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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1009 6点 紗央里ちゃんの家- 矢部嵩 2019/10/26 22:37
叔母からの突然の電話で、祖母が風邪をこじらせて死んだと知らされた。小学五年生の僕と父親を家に招き入れた叔母の腕もエプロンも真っ赤に染まり、変な臭いが充満していて、叔母夫婦に対する疑念は高まるけれど、急にいなくなったという従姉の紗央里ちゃんのことも、何を訊いてもはぐらかされるばかり。洗面所の床から、ひからびた指の欠片を見つけた僕は、こっそり捜索をはじめるが…。第13回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

異常な者の視点から観察した異常な人々と状況。これが新しいのではないかと思います。一見なぜこの作品がホラー小説大賞を受賞できたのか、疑問に思う方も多いでしょうが、その要因は上記に挙げた一点に尽きると考えます。
文章は敢えて稚拙に書かれていますが、それは小学五年生の主人公の一人称によるものだからで、作者は決して文章力のない人ではないと思います。
おそらく、一読後何だこれは?と疑問に感じると言うか、なぜこんなものを読まされなければいけないのだと、まあ大袈裟に言えばそう思う人も少なからずおられることでしょう。でもね、これは狂気なんですよ。決して悪ふざけしている訳ではなく、ちゃんと真面目に書かれています。選考委員の審美眼が間違っているとは私は思いませんね。ただ世評が低いのは認めます。少数派の人間にしか分かり得ないものが内包されているのかも知れません。だから、万人に受ける作品でないことは確か、それで良いんじゃないでしょうかねえ。

「僕」も異常、お父さんも異常、叔父さんも異常、叔母さんも超異常、姉も異常。拠ってホラーだと分かって読んでも普通の感覚では付いて行けないかも知れません。しかし終盤でのお父さんの心の底からの告白は、どこか分かる気がするのは自分だけではないと思います。誰しもが少しは感覚としてどこかに隠し持っている物じゃないかという気がします。あなたも私も普通だと思って生きているかもしれませんが、多分普通じゃないんですよ。完全な人間なんていませんからね。
ところで、この無茶苦茶なストーリーには読者まかせの部分もありますが、きっちりオチはありますので、念のため。

No.1008 6点 群衆リドル Yの悲劇 '93- 古野まほろ 2019/10/24 22:41
浪人生の渡辺夕佳の元に届いた、壮麗な西洋館への招待状。恋人で天才ピアニストの、イエ先輩こと八重洲家康と訪れた『夢路邸』には、謎を秘めた招待客が集まっていた。そこに突如現れた能面の鬼女が、彼らの過去の罪を告発し、連続殺人の幕が切って落とされる。孤立した館に渦巻く恐怖と疑心。夕佳とイエ先輩は、『マイ・フェア・レイディ』の殺意に立ちむかうことができるか!?
『BOOK』データベースより。

その昔、書店にまだ著者の作品が並んでいた頃、「天帝シリーズ」のいずれかの1ページ目を「見た」だけで自分には絶対最後まで読み切れないと思い、それ以来この人の作品を敬遠してきました。何年か前にある人に薦められて他の作品を読んでみたら、ごく普通の文体だったので安心しました。しかし、以降もあまり興味を惹かれませんでしたが、最近になってちょっと気になりだし再挑戦してみました。
まほろと言えば、過激な発言でネットを炎上させて以来、レビュワーから読者を舐めるなとばかりにAmazonで散々叩かれており、その為公正な評価が下されているのかどうかはっきりせず、困惑しています。特に例の「天帝シリーズ」はやはり敷居が高く、今後読んでみようか迷っていますが、慣れるまでが大変だろうなとか、長すぎて途中で挫折しないかとか、心配事が多くなかなか踏み切れないでいる私です。

さて前置きが長くなりましたが、本作、結構魅力的な舞台設定と本格のガジェットが満載で楽しませてくれます。まあ小ネタの積み重ねと言えなくもないので、スケールの大きさは感じませんが、本格に拘り通した作者の姿勢は大いに買えます。
動機は必ずしも納得出来るとは言えませんし、ご都合主義の面も否めません。それに○○が出てくるのは反則でしょう。それ以外はコード型のミステリであり、突飛な発想や意外な犯人、どんでん返しなどは期待しないほうが賢明です。

No.1007 7点 ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔- 京極夏彦 2019/10/21 22:40
少女達を襲ったおぞましい事件から3カ月が経った―。前回の事件の被害者・来生律子のもとを、謎の毒を持った作倉雛子が訪ねてくる。彼女は小壜を律子に託し姿を消す。未知なる毒の到来は、新たなる事件の前触れなのか!?突如凶暴化する児童達。未登録住民の暴動。忌まわしき過去の事件を巡る、妄執と狂気と陰謀。すべての謎が繋がるとき、少女達は新たなる扉を開く!戦慄の近未来ミステリ。
『BOOK』データベースより。

読んでも読んでも一向に話が見えて来ない。丁度半分辺りで漸くおぼろげながら徐々にその全容を現し始めます。中盤までどの辺りに焦点を置いているのかがはっきりしないので、それなりに読むのに忍耐が必要となりました。結構長いですしね。
構造としては京極堂シリーズを近未来(2035年)に移し、主人公を少女たちに置き換えた感じだと思います。最終的には重要人物の少女の一人都築美緒が「あたしは説明が苦手なんだ」とか言いながら、京極堂の役割を果たし延々と事件のあらましを説明します。役どころとしてはどう考えても榎木津なんですけどね。尚、私が想像していたようなバトルやアクションはほとんど見られません。

予想していたよりもかなり本格ミステリ色が濃いです、設定はSFで物語はファンタジーなんですが、核となる陰謀がいかにも京極らしく、ラノベとは一線を画す作品となっています。SFだろうが何だろうが、文体はいかにもな京極節が炸裂します。そして何と言ってもクライマックスシーンの比類なき疾走感は凄まじく、流石に読ませるなあと感心することしきり。序盤では何度か断念しようかと思いましたが、結局読了出来たというか最後まで引っ張られた感じでした。それだけの筆力を備えている故だと思います。

No.1006 6点 夫の骨- 矢樹純 2019/10/16 22:47
昨年、夫の孝之が事故死した。まるで二年前に他界した義母佳子の魂の緒に搦め捕られたように。血縁のない母を「佳子さん」と呼び、他人行儀な態度を崩さなかった夫。その遺品を整理するうち、私は小さな桐箱の中に乳児の骨を見つける。夫の死は本当に事故だったのか、その骨は誰の子のものなのか。猜疑心に囚われた私は…(『夫の骨』)。家族の“軋み”を鋭く捉えた九編。
『BOOK』データベースより。

サスペンスとして登録されていますが、もう本格ミステリで良いんじゃないでしょうか。何しろ『イニシエーションラブ』が本格扱いされている訳ですから、本作は超本格ってことになりませんかね。
どれもこれも○○を前提として書かれているので、その意味では確かになるほどと思いますが、どうも構成や文章に問題がありそうな気がしますね。時系列がバラバラでいきなり場面が切り替わり、一瞬?となる個所が幾つもありました。登場人物が限られている中で、しかも短編なのにこれはどうかと思います。そして本職ではないにしても、プロの作家としてこの表現はどうなのとか、語彙のチョイスがちょっと違うのではとか、単に私には文体が合わなかっただけなのかも知れませんが。折角のアイディアの良さが半減しているのでは、と思います。

まあそうは言っても、多分老若男女広く受け入れられる作品なのは間違いないでしょう。私のイチオシは表題作。ミスリードはミエミエですが、意外すぎる結末に驚きを隠せません。これは想定外でしたね。他の作品も粒揃いですが、確かに一気読みすると混乱するかもしれません。

No.1005 6点 国語入試問題必勝法- 清水義範 2019/10/14 22:18
ピントが外れている文章こそ正解! 問題を読まないでも答はわかる!? 国語が苦手な受験生に家庭教師が伝授する解答術は意表を突く秘技。国語教育と受験技術に対する鋭い諷刺を優しい心で包み、知的な爆笑を引き起こすアイデアにあふれたとてつもない小説集。吉川英治文学新人賞受賞作。
Amazon内容紹介より。

ミステリと言えばミステリだし、そうでないと言えばそうでない、何とも不思議な短編集。
『猿蟹合戦とは何か』『国語入試問題必勝法』を読んだ時点で、ちょっとだけ賢くなったような気分になりました。『猿蟹・・・』のこじ付けっぽくもそれなりに説得力のある新解釈、『国語・・・』の選択問題に対する解答法の斜めから切り込むアプローチはなるほどと唸らされ、知的な読み物として納得の出来栄えだと思います。
他にも認知症の怖さを笑いに変えるシニカルな『靄の中の終章』、懐かしさと郷愁を誘う、個人的ベスト『時代食堂の特別料理』、リレー小説を作中作として取り込んだ新たな試みが笑える『人間の風景』など、バラエティに富んだ内容となっています。
まあ表題作は洒落としても、全般的に十分楽しめる作品集です。でも受験生のみなさんは参考書や戦略本と勘違いしないようにお願いします。ただの小説であり、そういう考え方もありますよといった程度に留めておいて下さい、と作者は訴えております。

No.1004 5点 NECK- 舞城王太郎 2019/10/11 22:27
首で分断された想像力が、お化けを作りだすんやで―幼少体験をもとにした「ネック理論」の真実。首から下を埋められた三人の、地獄の一日。山奥に潜む恐怖の首物語。首の長い女の子が巻き込まれた殺人事件…映画原案、舞台原作、そして書下ろしを含めた、4つの「ネック=首」の物語。
『BOOK』データベースより。

第一話の書下ろしはそれなりにミステリらしい仕上がりにはなっています。しかしそこは舞城、一筋縄ではいきません。設定が異様な上に、ホラーなのかSFなのか分類不能な、異色の世界観を醸し出しています。既視感を覚えるトリックは独創的とは言い難いですが、ある作品を上手く「リサイクル」して変形させていますね。
それ以外の三短篇は脚本なので、どう評価して良いものやらといった感じです。ただ、第二話はほぼ全頁、第三話は随所に作画を施して、その素養もありますよってのをアピールしています。上手いか下手かは別として迫力は間違いなくあると思います。でもこの三作品だけ並んでいたら、ジャンルはホラーですが、さぞかし業腹だったのではないかと。それは最早舞城王太郎の余程のフリークのためだけに存在していると言っても過言ではないでしょう。どこが面白いんだかよく理解できませんでした。よってこの5点は第一話にのみ捧げられたものと考えて頂いて差し支えありません。

No.1003 6点 嫌われ松子の一生- 山田宗樹 2019/10/08 22:22
三十年前、松子二十四歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。
『BOOK』データベースより。

読む前は何らかの理由で嫌われるようになった松子の、幼少期からその命を終えるまでが描かれているのだと思っていましたが違いました。中学校の教師時代から始まり、50代になった松子が惨殺されるまでが群を抜くリーダビリティで描かれています。数々の男たちに翻弄され、流転し、堕ちていく姿が生々しく悲惨な人生。ツイていないのもありますが、悉く男を見る目がなく、自ら身体を許してしまったりもしており、流されていく一生は目まぐるしく感情移入の余地はありません。
ただその最期だけはあまりに不条理で悲惨です。
今で言えばいわゆるイヤミスの部類に入ると思いますが、まあミステリのようなもの、ですので、その意味では期待できませんが、あまり深く考えずあくまでエンターテインメントとして楽しむのが正しいのかなと感じます。

随分前から気になっていた作品だったので、今回読めたのは良かったですが、若干えぐみが足りなかった感触でした。かと言って決して薄味ではないのです、内容としては十分映画化やドラマ化に耐え得るものでしょう、実際そうなっていますし。ちょっと下世話な不幸話が好きな日本人には持って来いの素材だとは言えそうですね。

No.1002 5点 廃流- 斎藤肇 2019/10/05 22:48
若い女性の髪、脚、腕などが何者かによって切り取られる怪事件が街を襲う。いびつな夢だ。甘く歪んだ夢だ。
『BOOK』データベースより。

まるで出来損ないのB級ホラー映画を観ているよう。
この人こんな文章下手だっけと思いながら読みました。会話文が少ないせいもあって、箇条書きのような文体で全然心に響いてこない、右から左へ流れ去って行って全く印象に残らない感じです。特に第5章までは結構退屈でした。
第6章からやっと本領を発揮して、なかなかの迫力でパニック小説の体を成してきます。ただ思うんですが、このホラー小説には思想や哲学といったものが欠けているんですよね。単に事象だけを淡々と描写しているだけで、作者の意志というか意図が伝わってこないわけですよ。だから面白くないんでしょう。

前半3点、終盤7点、均して5点としましたが、作者はもう少し信念を持って描いて欲しかったし、それなりの材料は揃っているのに、肝心の料理が下手だったみたいな感じで勿体なかったなと思いました。
タイトルと中身がなんとなくそぐわない気もしましたね。

No.1001 7点 とらわれびと- 浦賀和宏 2019/10/03 22:47
大学構内で発生した連続殺人。被害者はみな男性で、腹を切り裂かれて殺されていた。犯人を捜していた被害者の姉は、「妊娠」した男が次々と失踪するという奇妙な事件に出くわす。非日常の犯罪は「笑わない男」の指摘で予想もせぬ真相を明らかにする。圧倒的眩暈感!鬼才、浦賀がついに恐るべき真の姿を現した。
『BOOK』データベースより。

これですよ、これこれ、私が浦賀和宏に求めていたものは。誰も扱わないような案件をミステリとして昇華しようとする姿勢は流石だと思います。しかし、好みが分かれるだろうなあ。私の様に諸手を挙げて喜ぶ者もいれば、何これ?と足蹴にする方もおられるでしょう。本格ミステリだけど半分は壊れた人々の物語ですからね、後味も宜しくないですし。でもそれが作家浦賀和宏だから仕方ないです。

もう冒頭から萩原良二を登場させた時点で、期待度マックスですわ。内容はそれに見合った異様な事件の連続で、しかも安藤直樹の周りの人間が関わっているため興味は尽きません。ただ、ツッコミどころを論えばいくらでも出来るのですが、そんな些細なことを気にしなければ、きっと誰もが楽しめると思います。まあ、シリーズを順に読んでいる方がより満喫できますけどね。
一番瑕疵となりそうなのは安藤、金田、飯島の三人の父親に関する記述で曖昧な部分があったことですね。あと、安藤直樹はほとんど出てきません。しかし、そこはそれキッチリと役割は果たしますよ。しかし作家という職業に人は色々考えますね。ちょっとごちゃごちゃした感じは否めませんが、らしさはよく顕れていて出色の出来だと思います。

No.1000 7点 ヒト夜の永い夢- 柴田勝家 2019/09/30 22:48
昭和2年。稀代の博物学者である南方熊楠のもとへ、超心理学者の福来友吉が訪れる。福来の誘いで学者たちの秘密団体「昭和考幽学会」へと加わった熊楠は、そこで新天皇即位の記念行事のため思考する自動人形を作ることに。粘菌コンピュータにより完成したその少女は天皇機関と名付けられるが―時代を築いた名士たちの知と因果が二・二六の帝都大混乱へと導かれていく、夢と現実の交わる日本を描いた一大昭和伝奇ロマン。
『BOOK』データベースより。

南方熊楠と愉快な仲間たちが天皇機関という、自らの意志を持ち人間すら超える脳髄を有する少女人形を陛下にお披露目すべく奮闘する物語。
シリアスな面とコミカルな面が絶妙にマッチした筆致は素晴らしく、一種酩酊するような夢の世界へと導いてくれます。個人的には第一部が最もワクワクしました。第三部では天皇機関対○○○という図式が完成しますが、あっさり片が付きすぎて拍子抜けでした。もう少し盛り上げても良かったのではないかと思いますが。で、結局オチはそれかいって感じですが、全般的に読み応えのある佳作ではないでしょうか。


【ネタバレ】


主な著名登場人物は熊楠始め、千里眼事件の福来友吉、宮沢賢治、平井太郎(江戸川乱歩)、佐藤春夫、西村真琴、岡崎邦輔、堀川辰吉郎、岩田準一、北一輝など。
特に宮沢賢治と南方熊楠の邂逅が印象に残ります。凄く素敵なエピソードだったと思いますね。勿論重要なシーンでもあります。

No.999 5点 日本探偵小説全集(4)夢野久作集- 夢野久作 2019/09/26 22:14
掌編、中編、長編の三作で構成された作品集。

『瓶詰の地獄』 短いながらある禁忌をテーマに掲げた、暗示に満ちた作品だと思います。なかなか面白い構成で、まあまあの印象ですかね。

『氷の涯』 正直読み難過ぎて内容が全く頭に入ってこなかったことしか、印象にありません。いつの間にか十五万円事件が起こっていて、主人公が推理を巡らしますが、これも想像レベルで、伏線を回収して真相を解明するといった本格物と考えると裏切られます。

『ドグラ・マグラ』 勿論これがメインですね。意を決して再チャレンジを試みましたが、やっぱり返り討ちって感じです。考えない脳髄、胎児の夢など興味深く読みましたが、事件のあらましを辿る辺りは退屈で仕方ありませんでした。
最後まで読んでも果たして自分の解釈が正しいのかどうか判然としません。まあ私ごときが一度や二度読んだくらいで十全に理解できてしまったら、奇書とは呼べないでしょう。
根幹と言うか本質は意外と単純だったのかもしれませんが、後付けで様々な要素を盛って盛って、そこに枝葉が勝手に広がって複雑怪奇なカオスを生み出したような印象を受けました。怪奇幻想精神科学小説とでも呼べば良いのか、それすら判りませんが、好きな人は大好きなんでしょうし、興味本位で読もうとする人は結構な確率で挫折するんでしょう。そんな小説です。

No.998 6点 探偵はぼっちじゃない- 坪田侑也 2019/09/17 22:17
緑川光毅は中学3年生。受験生なりに楽しく学校生活を謳歌していた。しかし、心の底では満たされない思いが、ゆっくりと魂を食い荒らしてゆく…そんなとき、ふいに同級生の星野温が声をかけてきた。「一緒に探偵小説を書こう」。新任教師の原口は、理事長の息子という立場を持てあましながらも「よき教師」であろうと日々奮闘していた。ある日、自殺サイトに自校の生徒が出入りしていることを知り、それが誰かを突き止めて救おうとするが…。それぞれの屈託多き日々に降りかかった「謎」が出会ったとき、何が起こるのか。第21回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

作者は15歳でこの作品を描いたというが、こっちはそんなこと関係ない。何しろ身銭を切って本を買っているのだから。と云う目線で読みましたが、文章がこなれていない、稚拙さを感じるなどを除けばまあ合格点なんだろうなと思います。
プロットなどは折原一を彷彿とさせます。ただ、緑川の書いた作中作がかなりショボいのが気になりました。そして、新しさを感じさせないのは致命的かと。主人公が中学3年生で、作者がこれを書いたのも同じ年齢ということで、若い感性は十分に伝わってきますが、一方教師二人の描写にはやはり無理があるような気がします。

全体的に展開がスローで、なかなか本題に入らないのにはイライラしました。50ページ、つまり星野が登場するところから次第に面白くなってはきますが、サスペンスフルとは言い難く、甘目に採点してこの点数に。
しかし、本編よりあとがきのほうがよく書けていたのには苦笑を禁じ得ませんでしたね。

No.997 6点 彼岸の奴隷- 小川勝己 2019/09/14 22:51
首を切り落とされた女の死体が発見された。捜査一課の蒲生巡査部長は、所轄の和泉と組み、捜査を始める。だが、事件が和泉の過去に関係していて…。愛情を込めた殺意がいま、暴発する!狂気のクライムノベル登場!横溝正史賞受賞第一作。
『BOOK』データベースより。

冒頭こそ普通のミステリかと思いましたが、この作品に普通の感覚など通用しません。ほぼ全編エログロとバイオレンスのオンパレード。これはなかなかですよ。刑事もヤクザも男も女も誰も彼もが狂っています。そちら方面が苦手な読者は注意が必要です。逆にエログロ、バイオレンスをこよなく愛する人には必須アイテムですね。特に鬼畜系やカニバリズム愛好家(いないだろうけど)にとってはこれ以上ない逸品と言えそうです。
内容の割にはリーダビリティに優れており、サクサク読めます。ただ耐性のない人は途中で挫折するか気分が悪くなるかもしれません。私は面白く読めましたけど。

頭部と手首が切断された理由は、イカレた人間が犯人なので驚くようなものではありません。しかし、ミステリとしてプロットがなかなか良く出来ていて、こんな小説にこんなトリックが?と思うような手法が隠されており、流石横溝正史賞受賞者だけのことはあるなと感じました。まあ、強烈な読書体験は出来ますよ。読まないほうが身の為と云う気もしますけどね。

No.996 6点 海野十三全集 第2巻 俘囚- 海野十三 2019/09/11 22:27
日本SFの始祖の一人と言われる海野十三の作品集。
その昔、何かの本(アンソロジー)で『振動魔』を読んで痛く感銘を受けた記憶が今でも生々しく、この度本作品集を手に取ってみた次第です。ごつい箱入り、パラフィン紙にくるまれたハードカバー、11ページに亘る高橋康雄による『海野十三と「新青年」』の解説小冊子付きの謹製版。

SFにしようか本格にしようか迷った挙句、どちらかと言えばミステリの色が濃いと思われたので本格に一票投じました。しかし、やはり全体を通してSFの要素が強く感じられ、来歴によるものと思いますが、多くが化学あるいは科学、医学といったギミックがトリックに採用されています。
個人的には『俘囚』『三人の双生児』がツートップで、さらに『赤外線男』を加えたこれらの作品は、後世の作家たちに少なからず影響を与えたのではないかと、勝手に想像しています。京極夏彦の代表作や鮎川哲也の有名作には明らかにその傾向が見られます。1930年代にこのような奇想を湛えた諸作が存在したこと自体驚きですが、日本人ならではの気質のようなものが大いに関係しているのではないかと感じました。本来日本人にはこうしたある種変態的な嗜好があったと思われ、それはその後のミステリ作家に脈々と受け継がれ、さらに手の込んだ同じ傾向の作品が現在でも時々生まれているようです。

私はことミステリ文化に関してだけは、日本に生まれてよかったと心から思っています。何故なら日本のミステリが世界一だと勝手に信じているから。
本作品集を読むにつけ、それを痛感します。

No.995 6点 ミステリなふたり- 太田忠司 2019/09/05 22:41
密室、猟奇殺人、ダイイングメッセージ、アリバイトリック、吹雪の山荘、雪上に残され途中で途切れた足跡、意外な犯人などなど、本格のガジェットをこれでもかと詰め込んだ連作短編集。さらに最終話ではこれは!と思うような仕掛けが施されています。
それぞれが程よく余計な猥雑物を排して、スマートに纏め上げており、シンプルイズベストを地で行くような好編が並びます。妻で警部補の景子が家に事件を持ち帰り、それを夫でイラストレーターの新太郎が謎を解くという図式はほぼ固定されており、探偵役はもっぱら夫のほうです。一方景子は現場で部下に対して大変手厳しい態度で接して、氷の女、鉄女などと陰で呼ばれています。その態度がどうしても好感が持てないんですよね。はっきり言ってこのような女性が上司だと萎縮してしまい、いくら警察がタテ社会と言え、反感を買い多くの敵を作る結果にしかなりません。それでいて、自分が何か手柄を立てる様な活躍をするでもなく、只々夫頼りというのがちょっと許せません。
仕事中と夫婦の時間のギャップがあり過ぎで、それがまた良いんじゃないと思えるような奇特な人間だったら7点以上だったかもしれませんが、残念ながら私はそこまで寛容な人ではありませんのでこの点数で。

でも、謎は魅力的なものばかりで素晴らしいと思います。トリックにそれ程の意外性はなく、手品のネタを明かされた時のような残念な感じは残りますけど。

No.994 5点 汎虚学研究会- 竹本健治 2019/09/02 22:16
聖ミレイユ学園で相次ぐ惨劇―ウォーレン神父は校庭で落雷に遭い焼死し、ベルイマン神父は密室と化した温室で、自然発火としか思えない焼死体で発見された。理解不能な怪事件に挑むのは「汎虚学研究会」の部員たち。だが部長だけは度々見る「狂った赤い馬」の悪夢に悩まされ、推理どころではなく…。少し浮世離れした少年少女たちが解き明かす凶々しき真相とは?
『BOOK』データベースより。

ミステリーランド叢書の一冊、『闇の中の赤い馬』に4短編をプラスした新書版、汎虚学研究会のメンバーが活躍する連作中短編集。
まあ出来としては可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。『闇の中の赤い馬』は密室物で正直バカミスの部類に入るのではないかと思います。大掛かりなトリックにはかなり無理があり、動機としても弱いと言わざるを得ません。しかし、話の端々に蘊蓄や衒学趣味が見られ、いかにも竹本らしい印象は受けます。今ではもう懐かしさすら覚えるような、不思議な感覚に陥ったりして。久しぶりの竹本作品でしたので、やや厳し目に点数は付けました。

短編はそれぞれカラーが違いますが、幻想味やホラー、何が言いたいのかちょっと分からないようなオチのない作品やら色々です。中でも進化論に関する理論は私自身疑問に思っていたことであり、その意味でやや腑に落ちたところもありました。そこは興味深く読めましたが、全体としてまあまあとしか言いようがありません。

No.993 6点 奇病探偵 眠れない夜- 牧野修 2019/08/31 22:57
気弱な青年の森田彼岸が潜り込んだJCDC―日本疾病管理予防研究所は、感染症については国内NO.1の研究所。だが所長の伊丹桜をはじめ、田崎美女らトップの研究者は、美人だがエキセントリックな言動で彼岸を圧倒する。しかも彼女たちは、さまざまな社会悪の原因となる特殊な“奇病”を追い、排除する奇病探偵でもあった!蔓延する自殺衝動、とある地域で急増するゴミ屋敷、とつぜん凶暴化する人々…。次々に研究所に持ち込まれる難事件を、田崎たちは周囲や彼岸に多大な被害を及ぼす、過激な手法で解決してゆく。だがその活躍を目にするうち、彼岸には疑問が生じる。どうして彼女たちはここまで手際よく対処できるのか。なぜ自分のような素人がこの研究所に受け入れられたのか―?やがて彼の危惧は最悪の形で具現化して…!?鬼才が描く傑作バイオニックサスペンスホラー!
『BOOK』データベースより。

六編から成る連作短編集。
勿論架空のものですが、奇病の裏に潜む特殊な病原菌の謎を追う、大袈裟に言えばバイオハザード的な物語です。内容が濃く異常なわりには文体はとてもライトで、表紙の印象でかなり損をしている感じがします。日本疾病管理予防研究所の所長や所員たちは非常事態にも決して狼狽えることなく毅然としており、しかもそれぞれのキャラも良い感じで立っていて、その意味ではライトノベルに近いと思います。また、タイトルは探偵と謳っていますが、ミステリ的要素は内包していますけれど、正統派の本格物とは別物と思って頂いた方が賢明かと。

最終話で例によってそれまでの事件を振り返り、意外な真相が浮かび上がると言うより、やっぱりそうだったのねみたいな纏め方をして、綺麗にハッピーエンド(?)に持って行っています。この作者は結構変幻自在な作風を見せる作家で、これはこれで十分面白かったと思いますね。世間的認知度は非常に低いですが、この人の実力は侮れないですよ。

No.992 4点 空を見上げる古い歌を口ずさむ- 小路幸也 2019/08/28 22:47
「みんなの顔が“のっぺらぼう”に見えるっていうの。誰が誰なのかもわからなくなったって…」兄さんに、会わなきゃ。二十年前に、兄が言ったんだ。姿を消す前に。「いつかお前の周りで、誰かが“のっぺらぼう”を見るようになったら呼んでほしい」と。第29回メフィスト賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

竜頭蛇尾とはこの事。フランス料理のコースを注文したら、豪華な前菜の後にメインディッシュとしてお茶漬けが出てきたようなものと言っても良いでしょう。
のっぺらぼうから始まって、奇妙な事件の数々をどう着地させるのか、期待に胸を膨らませていましたが、結局何も分からずに終わってしまうという、ミステリとしてはあり得ない展開に唖然としました。そうです、これはミステリではなく云わば伝奇小説のようなものなのです。それを知っていたら読まずに済んだのにと、今更ながら後悔しています。
突き詰めれば、作者が解説を怠り、これはこういう事なんだと断定してしまえば、読者はそれに従うしか方法はない訳で、それで納得がいくわけがないです。
はっきり言ってメフィスト賞には相応しくない作品だと思います。まあ話としては面白くないこともないですが、あまりにスッキリしない結末にガックリ肩を落としてしまう自分は悪い読者なのでしょうかね。

書き忘れていましたが、クワガタのあの突起物は角ではなく、大アゴですから。そんな誰でも知っているようなことも知らないとは、作家さんも編集者さんも知識量が少なすぎるんじゃないですか。所詮メフィスト賞も玉石混交なんですね。

No.991 5点 キャラねっと 愛$探偵の事件簿- 清涼院流水 2019/08/25 22:43
全世界で大人気のオンライン学園R.P.G.「キャラねっと」。学園生活をバーチャルに体験できるその仮想世界は、カワイイ妹のために俺がつくったもうひとつの現実。すべてはカワイイ妹のため。だが、あの小僧が現れてから俺の世界、そして妹への愛が壊れ始めた…「密室連続殺人」から始まった「キャラねっと」での不可解な3つの大事件に「探偵アイドル」が挑む。流水大説新境地!読者を巻き込むデジタル世代本格ミステリ。
『BOOK』データベースより。

Amazonでのあまりの評価の高さに驚きました。少数意見とは言え、R.P.G.世代のゲーマーには持って来いの作品かも知れませんが、ゲームに関心のない私にはそこまでとは思いませんでした。ただ、流水大説の無駄な壮大さが消えて、かなり読みやすくなっていることは確かです。キャラも馴染みやすく、肩の力を抜いて読めますが、一方で事件発生までとそこから解決までが若干退屈で冗長な感は否めません。

三作の中編で構成されていますが、いずれも『スニーカー』に連載されたものなので、説明が重複する点が多く、通して読んだ場合結構な水増し感を覚えます。又、ノベルスで570ページという長尺の割には内容はかなり薄いように思います。どちらかと言えば、不可能性の高い事件の不可思議性や緻密な推理よりも、キャラクター小説、或いは青春小説としての意味合いのほうが高いので、本格志向の読者には不向きでしょう。

No.990 6点 カモフラージュ- 松井玲奈 2019/08/19 22:21
油断していると、次々予想を裏切るメニューが出てくるような短編集。
――島本理生(作家)
明太子スパゲティをこのうえなくおいしそうに書ける人。信頼せざるを得ないのである。
――森見登美彦(作家)

あなたは、本当の自分を他人に見せられますか――。
恋愛からホラーまで、松井玲奈が覗く“人間模様”。鮮烈なデビュー短編集。

アイドルグループSKE48の元メンバー、W松井の片割れで女優の松井玲奈(ゲキカラ)の作家デビュー作。
滑らかな文章で描かれる短編はホラー、不倫、潔癖症、過食などをテーマにしながら、「食」が共通のキーワードとして取り上げられています。本作品集は彼女の小説家としての素養が垣間見られ、十分お金を取れるだけのものを有していると思います。ただ、個人的には低刺激なのとオチがないのが不満点ではあります。そりゃプロ並みのエッジを効かせた過激な内容を期待するのは無理というものでしょうけど。しかし、例えば『ジャム』の、主人公の少年の父親が三人に増える不思議な現象などの奇想はなかなか素人では思い付かないものでしょう。他の作品は何となく先が読めたり、あまり紆余曲折が無かったりしますが、丁寧な描写で静かに時間が流れるうちに読み終わってしまうような、そんなひと時を過ごせます。それで十分じゃないですかね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
西尾維新(25)
島田荘司(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
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