皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.1169 | 5点 | クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない- 越尾圭 | 2020/08/30 22:45 |
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動物診療所を営む獣医・遠野太一の幼馴染で、ペットショップを経営する小塚恭平が、自宅マンションでラッセルクサリヘビに噛まれて死んだ。ワシントン条約で取引を規制されている毒蛇が、なぜこんなところに?死に際に恭平から電話を受けて現場に駆けつけた太一は、恭平の妹で今は東京税関で働いている利香とともに、その謎を解き明かそうとするが、周囲に不穏な出来事が忍び寄り…。
『BOOK』データベースより。 帯に「これがデビュー作とは思えない」とありますが、逆に言えば新人にしてはよく書けている方とも取れます。よって、過剰な期待はしないほうが無難だと思います。滑り出しは「おっ、なかなかやるな」とは思い、その後の展開が期待できそうだと感じました。しかし、読ませる筆力はあるものの、これと言った新味を感じさせるような突出した個性はありません。そもそもクサリヘビでの殺害と云う、言わばプロバビリティの犯罪という不安定な殺害方法を取った理由が理解できませんね。それを言っちゃお終い、なのかもしれませんが、もう少し何とかならなかったものかと思います。 もう少し本格物に近い作風かと思いきや、「社会派」として登録されていたのね。これはやっちまったな、想定外の事態と言えそうです。私の期待を裏切って、なんとなく進行していくストーリーももどかしく、今一つ抑揚が感じられなかったのは残念な限り。やはりこれでは隠し玉止まりと言われても仕方ないでしょう。まあしかし、後味は爽やかさを残します、それだけは評価に値すると思います。 |
No.1168 | 3点 | ただし少女はレベル99- 汀こるもの | 2020/08/27 22:38 |
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葛葉芹香は、ラッキーつづき。抜き打ち試験はうまくいくし、四つ葉のクローバーを見つけたし、シークレットライブのチケットまで当たった。でも、そんな幸運には限りがあった。まさか本当に出屋敷市子の写真にそんな力があったなんて。「消せ」と言われたけど、消し忘れていた携帯電話の中の写真。まさかそのせいでこんなことになるなんて。(「幸運には限度額がある」)ほか、純和風美少女・市子と護法である妖怪たちのシリーズ作品4編を収録!
『BOOK』データベースより。 これは一種の惨劇です、私は惨劇に襲われたのです。言わば西尾維新の物語シリーズの出来損ないの様な駄作でした。これを最後まで読み切った自分を褒めてやりたい、そしてシリーズ次作以降を購入しなかったことに心底安堵しています。 ラノベを意識したせいか稚拙で読みづらい文章、この手の小説に必要最低限のキャラの魅力のなさ、一向に盛り上がらない物語、読み進めば進むほど訳が分からなくなっていく内容、いずれを取ってももううんざりです。 長々と読まされて、結局何がしたかったのか私にはさっぱり理解できませんでした。Amazonの高評価は一体何なのでしょうか。こるものフリークなのですか。何故本作が何作もシリーズ化されているのか不思議で仕方ありません。どこにそんな魅力や読みどころがあるのか。正直タナトスシリーズとは大違いです。 |
No.1167 | 6点 | 宇宙探偵ノーグレイ- 田中啓文 | 2020/08/24 22:26 |
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怪獣惑星で発生した人気怪獣の密室殺人。罪を犯すことが不可能な天国惑星で起きた連続殺人。全住民が脚本どおりの生活をおくる演劇惑星で生じた劇中殺人…極秘に事件を解決するために招かれるは、宇宙探偵ノーグレイ!名探偵は五度死ぬ?奇想天外な結末が待つ、宇宙ミステリ作品集。
『BOOK』データベースより。 これぞまさに荒唐無稽。怪作と呼んで差し支えないでしょう。 SFミステリと言うべきかかも知れませんが、最終話など完全にSFですね。一応探偵ノーグレイが色々な惑星で起こる事件を依頼され、解決したりしなかったりします。五話からなる短編集で、一話ごとに探偵が死に、また次には何でもなかったように甦り活躍します。その内情も様々で、大抵は莫大な借金の為命を張った仕事に否応なしに就かざるを得ない状況に追い込まれています。 謎の設定そのものは申し分ないのですが、その真相が謎に追いついていないのが実情でしょうか。毎度お馴染みのグロやダジャレは控えめで、SFファン、ミステリファンの両者に歓迎されるべき作品であろうと思います。でも多くの読者は何だこれは、と感じるかもしれませんね。 |
No.1166 | 6点 | リアル怪談 寄せられた「体験」- アンソロジー(国内編集者) | 2020/08/22 22:13 |
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真夜中のマンションのエレベーター、観客が独りきりの映画館、さびれた京都のホテル、ある有名な幽霊トンネル…。世にも不思議な体験をした人から編集部に寄せられた「奇妙にこわい話」。
『BOOK』データベースより。 1998年から2002年までに読者から寄せられた投稿を集めた、『奇妙に怖い話』シリーズの中から優秀作30編を収録した短編集。ショートショートに近く、2ページから8ページくらいのボリューム。「体験」とありますが、ほぼ創作であろうことは想像に難くありません。ですから、生々しい怖さよりも人工的な作り物っぽさが強いです。しかし、素人とは言え、なかなか筆達者が集まっており、一篇残さず読ませてくれます。偶然とは思えないのでおそらく本人だと思いますが、長岡弘樹の名前が連なっています。他は知らない名前ばかりで、ペンネームを使っていない限りプロの作家は見当たりません。実は名前を変えて活躍している作家が居たりするかもしれませんが。 今の季節には、特に猛暑が続いている日本列島では持って来いの作品集ですが、ゾッとする程の怖さがないので、怪談としてはやや物足りなさを覚えます。奇妙に怖い話だから、不条理な感じとかやや捻り足りないとかが多いですかね。ミステリとして面白い短編に仕上げられそうなものもあったり、楽しませてもらいました。 |
No.1165 | 5点 | 名探偵はどこにいる- 霧舎巧 | 2020/08/20 22:16 |
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「わたしたちがやろうとしているのは…殺人なのよ」双子の姉妹は決意とともに終ノ島へ向かう。そして島で死体となって発見されたのは、彼女たちの通う高校の教師だった。さらに二人はそれをネタに脅迫を受け…。後動の“遺志”を継いだ今寺に課せられたのは、「双子の殺人の“無実”を証明する」こと。『名探偵はもういない』に続く「あかずの扉」研究会シリーズ外伝。
『BOOK』データベースより。 何かこう華がないんですよ。事件自体も地味で殺人なのか事故なのかはっきりせず、ストレートに描写がされていない分、面白みがないというか。事件の背後関係ばかりに拘泥されて、方向性が本格じゃないですよ。それよりも、冒頭で語られる主人公で刑事の今寺の青春時代の淡い恋物語の方に興味が持っていかれます。それが最後の最後で結実し、ある意味で満足感は覚えますね。 それにしても、後動の名前が出てきた時はドキッとしましたが、『あかずの扉』の外伝だったんですね。知らずに読んで驚きましたけど、別にそうである必然性はなかったと思います。 正直もう少し歯応えがある作品だと信じていました、その意味では裏切られました。物語の芯がしっかりせず、登場人物が多く紆余曲折し過ぎじゃないでしょうか。真相が明かされてもスッキリしないし、途中の煩雑さが拭い去れない恨みが残りました。 |
No.1164 | 5点 | 天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記- 折原一 | 2020/08/18 22:11 |
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日本推理文壇の重鎮、小宮山泰三が住む2階建てモルタル造りの幸福荘。そこには古くから小宮山を慕う数多の作家志望の若者たちが集っていた―。幸運にも私はそんな幸福荘に入居することになったが、部屋に残されていた1枚のフロッピーが私を戦慄させた。創作なのか、現実なのか。〈文書1〉から〈文書6〉まで、6つの不思議な連作短編小説を読み終えた私は思わず天井を見上げて…。叙述トリックの名手が、九転十転のドンデン返しであなたに挑む、究極の叙述ミステリー。
『BOOK』データベースより。 叙述トリックの第一人者という事で、身構えながら読み進めましたが、入れ子構造の妙は認められるものの、段々飽きてきます。舞台が固定されて、文書6までの物語自体が意表を突くものではなく、似たような話が続くのにはちょっと辟易してしまいました。叙述トリックもかなりショボく、驚くようなものではありません。 結局フロッピーに記録された文書の作者は誰なのか、最後まではっきりせず煙に巻かれたような感じがしました。まあ私だけかもしれませんけど。 ユーモアを多分に含んだ読みやすい文体は好みです。しかし、それだけで評価を下す訳にはいきません。折原一ならば、もっと驚愕のミステリを書けるはず、それを期待した分裏切られた感が漂います。残念です。 |
No.1163 | 6点 | 京極夏彦の世界- 評論・エッセイ | 2020/08/16 22:10 |
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幾重にも張りめぐらされた蜘蛛の糸のように、複雑にからみ合った要素が織り成す京極夏彦の世界…。ペダンチックとも称されるその世界をより精緻に浮かび上がらせるために、気鋭の論者が多角的な視点から縦糸・横糸を解きほぐし、京極作品に迫る。ミステリ論、陰陽師小説論、怪談小説論、宗教性、心理学、ジェンダー論、サイバーパンクなどの視点から見えてきた「匣の意味」「みどりなす長き黒髪の女たちの意味」「京極堂と探偵榎木津の関係性」とは…。京極夏彦の世界を読み解き、ほの暗い深奥に足を踏み入れるための道しるべ。
『BOOK』データベースより。 野崎六助、鷹城宏ら評論家を始め、精神科医、大学教授、短大講師ら八名による京極夏彦論。アンチミステリ、陰陽師の軌跡、ジェンダー論、妖怪の考察、宗教など様々な角度から京極夏彦の小説を弄り回します。まさにカオスの様相を呈し、評論というより学術書並に難解です。 『姑獲鳥の夏』から『塗仏の宴』までの京極堂シリーズが俎上に上げられていますが、『狂骨の夢』の矛盾を抉るケースが多いのが目立ちます。また、三作目まではある意味習作で『絡新婦の理』で頂点を迎えるとの意見もなるほどと思えなくもありません。個人的に最高傑作と考えている『魍魎の匣』にはあまり触れられていないのは、逆に完成度が高いせいなのかも知れないとも考えられます。 まあ各人好き勝手なことを書いているので、とても十全に理解することなど不可能です。京極堂シリーズのガイドブックと軽く考えるのは大間違いで、いずれ劣らぬ一家言を持った論客たちには舌を巻く思いです。それだけの材料が揃った題材だという証左でもあるようです。 |
No.1162 | 6点 | ジョーカー・ゲーム- 柳広司 | 2020/08/14 22:13 |
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結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人及び自死は最悪の選択肢」。これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く「魔王」―結城中佐は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を挙げ、陸軍内の敵をも出し抜いてゆく。東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。
『BOOK』データベースより。 スパイ養成学校D機関の面々の活躍を描く連作短編集。 何と言っても表題作『ジョーカー・ゲーム』が最高ですね。ハードなスパイの世界を描き切り、ミステリの要素もふんだんに取り入れていて、その意味でも楽しめます。しかし、次第にテンションが下がっていくのは私だけでしょうか。様々なシチュエーションに置かれ、各話ごとに主人公が入れ替わっていく様子は読んでいて飽きが来ません。ですが、やはり結城中佐が出てこないと話が締まりませんね。本作は結城中佐の魅力に負うところが大きいのかなと思います。まあ主役ではないのが却ってその人間性を浮き彫りにし、存在感を示しているのかも知れませんけどね。 第一話の『ジョーカー・ゲーム』を読んだ時点では7点は堅いかなと思いましたが、残念ながらそのレベルを最後まで維持できないまま終わってしまい、即座に続編に手を伸ばそうとまではいきませんでした。しかし、ある意味でいい勉強にはなった一冊だったと思います。超人に近い人間の集まりなので、我々凡人の窺い知れない世界を覗き見た感じが強いですね。 |
No.1161 | 7点 | 地獄の門- 法条遥 | 2020/08/12 22:09 |
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突如、地獄に落とされた良太。当惑する彼が美しき悪魔から知らされたのは、自分が何者かによって殺されたという事実だった!だが彼は、密かに、そして綿密に、犯人への復讐を企てる。―悪魔を騙すのだ。記憶を持ったまま転生し、『奴』を討つために。一方現世では、恋人であり刑事の愛が、良太殺害犯への憎悪をたぎらせていた。地獄と現世、2つの世界が織りなす物語が迎える、驚愕の結末とは!?異色のホラーミステリ。
『BOOK』データベースより。 美しい。構築美ですね。 隅から隅まで計算されつくされた緻密なプロットには脱帽です。物語は二人の主人公、佐藤良太の地獄篇と三浦愛の現世篇とが交互に同時進行し、それぞれが何らかの思惑を抱えて謎めいた動きを見せます。しかし、読者にその狙いを悟らせることなく、刻々とカタストロフィに向かって確実に進みます。あれこれ書くとネタバレになりますので、これ以上は無粋というものでしょう。 多分読み返してみると、そこここに伏線が張り巡らされているものと思われます。何に対する伏線なのか、それはここでは言えません。まあとにかく読んでみていただきたいですね。折角の傑作なのに、あまりに世に知られてなさすぎかと感じます。古書店ででも見つけたら速攻で購入されることをお勧めします。私自身、これほど面白いとは想像も出来ませんでしたけどね。 |
No.1160 | 5点 | 少女と武者人形- 山田正紀 | 2020/08/10 22:19 |
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「武者人形の剣に血が噴きだしてきたとき、人が死ぬ……」母親と弟の事故死。少女のなかで武者人形と葬式がひとつに重なった。そして別荘での父と叔母の情事──思春期の少女の、揺れ動く複雑な心理と夢魔の世界を描く「少女と武者人形」。ネコをかわいがっている家に赤ん坊が生まれると、ネコと赤ん坊で“運”をとりあい、ネコが死ぬ。でもネコの“運”が赤ん坊の“運”に勝ったとしたら──「ネコのいる風景」など、「奇妙な味の小説」十二篇を収めた直木賞候補の連作短篇集。
Amazon内容紹介より。 可もなく不可もなくって感じです。どれも面白くない訳ではないけれど、凄く面白い訳でもない、オチも気が利いていたりオチが無かったり。どこが直木賞候補になったのか私には理解できませんが、その個性のなさやアクの強くないところが評価に繋がったのかも知れません。ホラーっぽかったり、不条理小説だったり、奇妙な味であったり、まあ様々なシチュエーションで色を目先を変えようという努力は買えますかね。 個人的に良かったと思うのは『友達はどこにいる』『猫のいる風景』『ねじおじ』『ホテルでシャワーを』『ラスト・オーダー』辺りです。 これといって群を抜いている作品は見当たりませんが、平均的にまずまずだと思いますね。山田正紀にしては読みやすかったのが救いでしょうか。しかし、単行本(文芸春秋)から文庫化(集英社)されたのは、それなりに売れると見込んでの事でしょうから、全く読む価値がないとは思えません。暇潰し程度には良いのかも。 |
No.1159 | 7点 | 殺人都市川崎- 浦賀和宏 | 2020/08/09 22:21 |
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治安が悪く、地獄のような街で地べたを這いずって暮らしていると考えていた俺は間違っていた。出会ったら命がないと言われる、伝説の殺人鬼・奈良邦彦。本当の地獄は、あいつとの出会いから始まった。彼女を、そして両親を殺された俺は、それからも執拗に奈良に狙われ続け……。41歳の若さで急逝した天才作家・浦賀和宏氏最大の問題作、最期の挑発&最後の小説。
裏表紙より。 遺作、或いは最後の小説。『デルタの悲劇』が先だったのか後だったのかを私は知りません。しかし、いずれにしてもこれより先はもう浦賀和宏の新作を読むことは誰にもできません。 さて、この小説は浦賀らしさが随所に出た、彼の作品の中でも異色の部類に入るのではないかと思っています。スプラッターが目立つのは新味と捉えるべきでしょう。新シリーズとして発進した本作なので、どこかしら未完に終わっているのではないかとの危惧もありましたが、それは杞憂に終わりました。 殺人鬼奈良邦彦がシリーズを通して出現するという設定だったらしいのです。それが毎回同じ人物なのか、そうでないのかを知るすべはありません。問題作と言えば、そうなのでしょう。しかし、浦賀の作品は問題作だらけなので、ひと際目立つ存在だとは思いません。それでも最後の作品に相応しい小説に仕上がっていると私は感じます。気を付けたいのは、川崎へのディスり方が半端ないってことです。 どこか自身の某作品に似て、ラストは世界がでんぐり返しを起こし、足元が崩れ落ちる感覚を体験できます。それはある既視感に近いものがあり、私自身には好ましく感じられましたが、大方の読者はそれまでの話は何だったんだ、と思う事でしょう。これが浦賀ですよ。おそらく誰も7点以上は付けないでしょうが、私は胸を張ってこの点数を献上したいと思います。この世界の片隅に蹲る一ファンとして。 |
No.1158 | 6点 | 千葉千波の事件日記 試験に出るパズル- 高田崇史 | 2020/08/07 22:35 |
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あの「QED」シリーズの高田崇史が贈る、上質の論理パズル短編集。背スラリ、髪サラリの天才高校生・千波くんが、浪人生の“八丁堀”たちと共に、鮮やかに難問を解き明かす。解説の森博嗣氏絶賛の「夏休み、または避暑地の怪」から、書き下ろし作品「誰かがカレーを焦がした」まで全5本を収録。著者がパズラーとしての本性を剥き出しにした野心作。
『BOOK』データべスより。 各話に散りばめられたパズルについては、面倒なので本気で解く気にはなれませんでした。元々脳が理系にできていないし、論理的に物事を脳内で思考できないので、私にはどうかなと考えていましたが、読んでみるとそういった煩わしさを感じることもなく楽しめました。何もややこしいパズルばかりが本題ではなく、普通に日常の謎を紐解くパズラーとして十分機能しているので、理系脳じゃなくても面白く読めると思います。 千波くんと二人の大学浪人慎之助、ぼくことぴいくんの三人の遣り取りがとても楽しめます。各短編がそれぞれきっちりと登場人物を描き分けられていて、混乱することもなくすんなりと頭の中に入って来ます。千波くんの推理が偶然当たってしまうこともありますが、それはそれとして彼はしっかりと名探偵ぶりを発揮していることは間違いありません。 巻末の森博嗣の解説は、何書いてるんだろうと、少しだけ思いました。作家が解説を書くとどうしても思い入れが強くなり、独りよがりになりがちなことが多々あり、どうにも感心しません。個人的には要らなかったような気もします。それと、パズルの解答があとがき風に提示されています。親切ですが、半分はさっぱり解らなかったというのが本音。一番面白かったのは、アルファベットを二つに分ける問題かな。 |
No.1157 | 5点 | 桐谷署総務課渉外係 お父さんを冷蔵庫に入れて!- 加藤鉄児 | 2020/08/05 22:26 |
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稀代の名優・十文字豪の「遺体」が誘拐された?!テレビ中継される葬儀を前に奪還が急がれるが、豪の娘で「刑事嫌い」の凛子は刑事課の協力を断固拒否。代わりに通称「クレーム係」こと総務課渉外係の吉良と、新人の真知子が犯人との交渉役に駆り出される。5761万7559円との奇妙な身代金を要求されるなか、刻一刻と腐敗が進む「人質」の奪還は間に合うのか!「お願い、お父さんを冷やして!」
『BOOK』データベースより。 タイトルが・・・ちょっと違うような気がします。想像していたのとかなりの隔たりがありますね。『お父さんを冷蔵庫に入れて』という子供の願いの様にも取れるタイトル、勘違いを生みます。遺体の身代金という新しい試みではありますが、謎という点では物足りません。何故半端な身代金なのか、遺体を如何に気づかれずに入れ替えるのか、身代金の受け渡しの方法は、辺りに興味は向きます。 意外と重要な双子の姉妹の動向には注意が必要です。犯人側からも描写されていますので、倒叙物としても捉えることが可能です。そして冒頭の遺体の引き取りシーンには多大な疑問が湧き起こり、物凄く違和感を覚えますね。そんな事って果たしてあるのかなって。 【ネタバレ】 犯人は現金を仮想コインに換金して、その大半を手にすることになります。この手法は誘拐物としては新味を出していると言えるかもしれません。が、最も肝心の遺体の入替に付いて、サラッと流し過ぎでしょう。そんなに簡単に出来るはずがないじゃありませんか。人の眼が全くないとでも?そこは大いに不満に思うところです。 又前述のように、誰も「お父さんを冷蔵庫に入れて」などとは言ってません。衝撃的なタイトルを付けたほうが売れるとでも考えての事と思いますが、色々誤解を生むので、そこのところ留意していただきたかったです。警察内部に軋轢があるのは理解できますが、刑事課と総務課が同時に別の動きをするのはどう考えてもあり得ないと思いますが。 |
No.1156 | 7点 | 小説スパイラル 推理の絆2 鋼鉄番長の密室- 城平京 | 2020/08/02 22:15 |
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四十五年前、密室で死んでいた鋼鉄番長は自殺だったのか、他殺だったのか?歩とひよのは謎の美少女・牧野千景のために、「熱き番長の時代」を揺るがす密室を開くことに…。果たして「鋼鉄番長の密室」は開くのか!?そして開いた先にあるものは!?ガンガンNETにて大好評掲載中の「名探偵鳴海清隆~小日向くるみの挑戦~」から一編も同時収録。
『BOOK』データベースより。 前作より一段階レベルが上がった作品に仕上がっています。ダサいタイトルですが、これがまた読ませます。番長三国志時代とか、作中で歩にうんざりさせたりするお茶目な一面も見せます。所謂自虐ネタと言いますか。それでも大真面目に書かれていて、好感が持てると同時にグイグイと物語に引き込ませる吸引力を持っていると思います。 密室の謎を一人で多重解決していますが、どれもよく考えてあり、結局いずれの解釈が正しかったのかは読者に秘せられていて、お好きなものを選択できるように出来ています。個人的には意外性の点から最初の推理を推薦しますね。 中編の『殺人ロボの恐怖』、これもまた良いですねえ。むしろこちらの方が本格度が増して、私としては本編よりも高得点を上げたいところです。バラバラ死体物の新たなバリエーションとして、評価したいと思います。所詮元ネタはコミックスだろうと相手にしない読者は、一度読んでみると出来の良さに驚くはず。ですが、犯人の意外性はありませんのであしからず。 |
No.1155 | 5点 | 皇帝の新しい服- 石崎幸二 | 2020/07/31 22:25 |
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瀬戸内海の島に代々伝わる、名門美蔵家・婿取りの儀式。櫻藍女子学院高校ミステリィ研究会・お騒がせトリオのミリア、ユリ、仁美は美味しい海の幸に目がくらんで、サラリーマン兼ミス研特別顧問の石崎を花婿候補に仕立てて島へ向かうことに。だがその儀式では過去数回にわたり殺人事件が発生し、いまだに真犯人が捕まっていない。さらに、石崎のもとにまで差出人不明の脅迫状が届く!惨劇は繰り返されてしまうのか。
『BOOK』データベースより。 深月仁美って誰だよ、やっぱりシリーズ物は順を追って読まなきゃダメだね、と思った一冊でした。まあ別に仁美の登場時から読まなければ訳解らないとは言えませんけど。 孤島物の割にショボイ謎とショボイ真相、ややこしい謎解きが終わっても決してカタルシスは得られません。現在進行形の事件がメインではなく、あくまで過去の事件をどう解決するかが命題であり、第一から第四まで事件のてんこ盛りに見えますが、犯人の狙いも概要も画一的で、大して魅力的なものではありません。 ミリアとユリは相変わらずですが、今回は心なしかややボケとツッコミのキレが悪くなっている気がします。事件が解決しても、まあそんなところだろうな程度にしか思えません。ミステリとしては小粒感が否めず、まあまあとしか言いようがないですね。 |
No.1154 | 5点 | ハムレット狂詩曲- 服部まゆみ | 2020/07/29 22:14 |
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『劇団薔薇』新劇場のこけら落としで、「ハムレット」の演出を依頼された、元日本人で、英国籍を取ったケン・ベニング。ケンにとって、出演者の一人である歌舞伎役者の片桐清右衛門は、母親を捨てた男だった。ケンは、稽古期間中に、清右衛門を殺そうと画策するが…。様々な思惑の交錯、父殺しの謎の反転、スリリングな展開。結末は…真夏の夜の夢。
『BOOK』データベースより。 本サイト、Amazon、読書メーターと例外なく評価が高いですが、個人的にはそれほどとは思いませんでした。正直どこがこれ程評価されているのか不思議で仕方ありません。終盤まではかなり退屈でしたし、最終局面まである事実を引っ張り過ぎじゃないですか。シェイクスピアにも歌舞伎にも興味がありませんので、その意味でも楽しく読めたとは言い難かったですね。そして、倒叙物でありますが、清右衛門を殺そうとするケン・べ二ングの怨嗟がこちらに伝わってこないのにも不満が残ります。その殺害方法も行き当たりばったりで、計画性の欠片もありません。 皆さん書いておられるように、結末は爽やかさを感じます。サスペンスにしては珍しい後味の良さだと思います。ただ、やられた感はあまりありません。言ってしまえば、単純な構図でわざわざ長編でやるようなネタではない気がしますね。 私的には、プロット、リーダビリティに難ありと言いたいです。ですが、あくまで少数派の意見ですので、私の書評は参考にならないかも知れません。おそらく1%に満たない批判的感想だと思います。 |
No.1153 | 4点 | 星の感触- 薄井ゆうじ | 2020/07/27 22:47 |
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変わりたいと望みながらも「逸脱」できずにいる良治が出会ったのは、二メートル六十七センチの大男・猫田研一だった。さらに「成長」を続ける彼の身長は、ついに八メートルを越してしまう。その時、研一の恋人・伊藤タマコは、そして良治は…。心が目覚め、あなたが変わる。「自分革命」を起こす成長と癒しの物語。
『BOOK』データベースより。 何もかもが中途半端な感じです。どうにも食い足りないんですよ。主要登場人物四人の心の中に今一つ踏み込めていないので、感情移入も出来ないし、魅力を感じません。そして話のスケールももっと大きく奇想天外なものだと勝手に想像していたので、その点でも裏切られました。どこに焦点を置くでもなく、なんとなく物語が進行してしまって、何に感動すればいいのか分からないですね。荒唐無稽な話なのに、ドラマチックでもなくエキサイティングでもない。淡々としています。せめて何かの大きな事件が起こったりすれば、抑揚も付いたかも知れませんが、それもなし。 しかも、良治、タマコ、研一の妹七海に起こるちょっとした異変に何の解釈もなされていないのにも不満が残ります。作中では一応「成長」する過程での痛みとされていますが、納得できませんね。 余程感受性の強い読者なら、色々琴線に触れる部分があるのかも知れませんが、私には心に刺さるものが見当たりませんでした。ただ、一瞬を切り取った雨の情景などにはハッとさせられるものもありましたけど。 |
No.1152 | 6点 | 正月十一日、鏡殺し- 歌野晶午 | 2020/07/25 22:25 |
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彼女が勤めに出たのは、このままでは姑を殺してしまうと思ったからだった―。夫を亡くした妻が姑という「他人」に憎しみを募らせるさまを描く(表題作)。猫のように性悪な恋人のため、会社の金を使い込んだ青年。彼に降りかかった「呪い」とは(「猫部屋の亡者」)。全七編収録。鬼才初の短編集を、新装版で。
『BOOK』データベースより。 作を追うごとに悲惨な話になっていく、ホラー風味のミステリ七編。最初の『盗聴』辺りは比較的真っ当で後味も悪くはないですが、他はブラックで陰鬱な雰囲気の漂う作品が目立ちます。もう少し捻りが欲しいところですね。良くも悪くも歌野らしい短編が並んでいると思います。結局最後の表題作に根こそぎ持っていかれましたけど。これを読むと他の作品が霞んで、一瞬全て忘却の彼方に追いやられると言うか、他はどうでも良くなってしまうような感覚を覚えますね。 ですから、この6点という評点は表題作が支えていると言っても過言ではありません。逆に言えばこれが無かったら5点でしたね。特に『記憶の囚人』は意味が解りませんでした。内容が頭に入って来ませんでした。いつも思うんですけど、この人の文章はあまりプロらしくない気がして仕方ありません。まあ私だけだけでしょうけど。 |
No.1151 | 7点 | 永遠の殺人者- 小島正樹 | 2020/07/23 22:35 |
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“やりすぎミステリー”の旗手が贈る、100パーセントの推理小説!“血の池”に浸かった死体には両手首がなかった。難事件に挑むのは、孫におんぶされたおばあちゃん!名刑事の未亡人・城沢薫の“位牌推理法”が炸裂する!?
『BOOK』データベースより。 明らかにやり過ぎですね。謎だらけの怪事件にどう決着を付けるのか、非常に興味を持って読み進めることが出来ました。浴槽の血の池に浸かった、両手首のない死体はさらに第二第三の見立て連続殺人事件に発展します。これでもかと不可解且つ不可能犯罪の連打に、眩暈すら覚えます。しかし、シリアスばかりではなくユーモアも多分に含まれており、特に移動中は常におんぶされているおばあちゃん探偵城沢薫、その孫で薫を背負う拓、謎めいた過去を持ち単独行動を好む刑事安達、その相棒で様々な事件に振り回される由貴野の四人は、それぞれ個性的で優れた描写力でもって描かれています。 ミスリードを施して読者を翻弄し、大逆転を狙う作者の手腕には呆れました。ツッコミどころは多々あるものの、大技小技のトリックは尽きることなく溢れ、やがて二転三転する真相に読者は必ずやアッと声を上げることになるでしょう。それまで観ていた景色が一瞬で様変わりするラストには驚嘆するしかありません。 正直、誰が犯人なのか途中で予想が付いた気でいた自分が情けないです。 |
No.1150 | 6点 | ミステリー傑作選・特別編5 自選ショート・ミステリー- アンソロジー(出版社編) | 2020/07/20 22:31 |
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赤川次郎から皆川博子まで、現代日本を代表する33名の作家が、自ら選んだマイ・ベスト・ショート・ショート。本格推理から幻想譚、変愛ミステリーにホラー等々、どこから読んでも面白い、何度読んでも愉しめる、絶対お得な超豪華アンソロジー。単行本未収録作品を多数収めた永久保存版。
『BOOK』データベースより。 様々な小説雑誌や機関誌などから集められたショート・ミステリ。寄せ集め感はあり、本格っぽい物からホラー、時代小説、サスペンス、ハードボイルドなどジャンルも色々。流石にこの枚数で本格ミステリはなかなか書けないものと見え、そちら方面を期待すると裏切られるかも知れません。 大御所から名前も知らなかった作家まで、幅広く収録されています。 あまりに短かいためネタバレになりますので、内容は紹介できませんが、個人的に良かったと思うのは、夏樹静子、はやみねかおる、霞流一、斉藤伯好、左右田謙辺りですかね。でもマイ・ベストという割りにはそこまで力作揃いとは思えません。 |