皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ その他 ] あなたが消えた夜に |
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中村文則 | 出版月: 2015年05月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
毎日新聞出版 2015年05月 |
毎日新聞出版 2018年11月 |
No.2 | 7点 | メルカトル | 2018/12/09 22:06 |
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ある町で突如発生した連続通り魔殺人事件。所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋は“コートの男”を追う。しかし事件は、さらなる悲劇の序章に過ぎなかった。“コートの男”とは何者か。誰が、何のために人を殺すのか。翻弄される男女の運命。神にも愛にも見捨てられた人間を、人は救うことができるのか。人間存在を揺るがす驚愕のミステリー!
『BOOK』データベースより。 第一部は奇妙な点はありますが、通り魔事件を扱った普通の警察小説です。第二部では事件が複雑化し混迷を極めます。誰も彼もが一癖ある人物ばかりで、語り手である主人公の中島さえ心に傷を持っています。そんな中、唯一女刑事の小橋が魅力的でとても好感が持てます。人物造形が最も優れており、性格の良さがこの暗い物語を中和する役割を担っています。 第三部で様相が一変します。手記を中心に据え、ある人物の心の闇が浮かび上がります。それだけではなく、警察関係者以外の登場人物のほとんどが破滅型の人間ばかりで、読者は一体何を信じればいいのか判断がつかず、足元が崩れ落ちるような感覚にさえ陥ります。 この作者は、人間の業やさがを描くことがまるでライフワークのようになっているのかもしれません。人はそれを圧倒的人間ドラマと呼ぶのでしょうが、非人間的な残酷性、自己崩壊、歪んだ信仰心、欺瞞、洗脳などのカオスを果たして単なるドラマと片付けてよいものか評者は迷うばかりです。 人間の心の持つ奥深さ、脳から伝達される揺らぎを描かせたらこの人の右に出る者はいない気がしますね。 |
No.1 | 7点 | 小原庄助 | 2017/09/08 10:02 |
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いうまでもなく作者は芥川賞作家であるが、物語の中心に犯罪を置いて圧倒的な人間ドラマを作るため海外では犯罪小説の作家として読まれているらしい。
各種のミステリランキングをにぎわせた「去年の冬、きみと別れ」あたりから技巧にも磨きがかかり、ひねりやどんでん返しを効果的に採用するようになった。 本書も例外ではなく、第一部の最後に驚きの真相を用意し、第二部ではさらに別の地点へと読者を運び、第三部では手記を使ってさらなる混沌を生み出す。 警察捜査小説から犯罪小説、犯罪小説から宗教文学への接近をはかる。 とことん暴力的で退廃的で悲惨だ。悪に惹かれ、罪を犯し、精神を病む者たち。 殺人と自死の願望に引き裂かれながらも、不安と絶望と孤独のなかで、それでも必死に生きようとする。 このぎりぎりのところでの営為が胸を打つ。 ただし好き嫌いがはっきり分かれる作品であることは間違いない。 |