皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.52 | 6点 | 切り裂きジャック・百年の孤独- 島田荘司 | 2012/02/10 23:13 |
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伝説の猟奇殺人鬼「切り裂きジャック」の謎解き(?)に取り組んだ意欲作。
実は影の「御手洗モノ」では・・・ ~初秋のベルリンを恐怖のどん底に叩き込んだ、娼婦連続猟奇殺人。喉笛を掻き切り、腹を裂き、内臓を手掴みで引き出す陰惨な手口は、19世紀末ロンドンを震撼させた高名な迷宮入り殺人・切り裂きジャック事件と酷似していた。市民の異様な関心と興奮がつのる一方で、捜査は難航を極めた。やがて奇妙な人物が捜査線上に現れた・・・百年の時を隔てた2つの事件を完全解明する長編ミステリー~ 「企み」としては面白い。 狂気以外で人間の体をここまで切り裂く理由を「合理的に」考えるのなら、まぁこういう所に落ち着くのだろうなというのが率直な感想。 本家の「切り裂きジャック事件」に対する考察は、もちろんフィクションなのだが、こういう安手のドラマのような展開に仕立てたところがちょっと微妙な感じ。 (どこまでフィクションで、どこまで事実なのかがよく分からん) で、ベルリンの方の部分なのだが、「動機」的にはちょっと弱いよなぁー。 ロンドンの方は100年前ということで、まだ信憑性が保てているが、今の世の中でこの動機でここまでする奴いるかなぁ・・・? ロジック的には納得したのだが、やっぱり心理的には抵抗のある真相だろう。 全体として、作者初期の作品としてはやや小粒にまとまりすぎたかなという印象が残った。 (やっぱり、最後に登場する「東洋系の人物」が御手洗なのだろうか) |
No.51 | 3点 | 犬坊里美の冒険- 島田荘司 | 2011/12/17 15:26 |
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「龍臥亭事件」で初登場した美少女・犬坊里美が弁護士のタマゴとして活躍する長編作品。
まさか、あの里美までもメインキャラクターに昇格するとは・・・ある意味作者の懐の深さに驚かされる。 ~衆人環視の岡山・総社神道宮の境内に、忽然と現れて消えた一体の腐乱死体。容疑者として逮捕・起訴されたホームレスの冤罪を晴らすために、司法修習生・犬坊里美が活躍する。里美の恋と涙を描く青春小説として、津山・倉敷・総社を舞台にした旅情ミステリーとして、そして、仰天の大トリックが炸裂する島田「本格」の真髄として、面白さ満載のミステリー~ 感心しませんねぇ・・・ 一言でいうなら、ボリュームの割に「薄っぺらい」作品っていう感じでしょうか。 「ホームレスの老人が起こした冤罪を晴らすために立ち上がる・・・」っていうと、何だか作者往年の名作「奇想、天を動かす!」を思い出しますが、全く似て非なるもの。 本筋の殺人事件の謎については、「死体消失の謎」のほぼ一点張り。 トリックもねぇ・・・紹介文では「仰天の大トリック」なんて書いてますが、ミステリー好きでない人なら「何これ!」って怒り出しそうな気がしてなりません。 本作は、現代日本の司法制度全体が如何にいいかげんなものなのか、それが結局「冤罪」を生み出す大きな理由になっているのだ、という作者の思いが反映されたものになってますが、それが里美のキャラと全く合ってない。 ラスト、法廷の場で真相が明かされ、里美の苦労(!?)が報われるわけですが、その場面がますます「薄っぺら感」を増長させてる。 何で作者がこんな作品書いたんだろう? って思って、文庫版あとがきを読むと、本作って雑誌「女性自身」に連載された作品だったんですねぇ・・・ まぁ、この手の女性雑誌に連載するから、ここまで噛み砕いて、軽めのノリにしなければならなかったわけか・・・ でもなぁ・・・これでは、本当のファンを失いかねないよ! (里美みたいなキャラ、人気あるんだろうなぁ・・・。どうでもいいけど、女性雑誌に岡山弁って馴染まないような気はするが・・・) |
No.50 | 5点 | エデンの命題- 島田荘司 | 2011/11/11 16:48 |
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中編2作によるノン・シリーズの作品集。
最近の島田作品によく登場するテーマが本作でも色濃く取り上げられてます。 ①「エデンの命題」=「エデン」とは、当然「旧約聖書」に登場する、アダムとイブが暮らしていた楽園のこと。 ~アスペルガー症候群の子供たちを集めた学園から、少女が消えた。残されたザッカリ・カハネのもとに届いた文書に記されていたのは、世界支配に取り衝かれた民族の歪んだ野望と、学園の恐怖の実態だった。生きるため、学園を脱出したザッカリを待ち受ける驚愕の真実とは?~ う~ん。プロット的には「よくあるやつ」だと思いますねぇ。 主人公宛に残された少女の「手記」が、本作のカギを握っていて、「ユダヤ・コネクション」の暗躍やら野望なんて話は、昔から広瀬隆あたりの本で目にしていた分、「ありうる話」として受け取れた。 ただ、風呂敷を広げすぎた分、カラクリが判明した後の真相は、ちょっと拍子抜けしてしまったが・・・ ②「ヘルター・スケルター」=直訳すれば、「すべり台」という意味ですが、かのビートルズの楽曲名としても有名。 記憶を失っているらしい1人の患者が、美人女医からの「誘導尋問」により、自身の驚愕の過去を思い出していく・・・という趣向。 これも、「眩暈」やら「ネジ式ザゼツキー」等で試みられたプロットの焼き直し感はある。 (スケールは小さいが・・・) ただ、本作はオチがちょっと唐突だし、流れを腹入れする前にネタバラシされてしまった感覚。 (でも、本当にこの年代に脳科学はここまで進歩していたのだろうか?) ①②とも、「クローン技術」やら「脳科学」といった、作者の「研究(?)」分野がテーマになっていて、表紙には堂々と「本格ミステリー」と銘打っているものの、私の志向する「本格ミステリー」とは大きく異なっている作品なのは間違いない。 前回の島田作品の書評(『溺れる人魚』)でも書いたが、やっぱり、ファンとしては御手洗や吉敷が活躍する骨太の「本格ミステリー」が読みたいんですよ! 荒唐無稽でもいいから、「アッと驚く大掛かりなトリック」で・・・ (もうムリかな?) |
No.49 | 6点 | 溺れる人魚- 島田荘司 | 2011/09/24 21:55 |
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ミタライ・シリーズの作品集。
ウプサラ大学の同僚・ハインリッヒ視点もあり、いかにも最近の「ミタライ」もの。 ①「溺れる人魚」=舞台はリスボン。そして、テーマは「精神医学」。ただし、殺人事件のトリックは何ともアナログなもの・・・。市電が「単線、単線」とクドイほど書かれてるので、当然何かあるとは思いましたが、まさかこんなトリックとは! (でも行ってみたいねぇ、リスボン) ②「人魚兵器」=舞台はデンマーク~ポーランド。「人魚」と言えば美女というイメージですが・・・ここに登場する人魚は何とも醜悪。ナチス・ドイツ絡みの話ではトンデモない「兵器」がよく出てくるよなぁ。こんなことを本気で実験していたとは、まさに「狂気」。 ③「耳の光る児」=舞台はロシア・クリミア地方。「タタール人」のルーツを辿るうちに、チンギス・ハーンが統一した「モンゴル帝国」へ行き着く。作者あとがきにも書かれてますが、確かにモンゴル帝国の謎というのも相当魅力的だよねぇ。(そういや、ジンギスカン=源義経説なんてのもあったなぁ) ④「海と毒薬」=どうしても遠藤周作の同タイトル作を思い浮かべますが、当然それを踏まえています。本作だけは、「人魚」やウプサラ大と全く関連なし。1人の不幸な女性が「異邦の騎士」を読んで勇気付けられるというストーリー。(何で、これを加えたの?) 以上4編。 もはや、通常のミステリーという「器」からは大きくはみ出している印象。 確かにどの作品(④は除く)にも「謎」は呈示されるが、その解法は、医学や科学的知識抜きでは到達できないもの(だいぶ平易に咀嚼されてはいますが)。 ただ、何と言うか、並みの作家とは「レベル」が違うという感じ。 トリックがどうとか、プロットがどうとかいうレベルではもはやないのでしょう。 相変わらず、読者を(強引に)惹き込むパワーは健在だし、最後には「ホロリ」とさせられたり、「いろいろ考えさせられたり」・・・なすがまま。 でもねぇー、やっぱり、ファンとしては、昔の若き頃の「御手洗潔」(ミタライではない)の活躍が読みたいんですよ! 荒唐無稽でもいい。石岡とのコンビで、最後には何だか「ジーン」とさせられる御手洗の活躍、書いてくれませんかねぇー。 |
No.48 | 6点 | 夏、19歳の肖像- 島田荘司 | 2011/08/12 23:54 |
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初期のノン・シリーズ作品。
新装版で超久々に再読。 ~バイク事故で入院中の青年が、病室の窓から目撃した「谷間の家」の恐るべき光景。密かに思いを寄せる憧れの女性は、父親を刺殺し、工事現場に埋めたのか? 退院後、青年はある行動を開始する。青春の苦い彷徨、その果てに待ち受ける衝撃の結末!~ 苦いレモンでも齧ったかのような、切ないラブストーリー。 やっぱり、男って奴は薄幸そうな美人には弱いってことだよなぁ・・・ ラスト前、敵のアジト(!)へバイクで勇ましく突っ込んでいく姿は、名作「異邦の騎士」で石岡を助けにきた御手洗を彷彿させます。 ミステリー部分は付け足しのようなもので、結末も見え見えなのでほとんど関係なし。 まぁ、こういう「純愛もの」が好きな方にはたまらないのかもしれません。 (新装版のあとがきでは、島田氏自身、作品のエネルギーの大きさを感じ、若き日の自身を羨ましいとの表現があり、なんだかその感想が本作のすべてを表しているような気がします。 さすがに、ここまで円熟してしまった現在の島田氏には、こんな荒削りな作品は書けないでしょうから・・・) |
No.47 | 6点 | UFO大通り- 島田荘司 | 2011/07/11 22:37 |
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御手洗潔シリーズ。
御手洗=石岡の名コンビが贈る中篇2作を収録。 ①「UFO大通り」=鎌倉の自宅で異様な姿で死んでいる男が発見される。そして、同じ頃、御手洗は死亡した男の近所に住む老婆の家の前でUFOや宇宙人が行き交ったことを聞き及ぶ。この摩訶不思議な事件を御手洗はどう推理するのか。 ②「傘を折る女」=ある豪雨の夜、名古屋市郊外の路上で、傘の柄を車に轢かせている若い女性が目撃される。その話を石岡から聞かされた御手洗は、その超人的な推理で瞬く間に背後にあった事件を推察するが、事件は意外な方向に・・・ 作品の出来はともかく、御手洗が海外へ旅立つ前の石岡とのコンビは「やっぱりいい!」。御手洗シリーズはこうでないと! 最近は、世界を股にかけ、超人的な活躍を見せる姿ばかり読まされてきましたので、多少なりともホッとさせられる作品でした。 そこで、感想&書評ですが・・・ 『マズマズの満足感』というところでしょうか。 ①は御手洗シリーズの典型とでもいいたくなるプロットですね。新興宗教に侵されていたとしか思えないような殺害現場、現場の隣では宇宙服を着た異星人が光線銃を撃っている! こんな謎分かるわけないですよ。 まぁ、真相は現実的収束のギリギリラインという感じですよねぇ・・・結局はいつもの「偶然の連続」という大技が繰り出されてしまうわけですから。 ②の方は、珍しく完全な「安楽椅子探偵」モノ。 まぁ、「折られた傘」から鬼のように推理を展開する姿はロジック全開と言えなくはないですが、要は「好きなように言ってるだけ」にも思えます。 ここまで突飛な状況を出されたら、ロジックもクソもないという感じがどうしても拭えません。 しかも、まさか「アレ」が両方に出てくるなんて・・・(途中で気付いちゃいましたけど) というわけで、不満を挙げればキリはないのですが、冷静な評価をすれば、平均点+αかなっと。 (①は舞台がなぜ鎌倉か分かりましたが、②はなぜあそこだったのかな?) |
No.46 | 5点 | 夜は千の鈴を鳴らす- 島田荘司 | 2011/05/28 21:12 |
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吉敷刑事シリーズ。
タイトルからして、W.アイリッシュの名作「夜は千の目を持つ」を意識している? ~JR博多駅に到着した寝台特急「あさかぜ1号」の2人用個室から女性の死体が発見された。検死の結果、死因は心不全と判明。だが、前夜、被害者が半狂乱になり口走った「列車を止めて、人が死ぬ、ナチが見える」という意味不明の言葉に吉敷は独自の捜査を開始する~ 正直、吉敷刑事(警部)シリーズの中では「凡作」だと思います。 事件の最大の謎とも言える「ナチ」の謎は、割と早い段階で判明してしまい、その時点でちょっとトーンダウン。 後は、いわゆる「アリバイ崩し」がメインとなるわけですが、そのアリバイトリックも氏の他作品(例えば「はやぶさ1/60」や「出雲伝説7/8」)に比べても、かなり低レベルでは? (島田ファンとしての)救いは、この時期、徐々に事件に対してストイックになっていく吉敷の姿や、後に氏のライフワークにもなる冤罪事件への傾倒の萌芽がかいま見えることでしょうか。 また、吉敷シリーズには、毎回魅力的な女性が登場しますが、本作も同様。こういう女性を書かせるとさすがにうまい。 ただ、明らかにワンパンチもツーパンチも足りない作品としか言えないなぁ・・・ (「あさかぜ」も随分前に運転停止になってしまいました。21世紀の現在はトラベル・ミステリーを書くのも一苦労ですねぇー) |
No.45 | 5点 | 最後の一球- 島田荘司 | 2011/05/06 23:33 |
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御手洗潔シリーズ。
ただし、主役は御手洗ではなく、2人のプロ野球選手。 ~母親の自殺未遂の理由が知りたいという青年の相談に、御手洗はそれが悪徳金融業者からの巨額の債務であることを突き止める。裁判に訴えても敗訴は必至。流石の御手洗も頭を抱えたが、後日、奇跡のような成行きで債務は消滅。それは1人の天才打者と生涯二流で終わった投手との熱い絆の賜物だった~ どう表現すればよいか迷いますが、正規の御手洗シリーズではなく「番外編」のような感じですね。 途中から唐突に「野球小説」モドキに変わります。 確かに、ストーリー自体はそれなりに感動しますし、特に「最後の一球」に関する逸話などは作者のストーリーテラーぶりを十分に感じさせてはくれますが・・・ ただ、かなり「やっつけ」を感じさせるんですよねぇ・・・ いくら御手洗が超人とはいえ、最初に示されたデータだけで、悪徳業者の債務問題だと判断するのは相当無理があると思いますし、「野球」についての部分も、どれほど取材したのか分かりませんが、野球賭博やマル暴絡みの部分などはちょっと安直すぎる! 唯一、屋上で火事を起こす「仕掛け」だけに、島田テイストを感じることができました。 (作中では、契約書への署名・捺印だけで裁判では業者に勝てないとありますが、現実ではそんなことはありません。業者にも当然、説明義務はありますし、契約者が契約内容を理解したのかを確認する義務もありますので・・・悪しからず。) |
No.44 | 6点 | ネジ式ザゼツキー- 島田荘司 | 2011/03/26 23:09 |
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御手洗潔シリーズの超長編。
プロット的には「眩暈」に似た感じですね。(ただ、「眩暈」よりは落ちる) ~記憶に傷害を持つ男、エゴン・マーカットが書いた物語。そこには、蜜柑の木の上の国、ネジ式の関節を持つ妖精、人工筋肉で羽ばたく飛行機などが描かれていた。ミタライがそのファンタジーを読んだとき、エゴンの過去と物語に隠された驚愕の真実が浮かび上がる・・・~ 相変わらずの「島田節」が炸裂!っていうところでしょうか。 とにかく、一見しただけでは「ありえない」「単なるファンタジー」でしかないと思われたストーリーが、御手洗のロジックで解き明かされる快感! ただ、そのロジックはいつものとおり「偶然の連続」で起こったという奴・・・ だったら、正直「何でもありじゃん」と思ってしまいますが、そこは他の作家とはスケールが違うわけです。 結局最後には「すごいねぇ・・・」と思わされてしまいます。 特に、今回は「ネジ」にすっかり騙されました。そりゃそうですよねぇ・・・単純に考えれば、そういう「カラクリ」になってるのは自明なのに、他があまりに突拍子ないため、それには気付かない・・・んですねぇ。 まぁ、島田節に酔いたい貴方にはお薦めの一冊です。 (ページ数の割にはスイスイ読めました。) |
No.43 | 7点 | 眩暈- 島田荘司 | 2011/02/20 21:20 |
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御手洗潔シリーズ。
「暗闇坂」・「水晶のピラミッド」に続く大作第3弾。久々に再読。 ~切断した男女が合成され両性具有者となって蘇る。窓の外には荒涼たる世界の終焉の光景が広がっているばかり。「占星術殺人事件」を愛読する青年が書き残した戦慄の日記が指し示すものは何か? 奇想の作者が放つ驚天動地のトリックとは?~というのが大まかなストーリー。 「摩訶不思議な手記(日記)が読者に示され、探偵役が的確なロジックに基づいて解決していく」というのはミステリーではよく見かけるプロットだと思いますし、本作にも登場する「占星術殺人事件」もまさにこのパターン。 そもそも、事件の正体そのものはそんなに大したことはないんですよねぇ・・・メイントリックそのものは、注意して読めば気付く程度ですし、「両性具有者」の件は煽るだけ煽って、ちょっとがっかりな結末かなと思ってしまいます。 ただ、さすがに島田荘司! 他の作家では感じることのできない「スケール感」があります。ストーリーの前段、古井教授との会話で語られる「脳科学」の話などは、この頃の作品から作者のメインテーマとなっていく題材であり、この辺の取材力だけでも賞賛に値するでしょう。 とにかく、「長さ」は仕方ないとして、一読する価値のある作品という評価です。トリック部分に目新しいものがないので、評点はこの程度。 (「畸形児」の話はなかなか衝撃的。「サリドマイド」は今となっては古い話ですが、過去確かにあった話なのです。TVで何度も見た・・・) |
No.42 | 7点 | ロシア幽霊軍艦事件- 島田荘司 | 2011/01/24 23:35 |
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御手洗潔シリーズ。
1枚の「写真」から始まる歴史に埋もれた謎がスゴイ。 ~箱根のホテルに飾られていた1枚の古い写真。そこには、芦ノ湖に浮かぶ帝政ロシアの軍艦が写っていた。その軍艦は嵐の夜に突如として現れ、軍人たちが降りると忽然と姿を消してしまったというのだ。山間の湖にどうやって軍艦が姿を現せるというのか。御手洗はこの不可解な謎に挑むことになるのだが・・・~ 本作は殺人事件を手掛けるいつものシリーズ作ではなく、ロマノフ王朝最後の皇帝、ニコライ2世の娘「アナスタシア」と芦ノ湖に突如出現した「幽霊軍艦」を巡る、大いなる「歴史ミステリー」・・・ ただ、アナスタシアと軍艦の謎については、御手洗があっさりと解決してしまいます。 途中の脳科学関係の話は、いかにも島田氏らしい展開ですし、ドイツ製の○○○についてはいつもの「豪腕ぶり」を堪能させられます。(豪腕というか荒唐無稽というかは微妙だが・・・) 読んでるうちに、どこまでが史実でどこまでがフィクションなのか境界が分かりにくく感じるのですが、巻末の解説で作者自身がその境界について説明してくれてるので、その辺は理解できました。 私自身、ロシア革命とロマノフ王朝の謎については、他の文献等で多少かじったことがあるのですが、まさに歴史の「光と闇」を感じさせるテーマではあります。レーニン側から見る歴史とロマノフ側から見る歴史では180度違って見えるわけで、授業で学ぶ歴史がいかに不十分なものかを改めて感じさせられました。 (昨年の「写楽」もそうですが、島田氏の「歴史ミステリー」もなかなか面白いです。やっぱりスゴイ作家ですねぇー) |
No.41 | 8点 | 御手洗潔のダンス- 島田荘司 | 2011/01/10 22:16 |
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タイトルどおり、御手洗物の短編集。
久し振りに再読しましたが、この頃の「御手洗物」はよかったなぁ・・・という思いを新たにしました。 ①「山高帽のイカロス」=いかにも「御手洗物」の短編といった典型的作品。トリックの奇想天外さも作者らしさがよく出てます。普通の作家なら「空飛ぶ死体」止まりだと思いますが、東武電車まで登場しちゃいますからねぇ・・・(小田急も) ②「ある騎士の物語」=名作「数字錠」などとテイストが重なる暖かい作品。トリックは奇抜ですが、冒頭の地図を見た時点で予想の範囲内。あと、秋元静香に向けて言った御手洗のセリフが秀逸。(なかなか真似できないけど・・・) ③「舞踏病」=これも「御手洗物」らしく実に荒唐無稽である種笑える作品。伏線がかなりあからさまなので、石岡君以外なら真相に迫れるはず。 ④近況報告=読者の期待に応えて、御手洗の近況を報告するというレポート?(斬新!) わざわざこんなものを入れる意味はともかく、途中出てくる医学的な話題(DNAとか脳科学とか)はこの後の御手洗シリーズのメインテーマになっていくという意味では興味深い。 以上、3編+1。 やっぱり、御手洗物の短編集ならば「~挨拶」か「~ダンス」が突出してる気がします。 作品が短い分だけ、氏の奇想天外トリックが「唐突で付いていけない」という感覚を与えてしまう面もありますが、個人的には、やはり”島田荘司はこうでないと・・・”という気がしてなりません。 |
No.40 | 7点 | 灰の迷宮- 島田荘司 | 2010/12/17 23:13 |
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吉敷刑事シリーズ。
久々に再読。 ~新宿駅西口でバスが放火され、逃げ出した乗客の1人がタクシーに撥ねられ死亡。被害者・佐々木徳郎は、証券会社のエリート課長で、息子の大学受験の付き添いで鹿児島から上京中の出来事だった。警視庁捜査1課の吉敷刑事は、佐々木の不可解な行動や放火犯として逮捕した男の意外な告白から急遽鹿児島へ・・・アッと驚く犯人像とは?~ タイトルに「灰」がつけば、舞台は必ず鹿児島・・・というわけで、今回も鹿児島という街や人を降灰に絡めて切なく描いてます。 本作、世間的な評価よりも個人的には評価していて、たまたま吉敷刑事シリーズだから割と地味に映ってしまいますが、もし御手洗シリーズとして描かれていれば、もっと派手な展開で評価も違ってたんじゃないかという気がしてます。 それぐらい、ある意味「驚天動地」のトリックというか偶然の連続・・・あえて言うなら「風が吹けば桶屋がもうかる」という格言(?)が頭に浮かんでしまうような偶然(!)が生んだ事件・・・ ただ、ラストは感動的。「涙流れるままに」ほど仰々しくはないけれど、一人の女性の死に涙を流す吉敷刑事を思い浮かべて、何とも言えない気分にさせられます。 留井刑事もそうですが、作者の人物造形の旨さに唸らされる作品と言えそう。 |
No.39 | 8点 | 龍臥亭事件- 島田荘司 | 2010/11/03 23:32 |
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350冊目の書評はこの作品で。
御手洗潔シリーズというよりは、情けない中年の象徴「石岡」覚醒&再生の物語・・・ まず最初から「何で光文社ノベルズで石岡が?」という初歩的な疑問を持ちながら読み進めていきますが、最後の最後で「あの人が○○だったのか!」という(ファンにとっては)驚きの真相が披露され、島田氏の「企み」に唸らされる結果に! 作者あとがきでも触れてますが、本作はいわゆる「コード型ミステリー」と島田流日本の昭和史の融合を狙った作品ということで、それを十分に感じるほどのエネルギーとクドさを十二分に堪能できるでしょう。 「見立て」の必然性の問題とか、いかにも島田流の大掛かりなトリックについては、そのクオリティ云々を含めて、今回はあまり気になりませんでした。 「津山三十人殺し」や、それを生んだ日本の風土・風習など、その正誤や是非はともかく、読み手に考えさせずにはいられない圧倒的なスケール感にはやはり脱帽するしかないような気がしますね。(当然、好き嫌い・合う合わない、はあるでしょうが・・・) 今回、久々にこの超長編を再読して改めて思いました。「島田ファン以外がこれを読破するのは相当キツイ」と! 何しろ、上下刊で千ページ強。これでもかと続く殺人事件のオンパレード! こんな作品書ける作家は他にいないでしょうねぇ。それを含めての評価。 |
No.38 | 4点 | 高山殺人行1/2の女- 島田荘司 | 2010/10/27 23:17 |
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光文社の分数シリーズとしては、唯一吉敷刑事(当時)が登場しない作品。
ジャンル的には本格物ではなく、サスペンスですね。 作者のあとがきにもありますが、トラベルミステリー=鉄道という暗黙の了解を打ち破るべく、「ドライブミステリー」なるものに挑戦したのが本書とのことです。 ただ、サスペンスとしてもやや陳腐な内容で、主人公の女性が勝手に怯えているという印象が強く残るだけになってます。 ドライブ途中で起こる数々の不可解な現象が、一応ラストですべて説明付けられていますが、あまり感心はしませんね。 というわけで、ちょっと”やっつけ感”の残る小品という評価に落ち着いてしまいます。 車マニアの作者らしく、そっち方面の薀蓄が出てくるところだけが良かった。 |
No.37 | 9点 | 暗闇坂の人喰いの木- 島田荘司 | 2010/10/05 22:46 |
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御手洗潔シリーズの大作第1弾。
久しぶりに再読しました。 初読時は超長編の割には、レオナ以外インパクトに欠けるような印象でしたが・・・ 今回、再読してみて評価が一変。何と言うか、ミステリーやトリック云々ではなく、1編の読み物としての「レベルの高さ」を感じずにはいられませんでした。 他の大作(「水晶のピラミッド」など)に比べて、必要性を疑うようなサイドストーリーも最小限ですし、ある意味、全盛期の作者の力量を十二分に感じることができる佳作でしょう。 ただ、例の物理トリックだけが・・・ 方向性としては、「北の夕鶴」や「疾走する死者」と同じですよねぇ。ただ、あまりにもこの偶然はできすぎ!(確率は極めて低いし、あり得ないレベル) これでは「バカミス」と言われても反論できない。それだけが減点。 でもスゴイ作品。 |
No.36 | 5点 | セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴- 島田荘司 | 2010/09/25 21:51 |
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御手洗潔シリーズ。
時代設定が「占星術殺人事件」直後ということで、御手洗-石岡の名コンビが堪能できる作品。 ①「シアルヴィ館のクリスマス」=本題に入る前の単なる導入部的内容。 ②「セント・ニコラスのダイヤモンドの靴」=セント・ニコラスとはロシア語でいう「サンタクロース」のこと。帝政ロシア時代の女帝エカテリーナⅡ世ゆかりの名品、ダイヤモンドの靴をめぐる誘拐事件の謎を、御手洗が例のごとく神がかり的に解き明かしていきます。 この作品、確かに、初期の名作「数字錠」を思い出させるような心暖まる話。ただ、ミステリーとしての評価はこんなもんですかねぇ・・・ それにしても、エカテリーナⅡ世ってそんな人だったんですかぁ・・・何となく納得。 |
No.35 | 7点 | 天国からの銃弾- 島田荘司 | 2010/09/12 21:19 |
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吉敷や御手洗といった御馴染みのキャラクターが全く登場しない短編集。
「謎解き」度は薄めですが、作者らしい独特の世界観、イズムが味わえる佳作でしょう。 ①「ドアX」=途中までは訳が分からない展開ですが、ある登場人物の言葉で世界が一変。あと、女性のセックス観の話が妙に身に染みました・・・ ②「首都高速の亡霊」=真相は島田流「偶然の連続」によるもの。高速道路と官僚の話は非常に腹立たしい限りです。 ③「天国からの銃弾」=真相はあまりパッとしませんが・・・やっぱり発想が斬新。 全3編。 3編とも「東京」を舞台とし、それがストーリー上のスパイスとして効いてる感じ。(それも島田作品らしいところでしょう・・・) |
No.34 | 6点 | 漱石と倫敦ミイラ殺人事件- 島田荘司 | 2010/08/22 21:39 |
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ロンドン留学中の夏目漱石が名探偵S.ホームズと出会ったら・・・というありそうで絶対にありえない設定で書かれた初期作品。
久々に総ルビ版で再読。 解決場面で真犯人を一網打尽にするシーンなどは、ホームズ物の”香り”をよく出していて「ニヤリ」とさせられます。 密室やミイラに関するトリックそのものは大したことはないですが、全体的はよくできている作品でしょう。 ワトスン視点の部分は全く問題ないのですが、漱石視点の部分はシャーロキアンにとっては許せないんじゃないかと思わず心配になりますが・・・ あと、ラストの島田氏の年表(出生から出版年までの)はファンにとっては非常に興味深くてよかった。(若い頃、様々な経験をしてるんですねぇ・・・) |
No.33 | 5点 | ら抜き言葉殺人事件- 島田荘司 | 2010/08/01 15:33 |
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吉敷刑事シリーズ。
シリーズ中では、「幽体離脱殺人事件」と並ぶ小品。 本作はタイトルどおり、「ら抜き言葉」を中心に島田氏得意の日本人論を絡ませ、ラストは一応のどんでん返し・・・という展開。 ミステリーというよりは、何となく「エッセー」のような感じもします。 結局、「ら抜き言葉」については、島田氏は絶対反対なのかそれほどでもないのか、よく分かりませんけど、被害者の笹森某が「ら抜き言葉」に病的に拘った理由が「それが女性心理・・・」ということで片付けているのもどうかなぁーと思ってしまいます。 「奇想、天を動かす」以降、吉敷の行動がどんどんストイックになっていきますが、本作もそれがよく出ていて、なかなか興味深いですね。 |