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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2006件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1846 6点 大樹館の幻想- 乙一 2025/01/12 22:11
ーー決して解かれえぬ謎と共に炎に包まれ、この世から消え去った「大樹館」。
この館に住み込みの使用人として働く穂村時鳥は、「これから起こる大樹館の破滅の未来」を訴えるおなかの胎児の声を頼りに、その未来を塗り変える推理を繰り返すがーー!?
Amazon内容紹介より。

持ち前の切ない作風を封印した乙一の、初挑戦館ミステリ。とは言え一筋縄では行きません。大樹館の家政婦時鳥(ほととぎす)は未来から来たと云う胎児の声と共に事件解決に挑んでいきます。名前も与えられていない御主人様、幽霊が見える少年、樹齢何千年の大樹をそのまま取り込んだ館等いわゆる特殊設定物と捉える事も出来ます。しかし実際は繰り返し差し挟まれる図解に表れる様に、ガチガチの物理トリックを駆使した本格ミステリです。

ただ、読めども一向に盛り上がらない展開には冗長さと退屈さを覚えました。それでもメインとなる密室トリックの要はある○○を応用したものではあるものの、考え尽された新味を含んだ物理トリックと言っても良いと思います。これには素直に感心させられました。
多少のアクセントとなる蘊蓄も楽しく読めました。期待通りとはいかなかったものの、乙一の新たな可能性を感じ取る事は出来ました。

No.1845 6点 神探偵イエス・キリストの冒険- 清涼院流水 2025/01/01 22:01
名探偵は、イエス・キリスト!
神の死の謎を筆頭に、2000年間秘められていた聖書の謎を大胆に解き明かす空前絶後の本格聖書ミステリ。
「すべてを見抜くのは、だれか? 神探偵のわたしである。はっきり言っておく。どれだけふしぎに見える事件も、神探偵にとっては謎ではない。神探偵の目に映るのは真実のみ」
Amazon内容紹介より。

いつの間にかクリスチャンになっていた著者があとがきで自分史上最高傑作と書いていますが、それ程でもないと思います。ストーリーとしてはそれなりに面白いのですが、ミステリとしてはトリックが弱いのが残念なところです。
ヨハネの福音書を叩き台にしているのは、ヨハネ自身の一人称で描かれている事からも分ります。イエスの誕生から十字架に磔にされ処刑され、その後奇跡の復活を遂げるまでに起こる事件を扱っています。

最初の葡萄酒事件のトリックは意表を突くものでしたが、その後は現代では考えられない様なものばかりで、イエスが奇蹟を起こしたり、生身の人間ではありえない現象が起こるので、流水大説の限界を見た気がして残念な気持ちになりました。
まあこれまでで最も「真面」な小説であるのは否定しませんが。Amazonの評価は高すぎると思いますね。

No.1844 7点 再愛なる聖槍- 由野寿和 2024/12/28 22:11
妻との離婚以来5年ぶりに会った愛娘とともに、
テーマパーク・ドリームランドを訪れた元刑事の仲山。
楽しい時間は束の間、2人が観覧車に乗った直後、
何者かによって観覧車が乗っ取られ、人質となってしまう。
「小人」を名乗るジャック犯に連絡役として指名された仲山と娘・凛の運命やいかに。
そして、地上で事件解決の指揮を執っている貝崎は、5年前のクリスマスイヴに起こった
未解決事件に関して互いの秘密を握り合う因縁の相手で――。
絡み合う二つの事件とそれぞれの思惑。
ドリームランドを象徴する巨大観覧車に隠された衝撃の真相とは。
Amazon内容紹介より。

只の虚仮威しではありません。スケール感はそれ程壮大な訳ではありませんが、それよりも緻密な構成と主要登場人物の心理描写が光る逸品です。ただ、所々言葉のチョイスや語彙の貧困さが目立つのが欠点と言えば欠点でしょうか。お前が言うなというか、私の方が余程文章が稚拙なので人の事は言えませんが、一応相手はプロの作家なのでね。

サスペンスの割にはミステリ要素も結構あり、伏線回収やタイトルの意味が最後の最後で理解できる仕掛けになっています。
前述したように文体にやや難があるものの、決して読み難い訳ではなく、一般読者にも広く受け入れられる作品だと思います。ポイントとしては過去に何があったのか、です。その因縁が絡み合って生々しい人間関係が生まれ、それぞれの立場から事件を起こした者と、何故このような大仰な観覧車ジャックなどを実行したのか、犯人は誰なのか、この事件の裏に何があるのかを追う警察の対立が一番の読みどころです。そして最後に残るのは正義か愛か・・・。など興味が尽きません。

No.1843 7点 黒い糸- 染井為人 2024/12/24 22:28
千葉県松戸市の結婚相談所でアドバイザーとして働くシングルマザーの平山亜紀は、仕事で顧客とトラブルを起こして以降、無言電話などの嫌がらせに苦しめられている。
亜紀の息子・小太郎が通う旭ヶ丘小学校の6年2組でも、クラスメイトの女児が失踪するという事件が起きていた。
事件後に休職してしまった担任に替わり、小太郎のクラスの担任を引き継いだ長谷川祐介は、クラス委員長の倉持莉世から、クラスの転入生の母親が犯人だという推理を聞かされて戸惑うが、今度はその莉世が何者かに襲われ意識不明の重体となってしまう。
特定のクラスの周辺で立て続けにおきる事件の犯人は同一なのか、またその目的とは。
Amazon内容紹介より。

かなり込み入った話を見事に捌き、混乱を招かない様に優しく書き切った手腕には拍手を送りたいと思います。終始不穏な空気が漂う中、次々と起こる事件、二つのパートからなる構成、つい読み続けてしまいたくなる牽引力は最後まで保ち続けています。怪しげな人物は、こいつしかいないと私の勘は告げていますが、アリバイがあったりして決定打が決まりません。

そんな魅力溢れた本作ですが、唯一弱いのが警察の存在でしょう。日本の警察の捜査力はこんなものではない筈。しかし、警察の介入があっては成立しない物語なので、どうしても二の次になってしまうのは避けられなかったようですね。
それでも最終盤のあれやこれの黒い糸が繋がっていくクライマックスは強烈で、採点はオマケでこの点数に。作者の文章を紡ぐ力は本物だと信じたいですし、他の作品も、特に今評判の『正体』は早く読みたいですね。

No.1842 7点 死んだ木村を上演- 金子玲介 2024/12/21 22:31
啓栄大学演劇研究会卒業生の元に届いた脅迫状。
『誰が木村を殺したのか、八年前の真実を知りたければ、2024年1月9日14時、雛月温泉の宿・極楽へ来い』
集められたのは、庭田、咲本、羽鳥、井波の4人。
木村が死んだあの日の夜、劇研4年生だった皆には、それぞれ秘密にしていることがあったーー。
Amazon内容紹介より。

前半の茶番劇は何だったのか、これと云った伏線が張られている訳ではなく、個々人のアリバイの有無が後で効いてくる位の役目しか果たしていないのが悔やまれます。この部分で死んだ木村の心境や人となり等がある程度は掘り起こされてはいますがね。
しかし、終盤に差し掛かる辺りの怒涛の展開というか、四人による口論は凄まじいものがあります。誰が木村に引導を渡したのか、全く予断を許しません。

クライマックスも含めて全体的に荒削りな点はあると思いますが、読み終えれば木村役を含む死の当日の再現は、そういう事だったのかと納得が行きました。そしてミステリファンには嬉しいある仕掛けが施されており、この時点で8点もアリかと思われましたが、これからが本番だと気合を入れたところ、呆気なく終わってしまい非常に残念です。
まあそれでも大変な異色作であるのは間違いなく、ただ読み手によって評価がかなり分かれそうな気がします。個人的には好みの範疇で、作者の才能が前作同様垣間見られたのは良かったと思います。この人はまだまだ何か色んなことをやってくれそうな予感がします。

No.1841 7点 クリスマス・プレゼント- ジェフリー・ディーヴァー 2024/12/18 22:30
原題は「Twisted」。つまり、「ひねり」。その名のとおり12の短編、全てにどんでん返しが仕込まれている。スーパーモデルが選んだ究極のストーカー撃退法、オタク少年の逆襲譚、未亡人と詐欺師の騙しあい、釣り好きのエリートの秘密の釣果、有閑マダム相手の精神分析医の野望など、ディーヴァー度が凝縮された一冊。あのリンカーン・ライムとアメリア・サックスが登場する「クリスマス・プレゼント」は書き下ろし。「ジョナサンがいない」「ウィークエンダー」「サービス料として」「ビューティフル」「身代わり」「見解」「三角関係」「この世はすべてひとつの舞台」「釣り日和」「ノクターン」「被包含犯罪」「宛名のないカード」「クリスマスプレゼント」「超越した愛」「パインクリートの未亡人」「ひざまずく兵士」の全16篇。

帯には「どんでん返し16連発」とありますが、着地が鮮やかに決まっているものもあれば、そうとも言いきれないものまで様々で、評価が難しいです。まず唯一の書下ろしで、リンカーン・ライムが登場する表題作は、まあまあとしか言いようがありません。安定感はあるものの、驚きという点ではイマイチ。

個人的な好みとしては、『ウィークエンダ―』『釣り日和』『被包含犯罪』『超越した愛』『パインクリートの未亡人』『ひざまずく兵士』が良かったですね。なかなかの反転を味わえます。そして何と言っても素晴らしいのが『三角関係』でしょう。そう来るかと思わず唸らされました。読んでいる途中とは全く違った角度から描かれているのに、驚きを隠せませんでした。
長いですが、一読の価値はあると思います。

No.1840 7点 少女には向かない完全犯罪- 方丈貴恵 2024/12/13 22:15
黒羽烏由宇は、ビルから墜落し死につつあった。
臨死体験のさなか、あと七日で消滅する幽霊となった彼は、
両親を殺された少女・音葉に出会う。
彼女は、出会い頭に彼に斧を叩き込んで、言う。

「確かに、幽霊も子供も一人じゃ何もできないよ。
でも、私たちが力を合わせれば、大人の誰にもできないことがやれると思わない?」
Amazon内容紹介より。

間違いなく力作だと思います。特に第四章とエピローグは圧巻でした。しかし二転三転する多重推理がくどくて途中でちょっと、それはやり過ぎじゃないのかと思いました。せっかく驚きの犯人にまで到達したと思ったら・・・だし。最後までこのテンションが保ち切れなかった印象で、もう誰が犯人でもいいじゃん、みたいな感じになっていまいました。どの推理にも絶対的な必然性が感じられず、その意味では説得力に欠けるのがやや残念でした。

それでも怒涛の、畳み掛けるような展開はそれまでのスローテンポを凌駕しこの趣向が好きな読者には、堪らない魅力を与えるものと思われます。最終章の中盤あたりで、これは8点でもというのがチラッと脳裏を過ぎりましたが、解決編をやや引っ張り過ぎて、逆効果になってしまったのが惜しまれます。
ところで、この人は麻耶雄嵩のファンでしょうか。大学の後輩ではありますが。

No.1839 7点 禁忌の子- 山口未桜 2024/12/08 22:14
救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。
Amazon内容紹介より。

確かに冒頭の謎は強烈なものがあります。しかし、これが医療ミステリである事を考えると自ずと先が読めてきます。その部分がもどかしいというか、予定調和的だったのが残念です。まあマジックではないのだから、自分と瓜二つの男の溺死体と言う時点で、真相は幾つかしかありえない事になりますね。しかし、本作の本領が発揮されるのはここからです。ミステリとしては密室の謎が最大の見せどころだと思います。この辺りのロジックはなかなか堂に入っており、新人とは思えないです。

それよりも、人間ドラマや先端医療の行き過ぎた結果の皮肉さに呆然とさせられます。ですから、本書は本格ミステリである前に医療ミステリなのです。本質はそこにあるので、不可能犯罪とかそういう要素は味付けの一つに過ぎません。
あとどうでも良い事ですが、気になったのは三人称の文章なのに、実質的には武田の一人称であるような書き方をしているところですね。何故終始武田の視点から描かれているのに一人称にしなかったのか、疑問に思います。どう考えても不自然でしょう。

No.1838 5点 朱雀村の惨劇- 吉村達也 2024/12/04 22:38
風水の四神図に対応した、新たな村で発生する連続惨劇。朝比奈耕作は秘められた関係の弟・鳥神翼とともに、第二の事件に挑む!
《新・惨劇の村》第二弾。
Amazon内容紹介より。

序盤は作者のシリーズ第一弾は勿論、他作品のタイトルがこれでもかと出てきて、やはりそれらを読んでからでないと読むべきではないのかと不安になりました。そして、頭の中には?が色々と浮かぶことになり、少しだけ後悔しました。しかし、一応は単体でも知らない事があるなりに読む際に大きな支障はなかったので、ちょっとだけホッとしました。

それにしても、朝比奈耕作がこんなことになっていたとは。この後一体どうなってしまうのか心配の種が尽きません。本作を読むに当たっては、シリーズ読破が必須なのかも知れません。
採点は甘目で、トリックや猟奇殺人の真相などはあまり誉められたものではありませんでした。しかし、実際シリーズを一冊限りでやめてしまうのは、果たしてどうなのかと自問自答になりそうです。

No.1837 7点 蜜の森の凍える女神- 関田涙 2024/12/01 22:25
大学生らが集い吹雪の山荘で行った”探偵ゲーム”。余興のつもりが、翌朝現実の刺殺死体が発見されて事態は一変した。現場の不可解な錠の開閉は何を意味するのか。50年前に起きた探偵小説家の惨殺事件との暗合は。
ヴィッキーという仇名を持つチャーミングな女子高校生が圧倒的活躍を魅せるメフィスト賞受賞作!
Amazon内容紹介より。

「ヴィッキーからの挑戦状」が挿入されていて、そこで作者は謙遜していますが、読み易く文才はある人だなと思いました。ただ、人間が描けていないのは認めざるを得ません。犯人もその没個性の中に埋もれている感じで、その意味ではあまり共感は出来ませんでした。
その前に、本書のタイトルから、もっとファンタジックな内容かと思いましたが、ガチガチの本格ミステリでしたね。これを先に述べるべきでした。

密室とアリバイトリックが絡んできて、これが意外にも多重推理となっており、読者サービスもばっちりです。典型的な吹雪の山荘ものかと思わせておいて、実は途中で警察が介入してくるのにも意味があり、名探偵対警察の構図が見えてくるのもなかなか面白い趣向です。
終盤まではせいぜい6点かと思っていましたが、解決編でググッと評点が上がりました。結局これで良かったんだよなと、個人的には感じましたし、後味も悪くないし、アンフェアな面もギリギリ許せる範囲のものだと考えます。

No.1836 7点 プロジェクト・ヘイル・メアリー- アンディ・ウィアー 2024/11/28 22:33
グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。
Amazon内容紹介より。

もうSFは当分読まなくてもいいやと云う位堪能しました。特に前編は非常にエキサイティングな体験が出来ます。こういうのはSFならではですね。
筆致は誰にでも受け入れられやすく、リーダビリティに優れていて、難解になりそうな内容をエンターテインメントに昇華させています。長いですが、途中でダレることなく、読者に圧力を加える程の圧迫感がなく、程良いユーモアをも含んで飽くまでも中道を往くことに徹していると思います。

時に我々の科学的探究心や知的好奇心をくすぐり、ハードな面を見せますが、それでもストレスなく読み切る事が出来るのは原書と翻訳が上手い所以でしょう。過去と現在が行き来する構成もストーリー性を高める上で一役買っていると思います。最後の一行も良いですね。
希望と絶望の狭間に揺れる主人公に感情移入出来る事必至で、その意味でも良く出来た小説です。

No.1835 5点 悪童日記- アゴタ・クリストフ 2024/11/20 22:25
相変わらずAmazonの評価の高さが信じられない作品の一つ。おそらく私の感性が本作と合わなかったか、或いは自身の読解力の無さに起因すると思われますが。
物語は第二次世界大戦の影が色濃く感じられるヨーロッパのどこかの国が舞台。一切固有名詞が使われていないので、これは解説からの受け売りです。父親を知らず祖母に預けられた幼い兄弟が主人公で、一人称はぼくら。つまり双子のうちどちらでも良いわけで、これが又感情を殺した筆致で描かれ、喜怒哀楽が全く見えません。何を考えているのかは解らない訳ではないですが、どう感じているのかは全く書く気がないのか、故意にそうする事で何かをぼやかそうとしているのか、私には理解出来ません。

一方、双子をこき使い乱暴な言葉で叱責したりするおばあちゃんは実によく描かれています。この人の魅力で支えられている部分が大きく、その意味では準主役と言って良いでしょう。
しかし、私には一つだけ腑に落ちない謎が残されていて、それが気になって仕方ありません。何故なんだと、どうしてなんだと。まあ書かれていないのだからどうしようもありません。最後の章は面白かったです。と言っても各章が2ページくらいですけど。

No.1834 6点 幽霊詐欺師ミチヲ- 黒史郎 2024/11/18 22:35
未練を残す幽霊をだまし、財産を巻き上げる集団がいた――その名は幽霊詐欺師。多額の借金から自殺を図ろうとしていた青年ミチヲは、苦悩から解放される代わりに、「幽霊を騙しきる」謎の仕事をもちかけられるが!?
Amazon内容紹介より。

主人公のミチヲはどこにでも居そうな普通の青年ですが、結婚詐欺に遭い多額の借金を抱え首吊り自殺をしようとするシーンから始まります。そこに現れたのは一匹の大型犬。自殺を邪魔しようとするような仕草でミチヲを一瞬思いとどまらせます。更にカタリと云う謎の男が出てきて・・・。という、なかなか吸引力を持った二人と一匹の邂逅から始まり、物語は悲惨な自殺を遂げた女性の幽霊を騙す仕事の代わりに借金の肩代わりをしてもらう、というのが第一話。

上記の様に普通のホラー感覚で読むのはちょっと違うかなと思います。
登場人物が極端に少ない為、すんなりとこの異様な世界観に入って行けるでしょう。第一話では主にミチヲと女性の幽霊との駆け引きが読みどころとなっています。
第二話も非業の死を遂げた少年の悲しい物語です。こちらでもミチヲは少年の幽霊に感情移入しながらも何とか仕事を全うする事が出来ます。幽霊を騙すというより、幽霊の感情を理解し、納得させて事を収める感じです。まずまず評判通りの良作だったと思いますね。

No.1833 5点 おがみむし- 遠藤徹 2024/11/15 22:42
「これが恋というものなのだ」。男は私の心臓を丸呑みにして、そう言った。虜になった私は、11名の女と共に僕となった。ところが13番目の少女だけは違っていた。なぜなら彼女は……。名手が放つ耽美なるホラー!
Amazon内容紹介より。

表題作は上記の通りですが、短いです。まあこれはホラーと言えばホラーでしょう。解説によれば「メタファーが現実に転化する世界」。正に言い得て妙です。さらに問題作とも言える本命の長編『くくしがるば』に関しても、この解説者は的確にカオス状態の作品を丁寧に解きほぐしてくれています。大したものだと思いました。

単行本で刊行された時のタイトルは『くくしがるば』でしたが、文庫化の際にどちらかと言えば分かり易い『おがみむし』としたそうです。その方が売りやすいという理由でしょうが、本来なら逆でしょう。飽くまでメインは『くくしがるば』の方ですので。こちらは言葉遊びが過ぎる様で、真面に書けばもっとスッキリしたのではと思います。講談の様でもあり落語の様でもあり、作風とマッチしているのは確かなので、一概に読み難いなどとは言えませんが。
ストーリーとしてはラノベ風で、それを妙な言い回しで撹乱しながら悟らせない様な無駄な力を使っているのが見えてしまった読者は、作者の罠に嵌っているのでしょう。そのような事態は想定内だったのだろうと思います。取り敢えず、一度読んだだけでは十分に理解が及ばない面がありつつも、謎解き小説としても成立している所は評価できると思います。

No.1832 7点 私はチクワに殺されます- 五条紀夫 2024/11/11 22:20
チクワの穴を通して人の姿を見ると、その人物の死に様が見える――。巷に溢れるチクワの秘めたる怖ろしい力に気付いたトラック運転手の男は、気づいてしまった事実の重さに苛まれ、やがて身を滅ぼしていく。
荒唐無稽な設定から始まる奇妙な物語は、複数の視点から語られることで全く異なる側面を見せる。ラストには予想不可能な結末が待ち受ける、前代未聞・驚天動地のチクワ・サスペンスここに開幕!
Amazon内容紹介より。

本日11月11日はちくわの日(本当です)。その日に本作を読み終え、こうして書評を書いている事に、多少の感慨を覚えます。
私はこのようなぶっ飛んだ作品が大好きです。決してふざけているとか、色物的なミステリではありません。真面目なというか、不真面目ではない真っ当なミステリだと思います。チクワの穴から覗いた人の死に様が見えるという、圧倒的に馬鹿馬鹿しい設定が、何を書いているんだと最初は思いました。しかし、読んでいくうちに何故そんな馬鹿らしいことが現実に起こってしまうのか、不思議でなりませんでした。

勿論その裏には隠れた真実がある訳で、それを実に上手く料理している手際の良さは、この作者只者ではないなと思わせます。荒唐無稽な設定に現実味を持たせる見事な逆転劇が目の前で繰り広げられます。
ラストは意見が分かれるところでしょう、そこで評価が割れる可能性も否定できません。私自身はどちらとも言えないとする立場を取りたいと思います。ただもう少しスッキリした幕切れなら8点もあり得たかも知れません。しかし、これを読んで興味を持ったとしても安易に読まないで下さい。くだらないと思われるのも本意ではないですし、出来ればこのまま誰も読まず、密かに私の心の中だけで輝いていて欲しい気持ちも大いにありますので。

No.1831 5点 神に愛されていた- 木爾チレン 2024/11/09 22:06
若くして小説家デビューを果たし、その美貌と才能で一躍人気作家となった東山冴理。
しかし冴理は人気絶頂のさなか、突然、筆を断った――。
やがて三十年の時が経ち、冴理のもとに、ひとりの女性編集者が執筆依頼に訪れる。
「私には書く権利がないの」そう断る冴理に、
「それは三十年前——白川天音先生が亡くなったことに関係があるのでしょうか」編集者は問う。
「あなたは、誰かを殺したいと思うほどの絶望を味わったことってあるかしら」
――そして、この時を待っていたというように、冴理は語り始める。
高校文芸部の後輩、白川天音が「天才小説家」として目の前に現れてから、
全ての運命の歯車が狂ってしまった過去と、その真実を……。
Amazon内容紹介より。

一言で表現するなら浅い。内容が薄っぺらいってことですかね。これはミステリと呼べるのでしょうか、敢えてジャンル分けすればイヤミスなのでしょうが。サラッと読めて後に何も残らない感じです。日頃から苛烈なミステリを読んでいる身としては、いささか物足りませんでした。

一応、最終章でどんでん返しを目論んだ訳ですが、主人公の冴理が目の前の相手の心理状態や雰囲気、空気を読めなさすぎな気がします。女性同士で、それくらいは分かるだろうと思わず突っ込んでしまいそうでした。
まあ些細な誤解が悲劇を生んでしまった物語なんですが、その代償が余りに重く、読んでいて辛くなりました。それでも生ぬるい印象が拭えないのは、文章が上手くないからでしょうね。表現力が拙いと思いました。

No.1830 7点 九尾の猫- エラリイ・クイーン 2024/11/06 22:39
次から次へと殺人を犯し、ニューヨークを震撼させた連続絞殺魔〈猫〉事件。すでに五人の犠牲者が出ているにもかかわらず、その正体は依然としてつかめずにいた。指紋も動機もなく、目撃者も容疑者もまったくいない。〈猫〉が風のように町を通りすぎた後に残るものはただ二つ――死体とその首に巻きついたタッサーシルクの紐だけだった。過去の呪縛に苦しみながらも、エラリイと〈猫〉の頭脳戦が展開される!
Amazon内容紹介より。

いわゆる劇場型犯罪に挑むエラリイ。一応本格ミステリではありますが、色んな要素が詰まった大作であり、またもや苦悩する探偵像が印象的な作品でもあります。途中ちょっとダレる部分があったり、個人的に余計なパニックシーンなどがあり、評価が難しいところですね。ニューヨーク全域での無差別殺人事件なのですが、登場人物の中に犯人がいるのは間違いないので、あまりスケールの大きさは感じません。それよりもサスペンス色が濃いミステリと感じました。

しかし流石クイーンと思わせるに十分な論理と心理的動機の追及、ミッシングリンクの解明シーンの素晴らしさ、粋な捻り具合など、各所にその手腕を見せ付けています。
まだまだ未読の作品があり、今後も楽しませてもらえそうです。 

No.1829 6点 誘拐- アンソロジー(出版社編) 2024/11/01 23:36
誘拐、誘拐、また誘拐。これでは流石に飽きるのではないかとの不安を、本書は吹き飛ばしてくれました。誘拐のみに特化したこの作品集は多少の瑕疵はあるものの、様々なバリエーションを見せており、それぞれが一捻りしてあり、尺は短いけれど各々違う楽しさを味わわせてもらえます。

どの短編が突き抜けている訳ではなく、平均的によく出来ていると思います。印象深いのは、五十嵐均、折原一辺りでしょうか。有栖川有栖は懐かしい面々が登場しますが、ストーリーとしては小粒で期待通りとはいきませんでした。あと香納諒一の逆転の発想が面白かったですね。
読む前はそれ程とは思いませんでしたが、想像以上に良作揃いでした。

No.1828 5点 転売ヤー殺人事件- 松澤くれは 2024/10/29 22:40
プロとして、誇り高く転売行為を続ける「俺」。しかし巷では転売ヤーを狙った連続殺人事件が発生、現場の動画がSNSで拡散され、転売が社会問題として連日ワイドショーでも話題となる。
身の危険を感じつつ転売を続けている中、「俺」は人気中学生配信者の凸を受けてしまったことから自宅を特定され、転売ヤーの元締め「転売王」だという事実無根の噂を流されるなど、とんでもない状況に陥り……。
Amazon内容紹介より。

第一章は文句なく面白いです。これは期待出来ると思ったのもつかの間、物語が進む程にトーンダウンしていくのが遣る瀬無いと云うか、残念でした。
タイトルに堂々と殺人事件と謳っていますが、内容的には転売屋の実情を浮き彫りにするばかりで、ミステリとはほとんど無関係のストーリーとなっています。転売という世間的には余り好ましからぬ行為を生業としている主人公に、感情移入が出来ません。作者も立ち位置として、どちらかと言えば突き放した様な書きっぷりで、主人公を好意的に描こうとしていないのが文章から伝わってきます。

犯人もおよそ想像の範囲内で意外性も何もありません。一応サスペンスで登録しましたが、それ程サスペンスフルではなく、その意味では読む価値はありません。ただエピローグで、所詮転売行為は不正ではないものの、決して真似してはいけないものだと語っている気がして、何となく納得できましたね。

No.1827 6点 絶海ジェイル Kの悲劇’94- 古野まほろ 2024/10/26 23:02
先の大戦中、赤化華族の疑いをかけられ、獄死したはずの祖父が生きている。そう聞かされた「イエ先輩」こと八重洲家康は絶海の孤島・古尊島を訪れる。しかし、そこにあったものとは……! 隠された孤島。鉄壁の監獄。一望監視獄舎。そして、「ここから脱獄してみろ」という悪意に満ちた挑戦状。空前絶後の脱出劇が開演する!
Amazon内容紹介より。

過去に起こった、絶海の孤島での脱獄劇を再現し、その中で如何に主人公の八重洲家康は解答を得られるのかという物語。
まず、謎自体が地味で事件も起こりますが、面白さは半減しているようです。その原因の一つには、クセの強すぎる文体にあります。細々した小技を積み上げて、それを解決に導く為ロジックを組み立てる過程に、重きを置いている様ですが、いささかくどい印象は拭えません。

アッと驚くべきシーンもありましたが、その見せ方に問題があり、素直に驚けませんでした。
まあ力作だとは思いますが、チマチマして小粒な感が抜けきれません。もう少し砕けた文章を書いて貰えたら、全体の評価や印象も変わったかも知れませんが、せいぜい6点が精一杯でしょう。
「読者への挑戦状」が二つも挟まれています。しかし、残念ながら余程の専門知識を有した人でないと、全容は掴めないと思いますね。あとバカミスっぽいというか、リアリティゼロのトリックもちょっと呆れました。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2006件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(29)
西尾維新(25)
島田荘司(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
日日日(20)
折原一(20)
中山七里(19)
森博嗣(18)