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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1901件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1741 8点 バールの正しい使い方- 青本雪平 2024/02/12 22:21
転校を繰り返す小学生の礼恩が、行く先々で出会うクラスメイトは噓つきばかりだった。
なぜ彼らは噓をつくのか。

友達に嫌われてもかまわないと少女がつく噓。
海辺の町で一緒にタイムマシンを作った友達の噓。
五人のクラスメイトが集まってついた噓。
お母さんのことが大好きな少年がつかれた噓。
主人公になりたくない女の子がついた噓。

さらにはどの学校でもバールについての噂が出回っているのはなぜなのか。
やがて礼恩は、バールを手にとり――。
Amazon内容紹介より。

その本質が判る人には判る、判らない人には判らない、そんな連作短編集です。
だから、賛否が分かれるのだと思います。肝心なのはこの作品のどこかが琴線に触れるか否か、でしょうね。端的に言えば好みの問題となってしまうかも知れませんが。私のフィーリングにはぴったりとフィットしました。文章は淀みなく流れる様で、情景描写も心に響くものがあり、ミステリとしては意外性を持っていて、そんなトリックを?と驚かされる事があったり、人間が描けている、読み応え十分です。

最後の『ライオンとカメレオン』とエピローグだけは他と毛色が違います。少しだけ混乱したので、ここだけは二度読みました。それまでのストーリ性が見られず、ややぎこちない感じを受けました。読みやすさがなりをひそめ、やや読解力を要するものになっている気がします。もう少しストレートに攻めても良かったのではないか、驚きの一撃を読者に食らわせる事も出来ただろうに、ちょっと勿体なかったかなというのが正直な感想です。
それでも高評価は変わりません。帯にある書店員の絶賛の声を侮ってはいけませんよ。彼らは本を売るプロですからね、それを信用して読んでみるのも一興ではないですかね。

No.1740 6点 でぃすぺる- 今村昌弘 2024/02/10 22:09
残念ながら期待を上回る事はありませんでした。小学生が主役のせいか、ジュブナイル寄りな為か、折角の七不思議という魅力的な題材を上手く料理出来ていない気がしてなりません。もう少し怪談話らしく禍々しさを強調して欲しかったです。その謎に挑む三人の小学六年生の男女は中途半端に謎を残しながら、少しずつ真相に迫りますが、手付かずの疑問を残し過ぎではないでしょうか。結局最後にはその疑問点は全て解明される訳ですが、道中何だかモヤモヤする気分が抜け切れず、あまり乗れませんでした。

そして最大の不思議な点が最後に残った感じでしたね。何故そんな事をしたのか、もっと他に最善手が無かったものかと個人的に思ってしまいます。私の読みが甘いせいかも知れませんが。いずれにせよ、あまりスッキリした読後感ではありませんでした。ただ、なかなかの反転や、ミステリとオカルトの境界線を渡り歩きながら子供たちが協力して過去の事件の謎解きをしていく姿はまずまず描けていたと思います。それとミナの意外な活躍のシーンには感動しました。

No.1739 5点 長く短い呪文- 石崎幸二 2024/02/07 22:13
呪いがテーマとなっている割りに、陰惨な空気がほとんど感じられません。
やはり物足りないのは、事件らしい事件が起こらない事。これでは本格ミステリを読んだ気になりませんね。それを補って余りあるのは、ミリアとユリ、石崎の掛け合いではなく、幼気な双子の姉妹が可愛くて癒されるところですね。この二人の露出度が高く、凄く無邪気で素直な言動に好感を覚えました。

ミステリとしては地味であまり誉められたものではありませんが、伏線を回収し論理的に詰めていく過程が一応読みどころですかね。少々強引な部分がないではないです。まあでも、結果全て丸く収まって、事件を未然に防いだトリオの活躍は、殺人ありきのミステリとは一線を画しているので、その辺りは評価すべきかもしれません。
あまり私の好みではないです。笑えるシーンもそこそこで、本シリーズのらしさは出ていると思いますが、今まで読んだ中では最もつまらなかった作品ですね。

No.1738 8点 暗闇の中で子供- 舞城王太郎 2024/02/05 22:31
あの連続主婦殴打生き埋め事件と三角蔵密室はささやかな序章に過ぎなかった!
「おめえら全員これからどんどん酷い目に遭うんやぞ!」
模倣犯(コピーキャット)/運命の少女(ファム・ファタル)/そして待ち受ける圧倒的救済(カタルシス)……。奈津川家きっての価値なし男(WASTE)にして三文ミステリ作家、奈津川三郎がまっしぐらにダイブする新たな地獄。
――いまもっとも危険な“小説”がここにある!
Amazon内容紹介より。

激しく読者を選ぶ作品だけど、こういう荒唐無稽なの好きだなー。一見破綻している様で破綻していない所がまた良いですね。デビュー作『煙か土か食い物』ではあまりピンと来ず、すっかり忘れ去ってしまっています。20年以上経っていますからね、その間に私も少しは成長したって事でしょうか。家中を捜索して読み返してみますかね。本作はその続編だから、やはり再読してみないと何とも言えませんが、多分作風は変わっていないだろうし、今ならかなり楽しめるかも知れません。

それにしても次から次へと事件が起こり過ぎです。その書きっぷりは殴りつける様な感じで、文字による暴力と言っても過言ではありません。冒頭に『マニトウ』が出てきた時は何故かドキッとしました。その時予感しました、これはただでは済まないと。予想通り、普通の感覚では読み切れない何物かがこの作品には宿っている様です。それはおそらく作者の魂だと思います。改行が極端に少なく独特の福井弁なのか知りませんが、会話文も相当捻くれています。そんなのはまだ生温い方で、何を書くにも過激で特に最大にして最後に解かれる事件の結末には畏怖の念を覚えました。そんな馬鹿な・・・。そしてラストの何とも言い様のない、様々な感情がない交ぜになった主人公三郎の心情や如何に、と、思います。この結末は正直キツイです。

No.1737 6点 完璧な小説ができるまで- 川崎七音 2024/02/02 22:33
レーベルがメディアワークスだけにラノベなのかなと思ったら、ラノベ臭は一切ありませんでした。単行本で出しても問題ない位のレベルです。
序盤はありがちな青春小説ですが、ここである事件が起こりながらも一旦通常運転に戻ります。本当の物語の始まりは中盤、主人公である社会人になった月村のスマホに送られてきた一通のメールだったのです。其処からじりじりとサスペンスが進行していきます。書き方が丁寧な上に、低刺激なので展開としては衝撃的なはずが、あまりそれを感じさせない所が損をしている気がします。

プロットは折原一に似ています、又心理描写は乙一辺りを想起させます。
テーマは作家とは何か小説家とは何か、そして「完璧な小説」とは何なのかというもので、多くの小説家がぶつかるであろう壁に真っ向から取り組んでいます。登場人物は少なくシンプルで、その分頭に入り易い優しい文章に仕立てて、閉塞感を覚えそうなシチュエーションにも拘らず、独特の世界観に読者を誘い魅了します。心情的には7点付けたいところでしたが、柱となるトリックにあまり驚けなかった点を考慮してこの点数にしました。

No.1736 7点 涜神館殺人事件- 手代木正太郎 2024/01/31 21:48
“妖精の淑女”と渾名されるイカサマ霊媒師・グリフィスが招かれたのは、帝国屈指の幽霊屋敷・涜神館。
悪魔崇拝の牙城であったその館には、帝国が誇る本物の霊能力者が集っていた。
交霊会で得た霊の証言から館の謎の解明を試みる彼らを、何者かの魔手が続々と屠り去ってしまう……。
この館で一体何が起こっていたのか?
この事件は論理で解けるものなのか?
殺人と超常現象と伝承とが絡み合う先に、館に眠る忌まわしき真実が浮上するーーーー!!
Amazon内容紹介より。

前半はとにかくオカルトで押しまくります。死体が出てきても殺人が起こっても、ひたすらオカルト。それがインチキとか何らかの仕掛けではなく、本当の超常現象だから我々読者はそれを飲み込むしかありません。その辺を完全に理解してから読めば、結構楽しめます。それに加えてエログロ要素もかなりあるので、先行きが心配になる程です。でも本格なので安心して下さい。

それにしてもこのタイトル、神をも恐れぬ罰当たりなやつじゃないですか。しかし、それに見合った内容ではあります。過激と言えば過激です。まあミステリとしては地道に伏線を回収してロジックで推理を進める様なタイプではありません。反則気味な部分もありますし。それでも真相は一応理に適ったものであり、それなりに納得できます。やや動機が弱いと言うか、在りがちなものななので、その辺は減点材料。
普通のミステリに飽きた方にお薦め。かなり毛色の変わった怪作かと思います。

No.1735 5点 死体は散歩する- クレイグ・ライス 2024/01/28 22:02
「ジェイク、あたし脅迫されてるの」そう言って、ラジオのスター歌手ネルは姿を消した。彼女の元恋人を訪ねてみると、出くわしたのは何と相手の射殺体。おまけに、追い討ちをかけるように当の死体が失踪し、ジェイクの困惑は頂点へ…。1930年代のラジオ界を舞台にお馴染みマローン、ジェイク、ヘレンが活躍するユーモア・ミステリ、待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

コンディション不良のせいか、これまで多くの国内産の手の込んだミステリを読んで来たせいか、本作にはほぼ心が動きませんでした。人並由真さんには申し訳ないですが、とても高評価を下す気にはなれません。一年後には中身をすっぱり忘れている自信がありますね。
第一に謎めいた事件がなく、惹かれる部分がありません。長々と読まされて、推理や議論されるでもなく、最後の最後に僅かなページ数で明かされる真相に意外性が全くありませんし、非常に貧弱に思えました。

探偵のマローンは魅力に乏しく、大した活躍をしていません。ただ何故死体が移動したのか位しかピックアップされず、ミステリとしての骨格が弱々しいです。それを登場人物の関係性で補おうとしている様ですが、そっち方面には興味がないので、私としてはそこを評価する訳にはいきませんし。点数としては5点の最下層に相当すると思っています。
まあ正直どこが面白いのかよく分からないというか、楽しみ方を誰か教えて欲しいと感じた次第です。

No.1734 6点 殺してしまえば判らない- 射逆裕二 2024/01/23 22:33
首藤彪三十四歳、現在無職。妻の彩理は、東伊豆の自宅の書斎出入口で血まみれとなって死んでいた。確たる物証もないまま、妻は自殺として処理される。彪は失意のあまり東伊豆を離れるが、彩理の死の真相を究明するために再びそこで暮らす決意をする。だが、引っ越してきた直後、周囲で発生する陰惨な事件やトラブルに巻き込まれてしまう。その渦中で知り合いとなってしまった奇妙な女装マニアの中年男・狐久保朝志。外見に似合わず頭脳明晰、観察力抜群な彼の活躍で、彪の周囲で起こる事件は次々と解決していき、さらには妻の死の真相まで知ることとなるのだが…。予測不能な展開と軽妙な文体、そしてアクの強い探偵の鮮やかすぎる推理で、読者を超絶&挑発の迷宮へと誘う本格ミステリ。斯界を震撼させる女装探偵・狐久保朝志初登場。横溝正史ミステリ大賞作家が放つ超絶&挑発しまくりの本格迷宮推理。
『BOOK』データベースより。

取り敢えず、人間が描けていません。主要な三人も登場頻度の割にはやはり描けていません。もう少し個性を感じさせてくれないと、感情移入出来ませんね。その他の人物に至っては、誰がどんな役割を担っているのかさっぱり伝わってきません。読んでも読んでもそれが私には判りませんでした。
本筋以外の全く関係ない事件を持ち込んでみても、それはそれで完結している訳で、おまけ程度にしか感じられません。

では何故6点付けているのか。ケチばかり付けましたが、真相が明かされる最終盤に至って、これが又見違えた様に凄みを見せ付け、衝撃を読者に与えます。ここを最大限に評価してこの点数に。意外というか奇想というか、思ってもみなかったカタルシスを齎してくれました。そしてダラダラ読んでいたせいもあって、思いの外そこここに伏線が張られていたのにも驚かされました。

No.1733 7点 好きです、死んでください- 中村あき 2024/01/21 22:04
無人島のコテージに滞在する男女の恋模様を放送する、恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」の撮影が始まった。
俳優、小説家、グラビアアイドルなど、様々な業種から集められた出演者は交流を深めていくが、撮影期間中に出演者である人気女優・松浦花火が死体となって見つかった。
事件現場の部屋は密室状態で、本土と隔絶された島にいたのは出演者とスタッフをあわせて八人のみ。一体誰がどうやって殺したのか?
そして彼女の死は、新たな惨劇を生み出して――。
Amazon内容紹介より。

おそらく多くのミステリファンは、このタイトルと恋愛リアリティーショーと云う若い男女の絡みとの思い込みにより、敬遠されていると思います。が、想像以上に本格派で、読んで損はないと言いたいです。
確かに最初に仕掛けられた事件にはいささか脱力させられました。え~?やっぱりこんなものかと正直がっかりしました。それでもその推理合戦はなかなか読ませるもので、バカに出来ません。

そして本筋では密室殺人や○○死体が本作を彩り、一筋縄では行かない事件の様相を呈します。思ったよりも複雑で意外性もあり、そして数多くの伏線が散りばめられています。決して捨て置いて良い作品ではなく、世間的にももっと読まれるべきものだと思います。作者の実力は確かで、今後の活躍を期待したいですね。全体的にバランスよく過不足のない秀作だと思います。

No.1732 5点 霊界予告殺人- 山村正夫 2024/01/19 22:20
交通事故で臨死体験した探偵作家が、日常生活に戻ると次々に不可思議な体験をする。まばたきをしない人々、唇も動かさないのに聞えてくる話声。そして死んだはずの恋人が姿を現わす。霊界に踏み込んだ男は、コナン・ドイルを名ざした予告殺人に遭遇、クリスティ、乱歩、正史らと霊界殺人の謎解きに挑む。
『BOOK』データベースより。

序盤、主人公の探偵作家が不可解な世界に足を踏み込んでしまっているのを自覚出来ずに、戸惑っている姿を読む限りは、これから起こる事に期待が膨らみます。しかしそれも、事態が明らかになって来るにつれて平常心を取り戻して、通常のミステリと対する姿勢に変わりました。つまりは、まあまあ面白いのですが、それ程テンションが上がらない状態ですね。

霊界のミステリ作家が実在の人物ばかりなので、気を遣い過ぎたのか、あまり個性が感じられません。魅力に乏しいのです。折角の素材の良さが活かされていない様に思えます。そして、霊界のシステムが複雑で真相に至ってもなんとなく腑に落ちない点がありました。
もう少し見せ方というか、描き様があったのではないかと思います。其処に作者の限界を見た気がして、淋しい気持ちになったりしました。うーん、山村正夫、惜しいなあ。

No.1731 5点 憑物語- 西尾維新 2024/01/16 22:50
“頼むからひと思いに―人思いにやってくれ”少しずつ、だがしかし確実に「これまで目を瞑ってきたこと」を清算させられていく阿良々木暦。大学受験も差し迫った2月、ついに彼の身に起こった“見過ごすことのできない”変化とは…。「物語」は終わりへ向けて、憑かれたように走りはじめる―これぞ現代の怪異!怪異!怪異!青春に、別れの言葉はつきものだ。
『BOOK』データベースより。

はっきり言ってこれはロリ好きの為の小説と断言しても間違いではないと思います。まず最初の70ページが暦の妹、月火とのいちゃつきのみで進行し、妄想全開のラノベ風。まあ元々本シリーズはラノベ寄りだから許されますけど。あと、ストーリー性がほとんどありません。場面変換は三回くらいしかないので、凄く単調に感じます。流石に日常の何でもない事を面白おかしく書く西尾維新をもってしても、余りにも変節が無さ過ぎじゃないでしょうか。ラストのオチはちょっと良かったですけど。

まるで何かの付け足しの如き作品で、ついでに書いてみました感満載です。予定では本シリーズ最終盤の筈だったのに、その後も延々続いているのは、読者の要望なのか著者の気まぐれなのか分かりませんが、いずれにせよ書きたかったんでしょうね、続きを。確かに臥煙伊豆湖や忍野メメのその後なんかは気になるところですけどね。その辺りまだまだ語り尽していないところが多々ありそうですし。

No.1730 8点 爆弾- 呉勝浩 2024/01/14 22:24
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
Amazon内容紹介より。

これは又目を瞠る程骨太の力作ですね。
何だか知らないけど、物凄い迫力です。息をも付かせぬとはこう云う事を言うんでしょう。まず何と言ってもスズキのキャラが濃すぎです。どう表現して良いのか分かりませんが、とぼけている様で妙に気が回る、故意に記憶喪失を装い手練れの刑事達を翻弄しまくる異様な雰囲気を持った謎の自称49歳の男。この人物の語りだけでも全く飽きが来ません。1ミリも無駄のない描写で圧巻の400ページ超えもダレることなく読み切れます。

対する警察側も負けてはいません。恫喝等にはまるで屈しないスズキは、自分の言い分を聞き入れる刑事達には対等に接します。刑事は入れ代わり立ち代わり尋問、というよりはスズキの出す遠回しなヒントを基に爆弾が仕掛けられた場所を必死に模索していきます。等々力、清宮、類家、伊勢、鶴久、紅一点の紗良、それぞれの内面がよく描き分けられています。中でも類家対スズキの頭脳戦は読み応え十分です、まあ本作に関しては最初から最後まで全てが読みどころと言えると思いますけど。
これだけ読ませる警察小説は滅多にお目に掛かれないと思います。傑作間違いなし。

No.1729 5点 治療島- セバスチャン・フィツェック 2024/01/10 21:44
目撃者も、手がかりも、そして死体もない。著名な精神科医ヴィクトルの愛娘ヨゼフィーネ(ヨーズィ)が、目の前から姿を消した。死に物狂いで捜索するヴィクトル、しかし娘の行方はようとして知れなかった。4年後、小さな島の別荘に引きこもっていた彼のもとへ、アンナと名乗る謎の女性が訪ねてくる。自らを統合失調症だと言い、治療を求めて妄想を語り始めるアンナ。それは、娘によく似た少女が、親の前から姿を隠す物語だった。話の誘惑に抗し難く、吹き荒れる嵐の中で奇妙な“治療”を開始するヴィクトル、すると失踪の思いもよらぬ真実が…2006年ドイツで発売なるや、たちまち大ベストセラーとなった、スピード感あふれるネオ・サイコスリラー登場。
『BOOK』データベースより。

精神病患者でありながら精神科医と統合失調症患者で謎の女の対決。様々な謎を孕んだストーリーは悪くないですが、もう少し書き様があったのではないかという気がしてなりません。外堀を埋めて少しずつ真実に近づく速度が遅すぎてじれったいったらありゃしない、です。もう少し核心に迫る様な描写があっても良かったんじゃないでしょうかね。遅々として進まない展開にイライラします。

ドイツではこれが大ベストセラーになったと言うんだから、底が知れてますね。日本だったら新人作家である事を考慮しても、それほど話題になった筈がありません。こなれた作家ならもっと上手く料理出来たかも知れませんが、この何とも言えず地に足が付かない据わりの悪さが、本作では裏目に出ていると思います。

No.1728 6点 乳房のない死体- 山村美紗 2024/01/07 22:23
胸をえぐりとられた人妻の水死体!乳房に隠された秘密とは何か?被害者は31歳の人妻だった…。犯罪の陰にひそむ情事を官能的なタッチで描く表題作。単行本未収録オリジナル。
Amazon内容紹介より。

表題作は狩矢警部が登場する、本格ミステリと言って良いと思います。他の六作は官能小説まがいの結構濃厚な描写が特徴的な、サスペンスや倒叙物ですね。どれも男女の愛憎蠢く錯綜し、歪んだ愛の形をテーマとしています。犯人は全て女性で、終始犯人目線で描かれています。仕掛けがすぐに判るのもあれば、ああそうだったのかと驚かされるものもありますが、読んでいて飽きることの無い水準は満たしていると思います。

しかし、似たようなトーンの作品が続く為、読み終わってもどれがどれだったか判然としない様な感覚を覚えました。お得意のトリックはなりを潜め、専ら叙述で読ませる短編が多く、殺人方法も地味ではあります。まあ佳作揃いではないでしょうか。

No.1727 5点 やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体- 清水義範 2024/01/05 22:14
分別・無分別の複雑なゴミ分類に踏みきった名古屋の街は、ゴミの話題でもちきり。分類方法をめぐって侃侃諤々の大騒動が繰り返されていた。仲良しおばあちゃん六人組「やっとかめ探偵団」にとっても、ゴミ問題は重大な関心事。ある日、ゴミ袋に入れられて市内各地のゴミ集積場に捨てられた死体が見つかった!バラバラにされた死体を巡り、探偵団の推理が冴える。
『BOOK』データベースより。

第一部は大部分がごみ処理問題にページが割かれており、短いし内容が薄いのでミステリとしてはいささか物足りなさを感じます。何故死体をバラバラにしたのかには重きを置かれず、フーダニットやホワイダニットがどうこうの問題でもなく、ルミノール反応とアリバイが主題です。容疑者は一人で、アリバイをどう崩すのか、何処からもルミノール反応が出ないのは何故なのか、その二点に焦点は絞られます。

それにしてもゴリゴリの名古屋弁には閉口します。私はある程度慣れていますが、他の地方の方には耳慣れない訛りが続々。しかも会話文が多いので気になる方はストレスが溜まるかも知れません。
まあしかし、元気な婆ちゃんたちがユーモラスに話し合うのは、なかなか面白味があります。探偵役のまつ野婆ちゃんはそれなりに鋭さを持っており、巷では名探偵の名で通っています。事件を解決までに漕ぎ着ける過程は?な面もありますが、最後にはそういう事だったのかと納得させられます。全体的に可もなく不可もなくって感じでした。

No.1726 6点 豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件- 倉知淳 2024/01/04 22:25
戦争末期、帝國陸軍の研究所で、若い兵士が頭から血を流して倒れていた。屍体の周りの床には、なぜか豆腐の欠片が散らばっていた。どう見てもこの兵士は豆腐の角に頭をぶつけて死んだようにしか見えないないのだが……前代未聞の密室殺人の真相は!? ユーモア&本格満載、おなじみ猫丸先輩シリーズ作品も収録のぜいたくなミステリ・バラエティ!
Amazon内容紹介より。

平均的に面白い短編が続きます。それほど驚くようなトリックはないものの、ユーモアを交えたお手軽にサラッと読める物が多いです。例えば表題作や『薬味と甘味の殺人現場』はかなり風変わりな殺害方法と猟奇的とも言えない、訳の分からない装飾が施されており、謎めいた印象を植え付けます。しかし、真相はシンプルでやや物足りなさを覚えます。因みに私は表題作のダミーの推理は想定していた通りでしたので、おっ?と思いましたが、やはりそんな筈はありませんでした。

最後に猫丸先輩が登場します。ねこめろんくんが可愛い。やはり猫丸先輩が出ると和みますね、癒されます。風貌に似合わず頼もしい存在で話しぶりも楽しいし、久しぶりに短編集でも出したらどうですかね。
で本作品集、ファンは必読でしょうが、それ程思い入れのない読者にとっては読んでも読まなくてもいいんじゃないか程度。タイトルに惹かれて読むと拍子抜けするかも知れません。

No.1725 8点 地雷グリコ- 青崎有吾 2024/01/01 22:28
射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。
平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説、全5篇。
Amazon内容紹介より。

誰もが一度はやったことのあるであろう「じゃんけんグリコ」(地域によって呼び名が異なるらしい)。じゃんけんをしてグーで勝てばグリコと言って三歩進み、チョキで勝ったらチヨコレイトで六歩進む、あの遊び。これを応用して、階段の途中に三ヶ所地雷を仕掛ける事が出来るというルールで勝負するのが表題作。これがトップに配されています。

他にも坊主めくりと神経衰弱をミックスした『坊主衰弱』等のゲームを、主人公で滅法勝負ごとに強い射守矢真兎が強敵を相手に飄々と勝負していく連作短編集。そして最後に最強の敵であり、昔仲間だった因縁の相手との変則ポーカーの大勝負に挑みます。
いずれもルールの盲点を突いて、意外過ぎる妙手を打ち続ける真兎。相手の心理を読み尽し、その裏をかいてどんな場面でも冷静な判断を怠らないこの主人公には、正直憧れすら抱いてしまう魅力があります。サブキャラもそれぞれ個性的で読んで良かったとつくづく実感出来る作品です。特に驚いたのは『だるまさんがかぞえた』で見せた反則スレスレの大技で、誰も予想だにしない結末を演じて見せます。これだけでも必読と言えるでしょうね。
ミステリ作家ならではの奇想が読者を魅了します。優れたギャンブル小説であり、素晴らしい頭脳戦と心理戦を堪能できること請け合いです。

No.1724 6点 エコール・ド・パリ殺人事件- 深水黎一郎 2023/12/29 22:39
エコール・ド・パリ―第二次大戦前のパリで、悲劇的な生涯を送った画家たち。彼らの絵に心を奪われ続けた有名画商が、密室で殺された。死の謎を解く鍵は、被害者の遺した美術書の中に潜んでいる!?芸術とミステリを融合させ知的興奮を呼び起こす、メフィスト賞受賞作家の芸術ミステリシリーズ第一作。
『BOOK』データベースより。

私だけかも知れませんが、『金田一少年の事件簿』を想起させられました。ちょっと期待外れでしたね。完璧な密室殺人だと思っていたのに、そう来たのかという変化球だったので。もっとストレートだったら評点も上がったでしょう。
途中のガセ推理もあまり誉められたものではありませんね。穴が多すぎます。まあ刑事の考える事はその程度で良いのかも知れませんけれど。

そして真相は私の思っていたのとは違い、斜め上に。確かにそれなら色んな意味で納得が行くとは思います。しかし、「読者への挑戦状」を差し挟む程ではありません。それにエコール・ド・パリの画家達の蘊蓄は余計ではなかったのかとの疑問も起こります。興味が持てたのはレオナルドフジタのくだりくらいでした。本格ミステリよりも人間ドラマと言うか、人情物として評価したい作品。ユーモアも思いの外多分に含まれています。

No.1723 6点 バベル消滅- 飛鳥部勝則 2023/12/26 22:46
島での連続殺人、各現場に残された『バベルの塔』の絵―。鮎川哲也賞受賞の著者が、独自のスタイルで構築する、目眩く豊饒の世界。本格ミステリのゴシック・リヴァイヴァル。
『BOOK』データベースより。

うーん、難しいですね。面白くない訳ではないです。しかし、どうも納得が行かない部分があるんですよね。最後の事件のアレとか、どうしてそんなにバベルの塔に拘るのかとか、業務上過失致死じゃないのか?とか。
そして、ラストの推理は成程と思わせるものの、真相自体が結局そっちかとなってしまいます。メイントリックは諸々の要素に埋没して全く気付きませんでした。再読すれば頷ける部分があったのではないかと思いますが。

前作よりも作中に挟まれる絵画の意味が感じられず、その点では残念でした。それにサプライズ感がある筈の所で驚けず、カタルシスが得られません。それにしても重要人物の一人である少女の、死に際の謎の行動が不思議です。余りにも異質で存在感が強かったのが伏線だったのか、まあそうとしか考えられませんね。私はあまり好きなタイプではないですが・・・あ、そういう問題じゃないですね。

No.1722 6点 麻雀人国記- 灘麻太郎 2023/12/24 23:03
明石屋さんま、赤塚不二夫、井上陽水、ジャイアント馬場、ビートたけし、美空ひばり、丹波哲郎、黒澤明、長嶋茂雄、夏目漱石…。カモられ、ツモられ、あがられても……麻雀に魅せられた人々。各界の有名人の麻雀放浪記、伝説のエピソード集。
Amazon内容紹介より。

著者は、その昔阿佐田哲也、小島武夫、古川凱章らが麻雀新撰組として麻雀界を席巻していた頃、カミソリ灘として名を馳せたプロ雀士灘麻太郎。芸能界、スポーツ界、文壇など各界の著名人の人となりや雀風、彼らが起こした出来事や事件を簡潔に纏めたコラムを全て収録したもので、ご丁寧に注釈も入っています。
上記の他に、石橋貴明、萩原欣一、加賀まりこ、都はるみ、桂三枝、三遊亭圓楽、鶴田浩二ら多数登場。推理作家では山田風太郎、西村京太郎、綾辻行人、大沢在昌、佐野洋、アガサ・クリスティーが出て来ます。

麻雀はその人の性格や癖が顕著に出てなかなか面白いものですが、中には想像を絶するエピソードも含まれており楽しめます。又、芥川賞、直木賞を創設したのは菊池寛だったとか、日本で最初に麻雀に関する大まかなゲーム性を著したのは夏目漱石だった、映画『麻雀放浪記』のドサ健役は当初の予定では松田優作だったなど、学びも多かったです。
その道で名を成した大物たちが、意外と短命だった人が多かったのには、何だかやるせない気持ちにさせられました。それが今では日本が長寿国世界一というのも感慨深いものがありますね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1901件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(29)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
日日日(19)
中山七里(19)
清涼院流水(18)