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私の消滅
中村文則 出版月: 2016年06月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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文藝春秋
2016年06月

文藝春秋
2019年07月

No.1 6点 小原庄助 2022/10/18 07:31
記憶は、個人の同一性と結びつく。それなら、記憶が操作され実際とは異なる記憶がはめ込まれたら、人は別人格を生きることになるのか。本書は、悪意と暴力、記憶と人格が描出する見えない線への挑戦だ。
サスペンス的な展開の中、精神分析や洗脳の歴史が盛り込まれる。日本社会で現実に起きた連続幼女殺害事件の犯人の心理が分析される。記憶と人格と人生が入り乱れて「私」とは誰か、という問いと謎を読者に突きつける。
吉見という精神分析医は、興味本位の悪意で人の心理を捜査する。悪の側面だけを過度に強調した、性格を描いて平面的にならないのは、幾重にも錯綜する要素によって、周到な手際でストーリーが構成されているからだ。悪意の連鎖と復讐劇が繰り広げられている。
これまでも作者は、さまざまな悪意、心の闇を作品化してきた。言葉によって形にすることで、始めて対峙でき、時には乗り越えられるというように。今生まれるべくして生まれた緊張感ある作品だ。


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