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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.729 6点 眼球堂の殺人~The Book~- 周木律 2017/04/15 22:17
長尺が気にならない、平易な文体でスムースに読み進めることができ、ストレスフリーな読書となりましたが。早い段階でこの異様な建造物のトリックには気づきます。これはおそらく誰もがそうなのではないかと思います。第一の殺人?のトリックも過去に前例がありますので、勘の良い読者には早々に見破られる可能性が高いでしょう。
登場人物のほとんどが天才という割には、それらしい人はいません。むしろごく普通の人の印象が強く、あまり場全体がいきり立ったような雰囲気にはなっていません。これは作者の計算通りかもしれません、言ってみればありきたりな館ミステリに落ち着いているのではないかと思います。
意外性はないものの、堅実なストーリー展開や眼球堂のスケールの大きさには好印象を受けました。作者の静かなる意気込みのようなものを肌で感じることができますね。ただし、動機に関しては?な部分もありました。


【ネタバレ】


意外性はないと書きましたが、実はエピローグでとんでもない真相が明らかになります。これにはやられたと素直に思わずにはいられませんでした。
ここに至り、1点加点しようかと考えましたが、やはりトリックの目新しさがないため、この点数が妥当かという結論に達しました。

No.728 6点 スマホを落としただけなのに- 志駕晃 2017/04/10 22:12
まず最初に書いておきたいのは、解説に関して。解説は五十嵐貴久氏が担当していますが、氏は本作をとんでもなく絶賛しています。そして革新的な、あるいは画期的な傑作と断言します。読者はこれを真に受けないほうが賢明だと私は思います。
構成はよくあるパターンを踏襲しており、これは過去のミステリ作品群を参考にしているのは明らかです。目新しいと言えるのは、フェイスブックからある人物を特定していく過程ですかね。それ以外は既視感ありありの使い古された手法で描かれた、むしろよくありがちな普通のサスペンスだと思います。
「志駕以前、志駕以降」というのは、あまりに過度な賞賛ではないでしょうか。本が売れれば何を書いてもいいというものでもないですよね。これではまるで志駕氏が綾辻や京極のような存在になると言っているようなもの。流石にそれはないでしょうよ。
まあしかし、それなりに面白い作品であるのは間違いないです。そこは認めますが、色んな意味でまだまだ未熟さが目立ちます。誤字が二か所、日本語の文法が間違っているのが何か所かありますし、文章も上手とは言えません。また、捜査陣の描き方が杜撰であったり、おかしな発言が見受けられたりします。
期待度マックスだっただけに、拍子抜けというか、やや残念な思いは拭えません。

No.727 6点 河原町ルヴォワール- 円居挽 2017/04/06 21:54
なかなか面白かったですよ。少なくともシリーズ最終作として掉尾を飾るにふさわしい作品といえるでしょう。
『烏丸』などのように焦らすことなく、双龍会にすんなり突入するので、イライラすることもなくストレスを感じません。そこからの加速ぶりは、ややもすると目まぐるしく変化する展開についていくのがやっとという感覚を覚えるかもしれません。
果たして本当の敵は誰なのか、誰と誰が結託しているのか、そして裏ではいったい何が起こっているのかと興味は尽きません。大技小技を織り交ぜての攻防戦は、実に読みごたえがあり、第一作以来の興奮を味わえるのは間違いないと思います。よくこれだけややこしい話を考え付くものだと感心しますね。
ただシリーズを追うごとに書評数が減っているのは、いい加減同じシステムに飽きてくるからでしょうかね。


【ネタバレ】 


冒頭でシリーズ中最重要人物が死亡します。これはその犯人を巡っての物語であり、意外な事実が次々と明らかになります。
反則スレスレの記述が多々ありますが、そこは大目に見るとしてほぼ全員が騙されるのではないでしょうか。

No.726 4点 烏丸ルヴォワール- 円居挽 2017/04/01 21:53
とにかく双龍会に至るまでが長いです。しかもかなり退屈だし、キャラも前作と比べると個性が際立っていないですね。小手先の表現力でもってなんとか描き分けしようというのがみえみえで、それがいちいち鼻についたりします。
なんだか大仰な立役者たちが何人か登場しますが、あまり大物感が感じられず、この人そんなに偉いの?と思ってしまいます。まあ、それほど掘り下げられていないから当然ですかね。
で、ようやく待ちに待った双龍会ですが、期待したほどではなく。まったく盛り上がりません。龍師という偉そうな資格?を持っているはずの流など、これで仕事を全うできているのかと疑いたくなるほど無能さを晒したりして、高揚感が少しも味わえません。臨場感もないし、これは最早作者の力量の問題なのではないかと思ってしまいます。
取り敢えず内容に見合った長さとは言いがたいですね。もっとコンパクトにしていいと思います。採点数が少ないのも解る気がしました。

No.725 7点 ぼくのミステリな日常- 若竹七海 2017/03/27 22:00
再読です。
凝った構成の、創元社の伝統を踏襲した連作短編集。と言うか、もはやこれは短編集の枠を超越しているので、トータルで長編とすべきなのかもしれません。或いは変形の作中作か。
それにしても若竹七海がこの路線で本格ミステリを書き続けていたなら、今頃違った意味で人気のミステリ作家の大家になっていたのではないかと思うと、残念でなりません。
各短編はそれぞれ趣が違っており、読んでいて楽しいものではないかもしれませんが、抑揚があっていいんじゃないかと思います。よく注意して読まないと、最後の種明かしには驚かされるばかりです。小さな伏線をかき集めた「編集後記」は圧巻の騙りで、只々なるほどと唸るしかありませんでした。
とにかく本作は個人的に作者の最高傑作で、別格の扱いとなります。
蛇足ですが、ハードカバーの装丁と挿絵は誠に素晴らしい出来で、絵心のない私ですら感心してしまうほどでした。これだけでも1点プラスしたいくらいですが、7点は勿論純粋に作品の評価点ですよ。

No.724 6点 太陽黒点- 山田風太郎 2017/03/23 22:07
かなりの高評価ですが、私はnukkamさんに近い感想を抱きました。最後に真相が明かされるまでは、全く青春小説そのものではないでしょうか。謎解き要素が一向に感じられません。何をどう仕掛けられているのか、それすらも隠ぺいされているため、ミステリとしての体裁が微塵もありません。
やっと終盤も終盤、あと残り何ページかというところでおもむろに事件の全貌が明らかになります。ここに至ってようやく「そうだったのか」と唖然としながら納得する感じですね。しかもその動機はいったい何なのでしょう。いや、気持ちはわかりますが、結局誰でもよかったのか、とならないですかねえ。確かに、「天下泰平、家庭の幸福、それだけじゃつまらない」このセリフが許せないのは、○○を経験した人間にしか理解できないものかも知れません。しかし、それではまるで逆恨みのようなものではありませんか。
観念的な動機・・・つまりはこれも『虚無への供物』に繋がっているのでしょうか。
傑作とは思いません、ですがミステリ分布図があるとすれば、間違いなく特異点に属する奇妙な作品とはいえるかもしれません。

No.723 6点 猫の時間- 柄刀一 2017/03/18 21:59
猫好きのために編まれた短編集には違いありませんが、そこはミステリ作家が書いた作品のこと、日常の謎として広義のミステリと捉えることは決して間違いではないと思います。勿論、ミステリと断言するわけではありません。一般読者の方の多くは文芸作品として読まれると思います、それはそれで問題ないですね。
本作品集は、人間と猫が一生懸命繋がろうとする、触れ合おうとする、心を通わせようとする、そんな心温まる物語の数々です。大げさに言えば、その一つひとつに謎解きの要素が多少なりとも含まれています。
自分は犬派だから関係ないと思っている方もちょっと待っていただきたい、中には忠犬が活躍するお話もありますので、敬遠する必要はありません。
個人的には『ネコの時間』『旅するトパーズ』が好きです。また、ネタバレになりそうなので詳しくは書けませんが、最終話には作者の粋な計らいが見られ、心洗われる気分のまま読み終われると思います。

No.722 6点 衣更月家の一族- 深木章子 2017/03/16 21:42
最初、短編集かと思いました。あれ?でもプロローグから始まっているから、そんなわけないかって具合で最初から躓いた感じでした。
それぞれの事件がそれなりに面白い、特に「楠原家の殺人」の発端となる宝くじの三億円が当選してしまうというくだりが、偶然過ぎるとはいえ、いかにも作り物めいていて逆にこれもアリかと思ってしまいました。作者の遊び心というか、意外な盲点を突かれたような気分ですね。
ただ、探偵の榊原が真相を暴いていくわけですが、どうにもすっきりしないです。そうだったのかっというような、思わず膝を打つみたいな衝撃がないんですよ。よく練られたプロットとトリックだとは思いますが、唸るほどではなかったと言いますか、そんなに上手くいくのかねえ、というのが正直なところです。
ですが、三件の殺人事件の関連性が全く無関係に見えるあたりの作者の手腕は認めざるを得ないでしょうね。

No.721 6点 迫りくる自分- 似鳥鶏 2017/03/10 22:11
タイトルからくるファンタジー感はこの作品とは無縁でした。また、ホラーでもありませんので念のため。
迫りくるのは自分ではなく、○○です。たまたま主人公の本田が自分と同じ顔の男と知り合ったばかりに、とんでもない災厄を経験することになるお話です。とにかく逃げて逃げて逃げまくる、それだけの小説ですので、ややこしい人間関係とか同じ顔の男の背後関係などは完全に端折ってあります。それだけにストレートに面白さが伝わってくるのは確かですね。
少ない登場人物の中でも、私が興味を惹かれたのは佐伯という男で、いわゆるギャップ萌えというやつでしょうか。こんな境遇なのにこんな人なの?という、いい意味での裏切りがいい感じです。
結末も味のある締めくくりで、少なくとも悲劇的ではなく、救いも余韻もあるまあハッピーエンドと言えると思います。ちょっぴり意外性というか、反転もありますし、その意味でも後味は悪くありません。
尚、あとがきも面白いですよ。これだけでも立ち読みしてみるといいんじゃないですかね。

No.720 7点 鳴風荘事件- 綾辻行人 2017/03/07 22:04
再読です。
あとがきに前作のまっとうな続編とあります。本作は前作のような外連味こそありませんが、大変生真面目に描かれているのがよく分かります。あまりの丹念な仕事ぶりにややもすると冗長に感じられるかもしれませんが、決して無駄な描写が目立つというわけではなく、きっちりと伏線が紛れ込ませてあるわけです。
理詰めで真犯人を絞り込んでいく過程は、この作品の真骨頂と言えるでしょう。そこには綾辻の愚直なまでの本格へのこだわりが感じられます。トリックに関しては全然大したことないんですが、それまでも一つの推理するための道具立てとして使い捨てされており、意地とか執念のようなものすら感じます。
個人的には前作のほうが好みですが、こうしたまともなパズラーも悪くありません。真犯人へのアプローチ(結局消去法ですが)も納得、動機にも納得。注意深く読めば必ず犯人が指摘できるように作り上げられた、本格推理の結晶と思います。

No.719 6点 探偵映画- 我孫子武丸 2017/03/03 22:18
再読です。
まあちょっと地味ですね。しかし、映像上での叙述トリックを文章で著すという功妙なテクニックを駆使しているところが新しいとは言えると思います。
監督を失って完成まであとわずかながら締め切りが迫る状況で、助監督三人をはじめスタッフがクランクアップに向けて悪戦苦闘する様が読みどころの中心となっています。また、すべてのキャストが我こそが犯人であると主張し、犯人探しではなく、犯人たる資格探しをするシーンなどは、明らかに推理合戦ですね。ある有名な海外作品を意識していると解説の新保博久は書いていますが、そこまで大げさではありません。
なぜ監督は撮影終盤まで来た段階で失踪したのか、なぜ主人公立原に対して美奈子は突然冷たい態度をとるようになったのか、これらの謎をはらみつつ進行していく物語は、一種の青春群像劇とも呼べるような、爽やかな印象を残す異色作だと思います。

No.718 4点 猿島館の殺人~モンキー・パズル~- 折原一 2017/03/01 22:05
再読です。
最近面白そうな新刊がないなあと思いながら、何気なく本棚から引っ張り出してしまった一冊です。しかし、読み返す価値はなかったと言うしかありませんでした。
内容は全く忘れていたので、初読と変わらないにもかかわらず、あまりにも面白くなかった、折原一、こんな作家だったのか?残念です。
一応体裁は本格ミステリ、或いはユーモアミステリの形を取っていますが、正直バカミス以下の取るに足らない作品にしか、私には感じられません。連続殺人事件には違いありませんが、まあ何と言いますか、つぎはぎだらけでストーリーの流れというものが全く見受けられませんし。
「どくしゃへの挑戦」や古の海外ミステリなどのガジェットは、お遊び程度にしか思えず、また大して重要なポイントになっているわけでもありません。黒星警部は動物園から脱走したチンパンジーが犯人だと、本気で信じている様子だし、当然のごとく解決を担うのは一人しかいないことになります。その辺りの完全予定調和感もやや辟易してしまいます。


【ネタバレ】


やはり連続殺人事件というのは、単独犯に限りますね。4人もの死者を出しながら、いずれも違う人物による、殺意のない事故のようなものという真相は脱力ものですね。

No.717 7点 たけまる文庫 謎の巻- 我孫子武丸 2017/02/26 22:03
みなさん、かなり点数高いですね。まあしかし、確かに高水準の短編が揃った感はあります。本格ミステリからSFっぽいもの、ホラーなど、我孫子武丸の力量を測るのには最適の短編集と言えそうです。
個人的に気になるのは、やはり速水三兄妹が久しぶりに読めた『裏庭の死体』。裏庭に埋められた、寝袋に収まり頭に玄関マットが乗った死体の謎を、兄妹が例のごとく掛け合いながら解決に導いていくという、お馴染みのパターンを踏襲した作品です。寝袋はともかく、玄関マットの発想はなかなか面白いです。
『夜のヒッチハイカー』『青い鳥を探せ』も佳作だと思います。
『夜のヒッチハイカー』はどこか既視感があるものの、一捻り加えてあるところが憎いですね。ヒッチハイクする側、される側両者の思惑が絡み合って生まれるサスペンスは、印象深いものがあります。
『青い鳥を探せ』は自分の出社から帰宅までを一週間に亘って調査してほしいという奇妙な依頼を受ける探偵の物語。途中から何となく先が読めてしまいますが、かなりの異色作ではあると思います。しかし、この依頼自体の必然性があまり感じられないのがやや残念です。そんな回りくどいことをする必要があったのだろうかという、ふとした疑問がわだかまります。私の読み込みが浅いんでしょうかね。

No.716 5点 複雑系ミステリを読む- 評論・エッセイ 2017/02/24 22:08
冒頭で著者の野崎六助氏は複雑系ミステリをこう断定しています。
複雑に見えるほど単純
複雑に見えるけど単純
まるで禅問答のようですが。つまり複雑=単純ということのようです。全編を通しても頭の弱い私には理解しきれませんでしたが、とにかくそういう事のようです。
そして何を基準に選んだのか判然としませんが、複雑系として次のようなミステリを挙げて解説を加えています。
『占星術殺人事件』『すべてがFになる』『レベル7』『殺人鬼』『生者と死者』『哲学者の密室』『消失!』『密閉教室』『姑獲鳥の夏』『僕の殺人』『思いがけないアンコール』『人格転移の殺人』『リング』『暗色コメディ』『匣の中の失楽』などです。
どれも本質を衝いているようにも思えますが、なにしろ迂遠な言い回しや比喩的表現が多く、完全に納得できるというには程遠い結果になりました。
しかし、意外にも『占星術殺人事件』を褒め称えていたり、『姑獲鳥の夏』に関して京極堂、関口、榎木津、木場四兄弟説を唱えたり、『匣の中の失楽』と『殺人鬼』の相似性を指摘するなど、面白い論点もいくつかありました。
最終的には村上春樹の『アンダーグラウンド』を引き合いに出しながら、オウム真理教事件、M君事件、酒鬼薔薇聖斗事件などを熱く語っています、暴走しています。それと共にエヴァも・・・。
結局何が言いたいのか、迷子になりそうな私は、これらの事件はミステリに影響を受けたのではないという結論に達しました。
何だかんだで、複雑系だったのは本書の著者である野崎氏の頭の中だったようです。

No.715 5点 狐の密室- 高木彬光 2017/02/23 21:42
高木彬光の持ちキャラ二人の探偵が、宗教絡みの雪密室の謎に挑戦する晩年の作品です。法医学者神津恭介と私立探偵大前田英策の二大探偵が共演するわけですが、これは筆力の衰えが見え始めた高木氏のファンに対するせめてものサービスと私には感じられます。
ストーリー、密室トリック、プロットなど見るべきものはほとんどなく、まさに平凡を絵に描いたような作品に出来上がってしまって、残念な限りです。また、二人の探偵は対決するわけではなく、あくまで共演ですので、その意味でもあまり萌える要素はありませんね。燃えているのは大前田のみで、神津は相変わらず冷静そのもの。それぞれの個性が相殺し合っての最初で最後の共演は、淋しいものになりました。
甘目の採点で5点でしょうか。

No.714 7点 ABC殺人事件- アガサ・クリスティー 2017/02/22 22:25
これは一種のミッシングリンクものですね、しかも当時はニュータイプだったのではないでしょうか。Aから始まる土地でAから始まる名前の人間が殺される。次はB、そしてC。一体犯人の目的は何なのか?読んだ当時、私はまだ中学生だったので作者の目論見は全く見当もつかず、まんまと騙されました。騙されたというより、翻弄されたとでも言いましょうか。正直なるほどなと感心しました、唸りました。
クリスティーという人は、トリックそのものもよりも、そのアイディアの斬新さが抜きんでており、先駆者として女王の名をほしいままにしていますね。本作にもそれは言えることで、単純な構造の中に劇場型の連続殺人事件を取り入れて、真犯人の意図をうまく隠ぺいすることに成功しています。
現在では類似する作品を書けば「ああ、例のあれね」ってことになるのでしょうが、このタイプを究極まで完成形に近づけたのは、やはりクリスティーが最初だったと思います。その意味でも私は本作を評価します。予備知識なしに読め、まだ擦れていなかった頃に本書に出会えて私は幸せでした。

No.713 7点 十二人の死にたい子どもたち- 冲方丁 2017/02/21 22:17
本書を読むにあたって私が最も危惧していたのは、十二人もの登場人物をしっかり把握できるのか、誰が誰だか分からなくなるのではないか、ということでしたが、それは杞憂に終わりました。それぞれの少年少女が違った個性を持っており、異なる役割を果たしているので、混乱したり混同したりすることはないと思います。
またミステリとしてはどうなのか、ごく普通の文芸作品に近いのではないかとも懸念していましたが、意外にも本格ミステリとしての骨格がしっかりしており、安心して読むことができました。
十二人の少年少女たちの自殺願望の理由は様々ですが、いたって単純なものもあり、ややもすれば短絡的とも思えるため、説得力がなかったりします。しかし、若さゆえの直線的な純真さをもって真剣に死にたいと望んでいるのは理解できないでもないのです。
彼らは実行するか、議論するのかで内心は常に揺れ動いているはずなのですが、その辺りの人情の機微が描かれることはありません。なので、ややドライな印象を受けてしまいますが、そこに重点を置いてはいないようですね。


【ネタバレ】


結末は予定調和的であり、意外性はありません。
おそらくは誰もが予想するものではありますが、結論が出た後の少年少女の肩の力が抜けた姿がなんともほほえましく、これで良かったのだと安堵できることで、読後感が格段に良くなっていると思います。

No.712 5点 殺人鬼- 綾辻行人 2017/02/20 21:50
いわゆるスプラッターで、腕や首が飛び、内臓が抉り出されたりします。まあかなりグロイので、注意が必要です。心臓の弱い人にはお薦めしません。それでも『2』よりはましですね。
綾辻氏はこういうのを書くのは相当体力、気力が必要で、友成さんなどはよくこんなのばかり書いてるなあ、みたいな事をおっしゃっていました。しかしさすがにただのスプラッターで終わらないのが作者の強みで、ある大きな仕掛けが施されています。私などは勿論これに騙されたわけですが、ミステリでは騙されるのは本望なので、なにも問題ありません。ただただ読後唖然としたというのが正直なところではあります。
私的には本作は綾辻氏の黒歴史のひとつ、もっと言えば「汚点」に近いと思っています。続編が描かれたわけですからそれなりに売れたのでしょうが、それは作者のネームバリューによるものではないですかね。『2』はさらなる汚点ですよ。
でも、柄にもない作品を物にしたという意味では、ある種特異点とも言えるかもしれません。ただ、こういうのが好きな人には堪えられないのではないでしょうか。

No.711 5点 猿の惑星- ピエール・ブール 2017/02/19 22:06
1963年に刊行された、フランス人作家によるSF。のちにハリウッドで映画化されたが、こちらの方が遥かに有名になってしまった作品ですね。最初のシリーズは5作目まであったでしょうか。元々映像向きだったのか、原作の方は映画に比べると若干淡白な感じがします。勿論、風刺的な意味合いもあったのでしょうし、当時としては斬新な発想が評価されたのではないかと思います。
ケープ・ケネディから打ち上げられた宇宙船が、1年半後オリオン星座に属するある惑星に着陸する。地球時間では2000年後になる計算である。そこはゴリラ、オランウータン、チンパンジーが支配する世界であり、人間は奴隷扱いされていた・・・。
といったストーリーですが、衝撃のラストはあまりにも有名です。映画の方ですがね。


【ネタバレ】


映画では「その惑星」は実は地球であり、ラストシーンで砂浜に埋もれた自由の女神像が唐突に現れます。
原作は、猿の惑星を無事脱出し地球へ帰還したところ、地球も猿に支配されていたというラストです。
衝撃度としては映画の方に軍配が上がる気もしますが、原作もなかなか味がありミステリ的趣向と言えると思います。

No.710 7点 火車- 宮部みゆき 2017/02/18 21:47
世間的には宮部氏の代表作の一つに挙げられる作品として有名。社会派のお手本のような傑作ですね。ただ、個人的にはやや面白みに欠けるのかなという印象を受けます。優等生的な作風だけどどこか説教臭いのが鼻につきます。まあその辺りも高評価の一因と言えると思いますけどね。
カードローンや自己破産などがかなり詳しく書かれており、勉強になります。そうした社会問題を取り上げているものの、ストーリー・テリングをおろそかにしてはいません。ワクワク感とか高揚感とは無縁なのが残念ではありますが。
借金問題に苦しみ、人生を転げ落ちていく様を、蛇の脱皮になぞらえた文章がとても印象に残ります。なぜ蛇は命がけで脱皮するのかと問われての回答が以下の文章。
「一生懸命、何度も何度も脱皮していくうちに、いつか足が生えてくるって信じてるからなんですってさ。今度こそ、今度こそ、ってね」。
蛇だって足があったほうが幸せだと思っているそうです。切ないですね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)