皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1828件 |
No.1488 | 6点 | トンデモ本1999 このベストセラーがとんでもない!!- 事典・ガイド | 2022/08/26 23:02 |
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世紀末を笑い飛ばせ!!UFO、陰謀、大予言など最新トンデモ本続々登場。
『BOOK』データベースより。 この世に蔓延るトンデモ本どもに、と学会の面々がツッコミを入れ、矛盾を突き間違いを正していくシリーズ物。どうせ楽屋落ち的な内容かと思いきや、何とも立派な単行本の二段組みの大作でちょっと驚きました。中身もそれに見合ったもので、なかなかの見ものです。 日本で起きた昭和、平成の大事件の数々、帝銀事件、下山事件、地下鉄サリン事件、宮崎勤事件、酒鬼薔薇聖斗事件などは全て自衛隊を手先にしたフリーメーソンの謀略だった。(私がフリーメーソンの存在を目の当たりにしたのは、栄誉あるギャラクシー賞を受賞した事もあるバラエティ番組『モヤモヤさま~ず2』だった)。 エアコン、冷蔵庫、シェーバー、扇風機、ドライヤーなどほとんどの電化製品は電磁波で人体に悪影響を及ぼす。(扇風機を一晩中掛けっぱなしで寝ると死ぬという噂は聞いたことがあります)。 渡辺淳一著『失楽園』の性に対する執着。 ブリジッド・バルドーの動物への偏執的な愛護精神。(ブリジッド・バルドーのスリーサイズが90 49 90って本当かいな)。 等々、ツッコミどころ満載でバラエティに富んだ読み応え満点の内容となっております。中には最早学術書にしか思えない、一度読んだだけでは理解不能なものをそれを上回る理論で論破していたりもします。 しかし、やはり最も多いのはUFOや宇宙人に関するトンデモ本ですね。UFOを呼ぶ方法、宇宙人は人類の70%が遭遇している等々とんでもないものが多いです。因みに当時のと学会会長はSF作家の山本弘です。 |
No.1487 | 5点 | 狂乱家族日記 拾さつめ- 日日日 | 2022/08/23 22:52 |
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『なごやか家族作戦』スタートから一年。人類獣化現象やら宇宙人の来襲やら数々の事件で露わになった家族たちの過去の傷跡や疑念も、凶華率いる乱崎家の絆を揺るがすことはないように見えた―。しかし、不解宮の傀儡后ミリオンが呼びかけた『世界会議』に、観光旅行気分で出かけた彼らが遭遇したのは、その絆をも揺るがす驚天動地の出来事だった!そして、千年前のもうひとつの家族の物語にも永遠に塞がらない傷跡が―。「閻禍伝説編」驚愕の展開。
『BOOK』データベースより。 世界会議に参加する道中で狂乱家族に起こる、家族バラバラ事件と、本作の元凶でもある閻禍の物語が交互に語られる構成となっています。家族の方はいつも通りワイワイガヤガヤと賑やかで、それなりに楽しめます。一方閻禍伝説は面白みに欠けます。死神と呼ばれる割には案外良い人で、インパクトが足りない感じがします。 登場人物がどんどん増えても、あれ?この人誰だっけとはならないのが本シリーズの特徴とも言えそうです。ちょっとしたブランクがあっても直ぐに思い出せるのは、やはり作者の力量なのでしょう。でもこれだけ続くと流石にマンネリ化してきますね。そこを何とか発想力で乗り越えようと尽力しているのは伝わってきますが、もう何が起こっても驚かない耐性のようなものが出来てしまっている気がします。 |
No.1486 | 7点 | 蜂工場- イアン・バンクス | 2022/08/21 22:43 |
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そこはスコットランドの小さな島。海岸沿いの家では16歳のフランクが、学校にも
行かずひっそり父と暮らしていた。彼はある日、精神病院にいるはずの兄エリック が脱走したことを知る。かつてエリックは犬を燃やすなど異常な行動をとっていた のだった。直後にかかってくる電話。「おれだ」「殺してやる! 」── Amazon内容紹介より。 重く暗くやるせない話。登場人物が少なく、その分会話文が極端に削られており、正直非常に読み難かったです。終始フランクの奇行とその心情に文章の多くが費やされていて、何かオチのない話を延々聞かされている様な感じで、私は心の中で何度も何度もそれがどうしたとツッコミを入れずにはいられませんでした。時々これは、と思うような記述もありますが、長くは続かずどうにも興味を惹かれない結果に終わりました。 【ネタバレ】 ところが、最終章の手前辺りから覚醒したように面白くなり始め、最終章では天地が引っ繰り返るほどの衝撃を受けました。そうか、この為にこれまでの退屈な時間と無機質な文体があったのかと、納得しました。考えてみれば、フランク自体怪しい証人であり、幾つもの伏線が張られていたではないかと、頷かされました。 私には文体が合いませんでしたが、もっと読解力があれば、或いは本書を楽しむ余裕がもう少しあれば8点でも良かったと思うくらいです。 |
No.1485 | 7点 | 禁涙境事件—some tragedies of no-tear land- 上遠野浩平 | 2022/08/18 22:54 |
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魔導戦争の隙間にあるその非武装地帯には、見せ掛けと偽りの享楽と笑顔の陰でいつも血塗れの陰惨な事件がつきまとう。積み重ねられし数十年の悲劇の果てに訪れた大破局に、大地は裂け、街は震撼し、人々は喪った夢を想う…そしてすべてが終わったはずの廃墟にやってくる仮面の男がもたらす残酷な真実は、過去への鉄槌か、未来への命綱か―。
『BOOK』データベースより。 第五章以外は所々どうでも良い様な描写が散見されます。にも拘らず、肝心の人物造形が数人を除いてなおざりにされている気がします。 体裁としては連作短編の形を取っており、不可解な事件が一応解決されていたり不透明なまま終わったりしていてあまりスッキリしません。それをカヴァーしているのが創元社推理の日常の謎を扱った作品等に於ける、所謂串刺と呼ばれるものです。つまり、各短編が最後に繋がって来て、事件の様相が一変すると云う手法が採られている訳です。 ですから途中であまりパッとしなかった印象の本作が、第五章で人が変わった様に光輝き生き生きと描かれています。本シリーズで最もミステリ色が濃いと評判の本作ですが、ある理由により魔法が無力化された世界で起こる殺人事件という設定に敢えてしたのは、これを本格ミステリへの挑戦を宣言したもの、と捉えても良いのではないかと思います。 たまに日本語が文法的に怪しいのではと思われる箇所があるようですが、まあそれはご愛嬌でしょう。私も人の事は言えませんので。 |
No.1484 | 4点 | 天国の扉- 篠原一 | 2022/08/15 23:07 |
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鈍い骨のずれる音がした。やった、と思った。もう一度力をこめたら頸はごとりと切断された。…ここに生命が極まった。どうにもやさしい眩暈がした。ゆうべはたしかに興奮した。人を殺したのははじめてだったのだ。コンクリートのあの部屋で僕が切断したのは誰?エヴァ世代の作家が描くクールな殺人、2年ぶりの長編。
『BOOK』データベースより。 【ネタバレ】あり 虚無感と高揚感が交錯するノワール小説。文頭で語られる死体の解体、そして死んでバラバラになったはずの「彼」が蘇る。良く解りませんが当然そこには何らかのトリックが存在するはずだったのですが、残念ながらオチはありません。途中でプッツリ切れたように物語は終わります。 僕を殺してバラバラにしてと訴えた少年の願い通りに、主人公のタケイはその行為を行います。そして翌日何もなかったように現れたその少年に命じられるまま、死にたいと願う人々を殺していくと云う話なのですが、確かにタケイの内面は良く描かれているとは思います。 しかし、本格ミステリでは許されない過ちを作者は冒しています。どう考えても焦点は何故バラバラに解体された少年が生きていたのかという事になるはずでしょう。当の本人、タケイすらその点に関して疑問を抱く様子もなく、敢えてその禁忌に触れない様にしているのは、可笑しいと云うより滑稽ですらあります。これはもう作者自身が現実逃避しているとしか思えません。何のオチもなしにこれを書いてしまってはいけないんじゃないでしょうか。ただ単にセンセーショナルな出来事で話題になりたいのなら、それなりの覚悟が必要ですよね。 |
No.1483 | 8点 | 悲しみの時計少女- 谷山浩子 | 2022/08/14 22:51 |
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いつも時刻を確認していないと落ち着かない“時計中毒患者”の浩子は、横浜元町の喫茶店で魚の目をしたサカナ男と、顔と懐中時計の中身が逆さまになった時計少女に出会った。時計少女の案内で、三人は彼女の住む鎌倉の“時計屋敷”を訪ねることになるが、旅の途中で次々と不可思議な出来事に巻き込まれていく――。
自らが声優をつとめたラジオドラマも好評を博した、谷山浩子のファンタジックミステリー。 Amazon内容紹介より。 これを途中まで読んで、馬鹿馬鹿しいとかくだらないと言う人は結構いるでしょうが、退屈だと言う人はほとんどいないのではないかと思います。私の場合は、何なの一体これは?では生温いので、なんじゃこりゃー!でしょうかね。そして最後に驚愕しない読者はいないですね、多分。帯に綾辻行人が書いている「この作品はまぎれもなく第一級のミステリ―(推理小説)でもある」とはあながち間違いではないと思います。 まさかこのような摩訶不思議なメルヘン(ファンタジー)にあんな仕掛けがあるとは誰も思うまい。誰かに似ている様で誰にも似ていない、作者独自の世界を構築しています。正にブラボーと褒め称えたい気持ちでいっぱいです。読後、暫くこの世界観から抜け出せなかったことを、ここに告白しなければならないでしょう。 |
No.1482 | 5点 | デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士- 丸山正樹 | 2022/08/13 22:50 |
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今度は私があなたたちの“言葉"をおぼえる
荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。 仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。彼は両親がろう者、兄もろう者という家庭で育ち、ただ一人の聴者(ろう者の両親を持つ聴者の子供を"コーダ"という)として家族の「通訳者」であり続けてきたのだ。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。マイノリティーの静かな叫びが胸を打つ。衝撃のラスト! 『BOOK』データベースより。 ラストシーンは良かったと思います。しかしそれまでが、真面目に描かれ過ぎていると言うか、余りにも遊び心が無くて読んでいていささか疲れました。登場人物が多い割りには説明不足のせいか、誰が誰だか分からないという現象が。主要登場人物一覧が欲しかったところですね。 200ページ過ぎ辺りまで、散文的でどこに重点を置いて読めば良いのか迷いました。又文章が硬く面白みに欠けます。そして何より肝心の二つの殺人事件が蔑ろにされている気がして、どうも感心しません。 聴覚障碍者あるあるや、ろう社会に関する刑法四十条や差別の問題に切り込んでいる姿勢は買います。そして下手に同情を惹こうとする事なく、障害者も健常者も区別なく描写しているのは小説として褒められるべきポイントだと思います。それと引き換えに情に訴える部分がありませんので、突き放された様な感触は拭えません。 Amazonの評価が高いのは、読者の多くに私が読み取れなかった何かが心に刺さったのでしょう。でもミステリとしては特に突出したものはありませんでした。これは間違いないと思います。 |
No.1481 | 6点 | 貞子vs伽椰子- 黒史郎 | 2022/08/10 22:45 |
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ホラー映画の主演を依頼された劇団員の恵子。しかし、監督が不審死、恵子は居合わせたフリーライター・小堺と共に、現場にあった「呪いのビデオ」を観てしまう。2人は貞子に呪い殺される前に、入れば伽椰子に捕まり二度と戻れなくなるという「呑む家」への侵入を決意。呪いの相殺を狙い、その顛末を映像に記録することに。撮影班が次々と姿を消していく中、ついに貞子と伽椰子が姿を現わし…。ホラーの歴史を変える最恐対決!
『BOOK』データベースより。 映画は観ていません。『呪怨』も観ていませんので伽椰子の存在がどんなものかも知りません。どうやら本作は映画の完全なノベライズではなく、オリジナルらしいです。それならばもう少し物語の細部に膨らみを持たせても良かったのではないかと感じました。導入部や霊能者の登場などは面白く読めましたが、主人公の恵子の恐怖感があまり伝わってきませんし、ライターの小堺などは自身の危機を面白がってさえいるのに、絵空事じみた感覚を覚えました。 それでも貞子と伽椰子を対決させるというアイディアは、勿論映画ありきではありますが、面白いと思います。 怖さはほとんど感じません。それよりもワクワクの方が勝ち、終結に向かって期待が高まっていく手法は流石に堂に入ったものがあります。興味本位でしか読めませんが、それで十分だと思います。軽くサクッと読んでしまっても、後腐れがないのが良いです。 |
No.1480 | 6点 | 茨姫はたたかう- 近藤史恵 | 2022/08/09 23:06 |
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書店員の久住梨花子はストーカーの影に怯えていた。ひとり暮らしのアパートの郵便受けが荒らされ不気味な手紙が投函されたのだ。仕事でもトラブルが起きたある日、腰に激痛が走り動けなくなってしまう。運び込まれた接骨院での“身体の声を聞く”整体師・合田力の施術をきっかけに、梨花子は臆病な自分と向き合うようになる。迷える背中をそっと押す、整体ミステリーの傑作!
『BOOK』データベースより。 近藤史恵はデビュー作である『凍える島』を刊行当時に読んで、あまりピンと来なかったのでこれまで興味が持てなかった作家です。たまたま古本で本書を見つけて、高評価を得ているのを確認して読んでみる事に。これは期待以上に面白かったと言っても良いでしょう。文章の読み易さ、各キャラの個性の立て方、料理をしたり食したりするシーンの味わい深さ、どれを取っても一級品だと思います。 物語は二つの全く異なるストーリーが並行して進行します。これがなかなか一つに合流せず、先が読めません。しかし、双方とも男女の心の揺れを見事に表現し、時に残酷とも思える描写があってハッとさせられたりもし、目が離せません。まさかこれがシリーズ物と思わず読んでしまいましたが、全然違和感はありませんでした。総合的に見て7点くらいの出来かとも思いましたが、何となく低刺激な感触がしたのとミステリとして弱かったので敢えてこの点数にしました。でも読む人が読めば高得点は間違いないでしょうね。 調べてみて驚いたのは作者の知名度と人気、そんな偉い先生とは思っていませんでした、正直。 |
No.1479 | 6点 | 爆撃聖徳太子- 町井登志夫 | 2022/08/07 22:49 |
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隣国を次々に従え、世界帝国への道をひた走る隋帝国。その矛先は琉球、そして朝鮮半島へと向けられた。倭国に攻めてくるのも時間の問題……。この危機に敢然と立ち向かったのが、厩戸皇子、のちの聖徳太子である。
遣隋使となった小野妹子をはじめ、周囲の人びとを巻き込んだ聖徳太子の戦いの行く末は!? 「なぜ隋の煬帝を怒らせる国書を送ったのか」「“聡耳"と言われた理由」「その後半生に政治的空白期があるのはなぜか」「黒駒伝説の真実とは」――聖徳太子をめぐる数々の謎を解き明かしながら、東アジアを舞台に壮大なスケールで描かれる、衝撃の古代史小説。 Amazon内容紹介より。 面白いんだけど、タイトルに偽りありですかね。厩戸皇子(聖徳太子)は神出鬼没でたまに出現しては「うるさい、うるさい」と言いながらすぐにどこかへ行ってしまい、ほぼ主役は小野妹子です。終盤にやっと活躍しますが、人間的にあまり好きにはなれません、それより生真面目な小野妹子の方に感情移入し易いかと。十人の話を一度に聞いていたと伝説的に言われているその謎に一応の解を見出していたりはしますが。 思った以上に隋との戦闘シーンが多く、そこには必ず小野妹子の姿があり、舞台は琉球であり高句麗であったりします。なるほど当時の戦いはこんな感じだったんだろうか、などと想像を巡らせて感心しました。それ程迫力はありませんが、戦略的に見てなかなか面白いと思います。ラストの黒駒伝説の新説には唖然とさせられる事必至。 |
No.1478 | 7点 | 炎舞館の殺人- 月原渉 | 2022/08/03 22:26 |
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欠落を抱える者たちが陶芸で身を立てる山奥の函型の館。師匠が行方不明となり、弟子たちの間で後継者をめぐる確執が生じる。諍いが決定的になったとき、窯のなかでばらばら死体が発見された。奇怪なことに、なぜか胴体だけが持ち去られていた。炎の完全犯罪は何を必要とし、何を消したのか。過去の猟奇事件と残酷な宿命が絡み、美しく哀しい「罪と罰」が残される――。
ラストの1行に慟哭が響く。「このように生きるしかなかった者たち」への著者の深い共感が、全編をつらぬく本格ミステリー。 Amazon内容紹介より。 陰惨な事件が続くこの作品、『首無館の殺人』でも書きましたが、もう少しそれらしい雰囲気が欲しかった気がします。シリーズ第一作にあった明治の時代背景なども全くありませんし。しかし、身体に欠損のある弟子たちの特性を生かした連続殺人事件のからくりは見事の一言に尽きると思います。密室とかはオマケなので、それをどうこう言うのは筋違いではないかと、個人的に感じます。 好みは分かれるでしょうが、こうした異形の特色の強いミステリが私の嗜好にはピッタリ合うせいか、つい高得点を付けてしまいがちです。身体の欠損が決して単なるこけおどしでないことは、読んでいただければ分かると思います。もっと大作に仕上げる事も出来たはずですが、それを敢えてコンパクトに纏めたのはシリーズ他作品を意識しての事でしょうかね。これだけの内容であれば海外の作家なら軽く400頁超えを書いたことでしょう。 |
No.1477 | 6点 | ウルトラQ dark fantasy- アンソロジー(出版社編) | 2022/08/01 22:53 |
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憧れのマイホームを手に入れた主婦・加代子だったが、街のいたるところに書かれた“らくがき”に悩まされていた。消しても消しても翌日には再び現れる奇妙ならくがきは、いつしか加代子の家の中にまで現れて―「らくがき」。ほか、異星人との不思議な交流を描く「ウニトローダの恩返し」、失踪した人間たちの行き着く先は?「楽園行き」、連続変死事件の鍵を握る黒頭巾の男の目的とは!?「送り火」。あなたをアンバランスな世界へ導く4つの物語。大人気ドラマが完全ノベライズで登場。
『BOOK』データベースより。 2004年4月からテレビ東京で放映された作品の中から2話、6話、8話、10話の四篇をチョイスしてラベノイズ化された短編集。脚本、監督、作家が全て違うので、テイストの違う作品が味わえます。SF、ホラー、ファンタジーの要素が入り混じったものばかりで、ジャンル分類不可です。担当作家が皆ラノベ出身者ばかりで、ややクセ強めの文体が特徴ではあると思います。 個人的ベストは『らくがき』ですね。テンポよく話が進み、先が読めません。目まぐるしい展開にワクワクさせられ、突如驚愕に襲われます。オチもなかなか気が効いていると思いますね。他の作品も総じて面白く、心に残るものばかりです。最後の太田愛が脚本を書いた『送り火』が一番ウルトラQらしくないなと感じました。これは普通のファンタジーですね。ドラマの脚本を描き慣れているだけに、逆にそれが災いした気がします。 |
No.1476 | 7点 | 新本格ミステリを識るための100冊 令和のためのミステリブックガイド- 事典・ガイド | 2022/07/30 23:14 |
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本格ミステリの復興探究運動ーー<新本格ミステリ>ムーブメントは、戦後日本における最長・最大の文学運動です。綺羅星の如き才能と作品群を輩出してきたその輝きは、令和に突入した今に至る本格ミステリシーンにまで影響を及ぼし続けています。本書では、<新本格>の嚆矢である綾辻行人『十角館の殺人』が刊行された1987年から2020年内までに刊行された日本の本格ミステリ作品より、その潮流を辿るべく100の傑作を厳選しご案内。さらにその100冊のみならず、本格ミステリ世界へ深く誘う<併読のススメ>も加え、総計200作品以上のミステリ作品をご紹介します。さあ、この冒険の書を手に、目眩く謎と論理が渦巻く本格ミステリ世界を探索しましょう!
Amazon内容紹介より。 評論家佳多山大地が選ぶ、広義の「新本格」ミステリ100選。『十角館の殺人』から始まるムーブメントが現在まで続いているとの持論を持って、様々なジャンルから100冊を厳選?しています。が、やはり幅が広く、例えば辻真先や皆川博子の作品や完全なホラーである『フェノメノ』なども含まれている為、本格ミステリのガイドとしてはややずれが生じていると思われます。 ついでに併読のお薦め本も紹介されているので、かなりの量が掲載されています。勿論海外作品もそこに含まれます。まあこちらは古典が多いですけど。 ただ、ポイントが高いと感じたのは『占星術殺人事件』『匣の中の失楽』『ハサミ男』の小論文が挿入されている事。これはなかなかの見ものだと思います。それぞれの本質を衝いた論説であり、成程確かにと頷かされる事しきりでした。当然ながら、大々的にネタバレしていますのでこれらの作品を未読の方はご注意下さい。ミステリマニアであるなら勿論読んでいると思いますがが。 ちなみに100冊中66冊が既読でした、まあこんなもんでしょう。 |
No.1475 | 8点 | #真相をお話しします- 結城真一郎 | 2022/07/28 22:33 |
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家庭教師の派遣サービス業に従事する大学生が、とある家族の異変に気がついて……(「惨者面談」)。不妊に悩む夫婦がようやく授かった我が子。しかしそこへ「あなたの精子提供によって生まれた子供です」と名乗る別の〈娘〉が現れたことから予想外の真実が明らかになる(「パンドラ」)。子供が4人しかいない島で、僕らはiPhoneを手に入れ「ゆーちゅーばー」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとびとがやけによそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)など、昨年「#拡散希望」が第74回日本推理作家協会賞を受賞。そして今年、第22回本格ミステリ大賞にノミネートされるなど、いま話題沸騰中の著者による、現代日本の〈いま〉とミステリの技巧が見事に融合した珠玉の5篇を収録。
Amazon内容紹介より。 Amazonで品切れと入荷を繰り返しながらも、ここのところミステリ小説部門でベストセラー1位を続けている本作。なかなか古書でも定価で入手するのが困難な状況の中、隙を突きどさくさに紛れて定価でゲットした新品。読むなら今しかないでしょと早速読んでみる。 面白い、面白過ぎる。 普通の本格ミステリ、イヤミス、サスペンスと思って読むとどこか違和感を覚えます。何かが違う、これまでにない新しい小説のような気もしてきます。 ストーリー自体は違和感を覚えるものの比較的真っ当に思えますが、真相が明らかになるまで読まされていたものは実は事件の裏から見たものだったみたいな感覚です。それが引っ繰り返り、表の姿を現すと云う物語がほとんどです。それを俗に言うどんでん返しであるとするならば、本作品集はその見本の様なものと言えます。『パンドラ』だけはやや読後がモヤモヤするものの、他は見事にやられました。意外過ぎる動機であったり、世界が反転する瞬間を目の当たりにするのが快感に変わります。テクニカルな傑作だと思います。 |
No.1474 | 7点 | 蒼海館の殺人- 阿津川辰海 | 2022/07/27 22:45 |
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学校に来なくなった「名探偵」の葛城に会うため、僕はY村の青海館を訪れた。
政治家の父と学者の母、弁護士にモデル。 名士ばかりの葛城の家族に明るく歓待され夜を迎えるが、 激しい雨が降り続くなか、連続殺人の幕が上がる。 刻々とせまる洪水、増える死体、過去に囚われたままの名探偵、それでも――夜は明ける。 新鋭の最高到達地点はここに、精美にして極上の本格ミステリ。 Amazon内容紹介より。 長いがそれに見合っただけの中身であると思います。無駄な描写は微塵もなく、起こった事象に関してはまるで精密機械の様に組み立てられています。まあ良くもこれだけの物語を考え付くものだと感心しました。しかし、それは飽くまで話の中で語られた事柄に対してのものであり、果たして犯人の思惑通りこれ程に都合よく事が運ぶものかとの懸念は感じました。やや偶然が過ぎるのではないかと思わずにはいられません。 ですから本来8点を付けても問題なかったのですが、若干の瑕疵がマイナス点となりました。 それでも、自然現象まで計算に入れての用意周到な犯罪には頭が下がる思いです。これまでのクローズドサークルとは一味違います。途中、探偵助手の私が地の文で突然何を言い出すのかと驚きもしました、それも犯人の掌で踊らされたいたとは、何という事でしょう。意外性もあります。概して玄人好みの逸品だと思います。 |
No.1473 | 6点 | もはや僕は人間じゃない- 爪切男 | 2022/07/23 22:55 |
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手痛い失恋、家族との確執、そして自らに起きた性の揺らぎを抱えながら、人生の暗黒期を過ごしていた著者。孤独の中から救い出してくれたのは、パチンコ中毒のお坊さんと、「トリケラ」という源氏名のオカマバー店員だった。誰が一番エロい仏像を見つけられるか競争したり、連絡が取れなくなった知人のLINEに天丼のスタンプを100個送ったり、知らない子どもの剣道の試合で号泣したりしながら、辛い過去を笑い話に変えていく日々。
『死にたい夜にかぎって』から1年。人生のどん底を「なんとなく」乗り越え、夢を叶えるまでを描いた実話。 Amazon内容紹介より。 一応エッセイに分類されている様ですが、完全な実話とは思えないのでジャンルはその他にしました。爪切男はこんな色んな経験を本当にしているのだろうか、と云う疑問は誰しもが持つところだと思います。それ程悲惨でありつつもドラマティックな人生を送る作者に乾杯。 簡単に言えば、オカマと坊主と親父、そして主人公の私的な内容です。押し付けがましくなく、さり気なく生きる上での教訓を与えようとする姿勢が垣間見られます。それも飽くまでナチュラルな、経験に基づく作者一個人としての真摯な想いであり、却って真に迫るものがある気がします。 しかし、これを誰かに薦めたらまず引かれるでしょう。 例えて言えば3年C組青春高校公式YouTubeチャンネルの『店長さん、私とグラビア語りませんか?#3』みたいな感じです。現役アイドルの頓知気(とんちき)さきなが80年代のグラビアを語るんですが、そこそこ可愛い女子がそんな大胆な事を口にしてしまうのか、というギャップ萌えの落差が凄いです。このコンテンツの中では断トツの再生回数を誇っていますので、興味のある方は検索してください(笑)。 |
No.1472 | 5点 | B/W 完全犯罪研究会- 清涼院流水 | 2022/07/22 23:04 |
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3年連続でそれぞれ異なる殺人鬼に生命を狙われ「日本の犯罪史上もっとも有名な被害者」となった天見仄香は、現在、警視庁の犯罪被害者支援室に勤務している。未解決事件の再捜査の必要性を市民代表が審議する試験制度に参加し、自らの運命を揺さぶる「疑惑の少年」真壁巧と出会う仄香。真壁の周囲では、これまで両親や同級生など221件もの人間消失事件が起きていた。真壁巧は、はたしてクロかシロか?そして、仄香に迫る4度めの危機―。神の死を叫んだ哲学者が、現代社会に巨大な幻影を落とす。
『BOOK』データベースより。 三回の集団失踪事件と三年連続首なし死体事件を中心に進む物語は、それなりに面白く最終章までは楽しめました。ところが最後でやってくれました。『コズミック』で悪い意味で騙されたと思った人にとっては、本作は間違いなく壁本でしょう。 かく言う私も読後は詐欺に遭った様な腹立たしさしか残りませんでした。しかし、よく考えればこの様な突拍子もない事件に、合理的な解決が得られる筈もなく、まあ仕方ないかと言う諦めの境地に至りました。 相変わらずですねえ、清涼院流水。そこまでやるかと云うほどの大風呂敷を広げておいて、結末を有耶無耶に濁す。これが普通の作家がやったらおそらく本にはなっていなかったと思います。結局期待した私が馬鹿だったんですね。本選びはなかなかに難しいものです、読む本読む本面白ければ苦労しませんやね。 |
No.1471 | 7点 | 名探偵のはらわた- 白井智之 | 2022/07/21 23:08 |
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稀代の毒殺魔も、三十人殺しも。名探偵vs.歴史的殺人犯の宴、開幕。推理の果ては、生か死か――。悪夢が甦る――。日本犯罪史に残る最凶殺人鬼たちが、また殺戮を繰り返し始めたら。新たな悲劇を止められるのはそう、名探偵だけ! 善悪を超越した推理の力を武器に、「七人の鬼」の正体を暴き、世界から滅ぼすべし! 美しい奇想と端正な論理そして破格の感動。覚醒した鬼才が贈る、豪華絢爛な三重奏。このカタルシスは癖になる!
『BOOK』データベースより。 いつものグロさがほとんどないのでどうも物足りなさを感じてしまいます。とは言え、構成そのものはかなりヘヴィー級ではあります。昭和の実際に起こった殺人事件の犯人の魂が乗り移り、過去と同じ事件を繰り返し、それに呼応するようにかつての名探偵であった古城倫道が蘇り、鬼畜達と対決していくというのが本筋。そして探偵の下僕である亘も助手として活躍しています。 問題は最初の事件で、これが又登場人物多目で相当入り組んでおり、ここをしっかり理解していないと十分に楽しめないと云う事になりかねません。最後の『津ヶ山事件』は津山三十人殺し事件の経緯を克明に著しており、この有名な事件に興味のある方はその再現度に頷かれる事と思います。 個人的には阿部定事件を準えた『八重定事件』が最もらしい作品として、好感が持てました。アリバイトリックが秀逸で、そこまでしなくてもと思いながらも、いつもの安定感と隣り合わせの危険度が最高潮に達した感がありました。 しかし残念ながら最初に「記録」として挙げられた七つの事件の全ての犯人を成敗している訳ではなかったのが心残りです。それと個人的には浦野の活躍がもっと読みたかったなと言うのが正直なところです。 |
No.1470 | 8点 | 神薙虚無最後の事件- 紺野天龍 | 2022/07/18 22:45 |
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活殺自在に読者を手玉にとるミステリセンス ーー辻 真先
多重推理の果てに現れる新たな景色 ーー麻耶雄嵩 虚構であろうと虚無ではなく。虚無ではなく。ただ、万雷の喝采を ーー奈須きのこ 読み進めるうち、この謎に本気で挑戦せずにはいられなかった ーー今村昌弘 論理遊戯【パズラー】生まれ、戯言拳闘【メフィスト】育ち。擦り切れ方を忘れかけた、ぼくらのための物語 ーー青崎有吾 名探偵の信念と贅沢な趣向。これは、懐かしくも幸福な玩具【おもちゃ】箱だ ーー阿津川辰海 何と技巧と細工に満ちたデラックスな探偵小説世界か ーー城平京 粗削りながら燦然と輝きを放つ才能の原石。瑞々しく魅力的な多重解決ミステリをご堪能あれ ――知念実希人 Amazon内容紹介より。 ハードルを思い切り高くして読み始めたところ、意外にも軽いタッチにやや拍子抜けしました。全てに於いて予定調和的で、大時代的な面もあり、どこかで読んだような既視感と余りに型に嵌ったそのスタイルに鼻白む私でした。作中作は全てが掲載されている訳ではなく肝心なところだけ抜粋されていますが、推理を展開させるに十分な手掛かりが揃っています。しかし、これも又密室とは言え地味な事件であまり魅力的な物とは言えませんでした。 ところが解決編、つまり多重推理の件に入って一気にヒートアップします。これですよ、これ。これを待っていたんです。随所に新本格を彷彿とさせるトリックや趣向なども盛り込まれ、大技小技を駆使して各々の推理がそれなりに説得力を持って解決を見ます。中にはそれはかなり無理があるだろうとツッコミを入れたくなる部分もあります、その辺りに粗さが隠しきれないことは確かです。それでもこのジャンルに於いて優れた作品の登場であることだけは間違いないと思います。 それにしても来栖さん可愛すぎ。その、時にさり気なく、時にあからさまな瀬々良木君への密かな想いに気付かない彼の鈍感さはお約束なのか? まあそれはそれとして、是非シリーズ化を希望します。そして今年の各種ランキングへの上位喰い込みを願っています。 尚、鋼鉄番長の件は城平京の『小説スパイラル 推理の絆2』を読めば本作との共通点が分かります。多重推理だけではない事にも気づくでしょう。因みにどちらを先に読んでも問題ありません。 |
No.1469 | 6点 | 狂乱家族日記 九さつめ- 日日日 | 2022/07/15 22:44 |
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『来るべき災厄』で力を使い果たし、赤ん坊となった月香。しかしこの赤ちゃん、お腹が減っては泣いて電撃、おむつが濡れては泣いて電撃、と凶華も凰火も子育てなのに命懸け。父はいても乳はでない狂乱家族、さすがにお手上げ状態!?そんな中、優歌に異変が…。そして、月香の成長と交互に語られる、すべての始まり、千年前の「家族」の真実の物語とは―。待望の「閻禍伝説編」ついに開幕。まだまだ続く、馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語。
『BOOK』データベースより。 今回は月香の成長日記的な、前作までの大騒動とは真逆なほのぼの系の物語。久しぶりに家族が一致団結する本シリーズらしい話です。特に優歌以外の家族がそれぞれこれまで登場した知己たちに助けを求めて、行方不明となった優歌を探して奔走するくだりはとても私好みで面白く読めました。一方で物語の根幹となる閻禍の若き日のエピソードが描かれており、こちらも興味深いものがありました。 シリーズとしては作者の言う通り新章に突入した感はあります。私としては第二部かなと思っていましたが、第三部、起承転結で言うところの転の始まりらしいです。つまり、ミステリで言うと伏線を回収し推理する段階に入ったそうです。でも結局こんなんで良いんですよね。優歌と月香のいがみ合いを家族がオロオロしたり結束したりしてワイワイやっている感じがいかにもな雰囲気で、仮初であっても家族って良いもんだなと思わせます。 |