皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.1589 | 6点 | 不穏な眠り- 若竹七海 | 2020/06/24 20:57 |
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”いつも不運な私立探偵”葉村晶シリーズの最新刊。
今回も円熟味の増した不運ぶりが堪能できる・・・のかな? 2019年の発表。 ①「水沫隠れの日々」=「親友だった女性の娘を連れてきて欲しい・・・」それが今回の依頼。そして訪れた場所は刑務所だった・・・。またまた晶が巻き込まれる過去の殺人事件と高価な薬物(?)の隠蔽。不運の結果、彼女が捕まえたのは何と「カ〇」だった! ここでやっとタイトルの意味が分かる仕掛け。 ②「新春のラビリンス」=大晦日の夜、廃ビルの警備の仕事に就くことになった晶。なにもこんな日に仕事することないのに・・・って思ってるとやっぱり妙な事件に巻き込まれる。 ③「逃げ出した時刻表」=<Murder Bear Bookshop>のフェアで展示された珍しい「ABC時刻表」にまつわるひと騒動。古書の世界ってよく分からんけど、好事家にとっては絶対手に入れたいものなのか。事件はかなりややこしい。 ④「不穏な眠り」=これもかなり込み入った事件。ひとりの謎の女性をめぐって晶が多摩の山奥で右往左往することに・・・。最終的に判明するのは、なかなか寂しい事実。 以上4編。 大好きな本シリーズ。今や大人気(?)となったためか、発表ペースがかなり早くなってきた。 それが原因かどうか、今回どうもレベルが低下したような印象が残った。 晶がいつの間にかややこしい事件の渦中に立たされ、不運&不幸なトラブルに巻き込まれながらも真相にたどり着く。これはいつもどおりのプロットで今回もほぼ同様。 なんだけど、どうもね・・・ これがマンネリだとは思わないんだけど、ここ数作の評価が高かっただけに、それとの格差が気になってしまった。 いつもの調子で、というのはシリーズファンにはうれしいんだけど、そろそろ違うテイストも加えていかないと飽きるかも。今回はそういう感想。 まぁ面白いか面白くないかと言われると、「面白い」の方ではあるんだけどね。 本シリーズへの期待の高さの裏返しということで。 (個人的ベストは②。④もいいんだけど、どうもややこしい気がする) |
No.1588 | 5点 | 卑弥呼の殺人- 篠田秀幸 | 2020/06/24 20:55 |
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名探偵・弥生原公彦シリーズの長編九作目。
今回はタイトルどおりの歴史ミステリー+いつものド本格ミステリーのハイブリッド(?)作品。 2005年の発表。 ~『邪馬台国はやはり北九州にあったのだ! その事実は他ならぬ「古事記」「日本書紀」も正面から認めている』・・・古代史ミステリーを版元から依頼された作家・築島龍一の前に、ファンタジー界の超人気女性作家・奈々村うさぎと卑弥呼の末裔と称する妖艶な女性が現れた。彼女たちと北九州に取材に出かけた築島の周りで、不可解な密室殺人がつぎつぎと起こるのだが・・・。名探偵弥生原公彦が、古代史と連続密室殺人の謎に挑む~ 久々に読んだ本シリーズ。いやぁー相変わらず、よく言えば本格愛に溢れる、悪く言えばクドイ作品だった。 本作は「法隆寺の殺人」に続く歴史ミステリー&本格ミステリーの融合作品。 作中でも書かれているとおり、高木彬光「邪馬台国の秘密」および松本清張「古代史疑」による両者の論争がベースとなっている。加えて、それ以降の学会での研究、論争で「畿内説」が有力になっているという学説に対し、果敢に挑むという構図。 その真偽については、当然判定できる立場にはないんだけど、それなりの説得力は感じることはできるレベル。(ただし、作者の場合、パクリではなく自説なのかという疑念は残るが・・・) で、問題なのが「本格ミステリー」の方。なんと三連続で起こる密室殺人事件、しかも超堅牢なやつという徹底ぶり。 最後のやつは、バラバラにされ、首が宇佐神宮の社に祀られるという大胆不敵な設定。 でも、これは・・・ちょっとヒドくないか? 一つ目と二つ目は相当なご都合主義だし、三つ目のトリックは他の方もご指摘のとおり、敬愛する高〇〇光氏の著名作のパクリ・・・。 正直なところ、歴史ミステリーだけにして分量を2/3程度にまとめた方がいいくらい。 最後の仕掛けもなぁ・・・「作中作」が効果を上げているとは言い難い。 「遊び心」というよりはピントはずれな感じだ。 ということで、シリーズも終盤を迎え、だいぶ経年劣化が進んでしまった印象。 築島の小市民ぶりもちょっと鼻につくし、ネタ切れという評価が妥当かな。 |
No.1587 | 6点 | W県警の悲劇- 葉真中顕 | 2020/06/02 22:51 |
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「ロスト・ケア」「凍てつく太陽」など、硬派で重厚、社会派よりの作風という印象だった作者。
そんな作者が発表した連作短編集。舞台は架空の県警「W」。登場人物は当然、警官や刑事たち・・・ 警察小説? いやいや結構企みに満ちた作品のようだ・・・ 2019年発表。 ①「洞の奥」=品行方正、警官の鑑と言われた男・熊倉警部。彼が死体で見つかるという事件が発生。戸惑う刑事の娘と暗躍するW県警の円卓会議。そして、かなりブラックなサプライズ、どんでん返しが炸裂することに・・・ ②「交換日記」=これは・・・かなりの叙述トリック!(ネタバレだが)。でも無理矢理感はかなり強い。読者を騙してやろう感がものすごい。でも、まぁ面白いといえば面白い。 ③「ガサ入れの朝」=これは・・・宮部みゆきのあの作品をどうしても思い出してしまう・・・。ただなぁー、コレ一発勝負というのは如何なものか? ④「私の戦い」=改題前のタイトルは「痴漢に報いを」というわけで、電車内の痴漢事件がテーマとなる。連行されても一向に口を割らない容疑者の背景には大きな欺瞞が隠されていた。これにも裏のサプライズ(どんでん返し?)が隠されている。 ⑤「破戒」=島崎藤村の名作、ではなくて聖職者が起こしてしまった尊父の殺人事件。容疑者である子=牧師の人となりを知る女性警官は真相に気付く・・・。とは言え、それほどのサプライズではない。 ⑥「消えた少女」=単行本化に当たり書き下ろされた最終話。全編にその姿が見え隠れしていたW県警の希望の星・初の女性警視正・松永菜穂子。奈落の底に落とされるかのような手ひどいラストを迎える・・・。でも伏線は見え見えだったな。 以上6編。 こんな作品も書けるんだね。作者は。というような感想。 タイトルだけ見てると横山秀夫の警察小説みたいだけど、実態は叙述トリックを中心としたどんでん返しに只管拘った連作集。 正直なところ、仕掛けのための仕掛けという感じが強くて、やや“あざとさ”も見え隠れするわけなのだが、先にも書いた通り、面白いか面白くないかというと、「面白い」の方に軍配を上げようか・・・ 作者の懐の深さや多彩な才能を知る意味ではいいかもしれない。評点はこんなもん。 |
No.1586 | 5点 | 赤いべべ着せよ…- 今邑彩 | 2020/06/02 22:49 |
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旧タイトル「通りゃんせ殺人事件」として発表された長編作品。
作者お得意のホラー風味ミステリー。 1995年発表。 ~「こーとろ、ことろ、どの子をことろ・・・」。子とり鬼のわらべ歌と鬼女伝説が伝わる街・夜坂(やさか)。夫を亡くし、娘と二十年ぶりに帰郷した千鶴は、幼馴染みの娘が殺されたと聞かされる。その状況は、二十二年前に起きた事件とそっくりだった。その後、幼児が殺される事件が相次ぐ。鬼の正体はいったい誰なのか?~ 本作は旧題の双葉ノベルズ→角川ホラー文庫→中公文庫という流れで刊行された模様。 でも正直なところ、「ホラー」というほどの怖さやゾクッとくる感覚は殆どない。 事件の構図や真相も、作者の他作品に比べるとやや安易なレベルに思えた。 ストーリーの展開自体はいいのだ。 主人公の帰郷を機に、幼馴染みの子供たちがつぎつぎに殺されていく。動機は二十年前に起こった同じく幼女の殺人事件。時を同じくして二十年前の被害者の関係者も帰ってきており・・・、という流れ。 読者としては、いかにも怪しい関係者はダミーに違いないし、主人公の仲間うちに真犯人がいるのでは? という目線で読み進むことになる。 中盤から終盤当初まではうまい具合に謎が謎を呼ぶ展開だし、手堅い旨さなのだけど、そこからの終盤がイマイチ。 作品の枚数を調整するかのように、安直なラストに持ち込んでしまった。 (「エピローグ」はせめてもの味付け、かな?) 個人的に作者の作品は評価のバーが上がってしまっていることも原因かな。 普通の作家なら及第点の作品だろう。 本格なら本格として、ホラーならホラーとして、もう少し徹底した方がよかったのかもしれない。 そんな作品。 |
No.1585 | 7点 | 笑う警官- マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー | 2020/06/02 22:47 |
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読了してビックリした!
もう書評してたんだ! この作品って・・・ 6年半前かぁー でも、読んでいる最中も全く気付かなかったなぁー、すでに読んでたことを気付かなかったのって、もしかして訳のせいか? 最初に読んだのが、新しい柳沢由実子訳バージョン。そして今回読んだのが旧の高見浩バージョンなのだ。 いやいや、もう呆けてきたのか・・・ということで前の書評は削除して再掲 (実は本作のちょっと前にも、宮部みゆきの「人質カノン」を既読&書評済なのに途中まで全く気付かずに読んでた) 改めて自分の書評を読んでみて、さすがに思った。 「ほぼ同じ感想だ!」(当たり前だろ!) ということで、前の書評をほぼほぼ踏襲しながら、更新することに。 やっぱり、警察小説の金字塔だな。 ストックホルム市内で発生した二階建てバス内での銃乱射事件。大勢の被害者のうちに、マルティン・ベックの部下の若手刑事ステンストホルムがいた。 彼は一体なぜ縁もゆかりもないバスに乗っていたのか・・・ これが最大の謎として刑事たちの前に立ち塞がることになる。 複数の刑事目線で書かれているため、当然に脇筋や捨て筋も相応にあるのだが、それが邪魔だとか余計だとかにならないのはさすが。(それが捜査だもんな) 捜査を進めるうち、徐々に真相が見えてくる展開。本格ミステリーの如く、視界がパッと開けるという感覚ではなく、ジリジリという感覚。これこそが警察小説の醍醐味に違いない。 やっぱ面白いわ。 今現在の警察小説の隆盛は、本作抜きには語れないのだと思う。 再読してよかった・・・と思うとしよう。 |
No.1584 | 8点 | 過去からの弔鐘- ローレンス・ブロック | 2020/05/16 11:35 |
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アル中(当時)私立探偵マット・スカダーシリーズの一作目。
発表順を無視しランダムに読み進めている本シリーズなのだが、ついに(今さら?)最初の物語を手に取ることに。 原題“The Sins of the Fathers”。1976年発表。 ~大都会NYで、人々は今日も孤独に生きている。元警官のアル中探偵スカダーへの依頼は、ヴィレッジのアパートで殺された娘の過去を探ってくれというものだった。犯人は逮捕された後、独房で自殺していた。スカダーは二人の過去を調べ始めたが、意外な真相が明らかになっていく。大都会の片隅で生きる人々の哀歓を鮮烈に描き出して人気急上昇の現代ハードボイルドの傑作~ マット・スカダーシリーズ全17作。すべての作品がそれぞれの物語を持っている。 もちろん主役はスカダー。彼が年齢を重ねるのに合わせ、この物語の世界も、まるで川の流れのようにゆっくりと流れていく。 事件はいつも大都会NYで起こる。この街には、さまざまな階層の人々が暮らしている。大金持ちも、中産階級も、貧しい人々も、白人も黒人もヒスパニックも。そして、アル中もそうでない人も・・・ スカダーはいつも見ている。街を、人を、犯罪を・・・ そんな印象は、やはりこの第一作目でも同じだった。いや、いつも以上かもしれない。 事件は実に地味な様相を呈していた。殺害方法こそ刃物による惨殺と派手なのだが、犯人は現場に残っており自明。そんな中、スカダーは被害者の継父から、娘が殺された理由について調査の依頼を受けることとなる。 最初は全く気乗りのしない調査だったスカダーは、関係者たちに話を聞くなかで、徐々に意外な真相、意外な過去を詳らかにすることになる・・・のだ。 本作で一番印象的だったのは、ラストの意外な(そうでもないか?)真相が判明したところではなく、二人の過去を調べるなか、何とも言えない寂寥感に包まれたスカダーが、路上で絡まれた若者に対し、暴力的とも思える乱闘シーンを繰り広げる場面。自身の心の中に広がった闇を振り払うように拳を繰り出した後は、やはり酒場で・・・ シリーズは最初から実に豊潤で香気に満ちた作品だった。これだけの物語を見せてくれたら、作家として高評価する以外ないだろう (確かにこの原題はネタバレ感が強いなぁ) |
No.1583 | 5点 | 教場0- 長岡弘樹 | 2020/05/16 11:33 |
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個人的な予想に反して人気を博している(多分)「教場」シリーズ。
今年の正月には、まさかの風間公親=木村拓哉で地上波ドラマ化! そして今回はエピソード0(ゼロ)ともいえる連作短編集。2017年の発表。 ①「仮面の軌跡」=変わった名前だなぁーって気付いた人は「鋭い!」。タクシーに指示するくだりで何となくピンときたんだけど、まさかビンゴとは。でもこんな場所で殺すかねぇ・・・。 ②「三枚の画廊の絵」=妻と別れ、親権を失った息子に対する思い。それがついに・・・というのは分かるが、まさかバラバラ殺人にまで発展するとは! これも①と同様かなり短絡的では? ③「ブロンズの墓穴」=アリバイトリックの色彩が強い作品。アリバイといえば一番よくあるのは場所の錯誤を使ったトリックだろうけど、新人刑事はそこになかなか行き着かない。ラストはまずまず。 ④「第四の終章」=首吊り自殺の演技を練習していた男が、そのまま縊死してしまう。そばにはガールフレンドと隣人。当然どちらかに疑いの目は向くが・・・。これもかなりリスクを伴うトリック、っていうか上手くいくかなぁ・・・ ⑤「指輪のレクイエム」=いわゆる“操り殺人”ならぬ“操り自殺”がテーマとなる。物証もない完全犯罪を成し遂げたと思った刹那・・・。殺された妻の思いを夫は知ることに。そして、終幕。 ⑥「毒のある骸」=これもやや安易な犯罪のように思える。被害者が死ぬ間際に動いた謎は最初から察しがついた。ところでこの「毒」については“解剖あるある”なんだろうか? 以上6編。 これまでは警察学校を舞台として、風間と教習生たちの関りを通じてのストーリーだったが、本作は「エピソード0(ゼロ)」。つまり、それ以前、新人刑事がベテラン刑事の風間にOJTされる・・・ こんな厳しく得体のしれない人物からのOJTなんて・・・嫌だなぁ! それはともかく、6編の殆どが「倒叙」形式の作品。で、風間は最初から真相を察しており、新人刑事の教育と称して、実に分かりにくいヒントをさりげなく出すというパターン。 うーん。そんなに悪くないとは思うんだけど、それほど響く作品もなかった印象。 それと、最終編の終盤に唐突に訪れたある事件。これが、風間の警察官人生に大きな影響を与えることになるんだな・・・。まさにエピソード・ゼロだ。 |
No.1582 | 5点 | 敗北への凱旋- 連城三紀彦 | 2020/05/16 11:30 |
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処女長編「暗色コメデイ」に続いて発表された作者の第二長編。
戦中戦後の日本そして中国を舞台として暗く重い雰囲気が漂う当たり、いかにも作者らしいのかも。 1983年の発表。 ~戦争によってその将来を絶たれたピアニスト・寺田武史。戦後、非業の死を遂げた彼の生涯を小説にするべく取材を始めた柚木桂作は、寺田の遺した謎の楽譜や、彼の遺児と思われる中国人ピアニスト・愛鈴の存在を知る。調査を進めるうち徐々に明らかにされる、戦時下の中国と日本を舞台とした“ある犯罪”・・・。複雑にもつれ合う愛憎劇に、楽譜による「暗号」を絡めて描く長編ミステリー~ 未読作品が残り少なくなってきた作者。 そういえば読んでなかったなと思い、手に取ったのが初期発表の本作。 前作「暗色コメデイ」は現実感の全くない幻想小説を思わせる前半と、推理小説的ロジックで鮮やかに謎を解決してみせる後半との対比で度肝を抜かされた。(ちょっと言い過ぎかもしれないが・・・) それに比べると・・・いかにも地味だ。 好意的に取れば「凝ってる」し、「玄人受け」しそうな作品ではある。 ラストにやって来るサプライズは他の方が触れられてるとおりなら二番煎じということなのだろうし、それでなくてもちょっと唐突すぎる感はある。でも、まぁ展開としては上手いし、これが二作目というところに、作者の非凡すぎる才能は十分に窺える。 そして「暗号」。難しすぎという意見には賛成。音楽に造詣が深いならまだしも、門外漢にとっては斜め読みしていくしかできなかった。こんな難解で、しかも複数人の手になる暗号・・・絶対解かれないだろ! ということで、どうも個人的には高評価できない作品となってしまった。 それもまぁ、他の作者に比べての期待値が高すぎる所以なのかも。 残り数編になってしまった作者の作品。噛みしめるように読んでいきたい。 |
No.1581 | 10点 | AX- 伊坂幸太郎 | 2020/05/06 15:02 |
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「グラスホッパー」「マリアビートル」に続く、『殺し屋』シリーズの最新刊。
今回はシリーズ初の連作短編形式で、主人公は「超」恐妻家の殺し屋「兜」。 2017年の発表。 ①「AX」=AXはずばり「斧」、具体的にいうとカマキリが意地で繰り出す「斧」のこと。で、これが実は・・・最後になって効いてくる。 ②「BEE」=BEEはずばり「ハチ」。これは・・・もう爆笑モノ。庭にできたスズメバチの巣を撃退するため、誰もが寝静まった未明、まるで宇宙服のような奇妙な防護服で一人ハチの撃退に向かう・・・。 ③「Crayon」=これは子供を持つ親には深く刺さるのではないか。そして、「兜」にやっとできた友人=松田さんの身に突如訪れるアクシデント。人生ってねぇ・・・ ④「EXIT」=例のお笑い第七世代のコンビ・・・ではない。物語が急展開する第四編。今度も「兜」と仲良くなる気弱な警備員・奈野村さんが事件に大きくかかわることになる。 ⑤「FINE」=④のラストで突然突き付けられる事実・・・。それから10年後の世界が語られるのが本編。主人公は「兜」の息子「克巳」。克巳は「兜」の跡を追うことに・・・。そしてサプライズと何とも温かいラストが訪れる。 以上5編。 これは個人的に伊坂史上最高傑作ではないかと思う。 「なぜ」と問われると明確には答えられないのだけど、日本中に閉塞感が漂い暗澹とした日々を過ごす昨今、夢中になって本作を読了できた。それだけで、理屈ではない、魅力のつまった作品ということ。 伊坂作品には、外見上は普通の人間と変わらないけど、実は普通でない主人公がよく登場する。 本シリーズの「殺し屋」然り、「死神」シリーズの「死神」然り、「陽気なギャング」シリーズのギャングたち然り・・・ 彼らは外見は普通の人間だから、一般人(?)たちと普通に触れ合い、会話する。でも、中身は普通じゃないから、我々の常識とはかけ離れた言葉を発したり、行動をしたりする。 この「ズレ」こそが作者の狙いなのだと思う。「ズレ」てるからこそ、そこに不変の「価値観」や「大切なもの」が存在するのだと再認識させてくれる。(当然笑いも・・・) デビュー作「オーデュポンの祈り」から20年。ここまでコンスタントに、多くの読者に読み継がれる作者は決して多くない。決して「熱い」わけではない。それどころか「飄々」として、別の世界の話のような雰囲気を纏っている。そんな作品が読者の心を打ち、極上のエンターテイメントを提供する。実にスゴイことだ。 本作の裏テーマは「父と子」、そして「恐妻」…。もうどうしても自分自身とシンクロさせてしまった。私も語り合いたい。いかに怒らせないように対処していくかを! 大ラスの終章。これはやはり二人の出会いの場面かな? だとしたら、何とも粋で素敵なラスト。父も昔は子供だったし、子供もいずれは父になる。当たり前だけど、この「当たり前」こそが何よりも大切なことだと気付かせる。うーん、これはミステリーの書評ではないな。評価はもう最高点。 |
No.1580 | 7点 | スウェーデン館の謎- 有栖川有栖 | 2020/05/06 15:01 |
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国名シリーズでは短編集の「ロシア紅茶の謎」に続いて発表された二作目。
作者あとがきを読むと、本作は当初”長めの短編”のはずが、プロットが膨らんだ結果、長編になったとのこと。 それは多分「正解」! 1995年の発表。 ~取材で雪深い裏磐梯を訪れたミステリー作家の有栖川有栖は、スウェーデン館と地元の人が呼ぶログハウスに招かれ、そこで深い悲しみに包まれた殺人事件に遭遇する。臨床犯罪学者・火村英生に応援を頼み、絶妙コンビが美人画家姉妹に訪れたおぞましい惨劇の謎に挑む。大好評の国名シリーズ第二弾~ 作者の「火村-作家アリス」シリーズに対しては、大した出来ではないとか、サプライズが薄いとか、これまで散々書いてきた。相性が悪いのは確かで、先般読了した大作「鍵のかかった男」でも、心を動かされる箇所は正直、ひとつもなかったように思う。 そんな中でも、本作は短編「スイス時計の謎」と並んで、作者の「良さ」が十分に出た作品に思えた。 何が「良さ」かというと、実に「丁寧」なミステリーなのだ。 本格ミステリーなのだから、作者は当然伏線に気を遣う。本作はその「伏線」の張り方ひとつにしても、実に丁寧。 感心したのはやはり「指にまかれたバンドエイド」(ネタバレ?)について。 何てことない、たったひとつの物証、伏線が真犯人の弄したトリックに芋蔓式につながるわけだから、大げさに言えばこれこそが本格ミステリーの醍醐味。 そして本作のもうひとつのテーマは「雪密室」。 これも数多のミステリー作家がチャレンジしてきたテーマなのだが、本作のトリックは逆転の発想が実にうまく決まっている。(リアリティとしては薄くて、パズル的要素が強いのが玉に瑕だが・・・。個人的には、二階堂黎人の初期作品が思い浮かんだ。) 惜しむらくはやはりフーダニットか。他の多数の方が指摘されているとおり、動機の点からあまりに見え見え過ぎた。ここら当たりにもう一工夫あれば、「江神-学生アリス」シリーズの佳作に近づけたのかもしれない。 でもまぁ、十分に高評価を付けられる作品。火村の推理も実に無駄がなく、脇道が最小限だったことも高評価につながる。 |
No.1579 | 8点 | 華氏451度- レイ・ブラッドベリ | 2020/05/06 14:59 |
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前々から読もうと思っていた本作。ついつい後回しになっていたのだが・・・
「火星年代記」などと並んで作者の代表作と行ってもいい作品。 1953年の発表。 ~華氏451度・・・この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットを被り、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女と出会ってから、彼の人生は劇的に変わっていく・・・本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作!~ 独特の雰囲気、独特の筆致。これがブラッドペリか・・・と唸らされた。 何ていうか、実に映像的なのだ。 あらゆる書物が禁制品となった世界、火を放つホースを持った消防士、じゃなかった昇火士(火をつける職務だからね)、パトロールする凶悪なロボット猟犬・・・ 頭の中に幻想的、ファンタジックな映像が自然に浮かんできた。 これって、すごいことだ。 「書物」。本作では「書物」が人間の根源的なものとしてシンボライズされている。 物語の中途、反体制を唱える老博士が主人公モンターグに対して、「こうした書物がなぜ重要なのか、お分かりかな? それは本質が秘められているからだ。<中略>これで必要なもののひとつめが明らかになった。情報の本質、特性だ・・・」と語っている。 体制を維持したい独裁者は、必ず情報をコントロールする方向へ舵を切る。 マスコミが流すあらゆる情報がコロナウィルスに独占された感のある昨今。例えば、今なら、国民全体を情報統制するのは実に簡単なのではないか? 知りたい情報がすぐに得られる現代社会は、知りたくない情報は知らなくていい社会でもある。 何が正解で、何が間違いなのか、その境界が非常に曖昧・・・すべてがスピード最優先、そんな社会に何とも言えない違和感を覚える・・・ いやいや脱線してしまった。1953年の発表かぁ・・・スゴイことだ。 |
No.1578 | 8点 | ホッグズ・バックの怪事件- F・W・クロフツ | 2020/04/19 18:23 |
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フレンチ警部登場作としては第十作目に当たる長編。
本作の前後には「クロイドン発十二時三十分」や「マギル卿最後の旅」が発表されるなど、クロフツ黄金期(!)とも言える時期の作品。 1933年の発表。 ~イングランド南東部の町で引退した医師J.アールが失踪した。最後に彼を見たのは妻で、自宅の居間で新聞を読んでいたという。その三分ほど後にはもう彼は消えていた。数日前、彼はロンドンでひとりの婦人と一緒にいるところを目撃されていた。調査に乗り出したフレンチ警部は、その婦人は看護婦で彼女もまた姿を消していることを探り当てた。フレンチ警部が64の手掛かりを挙げて事件の真相を解明する!~ これは力作だ。クロフツ好きの私としては、これまで「マギル卿」や「最大の事件」など佳作を読んできたけど、もしかしたら作品の「熱量」としてはこれがNO.1かもしれない。 最初は単なる情事の末の蒸発事件に思えた事件。片手間で取り組み始めた事件のはずが、徐々に広がりを見せ、フレンチ警部は連続殺人事件の許されざる真犯人を追うことになる・・・ これまでの事件だって、靴底すり減らして丹念な捜査を行ってきたけど、今回のフレンチはとにかく執拗でタフ。何度も壁に当たりながらも、決して諦めることなく、ついには真相にたどり着く。 うん。実に好ましい。 本作は、今までにないほど、フェアプレイに徹しようという作者の姿が垣間見えている。 それが紹介文にある「64の手掛かり」。フレンチの真相解明の場面で、それが書かれているページについて言及されるなど、ミステリーとしての新趣向にも取り組んでいる。 アリバイ崩しもかなり“凝っている”。「マギル卿」では鉄道や船までを使った大掛かりでワイドなアリバイトリックだったが、本作では逆に「ごく限られた区域」の「限られた時間帯」のアリバイが焦点。 正直、こんな危なっかしいトリック考えるかなぁ?というものではあるんだけど、作者の苦心の跡が窺えてなかなか面白い。 ということで、世評としてはそれほど…という本作だけど、クロフツ&フレンチ警部好きの私としては高く評価したい。 とにかく自身の職務を全うしようとするフレンチの姿に今回は痛く感激させられた。 (「…アールという男(医師)は培養菌-致命的な病気を起こす細菌の培養菌、を簡単につくる方法を発見しました。頭のいい者なら素人でもつくれる方法です。」・・・いやいや、こういうご時世にこういう文字を読むとゾクッとするね) |
No.1577 | 5点 | Kの日々- 大沢在昌 | 2020/04/19 18:21 |
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消えた8,000万円を追って、裏社会の人間たちがそれぞれのプライドを賭け、蠢いていく・・・
物語の中心にあるのは謎の美女“K” 2010年の発表。 ~闇に葬られた三年前の組長誘拐事件。身代金は八千万円。身代金を受け取った中国人・李は、事件から間もなく、白骨となって東京湾に浮かんだという。李の恋人ケイ(K)の調査を始めた裏の探偵・木(モク)。謎の女Kは、恋人を殺しカネを独り占めした悪女なのか、それとも亡き恋人を今も思い続ける聖女なのか? 逆転、また逆転、手に汗握る長編ミステリー~ うーん。ちょっと「龍頭蛇尾」的な作品に思えた。 出だしから終盤まではマズマズ。 主人公の探偵・木、誘拐された組長の息子でヤクザの二代目、裏の死体処理稼業の男、誘拐犯に仕立てられたヤクザの二人組、そしてヤクザをも食い物にする刑事・・・ それぞれがそれぞれの思惑を持ち、付いたり離れたりしながら消えた8,000万円を追う。 殺人の実行犯、裏で事件の糸を引いていた人物は誰なのか、なかなか判然としない展開が続くことで、読者の関心を繋いでいく。 そう、ここまではいいのだ。 問題は最終盤。どんどんページ数が少なくなっているにも関わらず、相変わらず「誰がやったのか?」という展開が続くなか、「?!」 唐突にやってきた急展開! 「えっ!」って思ってるうちに終了してしまった。 いやいや、それはなぁー。いわゆる後出しではないか? まぁそもそも本格ミステリーじゃないんだから、読者が謎を解けるなんて思ってなかったけど、そういう可能性があるのなら、もっと早い段階で探偵たちが調査するんじゃないのか?というのが偽らざる感想。 美女・Kの謎もなぁー。引っ張った割には特段サプライズはなかったしなぁ・・・ ということで、やっぱり「龍頭蛇尾」っていう評価がピッタリ当て嵌まる。 ぜんぜんダメっていうわけではないんだけどね。 |
No.1576 | 5点 | アリバイ崩し承ります- 大山誠一郎 | 2020/04/19 18:19 |
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~美谷時計店には「時計修理承ります」とともに「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。難事件に頭を悩ます新米刑事はアリバイ崩しを依頼する。7つの事件や謎を店主の美谷時乃は解決できるのか?~
早くも地上波ドラマ化された連作短編集。2018年発表。 ①「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」=まずは設定の紹介を兼ねての初っ端の作品なのだが、このトリックはかなりキツイ、というか無理筋ではないか。夫婦間のやり取りはいかにも・・・という雰囲気だった。 ②「時計屋探偵と凶器のアリバイ」=これはタイトルどおり(?)、凶器=拳銃のアリバイが問題になる一編。美谷が看破した真相は、まぁ確かにそういう風にも考えられるけど、かなり綱渡りだろう・・・ ③「時計屋探偵と死者のアリバイ」=これもタイトルが示すとおり、「死者のアリバイ」が事件の鍵となる。これもまぁ、こう考えればアリバイも崩せるかな・・・という感じ。でも必要十分条件ではなくて、単に十分条件のような気がする。 ④「時計屋探偵と失われたアリバイ」=これはいつも気になる、〇れ〇わりがトリックの鍵となる作品。いくら姉妹でも気が付くと思うんだけどねぇー。古典ならやむなしだけど、2020年の今、これを読むとうーんという気になる。 ⑤「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」=これこそ推理クイズのような作品なんだけど、個人的には一番好きかもしれない。実に単純なんけど、アリバイはこう作るというエッセンスが入っていて興味深い。 ⑥「時計屋探偵と山荘のアリバイ」=これはミステリーの王道。「雪の上の足跡」を絡めたアリバイ崩し。崩しっていうか、まぁこれしかないだろっていう解法なのだが、短絡的に誤逮捕した警察は大丈夫か? ⑦「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」=誤認を使ったアリバイトリックなんだけど、関係者の記憶が薄らぐことを前提にするというのが相当リスキー。 以上7編。 『・・・時を戻そう!』(byぺこぱ)じゃなくて・・・『時を戻すことができました!』だった。 (もしかして作者はブレイク前にぺこぱを意識していたのか?) 皆さんかなり辛口の書評ですねぇ。まぁ分かる気もします。 これはクイズとして楽しむべきものであって、「小説」として楽しむものではないということだと思います。 クイズとして捉えるなら、作者の工夫や企みがいろいろと伺えて、割と楽しめる。 クイズなのに「本格ミステリベスト10」第一位かぁ・・・。それについては違和感たっぷり。 |
No.1575 | 6点 | ねじれた家- アガサ・クリスティー | 2020/03/28 21:27 |
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クリスティ自身が気に入っている作品として挙げている作品。
個人的にも、ポワロもマープルも出てこないシリーズ外の作品を読むのは初めて(だと思う・・・)。 1949年の発表。原題“Crooked House” ~“ねじれた家”に住むねじれた老人が毒殺された。根性の曲がった家族と巨額の財産を遺して・・・。状況は内部の者の犯行を示唆し、若い後妻、金に窮していた長男などが互いに疑心暗鬼の目を向けあう。そんななか、恐るべき第二の事件が起こる。マザーグースを巧みに組み入れ、独特の不気味さを醸し出す女史十八番の童謡殺人~ これは評価の分かれるのも理解できる。そんな読後感。 そして、確かにこれならポワロもマープルも出せなかったんだなーと納得。 どなたかも書かれてますが、登場人物の誰もが薄々真犯人に気付いていると思われるのだ。 そんな事件にポワロが乗り出そうものなら、一瞬にして真相に至るだろう。 ただ、だから本作=駄作などということでは決してない。 むしろ逆。こんなミステリー、円熟期の作者でなければ書けない、いや書かない作品ではないか。 決して少なくない登場人物。特に“ねじれた家”の住人たちの書き分けは見事の一言。 読み進めるほど、一族の間に漂う不穏な空気を感じることになる。 本作、どうしてもあの名作ミステリーとの共通性が気になってしまう。 ただ、個人的には想定外の遺産相続に絡む連続殺人事件という部分で、「犬神家の一族」などを想起させられた。 もちろんテイストは大きく異なる。日本だと、出自とか「血の争い」とか言いそうだもんなー ただ、本作の静かだけど、独特の不気味さというのも捨てがたい魅力はある。 いずれにしても、さすがクリスティ女史。低い評価にはならないと思う。 |
No.1574 | 8点 | 錆びた滑車- 若竹七海 | 2020/03/28 21:24 |
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知らず知らずの間に人気沸騰した感もある(もしかして勘違い?)葉村晶シリーズ。
そういやあ最近某国営放送でまさかのドラマ化!しかも主演(ということは葉村晶)がシシド・カフカだって!(かなりのサプライズ) 文庫書下ろしで2018年の発表。 ~女探偵・葉村晶は尾行していた老婦人・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、交通事故で重傷を負い記憶を失ったミツエの孫・ヒロトは、なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する・・・。大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ~ シリーズ開始時20代だった葉村晶もついに40代半ば。 世間並なら結婚して子供もできて家庭に落ち着いている・・・はずの年齢。 なのだが、実際の彼女は真逆。今回も依頼人、連続する事件や警官たち、そして無邪気な富山店長etcたちに巻き込まれ、疲れた体を引きずって都内を奔走することになる。 作者も人が悪いよなぁー。事件に関わった瞬間に、彼女の身には不幸が次々に降りかかってくるからなぁ。 今回もプロットの主軸は「家族の悲劇」なのだが、最初はこれが見えにくくなっている。 中盤から終盤にかけ、晶の行動(不幸?)により序盤からの伏線が回収されることで、この主軸プロットが読者の前に現れるようになっている。 冒頭から事件関係者が多いのだが、それも作者の計算のうち。 終盤には納得感のある結末に至る。 これまでも書いてきたけど、本シリーズは本当に面白い。 女性主人公のハードボイルドも結構増えてきたけど、少なくとも国内でここまで熟成させたシリーズはお目にかかれない。今回も期待に違わぬ良作。 作者の筆が乗ってる感が感じられるのも良い。 でもこのまま進んだら、彼女も50代突入? その前に何とか幸福が訪れて欲しいものです。 (「錆びた滑車」とはそういう意味だったのか・・・) |
No.1573 | 5点 | 奇譚を売る店- 芦辺拓 | 2020/03/28 21:22 |
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~「また買ってしまった」。何かに導かれたように古書店に入り、毎回本を手にして店を出てしまう「私」。その古書との出会いによって「私」は目くるめく悪夢へと引きずり込まれ、現実と虚構を行き来しながら、背筋を寒からしめる奇妙な体験をしていく・・・~ということでビブリオミステリーかな?
「小説宝石」誌に2011年から2013年にかけて連載された連作短編集。単行本化は2013年。 ①「帝都脳病院入院案内」=いきなり不穏なタイトルから始まる冒頭の一編。明治時代の精神病院という設定からして怪しい匂いが・・・。やがて書物の中と現実がクロスしていき・・・ ②「這い寄る影」=戦中戦後に活躍(?)した探偵小説作家が残した「這い寄る影」。それを手に入れた「私」は作品の中に奇妙な影を発見する・・・。いかにもこの時代の作品っぽい雰囲気がうすら寒い。 ③「こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻」=これはもろに乱歩の「少年探偵団シリーズ」を意識しているのだが、主役は明智的名探偵ではなく、小林少年的少年探偵。なのだが、この「少年探偵」には大きな謎があった。 ④「青髯城殺人事件 映画化関係綴」=何十年も前に公開されるはずだった映画が「青髯城殺人事件」。何十年も前なのに、キャストのひとり、若く美しき女優が目の前に姿を現す! ラストには別の角度からサプライズが! ⑤「時の劇場 前後編」=古書オークション会場で巡り合った「時の劇場 前編」。後編を捜し歩く「私」の前にはいくつもの障害が現れる。やっとのことで手に入れた「後編」なのだが、めくっていくと・・・あれ!? ⑥「奇譚を売る店」=連作の仕掛けが判明する最終編。なのだが、何となくスッキリしない幕切れ。 以上6編。 ファンタジーのような軽いホラーのような、ジャンル分けが難しい作品。 すべての作品が主人公の「私」が引き込まれるように古書店で買ってしまった一冊の本から始まり、やがて奇妙な体験に導かれる・・・まさに「奇譚」。 最近こういう風味の作品も結構増えてきたような気もするけど、作品世界に浸れるかどうかで本作の評価は変わってくるだろう。 私はって? う~ん。それほどでもない・・・って感じかな。 ⑥で判明する仕掛けも今ひとつだったしな。 |
No.1572 | 6点 | 君よ憤怒の河を渉れ- 西村寿行 | 2020/03/08 21:08 |
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作者の最高傑作(?)との呼び声も高い本作。
なぜか最近になって福山雅治主演で映画化というオマケ付き。とにかく読んでみるか・・・ 1980年の発表。 ~東京地検のエリート検事・杜丘冬人は、新宿の雑踏で突然女性から強盗強姦犯人だと指弾される。濡れ衣を着せられたその日から、地獄の逃亡生活が始まった。警視庁捜査一課・矢村警部の追跡は執拗だった。無実を明らかにするため杜丘は真相を求めて能登から北海道へ。自分を罠に陥れたものは誰なのか。怒りだけが彼の心の支えだった。長編ハードバイオレンスロマンの最高傑作~ いやいや、スゲエ奴! 主人公の杜丘検事。とにかく不死身なのだ。 北海道では人食い(!)羆と決闘し、経験もないのに北海道から東京までセスナで夜間飛行、一旦入ったが最後誰も出ることができない精神病院から脱出、最後はタイガーシャーク=人食い(!)鮫がうようよ泳ぐ海からの生還!! 普通の人間ですよ! 検事ですから! とにかくもう不屈の精神であらゆる困難、苦難を乗り越えた末にたどり着いた真相。 それは・・・うーん。よくある政財界の癒着という奴だった。 作者あとがきによると、本作は作者が生島治郎氏に「冒険小説を書いたらどうか」という提案を受けて世に出されたというエピソードが披露されている。 確かにこれは「冒険」だ。いや、冒険以外の何ものでもない。 謎解き要素もあるにはあるけど、読んでるうちにそんなことはどうでもよくなった。 いくら罠に陥ったといってもねぇー もっとやりようはあるでしょと突っ込まずにはおれなかった。 まぁでもこれこそが寿行イズム。決して折れない男のロマンなのだ。 杜丘検事とライバル関係にある矢村警部の存在、これまた男のロマン。当初は完全に敵味方に分かれていた両者が運命のいたずらのように邂逅する終盤。なかなか読ませるシーンだろう。 寿行ファンなら決して落とせない作品なのは確か。 行間から溢れ出る熱量は作者ならでは。 それで、もうひとつの大事な要素ですが・・・ほぼノンエロスです。ひたすら汗臭い(たまに糞尿臭い)男たちの物語。残念無念! |
No.1571 | 4点 | 勝利- ディック・フランシス | 2020/03/08 21:07 |
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競馬シリーズ第39作目となる長編。
原題は“Shattered”ということで、主人公ローガンの職業であるガラス細工職人と掛けている模様。 2001年の発表。 ~真冬の寒い日、レース場で起きた惨劇に観客たちは凍り付いた。目の前で騎手が落馬し、馬に押しつぶされて死亡したのだ。親友の突然の死に哀しみにくれるガラス職人のローガンだったが、間もなく彼のもとに一本のビデオテープが届く。それは親友が命を賭して彼に遺したものだった。だが、中身を確かめる間もなく、押し入った何者かにより、テープが強奪されてしまう。謎を秘めたテープを巡る熾烈な争奪戦が今始まる!~ 紹介文のとおり、“テープを巡る争奪戦”というのが本作を貫くプロットとなる。 なぜテープを狙うのか、謎が謎を呼ぶ序盤から中盤。 なのだが、テープの中身が凡そ判明した終盤以降、盛り上がりは急速に衰えていく・・・ そして、本シリーズのお約束ともいえる、主人公の大ピンチを経て、ハッピーエンドのラストを迎える。 久々に本シリーズを手に取ったわけだけど、やっぱりこのマンネリズムは辛い。 テープの中身や襲撃犯の正体だけでこの長編を引っ張るのは無理があるように思う。 刑事の彼女がいながら単独で正体を探ろうとする主人公も主人公だし、全体的にどうも登場人物の動き方もギクシャクしている感が強い。(妻の蛮行を止められないどころか加担する夫とか・・・) 2000年代というと作者最晩年の作品だろうし、作者も寄る年波には勝てなかったということかな。 ローズのキャラもなかなかスゲエな・・・ 水道の蛇口を凶器にする女性なんて、そんな奴今までいたかぁ? ローガンをはじめ、みんながローズを恐れるんだけど、こんな奴こそ早めに警察に通報してた方が良かったろうに。 こういうところも、どうもご都合主義が強すぎて、違和感を感じてしまった。 ところで「勝利」って、何に対する「勝利」なんだろ。漠然としすぎててよく分からんタイトルになってる。 どうにも褒めるところが見つからなかったな・・・ |
No.1570 | 4点 | くたばれPTA- 筒井康隆 | 2020/03/08 21:05 |
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~風刺、SFからホラーまで、黒い笑いが全開のショート・ショート24編~
ということで、これぞ筒井康隆!って感じの作品に仕上がってます。 1985年の発表。 1.「秘密兵器」=この時代だと水原勇気当たりが影響してるのかな? 何回投げてもテキサスヒットって嫌だろうな 6.「酔いどれの帰宅」=何かおかしい?って思ってたら、そういうことなのね、という簡単なサプライズ。 9.「落語 伝票あらそい」=がめつい主婦ふたりが会話すれば、こういう結果を招きかねない・・・っていう教訓? 11.「2001年公害の旅」=「公害」と「郊外」を掛けてる? 非常に時代性を感じるなぁ・・・ 14.「カラス」=医者はたいがいガメツイ! 15.「かゆみの限界」=もう! かゆいよ! 18.「猛烈社員無頼控」=もう死後だね、モーレツ社員なんて 20.「女権国家の繁栄と崩壊」=近い将来、こういう国家ができるんじゃないだろうか? 怖い! 21.「くたばれPTA」=作者って、こういう女大嫌いなんだろうな・・・ 22.「レモンのような二人」 23.「200000トンの精液」=まあまあ下ネタです・・・ 以上、ショートショートが23編。 1970年代に雑誌等に掲載されたショートショートをまとめたもの。 作者らしい皮肉の効いた作品が並んでる。 特に表題作には期待してたんだけど、どうもイマイチ・・・っていう感覚。 ふだんショートショートなんて読まないから、どうも感性が合わないというか、ふーーんという感想で終わった感が強い。こんなもんなのかな? まぁ、作者が忍び笑いしながら書いてる様子が想像できて、その辺りは面白かったが・・・ 時代性もあるかもしれないが、ちょっと肩透かしかな。 |