(例の宇宙服ね)も実に効いていて良い。

まぁ、難をいうなら、多くの方が指摘しているとおり「動機」や事件の背景についての面。
他の方の書評を見るまで気が付かなかったけど、確かに「服部さん」を殺す動機は超薄いよなぁ・・・
いずれにせよ、十分に楽しめる作品には間違いないという評価。
(萌絵みたいなキャラってやっぱり人気あるんだろうなぁ・・・こういうのが売れる1つの要素かも)

No.2 7点 すべてがFになる- 森博嗣 2011/07/24 15:44
第1回メフィスト賞受賞作にして、S&Mシリーズの第1作目。
記念碑的作品に相応しく、本格ミステリーのギミックをたっぷりと詰め込んだ大作です。
~孤島のハイテク研究所で少女時代から完全に隔離された生活をおくる天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウェディングドレスを身にまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川と西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む~

久し振りに再読。
森作品は、当初S&Mシリーズをノベルズで刊行のたび読んでいましたが、何か肌に合わないような気がして途中で完全に脱落してました。
やっぱり本作は別格のような気がしますね。デビュー作とはとても思えない。
ミステリー的な視点で見れば、密室トリック(と言えるか?)はやや反則気味ですし(これなら何でもありになってしまう)、「動機」もはっきり言って意味不明。
フーダニットかハウダニットかどちらかにもう少し拘って、深掘りしても良かったかなというのが個人的感想。
ただ、当時はこういう設定自体が目新しかったでしょうし、「新しい形の本格ミステリー」という表現が確かに当て嵌まるのだと思います。
というわけで、再読してみると、S&Mシリーズをもう1度おさらいしてみるのもいいかもという気が・・・
(私みたいなコテコテの文系人間には、やっぱり犀川のような考え方に反発を覚えるんでしょうか・・・それが肌に合わないと感じるのかな?)

No.1 4点 そして二人だけになった- 森博嗣 2009/09/23 21:24
森氏の作品は、以前犀川&萌絵シリーズを何作か読んで以来でしたが・・・
途中二人になるまでは、どういう展開になるのか面白く読んでいましたが、ちょっと最後の方は理解できなかったですねぇ。
要はどこかで入れ替わりが発生しているのかなという予想はしてましたが、何か捻り方が違う方向というか違和感しか残りませんでした。

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ひとこと
好きな作家
島田荘司、折原一、池井戸潤などなど
採点傾向
平均点: 6.01点   採点数: 1785件
採点の多い作家(TOP10)
島田荘司(72)
折原一(54)
西村京太郎(42)
アガサ・クリスティー(37)
池井戸潤(35)
森博嗣(32)
東野圭吾(31)
エラリイ・クイーン(30)
伊坂幸太郎(30)
大沢在昌(26)