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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1089 5点 箱の中の天国と地獄- 矢野龍王 2020/03/25 22:48
閉ざされた謎の施設で妹と育った真夏。ある朝、施設内に異変が起こり、職員たちは殺戮された。収容されていた他の男女とともに姉妹は死のゲームに強制参加させられる。建物は25階、各階には二つの箱。一方の箱を開ければ脱出への扉が開き、もう一方には死の罠が待つ。戦慄の閉鎖空間!傑作脱出ゲーム小説。
『BOOK』データベースより。

命懸けのサバイバル・ゲーム。各階に用意された二つの箱には様々なトラップが仕掛けられており、次々と人が死んでいくテンポは良いと思います。しかし、ちょっと説明不足な点があり、あれ?と感じることもありました。もう少し描き方を緊密にすれば、もっと楽しめる作品になったと想像することは出来ます。

この手の作品にしてはよく出来ている方だと思いますが、やはりそこまでする必然性と言うか理由付けが若干弱い気がしました。25階まで辿り着くまで、毎回毎回同じことの繰り返しなので、ややダレます。そこをマンネリ化しないように工夫されているのは認められますが、ご都合主義や話が出来すぎな感は否めません。
最後に明かされる十円玉の謎はなるほどなと思いました。

No.1088 5点 しゃべくり探偵の四季- 黒崎緑 2020/03/23 22:07
和戸君一家に降って湧いた騒動を見事収拾、保住君の新学期は好調な滑り出し。歌って踊れる名探偵とばかりギター片手に謎を解き、夏休みは珊瑚礁で魚と戯れ、また上高地の涼風に吹かれつつ事件の真相を看破する。馴染みの床屋や大学祭の模擬店で推理を聞かせたり、屋台の客から解決代をせしめたり。かくもバラエティに富んだ学生生活を謳歌する、なにわのホームズ保住君の事件簿。
『BOOK』データベースより。

前作同様、しゃべくりだから会話だけで成立しているのは覚悟していましたが、やはり地の文がないと読み難いですね。あまりボケとツッコミの遣り取りがしっくり来ず、それぞれの特性を生かし切れていない印象を受けました。第一話、第二話と最終話がその形式で、その他4篇は普通の文体で書かれています。、まあ全体的にインパクトに欠ける為、すぐに内容を忘れてしまいそうな気がします。

個人的には『注文の多い理髪店』がベストですかね。何故被害者の頭部と腕が焼かれていたのか、裸足だった理由はというホワイダニットがなかなか面白いです。無論、被害者の身元を不明にするなどという愚は冒していませんから安心です。
『怪しいアルバイト』はアンソロジー『競作五十円玉二十枚の謎』からの一作で、これもまた週末の書店に五十円玉二十枚を持って両替に来る人間の謎を、上手く説明しています。それが眼目であるのは間違いないですが、ミステリとしては人間消失を扱ったものとなっています。この二作位のレベルが並んでいれば6点でした、惜しかったですね。

No.1087 7点 宵待草夜情- 連城三紀彦 2020/03/21 22:27
大正九年の東京。祭りの夜に、カフェ「入船亭」の女給・照代が殺された。着物を血に染めて店を出てきたのは、同じ店で働く鈴子。鈴子の恋人・古宮は、彼女が殺したのかと考えるが。はかない男女の哀歓を描き、驚きの結末を迎える表題作ほか五篇。人の心の底知れぬ謎、深く秘められた情念から、予想をはるかに超える真実が立ち上がる。不朽の傑作ミステリー、待望の新装版。
『BOOK』データベースより。

これは名作でしょう。特に情景描写が半端なく素晴らしいですね。この人にしか書けないと思います。
いずれの短編も愛憎のもつれというか、痴情のもつれが底辺に流れています。それが普通ではなく捩じれた形で表現され、事件の意外すぎる真相や殺人の動機に関わってきます。中には一見理解不能なものもありますが、ある覚悟をした女の情念はここまで深いものだということを、絵空事とは思えないような筆致で描き切っています。

トーンが全体的にくすんだ感じがしますね。と言うより、滲んだような、不透明な感覚が発散されています。それでいて事件の様相がくっきりと際立っている辺りはこの人の真価を発揮しているように思います。
どの作品にも本格ミステリの要素が横溢しており、本格スピリットを忘れていない点も高評価につながりますね。

No.1086 5点 ある少女にまつわる殺人の告白- 佐藤青南 2020/03/19 22:51
第9回『このミステリーがすごい! 』大賞・優秀賞受賞作の、待望の文庫化です。「今日的テーマを扱いつつ難易度の高いテクニックを駆使し、着地の鮮やかさも一級品」茶木則雄(書評家)。10年前に起きた、ある少女をめぐる忌まわしい事件。児童相談所の所長や小学校教師、小児科医、家族らの証言から、やがてショッキングな真実が浮かび上がる。巧妙な仕掛けと、予想外の結末に戦慄する!
Amazon内容紹介より。

ある少女亜紀の関係者の独白で構成される、『告白』に似た形式の作品。ただこちらは茫洋として掴み所がなく、なかなか亜紀の人物像が見えてきません。これは結構フラストレーションが溜まりますね。児童虐待や児童相談所の有り方についてあれこれ書かれていますが、いかにも浅いです。亜紀という少女は一体どんな人間だったのか、それがテーマなはずなのに、なんとなくはぐらかされているようで、読んでいてとても据わりが悪い感じがしました。

衝撃の真実が明らかになる終盤は確かに目を瞠るものがありますし、ラストのオチは見事に決まっていたと思います。ただそこだけで評価するわけにはいかないので、5点にしました。こうした驚愕を味わわせてくれる小説は個人的に好みですが、そこに至るまでがねえ、残念な感じでした。
せめて、章の最初にどこの誰の独白なのかを明確にしてほしかったです。それだけでもメリハリが付いて、印象が随分違ったと思いますよ。

No.1085 6点 小説スパイラル 推理の絆 ソードマスターの犯罪- 城平京 2020/03/17 22:40
新聞部部室にて、歩とひよのは、ひとりの少女から兄の仇を討つために力をかしてほしいと懇願される。そして、歩は過去の殺人事件をめぐり剣の達人・黒峰キリコと対決することに…。対決の行方は!?そして、事件の真相は!?ガンガンNETにて大好評掲載中の「名探偵鳴海清隆~小日向くるみの挑戦~」から2編も同時収録。
『BOOK』データベースより。

コミックスのノベライズ作品かと思っていましたが、一応設定はそのままにオリジナルの小説としてシリーズ化されたものです。冒頭から如何にも劇画的な雰囲気で、逆にコミックとして描かれていたらもっと面白いものに仕上がったのではないかと思ってしまいました。文体としては読者層を鑑みてか、かなり砕けた感じでそれが却って私的には読みづらかった気がします。
本格に寄せようとする努力は認められますが、伏線がかなり弱いですね。推理というより推測に近いと思います。容疑者は限られていて、ホワイダニットに特化しています。それも、どうして殺したのかというよりも、何故そのような殺し方をしたのか、に拘って書かれています。

短編のほうは、先に描かれている中編の主人公で探偵役の鳴海歩の兄である清隆の活躍を描いています。捜査一課の警部なのに名探偵と呼称されているのは、しっくりきませんね。現実的に刑事が名探偵と呼ばれることはあり得ないでしょう。本格の世界では刑事はあくまで脇役で、素人探偵や私立探偵が主役なのは当然ですけど。どうも作者は名探偵の定義を履き違えているとしか思えません。
こちらの二編も謎は魅力的ながら、真相は至ってシンプルでアッと驚くようなものではないです。
畢竟、コミックの読者にとっては大いに歓迎されると思われますが、ミステリファンには物足りなさを覚えるのではないでしょうかね。

No.1084 7点 法月綸太郎の新冒険- 法月綸太郎 2020/03/15 22:36
名探偵・法月綸太郎が帰ってきた!著者会心の傑作鉄道ミステリー「背信の交点」、オカルトじたての怪事件「世界の神秘を解く男」、法月綸太郎本人が登場しない異色作「身投げ女のブルース」など、テーマと構成にこだわりぬいた中編を収録。本格推理の醍醐味が味わえる“知恵と工夫のエンタテインメント”。
『BOOK』データベースより。

ロジックと意外性が良い塩梅でハイブリッドした作品が多いですね。『リターン・ザ・ギフト』はちょっと煩雑な感じがして、あまり好みではありませんが、他は意外な犯人や反転などを味わえて佳作揃いだと思います。
特に『背信の交点』の構成力、一見単純な事件のように見える裏で、見事なまでの奸計が働いていたという小気味の良い切れ味は、読んでいて思わず唸らされます。
あと好みで言うと『身投げ女のブルース』ですね。綸太郎の登場はありませんが、法月警視を通して綸太郎の推理が披露される形を取っています。これもいいですね、冒頭のスリリングなシーンからは想像できないような展開が待っています。ある意味最も本格らしい本格ミステリなのではないかと思いますね。

ただ、やや文章が硬質でしょうか。ほんの少しで良いから遊び心があってもよかった気もします。でも、凄く真面目に書かれているのには好感が持てました。とても知的な読書体験をした気分になれます。

No.1083 5点 殊能将之 未発表短篇集- 殊能将之 2020/03/13 22:37
未発表短篇「犬がこわい」「鬼ごっこ」「精霊もどし」にデビュー作『ハサミ男』刊行に関して友人宛てに綴った「ハサミ男の秘密の日記」を収録。
デビュー後、編集部の要請で送られていた習作短篇3篇とデビュー当時の様子を友人に書き送った「ハサミ男の秘密の日記」を収録。独特の笑いとセンス、ペーソスを湛えた殊能将之初期作品集。
Amazon内容紹介より。

デビュー前に描かれた短編集なので、習作的な匂いがプンプンする作品が3編と、『ハサミ男』がメフィスト賞を受賞する際の日記で構成されています。
短篇の出来については『犬がこわい』>『精霊もどし』>『鬼ごっこ』でしょうか。『犬がこわい』は日常の謎のような導入部から突然思わぬ事件に発展するというもので、これはなかなか面白かったと思います。『精霊もどし』はあまり怖くないホラーのようなもの、イマイチですね。『鬼ごっこ』は何がなんだかよく分からないけれど、ひたすら三人の男たちが一人の男を追い掛けるだけの作品で、あまり意味が解りませんでした。

余程のファンであれば手元に置いておいても良いかなと思いますが、コスパも良くないし、ミステリファンを含めた一般読者は読む必要性が感じられません。『日記』の方に期待していた私としては、やや肩透かしでしたね。
しかし、早逝されたのは残念な限りです。本来ならもっと多くの傑作をものにしてたはずでしょうからね。

No.1082 7点 妖異金瓶梅- 山田風太郎 2020/03/11 22:37
性欲絶倫の豪商・西門慶は絶世の美女、潘金蓮を始めとする8人の妻妾を侍らせ、酒池肉林の日々を送っていた。彼の寵をめぐって女たちの激しい嫉妬が渦巻く中、第七夫人と第八夫人が両足を切断された無惨な屍体で発見される。混乱の中、西門慶の悪友でたいこもちの応伯爵だけは事件の真相を見抜くが、なぜか真犯人を告発せず…?美姫たちが織り成す凄惨淫靡な怪事件。中国四大奇書の一つを大胆に解釈した伝奇ミステリ。
『BOOK』データベースより。

先行書評をなぞる形になってしまいますが、『赤い靴』を読み終えた時点で、このレベルの短編が揃えば8点は堅いと思いました。この短編の衝撃はなかなかのものでしたよ。しかし、読み進めるごとに失速気味になり、マンネリ感を覚えてしまうのは自分だけではないと思いす。結局『赤い靴』と肩を並べる様な作品は現れず、非常に残念な思いをしました。

どうしても読んでいくにつれフーダニット、ホワイダニットへの興味が薄れていくのがこの連作短編の致命的な欠点ですね。大仕掛けがある訳でもなく、トリックとしてもどちらかと云うと小技の部類であったり、先行作品の変形だったりして独創性の点で優れているとは言えません。ただ、その見せ方が巧妙に出来ておりその意味では納得させられます。
長いのもありますが、何だか疲れました。それでも7点を付けたのは私の読みが浅かったとの反省からです。

No.1081 7点 スクールアタック・シンドローム- 舞城王太郎 2020/03/08 22:38
崇史は、俺が十五ん時の子供だ。今は別々に暮らしている。奴がノートに殺害計画を記していると聞いた俺は、崇史に会いに中学校を訪れた。恐るべき学校襲撃事件から始まった暴力の伝染―。ついにその波は、ここまでおし寄せてきたのだ(表題作)。混沌が支配する世界に捧げられた、書下ろし問題作「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」を併録したダーク&ポップな作品集。
『BOOK』データベースより。

正直表題作と『我が家のトトロ』は何となく読み終えてしまい、あまり印象に残りませんでした。特にオチがなく、起承転結のメリハリが付いていない気がします。何だか話が無茶苦茶なところは共通していると思いますし、それが舞城王太郎の特性なのでしょう。ですから、好みははっきり分かれるタイプの作家であるのは間違いないですし、本作品集を読んでこれは駄目だという方は避けて通るのが無難だと思いますね。

問題は『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』です。これは傑作ですよ。近親相姦、カニバリズム、スカトロなどエログロな面があり、万人向けとはお世辞にも言えませんが、直截的な描写が少ないのが救いです。個人的には舞城作品の中でも屈指の出来栄えではないかと思います。これは先に述べた起承転結がしっかりしており、普通の感覚で捉えることは難しいですが、この作家の作風を理解できるのであれば必須アイテムでしょうね。

No.1080 6点 新しい十五匹のネズミのフライ- 島田荘司 2020/03/06 22:33
「赤毛組合」の犯人一味が脱獄した!ワトソン博士のもとに、驚天動地の知らせが舞い込んだ。だが肝心のホームズは重度のコカイン中毒で幻覚を見る状態…。犯人たちの仰天の大計画とは。その陰で囁かれた謎の言葉「新しい十五匹のネズミのフライ」とは。そして「赤毛組合」事件の書かれざる真相とは。果たして、われらがホームズが復活する時は来るのか―。さまざまなホームズ作品のエッセンスを、英国流のユーモアあふれる冒険譚に昇華させた大作。
『BOOK』データベースより。

叩き台となっている本家の『赤毛同盟』(本作では『赤毛組合』表記)、を読んでいた方がより楽しめると思いますが、未読でも意味不明にはならないのでご安心を。タイトル通り、ホームズではなく助手のワトソンが主役であります。事件解決に一役買っているのは無論ホームズですが、一応全編通して冒険しているのはワトソンです。しかしやはりホームズの個性は強烈で、出番は少ないもののかなりの異彩を放っているのは間違いありません。特に終盤退院してからのエキセントリックな言動は本領発揮と言ったところでしょうか。『赤毛同盟』自体が面白かっただけに、更にその先に意外な真相が隠されている本作が面白くないはずがありません。
ただ、「新しい十五匹のネズミのフライ」の謎だけで最後まで引っ張るのは、やはりちょっと強引だったのではないかと思います。それなりの大作の割にトリックがショボかったのもマイナス要因ですね。それを補って余りあるストーリーテラーぶりは流石だとは思いますが。

島荘は近年かつての輝きを失いつつあり、語り手としての熟練度は増しているように思いますが、トリックの独創性やスケールの大きさが枯渇している気がしますね。今後もまだまだビッグネームに恥じない作品を期待したいですね。本作でもらしさは見られるものの、やや存在感の希薄さを感じます。

No.1079 7点 学園祭の悪魔- 浦賀和宏 2020/03/04 22:57
あの日から、世界は壊れはじめていたのかもしれない。首なし死体、連続猟奇殺人事件、そして…。私の周りに“死”が堆積していく。学園祭で出会った笑わない“名探偵”安藤直樹は、すべてを解決してくれるのだろうか?凄惨!壮絶!明かされる事件の真相!日常の意味が消失する浦賀エンタテインメント最新作。
『BOOK』データベースより。

一体浦賀和宏は安藤直樹をどうしたかったのでしょうか。安藤直樹シリーズで最大の衝撃を受けました。しかしホラーはないでしょう、青春小説ですよ。ラストのショッキングな事実がなければね。物語は主人公の女子高生幸の一人称で語られますが、やはり一人称という形式には、身構えて掛からなければいけない訳で、だからと言って安易な叙述トリックではありませんよ。そんな生易しいものではありません。
言ってしまえば名探偵の宿命が、捻じれた形で表現されているのかも知れないですね。逆説的な名探偵論にもある意味納得です。他の作家は絶対やらない禁忌に触れていますし、シリーズ全体のあり様を作者自ら破壊しようとしています。

本作は全体がプロローグのようなものであり、本編は小説が終わってから始まるのです。次回作『透明人間』を読まなければ分かりませんが、おそらくその後の物語は永遠に書かれることはないと思いますね。
惜しいですね、安藤直樹シリーズがあと一作で読み終わってしまうのは。それにしてもなんだか久しぶりに安藤直樹が前面に出ていたと思ったらこれだから、浦賀は油断できません。世評の低さも理解できますが、個人的には気に入っています。と思ったら読書メーターでは割と評価されていました。

No.1078 4点 ハナカマキリの祈り- 美輪和音 2020/03/02 22:13
私は真尋、不破真尋。会社の飲み会の後、深夜に出会った彼女はどこか翳のある、優しくて有能な女性だった。つらい過去に囚われて苦しむ真尋は密かに彼女のようになりたいと願うが、次々と不可解な出来事に巻き込まれ、追い詰められた末に人を殺めてしまう。そこに彼女から、ある提案が―。私は真尋、不破真尋、なの?圧倒的な筆力で、驚愕のラストシーンまで主人公を追い詰めていく。「強欲な羊」でミステリーズ!新人賞を受賞した著者が贈る渾身の初長編。
『BOOK』データベースより。

序盤から中盤にかけて、方向性が定まらず右往左往させられます。どこに重点を置いて読めばよいのか分からず、どれを取っても中途半端な印象を受けます。そして人間関係が煩雑で解りづらいですね。カラクリは単純なのですが、それを上手く纏め切れていない感じが凄くします。サスペンスなのかホラーなのかイヤミスなのか判然としません。
女性作家の為か痛い描写が生温く、あまり残酷性が見られないのもインパクト不足と言って良いでしょう。ラストのオチは想定内でした、まあよくあるパターンですしね。

前二作の短編集は個人的に好意的に評価していました。どうやらこの人は長編が肌に合わないのかも知れないと思ったりもします。もう少し抑揚を付けるとかサプライズ的な趣向を凝らさないと、読んでいて中弛みしたり退屈さを覚えてしまうのではないでしょか。あまり期待はしていませんでしたので、裏切られた感はありません。でももう少し描き様があった気がしますねえ。

No.1077 7点 黒い春- 山田宗樹 2020/02/29 22:57
覚醒剤中毒死を疑われ監察医務院に運び込まれた遺体から未知の黒色胞子が発見された。そして翌年の五月、口から黒い粉を撤き散らしながら絶命する黒手病の犠牲者が全国各地で続出。対応策を発見できない厚生省だったが、一人の歴史研究家に辿り着き解決の端緒を掴む。そして人類の命運を賭けた闘いが始まった―。傑作エンタテインメント巨編。 
『BOOK』データベースより。

それは全くの偶然でした。400冊余りの積読本から引き抜いた一冊、それが本書でした。まるで運命の糸に操られたように・・・。勿論自分で選んで入手した物ですが、あまりに時間が経ちすぎていて中身などまるで覚えていません。それにしてもまさかこのタイミングで、と驚きを隠せませんでした。今まさに日本全土で或いは全世界で新型コロナウイルスが猛威を振るい、パンデミックに突入しかねないこの時に。なんと不吉な。北海道では緊急事態宣言が出され、安倍首相は小中高の臨時休校を全都道府県の各自治体に要請しました。それは取りも直さず、子供を守る為ではなく子供を介しての社会全体に感染拡大を阻止するもの。それが英断だったのか、それともやけくその場当たり政策だったのか。

いずれにせよ、読み始めてしまったからには読了しなければならないと思いました。それどころか読み出したら止まらないリーダビリティを秘めていて、ストレスフリーで読み終えてしまいました。

さて前置きが長くなりましたが、本作は死亡率100%の未知の感染病に、監察医、東京都立衛生研究所真菌研究室室長、国立感染症センター病原診断部の研究者の三人がチームを組んで立ち向かう物語です。ミステリ的に言えばミッシングリンク物と言えるかもしれません。滋賀県を中心に広がる感染者に共通するものは何か、そして中間宿主となる存在は、という命題に三人のスペシャリストが探究の末辿り着いた先に待っているものは。
政府特に厚労省が動かないのには大いに違和感を覚えますし、検査希望者が一万人余りに過ぎないのも疑問です。他にも細かい瑕疵はありますが、人間ドラマとして、家族愛を描いたサスペンスとして優れていると思います。そして歴史ミステリの側面も兼ね備えています。
次は高嶋哲夫の『首都感染』ですかね。それを読むのは現在抱えている新型ウイルスが終息してからにします。

No.1076 6点 幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート- 倉知淳 2020/02/27 22:34
ある時は幻の珍獣アカマダラタガマモドキの捜索隊員、ある時は松茸狩りの案内人、そしてある時は戦隊ショーの怪人役と、いっぷう変わったアルバイトに明け暮れる神出鬼没の名探偵・猫丸先輩が遭遇した五つの事件。猫コンテスト会場での指輪盗難事件を描いた「猫の日の事件」、意外な真相が爽やかな余韻を呼ぶ「たたかえ、よりきり仮面」ほか三編を収録した、愉快な連作短編集。
『BOOK』データベースより。

これは面白い。相変わらずの猫丸先輩、毎回怪しげなアルバイトで登場しています。本シリーズの中で一番笑わせてもらいました。いずれも日常の謎は魅力的ながら、謎解きが終わった後には脱力するみたいな作品です。しかし、猫丸先輩の慧眼は鋭く、見た目はのほほんとしていたり躁病の気があるような不思議な人ですが、真相を暴く時の立て板に水の推理は素晴らしいですね。絶対的な根拠がある訳でもないとは思います。でもまあそうなんだろうな、それで良いんじゃないの?と何となく納得させられる思いがします。

大抵、短編集で書下ろしが混じっているとそれは他と比較してイマイチな場合が多い気がしますが、本作品集ではそんなこともなく、平均して状況がいかにも不可思議で、一種の不可能趣味が堪能できます。心情的には7点付けたいところですが、手品の種明かしの様なガッカリ感が少なからずあったので6点にしました。

No.1075 6点 白銀荘の殺人鬼- 愛川晶 2020/02/25 22:25
スキー客で賑わうペンション「白銀荘」。そこに血腥い殺人鬼の匂いを纏った客が紛れ込んだ。多重人格症に悩む彼女は、ある目的を果たすため、連続殺人をもくろんでいた。おりしも、豪雪により白銀荘は外界と遮断された密室状態に!そして、相次ぐ殺人―。さらなる悪夢が。今、血の惨劇の幕が開く!本格推理の鬼才二人によるサイコ・ミステリーの傑作、登場。
『BOOK』データベースより。

所謂吹雪の山荘もの。殺人鬼は多重人格者の中の一人「あたし」ですが、これが何とも軽薄でいい加減。多数の人間を葬り去ったというのに緊張感に欠け、綿密な殺人計画に則った行動とはかけ離れています。最後までこの調子だと嫌だなと思いながら読み進めましたが、流石にそんな事はありませんでした。上手く多重人格を利用したトリックはお見事で、読者の多くが予想もしない展開に唖然とさせられると思います。ネタバレになるのであまり詳細は書けませんが、面白く読みました。

愛川晶のサイコサスペンス的要素と、二階堂黎人の捻りの効いた裏技的仕掛けが上手く融合している感じがします。でも、事件後警察が本気を出せば真相は割と呆気なく暴けたのではないかという気もしますけど・・・。
一読の価値はアリとしておきましょうか。

No.1074 6点 “文学少女”と繋がれた愚者(フール)- 野村美月 2020/02/23 22:06
「ああっ、この本ページが足りないわ!」ある日遠子が図書館から借りてきた本は、切り裂かれ、ページが欠けていた―。物語を食べちゃうくらい深く愛する“文学少女”が、これに黙っているわけもない。暴走する遠子に巻き込まれた挙句、何故か文化祭で劇までやるハメになる心葉と級友の芥川だったが…。垣間見たクラスメイトの心の闇。追いつめられ募る狂気。過去に縛られ立ちすくむ魂を、“文学少女”は解き放てるのか―?大好評シリーズ第3弾。
『BOOK』データベースより。

今回は武者小路実篤の『友情』がモチーフ。『友情』を題材に遠子先輩が、心葉のクラスメイトの芥川くんや琴吹さん、一年生の竹田さんらと文化祭で劇を披露するまでの、あれやこれやの物語。
それにしても昼ドラばりのドロドロした男女の愛憎劇が、青春ミステリらしからぬ凄さを見せつけています。それでいて最後には爽やかな一陣の風の様な雰囲気で終えるのは、本シリーズの良さではあると思います。しかし、心葉の抗いがたい過去の疵に芥川君が絡んできて、これからどうなるんだと先行きが気になるところでエンディングとは心憎いですね。おそらくこの事件の顛末は最終巻まで引っ張られる事になるのでしょう、まあそれも一つの趣向として割り切るしかないのだと思います。

本作ではミステリ的要素がやや薄いのと、麻貴先輩の出番が少なかったのが少しだけ不満でした。しかし、芥川君から目が離せなくなりそうです。彼がこれほど重要な役どころを担うことになろうとは思いませんでした。本シリーズまだまだ楽しませて貰えそうです。

No.1073 6点 0番目の事件簿- アンソロジー(出版社編) 2020/02/21 22:41
人気作家のアマチュア時代作品を無修正で大公開!作家志望者、ミステリファン必読の“前代未聞”本。
『BOOK』データベースより。

収録順に有栖川有栖『蒼ざめた星』、法月綸太郎『殺人パントマイム』、霧舎巧『都築道夫を読んだ男』、安孫子武丸『フィギア・フォー』、霞流一『ゴルゴダの密室』、高田崇史『パカスヴィル家の犬』、西澤保彦『虫とり』、初野晴『14』、村崎友『富望荘で人が死ぬのだ』、汀こるもの『Judgement』、綾辻行人『遠すぎる風景』。

一様に皆さんがあとがき解説で書かれているのは、赤面するとか恥晒しとかです。しかしながら、満更でもなさそうな様子が伺えるのは微笑ましいところですね。
『人形館の殺人』の原型である『遠すぎる風景』は別格として、意外と霞流一の短い中によく詰め込んだ密室トリックが面白っかったです。あとは初野晴が本格ではないけれど、とても印象深くラストの捻りも好感が持てました。有栖川有栖や安孫子武丸辺りはらしさがよく出ていると思います。
汀こるものはちょっと訳が分かりませんでしたし、西澤保彦に至っては最初から最後までほぼ理解不能でしたね。しかし総合して及第点ではないかと思います。ただやはり、若書きとか粗削りな感は否めませんね。

No.1072 1点 セイギのチカラ アングラサイトに潜入せよ!- 上村佑 2020/02/19 22:40
しょぼ~い超能力者たちが大活躍する、「セイギのチカラ」シリーズ第三弾!今度の主役は天才プログラマー・水野と、美少女イタコ・有江。互いのチカラが重なり合ったことが原因で、プログラムの世界に放り込まれてしまった二人。戸惑いつつも、問題サイトを摘発しようとするうちに、巨大な闇組織の陰謀に近付いてしまい…。いつものヘンテコ超能力者たちも登場する、ドタバタストーリーから目が離せません。
『BOOK』データベースより。

断言します、これは駄作です。シリーズ一作目のあの感動を返してほしいです。一体どうしてしまったのでしょうか。もうね、読んだ事を無しにしたい、記憶から消したいですよ。読むべきではなかったと今さらながら後悔しています。一作目の後即続編を購読しなかった、過去の自分の判断は正しかったと言えましょう。

中身はペラペラです。あれ程ユニークで魅力的だったキャラたちも、何だか平板にしか描かれていませんし、ストーリーも足早過ぎてほとんど頭の中を素通り。話に付いて行けません。一作目ではそのスピード感が逆に良い方向に出ていましたが、こちらは駄目です。
面白いとか以前の問題。小説として余りにも出来が悪すぎですね。110円でも高すぎた位で、速攻でブックオフ行きです。読む時間は僅かで済んだので、それだけが救いでしょうか。

No.1071 5点 さよならのためだけに- 我孫子武丸 2020/02/17 22:12
「だめだ、別れよう」「明日必ずね」ハネムーンから戻った夜、水元と妻の月はたちまち離婚を決めた。しかし、少子晩婚化に悩む先進諸国は結婚仲介業PM社を国策事業化していた。PMの画期的相性判定で結ばれた男女に、離婚はありえない。巨大な敵の執拗な妨害に対し、二人はついに“別れるための共闘”をするはめに―。孤立無援の闘いの行方、そしてPMの恐るべき真の目的とは。
『BOOK』データベースより。

どうにも平凡な作品という印象しかないですね。もっと物語にメリハリを付けて欲しかったところです。
大体、短期間で結婚を決めた相手に対して、結婚式を終えた後速攻で離婚を決意する月の思考回路が理解できません。何故もっと時間を掛けて熟考しなかったのか、いくら仲介会社の判定が特Aだからといって、慌てる必要はなかったはず。
それに些細な事かも知れませんが、水元が自分の勤める会社のキーパーソンである重役を知らなかったのも解せません。その重役が登場してからの展開はちょっと面白かったですけど。

人間はよく描けています。男女二人の一人称が交互に並ぶ構成で、その都度その都度の二人の心理状態は賛同はできなくとも分からないでもないですね。脇を固める二人は軽すぎます。こうも簡単に男や女を乗り換えられるものか、惚れっぽいのか分かりませんが。いずれにせよ、どの人物にも感情移入できず、十分楽しめたとは言い難かったと思います。ジャンルは敢えて分類すればSFのようなファンタジーのようなものですが、実はどちらでもないと云うのが正解かも知れません。

No.1070 4点 弟切草- 長坂秀佳 2020/02/15 22:45
弟切草…その花言葉は『復讐』。ゲームデザイナーの公平は、恋人奈美とのドライブで山中、事故に遭う。二人がやっとたどり着いたのは、弟切草が咲き乱れる洋館だった。「まるで俺が創ったゲームそのものだ!」愕然とする公平。そして、それは惨劇の幕開けだった…。PlayStation版話題のゲームを乱歩賞作家の原作者がオリジナル小説化。
『BOOK』データベースより。

序盤で紹介される主役の二人の過去に問題あり過ぎ。なので、それがどう物語に影響を及ぼすのかに興味が湧いてくるのは確かです。やはりと言うべきか当然と言うべきか、それが数々の怪異の謎を解くカギになっていますね。
二人が迷って辿り着いた館に足を踏み入れて以降、終盤に至るまではゲーム感覚と言うよりお化け屋敷に入ってキャーキャー騒いでいるようなものです。現象だけ見れば小谷里歩(三秋里歩)でなくても腰を抜かすほど悍ましいですが、全然怖くないのは文章が下手なせいでしょうかね。一時的に危機を脱してもまだまだ命が危険に晒される場面で、一々キスをするってあり得ないと思いますが。

最終章でミステリ的趣向に突入しますが、最早どうでも良くなっている自分がいました。謎解きは専らそれぞれの過去の過ちに終始し、●●トリックに逃げている感があり、あまり好ましいものではありませんでした。まあこれを読んで喜ぶのは余程プレステのゲームにハマった人だけじゃないですか。ご都合主義や偶然性が色濃く見られるし、人間関係が無駄に複雑すぎと云う気もします。
作者によれば飽くまでオリジナルとの事ですが、小説としてホラーとして褒められるべき作品ではないと思いますね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
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