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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1835件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1435 6点 妖琦庵夜話 人魚を喰らう者- 榎田ユウリ 2022/04/21 23:04
都内某所にひっそりと佇む茶屋『妖〓(き)庵』。その主、洗足伊織は目を見張る美貌の持ち主だが、非常に偏屈な毒舌家でもある。『人間』と『妖人』を見分ける能力を持つ伊織のもとへ、正月早々、警視庁の新米刑事・脇坂がやってくる。『人魚』として妖人の登録をされている女性が、誘拐されたというのだ。人魚の肉は不老長寿の妙薬―?人魚を巡る過去と現在の事件が交錯するとき、あの男の影が…。人気作第3弾、文庫書き下ろし!
『BOOK』データベースより。

二つの事件が入り乱れて、更に独白なども挿入されており、かなり複雑になってしまっています。読み難いという訳ではありませんが、これまでのシリーズと比較すると若干纏まりに欠け、ストレートに話が伝わって来なかった印象を受けます。どこに主題を置いて読んで良いのか迷いました。それと、今回はマメの登場シーンが少なく残念な香りがします。

それでも終わってみれば納得の出来。誘拐事件の方は、まあ考えてみればそれしかないよなと思わされます。思えば解決までにこれでもかと伏線が張られていて、それに気づかなかった自分につくづく嫌気が差しました。溺死事件の方はありきたりな感じで、あまり感心しませんね。しかし、ラストで意外過ぎる事実が明らかになり、増々本シリーズに目が離せなくなりそうです。

No.1434 6点 蒼穹のファフナー- 冲方丁 2022/04/18 22:55
あなたはそこにいますか―謎の問いかけとともに襲来した敵フェストゥムによって、竜宮島の偽りの平和は破られた。島の真実が明かされるとき、真壁一騎は人型巨大兵器ファフナーに乗る―。シリーズ構成、脚本を手がけた人気テレビアニメを、冲方丁自らがノベライズ。一騎、総士、真矢、翔子それぞれの無垢なる“青春”の終わりを描く。さらにスペシャル版「蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT」のシナリオを完全収録。
『BOOK』データベースより。

いきなり戦闘シーンから始まります。主人公一騎が搭乗するファフナー11番機は未知(ほとんどその正体は明らかにされていない)の敵、スフィンクス型と呼ばれる、己の中に相手を取り込んでしまう生物?を相手に迫力の戦いを繰り広げます。おお、アニメや映画化もされた『ファフナー』とはこの様な凄まじい戦闘を描いた物語だったのか、と思いました。すると一転、学園ものの青春ストーリーへと様変わりしていきます。

青春の一ページを切り取ったような、憧憬、淡い恋、嫉妬、償い切れない過去、友情などの青臭い登場人物のそれぞれの想いを思い切り読者にぶつけています。其処には言葉に言い表せない様な魅力が詰まっています。一つ私が何故か惹かれたのが、一騎の感じる真矢の声だったりします。甘い声でも甘えた様な声でもなく、甘いような声。何となく想像力を掻き立ててくれる気がしませんか?まあ感じ方は人それぞれなので、私だけかもしれませんが、それはそれで良いんですよ。そして突然エピローグに突入。えっ、もう終わりなのと思ってしまいました。
巻末のシナリオは正直要らなかったなあ。

No.1433 6点 なめくじに聞いてみろ- 都筑道夫 2022/04/15 23:05
天才科学者・桔梗信輔が発明した奇抜な殺人方法を闇に葬れ! 息子の信治は父の死後、出羽の山中から東京へと向かった。目指すは父から技術を伝授された十人を超える殺し屋たちの抹殺。奇想天外な武器を操る者たちに、悪事に無縁の青年はどう立ち向かうのか? 国産アクション小説の金字塔、ついに復刊!
Amazon内容紹介より。

殺し屋同士の戦いが沢山楽しめる、エンターテインメント小説。子供の玩具や身体的なハンディを逆に利用したりしての、とても殺し屋とは思えない様な奇矯な殺人方法が見どころ。でも、結局それだけ。それ以外の要素に期待してはいけません。バトルシーンに関しては呆気なく勝負がつくものが目立ち、もう少し白熱した戦いにしても良かったのではないかと思います。これ程世評が高いのが正直理解出来ないけれど、この点数にしたのは多分後々まで記憶に残りそうな変な小説だからです。都築道夫は他の作品を読んだ事がないので何とも言えませんが、氏の中でも異色作なんだろうなと思います。

ただ、文章はいけません。サクサク読めるのは良いですが、余りにも淡白で心に刺さるものがありません。しかも、読点が多すぎて箇条書きのようで、文章の流れがブツブツと細切れになってしまっているのが、気になって仕方ありませんでした。特に地の文がね。
あとがき二つ載っていますが、その後者の方を読む限りは特に気にならなかったんですけどねえ。

No.1432 5点 狂乱家族日記 七さつめ- 日日日 2022/04/11 23:20
2063年11月21日。宇宙より無数の「卵」が落下した。宇宙人襲来が現実のものとなる中、買い出し中の凰火の眼前に落ちてきたのは「恋とはなんぞや?」と問いかけるヘンテコな女の子、OASISだった。彼女を連れ、我が家へ戻った凰火は、凶華とともに家族の避難を決定するが、三女・月香だけはなぜか忽然と姿を消してしまう。そして、そのころ死神三番と花山は、最強宇宙人「強欲王」と対峙していた―。前後編構成で贈る『来るべき災厄』の幕開け。
『BOOK』データベースより。

新キャラが続々登場し、狂乱と言うより混乱、って言うか混沌としております。あまりにも色々事件が起こり過ぎて、少々頭の中で整理して読まないとダメな本だと思います。新たな登場人物の中で最も重要と思われるoasisの全体像のイラストがないのが残念です。まあそれは良いとして、遂にこれまで語られながら正体が掴めなかった『来るべき災厄』が起こりつつあるのか、後編に続くって感じで終わっていて何とも言えませんが、物語が大きく動き出したことは確かです。

今回は宇宙クラゲで十二単の美女に変身する存在として、謎のベールに包まれていた月香の正真正銘の本性が現れます。今後どんな役割を果たしていくのか非常に注目されるところです。狂乱家族の母親である主役の凶華の秘められた過去も明かされ、とにかく内容がびっしり詰まった一冊になっています。これまで出ていた脇役達も出番がなくなる程の急展開に唖然とさせられました。取り敢えず次巻の前に番外編そのいちが先に刊行されているので、そちらから先に読まねばなるまいと思っているところです。

No.1431 7点 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 2022/04/10 22:35
太平洋戦争中、疎開先で家出した梶原兵吾少年は疲れ果て倒れたところをある屋敷に運び込まれる。その夜、少年は窓から忍び入る“鬼”に遭遇してしまう。翌日から、虎の像の口にくわえられた死体をはじめ、屋敷内には七人もの死体が残された。五十年の時を経て、「直観」探偵・八神一彦が真相を解明する。
『BOOK』データベースより。

これはなかなかの力作ではないでしょうか。どうせならナノレンジャーやメキシコ湾の話を思い切って取っ払って、本編だけをもう少し膨らませて一冊にしたほうが良かった気もします。全体の構成がやや歪になっている感じがして仕方ありません。それらが伏線となっているのは間違いないですけどね。予備知識なしで読んだ私は、最初何だこりゃ?と思いましたよ。随分タイトルからかけ離れているじゃないかって。

さて、肝心の密室トリックですが、前例がありそれをアレンジしているだけなので、真相が明らかになってもそれほどの驚きはありませんでした。ただ、不可解な怪奇現象の連続を少年の目から見た事実として語られる事件の内容は、一見あり得ない事の様に上手く描かれていると思います。しかし、この件の第一幕から何となくバタバタしている印象なので、もっとじっくり腰を据えて、更に奇怪な雰囲気で盛り上げてもらえたら評価はもっと高くなったと思いますね。

No.1430 7点 復讐者の棺- 石崎幸二 2022/04/06 23:04
大手スーパーKONO堂は、伊豆沖の孤島にある、経営破綻したテーマパークを買収。その再建のため、本社から島に派遣されたスタッフが惨殺された!死体は棺に入れられ、そこには一通の封筒が。手紙の主は、10年前にKONO堂で起きた殺人事件の復讐者を名乗る。孤島を舞台に巻き起こる連続不可能殺人!事件の背後にある深い闇とは。
『BOOK』データベースより。

えー、結構面白かったけどなあ。私が単純だからでしょうか。まあマンネリ化しているのは確かです。ミリア、ユリ、仁美、石崎のボケとツッコミぶりは相変わらずだし、どうしても孤島へ向かってしまうのもお約束ですし。事件がテンポよく起こるのは良いけれど、ワンパターンなのが何とかならないものかとも思います。またトリックとしては見破りやすいし、動機もありきたり、それでも謎を一つ一つ挙げて行き、石崎とミリア、ユリの三人で検討するのは本格魂を感じさせます。そして何より読者に対して親切だと思いますよ。

本シリーズはミリアとユリに責められる石崎が自虐的なのがまた良いんですね。決して自分が目立とうとせず、しかし最後には美味しいところをさりげなく持って行く感じが、読んでいて気持ちいいです。それにしても、何だかんだで孤島物である必然性として、ケータイが使えなくなるのを苦心して現実のものにするところも涙ぐましいですね。シンプルだけどサクサク読めて面白いものが好きな人向けの作品だと思います。

No.1429 5点 僕は僕の書いた小説を知らない- 喜友名トト 2022/04/04 22:53
「失ってしまう記憶の代わりに、最高の物語を残したい」小説家の岸本アキラは、ある朝目覚めると“昨日”の記憶がないことに気付く。実は彼は二年前の事故により、記憶が毎日リセットされてしまうのだ。そしてそんな困難な状況でも、アキラは小説を書き進めていた。絶望的な不安と闘い葛藤しながら、決して“明日”を諦めまいともがく感動ストーリー。
『BOOK』データベースより。

何故買ったのか、今思えばよく分からない作品。多分その時の気分と評価の高さに惹かれたのだと思います。前向性健忘という脳の病気を交通事故で背負ってしまった主人公の、悪戦苦闘ぶりが読み所です。過去の例としては西尾維新の『掟上今日子シリーズ』がありますね。一晩寝ると前日の記憶が無くなっているというものです。
小説家岸本アキラの一人称で書かれている為、その時々の心の揺れ様が手に取るように分かります。本人はややハードボイルドを気取っているので、感情移入はし難いと思われます。まあしかし、あまり深刻になり過ぎずそれなりに前向きに生きようとする姿には、多少の共感は覚えます。

それにしても、カフェに勤め、何かとアキラに接触してくる翼の存在が大きいですね。彼女なくしてこの物語は成立しえないでしょう。ストーリーはアキラと翼の付かず離れずの付き合いと、小説の締め切りが迫る中障碍を負い乍ら何とか試行錯誤して、完成に漕ぎ着けようと奮闘するアキラの頑張りを軸に進行していきます。
どちらかと言うと感性で読む作品なので派手な展開などはありませんが、最後にちょっとしたサプライズが読者へのプレゼントとして用意されています。若い世代により受けそうな作風ですね。あと、ある意味メタな部分もあります。

No.1428 7点 上海魚人伝説殺人事件- 天樹征丸 2022/04/02 23:04
中国・上海の人魚観劇場(マーメイド・ホール)を訪れた金田一と美雪は、呪われた“魚人伝説”そのままの、悪夢のような連続殺人事件にまきこまれた!
それは「春」から始まった……伝説の怪物、「魚人(ぎょじん)」が詠んだ春夏秋冬の子守唄そのままに、次々と起きる悪夢のような殺人。春の次には、夏が来る。そして――
Amazon内容紹介より。

金田一少年の事件簿と言えば、昔堂本剛のドラマをたまに観ていて普通に面白かった印象だが、例のトリックパクリ事件以来私の心象を悪くして、それ以来原作を避けていた気がします。まあでももう時効だろうし、そろそろいいかなと思い立って読んでみました。
子供から大人まで楽しめる本格ミステリを目指しているだけあって、何だか内容が希薄でタッチが軽いなと思いながら読みました。『作者からの挑戦状』が差し挟まっているのは、うーん、そこまでする必要があるのかしら?と鼻白んでしまいましたが、その後の解決編はなるほどと唸らされるものでした。評価も急上昇。

上梓される前から映画化が予定されていたらしく、確かに映画のほうが見栄えがするような気はしました。雰囲気をもっとホラー寄りにしたり、見立て殺人の元ネタをフィーチャーしたりすればそれなりに面白いものになりそうな感じです。実際はどうなっているのかは知りませんが。人によっては評価が甘いと思われそうですが、メイントリックを始め、悲しい真相、過去の事件の絡み方、人間模様などよく練られていると個人的に感じました。

No.1427 6点 クワバカ- 中村計 2022/03/31 23:13
クワバカ―クワガタムシを愛し、人生のすべてを賭してしまった男たちのことだ。ハブに咬まれても採集をやめない男、一回の勝負に数十万円を費やす“闘クワガタ士”、採集のためにインドネシアへ移住した世界的コレクター。そんな男たちを取材するうちに、著者自身もクワガタの沼へ少しずつはまっていった。そして、そのクワバカたちにも底知れない魅力を感じていき―。少年時代を想起させ、なぜか羨ましさも感じさせる不思議な男たちを描く、傑作“昆虫”ノンフィクション。
『BOOK』データベースより。

クワガタは男のロマンだ、クワガタこそ男達を冒険に駆り立てる対象物だ、といった声が聞こえてきそうな熱い作品です。
ノンフィクションにしてはストーリー性があり、男子なら誰もが好きなクワガタの謎を解き明かし、クワガタに魅入られて人生を捧げた男達の人生を追う、稀有な一冊となっています。

まずはかつて幻、黒いダイヤと呼ばれたオオクワガタ。兎に角1ミリでも大きな野生の個体を求めて、コレクターたちは奔走します。又、採集から養殖への変遷の歴史なども語られており、興味深く読めました。今でこそ道の駅とかで数千円でつがいで売られているオオクワガタ、私の子供の頃の憧れであり続けた存在であり、どうしても手の届かない夢でした。続いて登場するのが、悔しい事に名前すら知らなかった表紙の写真のマルバネクワガタ。マニアが最後に辿り着くと言われる大歯型、中歯型、小歯型が存在し、トラップにすら掛からない難敵であります。ハブに襲われる恐怖を抱きながら奄美大島でマルバネを探し求める男たちの執念は凄まじいものがあります。そしてドルクスチャンプ杯というクワガタバトルで、パラワン、テイオウの二大オオヒラタクワガタに国産ヒラタクワガタで対抗する勝負の行方。最後はインドネシアの昆虫図鑑を作る為、インドネシアに移住した男の物語。
いずれ、大人になっても子供の頃の夢を忘れる事が出来ず、そのままコレクターの道を突き進んだ、ロマン溢れる男たちの熱きストーリーを追ったノンフィクションの傑作だと思います。

No.1426 6点 101番目の百物語- サイトウケンジ 2022/03/29 23:49
一文字疾風、通称モンジは元気な普通の高校生。親友のキリカと他愛のない会話をしたり、憧れの先輩と一緒に帰ったりと、平和な日々を過ごす―はずだった。だが、ある日出会った謎の少女から、突然Dフォンというケータイを手渡される。それは、“実際にある”都市伝説を集めたサイト、『8番目のセカイ』に繋がるものだった。彼はそこで「百物語の主人公」に選ばれてしまったらしい。そんな彼の前に現れた転入生、一之江瑞江は囁く―「どうして、電話に出なかったのですか?」サイトウケンジ×涼香という最強コンビが贈る、ノンストップ学園アクションラブコメ開幕。
『BOOK』データベースより。

ホラーと言っても、口裂け女やトイレの花子さんなどの都市伝説物。前半に主人公の高校生一文字疾風が襲われるのはリカちゃん人形ならぬリコちゃんから携帯への電話。電話が掛かって来る度に近づいてきて、最後には「今あなたの後ろにいるの」ってなるやつです。みなさんご存じだと思います。

しかし、何故一文字が「百物語の主人公」に選ばれたのかがイマイチ説明不足で、そこが気になって仕方ありませんでした。まだ続きが8巻まであるので、何処かで判明することになるのかも知れませんけど。そして、彼の周りの美少女達が敵か味方か分からない状況で一応物語としては完結しますが、その後一体その関係性がどう発展していくのかは全く予断を許しません。後半になるとホラーと言うよりファンタジーの色が濃くなり、終盤はなかなかの緊迫感を持って敵味方入り乱れての激しいバトルになるお約束の展開に。まあラノベだなーと思いながらも圧倒されるシーン続出です。尚、適度にラブコメ要素もありつつ、楽しめました。

No.1425 5点 我が家のお稲荷さま。- 柴村仁 2022/03/27 23:06
その昔―一匹の大霊狐が三槌家の守り神に祀りあげられた。名を空幻といい、ありとあらゆる術を自在に操る、たいへんに賢しい狐であった。だが同時に、騒動が大好きでもあった。いたずらと呼ぶには悪辣すぎる所業を繰り返す空幻に業を煮やした三槌の司祭は、七昼七晩かけて空幻を裏山の祠に封印したのだった。そして現在―未知の妖怪に狙われた三槌家の末裔・高上透を護るため、ついに空幻が祠から解封された…のだが、その物腰は畏怖された伝説とは裏腹に軽薄そのもの。イマドキの少年である透からは『クーちゃん』と呼ばれる程で…第10回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞。
『BOOK』データベースより。

綺麗に纏まり過ぎていて、尖った所がなく、それが物足りませんでした。三槌家の守り神で、人語を話し男にも女にも変身できる狐の愛称クーがバトルを繰り広げたり、現代社会の文化に驚いたり、三槌家の兄弟と仲良くなったりする物語です。各キャラは立っているし、たまに笑えるほのぼのとした作風であり、ラノベファン向けに書かれたのが一読してよく理解できる作品です。

シリーズ全7巻ですが、2作目で本作を大きく上回る評価がなされており、更なるキャラが続々登場し戦闘シーンも増えている模様です。おそらくシリーズの良さ、例えばちょっととぼけた守り神の魅力や兄弟との絆が深まっていく様、或いは護り女であるコウが次第に彼らとの距離を狭めていく様子などが描かれているのではないかと思います。まあ今後読み進めるかどうかは気分次第。今のところその予定はありませんが。
尚、イラストが非常に上手く、特に女クーが目茶苦茶可愛く描かれていて、本書の魅力の一つになっていますね。表紙よりも更に可愛らしいですよ。

No.1424 7点 死体の汁を啜れ- 白井智之 2022/03/24 23:20
豚の顔をした人間が死んでいる――
こんな死体、あり!?
ならず者たちが、異常すぎる死体の謎を追う
若き鬼才が描く、本格ミステリの新世界!

この街では、なぜか人がよく殺される。
小さな港町、牟黒市。殺人事件の発生率は、
南アフリカのケープタウンと同じくらい。
豚の頭をかぶった死体。頭と手足を切断された死体。
胃袋が破裂した死体。死体の腹の中の死体……。
事件の謎を追うのは、推理作家、悪徳刑事、女子高生、
そして深夜ラジオ好きのやくざ。
前代未聞の死体から始まる、新時代の本格ミステリ!
Amazon内容紹介より。

やはり白井智之はある意味別格ですね。何となく世間的に見れば異端児的な存在の様に思えますが、猟奇的事件をロジックで解決する。私からすれば本格ミステリの理想形に到達しているのではないかとすら感じます。確かにグロい描写が多いです、しかしそれを生かし切ったトリックを仕掛けてくる辺り、まさに悪魔的、天才的ではないかと。で、本作はグロは控えめでそれに反比例するように論理に重点を置いており、決して伏線を回収してとか読者にも真相が推理できるような代物ではありません。しかもリアリティの欠片もありはしませんが、成程と思わせるだけの整合性は持ち合わせています。又、一寸したことですが、ネーミングセンスが良いですね。

何と言っても白眉は『何もない死体』でしょうね。四肢と頭部を切断された死体、その鬼畜の如き所業の裏に隠されたトリックとホワイダニットには思わず拍手を送りたくなりました。
次点は『死体の中の死体』ですかね。死体のマトリョーシカとも言うべき風変わり過ぎる死体の秘密、これにも驚きの理由がありました。
勿論一般受けはしないでしょうが、グロに抵抗のない方は一度読んでみると面白いと思いますよ。

No.1423 6点 相棒シーズン8下- 碇卯人 2022/03/21 23:26
ラーメン店でのささやかな昼食が一転、伊丹憲一が事件のターゲットとなる「狙われた刑事」、老人と少女の交流が涙を誘う「右京、風邪をひく」など7篇。最終話「神の憂鬱」では神戸尊が特命係に送られた理由がついに明らかにされる!伊藤理佐の巻末漫画も必読。連続ドラマ第8シーズンの第13話~第19話を収録。
『BOOK』データベースより。

第8seasonの右京の相棒は神戸尊(及川光博)。7編全てが違う脚本家によるドラマをノベルス化したもの。その割には平均的にどれも面白かったです。ですが、突出している作品はなく、一定水準を保っている感じです。まあ安定の面白さなんでしょう、だからこそ長年愛されているシリーズなのだと思います。私も遠い昔に見ていたような記憶はありますが、定かではありません。意外にトリッキーなものやコメディ調があったり、なかなかバラエティに富んでいます。

一話約50ページ程なので、中には登場人物が多すぎて消化しきれないものもありました。物語は尊目線で大方進んでいき、右京はあまりに真面目すぎるし、言葉が丁寧過ぎるのも手伝ってか、あまり人間味を感じさせません。その辺りはやはりドラマで水谷豊の演技を観たほうが分かりやすいのではないかと思います。最終話では何やら不穏な雰囲気が漂います。尊がどうして特命課に任命されたのかが判明します。まあいきなり下巻から読み始めたので、その意味ではあまりそうだったのか、成る程とはなりませんでしたが。
しかしまさかこんなのも登録済みとは、恐れ入りました。

No.1422 7点 コフィン・ダンサー- ジェフリー・ディーヴァー 2022/03/18 22:56
FBIの重要証人が殺された。四肢麻痺の科学捜査専門家リンカーン・ライムは、「棺の前で踊る男(コフィン・ダンサー)」と呼ばれる殺し屋の逮捕に協力を要請される。巧みな陽動作戦で警察を翻弄するこの男に、ライムは部下を殺された苦い経験がある。今度こそ…ダンサーとライムの知力をつくした闘いが始まる。
『BOOK』データベースより。

単行本二段組みで450頁・・・長い。まあそれだけ緻密且つ丁寧に描かれている事だとは思います。しかし前作と比較すると、エンターテインメントとしては若干劣るというのが個人的見解です。それはライムとサックスの関係性が安定してしまった事と、ライムの苦悩がかなり薄れてきた事ゆえですね。それと航空機に関する知識がないと楽しめない感が否めない面がある点。但し今回は犯人側からの描写もふんだんに盛り込まれており、その意味では抑揚が効いていた気がします。

本作をディーヴァ―の最高傑作とする向きもあるようですが、それはどうですかねえ。まだ二作しか読んでいない私が言うのも何ですが、以降もシリーズを追い掛けたいわけで、更なる高みが見てみたいのです。
しかし、終盤の目くるめく展開は、まさにページを捲る手が止まらないと云ったところで、デーヴァ―の真骨頂を見た気がします。それまでの読書に費やした労力が報われた瞬間でした。

No.1421 5点 文豪のミステリー小説- アンソロジー(国内編集者) 2022/03/14 22:44
推理小説や探偵小説だけがミステリーではない。人間の心を深くそそる謎、それが本来のミステリーである。ユーモラスな語り口の中に非日常の世界をのぞき見る夏目漱石「琴のそら音」、真相のありかそのものを問う芥川龍之介「藪の中」、理化学トリックの幸田露伴「あやしやな」、思いもよらぬ犯罪を暴き出す大岡昇平「真昼の歩行者」など、名作九篇を厳選。
『BOOK』データベースより。

芥川龍之介の『藪の中』目当てに買いましたが、正直ミステリと呼べるような作品は皆無でした。辛うじてミステリ的趣向の垣間見える大岡昇平の『真昼の歩行者』が捻りが有ってちょっと良かったかなと思いました。あとは大佛次郎の『手首』、岡本綺堂の『白髪鬼』がホラーテイストでまずまずの出来。

夏目漱石は当て字が多いし、訳が分からないし。幸田露伴に至っては文語体というのか、まるで古文を読み易くしたような文体で、最後まで読んだ自分を褒めてやりたいというのが感想ですかね。これも意味不明でした。肝心の芥川に関しては、なるほどと思った程度で、然して感慨は湧きませんでした。
餅は餅屋という言葉があるように、文豪と言ってもミステリに関してはアイディアと言い、構成と言い、意外性と言い、現代のミステリと比べるべくもない凡作が多く、まあこんなのも書いていたんだなという位にしか思えませんでしたね。

No.1420 7点 プシュケの涙- 柴村仁 2022/03/11 22:46
「こうして言葉にしてみると…すごく陳腐だ。おかしいよね。笑っていいよ」「笑わないよ。笑っていいことじゃないだろう」…あなたがそう言ってくれたから、私はここにいる―あなたのそばは、呼吸がしやすい。ここにいれば、私は安らかだった。だから私は、あなたのために絵を描こう。夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降りて自殺した。彼女はなぜそんなことをしたのか?その謎を探るため、二人の少年が動き始めた。一人は、飛び降りるまさにその瞬間を目撃した榎戸川。うまくいかないことばかりで鬱々としてる受験生。もう一人は“変人”由良。何を考えているかよく分からない…そんな二人が導き出した真実は、残酷なまでに切なく、身を滅ぼすほどに愛しい。
『BOOK』データベースより。

正直、ミステリとしてもラノベとしても薄味です。しかし、そこにスパイスが加わればこれ程までに輝いた青春小説に成り代わるという見本の様な作品です。そのスパイスとは由良のキャラの魅力であったり、幾つかのサプライズという事になるでしょう。文体ひとつ取ってみても、お世辞にも完成されているとは言い難いですし、ミステリの読者にとってはいささか物足りなさを覚えるかも知れません。ですが、それを補って余りある新味が私には感じられました。

シリーズ化は必然とは言えないと思います。真実は不明ですが、もしかしたら編集者から続編を催促されたのかも知れないし、作者が最初からそのつもりだったかも知れません。其処に関してはこれから追々読んでいって、良し悪しを判断したいところですね。興味がある人は読んでみるのも良いですが、必ずしも私のような高評価を与えるとは思えません。評者は本作に対して不当に甘い評価をしている可能性も否定できませんので。

No.1419 7点 愚者の毒- 宇佐美まこと 2022/03/09 22:46
一九八五年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めてゆく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは一九六五年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった…。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは?衝撃の傑作!
『BOOK』データベースより。

暗くて重いです。そういうのが嫌いな方にはお薦めしません。ジャンルはサスペンスとして登録されていますが、個人的見解は本格ミステリです。トリックとしては中盤に明らかにされるものが、山田風太郎や竹本健治みたいな感じで結構面白いと思いました。それ程派手ではありませんけどね。それよりも本作にはもっと大胆な・・・が。おっとこれ以上は書くのは無粋というものでしょう。

誰が誰を殺したのかを含めて、なかなか複雑な物語で三部構成になっています。第二章を読み始めた時は、いきなり場面が切り替わり、物凄く違和感を覚えましたが、最後まで読んでそれが計算されつくしたものだと悟りました。まあ何はともあれ日本推理作家協会賞受賞作ですから、それだけのものは備えた作品とは言えましょう。結局私は作者にしてやられた一人です。詳細は伏せますが、そういうのもミステリの醍醐味のひとつですから、作者の勝利でしたね。

No.1418 7点 古畑任三郎1- 三谷幸喜 2022/03/05 22:58
田村正和主演・大人気ドラマのノベライズがついに文庫化。事件が起こると忽然と姿を現わし、犯人を逮捕すると忽然と消えてしまう、バカ丁寧だが捕らえどころのない変わった男―警部補・古畑任三郎が大活躍。今回、古畑に挑戦するのは精神科医の笹山アリ、歌舞伎役者の中村右近、ミステリー作家の幡随院大、ピアニストの井口薫、超能力少年の黒田聖の五人。それぞれクセのある殺人事件だが、首尾よく古畑をだませるのか。それとも…。
『BOOK』データベースより。

人に貰ったのでも拾った訳でもないのに、何故か0円で手に入れた本。その理由は秘密。
底本は単行本『古畑任三郎ー殺人事件ファイル』、これを分冊文庫化した前編の方です。一応2の方も手元にあるので双方を個別に書評するため登録しました。
さて、本作只で入手した物であるためではなく、本当の意味での拾い物でした。実に面白い、ああこれは別のドラマでしたね。ドラマの方は興味はあったけれど最初は観ていなくて、どれも初めましてでした。端的に良く纏まっていて一篇50ページくらいでどれも気の利いた、こなれた作品ばかりです。三谷本人はあとがきで小説よりも脚本家に向いていると仰っているけれど、どうしてどうして素晴らしいリーダビリティではありませんか。

『徹子の部屋』で故田村正和氏が言っていたように、「古畑という男は訳の分からない男」なので、その言動が常人とは異なるのが本作でも良く分かります。残念なのはいつも古畑にコバンザメの様にくっ付いている情けない男、今泉が出ていない事ですね。その理由もあとがきに書かれています。
例えば第一話で鑑識があまりにも杜撰であることなど、細かい事を気にしなければこれ程面白い小説には滅多に出会えませんよ。取り敢えず個性豊かな犯人と古畑の対決を存分に楽しめるのは保証します。

No.1417 6点 いま、殺りにゆきます- 平山夢明 2022/03/04 22:52
深夜の路上で凶徒に遭遇したカップルの恐怖を描く「峠で壊れて」。愛犬の足が何者かにより一本ずつ折られていく「だんだん少なくなっていく」。常軌を逸したイタズラ電話が母子を追いつめる「謎電」。電車内で理由もなく乗客を殴り続ける男、「おら男」。日本ホラー界の第一人者が、徹底した取材を元に日常に潜む恐怖を描いた36話を収録。狂気が支配する、逃げ場のない世界が展開する実話恐怖集。
『BOOK』データベースより。

タイトルからしていかにもヤバそうですねえ。長編かと思っていたらショートショート怪談集でした。現実の出来事かどうかは不透明ですが、本当だったらかなり嫌ですね。私に耐性があるせいか怖くはなかったです、只胸糞の悪い話ばかりで、人間の狂気が描かれています。淡々とした、中学生が書いたような文章で如何に故意だとしても、初めてこの作者の小説を読む人は、こんなのしか書けないのかと勘違いしそうです。念のため言っておきますが、勿論ちゃんとした文章も書ける人です。

好みというか面白かった(不謹慎か)のは『ヒール』『レンタル家族』『一生瓶』『だんだん少なくなっていく』『串打ち』『閉店パーティー』辺りかな。
多くの話が、彼又は彼女(酷い目に遭った人々)が引っ越すか、犯人はまだ捕まっていないという結末で終わっています。結局一番怖いのは生きている人間だという、まあありがちで都市伝説的な話が多かったように思います。

No.1416 7点 密閉山脈- 森村誠一 2022/03/03 23:18
“K岳山頂から灯火を愛の信号にして送る”山麓で待つ恋人・湯浅貴久子にそう約束して山頂を目指した影山隼人だったが、送られてきたのは遭難信号だった!翌朝、山仲間の真柄慎二と救援隊により影山の遺体が発見された。事故か、他殺か?遺されたヘルメットは何を物語る!?北アルプスの高峰に構築された密室で起きたこととは―。山岳ミステリーの白眉!
『BOOK』データベースより。

森村誠一を最後に読んだのは数十年前の事、作品は『分水嶺』でした。今となっては内容など全く覚えていませんが、読後の余韻は今でも忘れません。それ以来の森村です、これはかなりの完成度と言って良いと思います。ただ、ケチを付ける訳ではありませんが、若干引っ掛かる点もあります。例えば、ヒロイン湯浅貴久子の心の変遷、女心とはかくも繊細で微妙なものなのでしょうか。或いは事件の謎を追う熊耳のヘルメットに対する扱い方などは、とても警察官のそれとは思えないです。あとはメイントリックですかね、壮大な山岳の密室やアリバイの謎と比較して余りにもショボかったですね。

それでも皆さんの評価の高さを見れば一目瞭然、十分良作の範疇に収まるものと思います。兎に角語り口が素晴らしい、まさに一流の作家ならではの筆運びでしょう。又、一つのドラマとしても映える出来栄えですね。意外な動機にも注目されるところですし、悲しい結末が何とも言えない感慨を齎します。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
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平均点: 6.04点   採点数: 1835件
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