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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.709 7点 踊る手なが猿- 島田荘司 2017/02/17 22:10
再読です。
吉敷刑事シリーズ?が2篇。ノンシリーズが2篇の短編集。
『踊る手なが猿』はケーキ屋に飾られた手なが猿の人形の赤いリボンが、たまに位置を変えられているのはなぜかという日常の謎を扱った作品ですが、それほど複雑な事件ではありません。しかし、東京という土地柄を踏まえた謎解きはなかなか面白いです。
『Y字路』は玉の輿に乗れそうな状況の女の部屋に、忽然と現れた男の死体の謎というありがちな設定です。普通の感覚なら当然即警察に連絡するだろうという歯がゆさを感じるものの、女の切羽詰まった境遇には同情を禁じ得ないです。
『赤と白の殺意』幻想味を多分に含んだ、封印していた過去の出来事とは何かを探るサスペンス。やや小ぶりな感は否めませんが。
『暗闇団子』島田流恋愛小説。しかも純愛小説ですよ。江戸時代にタイムスリップしたような、妙な感覚に陥ります。それだけの筆力で読ませる島荘、さすがです。
全体的に小ぢんまりした作品を集めたような感じはしますが、随所に「らしさ」が出た佳作が揃っていると思います。特に『暗闇団子』はとても純情な二人の恋物語で好感が持てますね。

No.708 8点 ゴッドファーザー- マリオ・プーヅォ 2017/02/16 22:22
文庫本上下巻で約900ページの大作です。
フランシス・フォード・コッポラ監督の名作映画として有名ですが、原作も負けないくらいの名作だと思います。ただ、こちらは性描写や暴力描写が散見されるため、娯楽作品として認知されがちですが、一大叙事詩としても十分な価値を見出すことができます。
映画との一番の相違点は『PARTⅡ』で描かれた、のちにマフィアのドンとなるヴィトー・コルレオーネ(幼少期はアンドリーニ)や相棒のクレメンツァやテッシオの若き日が描かれていることでしょう。
多彩な人物が登場する本作ですが、個人的に気に入っているのはファミリーのコンシリエーリ(顧問弁護士)であるトム・ヘイゲンですかね。彼はドイツ系アイルランド人でイタリア人ではありません。少年時代にヴィトーに拾われて養子になった人物です。己のかかわる家業を十分認識したうえで、冷静な判断と常識的な行いのできる人間で、三男マイケルが家業にいかなる形にせよ参加することに反対したり、長男ソニーの暴走を諫めたりと、家族全員に気を配る優しい性格でもあります。そして、この小説の語り手に最も近いのが彼だと私は思います。
この長い物語をここで要約することはできませんが、映画『ゴッドファーザー』が好きな人は本作を読んでみる価値は十分あると思います。原作を読めば、改めて映画が観たくなるでしょう。


【ネタバレ】


ドン・ヴィトー・コルレオーネの後継者、三男のマイケルは最後に大虐殺を実行しますが、これはヴィトーが生前計画を練ったもので、彼は死ぬまで「操られる人間ではなく、操る側の人間になる」という信条を貫いた、信念の人だったんですね。

No.707 7点 絶対正義- 秋吉理香子 2017/02/15 22:13
これぞイヤミスです。キング・オブ・イヤミスですね。イライラします、凄く腹立ちます。その意味では作者の狙いは見事に的を射ていると思います。しかし、読み手によってはあまりの嫌悪感に、読後不快な思いをするかもしれません。つまりは、作者の罠に見事に嵌っているということになりますが。
女子四人が仲良く過ごす高校生活。転校生高規範子がそのグループに仲間入りするが、彼女は正義の味方であり、間違ったことは些細なことでも絶対許さない信念の持ち主であった。四人の女子は卒業後それぞれ範子に救われるが、その強すぎる正義感のせいで、逆に絶体絶命のピンチに追い込まれることになる。そして迎える終局はいったい・・・。
範子は正義の味方というより、法律の味方とかルールの味方と言ったほうが正しいのかもしれません。清濁合わせ飲むような社会的常識を持たない彼女は、会社の同僚がJリーグの勝敗で500円を賭けているのを目撃し、即110番通報しようとしたり、制限速度をわずかにオーバーする運転手を厳しく注意するなど、誰も容赦しません。
まあ、ある種のモンスターなのでしょう。何事も度が過ぎると嫌われますよ、命さえ危険にさらすことになりますよ、ということをひしひしと感じます。
今やイヤミスの女王といっても過言でない秋吉氏、相変わらずの安定感を見せてくれます。エピローグも彼女らしい、いい味出していると思いますね。

No.706 6点 鳥―デュ・モーリア傑作集- ダフネ・デュ・モーリア 2017/02/13 21:46
何と言いますか、大変評価が難しい作品ですね。バラエティに富んだ短編集ですが、それぞれ違った味わいがあって面白いし、翻訳物なのに読ませるんですよ。ただ、新本格などの作風に慣れた私はやや物足りなさを覚えます。単純なストーリーなもの然り、気の利いた捻りがなく拍子抜けするもの然り。『鳥』はヒッチコックの映画で有名ですが、映画よりずいぶんあっさりしていますし。鳥の執拗な攻撃はよく描かれているとしてもですね。
おそらく本作品集はそういった観点から評価するべきではなく、例えば行間を読むとか、それぞれの作品世界に浸ればよろしいとか、そういったタイプの珍しい短編集なのではないかと思います。
誰もが認める白眉であろう『モンテ・ヴェリタ』などは、その一風変わった物語に引きずり込まれ、まるで自分が主人公になったような錯覚さえ覚えます。その臨場感溢れる描写力は凄まじく、そうそうお目にかかれない珍品と言えそうです。


【ネタバレ】


まさかこのような年代物の作品に、叙述トリックが仕掛けられたものが紛れ込んでいようとは夢にも思いませんでした。

No.705 6点 209号室には知らない子供がいる- 櫛木理宇 2017/02/09 22:14
舞台はマンション『サンクレール』で、209号室に住むらしい葵という男の子に関わったばかりに次第に箍が外れて、坂を転げるように堕ちていく女の姿を描いたホラー連作短編集。
葵の不思議な魅力に惹かれてまるで子供に還ったような夫と、葵に夢中な子供。孫がいないため葵を勝手に家に連れ帰ってしまった、若く美しいがどこか普通でない姑、チョコレート中毒が高じて常軌を逸していく女性などが日常的な恐怖とともに描かれています。
そして最終話で葵の謎が明らかになりますが、これがまた粘着質で背筋が凍るような恐怖感と衝撃を読者に容赦なく与えます。怖いです、マジで。それまでの4話を読む限りそれ程でもないかなーなどと思っていると、きっちりやられます。大げさに言えばこの作者のホラーはもう読みたくないとか思えるほどです。でもやっぱり読みたいという矛盾した心境になります。
連作だけにそれぞれの話が最終的に僅かでも繋がってきますが、無理やり感がなくうまく纏め上げた印象が強いですし、思ったよりも根が深く複雑です。

No.704 7点 あなたのための誘拐- 知念実希人 2017/02/07 22:11
Amazonでは何故か異様に高評価の本作。ですが、私にはそれ程までとは思えませんでした。確かに力作でしょうし、テンポもいいですが、特に秀でている点も見られませんし、トリックも小振りな感は否めませんね。尚、ネタバレ気味のレビューがありますので、読む前にAmazonで下調べをするのはやめたほうが賢明だと思います。
4年前、身代金を背負った特殊班の刑事上原真悟はわずか12秒指定の場所に間に合わなかったために、誘拐された少女を殺害されるという煮え湯を飲まされていた。誘拐犯の名はゲームマスター。そして今、またしてもゲームマスターからの指名により刑事を辞めた真悟が身代金の運搬役として駆り出されることになる・・・。
第一章ではゲームマスターが出す「クイズ」により東京中を引きずり回される真悟の姿が描かれており、誘拐物特有の緊張感がよく伝わってきます。
第二章はゲームマスターの正体に迫る真悟の活躍が描かれます。
単純に誘拐を扱っただけの作品ではなく、様々な要素が物語を彩り、辿り着きそうで辿り着けない真犯人は果たして誰なのかが主題となります。小物の使い方も上手く、何気ない描写がのちのちに生きてきたりしますので、油断できません。


【ネタバレ】


ゲームマスターの正体は、ミステリを読み慣れた本サイトのみなさんには簡単に見破られると思います。しかしながら、本作の面白さはそれだけには留まらないので、一読の価値はあろうかと思います。

No.703 7点 虹を待つ彼女- 逸木裕 2017/02/03 22:18
第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
渋谷スクランブル交差点を見下ろすビルの屋上で、ドローンによる劇場型自殺事件を起こした晴。晴と同棲していたという謎の人物、雨。晴の過去を探るうちに次第に彼女に惹かれていく人工知能の研究者で主人公の工藤。工藤が開発した人工知能スーパーパンダとの囲碁対決に賭ける棋士目黒。これらの人物が混然一体となって織りなすファンタジックな佳作。
SF、ミステリ、ファンタジー、ハードボイルド、恋愛小説の要素を混ぜ合わせたような作品です。しかも新人とは思えない確かな筆力と構成力。大変面白く読ませていただきました。
2020年という近未来の東京が舞台だが、現在とさほど変わりはなく違和感はありません。突き詰めれば恋愛小説なのでしょうが、ラノベを愛する読者にも受け入れられそうな作風です。この人はどの方向に向かうのか未知数ではありますが、何を書かせても難なくこなせそうな気がします。まだまだ上を目指して活躍できる人材だと思います。

No.702 6点 がん消滅の罠 完全寛解の謎- 岩木一麻 2017/01/31 22:08
第15回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
がんの成り立ちから治療法、寛解や医療全般に関する記述が多くを占め、肝心のストーリー性、ドラマ性、キャラクター造形などがおろそかになっているきらいがあります。また文章に色気が感じられず、お世辞にも上手とは言えません。「お前が言うな」というご意見は承知の上で。
正直、この作品が賞金1200万円とはねえと思います。まあ勉強にはなりますし、一応がん消滅の謎は理論的にというか、医学的に頷けるものでしょうが。
終盤の畳みかける展開はそれなりに読みごたえがあり、逆に言えばそれがなければもっと評価は下がったと思いますね。


【ネタバレ】


ラスト一行は意表を突かれました。と言うか「お前もか!」って感じでしたね。

No.701 6点 石黒くんに春は来ない- 武田綾乃 2017/01/27 22:15
注意!最後にややネタバレ気味の発言があります。

いわゆる学園もので、スクールカーストやいじめの実態をリアルに描いた青春小説。ミステリかどうかは読み手の捉え方次第だが、ガチガチのミステリでないことは確かです。
まあ簡単に言えば、目には目を、歯には歯を、スマホにはスマホをという感じでしょうか。しかし、恐ろしいですねスマホ社会は。かのベ○キーの不倫騒動もこのアプリから流出したのがきっかけでした。
主人公のクラスには女王様とその取り巻きが存在しており、その女王様のいじめを受けて一人の生徒が自殺未遂?事件を起こします。その最上位のカーストに対して、誰がどのように立ち向かうのかが読みどころになります。しかし、それはいじめと言うより、女王様の身勝手な発言により狙われた生徒が次々と傷ついて不登校になるというもので、それほどハードなものではありません。そこが個人的には生ぬるいというか、いまひとつ逆襲のカタルシスが得られない要因となってはいますね。
例えば、北乃きい主演のドラマにもなったコミックス『ライフ』にも設定が似ていますが、こちらは一人の生徒を徹底していじめ抜くわけで、立場が逆転した時の爽快感は段違いです。
本作は終盤でようやくミステリとして機能します。やや意表を突かれますが、それほどのサプライズとは思いません。しかし、孤立した女王様を追い詰めるシーンは読みごたえがあります。

No.700 8点 葬式組曲- 天祢涼 2017/01/24 22:20
これは文句なしの8点ですね。
タイトルからの印象は、社会派?それとも日常の謎的なジャンルかなという感じですが、第一話の『父の葬式』は確かにそうでした。しかし読み進むにつれて意外にもトリッキーな連作短編集だということに気づきます。お棺の遺体消失、祖母の火葬を何とか回避しようとする喪主、まるで本物のような幻聴などを葬式というテーマを絡めながら、見事に本格ミステリとして昇華しています。
さらに最終話での見事な回収、素晴らしいです。
デビュー作の『キョウカンカク』からは考えられないほど作風を変えて、堅実な作品に仕上げており、年齢層を超越した誰もが楽しめ納得できる傑作をものにした感が強いです。

No.699 5点 砕け散るところを見せてあげる- 竹宮ゆゆこ 2017/01/20 21:56
ラノベです、はい。定番の学園ものですね。よくあるボーイミーツガールな感じの青春小説ですかね。
作者の優しさからなのか、読者層を考慮してなのか、最も生々しいシーンや痛々しいシーンは割愛されています。それが私には少々物足りなかったりもしますが、やはりラノベなのであまり過激な描写は避けたいところでしょう。
もしミステリに置き換えるなら、さしずめイヤミスですかね。しかし、あくまで主人公の少年少女にスポットを当てているので、作者もあまりミステリに重きを置くような意識はなかったものと思われます。
ストーリーは至って単純ですが、それよりも二人のぎこちない愛情表現が初々しく、キャラも立っているので、ラノベ読者は大満足なのではないでしょうか。もう少し捻りがあっても良かった気もしますが、まあ面白かったですよ。いきなりUFOがどうこうってのは驚きましたが、特にオチはありませんので期待しないでください。

No.698 6点 入らずの森- 宇佐美まこと 2017/01/18 22:13
山深き過疎の町、尾峨町の尾峨中学校に勤める都会育ちの教師圭介、尾峨中学に通う数少ない生徒で、複雑な家庭の事情で東京から転校してきた金髪の少女杏奈、仕事に馴染めず逃げ出すように引っ越してきた、農業を営み始めたばかりの隆夫、認知症で入院する淳子とその娘ルリ子。彼らの人生がリンクした時何かが起こる。
森の奥深くに息づくそのものの正体とは一体・・・。
地味に怖いです。ということはあまり怖くないとも言えますが、じわじわと来ます。
平家の落ち武者伝説や、過去の惨劇なども絡んできますが、それほどの緊迫感はなく、いま一つ盛り上がらないまま物語は進行していきます。ところが途中から一気に面白くなります。これがこうなって、そこから、うむそう来ますかって感じで、妙に腑に落ちる語り口が巧妙なことを遅まきながら痛感します。よく練られた構成も作者のしっかりとした実力に裏打ちされたものだと思いますし、本作が単なるフロックでないことは読んでいただければお分かりになるでしょう。

No.697 6点 美人薄命- 深水黎一郎 2017/01/14 22:11
独居老人宅に、月二回お弁当を配達するボランティアに励む大学生総司と、片目が見えない老女カエとの交流をほのぼのと描いた青春ミステリ。終盤までミステリ要素が薄く、文芸に近い作品かと思っていたら作者の企みにまんまと引っ掛かります。実は冒頭からトリックが仕掛けられており、何気ない日常が伏線になります。
ボランティア団体、ひまわり給食サービスで偶然再会したかつての同級生に何とか接近しようと試みたり、宅配先の老人たちの様子や出来事をちょっとしたユーモアで包むように描いてみたり、カエの戦時中の辛い過去がカットインされていたりと、読者を飽きさせない工夫がされています。巧みな構成で物語全体に変化をつけています。
所々、涙を誘うシーンなどもあり、ガチガチの本格ミステリで疲れた頭をほぐす意味で一読の価値ありと思います。色々考えさせられる作品でもありますね。

No.696 7点 神様の裏の顔- 藤崎翔 2017/01/12 21:53
適度なお笑い要素、平易で誰にでもわかりやすい親切な文体、すんなり頭に入ってくる巧みなストーリー展開、終盤のサプライズと売れ筋ポイント満載の傑作です。
舞台は通夜での焼香、通夜ぶるまいの席、親族控室とどこか辛気臭い感じもしますが、それも含めて雰囲気は悪くありません。元教師で誰からも慕われていた坪井誠造は果たして本当に神様のような存在だったのか、をめぐって親族、店子、元同僚らが推理やディスカッションを繰り広げます。すると次第に故人の裏の顔が浮かび上がってくるという仕組みになっていますが、果たして・・・。
終盤までは各語り手が遭遇する事件が披露され、そこから二転三転、とんでもない反転が繰り返されます。最後の最後まで飽きさせることなく面白く読ませる手腕は確かなものがあり、今後の活躍が期待される新人の登場です。

No.695 7点 虚実妖怪百物語 急- 京極夏彦 2017/01/09 22:05
さて、いよいよ最終巻です。
「妖怪小説に7点も付けるのはどうなの、お前は」というご意見も十分頷けますが、面白いのだから仕方ありませんね。
今回は新たに夢枕獏や鈴木光司らが登場します。本シリーズは京極夏彦氏の交友関係を熟知するほど面白みが増します。どの人物がどんな役割を果たすのかといった観点に注目すると、より楽しめると思います。まあ、ほとんどの読者がそれらの恐らく実在の人物を知らないので、この人はこんな風貌でこんな性格なんだろうなと想像を逞しくして読む他ありませんが。
本作、妖怪やら怪獣やら漫画の主人公が暴れまわるクライマックスもいいですが、その後に訪れる実に平和でのんびりとした露天風呂のシーンがとても印象深いんです。こんな静かな落ち着いた雰囲気の場面を読むのはいつ以来だろうかと、遠い過去を懐かしむとともに、噛み締めるように読める幸せを実感します。
で、結局多数の登場人物の中、荒俣宏が主人公なのでしょうかね。最も盛り上がるシーンで活躍します。京極夏彦はミステリ的側面の謎解きを一応担当して、面目を躍如し、一番最後に水木しげる先生が美味しいところをさらいます。
最後まで読んで良かったと思えるような楽しい作品ではありました。

No.694 6点 闇に香る嘘- 下村敦史 2017/01/04 21:45
なかなかの良作だと思います。ただ盲目の主人公の一人称で描かれているためもあり、終盤までやや冗長だしいささか退屈な感じは否めません。題材が中国残留孤児だからある程度やむを得ないかもしれませんが。
巻末の参考文献を見るまでもなく、作者は相当深く理解に及んでから書き始めたようですし、読者もいろんな意味で勉強になります。残留孤児に関して、視覚障碍者に関して。
終盤謎解きに至り、一気に覚醒したがごとく面白くなります。それまで社会派の印象が強かったですが、ここに来てようやく本格ミステリの本領を発揮しますね。まさかの展開が待っています。エピローグも一抹の救いがあっていいですね。
個人的に『占星術のマジック』が受賞を逃す以前から乱歩賞とは相性が悪いですが、これは合格ラインではないかと思います。

No.693 7点 ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 2016/12/30 21:50
『そして誰もいなくなった』を意識した作品としては出来はいいほうだと思います。構成はしっかりしているものの、なぜか全体的にすっきりしない感じがします。飛行船の中で起こる殺人劇と、それから遅れること数か月の捜査が交互に描かれているプロット自体は悪くないのですけどね。
一つとても気になる点もあります。検死に関することなんですが、ややあっさりし過ぎているような。まあ、あまり突っ込むと自らネタバレしてしまう可能性が高いですから仕方ないですかね。
トリックはそれほど大胆なものではなく、手品のタネを明かされた時のがっかり感が漂います。ただし、それをうまく隠ぺいしている手腕は確かなものがあると思います。
エピローグがそのまま解決編になっている辺り、センスを感じますね。

No.692 6点 虚実妖怪百物語 破- 京極夏彦 2016/12/26 21:58
前作の地味な展開から一転、ど派手で荒唐無稽なストーリーへと発展していきます。妖怪どころか、巨大ロボが発進し、それに搭乗しているのが荒俣宏なのです。さらに木原浩勝はヘリからパラシュートで落下し、都知事を襲来し槍で突き刺したりします。どうやら黒幕はあの『帝都物語』の加藤らしいと匂わせています。
今作では新たに綾辻行人、貫井徳郎が登場。前作からの京極夏彦や平山夢明もそれなりの活躍をします。活躍というか、彼らは意見するだけで行動は起こしませんけど。で、あの水木しげる先生は・・・次巻で大いに暴れる予定(勝手な予想)です。
まあとにかく、コメディタッチで描かれながら、抑えるべきツボは抑えている感じで、笑える上に高揚感も味わえるという贅沢な一品に仕上がっていることは確かです。最終巻でどうケリをつけるのか楽しみであります。

No.691 6点 Dの殺人事件、まことに恐ろしきは- 歌野晶午 2016/12/22 22:08
江戸川乱歩の作品を現代に蘇らせ、最先端のハイテクを駆使して本家とはまた違った目新しさを披露する短編集。元ネタは『人間椅子』『押絵と旅する男』『D坂の殺人事件』などで、これらを読んでいるとより楽しめることは間違いないが、未読でも支障はない。
目立つのはスマホの機能を最大限に利用している作品が多いこと。やはり現代人にとってスマホはどうあっても手放せないアイテムなのだろう。だが、スマホを使いこなせない人にとっては、理解不能な部分もあると思うので、そこは想像力で補うしかないと思う。
しかし、これはあまり公言できないことかもしれないが、個人的に歌野晶午という人はどうも垢抜けないところがある気がしてならない、文章やプロットなど。私だけだろうか。

No.690 7点 今はもうない- 森博嗣 2016/12/18 21:50
このような変化球は私の好むところである。導入部の爽やかさも非常に印象深く、感銘を受けた。だが美点ばかりというわけではない。みなさんご指摘されているように、シンプルな謎のわりにページ数を割きすぎなのは否めないであろう。こんな解決法がありますよと小出しにするのはいいが、どれも驚くようなものではなく、正直予測の範疇に収まるといえる。さらに最後に萌絵と犀川による謎解きがおこなわれるが、あまりにあっさりしすぎていて何かこう物足りなさを感じる。
密室の謎はさして珍しいものではないが、メイントリックはかなりいい。森博嗣がこんなものを?といった意外性は見逃せないものがある。
それにしても西之園の気性の荒さばかりが目立つ作品ではあった。それも魅力なのかもしれないが、私は御免こうむりたい。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
綾辻行人(22)
京極夏彦(22)
中山七里(19)
折原一(19)
日日日(18)
森博嗣(17)