皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1828件 |
No.1428 | 7点 | 上海魚人伝説殺人事件- 天樹征丸 | 2022/04/02 23:04 |
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中国・上海の人魚観劇場(マーメイド・ホール)を訪れた金田一と美雪は、呪われた“魚人伝説”そのままの、悪夢のような連続殺人事件にまきこまれた!
それは「春」から始まった……伝説の怪物、「魚人(ぎょじん)」が詠んだ春夏秋冬の子守唄そのままに、次々と起きる悪夢のような殺人。春の次には、夏が来る。そして―― Amazon内容紹介より。 金田一少年の事件簿と言えば、昔堂本剛のドラマをたまに観ていて普通に面白かった印象だが、例のトリックパクリ事件以来私の心象を悪くして、それ以来原作を避けていた気がします。まあでももう時効だろうし、そろそろいいかなと思い立って読んでみました。 子供から大人まで楽しめる本格ミステリを目指しているだけあって、何だか内容が希薄でタッチが軽いなと思いながら読みました。『作者からの挑戦状』が差し挟まっているのは、うーん、そこまでする必要があるのかしら?と鼻白んでしまいましたが、その後の解決編はなるほどと唸らされるものでした。評価も急上昇。 上梓される前から映画化が予定されていたらしく、確かに映画のほうが見栄えがするような気はしました。雰囲気をもっとホラー寄りにしたり、見立て殺人の元ネタをフィーチャーしたりすればそれなりに面白いものになりそうな感じです。実際はどうなっているのかは知りませんが。人によっては評価が甘いと思われそうですが、メイントリックを始め、悲しい真相、過去の事件の絡み方、人間模様などよく練られていると個人的に感じました。 |
No.1427 | 6点 | クワバカ- 中村計 | 2022/03/31 23:13 |
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クワバカ―クワガタムシを愛し、人生のすべてを賭してしまった男たちのことだ。ハブに咬まれても採集をやめない男、一回の勝負に数十万円を費やす“闘クワガタ士”、採集のためにインドネシアへ移住した世界的コレクター。そんな男たちを取材するうちに、著者自身もクワガタの沼へ少しずつはまっていった。そして、そのクワバカたちにも底知れない魅力を感じていき―。少年時代を想起させ、なぜか羨ましさも感じさせる不思議な男たちを描く、傑作“昆虫”ノンフィクション。
『BOOK』データベースより。 クワガタは男のロマンだ、クワガタこそ男達を冒険に駆り立てる対象物だ、といった声が聞こえてきそうな熱い作品です。 ノンフィクションにしてはストーリー性があり、男子なら誰もが好きなクワガタの謎を解き明かし、クワガタに魅入られて人生を捧げた男達の人生を追う、稀有な一冊となっています。 まずはかつて幻、黒いダイヤと呼ばれたオオクワガタ。兎に角1ミリでも大きな野生の個体を求めて、コレクターたちは奔走します。又、採集から養殖への変遷の歴史なども語られており、興味深く読めました。今でこそ道の駅とかで数千円でつがいで売られているオオクワガタ、私の子供の頃の憧れであり続けた存在であり、どうしても手の届かない夢でした。続いて登場するのが、悔しい事に名前すら知らなかった表紙の写真のマルバネクワガタ。マニアが最後に辿り着くと言われる大歯型、中歯型、小歯型が存在し、トラップにすら掛からない難敵であります。ハブに襲われる恐怖を抱きながら奄美大島でマルバネを探し求める男たちの執念は凄まじいものがあります。そしてドルクスチャンプ杯というクワガタバトルで、パラワン、テイオウの二大オオヒラタクワガタに国産ヒラタクワガタで対抗する勝負の行方。最後はインドネシアの昆虫図鑑を作る為、インドネシアに移住した男の物語。 いずれ、大人になっても子供の頃の夢を忘れる事が出来ず、そのままコレクターの道を突き進んだ、ロマン溢れる男たちの熱きストーリーを追ったノンフィクションの傑作だと思います。 |
No.1426 | 6点 | 101番目の百物語- サイトウケンジ | 2022/03/29 23:49 |
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一文字疾風、通称モンジは元気な普通の高校生。親友のキリカと他愛のない会話をしたり、憧れの先輩と一緒に帰ったりと、平和な日々を過ごす―はずだった。だが、ある日出会った謎の少女から、突然Dフォンというケータイを手渡される。それは、“実際にある”都市伝説を集めたサイト、『8番目のセカイ』に繋がるものだった。彼はそこで「百物語の主人公」に選ばれてしまったらしい。そんな彼の前に現れた転入生、一之江瑞江は囁く―「どうして、電話に出なかったのですか?」サイトウケンジ×涼香という最強コンビが贈る、ノンストップ学園アクションラブコメ開幕。
『BOOK』データベースより。 ホラーと言っても、口裂け女やトイレの花子さんなどの都市伝説物。前半に主人公の高校生一文字疾風が襲われるのはリカちゃん人形ならぬリコちゃんから携帯への電話。電話が掛かって来る度に近づいてきて、最後には「今あなたの後ろにいるの」ってなるやつです。みなさんご存じだと思います。 しかし、何故一文字が「百物語の主人公」に選ばれたのかがイマイチ説明不足で、そこが気になって仕方ありませんでした。まだ続きが8巻まであるので、何処かで判明することになるのかも知れませんけど。そして、彼の周りの美少女達が敵か味方か分からない状況で一応物語としては完結しますが、その後一体その関係性がどう発展していくのかは全く予断を許しません。後半になるとホラーと言うよりファンタジーの色が濃くなり、終盤はなかなかの緊迫感を持って敵味方入り乱れての激しいバトルになるお約束の展開に。まあラノベだなーと思いながらも圧倒されるシーン続出です。尚、適度にラブコメ要素もありつつ、楽しめました。 |
No.1425 | 5点 | 我が家のお稲荷さま。- 柴村仁 | 2022/03/27 23:06 |
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その昔―一匹の大霊狐が三槌家の守り神に祀りあげられた。名を空幻といい、ありとあらゆる術を自在に操る、たいへんに賢しい狐であった。だが同時に、騒動が大好きでもあった。いたずらと呼ぶには悪辣すぎる所業を繰り返す空幻に業を煮やした三槌の司祭は、七昼七晩かけて空幻を裏山の祠に封印したのだった。そして現在―未知の妖怪に狙われた三槌家の末裔・高上透を護るため、ついに空幻が祠から解封された…のだが、その物腰は畏怖された伝説とは裏腹に軽薄そのもの。イマドキの少年である透からは『クーちゃん』と呼ばれる程で…第10回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞。
『BOOK』データベースより。 綺麗に纏まり過ぎていて、尖った所がなく、それが物足りませんでした。三槌家の守り神で、人語を話し男にも女にも変身できる狐の愛称クーがバトルを繰り広げたり、現代社会の文化に驚いたり、三槌家の兄弟と仲良くなったりする物語です。各キャラは立っているし、たまに笑えるほのぼのとした作風であり、ラノベファン向けに書かれたのが一読してよく理解できる作品です。 シリーズ全7巻ですが、2作目で本作を大きく上回る評価がなされており、更なるキャラが続々登場し戦闘シーンも増えている模様です。おそらくシリーズの良さ、例えばちょっととぼけた守り神の魅力や兄弟との絆が深まっていく様、或いは護り女であるコウが次第に彼らとの距離を狭めていく様子などが描かれているのではないかと思います。まあ今後読み進めるかどうかは気分次第。今のところその予定はありませんが。 尚、イラストが非常に上手く、特に女クーが目茶苦茶可愛く描かれていて、本書の魅力の一つになっていますね。表紙よりも更に可愛らしいですよ。 |
No.1424 | 7点 | 死体の汁を啜れ- 白井智之 | 2022/03/24 23:20 |
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豚の顔をした人間が死んでいる――
こんな死体、あり!? ならず者たちが、異常すぎる死体の謎を追う 若き鬼才が描く、本格ミステリの新世界! この街では、なぜか人がよく殺される。 小さな港町、牟黒市。殺人事件の発生率は、 南アフリカのケープタウンと同じくらい。 豚の頭をかぶった死体。頭と手足を切断された死体。 胃袋が破裂した死体。死体の腹の中の死体……。 事件の謎を追うのは、推理作家、悪徳刑事、女子高生、 そして深夜ラジオ好きのやくざ。 前代未聞の死体から始まる、新時代の本格ミステリ! Amazon内容紹介より。 やはり白井智之はある意味別格ですね。何となく世間的に見れば異端児的な存在の様に思えますが、猟奇的事件をロジックで解決する。私からすれば本格ミステリの理想形に到達しているのではないかとすら感じます。確かにグロい描写が多いです、しかしそれを生かし切ったトリックを仕掛けてくる辺り、まさに悪魔的、天才的ではないかと。で、本作はグロは控えめでそれに反比例するように論理に重点を置いており、決して伏線を回収してとか読者にも真相が推理できるような代物ではありません。しかもリアリティの欠片もありはしませんが、成程と思わせるだけの整合性は持ち合わせています。又、一寸したことですが、ネーミングセンスが良いですね。 何と言っても白眉は『何もない死体』でしょうね。四肢と頭部を切断された死体、その鬼畜の如き所業の裏に隠されたトリックとホワイダニットには思わず拍手を送りたくなりました。 次点は『死体の中の死体』ですかね。死体のマトリョーシカとも言うべき風変わり過ぎる死体の秘密、これにも驚きの理由がありました。 勿論一般受けはしないでしょうが、グロに抵抗のない方は一度読んでみると面白いと思いますよ。 |
No.1423 | 6点 | 相棒シーズン8下- 碇卯人 | 2022/03/21 23:26 |
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ラーメン店でのささやかな昼食が一転、伊丹憲一が事件のターゲットとなる「狙われた刑事」、老人と少女の交流が涙を誘う「右京、風邪をひく」など7篇。最終話「神の憂鬱」では神戸尊が特命係に送られた理由がついに明らかにされる!伊藤理佐の巻末漫画も必読。連続ドラマ第8シーズンの第13話~第19話を収録。
『BOOK』データベースより。 第8seasonの右京の相棒は神戸尊(及川光博)。7編全てが違う脚本家によるドラマをノベルス化したもの。その割には平均的にどれも面白かったです。ですが、突出している作品はなく、一定水準を保っている感じです。まあ安定の面白さなんでしょう、だからこそ長年愛されているシリーズなのだと思います。私も遠い昔に見ていたような記憶はありますが、定かではありません。意外にトリッキーなものやコメディ調があったり、なかなかバラエティに富んでいます。 一話約50ページ程なので、中には登場人物が多すぎて消化しきれないものもありました。物語は尊目線で大方進んでいき、右京はあまりに真面目すぎるし、言葉が丁寧過ぎるのも手伝ってか、あまり人間味を感じさせません。その辺りはやはりドラマで水谷豊の演技を観たほうが分かりやすいのではないかと思います。最終話では何やら不穏な雰囲気が漂います。尊がどうして特命課に任命されたのかが判明します。まあいきなり下巻から読み始めたので、その意味ではあまりそうだったのか、成る程とはなりませんでしたが。 しかしまさかこんなのも登録済みとは、恐れ入りました。 |
No.1422 | 7点 | コフィン・ダンサー- ジェフリー・ディーヴァー | 2022/03/18 22:56 |
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FBIの重要証人が殺された。四肢麻痺の科学捜査専門家リンカーン・ライムは、「棺の前で踊る男(コフィン・ダンサー)」と呼ばれる殺し屋の逮捕に協力を要請される。巧みな陽動作戦で警察を翻弄するこの男に、ライムは部下を殺された苦い経験がある。今度こそ…ダンサーとライムの知力をつくした闘いが始まる。
『BOOK』データベースより。 単行本二段組みで450頁・・・長い。まあそれだけ緻密且つ丁寧に描かれている事だとは思います。しかし前作と比較すると、エンターテインメントとしては若干劣るというのが個人的見解です。それはライムとサックスの関係性が安定してしまった事と、ライムの苦悩がかなり薄れてきた事ゆえですね。それと航空機に関する知識がないと楽しめない感が否めない面がある点。但し今回は犯人側からの描写もふんだんに盛り込まれており、その意味では抑揚が効いていた気がします。 本作をディーヴァ―の最高傑作とする向きもあるようですが、それはどうですかねえ。まだ二作しか読んでいない私が言うのも何ですが、以降もシリーズを追い掛けたいわけで、更なる高みが見てみたいのです。 しかし、終盤の目くるめく展開は、まさにページを捲る手が止まらないと云ったところで、デーヴァ―の真骨頂を見た気がします。それまでの読書に費やした労力が報われた瞬間でした。 |
No.1421 | 5点 | 文豪のミステリー小説- アンソロジー(国内編集者) | 2022/03/14 22:44 |
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推理小説や探偵小説だけがミステリーではない。人間の心を深くそそる謎、それが本来のミステリーである。ユーモラスな語り口の中に非日常の世界をのぞき見る夏目漱石「琴のそら音」、真相のありかそのものを問う芥川龍之介「藪の中」、理化学トリックの幸田露伴「あやしやな」、思いもよらぬ犯罪を暴き出す大岡昇平「真昼の歩行者」など、名作九篇を厳選。
『BOOK』データベースより。 芥川龍之介の『藪の中』目当てに買いましたが、正直ミステリと呼べるような作品は皆無でした。辛うじてミステリ的趣向の垣間見える大岡昇平の『真昼の歩行者』が捻りが有ってちょっと良かったかなと思いました。あとは大佛次郎の『手首』、岡本綺堂の『白髪鬼』がホラーテイストでまずまずの出来。 夏目漱石は当て字が多いし、訳が分からないし。幸田露伴に至っては文語体というのか、まるで古文を読み易くしたような文体で、最後まで読んだ自分を褒めてやりたいというのが感想ですかね。これも意味不明でした。肝心の芥川に関しては、なるほどと思った程度で、然して感慨は湧きませんでした。 餅は餅屋という言葉があるように、文豪と言ってもミステリに関してはアイディアと言い、構成と言い、意外性と言い、現代のミステリと比べるべくもない凡作が多く、まあこんなのも書いていたんだなという位にしか思えませんでしたね。 |
No.1420 | 7点 | プシュケの涙- 柴村仁 | 2022/03/11 22:46 |
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「こうして言葉にしてみると…すごく陳腐だ。おかしいよね。笑っていいよ」「笑わないよ。笑っていいことじゃないだろう」…あなたがそう言ってくれたから、私はここにいる―あなたのそばは、呼吸がしやすい。ここにいれば、私は安らかだった。だから私は、あなたのために絵を描こう。夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降りて自殺した。彼女はなぜそんなことをしたのか?その謎を探るため、二人の少年が動き始めた。一人は、飛び降りるまさにその瞬間を目撃した榎戸川。うまくいかないことばかりで鬱々としてる受験生。もう一人は“変人”由良。何を考えているかよく分からない…そんな二人が導き出した真実は、残酷なまでに切なく、身を滅ぼすほどに愛しい。
『BOOK』データベースより。 正直、ミステリとしてもラノベとしても薄味です。しかし、そこにスパイスが加わればこれ程までに輝いた青春小説に成り代わるという見本の様な作品です。そのスパイスとは由良のキャラの魅力であったり、幾つかのサプライズという事になるでしょう。文体ひとつ取ってみても、お世辞にも完成されているとは言い難いですし、ミステリの読者にとってはいささか物足りなさを覚えるかも知れません。ですが、それを補って余りある新味が私には感じられました。 シリーズ化は必然とは言えないと思います。真実は不明ですが、もしかしたら編集者から続編を催促されたのかも知れないし、作者が最初からそのつもりだったかも知れません。其処に関してはこれから追々読んでいって、良し悪しを判断したいところですね。興味がある人は読んでみるのも良いですが、必ずしも私のような高評価を与えるとは思えません。評者は本作に対して不当に甘い評価をしている可能性も否定できませんので。 |
No.1419 | 7点 | 愚者の毒- 宇佐美まこと | 2022/03/09 22:46 |
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一九八五年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めてゆく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは一九六五年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった…。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは?衝撃の傑作!
『BOOK』データベースより。 暗くて重いです。そういうのが嫌いな方にはお薦めしません。ジャンルはサスペンスとして登録されていますが、個人的見解は本格ミステリです。トリックとしては中盤に明らかにされるものが、山田風太郎や竹本健治みたいな感じで結構面白いと思いました。それ程派手ではありませんけどね。それよりも本作にはもっと大胆な・・・が。おっとこれ以上は書くのは無粋というものでしょう。 誰が誰を殺したのかを含めて、なかなか複雑な物語で三部構成になっています。第二章を読み始めた時は、いきなり場面が切り替わり、物凄く違和感を覚えましたが、最後まで読んでそれが計算されつくしたものだと悟りました。まあ何はともあれ日本推理作家協会賞受賞作ですから、それだけのものは備えた作品とは言えましょう。結局私は作者にしてやられた一人です。詳細は伏せますが、そういうのもミステリの醍醐味のひとつですから、作者の勝利でしたね。 |
No.1418 | 7点 | 古畑任三郎1- 三谷幸喜 | 2022/03/05 22:58 |
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田村正和主演・大人気ドラマのノベライズがついに文庫化。事件が起こると忽然と姿を現わし、犯人を逮捕すると忽然と消えてしまう、バカ丁寧だが捕らえどころのない変わった男―警部補・古畑任三郎が大活躍。今回、古畑に挑戦するのは精神科医の笹山アリ、歌舞伎役者の中村右近、ミステリー作家の幡随院大、ピアニストの井口薫、超能力少年の黒田聖の五人。それぞれクセのある殺人事件だが、首尾よく古畑をだませるのか。それとも…。
『BOOK』データベースより。 人に貰ったのでも拾った訳でもないのに、何故か0円で手に入れた本。その理由は秘密。 底本は単行本『古畑任三郎ー殺人事件ファイル』、これを分冊文庫化した前編の方です。一応2の方も手元にあるので双方を個別に書評するため登録しました。 さて、本作只で入手した物であるためではなく、本当の意味での拾い物でした。実に面白い、ああこれは別のドラマでしたね。ドラマの方は興味はあったけれど最初は観ていなくて、どれも初めましてでした。端的に良く纏まっていて一篇50ページくらいでどれも気の利いた、こなれた作品ばかりです。三谷本人はあとがきで小説よりも脚本家に向いていると仰っているけれど、どうしてどうして素晴らしいリーダビリティではありませんか。 『徹子の部屋』で故田村正和氏が言っていたように、「古畑という男は訳の分からない男」なので、その言動が常人とは異なるのが本作でも良く分かります。残念なのはいつも古畑にコバンザメの様にくっ付いている情けない男、今泉が出ていない事ですね。その理由もあとがきに書かれています。 例えば第一話で鑑識があまりにも杜撰であることなど、細かい事を気にしなければこれ程面白い小説には滅多に出会えませんよ。取り敢えず個性豊かな犯人と古畑の対決を存分に楽しめるのは保証します。 |
No.1417 | 6点 | いま、殺りにゆきます- 平山夢明 | 2022/03/04 22:52 |
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深夜の路上で凶徒に遭遇したカップルの恐怖を描く「峠で壊れて」。愛犬の足が何者かにより一本ずつ折られていく「だんだん少なくなっていく」。常軌を逸したイタズラ電話が母子を追いつめる「謎電」。電車内で理由もなく乗客を殴り続ける男、「おら男」。日本ホラー界の第一人者が、徹底した取材を元に日常に潜む恐怖を描いた36話を収録。狂気が支配する、逃げ場のない世界が展開する実話恐怖集。
『BOOK』データベースより。 タイトルからしていかにもヤバそうですねえ。長編かと思っていたらショートショート怪談集でした。現実の出来事かどうかは不透明ですが、本当だったらかなり嫌ですね。私に耐性があるせいか怖くはなかったです、只胸糞の悪い話ばかりで、人間の狂気が描かれています。淡々とした、中学生が書いたような文章で如何に故意だとしても、初めてこの作者の小説を読む人は、こんなのしか書けないのかと勘違いしそうです。念のため言っておきますが、勿論ちゃんとした文章も書ける人です。 好みというか面白かった(不謹慎か)のは『ヒール』『レンタル家族』『一生瓶』『だんだん少なくなっていく』『串打ち』『閉店パーティー』辺りかな。 多くの話が、彼又は彼女(酷い目に遭った人々)が引っ越すか、犯人はまだ捕まっていないという結末で終わっています。結局一番怖いのは生きている人間だという、まあありがちで都市伝説的な話が多かったように思います。 |
No.1416 | 7点 | 密閉山脈- 森村誠一 | 2022/03/03 23:18 |
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“K岳山頂から灯火を愛の信号にして送る”山麓で待つ恋人・湯浅貴久子にそう約束して山頂を目指した影山隼人だったが、送られてきたのは遭難信号だった!翌朝、山仲間の真柄慎二と救援隊により影山の遺体が発見された。事故か、他殺か?遺されたヘルメットは何を物語る!?北アルプスの高峰に構築された密室で起きたこととは―。山岳ミステリーの白眉!
『BOOK』データベースより。 森村誠一を最後に読んだのは数十年前の事、作品は『分水嶺』でした。今となっては内容など全く覚えていませんが、読後の余韻は今でも忘れません。それ以来の森村です、これはかなりの完成度と言って良いと思います。ただ、ケチを付ける訳ではありませんが、若干引っ掛かる点もあります。例えば、ヒロイン湯浅貴久子の心の変遷、女心とはかくも繊細で微妙なものなのでしょうか。或いは事件の謎を追う熊耳のヘルメットに対する扱い方などは、とても警察官のそれとは思えないです。あとはメイントリックですかね、壮大な山岳の密室やアリバイの謎と比較して余りにもショボかったですね。 それでも皆さんの評価の高さを見れば一目瞭然、十分良作の範疇に収まるものと思います。兎に角語り口が素晴らしい、まさに一流の作家ならではの筆運びでしょう。又、一つのドラマとしても映える出来栄えですね。意外な動機にも注目されるところですし、悲しい結末が何とも言えない感慨を齎します。 |
No.1415 | 6点 | ドウエル教授の首- アレクサンドル・ロマノヴィチ・ ベリャーエフ | 2022/02/28 22:55 |
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パリのケルン教授の助手に雇われたマリイは、実験室内の恐ろしい秘密を目の当たりにする。人間の首──それも胴体から切り離された生首が、瞬きしながらじっとこちらを見つめているではないか! それはつい最近死亡した、高名な外科医ドウエル教授の首だった。おりしもパリ市内では不可解な事件が続発していた……。“ロシアのジュール・ヴェルヌ"と呼ばれる著者の傑作長編。訳者あとがき=原卓也
Amazon内容紹介より。 SF、ホラー、スリラー、冒険小説等色んな要素が入り混じってジャンル分けが難しい作品です。思っていたよりも怪奇色が薄く、全く怖くはありません。だからこそジュブナイルとしても翻訳されている訳で、それでも子供の頃に読んだらちょっとしたトラウマになったかも知れません。しかし、本作は1926年に発表されたもの、やはりその時代に書かれた作品としては相当センセーショナルなものだったと言わざるを得ません。その後のソ連の実験を鑑みるに付け、先見の明があったのは間違いないでしょう。その辺りは訳者あとがきに詳しいです。 意外にもストーリー性が豊かで、医学の最先端の技術を基に物語は様々な色を見せます。まあ荒唐無稽というか無茶苦茶な面も多い気がしますが、書かれている事柄はあながち法螺話と決めつける事が出来ない可能性を秘めているのも確かだと思います。一旦死んだ人間の首から上だけを生かし続けるという、神をも恐れぬ行為をどう捉えるかで評価が分かれそうな気がしますね。 |
No.1414 | 6点 | 跫音- 山田風太郎 | 2022/02/26 23:30 |
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10篇の短編からなるホラー作品集。とは言え、色んなタイプの小説が並び一口にホラーとは決めつけられません。
個人的には『双頭の人』『黒檜姉妹』がツートップですね。それに続くのが『最後の晩餐』『呪恋の女』辺り。こうして見るとやはり自分は異形の物語が好きなんだとつくづく思い知らされます。他もまずまずの出来で、一定の水準はクリアしていると思います。トップ2作品はまさかの展開に驚愕を覚えます。オチが凄いですよ。 菊地秀行の解説にあるように、1995年時点で他の作品集と重複はないとの事で安心して楽しめます。風太郎はどれに何が入っているのか把握しづらいですから、これは嬉しいですね。流石に文体は古さを感じさせますが、それが又一つの味わいになっていて良い意味でその時代の風合いに浸れます。 |
No.1413 | 7点 | 閉ざされた城の中で語る英吉利人- ピエール・モリオン | 2022/02/23 23:26 |
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文学的ポルノの傑作としてつとに名高い、匿名のフランス人作家が発表した地下出版物の完全無削除版。閉ざされた城という密閉された実験空間の中で、性の絶対君主が繰り広げる酒池肉林の諸場景を通してエロスの「黒い」本質に迫る。
『BOOK』データベースより。 「エロスは黒い神だ」とは帯の惹句。まさにその通りだと思いました。事細かに性描写をしている上に放送禁止用語の連発、なのに文学的であるのは作者の力量でしょうね。ただ後半城の主が語る自身の過去の談になると、一文が長いのに加えてややこしい言い回しが多いため、非常に読み難いです。主人と客以外の登場人物の個性など無視して、色々なタイプの女達を手を変え品を変え様々な方法で凌辱していく様は圧巻で、奇書と呼ぶに相応しい作品だと思います。 尚、本作は1953年に発刊された地下出版物であり、ピエール・モリオンと云う作家自体も正体不明だったようです。それが実はアンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの仮名で、後に『城の中のイギリス人』のタイトルで正式に発表される事になった訳です。 いずれにしても、個人で楽しむのは良いですが決して他人に薦めてはいけません。友達を失うことになりますからね。そして、エロ耐性のある人は面白く読めるかもしれませんが、そうでない人はご遠慮願いたい代物です。とは言え、私が思っていた程刺激が強いとは言い難く、気分を害するようなことはありませんでしたねえ。やはり『ソドムの百二十日』や『家畜人ヤプー』には遠く及ばないってことですか。勿論両作とも積読状態です、いつか読みますよ。 |
No.1412 | 7点 | 魔眼の匣の殺人- 今村昌弘 | 2022/02/22 23:32 |
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その日、“魔眼の匣"を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。
Amazon内容紹介より。 流石に前作と比べるとワンランク落ちる印象は拭えません。今回は予言と言うか千里眼が背景にあり、それ程突飛な設定ではありません。過去に何度も使い古されたテーマなので新鮮味はないですね。それをどう料理するか、例えば普通の作家なら二つくらいプロローグを用いたりするのではないでしょうか。その方がオカルトチックになり得ますしね。しかし敢えてそうしなかったのは本格の旗手としての自負があったからかも知れません。 真相は若干後出しな面もありますが、一応筋の通った理路整然とした推理が見られます、特に行動心理学的見地から納得の行く解決を導き出していると思います。様々な要素を取り込んでいる割りには全体的に地味な気もしますが、なかなかの力作ではないでしょうか。後半へ進むほど面白くなってきます。動機も確りとした下地がありなるほどと思いました。 まあでも、あの人がいないのはやはり寂しいものがありますね。 |
No.1411 | 7点 | 卵の中の刺殺体 世界最小の密室- 門前典之 | 2022/02/18 22:43 |
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龍神の卵の中身は白骨死体!
解体され人間テーブルにされた若者! 奇抜な現象連発の“B級本格ミステリー" 宮村は店舗設計を任されているコルバカフェのオーナー神谷から龍神池近くの別荘にコルバカフェの社員たちと共に招待される。しかし、道路に繋がる吊り橋が斜面の崩落によって落ちてしまう。山道を迂回すれば戻ることが出来ることから落ち着いていた一同だが、深夜密室状態の部屋で神谷が殺されていた。 Amazon内容紹介より。 作者はB級本格ミステリを標榜しているという。奇怪な殺人事件、交錯するプロット、繰り返される推理と想像を超える真相等、確かに氏の目指すガジェットが詰め込まれた作品に仕上がっています。まず冒頭に提示される世界最小の卵の密室は意表を突くもので、明らかに『屍の命題』を意識している様に思われます。そしてドリルキラーによる猟奇殺人と本筋となるコルバ館が錯綜し、物語全体を織り成します。これらの独立する三つの事件は果たしてどう関わっているのか、いないのか?それを想像するだけでも楽しめますね。 名探偵蜘蛛手不在の中、建築事務所の共同経営者宮村が一人奮闘する姿が健気で、思わず応援したくなります。更に本作から探偵事務所に勤めることになった公佳も、蜘蛛手とタメ口を聞くなど無謀なところありつつも、なかなか鋭い面も見せる頼もしい仲間が加わり、次作も楽しみです。ただ、『屍の命題』のような衝撃がなかったのだけは残念ではありましたが。 |
No.1410 | 5点 | 私と悪魔の100の問答- 上遠野浩平 | 2022/02/16 23:02 |
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「いや吾輩は君には全然興味がないけど、世の中の正義にはもっと興味がないから」どん底だった私に、あいつはそう言った。親の事業が失敗して、マスコミに叩かれ、世界のすべてが敵に回っていたときに。助けてもらう代わりに、私はそいつと契約することになった。それは100の質問に答えろっていう意味のわからないもので―追い詰められた少女と、尻尾の掴めない男が出逢うときに生まれる、奇妙で不思議な対話の先に待つものは…。
『BOOK』データベースより。 腹話術の人形?が雑学から心理学、普遍的な物まで色々質問し、主人公の女子高生紅葉がそれに答える、そして更に人形が突っ込むみたいなものの繰り返し。しかし、厳密に答える訳でもなく、スルーと云うか、「分からない」「知らない」で終わったりもします。もっと哲学的な感じかと思いきや、そうでもなく何となく流れで済まされてしまい、あまり深堀されていないのが大いに不満です。 文章が故意にいい加減に書かれているのかと疑いたくなるくらいで、平明なのに逆に読みづらい印象を受けました。真面に書けるのは地の文で明らかなのに、なぜ態々そっちの方向に持って行くかなという気持ちになります。 一応ストーリーらしきものはあります。私としてはそんなものなくても良いから、真面目に討論して欲しかったし、そう云う小説だと信じていたのに裏切られた感を強くしました。 終盤で何やら謎の組織が関係しているのがぼんやりと見えてきますが、それも曖昧なまま終わってしまい、結局何がしたかったのかさっぱり分かりませんでした。 Amazonでは結構な高評価で、それも俄かには信じがたいものであり、何かの間違いであってほしいと願っていたりします。この現実をどう受け止めたら良いのやら、世の中不思議に満ちているなと言うしかありません。 |
No.1409 | 7点 | 墓頭- 真藤順丈 | 2022/02/14 22:51 |
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双子の兄弟のなきがらが埋まったこぶを頭に持つ彼を、人々は“墓頭”と呼んだ。数奇な運命に導かれて異能の子どもが集まる施設に入ったボズは、改革運動の吹き荒れる中国、混迷を極める香港九龍城、インド洋孤島の無差別殺人事件に現われ、戦後アジアの暗黒史で語られる存在になっていく。自分に関わった者はかならず命を落とす、そんな宿命を背負った男の有為転変の冒険譚。唯一無二のピカレスクロマンがいま開幕する―。
『BOOK』データベースより。 まずは作者の語彙力の高さに圧倒されました。ボキャブラリーが豊富であるだけではなく、使い処が的確なのです。トーンは飽くまで暗く、その重さはとてつもなくへヴィです。 ストーリーとしては比喩ではなく頭の中にバラバラ死体を宿した墓頭と呼ばれた男の一代記であり、壮大な大河小説でもあります。謎の探偵が探し出した養蚕家が語る異様過ぎる物語。その中で墓頭に関わる脇役達を含め、それぞれのキャラが立っており、ある種の群像劇を繰り広げます。 その中には毛沢東らも含まれていて、アジアの裏歴史とも言える壮大な法螺話がとても魅力的に思えました。ただ、私が最も注目していた案件が最後まで果たされることなく暈かされたのは残念でした。又、いくつかのミステリ的手法を駆使して読者を惑乱する技も披露されており、真藤順丈の底力を見せつけます。これぞ氏の本領発揮と言えましょう。『宝島』の直木賞受賞は伊達ではないという事ですね。 |