皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1835件 |
No.1015 | 6点 | 君のために今は回る- 白河三兎 | 2019/11/07 22:44 |
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ねぇ、銀杏。わたしたちは確かに友達だったよね?わたしが観覧車の幽霊になって随分時間が経ちました。この観覧車には変わった人がいっぱい乗ってきます。盗聴魔、超能力を持つ占い師、自信喪失した女記者、ゴンドラでお見合いをする美人医師…みんな必死にくるくる生きてる。だから今、わたしは人を思う力を信じてる。そうしたらいつかもう一度、あなたに逢えるかな?これはすれ違う人々の人生と運命を乗せて、回り続ける観覧車の物語―。
『BOOK』データベースより。 「分かる~」とか「あるある~」的な共感を呼ぶエピソードが随所に散りばめられていて、とても共感出来る好感度の高い作品。詩的でありながら判りやすい文章が心地よい、作者の文才を感じる佳作でもあります。 物語は観覧車の地縛霊となった千穂と、千穂が憧れていた同級生の銀杏のパートが交互に進行します。どちらの登場人物も個性的な面々で、特にゴンドラに乗り込む占い師の「おっちゃん」と、お見合いをするのだが悉く冷淡に撥ね付ける「かぐや姫」がいい味を出しています。最後にこの二人の直接対決が見られるかと思いきや、残念ながらニアミスで終わってしまったのが心残りではありますが、二つの並行するストーリーが最後には見事にクロスしていく過程が読みどころです。 ハートウォーミングな語り口が光る、可笑しくもちょっぴり切ないファンタジー小説です。 |
No.1014 | 5点 | 多重人格探偵サイコ 小林洋介の最後の事件- 大塚英志 | 2019/11/05 22:11 |
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恋人の復讐のため連続殺人犯を射殺した刑事・小林洋介。その時から彼は、「多重人格探偵・雨宮一彦」となった。その雨宮を収監先の刑務所で待ち受けていたものは…。卑屈でサディスティックな暴力看守、所内で隠然たる力を持つニューハーフの謎の受刑囚、彼が仕切るあやしい賭博ゲーム、そのゲームを動かす悪意に満ちた双子の女の子。そして雨宮一彦の最初の事件が幕を開けた。六〇〇万部を突破したベストセラーコミックの原作者自身によるノベライゼーション。すべてはここからはじまる。
『BOOK』データベースより。 探偵ではありませんね。元刑事の多重人格者が主人公です。小林はごく普通、第二人格の雨宮もこれといって個性的でもなく、第三の人格西園が最もアクが強く荒っぽく描かれています。が、別にキャラクター小説という訳ではなさそうです。 それにしても作者はバラバラ死体でもばら撒いておけば読者が喜ぶとでも思っているのでしょうか。まあ私は喜びますけどね。そしてグロ描写があれば読者が興味を持つだろうと思っているのでしょうか。私は興味深々ですが。しかしねえ、連続殺人鬼の島津の犯人像をもっと深堀出来なかったものでしょうか。いかにも短絡的でいわゆる普通のサイコパスとして描かれているに過ぎず、深層心理にまで迫ろうという意志が見られません。その辺りかなり不満が多いですが、それなりに面白かったし今後の展開に期待して5点にしました。でもやっぱり薄っぺらいです。 【ネタバレ】 島津は第二の犯行までは被害者を殺害してバラバラにしていますが、小林の恋人である千鶴子だけは殺害していません。これは何故なのか私には理解できませんでしたし、その理由が明らかにされている記述もありません。ここは結構重要な点だと思いますが、不透明なままではどうにも納得出来ませんね。果たして続編でどう展開されていくのか、この点にも注目していきたいものです。スルーされていたらちょっと嫌ですね。 |
No.1013 | 5点 | 生まれ来る子供たちのために- 浦賀和宏 | 2019/11/03 22:23 |
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世界で一番醜く、孤独な男―八木剛士。剛士を唯一支えてきた少女―松浦純菜。だが、剛士の非道な行いにより二人の関係は崩壊し、彼の最後の拠り所であった、最愛の妹にまで悲劇が!!運命に翻弄される剛士は、最後の復讐を開始する…。すべての絶望が向かう先には一体何が―!?ついに明かされる、剛士の出生の秘密!松浦純菜シリーズ、堂々の最終巻。
『BOOK』データベースより。 シリーズ最終巻、漸く終わったかという気持ちが強いです。本作には正直始めからあまり期待していませんでしたが、やはり想像通り尻すぼみで完結してしまったとしか言いようがありません。 八木、純菜、南部の視点から過去を振り返りますが、似たような事柄が過去の作品に何度も書かれており、くどいです。果たしてこれだけ読んだ人がどれだけ理解できるのか疑問に思います。第一作から順番に読むことを義務付けるようなやり方は、言ってみればあざといです。最後に純菜を持ってきたのは正解でしょう、でも最後まで八木は醜く、心までも汚れてしまっているし、純菜は八木を憎み結末がどうにもスッキリしないまま終わった感じがして仕方ありません。ただ、剛士の秘密が明らかにされただけでも良かったのかなとは思います。しかし、それも今一つ納得がいかない部分があり、不満が残ります。 何となくメタに逃げたようなところは、らしいと言えばらしいですが、黒浦賀をずっと読まされてきたように思えてなりません。思えば、三作目以降はミステリからどんどん離れていってしまい、ここまで引っ張るような大したシリーズではなかったとの結論に個人的には達しました。一作目は良かったんですけどねえ、せいぜい四作くらいで完結させていればもっと密度の濃いものになったのではないかと思わざるを得ません。 |
No.1012 | 6点 | 猫物語(黒)- 西尾維新 | 2019/11/01 22:19 |
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完全無欠の委員長、羽川翼。阿良々木暦の命の恩人である彼女はゴールデンウィーク初日、一匹の猫に、魅せられた―。それは、誰かに禁じられた遊び…人が獣に至る物語。封印された“悪夢の九日間”は、今その姿をあらわにする!これぞ現代の怪異!怪異!怪異!知らぬまに、落ちているのが初恋だ。
『BOOK』データベースより。 西尾維新は何気ない日常のやり取りや会話を面白おかしく描くのが得意な作家の一人だと個人的に思っています。読み手側としては、それをどう読み解くか、或いは十分に楽しめるかが評価に繋がるのです。そのよい例が冒頭の暦と月火のじゃれ合いだと思います。この長々とした本筋に関係ない、ほのぼのとした兄妹の掛け合いを楽しめるかどうかで、結構評価が変わってくるかもしれません。 肝心の羽川に関する怪異のほうは、思いの外あっさりしていて薄味の感がします。猫に魅せられた委員長が吸血鬼に匹敵する程の力を手に入れ、それに暦がどう対抗するのかが読みどころではありますが、登場人物が限定されてしまうので、ストーリーに広がりが感じられません。スケールの大きさも本シリーズでは控えめですね。物語に複雑さを求める読者には不向きと言えるでしょう。で結局最終的に上手く納め過ぎて、なんだかなあと思ってしまいました。 一つ注意したいのが時系列の問題。これは致し方ないでしょうが、シリーズをある程度纏めて一気読みしないと混乱すること必至。まあしかし、安心して読めるのは良いですね。しかし、あまりの安定感にマンネリ化しないかが懸念されます。 尚、『猫物語』には黒と白がありますが、それぞれ独立した話で上下巻という訳ではないそうです。 |
No.1011 | 5点 | ネット探偵局の事件簿 密室・アリバイ・暗号22連弾!- アンソロジー(国内編集者) | 2019/10/30 22:53 |
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このダイイング・メッセージは何を語っているのか?雪深い山荘で起きた密室殺人事件の真相は?姿を消した人気作家の原稿はどこに隠されているのか?1億円の身代金はいったいどこへ消えてしまったのか?―電脳探偵局が依頼を受けた難題をいともたやすく解いていく局員の探偵たち。密室、アリバイ、暗号…さあ、きみは探偵の頭脳にどこまで迫れるか!?気鋭のミステリ通が著した凄絶なる知恵比べの22問。
『BOOK』データベースより。 新保教授始め、村上貴史、杉江松恋、川出正樹、古山裕樹といった書評家が読者に挑戦するミステリ短編集。 それぞれが短く無駄がないのは良いですが、各々好き勝手に探偵を活躍させ、電脳探偵局の一探偵という設定なのに統一性に欠け、なんとなく違和感を覚えます。まあそれは作風が違うためやむを得ないとは思いますが。 大凡フーダニットとハウダニットが主なテーマで、これといった突出した作品は見当たりませんが、ダイイングメッセージものに優れたトリックがいくつか発見出来ました。なかなかの発想力だと感心しました。しかし、みなさん作家ではありませんので、矛盾点や疑問点があったり、トリックの借用があったりと全体的に高水準とは言い難い印象を受けました。中には誘拐物(短い中でよく纏め上げている)や、オチがミエミエの日常の謎を扱ったものもあります。 何だかんだゲーム感覚で楽しめましたが、あまり真剣に推理しなかったせいもあり、ほとんど真相を看破することができませんでした。全編通して犯人や殺害方法を指摘できたら名探偵を自認してもいいかも。 |
No.1010 | 6点 | 毒殺魔の教室- 塔山郁 | 2019/10/28 22:46 |
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那由多小学校児童毒殺事件―男子児童が、クラスメイトの男子児童を教室内で毒殺した事件。加害児童は、三日後に同じ毒により服毒自殺を遂げ、動機がはっきりとしないままに事件は幕を閉じた。そのショッキングな事件から30年後、ある人物が当時の事件関係者たちを訪ね歩き始めた。ところが、それぞれの証言や手紙などが語る事件の詳細は、微妙にズレている…。やがて、隠されていた悪意の存在が露わになり始め、思いもよらない事実と、驚愕の真実が明かされていく。『このミステリーがすごい!』大賞2009年、第7回優秀賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 類似する設定である湊かなえの『告白』に僅かに先を越されたため割りを喰らった、隠れた佳作。地味で小品の印象は拭えないが、その完成度はデビュー作とは思えないです。多視点で事件の概要に様々な角度からスポットを当て、その裏に隠された人間関係や奸計を徐々に暴いていきます。 被害者は毒殺、加害者も既に冒頭で明らかにされており、これ以上何を探っていくのだろうかと半信半疑で読み進めていくうちに、次第に靄が晴れる様に色々な事実が見えてきます。その過程がサスペンスフルに描かれており、読みどころともなっています。表面に見えている事件の様相とはまた別に、誰がどんな思惑を抱えていたのか、或いは誰が誰に対してどのような感情を抱いていたのかなどが描かれると同時に、真相が浮き彫りにされる仕組みになっています。 派手なサプライズなどはありませんが、伏線もしっかり張られていて最後には見事に回収されます。ジャンルはサスペンスになると思いますが、ミステリとしても見るべきところは大いにある作品ではないでしょうか。個人的には優秀賞ではなく大賞でも決しておかしくはなかったと思います。まあしかし、『このミス』ですから、あまりに真面過ぎたのかも知れませんね。 |
No.1009 | 6点 | 紗央里ちゃんの家- 矢部嵩 | 2019/10/26 22:37 |
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叔母からの突然の電話で、祖母が風邪をこじらせて死んだと知らされた。小学五年生の僕と父親を家に招き入れた叔母の腕もエプロンも真っ赤に染まり、変な臭いが充満していて、叔母夫婦に対する疑念は高まるけれど、急にいなくなったという従姉の紗央里ちゃんのことも、何を訊いてもはぐらかされるばかり。洗面所の床から、ひからびた指の欠片を見つけた僕は、こっそり捜索をはじめるが…。第13回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 異常な者の視点から観察した異常な人々と状況。これが新しいのではないかと思います。一見なぜこの作品がホラー小説大賞を受賞できたのか、疑問に思う方も多いでしょうが、その要因は上記に挙げた一点に尽きると考えます。 文章は敢えて稚拙に書かれていますが、それは小学五年生の主人公の一人称によるものだからで、作者は決して文章力のない人ではないと思います。 おそらく、一読後何だこれは?と疑問に感じると言うか、なぜこんなものを読まされなければいけないのだと、まあ大袈裟に言えばそう思う人も少なからずおられることでしょう。でもね、これは狂気なんですよ。決して悪ふざけしている訳ではなく、ちゃんと真面目に書かれています。選考委員の審美眼が間違っているとは私は思いませんね。ただ世評が低いのは認めます。少数派の人間にしか分かり得ないものが内包されているのかも知れません。だから、万人に受ける作品でないことは確か、それで良いんじゃないでしょうかねえ。 「僕」も異常、お父さんも異常、叔父さんも異常、叔母さんも超異常、姉も異常。拠ってホラーだと分かって読んでも普通の感覚では付いて行けないかも知れません。しかし終盤でのお父さんの心の底からの告白は、どこか分かる気がするのは自分だけではないと思います。誰しもが少しは感覚としてどこかに隠し持っている物じゃないかという気がします。あなたも私も普通だと思って生きているかもしれませんが、多分普通じゃないんですよ。完全な人間なんていませんからね。 ところで、この無茶苦茶なストーリーには読者まかせの部分もありますが、きっちりオチはありますので、念のため。 |
No.1008 | 6点 | 群衆リドル Yの悲劇 '93- 古野まほろ | 2019/10/24 22:41 |
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浪人生の渡辺夕佳の元に届いた、壮麗な西洋館への招待状。恋人で天才ピアニストの、イエ先輩こと八重洲家康と訪れた『夢路邸』には、謎を秘めた招待客が集まっていた。そこに突如現れた能面の鬼女が、彼らの過去の罪を告発し、連続殺人の幕が切って落とされる。孤立した館に渦巻く恐怖と疑心。夕佳とイエ先輩は、『マイ・フェア・レイディ』の殺意に立ちむかうことができるか!?
『BOOK』データベースより。 その昔、書店にまだ著者の作品が並んでいた頃、「天帝シリーズ」のいずれかの1ページ目を「見た」だけで自分には絶対最後まで読み切れないと思い、それ以来この人の作品を敬遠してきました。何年か前にある人に薦められて他の作品を読んでみたら、ごく普通の文体だったので安心しました。しかし、以降もあまり興味を惹かれませんでしたが、最近になってちょっと気になりだし再挑戦してみました。 まほろと言えば、過激な発言でネットを炎上させて以来、レビュワーから読者を舐めるなとばかりにAmazonで散々叩かれており、その為公正な評価が下されているのかどうかはっきりせず、困惑しています。特に例の「天帝シリーズ」はやはり敷居が高く、今後読んでみようか迷っていますが、慣れるまでが大変だろうなとか、長すぎて途中で挫折しないかとか、心配事が多くなかなか踏み切れないでいる私です。 さて前置きが長くなりましたが、本作、結構魅力的な舞台設定と本格のガジェットが満載で楽しませてくれます。まあ小ネタの積み重ねと言えなくもないので、スケールの大きさは感じませんが、本格に拘り通した作者の姿勢は大いに買えます。 動機は必ずしも納得出来るとは言えませんし、ご都合主義の面も否めません。それに○○が出てくるのは反則でしょう。それ以外はコード型のミステリであり、突飛な発想や意外な犯人、どんでん返しなどは期待しないほうが賢明です。 |
No.1007 | 7点 | ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔- 京極夏彦 | 2019/10/21 22:40 |
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少女達を襲ったおぞましい事件から3カ月が経った―。前回の事件の被害者・来生律子のもとを、謎の毒を持った作倉雛子が訪ねてくる。彼女は小壜を律子に託し姿を消す。未知なる毒の到来は、新たなる事件の前触れなのか!?突如凶暴化する児童達。未登録住民の暴動。忌まわしき過去の事件を巡る、妄執と狂気と陰謀。すべての謎が繋がるとき、少女達は新たなる扉を開く!戦慄の近未来ミステリ。
『BOOK』データベースより。 読んでも読んでも一向に話が見えて来ない。丁度半分辺りで漸くおぼろげながら徐々にその全容を現し始めます。中盤までどの辺りに焦点を置いているのかがはっきりしないので、それなりに読むのに忍耐が必要となりました。結構長いですしね。 構造としては京極堂シリーズを近未来(2035年)に移し、主人公を少女たちに置き換えた感じだと思います。最終的には重要人物の少女の一人都築美緒が「あたしは説明が苦手なんだ」とか言いながら、京極堂の役割を果たし延々と事件のあらましを説明します。役どころとしてはどう考えても榎木津なんですけどね。尚、私が想像していたようなバトルやアクションはほとんど見られません。 予想していたよりもかなり本格ミステリ色が濃いです、設定はSFで物語はファンタジーなんですが、核となる陰謀がいかにも京極らしく、ラノベとは一線を画す作品となっています。SFだろうが何だろうが、文体はいかにもな京極節が炸裂します。そして何と言ってもクライマックスシーンの比類なき疾走感は凄まじく、流石に読ませるなあと感心することしきり。序盤では何度か断念しようかと思いましたが、結局読了出来たというか最後まで引っ張られた感じでした。それだけの筆力を備えている故だと思います。 |
No.1006 | 6点 | 夫の骨- 矢樹純 | 2019/10/16 22:47 |
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昨年、夫の孝之が事故死した。まるで二年前に他界した義母佳子の魂の緒に搦め捕られたように。血縁のない母を「佳子さん」と呼び、他人行儀な態度を崩さなかった夫。その遺品を整理するうち、私は小さな桐箱の中に乳児の骨を見つける。夫の死は本当に事故だったのか、その骨は誰の子のものなのか。猜疑心に囚われた私は…(『夫の骨』)。家族の“軋み”を鋭く捉えた九編。
『BOOK』データベースより。 サスペンスとして登録されていますが、もう本格ミステリで良いんじゃないでしょうか。何しろ『イニシエーションラブ』が本格扱いされている訳ですから、本作は超本格ってことになりませんかね。 どれもこれも○○を前提として書かれているので、その意味では確かになるほどと思いますが、どうも構成や文章に問題がありそうな気がしますね。時系列がバラバラでいきなり場面が切り替わり、一瞬?となる個所が幾つもありました。登場人物が限られている中で、しかも短編なのにこれはどうかと思います。そして本職ではないにしても、プロの作家としてこの表現はどうなのとか、語彙のチョイスがちょっと違うのではとか、単に私には文体が合わなかっただけなのかも知れませんが。折角のアイディアの良さが半減しているのでは、と思います。 まあそうは言っても、多分老若男女広く受け入れられる作品なのは間違いないでしょう。私のイチオシは表題作。ミスリードはミエミエですが、意外すぎる結末に驚きを隠せません。これは想定外でしたね。他の作品も粒揃いですが、確かに一気読みすると混乱するかもしれません。 |
No.1005 | 6点 | 国語入試問題必勝法- 清水義範 | 2019/10/14 22:18 |
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ピントが外れている文章こそ正解! 問題を読まないでも答はわかる!? 国語が苦手な受験生に家庭教師が伝授する解答術は意表を突く秘技。国語教育と受験技術に対する鋭い諷刺を優しい心で包み、知的な爆笑を引き起こすアイデアにあふれたとてつもない小説集。吉川英治文学新人賞受賞作。
Amazon内容紹介より。 ミステリと言えばミステリだし、そうでないと言えばそうでない、何とも不思議な短編集。 『猿蟹合戦とは何か』『国語入試問題必勝法』を読んだ時点で、ちょっとだけ賢くなったような気分になりました。『猿蟹・・・』のこじ付けっぽくもそれなりに説得力のある新解釈、『国語・・・』の選択問題に対する解答法の斜めから切り込むアプローチはなるほどと唸らされ、知的な読み物として納得の出来栄えだと思います。 他にも認知症の怖さを笑いに変えるシニカルな『靄の中の終章』、懐かしさと郷愁を誘う、個人的ベスト『時代食堂の特別料理』、リレー小説を作中作として取り込んだ新たな試みが笑える『人間の風景』など、バラエティに富んだ内容となっています。 まあ表題作は洒落としても、全般的に十分楽しめる作品集です。でも受験生のみなさんは参考書や戦略本と勘違いしないようにお願いします。ただの小説であり、そういう考え方もありますよといった程度に留めておいて下さい、と作者は訴えております。 |
No.1004 | 5点 | NECK- 舞城王太郎 | 2019/10/11 22:27 |
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首で分断された想像力が、お化けを作りだすんやで―幼少体験をもとにした「ネック理論」の真実。首から下を埋められた三人の、地獄の一日。山奥に潜む恐怖の首物語。首の長い女の子が巻き込まれた殺人事件…映画原案、舞台原作、そして書下ろしを含めた、4つの「ネック=首」の物語。
『BOOK』データベースより。 第一話の書下ろしはそれなりにミステリらしい仕上がりにはなっています。しかしそこは舞城、一筋縄ではいきません。設定が異様な上に、ホラーなのかSFなのか分類不能な、異色の世界観を醸し出しています。既視感を覚えるトリックは独創的とは言い難いですが、ある作品を上手く「リサイクル」して変形させていますね。 それ以外の三短篇は脚本なので、どう評価して良いものやらといった感じです。ただ、第二話はほぼ全頁、第三話は随所に作画を施して、その素養もありますよってのをアピールしています。上手いか下手かは別として迫力は間違いなくあると思います。でもこの三作品だけ並んでいたら、ジャンルはホラーですが、さぞかし業腹だったのではないかと。それは最早舞城王太郎の余程のフリークのためだけに存在していると言っても過言ではないでしょう。どこが面白いんだかよく理解できませんでした。よってこの5点は第一話にのみ捧げられたものと考えて頂いて差し支えありません。 |
No.1003 | 6点 | 嫌われ松子の一生- 山田宗樹 | 2019/10/08 22:22 |
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三十年前、松子二十四歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。
『BOOK』データベースより。 読む前は何らかの理由で嫌われるようになった松子の、幼少期からその命を終えるまでが描かれているのだと思っていましたが違いました。中学校の教師時代から始まり、50代になった松子が惨殺されるまでが群を抜くリーダビリティで描かれています。数々の男たちに翻弄され、流転し、堕ちていく姿が生々しく悲惨な人生。ツイていないのもありますが、悉く男を見る目がなく、自ら身体を許してしまったりもしており、流されていく一生は目まぐるしく感情移入の余地はありません。 ただその最期だけはあまりに不条理で悲惨です。 今で言えばいわゆるイヤミスの部類に入ると思いますが、まあミステリのようなもの、ですので、その意味では期待できませんが、あまり深く考えずあくまでエンターテインメントとして楽しむのが正しいのかなと感じます。 随分前から気になっていた作品だったので、今回読めたのは良かったですが、若干えぐみが足りなかった感触でした。かと言って決して薄味ではないのです、内容としては十分映画化やドラマ化に耐え得るものでしょう、実際そうなっていますし。ちょっと下世話な不幸話が好きな日本人には持って来いの素材だとは言えそうですね。 |
No.1002 | 5点 | 廃流- 斎藤肇 | 2019/10/05 22:48 |
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若い女性の髪、脚、腕などが何者かによって切り取られる怪事件が街を襲う。いびつな夢だ。甘く歪んだ夢だ。
『BOOK』データベースより。 まるで出来損ないのB級ホラー映画を観ているよう。 この人こんな文章下手だっけと思いながら読みました。会話文が少ないせいもあって、箇条書きのような文体で全然心に響いてこない、右から左へ流れ去って行って全く印象に残らない感じです。特に第5章までは結構退屈でした。 第6章からやっと本領を発揮して、なかなかの迫力でパニック小説の体を成してきます。ただ思うんですが、このホラー小説には思想や哲学といったものが欠けているんですよね。単に事象だけを淡々と描写しているだけで、作者の意志というか意図が伝わってこないわけですよ。だから面白くないんでしょう。 前半3点、終盤7点、均して5点としましたが、作者はもう少し信念を持って描いて欲しかったし、それなりの材料は揃っているのに、肝心の料理が下手だったみたいな感じで勿体なかったなと思いました。 タイトルと中身がなんとなくそぐわない気もしましたね。 |
No.1001 | 7点 | とらわれびと- 浦賀和宏 | 2019/10/03 22:47 |
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大学構内で発生した連続殺人。被害者はみな男性で、腹を切り裂かれて殺されていた。犯人を捜していた被害者の姉は、「妊娠」した男が次々と失踪するという奇妙な事件に出くわす。非日常の犯罪は「笑わない男」の指摘で予想もせぬ真相を明らかにする。圧倒的眩暈感!鬼才、浦賀がついに恐るべき真の姿を現した。
『BOOK』データベースより。 これですよ、これこれ、私が浦賀和宏に求めていたものは。誰も扱わないような案件をミステリとして昇華しようとする姿勢は流石だと思います。しかし、好みが分かれるだろうなあ。私の様に諸手を挙げて喜ぶ者もいれば、何これ?と足蹴にする方もおられるでしょう。本格ミステリだけど半分は壊れた人々の物語ですからね、後味も宜しくないですし。でもそれが作家浦賀和宏だから仕方ないです。 もう冒頭から萩原良二を登場させた時点で、期待度マックスですわ。内容はそれに見合った異様な事件の連続で、しかも安藤直樹の周りの人間が関わっているため興味は尽きません。ただ、ツッコミどころを論えばいくらでも出来るのですが、そんな些細なことを気にしなければ、きっと誰もが楽しめると思います。まあ、シリーズを順に読んでいる方がより満喫できますけどね。 一番瑕疵となりそうなのは安藤、金田、飯島の三人の父親に関する記述で曖昧な部分があったことですね。あと、安藤直樹はほとんど出てきません。しかし、そこはそれキッチリと役割は果たしますよ。しかし作家という職業に人は色々考えますね。ちょっとごちゃごちゃした感じは否めませんが、らしさはよく顕れていて出色の出来だと思います。 |
No.1000 | 7点 | ヒト夜の永い夢- 柴田勝家 | 2019/09/30 22:48 |
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昭和2年。稀代の博物学者である南方熊楠のもとへ、超心理学者の福来友吉が訪れる。福来の誘いで学者たちの秘密団体「昭和考幽学会」へと加わった熊楠は、そこで新天皇即位の記念行事のため思考する自動人形を作ることに。粘菌コンピュータにより完成したその少女は天皇機関と名付けられるが―時代を築いた名士たちの知と因果が二・二六の帝都大混乱へと導かれていく、夢と現実の交わる日本を描いた一大昭和伝奇ロマン。
『BOOK』データベースより。 南方熊楠と愉快な仲間たちが天皇機関という、自らの意志を持ち人間すら超える脳髄を有する少女人形を陛下にお披露目すべく奮闘する物語。 シリアスな面とコミカルな面が絶妙にマッチした筆致は素晴らしく、一種酩酊するような夢の世界へと導いてくれます。個人的には第一部が最もワクワクしました。第三部では天皇機関対○○○という図式が完成しますが、あっさり片が付きすぎて拍子抜けでした。もう少し盛り上げても良かったのではないかと思いますが。で、結局オチはそれかいって感じですが、全般的に読み応えのある佳作ではないでしょうか。 【ネタバレ】 主な著名登場人物は熊楠始め、千里眼事件の福来友吉、宮沢賢治、平井太郎(江戸川乱歩)、佐藤春夫、西村真琴、岡崎邦輔、堀川辰吉郎、岩田準一、北一輝など。 特に宮沢賢治と南方熊楠の邂逅が印象に残ります。凄く素敵なエピソードだったと思いますね。勿論重要なシーンでもあります。 |
No.999 | 5点 | 日本探偵小説全集(4)夢野久作集- 夢野久作 | 2019/09/26 22:14 |
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掌編、中編、長編の三作で構成された作品集。
『瓶詰の地獄』 短いながらある禁忌をテーマに掲げた、暗示に満ちた作品だと思います。なかなか面白い構成で、まあまあの印象ですかね。 『氷の涯』 正直読み難過ぎて内容が全く頭に入ってこなかったことしか、印象にありません。いつの間にか十五万円事件が起こっていて、主人公が推理を巡らしますが、これも想像レベルで、伏線を回収して真相を解明するといった本格物と考えると裏切られます。 『ドグラ・マグラ』 勿論これがメインですね。意を決して再チャレンジを試みましたが、やっぱり返り討ちって感じです。考えない脳髄、胎児の夢など興味深く読みましたが、事件のあらましを辿る辺りは退屈で仕方ありませんでした。 最後まで読んでも果たして自分の解釈が正しいのかどうか判然としません。まあ私ごときが一度や二度読んだくらいで十全に理解できてしまったら、奇書とは呼べないでしょう。 根幹と言うか本質は意外と単純だったのかもしれませんが、後付けで様々な要素を盛って盛って、そこに枝葉が勝手に広がって複雑怪奇なカオスを生み出したような印象を受けました。怪奇幻想精神科学小説とでも呼べば良いのか、それすら判りませんが、好きな人は大好きなんでしょうし、興味本位で読もうとする人は結構な確率で挫折するんでしょう。そんな小説です。 |
No.998 | 6点 | 探偵はぼっちじゃない- 坪田侑也 | 2019/09/17 22:17 |
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緑川光毅は中学3年生。受験生なりに楽しく学校生活を謳歌していた。しかし、心の底では満たされない思いが、ゆっくりと魂を食い荒らしてゆく…そんなとき、ふいに同級生の星野温が声をかけてきた。「一緒に探偵小説を書こう」。新任教師の原口は、理事長の息子という立場を持てあましながらも「よき教師」であろうと日々奮闘していた。ある日、自殺サイトに自校の生徒が出入りしていることを知り、それが誰かを突き止めて救おうとするが…。それぞれの屈託多き日々に降りかかった「謎」が出会ったとき、何が起こるのか。第21回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 作者は15歳でこの作品を描いたというが、こっちはそんなこと関係ない。何しろ身銭を切って本を買っているのだから。と云う目線で読みましたが、文章がこなれていない、稚拙さを感じるなどを除けばまあ合格点なんだろうなと思います。 プロットなどは折原一を彷彿とさせます。ただ、緑川の書いた作中作がかなりショボいのが気になりました。そして、新しさを感じさせないのは致命的かと。主人公が中学3年生で、作者がこれを書いたのも同じ年齢ということで、若い感性は十分に伝わってきますが、一方教師二人の描写にはやはり無理があるような気がします。 全体的に展開がスローで、なかなか本題に入らないのにはイライラしました。50ページ、つまり星野が登場するところから次第に面白くなってはきますが、サスペンスフルとは言い難く、甘目に採点してこの点数に。 しかし、本編よりあとがきのほうがよく書けていたのには苦笑を禁じ得ませんでしたね。 |
No.997 | 6点 | 彼岸の奴隷- 小川勝己 | 2019/09/14 22:51 |
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首を切り落とされた女の死体が発見された。捜査一課の蒲生巡査部長は、所轄の和泉と組み、捜査を始める。だが、事件が和泉の過去に関係していて…。愛情を込めた殺意がいま、暴発する!狂気のクライムノベル登場!横溝正史賞受賞第一作。
『BOOK』データベースより。 冒頭こそ普通のミステリかと思いましたが、この作品に普通の感覚など通用しません。ほぼ全編エログロとバイオレンスのオンパレード。これはなかなかですよ。刑事もヤクザも男も女も誰も彼もが狂っています。そちら方面が苦手な読者は注意が必要です。逆にエログロ、バイオレンスをこよなく愛する人には必須アイテムですね。特に鬼畜系やカニバリズム愛好家(いないだろうけど)にとってはこれ以上ない逸品と言えそうです。 内容の割にはリーダビリティに優れており、サクサク読めます。ただ耐性のない人は途中で挫折するか気分が悪くなるかもしれません。私は面白く読めましたけど。 頭部と手首が切断された理由は、イカレた人間が犯人なので驚くようなものではありません。しかし、ミステリとしてプロットがなかなか良く出来ていて、こんな小説にこんなトリックが?と思うような手法が隠されており、流石横溝正史賞受賞者だけのことはあるなと感じました。まあ、強烈な読書体験は出来ますよ。読まないほうが身の為と云う気もしますけどね。 |
No.996 | 6点 | 海野十三全集 第2巻 俘囚- 海野十三 | 2019/09/11 22:27 |
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日本SFの始祖の一人と言われる海野十三の作品集。
その昔、何かの本(アンソロジー)で『振動魔』を読んで痛く感銘を受けた記憶が今でも生々しく、この度本作品集を手に取ってみた次第です。ごつい箱入り、パラフィン紙にくるまれたハードカバー、11ページに亘る高橋康雄による『海野十三と「新青年」』の解説小冊子付きの謹製版。 SFにしようか本格にしようか迷った挙句、どちらかと言えばミステリの色が濃いと思われたので本格に一票投じました。しかし、やはり全体を通してSFの要素が強く感じられ、来歴によるものと思いますが、多くが化学あるいは科学、医学といったギミックがトリックに採用されています。 個人的には『俘囚』『三人の双生児』がツートップで、さらに『赤外線男』を加えたこれらの作品は、後世の作家たちに少なからず影響を与えたのではないかと、勝手に想像しています。京極夏彦の代表作や鮎川哲也の有名作には明らかにその傾向が見られます。1930年代にこのような奇想を湛えた諸作が存在したこと自体驚きですが、日本人ならではの気質のようなものが大いに関係しているのではないかと感じました。本来日本人にはこうしたある種変態的な嗜好があったと思われ、それはその後のミステリ作家に脈々と受け継がれ、さらに手の込んだ同じ傾向の作品が現在でも時々生まれているようです。 私はことミステリ文化に関してだけは、日本に生まれてよかったと心から思っています。何故なら日本のミステリが世界一だと勝手に信じているから。 本作品集を読むにつけ、それを痛感します。 |