皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.1161 | 7点 | 地獄の門- 法条遥 | 2020/08/12 22:09 |
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突如、地獄に落とされた良太。当惑する彼が美しき悪魔から知らされたのは、自分が何者かによって殺されたという事実だった!だが彼は、密かに、そして綿密に、犯人への復讐を企てる。―悪魔を騙すのだ。記憶を持ったまま転生し、『奴』を討つために。一方現世では、恋人であり刑事の愛が、良太殺害犯への憎悪をたぎらせていた。地獄と現世、2つの世界が織りなす物語が迎える、驚愕の結末とは!?異色のホラーミステリ。
『BOOK』データベースより。 美しい。構築美ですね。 隅から隅まで計算されつくされた緻密なプロットには脱帽です。物語は二人の主人公、佐藤良太の地獄篇と三浦愛の現世篇とが交互に同時進行し、それぞれが何らかの思惑を抱えて謎めいた動きを見せます。しかし、読者にその狙いを悟らせることなく、刻々とカタストロフィに向かって確実に進みます。あれこれ書くとネタバレになりますので、これ以上は無粋というものでしょう。 多分読み返してみると、そこここに伏線が張り巡らされているものと思われます。何に対する伏線なのか、それはここでは言えません。まあとにかく読んでみていただきたいですね。折角の傑作なのに、あまりに世に知られてなさすぎかと感じます。古書店ででも見つけたら速攻で購入されることをお勧めします。私自身、これほど面白いとは想像も出来ませんでしたけどね。 |
No.1160 | 5点 | 少女と武者人形- 山田正紀 | 2020/08/10 22:19 |
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「武者人形の剣に血が噴きだしてきたとき、人が死ぬ……」母親と弟の事故死。少女のなかで武者人形と葬式がひとつに重なった。そして別荘での父と叔母の情事──思春期の少女の、揺れ動く複雑な心理と夢魔の世界を描く「少女と武者人形」。ネコをかわいがっている家に赤ん坊が生まれると、ネコと赤ん坊で“運”をとりあい、ネコが死ぬ。でもネコの“運”が赤ん坊の“運”に勝ったとしたら──「ネコのいる風景」など、「奇妙な味の小説」十二篇を収めた直木賞候補の連作短篇集。
Amazon内容紹介より。 可もなく不可もなくって感じです。どれも面白くない訳ではないけれど、凄く面白い訳でもない、オチも気が利いていたりオチが無かったり。どこが直木賞候補になったのか私には理解できませんが、その個性のなさやアクの強くないところが評価に繋がったのかも知れません。ホラーっぽかったり、不条理小説だったり、奇妙な味であったり、まあ様々なシチュエーションで色を目先を変えようという努力は買えますかね。 個人的に良かったと思うのは『友達はどこにいる』『猫のいる風景』『ねじおじ』『ホテルでシャワーを』『ラスト・オーダー』辺りです。 これといって群を抜いている作品は見当たりませんが、平均的にまずまずだと思いますね。山田正紀にしては読みやすかったのが救いでしょうか。しかし、単行本(文芸春秋)から文庫化(集英社)されたのは、それなりに売れると見込んでの事でしょうから、全く読む価値がないとは思えません。暇潰し程度には良いのかも。 |
No.1159 | 7点 | 殺人都市川崎- 浦賀和宏 | 2020/08/09 22:21 |
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治安が悪く、地獄のような街で地べたを這いずって暮らしていると考えていた俺は間違っていた。出会ったら命がないと言われる、伝説の殺人鬼・奈良邦彦。本当の地獄は、あいつとの出会いから始まった。彼女を、そして両親を殺された俺は、それからも執拗に奈良に狙われ続け……。41歳の若さで急逝した天才作家・浦賀和宏氏最大の問題作、最期の挑発&最後の小説。
裏表紙より。 遺作、或いは最後の小説。『デルタの悲劇』が先だったのか後だったのかを私は知りません。しかし、いずれにしてもこれより先はもう浦賀和宏の新作を読むことは誰にもできません。 さて、この小説は浦賀らしさが随所に出た、彼の作品の中でも異色の部類に入るのではないかと思っています。スプラッターが目立つのは新味と捉えるべきでしょう。新シリーズとして発進した本作なので、どこかしら未完に終わっているのではないかとの危惧もありましたが、それは杞憂に終わりました。 殺人鬼奈良邦彦がシリーズを通して出現するという設定だったらしいのです。それが毎回同じ人物なのか、そうでないのかを知るすべはありません。問題作と言えば、そうなのでしょう。しかし、浦賀の作品は問題作だらけなので、ひと際目立つ存在だとは思いません。それでも最後の作品に相応しい小説に仕上がっていると私は感じます。気を付けたいのは、川崎へのディスり方が半端ないってことです。 どこか自身の某作品に似て、ラストは世界がでんぐり返しを起こし、足元が崩れ落ちる感覚を体験できます。それはある既視感に近いものがあり、私自身には好ましく感じられましたが、大方の読者はそれまでの話は何だったんだ、と思う事でしょう。これが浦賀ですよ。おそらく誰も7点以上は付けないでしょうが、私は胸を張ってこの点数を献上したいと思います。この世界の片隅に蹲る一ファンとして。 |
No.1158 | 6点 | 千葉千波の事件日記 試験に出るパズル- 高田崇史 | 2020/08/07 22:35 |
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あの「QED」シリーズの高田崇史が贈る、上質の論理パズル短編集。背スラリ、髪サラリの天才高校生・千波くんが、浪人生の“八丁堀”たちと共に、鮮やかに難問を解き明かす。解説の森博嗣氏絶賛の「夏休み、または避暑地の怪」から、書き下ろし作品「誰かがカレーを焦がした」まで全5本を収録。著者がパズラーとしての本性を剥き出しにした野心作。
『BOOK』データべスより。 各話に散りばめられたパズルについては、面倒なので本気で解く気にはなれませんでした。元々脳が理系にできていないし、論理的に物事を脳内で思考できないので、私にはどうかなと考えていましたが、読んでみるとそういった煩わしさを感じることもなく楽しめました。何もややこしいパズルばかりが本題ではなく、普通に日常の謎を紐解くパズラーとして十分機能しているので、理系脳じゃなくても面白く読めると思います。 千波くんと二人の大学浪人慎之助、ぼくことぴいくんの三人の遣り取りがとても楽しめます。各短編がそれぞれきっちりと登場人物を描き分けられていて、混乱することもなくすんなりと頭の中に入って来ます。千波くんの推理が偶然当たってしまうこともありますが、それはそれとして彼はしっかりと名探偵ぶりを発揮していることは間違いありません。 巻末の森博嗣の解説は、何書いてるんだろうと、少しだけ思いました。作家が解説を書くとどうしても思い入れが強くなり、独りよがりになりがちなことが多々あり、どうにも感心しません。個人的には要らなかったような気もします。それと、パズルの解答があとがき風に提示されています。親切ですが、半分はさっぱり解らなかったというのが本音。一番面白かったのは、アルファベットを二つに分ける問題かな。 |
No.1157 | 5点 | 桐谷署総務課渉外係 お父さんを冷蔵庫に入れて!- 加藤鉄児 | 2020/08/05 22:26 |
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稀代の名優・十文字豪の「遺体」が誘拐された?!テレビ中継される葬儀を前に奪還が急がれるが、豪の娘で「刑事嫌い」の凛子は刑事課の協力を断固拒否。代わりに通称「クレーム係」こと総務課渉外係の吉良と、新人の真知子が犯人との交渉役に駆り出される。5761万7559円との奇妙な身代金を要求されるなか、刻一刻と腐敗が進む「人質」の奪還は間に合うのか!「お願い、お父さんを冷やして!」
『BOOK』データベースより。 タイトルが・・・ちょっと違うような気がします。想像していたのとかなりの隔たりがありますね。『お父さんを冷蔵庫に入れて』という子供の願いの様にも取れるタイトル、勘違いを生みます。遺体の身代金という新しい試みではありますが、謎という点では物足りません。何故半端な身代金なのか、遺体を如何に気づかれずに入れ替えるのか、身代金の受け渡しの方法は、辺りに興味は向きます。 意外と重要な双子の姉妹の動向には注意が必要です。犯人側からも描写されていますので、倒叙物としても捉えることが可能です。そして冒頭の遺体の引き取りシーンには多大な疑問が湧き起こり、物凄く違和感を覚えますね。そんな事って果たしてあるのかなって。 【ネタバレ】 犯人は現金を仮想コインに換金して、その大半を手にすることになります。この手法は誘拐物としては新味を出していると言えるかもしれません。が、最も肝心の遺体の入替に付いて、サラッと流し過ぎでしょう。そんなに簡単に出来るはずがないじゃありませんか。人の眼が全くないとでも?そこは大いに不満に思うところです。 又前述のように、誰も「お父さんを冷蔵庫に入れて」などとは言ってません。衝撃的なタイトルを付けたほうが売れるとでも考えての事と思いますが、色々誤解を生むので、そこのところ留意していただきたかったです。警察内部に軋轢があるのは理解できますが、刑事課と総務課が同時に別の動きをするのはどう考えてもあり得ないと思いますが。 |
No.1156 | 7点 | 小説スパイラル 推理の絆2 鋼鉄番長の密室- 城平京 | 2020/08/02 22:15 |
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四十五年前、密室で死んでいた鋼鉄番長は自殺だったのか、他殺だったのか?歩とひよのは謎の美少女・牧野千景のために、「熱き番長の時代」を揺るがす密室を開くことに…。果たして「鋼鉄番長の密室」は開くのか!?そして開いた先にあるものは!?ガンガンNETにて大好評掲載中の「名探偵鳴海清隆~小日向くるみの挑戦~」から一編も同時収録。
『BOOK』データベースより。 前作より一段階レベルが上がった作品に仕上がっています。ダサいタイトルですが、これがまた読ませます。番長三国志時代とか、作中で歩にうんざりさせたりするお茶目な一面も見せます。所謂自虐ネタと言いますか。それでも大真面目に書かれていて、好感が持てると同時にグイグイと物語に引き込ませる吸引力を持っていると思います。 密室の謎を一人で多重解決していますが、どれもよく考えてあり、結局いずれの解釈が正しかったのかは読者に秘せられていて、お好きなものを選択できるように出来ています。個人的には意外性の点から最初の推理を推薦しますね。 中編の『殺人ロボの恐怖』、これもまた良いですねえ。むしろこちらの方が本格度が増して、私としては本編よりも高得点を上げたいところです。バラバラ死体物の新たなバリエーションとして、評価したいと思います。所詮元ネタはコミックスだろうと相手にしない読者は、一度読んでみると出来の良さに驚くはず。ですが、犯人の意外性はありませんのであしからず。 |
No.1155 | 5点 | 皇帝の新しい服- 石崎幸二 | 2020/07/31 22:25 |
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瀬戸内海の島に代々伝わる、名門美蔵家・婿取りの儀式。櫻藍女子学院高校ミステリィ研究会・お騒がせトリオのミリア、ユリ、仁美は美味しい海の幸に目がくらんで、サラリーマン兼ミス研特別顧問の石崎を花婿候補に仕立てて島へ向かうことに。だがその儀式では過去数回にわたり殺人事件が発生し、いまだに真犯人が捕まっていない。さらに、石崎のもとにまで差出人不明の脅迫状が届く!惨劇は繰り返されてしまうのか。
『BOOK』データベースより。 深月仁美って誰だよ、やっぱりシリーズ物は順を追って読まなきゃダメだね、と思った一冊でした。まあ別に仁美の登場時から読まなければ訳解らないとは言えませんけど。 孤島物の割にショボイ謎とショボイ真相、ややこしい謎解きが終わっても決してカタルシスは得られません。現在進行形の事件がメインではなく、あくまで過去の事件をどう解決するかが命題であり、第一から第四まで事件のてんこ盛りに見えますが、犯人の狙いも概要も画一的で、大して魅力的なものではありません。 ミリアとユリは相変わらずですが、今回は心なしかややボケとツッコミのキレが悪くなっている気がします。事件が解決しても、まあそんなところだろうな程度にしか思えません。ミステリとしては小粒感が否めず、まあまあとしか言いようがないですね。 |
No.1154 | 5点 | ハムレット狂詩曲- 服部まゆみ | 2020/07/29 22:14 |
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『劇団薔薇』新劇場のこけら落としで、「ハムレット」の演出を依頼された、元日本人で、英国籍を取ったケン・ベニング。ケンにとって、出演者の一人である歌舞伎役者の片桐清右衛門は、母親を捨てた男だった。ケンは、稽古期間中に、清右衛門を殺そうと画策するが…。様々な思惑の交錯、父殺しの謎の反転、スリリングな展開。結末は…真夏の夜の夢。
『BOOK』データベースより。 本サイト、Amazon、読書メーターと例外なく評価が高いですが、個人的にはそれほどとは思いませんでした。正直どこがこれ程評価されているのか不思議で仕方ありません。終盤まではかなり退屈でしたし、最終局面まである事実を引っ張り過ぎじゃないですか。シェイクスピアにも歌舞伎にも興味がありませんので、その意味でも楽しく読めたとは言い難かったですね。そして、倒叙物でありますが、清右衛門を殺そうとするケン・べ二ングの怨嗟がこちらに伝わってこないのにも不満が残ります。その殺害方法も行き当たりばったりで、計画性の欠片もありません。 皆さん書いておられるように、結末は爽やかさを感じます。サスペンスにしては珍しい後味の良さだと思います。ただ、やられた感はあまりありません。言ってしまえば、単純な構図でわざわざ長編でやるようなネタではない気がしますね。 私的には、プロット、リーダビリティに難ありと言いたいです。ですが、あくまで少数派の意見ですので、私の書評は参考にならないかも知れません。おそらく1%に満たない批判的感想だと思います。 |
No.1153 | 4点 | 星の感触- 薄井ゆうじ | 2020/07/27 22:47 |
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変わりたいと望みながらも「逸脱」できずにいる良治が出会ったのは、二メートル六十七センチの大男・猫田研一だった。さらに「成長」を続ける彼の身長は、ついに八メートルを越してしまう。その時、研一の恋人・伊藤タマコは、そして良治は…。心が目覚め、あなたが変わる。「自分革命」を起こす成長と癒しの物語。
『BOOK』データベースより。 何もかもが中途半端な感じです。どうにも食い足りないんですよ。主要登場人物四人の心の中に今一つ踏み込めていないので、感情移入も出来ないし、魅力を感じません。そして話のスケールももっと大きく奇想天外なものだと勝手に想像していたので、その点でも裏切られました。どこに焦点を置くでもなく、なんとなく物語が進行してしまって、何に感動すればいいのか分からないですね。荒唐無稽な話なのに、ドラマチックでもなくエキサイティングでもない。淡々としています。せめて何かの大きな事件が起こったりすれば、抑揚も付いたかも知れませんが、それもなし。 しかも、良治、タマコ、研一の妹七海に起こるちょっとした異変に何の解釈もなされていないのにも不満が残ります。作中では一応「成長」する過程での痛みとされていますが、納得できませんね。 余程感受性の強い読者なら、色々琴線に触れる部分があるのかも知れませんが、私には心に刺さるものが見当たりませんでした。ただ、一瞬を切り取った雨の情景などにはハッとさせられるものもありましたけど。 |
No.1152 | 6点 | 正月十一日、鏡殺し- 歌野晶午 | 2020/07/25 22:25 |
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彼女が勤めに出たのは、このままでは姑を殺してしまうと思ったからだった―。夫を亡くした妻が姑という「他人」に憎しみを募らせるさまを描く(表題作)。猫のように性悪な恋人のため、会社の金を使い込んだ青年。彼に降りかかった「呪い」とは(「猫部屋の亡者」)。全七編収録。鬼才初の短編集を、新装版で。
『BOOK』データベースより。 作を追うごとに悲惨な話になっていく、ホラー風味のミステリ七編。最初の『盗聴』辺りは比較的真っ当で後味も悪くはないですが、他はブラックで陰鬱な雰囲気の漂う作品が目立ちます。もう少し捻りが欲しいところですね。良くも悪くも歌野らしい短編が並んでいると思います。結局最後の表題作に根こそぎ持っていかれましたけど。これを読むと他の作品が霞んで、一瞬全て忘却の彼方に追いやられると言うか、他はどうでも良くなってしまうような感覚を覚えますね。 ですから、この6点という評点は表題作が支えていると言っても過言ではありません。逆に言えばこれが無かったら5点でしたね。特に『記憶の囚人』は意味が解りませんでした。内容が頭に入って来ませんでした。いつも思うんですけど、この人の文章はあまりプロらしくない気がして仕方ありません。まあ私だけだけでしょうけど。 |
No.1151 | 7点 | 永遠の殺人者- 小島正樹 | 2020/07/23 22:35 |
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“やりすぎミステリー”の旗手が贈る、100パーセントの推理小説!“血の池”に浸かった死体には両手首がなかった。難事件に挑むのは、孫におんぶされたおばあちゃん!名刑事の未亡人・城沢薫の“位牌推理法”が炸裂する!?
『BOOK』データベースより。 明らかにやり過ぎですね。謎だらけの怪事件にどう決着を付けるのか、非常に興味を持って読み進めることが出来ました。浴槽の血の池に浸かった、両手首のない死体はさらに第二第三の見立て連続殺人事件に発展します。これでもかと不可解且つ不可能犯罪の連打に、眩暈すら覚えます。しかし、シリアスばかりではなくユーモアも多分に含まれており、特に移動中は常におんぶされているおばあちゃん探偵城沢薫、その孫で薫を背負う拓、謎めいた過去を持ち単独行動を好む刑事安達、その相棒で様々な事件に振り回される由貴野の四人は、それぞれ個性的で優れた描写力でもって描かれています。 ミスリードを施して読者を翻弄し、大逆転を狙う作者の手腕には呆れました。ツッコミどころは多々あるものの、大技小技のトリックは尽きることなく溢れ、やがて二転三転する真相に読者は必ずやアッと声を上げることになるでしょう。それまで観ていた景色が一瞬で様変わりするラストには驚嘆するしかありません。 正直、誰が犯人なのか途中で予想が付いた気でいた自分が情けないです。 |
No.1150 | 6点 | ミステリー傑作選・特別編5 自選ショート・ミステリー- アンソロジー(出版社編) | 2020/07/20 22:31 |
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赤川次郎から皆川博子まで、現代日本を代表する33名の作家が、自ら選んだマイ・ベスト・ショート・ショート。本格推理から幻想譚、変愛ミステリーにホラー等々、どこから読んでも面白い、何度読んでも愉しめる、絶対お得な超豪華アンソロジー。単行本未収録作品を多数収めた永久保存版。
『BOOK』データベースより。 様々な小説雑誌や機関誌などから集められたショート・ミステリ。寄せ集め感はあり、本格っぽい物からホラー、時代小説、サスペンス、ハードボイルドなどジャンルも色々。流石にこの枚数で本格ミステリはなかなか書けないものと見え、そちら方面を期待すると裏切られるかも知れません。 大御所から名前も知らなかった作家まで、幅広く収録されています。 あまりに短かいためネタバレになりますので、内容は紹介できませんが、個人的に良かったと思うのは、夏樹静子、はやみねかおる、霞流一、斉藤伯好、左右田謙辺りですかね。でもマイ・ベストという割りにはそこまで力作揃いとは思えません。 |
No.1149 | 7点 | CUT- 菅原和也 | 2020/07/18 22:44 |
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キャバクラのボーイ・透は、キャバ嬢・エコの送迎中に、路上で首なし死体に遭遇してしまう。動揺する透に、エコは「死体の首を切断する主な理由」を淡々と講義し始めるのだった。透は過去に弟を亡くして以来、消極的な人生を送っていたが、エキセントリックなエコに引っ張られるように、事件の捜査に巻き込まれていく―。最後のページを読み終えた時、最悪の絶望が待っている。横溝賞史上最年少受賞者が放つ、二度読み必至、驚愕の本格ミステリ。
『BOOK』データベースより。 最初から作者の意図は察していたので、どこでどんな伏線を張ってくるかなと思いながら読み進めました。やや弱いと思われる部分もありましたが、「重力密室」などはなるほどそう来ましたかって感じでニヤリとさせられました。 スイスイと読めますし、横溝正史賞受賞作よりも随分こなれた文章になっていると思います。探偵役のエコは可愛げがないものの、どこか親近感を覚えて個人的にはかなり好感度が高かったですね。いきなり冒頭で登場する首なし死体を前にして、冷静に切断する理由を三つに分けて語り出す奇矯さに、唖然とさせられます。がその後の人物描写には変わり者という以上に、逆に人間臭さを覚えたりもします。 【ネタバレ】 最後は後味の悪さが残りますが、結局首を切断する理由は単純なもので、鑑識か司法解剖でその痕跡を暴けたはずなのではないかと疑問に思います。作者としては周到に仕掛けを施したつもりかも知れませんが、ミエミエですね。それでも十分楽しめたのは、途中であれ?と思わせてくれるので、ひょっとして自分の思い違いなのかと若干でも疑ってしまったためです。でも結果そのまんまだったのは、ちょっぴり萎えましたけどね。 |
No.1148 | 6点 | トップラン 最終話 大航海をラン- 清涼院流水 | 2020/07/17 22:12 |
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2001年1月1日―新世紀の到来と同時に、世界は神々しいまでの輝きに包まれる。20世紀までに書かれたあらゆる小説ジャンルと隔絶する方法論でつくられた新しい物語。21世紀「娯楽小説以降」を鮮烈に印象づける書き下ろし文庫シリーズ『トップラン』完結作にして、清涼院「流水大説」の揺るぎない到達点。問答無用の最高傑作、ここに誕生。
『BOOK』データベースより。 傑作『コズミック』に通じるものがある事に好感を抱く一方、そのスケールの大きさに付いて行けない自分がいるのも実感しました。そこまで話を広げるか、というのが率直な意見。ただ、これまで様々な謎を孕んだ物語に終止符が打たれるのに相応しい内容だったとは思います。そして、一応すべての謎に回答が提示されています。 一つだけ、何故恋子だったのか?という素朴な疑問は不透明で、やはり狙いは別にあったという事なのか、言明されていないのが不満です。 トップラン・テストに始まったシリーズですが、このテスト、相手の狙いをある程度推察すれば、誰でも高得点が得られるところに捻りが加わっていなかったのは、ダメじゃないでしょうか。結局作者の自己満足の為に書かれた本作であり、自画自賛してこれまでの最高傑作と称していますが、それは客観的な事実とは異なると言わざるを得ませんね。あくまで本シリーズの売り上げに少しでも貢献するための方便だと思います。そりゃ誰でも作家たるもの自身の書いた作品が可愛くないはずがないでしょうけど、己の感情に本当に正直なのか疑問を覚えるところです。まあ努力賞として6点付けますけど。 |
No.1147 | 5点 | トップラン 第5話 最終話に専念- 清涼院流水 | 2020/07/15 22:58 |
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水面下での駆け引きが次々と暴かれ、嘘つき勝負「一巻の終わりクイズ」は意外な終幕を迎えた。「よろず鑑定師」貴船天使は夜闇に姿を消し、謎の女・孤森ヒカルの影が見え隠れする。トップラン・テストの「M資金」「Y3K―西暦3000年の問題」とはなにか?残すは最終話のみ。20世紀にとどめを刺す書き下ろし文庫シリーズ第5話。
『BOOK』データベースより。 一巻の終わりクイズの最終局面を迎えます。残ったのは二人、恋子と少年狼。ここで物語はクライマックスに達する頃になります。前話で姿を現すかに見えたキツネ目の天才少女、狐森ヒカルは結局未だその正体さえ明らかにならず、期待に反して大した役割をしているようには思えませんでした。その後消えた貴船天使を追って、恋子の叔父で探偵の笙造が決着を付けるかと思われたが・・・。 しかし、謎の全貌はまだまだ明かされず、貴船天使の正体、どんな狙いがあって恋子にテスト、クイズを仕掛けたのか。背後にはまだ何かありそうですが、果たして最終話で全てが収束されるのか、不安でいっぱいです。現在その最終話を読んでいるところですが、一向に物語が進行せずイライラ感が募っています。 清涼院流水の最高傑作と言う人もいますが『コズミック』を超える作品は今後も書かれることはないでしょう。 |
No.1146 | 6点 | トップラン 第4話 クイズ大逆転- 清涼院流水 | 2020/07/13 22:30 |
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トップラン・テストに関するすべての秘密が解き明かされる時が来た。「よろず鑑定師」貴船天使の紹介で、音羽恋子たち関係者一同は「少年狼」と衝撃的に出会う。時間と大金を賭けた嘘つき勝負「一巻の終わりクイズ」をめぐり、虚々実々のかけひきが繰り広げられる。舞台は整い、役者は揃った。盛り上がり最高潮の書き下ろし文庫シリーズ第4話。
『BOOK』データベースより。 第2話第3話に比べると、ストーリーの広がりが感じられ、やや盛り上がったのではないかと思います。前半はそれまでの経緯と貴船と対決するまでの説明に費やされ、シリーズを通して読んできた者にとっては特記べき点は見当たりません。しかし、恋子とその家族、友人対貴船天使、少年狼の構図はサスペンスフルで読み応えがあります。クイズ対決はそれぞれが嘘か本当かをその場で証明できる、本人にしか分からない告白をし、その真偽を賭けて大金と時間とを奪い合うというもの。 新たな少年狼という登場人物が現れることにより、物語は劇的に面白くなってきました。更には第5話で真打とも言えそうな、キツネ目の天才少女も出てきて、一層盛り上がることを期待しています。 最後の第6話まで読んで、果たしてどんな結末が待っているのか、長々と読まされて拍子抜けしないことを祈るばかりです。 |
No.1145 | 7点 | 星虫- 岩本隆雄 | 2020/07/12 22:16 |
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宇宙に憧れ、将来は宇宙飛行士としてスペースシャトルを操縦することを夢見る高校生・氷室友美。そんな彼女が夏休み最後の夜に目にしたのは、無数の光る物体が空から降ってくる幻想的な光景だった。後に“星虫”と呼ばれるこの物体は、人間の額に吸着することで宿主の感覚を増幅させる能力を持った宇宙生物で、友美もすっかり星虫に夢中になってしまう。ところが、やがて人々の額で星虫が驚くべき変化を始めて―。幻の名作が大幅な加筆の上、復活。
『BOOK』データベースより。 10才くらいの頃に読みたかった作品。ラノベSFと言うか、ジュブナイルと言うべきか。考えてみればかなり無茶苦茶な話ですが、その設定がなければ成立しない物語なので、そこには目を瞑るしかないでしょうね。主人公の友美と寝太郎はともかく、脇役キャラのディテールをもう少し細かく描いて欲しかった気もします。そうすればラノベとしてもっと面白い作品に仕上がったのにと思います。まあそれでも、読んでいる時のワクワク感はなかなかのもの。 特に瞠目すべきは最終章ですね。ここまで感動的な展開が待っているとは、思いもよりませんでした。意外な伏線も張ってあり、そこでそう繋がるのかと感心もしました。しかし、流石に星虫の正体にはあまりのリアリティのなさにちょっとがっかりしましたね。それでも総じて高評価なのは友美と寝太郎のキャラの良さによるところが大きいのかなと思います。 確かに幻の名作と言ってもあながち間違いではないかも知れません。 |
No.1144 | 6点 | 無明の闇- 椹野道流 | 2020/07/10 22:27 |
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法医学教室の新米・伊月崇の近況は、目下のところ、教室の「暗黙の法則」を地で行くような毎日。暗黙の法則その1「続くときは同じような解剖ばかり続く」。その週はどうやら「子ども」に縁があるようだった。様々な状況下で死んだ乳児たち。轢き逃げ遺体の解剖の際は、目撃者が幼い少女ときいて暗澹となる。そしてふと気づけば、伏野先輩の様子が妙…?法医学教室奇談、好調、第二弾。
『BOOK』データベースより。 最終章までは医療サスペンス、最終章は完全なホラー、又ミステリの要素も含むという、カテゴライズされないジャンルミックスな本作。一作目もそうだったようなので、それが本シリーズの持ち味なのかも知れません。著者は法医学教室に実際勤務していたと事で、その辺りの描写はかなり生々しいと感じます。 冒頭、連続して二つの赤子の遺体の解剖から始まり、この調子が続くとちょっときついなと思いましたが、その後は漸く本筋に至り、主人公の一人伏野ミチルの過去と現在進行形の遺体解剖が繋がってきます。 法医学教室という特殊な空間を描くことにより、それぞれのキャラを浮かび上がらせる手法は悪くないと思いますが、各キャラが際立っておらず、その意味では物足りなさを覚えます。そして、序盤こそ筋が読めませんでしたが、次第に予定調和的な展開になり、先が読めてしまうのは減点材料ではないかと。一々幕間で食事シーンが挟まれるのもどうかと思いました。なんとなくまどろっこしく感じましたね。 |
No.1143 | 6点 | 神様が殺してくれる- 森博嗣 | 2020/07/07 22:40 |
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パリの女優殺害に端を発する連続殺人。両手を縛られ現場で拘束されていた重要参考人リオンは「神が殺した」と証言。容疑者も手がかりもないまま、ほどなくミラノで起きたピアニスト絞殺事件。またも現場にはリオンが。手がかりは彼の異常な美しさだけだった。舞台をフランクフルト、東京へと移し国際刑事警察機構の僕は独自に捜査を開始した―。
『BOOK』データベースより。 本作に限らず森博嗣の文体は無機質な作品が多いなというのが第一印象です。まあ相変わらずですが、そこが良くも悪くも氏の特徴でしょうけど。 決して悪くはないと思いましたが、諸々疑問点が残る結末ではありました。各事件へのアプローチの仕方からして普通のミステリとは違う感触で、思わず身構えて読みました。予想通りと言うべきか、とんでもない事になっています。その意味で伏線があったかどうか考えてみても、やはり後出しっぽく、本格ミステリの概念からはやや外れた異色の作品と言えるかもしれません。 しかし、犯人は何故最初から本命を狙わなかったのか、単なる嫌がらせにしては大胆すぎる犯行じゃないかと思いますね。 途中やや退屈でしたが、ラストは目を瞠るものがありました。尚文庫本の解説を読む限り、ちょっと想像の翼を広げ過ぎな感が否めませんでした。果たしてそこまで深読みするべきものかと、疑問に思われてなりません。確かに、主人公の「私」に関わる不可思議さや秘密はこの手の作品にありがちですが、本作は細部に至るまで親切に噛み砕いて書いてくれていません。若干アンフェアとも取れる不親切さは感じますね。 |
No.1142 | 7点 | 君たちに明日はない- 垣根涼介 | 2020/07/05 22:35 |
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「私はもう用済みってことですか!?」リストラ請負会社に勤める村上真介の仕事はクビ切り面接官。どんなに恨まれ、なじられ、泣かれても、なぜかこの仕事にはやりがいを感じている。建材メーカーの課長代理、陽子の面接を担当した真介は、気の強い八つ年上の彼女に好意をおぼえるのだが…。恋に仕事に奮闘するすべての社会人に捧げる、勇気沸きたつ人間ドラマ。山本周五郎賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 重すぎず軽すぎず、付かず離れず、暗すぎず明るすぎず、丁度良いバランスで描かれた佳作。 君たちに明日はないという割りには、どのリストラ要員の最後の姿も、決して暗い未来しかない訳ではないです。中には、最後の面接さえ描かれず終わった物語もあったりしますが、それは読者の想像におまかせとばかり、粋な作者の計らいを匂わせます。それにしても、事前の想像では主人公がもっと硬派な感じがしましたが、普段の顔はやや軽めです。しかし、いざリストラの面接官という任に着いたら、じんわりと相手の懐に入り込み、あの手この手で懐柔に掛かります。決して無理強いはせず、あくまで相手の意志で決断を促す手腕には、拍手を送りたくなると同時に、人間味人情味すら覚えます。その意味で、リストラ請負業者という特殊な職業に対する嫌悪感を読者から排除することに成功していると思います。敵ではないのだと、意識付けをし、アンチヒーローを否定するように仕向けているようです。 そして、何と言っても各キャラが生きています。そして動きます、行為だけではなく心までも。そこに読者は共感せざるを得なくなり、敵見方関係なく両者に感情移入できるシステムが見事に構築されていると思います。ただ、村上以外の面接官の情報が完全にシャットアウトされていて、その辺りもう少し描写があっても良かった気がします。これは流石にシリーズ化されるのも納得の出来でしょう。 |