皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.1501 | 9点 | 方舟- 夕木春央 | 2022/09/30 22:55 |
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【警告】 これから本書を読む予定の方は、出来ればスルーして下さい。勿論ネタバレはしませんが、なるべく予備知識なしで読むべき作品だと思いますので。
編集します。雪の日さんのご書評を拝読して確かにそうだと思いましたので一つだけ注意喚起しますが、読む前に帯の惹句を見てはいけません。かなりの確率でネタバレになっている可能性があります。 9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か? 大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。 翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。 そんな矢先に殺人が起こった。 だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。 タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。 Amazon内容紹介より。 これはヤバいやつですよ、無論良い意味でです。 誰もが読む前に予想するよりも遥かにロジックに特化した作品だと思います。有無を言わさぬ迫力ある論理展開には圧倒される事必至。解決編ではフーダニット+ホワイダニットで、グイグイ探偵が推理を披露していきます。でも・・・。 地下施設である方舟と呼ばれる建築物が物語全体の、伏線や手掛かりの装置として存分に機能しています。ある意味主役とも言えるでしょう。ですから敢えてタイトルを『方舟の殺人』にしなかったのは、そういった事柄を鑑みての事ではないかと邪推したりしています。 現在Amazonではプレミア価格で販売されていますので、入手し難い状況にありますが、いずれそれも解消すると思いますので、そうなったら是非とも読んで頂きたい傑作と信じます。 |
No.1500 | 7点 | 花束は毒- 織守きょうや | 2022/09/28 22:44 |
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「結婚をやめろ」との手紙に怯える元医学生の真壁。
彼には、脅迫者を追及できない理由があった。 そんな真壁を助けたい木瀬は、探偵に調査を依頼する。 探偵・北見理花と木瀬の出会いは中学時代。 彼女は探偵見習いを自称して生徒たちの依頼を請け負う少女だった。 ーーあの時、彼女がもたらした「解決」は今も僕の心に棘を残している。 大人になった今度こそ、僕は違う結果を出せるだろうか……。 背筋が寒くなる真相に、ラストに残る深い問いかけに、読者からの悲鳴と称賛続出の傑作ミステリー。 Amazon内容紹介より。 滑り出しは新たな名探偵の誕生を思わせ、凄く好印象でした。ところが本番が始まり、大まかな被害状況が明らかになったのち、探偵はほぼ聞き取り調査に終始しこれと云ったサプライズもなく、淡々と抑揚なしにストーリーが進行するのは、正直ちょっと退屈でした。それでも最後には何か有る筈だと、読み進めました。いえ、決して苦痛だったわけではありません。そもそも平易な文体で読み易いですから。 推理しない名探偵、これは如何なものかと思いますね。まあ、おそらく最初にアイディアありきでその他は後付けに近いものでしょうから、それもやむを得ないかも知れませんが。 それにしても、真相は私の想像を遥かに超えるものでした。素直に参りましたと言うしかありません。ここが10点で、序盤が7点、中盤が5点で総合点は7に収めました。中盤にもう少し面白味があれば8点だったかも知れません。 |
No.1499 | 6点 | ぐろぐろ- 松沢呉一 | 2022/09/25 22:42 |
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非常識とは。下品とは。そもそも不快って何?タブーって、いったい―。闘うエロライターは考えた。公序良俗を声高に叫び、権力を振りかざして他人の自由を奪う。そして、いざとなると「常識」で頬被りして無責任を決めこむ。そんな「偽善者」たちに贈る、ウゲーッとなること確実な、ぐろぐろエッセー集。世間にはびこる矛盾を嗤い、おバカな鉄槌を下す。
『BOOK』データベースより。 コラムニスト松沢呉一が描くエログロエッセイの決定版。ユーモアを交えていかにも楽しそうに書かれています。無論中身はハードですよ。エッセイとは言っても作り話も含まれている為、一応ジャンルはその他にしました。 【注意】 以下の文章には直截的なグロ描写が含まれています。グロが苦手な方は読まないで下さい。 タイトル通り、その内容は○○コ、●●ル、×××ロ、SMなどがほとんどです(本書では一切伏字はありません)。一例を挙げると、著者自身が夜明けの街を仲間と共に徘徊し、ゲロを発見すると臭いを嗅ぎ、具に観察し、それの性別年齢生活様式食生活などを推察したり。これを読んだ時、私は先日TVで観た『AKB最近聞いた?』で現役人気メンバーの岡田奈々が公演の最後に頭を下げた時疲れすぎて、鼻からゲロが出たと発言して笑いを取っていた事を思い出し、和んでいました。やっぱりアイドルは何を言っても可愛いし、許されるんだなあなんて。 四人の男が尻の穴をどこまで拡張させられるかを競い合う『●●ル選手権』。著者が尿道炎になり、医者にも行かず飲尿療法で病気を治した『尿道炎とともに生きる』。○○コ好きのある取材した人が言うには、緩んだモノよりも固くて太い一本物の方が好きだと持論を開示する『×××犬』。これにはなるほどそうかもなあと思ったりして。その他、痰とゲロと○○コのプールに入るならどれかと問う『ウンゲロ譚』等々。ゴキブリや女王様も登場します。 人間は誰しも違った性癖を持っているもので、ノーマルとアブノーマルの境界線は非常に曖昧なものだという持論を私は持っています。勿論グロに対してどう考えているのかなど、人それぞれで当たり前、何が正しいとか間違っているとかは一概に言えるものではないというのが、寛大な心を持った私の思考回路であります。 よって、文庫あとがきで著者は「これを読んで吐きそうになってくれる人がいれば幸い」とか書いていますが、あまり私を舐めないで頂きたい。これしきの事で私がビビって吐き気を催すなどある筈もないでしょう。 |
No.1498 | 6点 | 瑠璃色の一室- 明利英司 | 2022/09/23 22:37 |
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住宅街の中にある寂れた公園サンパーク。そこで浮浪者が殺された。元恋人への復讐を目論む鈴木真里、冷静な観察眼を持つ刑事竹内秋人、精神科病棟で友の帰りを待つ桃井沙奈。サンパークをのぞむ瑠璃色の古いアパートの一室を舞台に、それぞれの現在と過去がつながり、事件は思わぬ展開へ。
『BOOK』データベースより。 中山七里が書いている様にホワットダニットをメインに据えた珍品。全体的に地味で驚くような展開はありませんが、証言にちぐはぐな点が多々見られ、一体目の前で何が起こっているのか分からない不透明感に見舞われるます。一見単純に思えるホームレス殺人事件の裏には意外過ぎる真相が浮かび上がり、全く事件と関係なさそうな精神科病室のパートが交錯し、とんでもない繋がりを持ってくるとはちょっと予想が付きませんでした。 読んでいて飽きる様な事はありません。ですが、面白いかどうかと問われるといまひとつかなという印象ですね。ただ、非常に真面目に描かれているとは思います。そこここに伏線が張られていて、注意深く読まなければ見落としてしまいがちなので侮れません。 |
No.1497 | 7点 | ひとでちゃんに殺される- 片岡翔 | 2022/09/21 22:42 |
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「縦島ひとで、十六歳です」悪魔に憑かれた教室を救うには、誰か一人の命を生贄に差し出すしかない。謎の転校生の正体は⁉ 読み進める手が止まらない! 戦慄の学園サスペンスホラー。
宙を舞うスキー板が、地下鉄の鉄扉が、そして墜落する信号機が、次々と呪われた生徒の首を断つ……。クラスメイトの怪死事件が相次ぐ教室に、漆黒の制服を着た謎の転校生がやって来た。圧倒的な美貌で周囲を虜にし、匂い立つような闇を纏う彼女の正体は!? 悪魔に魅入られた高校生たちが迫られる、究極の命の選択!! 「言ったでしょ? ひとでなしのひとでちゃんって」 Amazon内容紹介より。 タイトルから漂うB級ホラー臭やラノベ臭は微塵もありません。心底読んで良かったと思わせる作品でした。まず目を引くのは目次です。これを見てあれっと思うのは私だけではないでしょう。詳細は避けますが、それだけ凝った構成になっているという証左です。学園物であるのは間違いありませんが、ホラー、サスペンス、ミステリのそれぞれを良い所取りした様な作風だと感じました。 テンポ良く話は進み、若干淡白な文体と思えるのがやや物足りなさに通じますが、読み進めるための推進力と思えば苦にはなりません。むしろ先が気になって仕方ない、心憎いまでの筆力を実感します。 最大の見せ場は終盤にやって来ます。生徒達の心理戦と怒涛の展開は正に圧巻です。これに関してはAmazonで似たような表現をされているレビュワーがおられますが、それは全くの偶然です。単に同じ感想を持った人が書き込んでいただけの話で、あり得ない事とは思いません。ただ、1点付けた人の気持ちは理解できませんけど・・・。そして、ラストはホラーのくせに泣かせやがって、畜生。 一作だけ読んで結構高評価を付けた作家でも、必ずしも他の作品を読んでみたいとはなりませんが、この人の作品は読みたいと今思っています。近日中にそれが現実となるでしょう。 |
No.1496 | 6点 | 水魑の如き沈むもの- 三津田信三 | 2022/09/19 22:21 |
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奈良の山奥、波美地方の“水魑様”を祀る四つの村で、数年ぶりに風変わりな雨乞いの儀式が行われる。儀式の日、この地を訪れていた刀城言耶の眼前で起こる不可能犯罪。今、神男連続殺人の幕が切って落とされた。ホラーとミステリの見事な融合。シリーズ集大成と言える第10回本格ミステリ大賞に輝く第五長編。
『BOOK』データベースより。 殺人が始まる後半よりもそこに至るまでの経緯の方が面白いと感じました。特に正一と二人の姉、そしてその母の物語は何とも言えない切なさや遣る瀬無さを強調しており、これだけでも一つの小説が出来そうです。 メインの殺人事件は湖の密室とも呼べるもので、相変わらずの怪奇色を帯び乍ら不可能犯罪として扱われています。一見複雑に思える連続殺人事件と過去の事件は、構造は比較的単純で分かり易いものです。さらに言耶が謎のポイントを一々事細かに挙げていますので、その意味でも読者に優しい作りと言えそうです。それら全ての謎が解かれている訳ではありません。まあそれは左程問題ではないと思いますが。 個人的には犯人の正体は謎解きが始まって直ぐに目星が付きました。やはりそうだよなと思っていたら・・・やられました。流石に一筋縄では行かない様で。 |
No.1495 | 5点 | 溺れる犬は棒で叩け- 汀こるもの | 2022/09/14 22:38 |
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平安時代からの旧家・在澤家が跡継ぎとして選んだのはこともあろうに「死神」と呼ばれる少年・立花美樹!信州山中の屋敷で行われた継承の儀式の日に、案の定、殺人事件が!鯉池の濾過槽から溺死体が発見された。水槽に残された「化」という文字、錦鯉の消失、渦巻く陰謀…屋敷に集った「探偵」と呼ばれる弟・立花真樹、謎の刑事、奇矯な監察医が連鎖する死の真相に迫る!
『BOOK』データベースより。 こるものが横溝をやってみたらこうなりましたと云う感じ、でしょうか。確かに家系図、山村の伝説、相続争い等如何にもな雰囲気を出そうとしていますが、明らかに失敗作ですね。トーンが違いすぎます。 語り口が雑でごちゃごちゃしており、連続殺人の詳細もおざなりで、いつの間にか犯人が明らかになってしまい、何だか煙に巻かれた様な感覚だけが残りました。 今回は主役の筈の双子が狂言回しの役をやらされている感じで、良い所がありません。相変わらず魚(鯉)の蘊蓄のシーンだけは熱心に語られますが。一番真面な事を言っているのは湊警視正であり、最も美味しいところを持って行くのが監察医の出屋敷だったりします。これでは本格ミステリではなく、半本格に成り下がってしまっている気がします。作者もここらが引き際と感じたのか、これ以降シリーズは書かれていません。 終章でまずまずの驚きを提示してくれたので1点加算しました。 |
No.1494 | 5点 | 母なる夜- カート・ヴォネガット | 2022/09/11 22:37 |
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第二次大戦中、ヒトラーの宣伝部員として対米ラジオ放送のキャンペーンを行なった新進劇作家、ハワード・W・キャンベル・ジュニア―はたして彼は、本当に母国アメリカの裏切り者だったのか?戦後15年を経て、ニューヨークはグリニッチヴィレジで隠遁生活を送るキャンベルの脳裡に去来するものは、真面目一方の会社人間の父、アルコール依存症の母、そして何よりも、美しい女優だった妻ヘルガへの想いであった…鬼才ヴォネガットが、たくまざるユーモアとシニカルなアイロニーに満ちたまなざしで、自伝の名を借りて描く、時代の趨勢に弄ばれた一人の知識人の内なる肖像。
『BOOK』データベースより。 10ページ読んだ辺りで挫折。このまま暫く放置しておくか、即ブックオフ行きかと迷いました。余りにもぎこちない文体で内容が少しも頭に入ってこないですからねえ。そもそもナチとかユダヤ人とか興味ありませんし、1ミリも心に刺さりません。 しかし本を置いたところで私は思い直しました。これだけの高評価を受けている作品だから、何かあるはずだと。そして改めて読み始めて丁度半分位の辺りでヘルガが登場し俄かに面白くなりました。やはりこのままで終わる筈がなかったんだと安心した途端にまた元に戻り、私の心は千々に乱れました。 しかしここまで来たら最後まで読まねばなりません。仕方なくページを捲って読み終わり安堵。結局皆さんはどの辺りをそんなに評価しているのか、正直私にはさっぱり理解できませんでした。 畢竟私なんぞ、新本格の末裔やメフィスト系の昔の作品、又はラノベのファンタジーもどきを読んでいるのがお似合いって事ですかね。しかしこれに懲りて海外のミステリを断念する訳にはいきません。必ずリベンジしますから。 |
No.1493 | 6点 | ガラスのターゲット- 安萬純一 | 2022/09/09 23:00 |
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“行方不明探偵”が三つの事件の真相に鋭く迫る。三月のある日、世田谷のレストランで爆破事件が起きた。被砥功児が代表を務める榎木探偵事務所に出入りする二十歳の大学生・殿井泰史は、自分と同い年の若者が大勢犠牲となったこの事件に興味を持ち、外国に行ったきりの被砥功児を尻目に、独自に推理を巡らせる。さらに八王子と町田で立て続けに、二十歳の男女が集団で死亡する事件が発生。事務所には世田谷と八王子の事件の犯人を名乗る人物からの挑戦状が届くが…。二十歳の若者たちを巡る三つの事件の関連性と、犯人の目的は果たして?手に汗握る展開と、驚愕のラスト刮目せよ。
『BOOK』データベースより。 前作(鮎川哲也賞受賞作『ボディ・メッセージ』)がなかなか良かった、と云うかトリックが好みのど真ん中だったのでこちらはどんな物かとAmazonで古書を購入しました。どうでも良いですが、これが煙草臭くてページを捲る度に鼻に付くのに閉口しました。状態は「非常に良い」だったのに、臭いだけはそこに含まれないのに不条理さを感じました・・・。 さて、本作大量爆殺事件と二つの集団自殺事件の繋がりとは?というのがメインテーマで、ある意味フーダニットです。とは言え、そんなんで犯人が判るかあ、というのが本音。判る人には判るのでしょうけれど、兎に角煙草の臭いにやられて集中出来なかったのは単なる言い訳ですか? それにしてもこの人は相変わらず文章が上手くないですね。三つの事件に一人ずつ担当刑事が配されている訳ですが、せめてこの人達の人物造形くらいは確りと作り上げて貰いたかったところです。それどころか、探偵の被砥(ピート)すらイマイチ影が薄いのはいけませんね。動機は何とも・・・。 |
No.1492 | 7点 | 日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族- アンソロジー(国内編集者) | 2022/09/06 23:10 |
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「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」と称された伴名練が、全身全霊で贈る傑作アンソロジー。日常的に血まみれになってしまう奇妙な家族のドタバタを描いた津原泰水の表題作、中島らもの怪物的なロックノベル「DECO‐CHIN」、幻の第一世代SF作家・光波耀子の「黄金珊瑚」など、幻想・怪奇テーマの隠れた名作11本を精選。全作解題のほか、日本SF短篇史60年を現代の読者へと再接続する渾身の編者解説1万字超を併録。
『BOOK』データベースより。 誰が何と言おうと一度読んだら二度と忘れられない短編第一位、中島らもの『DECO‐CHIN』を再読(いや三度目か四度目か)しようと思い、探してみましたが大量の書物に阻まれて見つけられなかったところに、本書が目に付き早速購入しました。『DECO‐CHIN』は別格として結構面白いじゃないかと思いながら読み進むも、次第にトーンダウン。 ハードSFは少ないものの、様々な味わいのSFっぽい小説が並んでいます。本格的なSFと云うより、これもSFなのかと思うような作品が多い感じがしました。これまで名前も聞いたことの無い作家の名前が並び、これはやはりコアなSFファンの読むべき作品集なのではないのかとの思いを強くしました。 個人的にお気に入りは岡崎弘明の『ぎゅうぎゅう』、山本弘『怪奇フラクタル男』、中田永一(乙一)『地球に磔にされた男』光波燿子『黄金珊瑚』辺りですかね。表題作は無茶苦茶な展開で、必要最低限の情報で纏め上げた荒唐無稽な小説。最初は訳解らんなあって感じでしたが、後からジワジワ来るやつでした。石黒辰昌の『雪女』はハードで色々考えさせられる作品。 SF初心者の私にはやや敷居が高かったかも知れませんが、色々考えた末7点としました。読み始めて二、三作目までは8点かなと思ったんですけどね。 |
No.1491 | 5点 | 禅定の弓- 椹野道流 | 2022/09/03 22:51 |
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老人の焼死体がO医科大学法医学教室に運び込まれた。伊月とミチルが解剖したところ、火事の前に死亡していたことが明らかになり、一転して事件の様相を帯びる。一方、同じ市内で、野犬やウサギなどが連続して惨殺される。遺体からこぼれ落ちたピンバッジは何を語る?胸に迫る超リアルメディカルミステリ!
『BOOK』データベースより。 これまでのホラーテイストと違い、何の捻りもないミステリです。ミチルはほぼ脇役で伊月と刑事筧がメインの物語。BL物も得意としている作者だけに、その気配も全くないとは言えません。老人の焼死体と動物殺傷事件がどう繋がって来るのか?誰もが予想出来る真相ではあります。うーむ、やはりこの人は本格ミステリに向いていない体質の様です。 ただ、エピローグはほっこりした雰囲気で終わりますので、後味は良好です。持ち味の司法解剖のシーンもいつもの迫力がなく、単なるオマケみたなものですね。 まあ、たとえ小さな命でも動物を虐待してはいけない、ましてや殺すなどもっての外であるとのメッセージが込められた一作でしょうね。 |
No.1490 | 7点 | 夜の淵をひと廻り- 真藤順丈 | 2022/09/01 23:08 |
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職務質問と巡回連絡が三度の飯より大好きで、管轄内で知らないことがあるのが許せない、良く言えば“街の生き字引”、率直に言えば“全住民へのストーカー”。ある街のある交番で住民を見守るシド巡査のもとには、奇妙な事件が呼び寄せられる。魔のバトンが渡されたかのように連鎖する通り魔事件、過剰すぎる世帯数が入居したロッジ、十数年にわたって未解決のご当地シリアルキラー。市井の片隅には、怪物の巣食う奈落がひそかに口を開けている―。4冠受賞の鬼才が放つ驚愕のサイコ・ミステリ!
『BOOK』データベースより。 粘着質で陰湿な文章と物語。従来の警察小説と思ったら大間違いです。主人公のシド巡査は管轄内の全住民のストーカーでその意味では非常に特異体質と言えるでしょう。更に異常な体験をしたり、その並外れた推理力には自信を持っているようです。この風変わりな人物像の一点だけでも本作が尋常ではない特異性に満ちていると感じられるのは間違いないと思います。 意外性や仕掛けはありますが、トリックと言える物はここには存在しません。その代わり変則的なストーリー展開で最後まで読ませます。読み終わった後は何とも言えない嫌らしい余韻を残します、一応これは褒め言葉ですが。 連作短編の中で『新生』だけ毛色が違い、これだけ読んだら真っ当な警察小説に思えます(このタイトルは秀逸)。しかしその他はおそらく今まで誰も書けなかった様な超異色な、ドロドロとした、読者の心の奥に眠る何かに直接触れる様な肌触りの小説に出来上がっていると思います。独特の文体ですし、もし貴方がこれを読む事があれば、それなりの覚悟を持って臨む必要があるかも知れません。あまりお薦めはしませんが、ありきたりなものに飽きた人は読んでみるのも一興かと。 |
No.1489 | 6点 | 記録の中の殺人- 石崎幸二 | 2022/08/28 22:52 |
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「女子高生連続殺人事件」―201X年9月、5人の女子高生の遺体が埼玉県山中、産業廃棄物の投棄現場で発見された。被害者の共通点は、生年月日が全員同じだということ。それから4ヵ月後、またも女子高生の遺体が東京と埼玉の県境にある産廃の現場で見つかる。被害者は同じく5人。全裸の上、手足を切断されていた…。凶悪な犯行に世間は大パニック!犯人の次なる狙いは。
『BOOK』データベースより。 冒頭から女子高生連続殺人事件の謎を、石崎を含むミステリ研の4人組が検討し始めるシーンに、おっ今回は珍しくシリアルキラーものかと思いきや、結局孤島へ行っちゃうのね。それにしても、本シリーズとシリアルキラーの相性は余り宜しくないない気がしてしまいます。しかし、全ての被害者の左手と左足を切断した動機に関してはなかなかよく考えられていると思います。 そして孤島での事件と連続殺人の関連とは?全く関係なさそうな二つの事件が繋がる時、驚愕の真相が・・・とはならないですねえ、残念ながら。 個人的にメフィスト系の作家の中ではかなりの理論派だと思っている石崎幸二、意外に拘りも持っていて結構な割合でDNA鑑定が採用されています。本作ではユリが書記になり切って随時事件の概要をまとめているので、非常に解りやすくなっています。まあ大体何時もそうなんですけど。そして、石崎とミリアの探偵同士の対決がバチバチと火花を散らしますよ。果たして勝ったのはどちらか?でもそんな事はどうでも良い二人なのでした。 |
No.1488 | 6点 | トンデモ本1999 このベストセラーがとんでもない!!- 事典・ガイド | 2022/08/26 23:02 |
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世紀末を笑い飛ばせ!!UFO、陰謀、大予言など最新トンデモ本続々登場。
『BOOK』データベースより。 この世に蔓延るトンデモ本どもに、と学会の面々がツッコミを入れ、矛盾を突き間違いを正していくシリーズ物。どうせ楽屋落ち的な内容かと思いきや、何とも立派な単行本の二段組みの大作でちょっと驚きました。中身もそれに見合ったもので、なかなかの見ものです。 日本で起きた昭和、平成の大事件の数々、帝銀事件、下山事件、地下鉄サリン事件、宮崎勤事件、酒鬼薔薇聖斗事件などは全て自衛隊を手先にしたフリーメーソンの謀略だった。(私がフリーメーソンの存在を目の当たりにしたのは、栄誉あるギャラクシー賞を受賞した事もあるバラエティ番組『モヤモヤさま~ず2』だった)。 エアコン、冷蔵庫、シェーバー、扇風機、ドライヤーなどほとんどの電化製品は電磁波で人体に悪影響を及ぼす。(扇風機を一晩中掛けっぱなしで寝ると死ぬという噂は聞いたことがあります)。 渡辺淳一著『失楽園』の性に対する執着。 ブリジッド・バルドーの動物への偏執的な愛護精神。(ブリジッド・バルドーのスリーサイズが90 49 90って本当かいな)。 等々、ツッコミどころ満載でバラエティに富んだ読み応え満点の内容となっております。中には最早学術書にしか思えない、一度読んだだけでは理解不能なものをそれを上回る理論で論破していたりもします。 しかし、やはり最も多いのはUFOや宇宙人に関するトンデモ本ですね。UFOを呼ぶ方法、宇宙人は人類の70%が遭遇している等々とんでもないものが多いです。因みに当時のと学会会長はSF作家の山本弘です。 |
No.1487 | 5点 | 狂乱家族日記 拾さつめ- 日日日 | 2022/08/23 22:52 |
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『なごやか家族作戦』スタートから一年。人類獣化現象やら宇宙人の来襲やら数々の事件で露わになった家族たちの過去の傷跡や疑念も、凶華率いる乱崎家の絆を揺るがすことはないように見えた―。しかし、不解宮の傀儡后ミリオンが呼びかけた『世界会議』に、観光旅行気分で出かけた彼らが遭遇したのは、その絆をも揺るがす驚天動地の出来事だった!そして、千年前のもうひとつの家族の物語にも永遠に塞がらない傷跡が―。「閻禍伝説編」驚愕の展開。
『BOOK』データベースより。 世界会議に参加する道中で狂乱家族に起こる、家族バラバラ事件と、本作の元凶でもある閻禍の物語が交互に語られる構成となっています。家族の方はいつも通りワイワイガヤガヤと賑やかで、それなりに楽しめます。一方閻禍伝説は面白みに欠けます。死神と呼ばれる割には案外良い人で、インパクトが足りない感じがします。 登場人物がどんどん増えても、あれ?この人誰だっけとはならないのが本シリーズの特徴とも言えそうです。ちょっとしたブランクがあっても直ぐに思い出せるのは、やはり作者の力量なのでしょう。でもこれだけ続くと流石にマンネリ化してきますね。そこを何とか発想力で乗り越えようと尽力しているのは伝わってきますが、もう何が起こっても驚かない耐性のようなものが出来てしまっている気がします。 |
No.1486 | 7点 | 蜂工場- イアン・バンクス | 2022/08/21 22:43 |
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そこはスコットランドの小さな島。海岸沿いの家では16歳のフランクが、学校にも
行かずひっそり父と暮らしていた。彼はある日、精神病院にいるはずの兄エリック が脱走したことを知る。かつてエリックは犬を燃やすなど異常な行動をとっていた のだった。直後にかかってくる電話。「おれだ」「殺してやる! 」── Amazon内容紹介より。 重く暗くやるせない話。登場人物が少なく、その分会話文が極端に削られており、正直非常に読み難かったです。終始フランクの奇行とその心情に文章の多くが費やされていて、何かオチのない話を延々聞かされている様な感じで、私は心の中で何度も何度もそれがどうしたとツッコミを入れずにはいられませんでした。時々これは、と思うような記述もありますが、長くは続かずどうにも興味を惹かれない結果に終わりました。 【ネタバレ】 ところが、最終章の手前辺りから覚醒したように面白くなり始め、最終章では天地が引っ繰り返るほどの衝撃を受けました。そうか、この為にこれまでの退屈な時間と無機質な文体があったのかと、納得しました。考えてみれば、フランク自体怪しい証人であり、幾つもの伏線が張られていたではないかと、頷かされました。 私には文体が合いませんでしたが、もっと読解力があれば、或いは本書を楽しむ余裕がもう少しあれば8点でも良かったと思うくらいです。 |
No.1485 | 7点 | 禁涙境事件—some tragedies of no-tear land- 上遠野浩平 | 2022/08/18 22:54 |
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魔導戦争の隙間にあるその非武装地帯には、見せ掛けと偽りの享楽と笑顔の陰でいつも血塗れの陰惨な事件がつきまとう。積み重ねられし数十年の悲劇の果てに訪れた大破局に、大地は裂け、街は震撼し、人々は喪った夢を想う…そしてすべてが終わったはずの廃墟にやってくる仮面の男がもたらす残酷な真実は、過去への鉄槌か、未来への命綱か―。
『BOOK』データベースより。 第五章以外は所々どうでも良い様な描写が散見されます。にも拘らず、肝心の人物造形が数人を除いてなおざりにされている気がします。 体裁としては連作短編の形を取っており、不可解な事件が一応解決されていたり不透明なまま終わったりしていてあまりスッキリしません。それをカヴァーしているのが創元社推理の日常の謎を扱った作品等に於ける、所謂串刺と呼ばれるものです。つまり、各短編が最後に繋がって来て、事件の様相が一変すると云う手法が採られている訳です。 ですから途中であまりパッとしなかった印象の本作が、第五章で人が変わった様に光輝き生き生きと描かれています。本シリーズで最もミステリ色が濃いと評判の本作ですが、ある理由により魔法が無力化された世界で起こる殺人事件という設定に敢えてしたのは、これを本格ミステリへの挑戦を宣言したもの、と捉えても良いのではないかと思います。 たまに日本語が文法的に怪しいのではと思われる箇所があるようですが、まあそれはご愛嬌でしょう。私も人の事は言えませんので。 |
No.1484 | 4点 | 天国の扉- 篠原一 | 2022/08/15 23:07 |
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鈍い骨のずれる音がした。やった、と思った。もう一度力をこめたら頸はごとりと切断された。…ここに生命が極まった。どうにもやさしい眩暈がした。ゆうべはたしかに興奮した。人を殺したのははじめてだったのだ。コンクリートのあの部屋で僕が切断したのは誰?エヴァ世代の作家が描くクールな殺人、2年ぶりの長編。
『BOOK』データベースより。 【ネタバレ】あり 虚無感と高揚感が交錯するノワール小説。文頭で語られる死体の解体、そして死んでバラバラになったはずの「彼」が蘇る。良く解りませんが当然そこには何らかのトリックが存在するはずだったのですが、残念ながらオチはありません。途中でプッツリ切れたように物語は終わります。 僕を殺してバラバラにしてと訴えた少年の願い通りに、主人公のタケイはその行為を行います。そして翌日何もなかったように現れたその少年に命じられるまま、死にたいと願う人々を殺していくと云う話なのですが、確かにタケイの内面は良く描かれているとは思います。 しかし、本格ミステリでは許されない過ちを作者は冒しています。どう考えても焦点は何故バラバラに解体された少年が生きていたのかという事になるはずでしょう。当の本人、タケイすらその点に関して疑問を抱く様子もなく、敢えてその禁忌に触れない様にしているのは、可笑しいと云うより滑稽ですらあります。これはもう作者自身が現実逃避しているとしか思えません。何のオチもなしにこれを書いてしまってはいけないんじゃないでしょうか。ただ単にセンセーショナルな出来事で話題になりたいのなら、それなりの覚悟が必要ですよね。 |
No.1483 | 8点 | 悲しみの時計少女- 谷山浩子 | 2022/08/14 22:51 |
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いつも時刻を確認していないと落ち着かない“時計中毒患者”の浩子は、横浜元町の喫茶店で魚の目をしたサカナ男と、顔と懐中時計の中身が逆さまになった時計少女に出会った。時計少女の案内で、三人は彼女の住む鎌倉の“時計屋敷”を訪ねることになるが、旅の途中で次々と不可思議な出来事に巻き込まれていく――。
自らが声優をつとめたラジオドラマも好評を博した、谷山浩子のファンタジックミステリー。 Amazon内容紹介より。 これを途中まで読んで、馬鹿馬鹿しいとかくだらないと言う人は結構いるでしょうが、退屈だと言う人はほとんどいないのではないかと思います。私の場合は、何なの一体これは?では生温いので、なんじゃこりゃー!でしょうかね。そして最後に驚愕しない読者はいないですね、多分。帯に綾辻行人が書いている「この作品はまぎれもなく第一級のミステリ―(推理小説)でもある」とはあながち間違いではないと思います。 まさかこのような摩訶不思議なメルヘン(ファンタジー)にあんな仕掛けがあるとは誰も思うまい。誰かに似ている様で誰にも似ていない、作者独自の世界を構築しています。正にブラボーと褒め称えたい気持ちでいっぱいです。読後、暫くこの世界観から抜け出せなかったことを、ここに告白しなければならないでしょう。 |
No.1482 | 5点 | デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士- 丸山正樹 | 2022/08/13 22:50 |
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今度は私があなたたちの“言葉"をおぼえる
荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。 仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。彼は両親がろう者、兄もろう者という家庭で育ち、ただ一人の聴者(ろう者の両親を持つ聴者の子供を"コーダ"という)として家族の「通訳者」であり続けてきたのだ。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。マイノリティーの静かな叫びが胸を打つ。衝撃のラスト! 『BOOK』データベースより。 ラストシーンは良かったと思います。しかしそれまでが、真面目に描かれ過ぎていると言うか、余りにも遊び心が無くて読んでいていささか疲れました。登場人物が多い割りには説明不足のせいか、誰が誰だか分からないという現象が。主要登場人物一覧が欲しかったところですね。 200ページ過ぎ辺りまで、散文的でどこに重点を置いて読めば良いのか迷いました。又文章が硬く面白みに欠けます。そして何より肝心の二つの殺人事件が蔑ろにされている気がして、どうも感心しません。 聴覚障碍者あるあるや、ろう社会に関する刑法四十条や差別の問題に切り込んでいる姿勢は買います。そして下手に同情を惹こうとする事なく、障害者も健常者も区別なく描写しているのは小説として褒められるべきポイントだと思います。それと引き換えに情に訴える部分がありませんので、突き放された様な感触は拭えません。 Amazonの評価が高いのは、読者の多くに私が読み取れなかった何かが心に刺さったのでしょう。でもミステリとしては特に突出したものはありませんでした。これは間違いないと思います。 |