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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.749 7点 22年目の告白-私が殺人犯です-- 浜口倫太郎 2017/07/02 22:01
映画のノベライズ本を読むのはいつ以来だろう。たぶん小学生の時に読んだ『明日に向かって撃て!』が最後だと記憶していますが。しかし、ノベライズだからと言ってバカにしたものでもありません。作り物めいた感じもしませんし、これが映画の原作本だと言われれば、十分に納得していたと思います。
正直面白いです。ページをめくる手が止まらないというのは、こういうことを言うのかというくらい、先の展開が気になるわ、読めないわでなかなか中断できません。
作者は『アゲイン』でポプラ社小説大賞特別賞を受賞しデビュー。放送作家として『ビーバップハイヒール』などを担当しています。本作を読む限り、かなりの実力者と見受けられます。読者を引き付ける文章を書くことに関しては、一流の腕を持った人です。私は寡聞にしてこの作者を知りませんでしたが、ほかにどんな作品を書いているのか興味を惹かれました。
内容に関しては触れるべきではないと判断しましたが、ただただ多くの方に読まれることを願うばかりです。
尚映画では出ていない主要登場人物が描かれているようで、その存在により作品の奥行きが広がっているように思います。その辺りは、映画のみに頼ることなく臨機応変に筆を進めていたのではないかと想像します。

No.748 5点 ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。- 辻村深月 2017/06/29 22:38
二十代後半の幼馴染みのふたり。一人は東京の有名大学を出てフリーライターとして何とか凌ぐみずほ。もう一人は母親を殺害し、その後失踪したチエミ。第一章ではみずほがチエミの行方を捜して、チエミの関係者に接触します。第二章はチエミの一人称でストーリーが進行し、徐々に真相が明らかになっていきます。
特に前半は重苦しくテンポが悪いので、読んでいて疲れるしなんだかスッキリしない気分です。後半はやや盛り返しますが、相変わらず地味な聞き取り調査の連続で面白味があるとは言えません。赤ちゃんポストなど昔のネタを放り込んだりしているのはなかなか工夫されているとは思いますが、登場人物の多くが女性の持つさがというか、嫌らしさや醜さが浮き彫りにされており、正直気分が悪くなりました。
これまで私が読んだ辻村作品とは明らかに毛色が違うことが読むにつれはっきりしてきて、この作品は女性同士、特に母と娘の関係性をテーマにしたものだから、と割り切るしかないと感じました。
最後までさしたるサプライズもなく、ほぼ予想通りの展開に終始します。まあ作者の新境地と言えなくもないでしょうが、個人的にはあまり歓迎したくない方向に行ってしまった感じがしますね。感動できるというのが彼女の代名詞みたいなものと勘違いしていたのかもしれません。
女性には共感できる部分が多いのだろうと思いますが、男性が読むにはやや荷が重いのではないかと感じます。辻村氏の作品としてはお勧め出来かねるかなと思います。一応ミステリの体裁を取っていますが、最早ミステリとすら呼べない文芸作品なのではないでしょうか。

No.747 6点 ツナグ- 辻村深月 2017/06/25 22:17
第32回吉川英治文学新人賞受賞作。
一生に一度だけ死者との再会を現実のものとしてくれるという使者(ツナグ)。彼の導きによって、それぞれの事情を抱えた者たちが死者との再会を果たす連作長編。
彼らとは、人気女性タレントに一度だけ救われたことがあるOL、年老いた母にがん告知をできなかった頑固な息子、親友を嫉妬のあまり死なせてしまった女子高生、仲睦まじく暮らしていたのに突然失踪してしまった婚約者を待ち続ける会社員です。
言ってしまえば、どこにでも転がっていそうな物語ばかりではありますが、思わず主人公に感情移入してしまうのが辻村氏の腕なんでしょうねえ。また、葛藤や悩み、憎しみなど人間の負の感情を赤裸々に描きながらも、それが決して嫌悪感を抱かせない辺りはこの人の人間性が表れているのかもしれません。おそらく想像するに、優しい性格なのでしょう。そうした性格の良さを感じさせる本作は、語り口調の柔らかさも相まって、いかにも一般受けしそうな内容となっています。特に女性には広く受け入れられそうな気がしますね。
ただ一点だけ、最終章というか最終話はもう少しドラマチックであって欲しかったというのが個人的な感想です。むしろなくても良かったのではないかという気さえします。確かに、これがあってこそ完結するのだとは思いますが、だったら例えば使者の由来などを絡めて、その必然性などを説くべきだったのではないでしょうかね。まあ一読者の我儘な願望にすぎませんけれど。

No.746 7点 テミスの剣- 中山七里 2017/06/22 22:06
冤罪を扱った本作は、本格というより社会派の色合いが強いような気がします。それにプラス警察小説でしょうかね。
死刑の是非や司法から見た冤罪、旧態依然とした警察の体質の問題など、様々な問題提起に色々考えさせられる作品だと思います。中山氏の作品は一本筋が通ったものが多いですが、これもまた通底する問題意識は他に劣らず根深いものと感じます。
ストーリーも最初は単純な冤罪かと思いきや、のちのち意外な人物が浮かび上がってきたりして、予想を超えた展開を迎えます。
派手さはありません、むしろ地味な捜査の描写が続きます。しかし、この作者の筆致は退屈さとは無縁で、何を書かせてもついのめり込んでしまいます。それはもはや天性のもので、まさにミステリを書くために生まれてきたのではないかと思えるほど、その才能をいかんなく発揮しています。
メイントリックは確かに盲点を突いているものの、あまりに大胆すぎると思います。普通は敢えてそのような犯行手口を使うのはやはり無理があるのではないかと。
尚、『静おばあちゃんにおまかせ」の高遠寺静が裁判官として登場します。チョイ役とかではなく、かなり重要な役どころですので、こちらもファンとしては見逃せませんね。

No.745 6点 ボッコちゃん- 星新一 2017/06/18 22:24
三名の方が書評されて、みなさん10点を付けているので興味を惹かれ読んでみました。もちろん星新一氏の名前は知っていましたし、随分前に読んだ覚えがあります。しかし内容などは覚えていません。感触としては可もなく不可もなくといったところだったように記憶しています。
ショートショートというのは、アイディアとオチが最重要ポイントだと私は思っています。アイディア=設定(SF、寓意小説、ブラックコメディ、ミステリなど)をどうするか、或いは時代や舞台なども含めてですね。オチは勿論最後の一行で捻り落されるのが理想でしょう。
その意味で本短編集は必ずしもすべてが見事に決まっているとは言い難く、秀作もあればそうでないものもあり、全部をひっくるめてこの点数になりました。
印象深いのは『不眠症』『歓迎キッス』『生活維持省』『鏡』辺りです。いずれもエッジの効いた奇想が好感触です。反転物があったり、綺麗に落とされていたりと、大変面白く読みました。ほかにも気の利いた短編がいくつもあり、ショートショートの楽しさを堪能できます。ラストの『最後の地球人』は大作で12頁もあります(笑)。
蛇足ですが、写真の星新一氏は私のイメージと違ってとても紳士的な感じの人で、少々驚きました。もっと太ったラフな雰囲気だと勘違いしていました。

No.744 8点 かがみの孤城- 辻村深月 2017/06/15 22:22
中学一年のこころは、自分の部屋である日突然輝きだした鏡に取り込まれ、辿り着いた先は城の中だった。そこには彼女を含め七人の中学生男女がいた。彼らは不登校やそれに近い境遇の少年少女ばかりだった。そして門番?の狼面の少女に鍵を探すように指令を受けるのだが・・・。
いや、参りました。中盤あたりまではどこか間延びした感が否めない、どちらかというとテンポの悪い青春小説かなという感じで、正直あまり感心しませんでした。しかし、やはり只では終わりません。終盤に驚きと感動が待っています。泣けます。
約束しましょう、あなたは必ず心動かされ、癒しと救いを受けます。
あくまでファンタジーで終わると思いきや、最後は完全にミステリです。しかもなんとなくのんびりとしたストーリーの中に、いくつもの伏線が張られているのです。さすがにこの作者は只者ではありませんね。
かがみの中と外が均等に描かれ、子供から見た大人、大人から見た子供という両面からのアプローチもきちんと成功していると思います。肝心の鍵探しはいつ始まるのだろうなどの懸念もありましたが、結局それも杞憂に終わりました。辻村女史は最後の最後まで計算し尽された見事な構成でもって、大仕事を成し遂げたのだと心から賛辞を送りたい気持ちでいっぱいです。
一つだけ、ケチをつけるわけではありませんが、目線という言葉が多用されていますが、視線に差し替えるべきところが何か所かあると思います。

No.743 7点 いつまでもショパン- 中山七里 2017/06/10 22:12
全体の何分の一かはショパン・コンクールのピアノ演奏の描写に終始します。私にはおそらくその一割程度しか理解できていないと思いますが、表現力豊かで迫力ある描写には凄みがあります。ただショパンに詳しくない読者にはちょっと退屈かもしれません。
しかし各国の代表が参加するコンクールは、最後まで誰が優勝するかわからないため、その意味でも興味深く読めます。とてもインターナショナルな空気感が漂いますし、参加者の一人である岬洋介は果たしてどうなるのかにも心情が持っていかれます。
ミステリとしての焦点はやはり「ピアニスト」と呼ばれるテロリストの正体に尽きます。それと殺害された刑事の指が切り取られていた理由も一応謎として残りますが、これはいたって単純なもので、あまり期待しないほうがよろしいかと思います。ですから、ミステリ・パートは短いしいささか弱いため、本格物としてはやはり薄味でしょう。しかしその代わりと言っては何ですが、エンターテインメントとしてはかなり出来の良い作品だと私は思います。
ピアノ・コンクールという大きな柱に細かなエピソードの数々を枝葉のように添え、出来上がったのはクラシック音楽とミステリを巧妙に組み合わせた、寄せ木細工のような佳作でした。

No.742 7点 オーダーメイド殺人クラブ- 辻村深月 2017/06/07 22:24
無自覚なリア充少女アンと目立たない「昆虫系」少年徳川のまわりくどい恋愛小説。
青春小説でもあり、ミステリの側面も備えています。しかし結局は恋愛小説だったのかと思わせますね。分類は難しいです、様々な要素が混然一体となって進行しますので、一言で語ることは難しいと思います。
それにしても二人の関係はもどかしくも歯がゆい。アンは徳川に自分を殺してほしいと訴えます。それもありきたりではなく、歴史に残るような事件にしたいと望みます。何がそこまで少女を駆り立てるのか、理解に苦しむところもありますが、この世から消えたい、でも自殺はいやという我儘な希望を叶えられるのは徳川しかいないというのはよく解ります。徳川にはそれだけの残忍さが宿っているわけですから。
実にブラックな青春ミステリですよ。勿論アンの内面は非常に克明に描かれており、その変態性までも浮き彫りになります。どこにでもいそうな中学生がここまでの変わった嗜好を果たして持っているものだろうか?それに合わせたように登場する徳川の特異性。やはり凡百のラノベなどと比較にならない、異形の小説と言わざるを得ません。


【ネタバレ】


結末は落ち着くところに落ち着きます。読者によっては不満を覚えるでしょうが、これでよかったのだと私は思います。行くところまで行ってしまうのを避けるのが、この作家の良心であり、優しさなのではないでしょうか。

物語の重要なポイントの一つである写真集「臨床少女」ですが、普通写真集は店頭では中身が見られないようになっているのではないと思いますが、どうなんでしょう。ちょっと気になります。

No.741 4点 イノセント・デイズ- 早見和真 2017/06/04 22:02
第68回日本推理作家協会賞受賞作。
正直面白くないです。いや、そういった物差しで計るべき作品ではないのは重々承知で。なんですかね、謎がないんですよ。謎めいた雰囲気もないですし。社会派だから仕方ないのかもしれませんが、そういった読書を進める上での推進力が足りないと言ったらいいんでしょうかね。リーダビリティがどうこうというわけではありません。
そして重いです。重厚感とかの問題ではなく、心に重く圧し掛かる嫌な感じが終始しますよ。一歩間違えばイヤミスの領域に入ってしまいそうな感覚です。
これは30歳を迎える女性死刑囚の半生を描いた物語です。スピンオフ的に様々な人物の視点から描かれているため、ややプロット的に煩雑な感じを受けます。ちょっとごちゃごちゃしていますね。まあ、私の読解力にも問題があるとは思いますが。
読後はどんよりとした気分に浸れます。そうなりたくない人にはお勧めできません。唯一読みどころはエピローグでしょうか。
それにしてもこの作品が日本推理作家協会賞を受賞したとは、うーん・・・となってしまいますね。


【ネタバレ】


捜査側からのアプローチがほとんど描かれていませんが、状況証拠ばかりで果たして死刑求刑にまで持っていけるのだろうかという素朴な疑問がわいてきます。その意味では、片手落ちな気がします。

結局、冤罪だったのか否かが(おそらくは冤罪だと思いますが)最後まではっきりしないのも、モヤモヤしますね。

No.740 6点 十二人の手紙- 井上ひさし 2017/05/30 21:48
再読です。
書簡、ほとんどが手紙で一篇のみ様々な公文書で構成された短編集。一応連作短編集という形を取ってはいますが、これは短編集と言ったほうが正しいのではないかと思います。
あらゆるテクニックを駆使して手紙のやり取りを巧みに反転させたり、どんでん返しを成立させたりして、涙ぐましいまでの作者の苦労が心に沁みます。しかし、あっと驚くようなオチも中にはありますが、大抵は唸るほどのものではないですね。アイディアとしては良かったものの、見事に大成功というわけにはいかなかったようです。
一番の読みどころはやはりエピローグ。それまでの主な登場人物18人が一堂に会します。しかも特殊な状況下で。さらに最後の後日談がいわゆる解決編になっており、これはなかなか気が利いていると思います。まあ複雑なものではありませんが。
なんだかんだ言ってもそれなりに楽しめましたが、7点をつけるのには躊躇せざるを得ない感じですかねえ。

No.739 8点 折れた竜骨- 米澤穂信 2017/05/27 21:50
どこからどこまでも至れり尽くせり、何から何まで良く出来たファンタジーです。ファンタジーなのは間違いないですが、それはあくまで方便としての設定であって、本質はやはり本格ミステリなのだと思います。ですから読者は前半は少々退屈でもじっくり読み込まなければなりません。そうしないと最後に儀式(セレモニー)という名の謎解きの場に臨んだ時、心底納得できないかもしれません。
登場人物には魅力的な個性を持った様々な肩書のキャラクターが多数現れ、名前を覚えるのに多少苦労しますが、中世ヨーロッパの異世界の雰囲気を味わえます。また、冒険小説としての一面もどうせなら楽しんでしまう余裕もほしいものです。
特殊な条件下での殺人事件と人間消失事件。どちらも特異設定が生きてきますが、決してそれが謎解きの邪魔をしていないところが、うまくミステリとファンタジーが融合していると言われる所以だと思います。
結論は、さすがに今を時めく人気作家の代表作であり、更には日本推理作家協会賞受賞も納得の傑作ということになるでしょうか。

No.738 7点 ぼくのメジャースプーン- 辻村深月 2017/05/20 22:27
幼馴染みのふみちゃんはクラスの人気者。特定の親友はいなくても、みんなから信頼されている。頭もよくて運動もできる。そんな彼女をある陰惨な事件が襲う。それ以来ふみちゃんは誰にも心を開かず、喋らない、笑わない、と無反応になってしまう。
彼女を救えるのは「ぼく」しかいない。ぼくと犯人を巡る七日間の戦いが始まる。
まさかこの作品で、何度も涙を流すことになろうとは思いもよりませんでした。まだ私にもピュアな心が残っていたのかと。汚れきった大人の世界に塗れて、自分の心も荒んでしまっているものと思っていましたが、どうやら純粋な部分もあるのだと気づかされました。
これは小学四年生の「ぼく」目線で描かれた、特殊能力を持ったために戦わざるを得なかった少年の物語です。子供が主人公なので文体は優しいですが、様々な事件や出来事を真正面から描き切った傑作だと思います。いろんな意味で「逃げ」に走らない姿勢は作者として立派です。当然少年の心理描写は鋭く、知らず知らず感情移入させられてしまいます。
「馬鹿ですね。責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです」
ある人物の作中での言葉ですが、これが本作のテーマというか本質を突いているのかもしれません。

No.737 6点 双孔堂の殺人~Double Torus~- 周木律 2017/05/16 22:22
前作が7点に近い6点だったの対し、本作はそれよりやや落ちる感じは否めません。
早い段階で密室殺人が起こり、テンポよく話が進むので相変わらず読みやすく、好感触。しかも探偵の十和田が自首するという意外な展開で、どうストーリーを進行していくのか興味が持てます。
あとがきにもあるように、数学に関する衒学趣味が横溢しているのは意見の分かれるところかもしれません。確かに我々素人にはさっぱり理解が追い付かず、退屈を強いられます。まあ我慢できないほどのボリュームではないので、一つのアクセントと考えれば許容できるのではないかと思いますが。
さらには名探偵不在の中での地味な捜査、というか調査が延々と続くので、その意味でも冗長さをどうしても感じてしまいます。
しかし、いかにもな本格ミステリの「雰囲気」は十分に味わえます。どうやら作者は作品ごとに工夫を凝らし、新たなトリックを提供しようとしているようで、その姿勢は大いに買えます。作風は変えず、新たなアイディア(建造物)を加えながら、新風を吹き込もうという意欲は称賛すべきものだと思います。

No.736 8点 最後の医者は桜を見上げて君を想う- 二宮敦人 2017/05/12 21:58
武蔵野七十字病院副院長で天才的な外科医、福原雅和。彼は患者の命を救うことに情熱を燃やす熱血漢であり、院長の父を持つ。
同じく武蔵野七十字病院の皮膚科に勤務する桐子修司。彼は「死神」と呼ばれ、患者には死を選ぶ権利があるとの信念の持ち主。
神経内科に勤める音山晴夫は穏健派で、犬猿の仲である福原と桐子の仲を取り持ち、七十字病院の未来を三人で切り開いていくという理想を持っている。
彼ら三人が難病と闘う患者と共に、それぞれの立場から患者を救おうと必死になって医師としての使命を果たそうとする物語です。そして第三章ではミステリ的手法を用いており、ついにある人物が運命の病に罹ってしまい・・・。
一読後、この作者は完全に一皮むけて、更なる飛躍を遂げたのだと確信しました。今後は人気作家の仲間入りを果たしそうな予感がします。
本作は医療ドラマを描いた入魂の傑作であり、本屋大賞にノミネートされてもおかしくなかったくらいの、実に立派で素晴らしい作品だと思います。医師、患者本人は勿論、その家族や友人も含めて、過不足なくよく描き込まれており、各シチュエーションで、誰がどんな心理状態なのかが非常によく伝わってきます。
すでに11万部突破のヒットとなっている本作、ミステリではありませんが、敢えて書評したのは一人でも多くの人に読んでいただきたい一心からです。

No.735 6点 カササギの計略- 才羽楽 2017/05/07 21:58
終盤までは正真正銘の恋愛小説です。恋愛ミステリとも違います。いったいこの小説のどの辺りがミステリなのかしらと、終始疑問を抱きながら読み進めましたが、終盤でやられました。計略とはよく言ったもので、まさしくある策略というか、陰謀といえば大げさでしょうか、そういった黒い影が突如差し込みます。
まあしかしながら、道中はとても読み心地のよい流れるような文章で、しかも何気ない仕草や細かな情景、背景などにも神経が行き届いており、非常に手慣れた書き手との印象を受けます。
ベビーカーに人形を乗せて歩く「ベビーさん」やアパートのドアの前で遅くまで母親を待ち続ける少年のサイドストーリーなども単なるエピソードとしてではなく、しっかりと描き切っています。この辺りも高評価ですね。
ただ、先述のようにある計略が裏では進行しているわけですが、私には少々納得のいかない点があったのが、どうもすっきりしない後味となってしこりのように残り続けています。そこが感動の名作、涙なくして読めないというわけにはいかないところなのです。期待通りの展開にならないからと言って、作者を責めることはできませんが、やはり想像の斜め上を行くのも一概に意外性があってよろしいとは言いがたいってことでしょうかね。

No.734 5点 密室の鎮魂歌- 岸田るり子 2017/05/04 22:14
過去現在含めて四件もの密室事件が起こる、豪華?な一冊です。が、いささかタイトル負けしていますね。いえ、個人的な感想ですが。
全編無味乾燥な文体で綴られる、一見複雑そうな、事件てんこ盛りな本作ですが、意外と単純な構造をしていると思います。デビュー作らしく、完成度が高くありません。京都が舞台なのですが、全然そんな感じがしないのは、情景が浮かんでこないせいなのか、まあ描写不足なのでしょう。やたら地名が出てくるだけで、土地勘がある私でも、あああの辺りか~程度にしか思えません。
最後の最後まで誰が探偵役なのか判然としないのは、逆に興味を惹かれますし、多分この人が探偵役なんだろうと思わせて被害者にするところなどは、なかなか面白いです。(すみません、ややネタバレ気味ですかね)ただ、この解決の仕方は個人的にあまり好みではないです。
密室も第一の事件は一捻りしてあり、好感が持てますが、あとはどうということのない平凡な事件です。密室は最早物理トリックのみでは物足りませんね。何か新味を感じさせるトリックや意外な動機でもない限り、密室そのものの存在意義はないと思います。

No.733 6点 烏に単は似合わない- 阿部智里 2017/04/30 22:20
第十九回松本清張賞受賞作。ですが、社会派推理小説ではありません。基本はファンタジーでミステリの要素が幾分含まれている感じです。
時代はおそらく平安時代辺りだと思います。ストーリーは簡単に言うと、四人の姫が妃争いを演じるのですが、道中、陰謀あり裏切りあり丁々発止のやり取りありの、なかなか過激な女の争いです。それぞれ訳ありの事情を抱えた姫たちの中から、いったい誰が妃に選ばれるのかが、一応話の中心ですが、そんな興味を忘れるほど姫たちの裏に隠された秘密に心中を持っていかれます。
八咫烏とは三本足の大烏のことで、日本書紀に記されているとも、古代中国で瑞鳥とも言われているらしいです。この八咫烏が物語の中で重要なポイントとなっており、そこが最もファンタジーらしい部分ではあると思います。ただし、ファンタジーでありながら、それ程のスケール感を感じさせないのは、まあ物語に見合ったものなのかもしれません。
時代ファンタジーが好きな人には堪えられない逸品でしょうし、ちょっと風変わりな少女漫画ファンなどにも受けそうな気がしますね。ミステリ好きには物足りないかもしれませんし、あまり一般受けするとも思えません。
作者はまだ25歳?の才媛で、松本清張賞を受賞したのは20歳で、まだ学生だったそうです。いずれにしても今後の活躍が期待される大型新人のようです。私にはあまりピンときませんでしたが。
尚、八咫烏シリーズは累計65万部の大ヒットを記録しているそうです。あまりピンときませんが。

No.732 7点 時鐘館の殺人- 今邑彩 2017/04/26 22:53
一定水準を維持した良作揃いの短編集です。
『生ける屍の殺人』は島田荘司氏に直接依頼を受け、アンソロジー『奇想の復活』に寄せられた短編です。新本格の作家をはじめ、若手のミステリ作家の競作とあって、なかなか力の入った味のある作品に仕上がっていると思いますよ。山口雅也氏の某作品とタイトルが似ていますが、全く関係ありません。ラストは好みが分かれるかもしれませんが、個人的には許容範囲内です。
表題作は凝りに凝った構成で読ませる本格ミステリです。まるで新本格のお手本のような作風ですね。ちなみに史上初?前代未聞の「読者からの挑戦状」入りです。もしかしたらこの作品は短編でありながら、今邑女史の代表作に挙げられてもおかしくはないんじゃないでしょうか。
これは作者がアマチュア時代に書いたものが元ネタらしいですが、今邑女史も考えてみればデビュー当時は本格志向の強い作家だったんですよね。その後、ホラーやサスペンスに移行していったようですが、ご存命なら更なる傑作を読めたはずなのに、本当に残念なことです。
とにかく、一読の価値ありの短編集だと思います。色々な趣向の作品が楽しめます。

No.731 7点 かくも水深き不在- 竹本健治 2017/04/22 22:30
ホラーあり、サスペンスあり、誘拐ありの連作短編集です。
各短編ともいかにも竹本健治らしい作品と言えると思います。竹本自身はある古い作品を意識しているらしいですが、似て非なるものに仕上がっているようです。が、ある意味ではそれを超えているかもしれません。まさに竹本にしか書けないような奇妙な味わいの異色作です。
探偵役は名脇役の精神科医・天野不巳彦。
とにかく氏の本領を発揮しているのは間違いないと思いますよ。


【ネタバレ】


多くの方の予想通り、単なる短編集ではありません。衝撃的なラストを迎えますので、覚悟が必要ですよ。多くは語れません、本当にネタバレしてしまいますので。
読むのを迷っている人はすぐに読んだ方がいいと思います。特に竹本ファンは必読ですね。

No.730 4点 愚者のスプーンは曲がる- 桐山徹也 2017/04/18 22:49
まずタイトルについてですが、主人公で大学一年の瞬は超能力を無効化する超能力を持っています。ですので、彼の前ではスプーンは曲がらないはず、なのに曲がったらそれは愚者(偽者)という意味です。
上記のように、本作は多彩な超能力を持った人物が多数登場しますが、無効化によりアクションシーンは全くありません。超能力を駆使した対決のないサイキックミステリなど面白いのか?結論は面白いはずがありません。
ストーリーは、命を狙われた瞬が超能力ばかりでなくその代償をも無効化する力を有していることから命拾いし、仲間となったキイチとマキが所属する「超現象調査機構」で働くことになる。ある日事務所に血まみれの男が転がり込み、プラスティックプレートを託すとともに、「アヤカには絶対近づくな」という言葉を残し絶命する。謎の女アヤカを追い、三人の調査が始まるというもの。
文体はあくまで平板でほとんど印象に残らないです。次々と現れる超能力者たちも個性はあるものの、描き方が中途半端で誰が誰だかよく分からないといった感じで感心しません。さしたる読みどころもなく、淡々とストーリーは進行し、最後の最後でややこれは、と思うようなシーンが現れますが、それもわずかで終了。結局終始盛り上がらないまま終わってしまったという印象しか残りません。
大体、「このミス」大賞の最終選考に残らなかった作品を書籍化するというのもいかがなものかと思いますよ。正直、そこまでの価値がある作品とは言えないですね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)