皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ SF/ファンタジー ] カマラとアマラの丘 改題『向こう側の遊園』 |
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初野晴 | 出版月: 2012年09月 | 平均: 7.17点 | 書評数: 6件 |
講談社 2012年09月 |
講談社 2014年06月 |
No.6 | 5点 | ことは | 2023/03/12 02:54 |
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初めて初野晴を読んだが、どうにも、掴みどころがわかる前に読みおわってしまった。
まず、設定は「廃墟となった遊園地に秘密の霊園があり、ここを訪れる者がいる」というものだが、これが「現実設定なのか」、「現実設定に特定の特殊設定が追加された(キング作品のような)ものなのか」、「異世界設定なのか」が明確でないので、「どんな設定?」と模索しながら読みすすめることになった。 1話目で世界設定は把握したつもりになったが、作がすすむと状況設定がかわってきて、結局、最後まで模索しながら読むことになってしまった。 (たとえば、1作目では「霊園に行こうとする者がいる」ことで話が始まるので、それが世界に入る入口だと思ったが、4作目では、その人が霊園に行こうとするとは思えないし、「自分が一番大切にしているものを差し出す」という設定は、4作目ではあいまいだったし) また、視点人物も一定でなく、感情移入しやすい人物がいない作もおおいので、すこし引いた視線で読むことにもなり、このため、感情移入できなくて、楽しめなかった。もちろん、全ての小説が「感情移入できないと楽しめない」訳では無いが、本作は間違いなく感情移入できたほうが楽しめる話だったと思う。 動物に関しての色々な話題はかなり面白かったので、残念。「あわなかった」ということなのでしょう。 1話目が、いちばんすっきりとまとまっていて、よかったかな。犬を飼っていることもあるかも。 |
No.5 | 7点 | パメル | 2022/10/13 07:44 |
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廃墟となった遊園地に、人目を避けて訪れる人たちがあった。遊園地には愛した動物を埋葬するための秘密の霊園があり、ここに埋葬するためには、月の出た深夜に忍び込み、墓守の青年・森野と交渉して、自分が一番大切にしているものを差し出さねばならない。一番大切なものを差し出してもその霊園を訪れる者がいるのは、そこに埋葬されることで、安らかな眠りがもたらされるからである。
本書に登場する人間の伴侶として認められた動物たちは、人間と意思疎通ができるという点において、人間と同じレベルの知能を持ってしまった。しかし人間ではない姿かたちと、人間と同じ存在として存在しえないということ、その違いに気づいてしまったことにより悲劇が生じる。あるいは、会話ができる人間同士であっても、言葉が通じない、聞こえないふりをして、相手の存在をいないものとして否定することもある。本書に登場する動物たちは、そうした人間関係の暗喩として捉えることができるが、人間に翻弄される動物の姿をとっていることが、より動物自身のやるせなさを感じさせる。 「シネレッタの丘」は密室殺人の謎の上にかぶせられた、もう一つの謎の解明が秀逸。人間同士の意思疎通が、人間と鳥という異種間同士よりも困難だったという、それでも人間でないものの悲哀は大きい。 最初のうちは、ハートウォーミングな物語だと思い読み進めていくと、全く違うことが分かってくる。現代的な社会風刺もあり、期待している方向性が間違っているとガッカリさせられるかもしれない。しかし、動物との関わりを描くドラマ性とミステリが見事に融合されていることは間違いない。 |
No.4 | 8点 | zuso | 2022/04/14 22:24 |
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奇抜なトリックと複雑な人情の機微が鮮やかに直結する。
意外な真相が明かされると同時に、感動が押し寄せてくる。トリックと人間ドラマが融合した本格ミステリ。 |
No.3 | 8点 | メルカトル | 2020/09/02 22:50 |
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花々が咲き乱れる廃園となった遊園地。そこには、謎めいた青年が守る秘密の動物霊園があるという。「自分が一番大切にしているものを差し出せば、ペットを葬ってくれる」との噂を聞いて訪れる人人。せめて最期の言葉を交わせたら…。ひとと動物との切ない愛を紡いだミステリー。
『BOOK』データベースより。 本格精神を貫いたSFファンタジーの傑作。むしろ評者としては本格ミステリにより近いと思います。 五つの物語からなる連作短編集で、いずれも人間と動物の歪んだ愛の形を、感動よりもそれを上回る感銘によって読者にその有り方を問う、ある意味問題作となっています。特に第三話は何物にも代えがたい魅力を持っており、ペットの驚くべき生態が静かなタッチながら、強烈な印象を残す素晴らしい逸品に仕上がっていると思います。これこそ正に異形の本格ミステリと言っても差し支えないでしょう。これこそが作者畢生の作品集と感じます。 本書を迂闊に人とペットの感動物語と思ってはなりません。上辺だけではなく、動物のそして人間の本質を衝く稀有なミステリだと思います。もしかしたら我々が考えているより動物の思考や精神は遥かにその上を行っているのかも知れない、という仮定のもとに描かれいますが、とても絵空事とは片付けられないのではないか。そういった問題を提唱している気がしてなりません。 |
No.2 | 8点 | 青い車 | 2016/11/09 14:35 |
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どの短篇も何かしら心に残るポイントがありますが、安直に感動路線を狙っていないところが上手いです。人間の温かみもあれば残酷なところもある、そういったところを余すことなく書いています。それもただ上辺を撫でるだけでなく核心を突いており、特に、そういう意味では三、四話目が印象的でした。おそらく相当下調べした上で書いたであろう知識にも感心しました。あと、なんと言っても最終話の締めくくり方に尽きます。 |
No.1 | 7点 | まさむね | 2013/08/05 20:42 |
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廃墟となった遊園地にある動物達の秘密の墓園。愛する動物をここに埋葬するには,墓守の青年・森野と月の深夜に交渉し,自分の最も大切なものを差し出す必要がある…という,何とも幻想的な設定のお話です。
でもご安心(?)ください。幻想小説的側面とミステリ的側面が,非常に効果的に融合しております。 個人的には,幻想小説は好まない,というか苦手なのですが,この作品に限ってはむしろ「幻想的な側面があってこそ」という気にさせられました。 メッセージ性もあって,考えさせられる内容でもあります。 作者といえば,ハルチカシリーズなど「日常の謎系学園モノ」という印象が強かったのですが,こっちの分野もなかなかイケています。 |