皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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  | メルカトルさん | |
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| 平均点: 6.04点 | 書評数: 1938件 | 
| No.1198 | 6点 | 暁天の星- 椹野道流 | 2020/10/20 22:35 | 
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| どこかアットホームな雰囲気の大阪O医科大学法医学教室。新人伊月は先輩医師ミチルにしごかれていた。ある日、電車に身を投げた女性の遺体が運ばれてくる。さらに車に轢かれた女性も。遺体の彼女たちには世にも不思議で奇怪な共通点があった。法医学を極めた女性医師が放つ傑作シリーズの原点を新装版で。 『BOOK』データベースより。 過去に法医学教室に勤めていた作者による、鬼籍通覧シリーズ第一弾。 結論から言うと残念ながら本作はミステリではありません。電車に身を投げ轢断された女性と、走ってくる自動車の前に突如飛び出して轢き殺された女性、この二つの事件が論理的に解決されていたら、最低でも7点は付けていたと思います。最終章まで、この二人の奇妙な共通点を中心に謎を追う二人の主人公という構図は、サスペンスそのものですが、最後にホラーとして片付けられてしまうのは、誠に惜しいとしか言いようがありません。まあそりゃそうだろうなとは思いますけどね。こんなものに真っ当なトリックが存在したら、それこそ新発明ですから。 しかしながら、読み物としてはそれなりに面白く、特に無残な死体の解剖シーンには見るべきものがあります。そこには実際その場に立ち会っていた者にしか書けない生々しさがあり、決してグロではなく真面目に描かれているところに好感が持てます。二作目の書評でも書きましたが、いまいちキャラが立っていないのがどうにも悔やまれます。ミチルはともかく、伊月はチャラすぎますね。こんな医者がいたらちょっと嫌だなと思いますよ。都築の存在感はやや印象的ではありますが。 | |||
| No.1197 | 6点 | 借金取りの王子- 垣根涼介 | 2020/10/18 22:40 | 
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| 「誰かが辞めなければならないなら、私、辞めます」企業のリストラを代行する会社で働く真介の今回の面接相手は―真面目で仕事もできるのになぜか辞めたがるデパガ、女性恐怖症の生保社員に、秘められた純愛に生きるサラ金勤めのイケメンなどなど、一筋縄ではいかない相手ばかり。八歳年上の陽子との恋も波瀾の予感!?勤労者にパワーをくれる、笑って泣ける人気シリーズ、第二弾。 『BOOK』データベースより。 前作に比べると面接シーンが少なくなっている気がします。必然的に圧倒されるような緊迫感は薄まっていると思います。となると肝心なのは作者の引き出しが如何に多いかですが、その辺りは流石に手慣れたものです。それぞれの面接の相手の生活や人生を掘り下げて、その人なりの人生観や処世術に関するドラマを展開していき、ストーリーを広げていっています。 どの話も内容テンコ盛りで、もうお腹一杯です。それでも読んでいて嫌気が差して来たりしないのは、読み心地の良さと後味の爽やかさにあると思いますね。面接を受けた後に様々な将来を見つめ直して、希望を託していく姿には心がホッとする自分がいたりします。 個人的にベストは第一話の『二億円の女』でしょうか。年間二億円の売り上げを上げる百貨店外商部のトップの女社員は何故リストラを受け入れようとするのか?そこに彼女なりの決断が生々しく描かれており、読み応えは十分です。 また最終話の『人にやさしく』はちょっと趣向を変えて、主人公の真介と同棲相手の陽子との対決が見ものとなっています。これもまた本作の掉尾を飾るに相応しいスリルのある良い作品だと思いますね。 | |||
| No.1196 | 5点 | 平井骸惚此中ニ有リ 其弐- 田代裕彦 | 2020/10/16 22:53 | 
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| 「大丈夫、すぐに小生が解決してみせるからね」那須の一等地にある、山深い洋館のホテル。窓の外を眺める河上くんの目に飛び込んできた異様な光景―轟く雷鳴に照らし出されたのは、露台から吊された華族・日下家跡取りの変わり果てた姿。怯える涼嬢と撥子嬢に、勢い込んで告げる河上くんでありましたが…。担当編集者、緋音嬢の誘いにより、真夏の帝都を逃れ避暑と洒落込む、探偵作家・平井骸惚一家と弟子の河上くんたち。しかし、ただ安穏と避暑などと、世の中そうは甘くはなく…。―私は命を狙はれてゐる 緋音嬢が、骸惚先生と河上くんに手渡したのは、日下家長男である、直明氏からの封書でした。折からの嵐により、外部との連絡手段を絶たれた洋館。雷鳴と豪雨に紛れるように、一人、また一人と消されていく日下家の跡取りたち―。絡む華族四兄弟の思惑に、探偵作家・平井骸惚と河上くんが挑む、本格推理譚第二弾。 『BOOK』データベースより。 何ですか、この文体は。大正の時代の話なのに会話文はむしろ現代的なのはいささかの問題もありません。問題は地の文、~して。~で。が文章の末尾に来ていて、物凄く違和感を覚えます。 『BOOK』データベースではなんだか凄そうな印象を受けますが、大したことはありません。爵位の継承を巡る連続殺人事件で、ミステリとしては至極平均的で特筆すべき点はありません。アリバイトリックや密室に関して言えばあっさりし過ぎな感が強く、かなりのご都合主義や偶然性に頼った事件の連続なのは間違いないでしょう。キャラ小説としてはまあこれも普通で、さして個性的でクセの強い人物は登場しません。河上君と涼嬢の遣り取りなどは微笑ましく、その辺りが若年層に受けているのかも知れませんが。尚、男尊女卑の風潮が未だ強く残る大正時代の雰囲気は全くありません。 それにしても、本シリーズが何作も世に出ているのには驚きを隠せません。こんな平凡な作品が第二弾で、その後も続いていることは私などにしてみれば何だかなあと思えてなりません。 しかし後味は悪くありませんでした。ちょっと爽やかな余韻を残しているところで+1点。評点はやや甘め、いや結構甘めです。 | |||
| No.1195 | 8点 | ボディ・メッセージ- 安萬純一 | 2020/10/15 22:35 | 
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| アメリカはメイン州・ベックフォード、ディー・デクスター探偵社に一本の電話が入る。探偵二名をある家によこしてほしい、そこで一晩泊まってくれればいいという、簡単だが奇妙な依頼。訝しみながらもその家に向かったスタンリーとケンウッドに、家人は何も説明せず、二人は酒を飲んで寝てしまう。しかし、未明に大きな物音で目覚めた二人は、一面の血の海に切断死体が転がっているのを発見。罠なのか?急ぎディーの家に行って指示を仰ぎ、警察とともに現場に戻ると、何と血の海も死体も跡形もなく消え去っていた―。事件を追う探偵社の面々の前に、日本人探偵・被砥功児が颯爽と登場する。第二十回鮎川哲也賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 何時以来でしょうか、真相にこれほど大きな衝撃を受けたのは。 確かに選考委員の一人島荘が言っているように、裏ストーリーが弱いというか逃げているようにも感じますし、真犯人が判明しても、はあ?この人誰だっけと云う位影が薄い印象でした。これは私の記憶力の問題かもしれませんが。そして、犯人が指摘されるべき理由が端折られています。書き様がなかったとも取れます。他にも小さな瑕疵がないとは言えません。しかし、ワンアイディアをこれだけ膨らませて、首と片腕を失った四人の切断死体とその消失といった強烈で謎めいた事件を演出し、数多の謎を数え上げる事態に持って行った手腕は新人とは思えない程です。 ただ、新人らしいと言ってしまえばそれまでですが、文体がかなり堅いと感じました。舞台がアメリカの為故意にハードボイルドの様な書き方をしたのは、間違いではないかもしれませんが、手練れとは言い難く、そのタッチさえ違っていれば更なる傑作になったのではないかと、個人的には思います。それでもこの点数を献上するに吝かでなかったのは、私自身の嗜好にピッタリだったのが大きな要因だったのでしょう。だから一般常識的には7点が妥当かも知れません。 | |||
| No.1194 | 2点 | 子どもの王様- 殊能将之 | 2020/10/13 22:13 | 
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| 団地に住むショウタと親友トモヤ。部屋に籠もって本ばかり読んでいるトモヤの奇妙なつくり話が、ショウタの目の前で現実のものとなる。残酷な“子どもの王様”が現れたのだ。怯える親友を守るため、ショウタがとった行動とは?つくり話の真相とは?『ハサミ男』の殊能将之が遺した傑作をついに文庫化! 『BOOK』データベースより。 死者に鞭打つような事を書きたくはないですが、はっきり言って駄作です。どこか良い点を見つけるとしたら、掲示板の地図の錯覚トリックくらいですかね。それがなければ1点でした。ジュブナイルだと思って舐めているのかと思うくらい、レベルが低いです。編集も編集ですね、これでゴーサインを出したのはあまりにも杜撰なチェックでしょう。ミステリーランド叢書として2000円以上出して新作を購入した人は、さぞかし業腹だったのではないかと想像します。壁本ですね。 大人が読んで面白くない本は子供が読んでも面白くないと思います。その逆もまた然りで、これは読むだけ時間の無駄というものです。最大の謎ともいうべき「子どもの王様」の正体も意外性の欠片もなく、他に読みどころがあるわけでなし、何をどう楽しめば良いのかさっぱり分かりませんでした。プロットも適当だし、ストーリーらしいストーリーもなく、盛り上がるシーンも皆無で・・・。これ以上書きたくないです。 | |||
| No.1193 | 6点 | 六花の勇者 4- 山形石雄 | 2020/10/12 22:28 | 
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| 「七人目」の脅威がいまだ残る六花の勇者たちは、ドズーの話から、テグネウの策略の一端を知る。「黒の徒花」とよばれる聖具が、「七人目」に関する重大な手掛かりであるというのだ。アドレットはその聖具が造られた神殿へ向かい、正体を暴くことを決める。一方、テグネウは六花の勇者を阻止するため、人間を兵器に作り替えた『屍兵』を動員する。『屍兵』の中にはアドレットの故郷の人間も含まれていることを知ったロロニアが『屍兵』を救う方法はないか、と言い出し…!?伝説に挑み、謎と戦う、圧倒的ファンタジー、第4幕! 『BOOK』データベースより。 約7年ぶりに本シリーズを再発進しました。このブランクがどう響いてくるのか不安はありましたが、徐々に記憶を辿りながら何とか違和感なく読むことが出来ました。やはり面白い。全編屍兵とのバトルに終始します。その中にもドラマ性がありつつ、ロロニア目線で描かれています。ロロニアの特性を生かし、アドレットの過去を探りながら、ある人物との友情を戦闘と並行して語られるという、それなりにドラマティックな展開となっています。 そして重要案件である「黒の徒花」と「七人目」の情報を物語の最後でアルドレットが知ることになり、次巻に興味を繋ぐ巧妙な結末を迎えるという、心憎い演出で締めくくられます。 このキャラはこんな感じだったのかと、思い出し手探りながらも楽しい読書の時間ではありました。7年経てもある程度憶えていたという事は、まあかなり印象深いシリーズだったのかなと思います。 | |||
| No.1192 | 6点 | 人面町四丁目- 北野勇作 | 2020/10/10 22:19 | 
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| 大災害に被災し、行き場を失った男が遺体安置所で出会った不思議な女――。いっしょに来る? その言葉に導かれ、女の故郷人面町で、いつしかともに暮らし始めた男が出会うこの世のものとは思えぬ異形のものたち。そして、曖昧な記憶の糸をたぐりよせ、男がたどりついた、哀しくも酷いあの日の事実とは!? 日常のすぐそばで、ひたひたと迫る恐怖を描く逸品。 Amazon内容紹介より。 一応ホラーで登録しましたが、ファンタジーやSF要素も多分に含まれた連作短編集。 雰囲気としては綾辻行人の『深泥丘奇談』シリーズに近いと思います。ただ流石に綾辻程の文学性やミステリ的趣向はありません。平凡な日常に突如として現れるとんでもない怪異を描いていますが、さして怖くはないです。オチもあったりなかったり、ホラーとして特記すべき点はあまり見られません。この作者特有の恐怖の中にほのぼのとした情感が感じられ、何とも言えないクセのようなものがありながらも、後を引かない印象の薄さが特徴でしょうか。悪く言えば、すぐに忘れてしまいそうな影の薄さですね。 ちなみに、レプリカメが登場した時は唖然としました。こんなところで北野ワールドを持ち出してくるのかと、ちょっと意表を突かれましたね。短編集というより長編で一話ごとに趣向が変わってくる感じですかね。何となく各話に相互の繋がりがありますし。 | |||
| No.1191 | 6点 | 阿弥陀- 山田正紀 | 2020/10/09 22:21 | 
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| 「恋人がエレベーターに乗ったまま戻ってこない」という男の訴えを聞いた警備員がビル内を捜すが女の姿はなかった。監視カメラの目をかいくぐり、ビルの外に出ることは不可能な状況。女の行方は、そしてなぜ姿を消したのか。本格ミステリーのひとつの到達点と称された傑作長編。 『BOOK』データベースより。 クイズやゲーム感覚で楽しめる本格パズラー。前置きなしにいきなりOLが密室状態のマンションから消えます。そして章ごとに謎が増え続け、一旦解決したりもしますが、肝心の謎は謎のままで、最終的にハウとホワイが残ります。怪しげな教祖の異臭騒ぎや銀行の騒音から全く別の事件が発覚し、ストーリーに広がりと変化が生まれます。舞台が固定されているので、その辺りの気遣いは嬉しいところ。 探偵役の風水火那子が提唱する仮説は、自身により否定され、謎=伏線が増えるばかりでなかなか真相に達しません。そして意外な事件の様相はかなり肩透かしを喰らった感じで、ここで評価は大きく分かれることになるでしょう。人間消失の方法はともかく、ホワイの方は俄かには納得し難いのではないかと思われます。 悪く言えば竜頭蛇尾でしょうが、途中の畳みかける謎の数々には眩暈がするほどで、パズラーとして、また多重解決物として十分に納得の出来ではないかと思います。 | |||
| No.1190 | 4点 | ゴーストケース 心霊科学捜査官- 柴田勝家 | 2020/10/07 22:18 | 
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| 地下アイドル・奏歌のCDが誘発する、ファンの連続自殺事件。CDの呪いの科学的解明に挑むのは、陰陽師にして心霊科学捜査官の御陵清太郎と警視庁捜査零課の刑事・音名井高潔のバディ。奏歌は自殺したアイドルに祟られているという。事件の鍵となる、人間が死後に発する精神毒素“怨素”を追って、地下アイドルの光と影に直面した御陵と音名井が導き出す「呪いの構造」とは? 『BOOK』データベースより。 二作目が良かったのでシリーズ一作目も期待しましたが、これは駄目ですね。第四章まではその世界観と登場人物の人となりを読者に知らしめるために費やされた、前振りのようなものです。その後漸く話が動き始めたかと思いきや、結末はややこしくスッキリしない、カタルシスを得られるものではありませんでした。それにしても読み難いのは、御陵の土佐弁ばかりではなさそうです。作者の力量が全然発揮されていない気がしてなりません。 キャラの魅力も伝わってきませんし、前半要領よく人物紹介がなされているとは思えません。これといった謎もなく、密室トリックも取って付けたようなチャチなものです。本来ならもっと盛り上がりそうな御陵があるアイドルの死に報いるべく、立ち上がるシーンなども何となく流されてしまい、ここは読者に感動を与える重要な場面だと、こちらも身構えて読みましたが、その素っ気無さにがっかりしました。 正直読む前から嫌な予感がしていましたが、それが当たってしまいましたね。 | |||
| No.1189 | 7点 | 妖琦庵夜話 空蟬の少年- 榎田ユウリ | 2020/10/05 22:40 | 
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| 妖怪のDNAを持つ存在、「妖人」。茶室「妖〓(き)庵」の主・洗足伊織は、すば抜けた美貌と洞察力を持つ妖人だ。人間と妖人とを見分けるその力で、警視庁妖人対策本部、略してY対の捜査に協力している。今回の仕事は、予言ができる妖人「件」を名乗る占い師の真贋を見分けること。その矢先、本物の「件」である、美しい女性占い師が殺されて!?伊織の「家族」で妖人の美少年、マメとの絆も描かれる、大人気妖怪探偵小説、待望の第2弾!! 『BOOK』データベースより。 一から十まで過不足なく描かれた本格ミステリ。ただ、人間の中に人間と変わらぬ姿の妖人が共存するという特殊設定の為、色物として捉えられがちだと思いますが、決してそうではありません。確かに変化球ではありますが、ちゃんとミステリとして成り立っています。例えばあのトリックを駆使している辺り、やはり只者ではないと断じて良いのではないでしょうか。 そして何よりも、前作に続く主要キャストのキャラの立ち方が素晴らしいです。それは犯人やサイドストーリーの主役や警察関係者にまで及び、どの登場人物も個性的に描かれています。特に豆洗い妖人のマメが全編に亘って癒しを与えてくれていて、非常に好感度が高いですね。 小説の出来としては前作と肩を並べる位の佳作であることは間違いないと思います。一つだけ不満があるとすれば、あまりに周りのキャラが目立ちすぎて、肝心の探偵役である伊織の存在感がやや薄目な気がすることでしょうか。他にはちょっとありきたりな物語であるようにも見える、くらいですね。個人的にはそこはあまり気になりませんでしたが。 | |||
| No.1188 | 6点 | ブルーマーダー- 誉田哲也 | 2020/10/03 22:38 | 
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| あなた、ブルーマーダーを知ってる?この街を牛耳っている、怪物のことよ。姫川玲子。常に彼女とともに捜査にあたっていた菊田和男。『インビジブルレイン』で玲子とコンビを組んだベテラン刑事下井。そして、悪徳脱法刑事ガンテツ。謎めいた連続殺人事件。殺意は、刑事たちにも牙をむきはじめる。 『BOOK』データベースより。 姫川玲子シリーズ第六弾。ど真ん中の剛速球でどストーレトな本格警察小説です。トリックとかフーダニットとか、そんな物クソ喰らえとばかりな、どこまでも真っ直ぐで由緒正しき警察小説。 物語は池袋署に異動になった姫川、中野警察署刑事組織犯罪対策課の下井、千住署刑組課強行犯捜査係所属、かつて姫川との因縁浅からぬ菊田和夫、犯人の一味らしき人物の四視点で語られます。それが次第に繋がっていき、最後に一つになった時一体何が起こるのか。そんなスリリングで残酷で清々しく、スピード感溢れる展開に酔い痴れる事請け合いです。何よりも骨太な骨格である事が素晴らしく、作者の本領を十分に発揮していると思います。 また、第一作の『ストロベリー・ナイト』と二作目の『ソウルケイジ』しか本シリーズを読んでいない私には、何故姫川班が分解したのか、姫川と菊田の関係はいつの間にこうなったのかが見えてきません。途中を飛ばした罰ですね。 相変わらずガンテツは美味しいところを掻っ攫って、しかも嫌味でアクの強さを遺憾なく見せつけてくれます。最後に井岡と國奥がちょっとだけ出てくるのも、懐かしさを覚えました。 参考文献の最後に差し入れの女王として知られた、竹内結子さんの名前があるのが涙を誘います。 | |||
| No.1187 | 5点 | 花物語- 西尾維新 | 2020/09/30 22:26 | 
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| “薬になれなきゃ毒になれ。でなきゃあんたはただの水だ”阿良々木暦の卒業後、高校三年生に進級した神原駿河。直江津高校にひとり残された彼女の耳に届いたのは、“願いを必ず叶えてくれる『悪魔様』”の噂だった…。“物語”は、少しずつ深みへと堕ちていく―。 『BOOK』データベースより。 阿良々木暦や戦場ヶ原が卒業した後、神原駿河が高校三年に進級した時の物語。やはり主役級の阿良々木、戦場ヶ原、羽川がいないと淋しいものがありますね。必然的に忍野忍も八九寺真宵らも出てきません。登場するのは、ここ大事なので、貝木泥舟と阿良々木火憐。新たなキャラが沼地蠟花、忍野扇。今一つ物足りませんね。 これは神原駿河の物語というより沼地蠟花の物語と言ってしまったほうがしっくりきます。よって、神原の最も重要な芯となる怪異に関しての記述が、あまりにも希薄過ぎると思います。確かに神原の内面は描かれていますが、あくまで彼女は狂言回し役として機能しているようなもの。そして、私がこれまで抱いてきた神原のイメージよりもかなり大人し目な人物のように感じられ、羽川の時のような魅力は認められませんでしたね。 ストーリーとしては相変わらず大した紆余曲折もなしに、単純明快である意味一本調子です。ただその描写力で圧倒しているだけで、内容としては面白いものではありません。忘れた頃に阿良々木暦が登場しますが、キーパーソンとしては描かれていません。まあ読者サービスのようなものかと。今回は神原の一人称が裏目に出た感じがしましたね。 | |||
| No.1186 | 5点 | 教祖誕生- ビートたけし | 2020/09/28 21:45 | 
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| 「教祖来る。神と出会う集会開催」手渡された一枚のチラシ。そして、目前で実演される感動的な奇跡。うぶな和夫は、インチキを信じ教団職員となるが、そこに宗教はなかった。初代教祖が亡くなると、実権を握る総務主管・司馬は、二代目教祖に和夫を抜擢した。彼は教祖の聖性を否定し、自らの力で完璧な唯一神を創造しようとしていた。「現代の教祖」が、神への試練に挑んだ長編小説。 『BOOK』データベースより。 冒頭のエピソードはその後の展開を期待させるに十分なものでした。しかし、いざ本編が始まると何となく流された感があり、今一つ盛り上がりません。教団職員になりたての和夫がいきなり二代目教祖に任命されるのもリアリティに欠けます。地味ですが、神と教団、教祖と神、教祖と教団の関係性に対する言及はたけしの宗教観や、神に対する思いがそのまま盛り込まれている感じがしました。 映画化されていますしDVDにもなっていますので、それなりに話題にはなったかもしれません。ただ、原作としては決して映像向きとは言えないと思います。 主人公の和夫よりもアクの強い司馬のほうが実質的に主役でしょう。彼の言動は作者の人生観がそっくり乗り移っている気がします。教団内には様々な人間が存在しており、考え方の違いでぶつかり合う場面が多く、そういったシーンが一つの読みどころとなっていますね。 解説は現在日本最大の教団にも触れており、その部分はなかなかの英断だと思いました。 | |||
| No.1185 | 6点 | 平成都市伝説- アンソロジー(国内編集者) | 2020/09/27 22:59 | 
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| 口裂け女、発条足男、学校の怪談などの都市伝説をモチーフにした平成時代のホラー短編集。作家陣は斎藤肇、奥田哲也、牧野修、田中啓文、友成純一ら九名。 真正面から都市伝説に取り組んだと言える作品はほとんどなく、どこかしら捻りを加えて作者なりの色を出そうとしている姿が微笑ましいです。中にはただのホラーじゃないかとも思える作品もあり、取り立てて都市伝説にこだわる必要はなかった気もします。 例えばやや期待していた斎藤肇の『名残』は単に幽霊同志のやり取りを淡々と描いただけの凡作で、もはやこの人は作家として終わっているのではないかと思わせるような不出来です。 逆に面白かったのは梶尾真治の『わが愛しの口裂け女』。死を目前にした父が語る失踪した母との思い出を語り、最後には口裂け女の本領を発揮した感動すら覚える魅力的なホラーに仕上がっていると思います。 また田中啓文の『読むなの本』もなかなかの出来。いじめに遭っている小学二年の幾人が逃げ込む図書室で出会った不思議な体験を描いています。そしてラストはやはり得意のダジャレが炸裂します。しかし流石に読ませる力は見るべきものがありますね。 友成純一は初めて読みますが、噂に違わず相当グロイです。他は可もなく不可もなしといったところ。まあ全体としてはそれなりに楽しめました。 | |||
| No.1184 | 6点 | 明石家さんま殺人事件- そのまんま東 | 2020/09/25 22:41 | 
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| 前作に続き今回は明石家さんま。そのまんま東、軍団の連中が、今度はディレクターに謎の脅迫状を送り、さんまを騙そうと画策するが、それが本当の事件に発展し、さらに事件は連続性を帯びてくるが・・・という内容。 明石家さんまばかりにフォーカスが当てられ、何だかアンバランスな印象を受けました。その分、さんまの人間性や日常の姿が克明に描かれて、その筋のファンには受けたかもしれないと思われます。それにしても当時は人気が最盛期の頃で『あっぱれさんま大先生』『笑っていいとも』『さんまのまんま』などさんまが出演していた帯番組が幾つもあったなと思い出しました。 一応本格ミステリですが、例えば密室トリックなどはかなり無理筋ではないかと言う気はします。発想は面白いんですが、リアリティのなさはやり過ぎ感が漂いますね。ラストは結局そういう事なのね、で納得。東、やりたい放題だなと思いました。今回は軍団の影がかなり薄く、ユーモアも前作の半分程度、奇想も今一歩発揮できていないと感じます。さんまの表情がしつこい位描写されており、それが一応伏線にはなっています。そして黒幕はさんまなのかどうかは別として、とにかくさんまありきの作品であるのは間違いないですね。 | |||
| No.1183 | 6点 | 魔剣天翔- 森博嗣 | 2020/09/24 22:32 | 
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| アクロバット飛行中の二人乗り航空機。高空に浮ぶその完全密室で起こった殺人。エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣をめぐって、会場を訪れた保呂草と無料招待券につられた阿漕荘の面々は不可思議な事件に巻き込まれてしまう。悲劇の宝剣と最高難度の密室トリックの謎を瀬在丸紅子が鮮やかに触き明かす。 『BOOK』データベースより。 本シリーズは初ですので、誰が探偵なのかすら知らないまま読み始めました。正直全体的に冗長な感が否めません。特に伏線となる描写もないまま、余分とも思えるエピソードがあったりして、水増し感が感じられます。その割に解決編がいかにも呆気なさ過ぎてなんだか盛り上がらないですね。終盤のある人物の独白が島荘ばりで最も読み応えがありました。それにしても動機はどうなってるんでしょう。単なる読み落としですか。トリックとしては面白いと思いましたけど、わざわざそんな突飛で派手なシチュエーションで殺人を犯すかなという気もします。 これまでも再三書いてきましたが、どうも森博嗣の文章には感情が篭っていないというか、血が通っていない感じがして仕方ありません。だからグッと来るものが無いんじゃないでしょうかね。誰にも感情移入できませんでしたしね。ファンにとってはそこが良いんじゃないか、って事になるのかも知れませんけど。 | |||
| No.1182 | 8点 | 夢をかなえるゾウ- 水野敬也 | 2020/09/22 22:12 | 
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| 「お前なぁ、このままやと2000%成功でけへんで」ダメダメなサラリーマンの前に突然現れた関西弁を喋るゾウの姿をした神様“ガネーシャ”。成功するために教えられたことは「靴をみがく」とか「コンビニで募金する」とか地味なものばかりで…。ベストセラー『ウケる技術』の著者が贈る、愛と笑いのファンタジー小説。 『BOOK』データベースより。 自己啓発本と聞いて良いイメージを持つ人は少ないと思います。正直私も胡散臭い、怪しいと考えていました。しかしAmazonでのレビューが現時点で2288という桁違いの数を数えているのを知り、興味を持ちました。で読んでみると、実際面白い。途中何度も笑えます。何より、成功する為の秘訣を伝授する側と伝授される側の両面から描いているのがフェアな感じがして好感が持てます。サラリーマンは何度もこんな事で本当に自分は変われるのだろうか、と自問します。それでも一つ一つの課題をこなしていく内に次第に変わっていく自分を発見したりもしていて、なるほどと思わされてしまうのは、私だけではないはず。 啓発の提示そのものは勿論、小説としてしっかりと成立しており、非常に楽しめると思います。著者は小説家のセンスも持っているのか、シリーズを通してとんでもないベストセラーを叩き出しており、大衆受けするのは間違いないと思いますね。洗脳?いえいえとんでもない。おそらく全課題を実行すれば、確実に自分を変えることが可能と断言しても良いです。まあ、その課題をいくつクリアできるか、実際私には僅かしか出来ないかも知れません。それじゃダメじゃんってことですけど。そんなものですよ。作中にも書かれていますが、自分を変え成功するのは容易ではない訳です。 ただ、自分は読んで楽しめれば何でもOKなので、問題ないですけどね。出来ればもっと若い頃に出会いたかった一冊と言えそうです。世界的に有名な偉人が42人も出てきます、それだけでも凄いのに釈迦がガネーシャの友達として友情出演しており、そこが一番笑えましたね。 | |||
| No.1181 | 6点 | “文学少女”と慟哭の巡礼者(パルミエーレ)- 野村美月 | 2020/09/21 22:12 | 
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| もうすぐ遠子は卒業する。それを寂しく思う一方で、ななせとは初詣に行ったりと、ほんの少し距離を縮める心葉。だが、突然ななせが入院したと聞き、見舞いに行った心葉は、片時も忘れたことのなかったひとりの少女と再会する!過去と変わらず微笑む少女。しかし彼女を中心として、心葉と周囲の人達との絆は大きく軋み始める。一体何が真実なのか。彼女は何を願っているのか―。“文学少女”が“想像”する、少女の本当の想いとは!?待望の第5弾。 『BOOK』データベースより。 今回は宮沢賢治『銀河鉄道の夜』。これを読んでいないとやや不利だと思われます。ジョバンニとカムパネルラの関係性を理解していないと、分かりづらい点がありそうです。『銀河鉄道の夜』と作中の心葉の書いた小説と、実際の心葉と美羽の関係が最終章でちょっとごちゃごちゃした感じで語られるのが、感動に水を差している気がしてなりません。 第一作からここまで引っ張ってきた、美羽の自殺未遂の謎。そして何故心葉は小説を書いたのかというホワイダニットは予定調和と言うか、あまりに呆気なさ過ぎて拍子抜けの感が否めません。まあ美羽の揺れ動く気持ちには心が痛みますし、心葉の抜き差しならない状況にも同情は禁じ得ませんけど。 ただ、全ての登場人物にしっかりとした役割が与えられており、単なるキャラの魅力だけでは終わらない物語が紡がれている辺りは流石だと思います。 それにしても、いきなり心葉くんと琴吹さんがいつのまにこんな雰囲気になっていたのか、ちょっと解せません。まあ、それを書く枚数が足りなかったと思いたいですね。 | |||
| No.1180 | 7点 | GOTH モリノヨル- 乙一 | 2020/09/20 22:52 | 
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| 第3回本格ミステリ大賞受賞のほか「このミステリーがすごい!」第2位など話題をさらい、合計100万部を誇る乙一の代表作「GOTH」。2008年12月20日から全国公開される映画「GOTH」の試写を観てインスピレーションを受けた乙一が、急遽、「GOTH」の後日談と言える新作小説を書き下ろした。 単行本刊行から6年、執筆時から7年ぶりのことであり、旧作を振り返らないことで知られる乙一にとって、今回の書き下ろしは非常に稀有なことといえる。 ―12月のある土曜日、森野夜は人気のない森に入っていく。そこは7年前に少女の死体が遺棄された現場だった。「死体をふりをして記念写真を撮る」つもりだった彼女は、誰もいないはずのそこで、ある男に出会う―。 Amazon 商品紹介、内容紹介より。 再読です。前回は文庫本でしたが、今回は単行本です。何が違うのかと言うと、文庫本にない写真が掲載されている点です。ちょっとした写真集が半分を占めており、装丁としては珍しい部類だと思います。 読み始めた段階であれ?という感覚がありましたが、やはり読み進めるうちに内容を完全に思い出しました。新鮮さという点に於いては初読の際に感じた衝撃は薄れていたものの、じっくり噛み締めるように読ませていただきました。一つ一つの言葉のチョイス、情感、浮かび上がる情景、独特の雰囲気など確かに胸に迫るものがありましたね。ホラーと思わせておいて、紛れもない本格ミステリだということだけは断言しておきます。 後半の写真は、おそらく森野夜という少女を想定したものと思われます。 モデルの女性(高梨臨)は、少女と言うには大人びており、本来黒髪のはずがやや濃いめの茶髪で、前髪あり、目力に満ちて、鼻筋は通って鼻梁は大きからず小さからず絵にかいたような美麗さで、唇は若干ぽってりとして肉感に溢れている、可愛いというより綺麗な印象です。森野を意識して無表情で様々な角度で撮られています。身長は高めと感じました。黒いセーラー服が似合っていると言えなくもないです。ただ、モノクロ写真でどうでもいいような、ネクタイを弄るアップが連写されていたりするのは余分だと思いますね。 | |||
| No.1179 | 7点 | AX- 伊坂幸太郎 | 2020/09/19 22:41 | 
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| 「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐために仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。物語の新たな可能性を切り拓いた、エンタテインメント小説の最高峰! 『BOOK』データベースより。 第一話、第二話を読み終えた時点で、殺し屋が主人公なのになんだかアットホームな話だなーと思い、第三話でおっ?となり、次でおおっ!ラストでうーむとなりました。そう、要するに一話二話は助走であり布石なのであります。ですから、そこでがっかりする必要ありません。その後に期待に違わぬ感動が待っているのですから。 私も一人の友達もいなくても自分は幸せだと、言ってみたいものだと思いますね。登場人物は少ないものの、それぞれ個性的でどこに殺し屋が転がっていてもおかしくない世界なのに、境遇はともかく人間は人間なんだと思わせる説得力があります。ただ一人、謎の医師は静かな迫力を持っていて異彩を放っている以外は。 まあ世間では伊坂を何かと過大評価しがちな、勝手な印象を私は持っていますが、本書はさすが人気作家の面目躍如していると思いました。本サイトでも高評価なのも納得の出来ですね。いろんな要素が詰まった、バランスの取れた良作です。 | |||