皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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臣さん |
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平均点: 5.91点 | 書評数: 666件 |
No.586 | 7点 | 宝島- 真藤順丈 | 2019/06/05 13:15 |
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第160回、直木賞受賞作。
復帰前の沖縄が舞台で、突如として消えた、戦果アギヤー(米軍基地からの略奪屋)のリーダーを慕う男女3人(親友、弟、恋人)の、その後の沖縄返還まで(1950,60,70年代)を描いた青春ミステリー超大作。リーダーは、略奪はするも、奪った物をみなに分け与える、コザの義賊のような存在だ。 テーマはリーダー探しなのか? 年月が経つにつれ、三者三様、生き方や考え方が変化していく。3人がその後、あまりにもかけ離れた職業に就くところが面白い。 戦後の沖縄はおそらく荒廃していただろうに、登場人物たちは、なぜか荒々しく、生き生きとしている。こんな状態に置かれた人たちだからこそ、そうなるのだろうか。 読みながら、江戸侠客物や現代やくざ物、スパイ物、戦争物みたいな印象を受けていたが、やはり違う。沖、米、日が絡んだ国際謀略・闘争&青春物、といったところか。 直木賞の審査員評はおおむね絶賛。 個人的には、作風も分野も文体も、嗜好から少しずれていたが、シリアスな内容ながらも陽気な登場人物たちの行動に興奮しながら、楽しい読書ができた。しかも、アノ謎に最後まで引っ張られたのもよかった。 当時の沖縄を知らないだけに、リアリティがあるのか、荒唐無稽なのかもわからないが、スケールのでかい時代小説、冒険小説に臨むつもりで読めば、そのあたりは解消できるし、まずまず楽しめるだろう。 付け足しみたいだけど、ミステリー要素としては、大きな謎が2つあった。 大河小説なのにミステリー的な真相がラストに明かされれば、大河物としての値打ちが減殺したり、安っぽくなったりすることもあるが、本作については全くそんなことはない。 開示された真相は、期待以上のものだった。 |
No.585 | 6点 | 儚い羊たちの祝宴- 米澤穂信 | 2019/05/20 12:43 |
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ラストに衝撃があると聞いていたが、それほど驚けなかった。
それよりも、ストーリーそのものが味わい深いし、ユーモアを交えた話につい引きこまれてしまう。そんなところが良かった。 時代設定や、その時代の、ちょっと異質な主従関係を軸にした話がなんともいえず、怖さと、わずかな笑いを誘ってくれる。 『山荘秘聞』と『玉野五十鈴の誉れ』が、個人的にはまずまずの出来だった。 「バベルの会」でミステリー的にもっと強くつないでほしい気もしたが、作品群のイメージからは、この程度がよかったのかも。 妙味な雰囲気のある短編群だったが、評としては並みの上で、ごくごく普通のレベル。 |
No.584 | 7点 | 予告された殺人の記録- ガブリエル・ガルシア=マルケス | 2019/05/08 13:28 |
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南米のとある村社会で起きた殺人に関するルポルタージュ小説。
(以下、ややネタバレ気味) 花嫁となるアンヘラ・ビカリオに関する、ある理由で、アンヘラの過去の相手だったとされるサンティアゴ・ナサールがどのような経緯で殺されたのかが主題で、さらに当事者たちのその後のことも語られている。 釈然としない点はある。 こんな理由で、こんな経緯で、惨殺といってもいいほどのやり方で殺されることが、あまりにも不条理すぎる。 アンヘラの家族・ビカリオ一家(殺害者側)や、バヤルド・サン・ロマン(アンヘラの結婚相手)にとっては、いまの日本とはかけ離れた南米の村社会においては、不名誉で屈辱的なことなのだろうと、理解するしかない。 でも釈然としなくても面白い。いや釈然としないからこそ惹きこまれるのでしょう。 それに、なんといっても、時間軸を行ったり来たりしながら語られる手法が、興奮が持続して、いいのかもしれません。時系列にせずに、静と動が入り乱れるように、最後にクライマックスをもってくるあたりに、著者のエンタテインメント作家としての力量を感じられます。 数年前に本書を初読し、このたび評をアップするために、あらすじを必死で思い出そうとしましたが、細部を思い出せず、結局再読しました。 映画化作品もあるので、110分でおさらいするのもいいでしょう。ただ、原作が140ページ程度なので、集中して一気読みすれば時間的な差はほとんどないはず。と思って再読を選びましたが、やはり思いのほか時間がかかりました。 (余談ですが) 本サイトでタイトル検索をすると、同名の国内作品(高原伸安氏の作品)が出てくるのには驚かされます。 ガルシア・マルケスという作家は、1982年のノーベル賞作家で、国内外で人気が高く、影響を受けた作家も多いようです。高原氏もそんな作家のひとりなのでしょうか。 |
No.583 | 4点 | 夕暮れをすぎて- スティーヴン・キング | 2019/04/23 13:04 |
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長短全7編の短編集。
「ジンジャーブレッド・ガール」はワクワクしながら読めた。でも、それ以外の6作は、どれもこれもイマイチ。 短編なのに長く感じるのは、1作のネタが単位量当たりで見て小さすぎるからだろうか。 「ウィラ」や「エアロバイク」は魅かれるところもあってまだましだが、他4作は、はっきりいってよくわからんまま終わってしまうような感じだ。 それとも自分に、本当の意味での短編読みのセンスがないのだろうか? 個人的には、短編でも、長めに関係なく、しっかりとしたプロットのあるものがいいのだがなぁ。 ただ、文章的には悪くない。いつものような細かな描写には引きこまれる。 でも、本書の場合、それが災いしたのかなぁ。 |
No.582 | 6点 | 死の接吻- アイラ・レヴィン | 2019/04/03 10:13 |
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三部構成のミステリー。
第1部は犯罪者視点によるクライム・サスペンス、第2部は素人探偵1による捜査ミステリー&サスペンス、第3部は素人探偵2による真相解明推理&サプライズ・エンディング。 総称すれば、恋愛要素ありの半倒叙・半謎解き・全サスペンス作品といったところでしょうか。 いまなら、複数視点による章立て、カットバックなどのテクニックや、それらの複合ワザは、あたりまえのように使われますが、当時としては、メリハリをきかせた画期的なアイデア作品だったのではないかと想像します。 種々のテクニックを使って読者を楽しませてくれる。本当にすばらしい作品です。 じつは、文庫裏の解説と登場人物表だけで瞬間的に犯人を当てちゃいました。というか倒叙モノかと勘違いしたぐらいです。 第2部で犯人は明かされますが、個人的には上記の理由からもちろんOKですし、第2部につづく、すさまじき場面転換のある第3部があるので問題はないように思います。 この第3部では、著者がヤケクソになったか、と思えるぐらい唐突感ありの劇的な幕引きが待ち受けています。これには少しだけ絶賛するも、多大なる呆れも感じられました。 |
No.581 | 7点 | ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編- スティーヴン・キング | 2019/03/12 09:42 |
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「刑務所のリタ・ヘイワース」
映画「ショーシャンクの空に」の原作といったほうが、わかりやすいだろうか。 映画は痛快、感動ものである一方、原作はそのあたりは控えめで、しかもボリュームが170ページなのであっさりとした感じがする。 でも決して悪いわけではない。エピソードが要所、要所に披露されるのがよいし、レッドとアンディーの友情物語という骨格ももちろんよい。そして、ラストも言わずもがな。 副題のとおり、希望に満ちた春らしい作品だった。 「ゴールデンボーイ」 強烈な300ページ超の長編だから、乗れば満足すること間違いなし。 話は静かに始まるが、少年トッドと、老人ドゥサンダーの交流は徐々に凄絶さが増していく。 悲劇の主原因はトッドにあるが、ドゥサンダーもかなりのくせ者で手ごわい存在。この二人がぶつかり合ったり、協力し合ったりする中盤までも楽しめるが、後半の場面転換後から結末までがまたすさまじく読み応えがある。 副題のとおり、まさに転落の夏物語だった。 少ない登場人物でサスペンス感を表出した、ジェームス・ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」や、ルース・レンデルの「ロウフィールド館の惨劇」などが好みの方なら、間違いなく楽しめるはず。 キングの文章や表現方法は、他人行儀なところがなく、身近に感じるところがいい。特に「刑務所のリタ・ヘイワース」のレッドの語り口には魅かれる。 なかなかこういう作家にはめぐりあえない。ほんとうに素晴らしい。 |
No.580 | 4点 | 2分間ミステリ- ドナルド・J・ソボル | 2019/03/04 12:53 |
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解けるか、解けないかは別にして、推理クイズとしては、まずまずの出来だろう。
というか、文章だけで推理クイズを成立させ、それを本にするのには、この程度の短さ、この程度の内容が精一杯なのだろう。 ちなみに、私も正答率は3割程度だった。 でも、やはりミステリと呼ぶにはあまりにも短すぎる。小説として成立していない。 ウェバーの「5分間」シリーズというのがあるようなので、つぎはこれに挑戦しよう。 |
No.579 | 6点 | 悪魔の降誕祭- 横溝正史 | 2019/02/19 09:30 |
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「悪魔の降誕祭」 6点
絵に描いたような本格ミステリー中編作品。ドラマでいえば、60分に収まりそうな内容です。でも、160ページだけど2つの殺人があって、それだけで楽しめる要素は十分です。しかもコンパクトなのでわかりやすい。 犯人に意外性があり、金田一の謎解きは筋が通っているのだが、なんとなく釈然としない。動機なのかなぁ? 「女怪」 7点 金田一の恋心がベースとなっている、というのが特徴の短編小説。ミステリー的にみればたいしたことはありませんが、個人的にはお気に入りのベスト短編です。 「霧の山荘」 6点 CC館モノか、いや、一族モノか?実際はどちらの要素もかなり薄めで、あっさりしている。 でも本格要素はすくなからず詰め込んであり、イイ感じに仕上がっています。 真相は中編ならではといった感じ。かる~く楽しめます。 |
No.578 | 5点 | 白い僧院の殺人- カーター・ディクスン | 2019/02/06 12:37 |
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読みにくさが、まず気になりました。
前の方もご指摘されているように、場面転換がわかりにくく平板に見えること、見取り図がないこと、翻訳の問題など、ちょっと不手際に感じます。 3ページ進むごとに前に戻ったり、人物表を見返したり、とけっこう苦労しました。人物表を見ても、職業は書いてあるも性格はわからず(当たり前か)、少し書き込みしした程度ではほとんど役に立たず、といったところでしょうか。 ストーリーテラーと呼ぶには程遠い気がしました。 今まで読んだカーとは違うなぁ、せめて怪奇色があればなぁ、という印象です。 作者は人間関係を色濃く描くことで、推理ゲームではない、高尚なミステリー小説を書くぞ、と意気込んでいたのかもしれません。ところが意に反して、それほどうまくいかず、トリックだけが目立ってしまった。そんな感じでしょうか。 最後のHM卿の謎解きには熱くなりました。そこだけが高ポイントです。 |
No.577 | 9点 | 七つの会議- 池井戸潤 | 2019/01/23 10:15 |
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「シャイロックの子供たち」と同様の連作短編スタイルであるが、本書はさらに進化させた、まぎれもない長編ミステリーである。著者にとって、短編ごとの謎解きなんてどうでもよかったのだろう。短編をつないでどうやって大きな真相にもっていくのか。一話まるごとが伏線で、しかも一話ごとにも楽しめる。
どんな事件が待ち受けているのだろうか?何が謎なのか?中盤になってもわからない。そこがこのミステリーの面白いところ。 (以下、ネタバレ風) じつは、本書のストーリーは、5,6年前にNHK版の「七つの会議」を観て知っていた。原作とは主人公が変えてある。というか原作には、短編ごとに主人公がいても全体としては、くせ者ぞろいの群像劇スタイルなのではっきりしない。「東京建電」という企業が主人公といってもいい。しかし、最終的には、ある人物が主人公で、他のある人物が最大の悪者であると判明する。だからこそ、晴れ晴れとした120%の満足感は得られたが、犯罪小説に徹してみるのもよかったのかも。 その点だけが個人的にはマイナス要素だった。なおテレビ版では悪側で苦悩する主人公がよかった。 まもなく公開される映画版は、原作に近いのか、テレビ版に近いのか、それともさらにガラッと変えてあるのか。配役を見てある程度想像できたが・・・ 東京建電の親会社である企業の会社名がすごい。これは、映画ではもちろん、スポンサーのないNHKでも使わなかった。 この親会社の社長だけはまともかと思いきや、この人物も出来がよくない。内部告発の可能性を考えれば最後の判断はダメ。あんな状況だから判断も鈍るのか。 |
No.576 | 5点 | 騙し絵の牙- 塩田武士 | 2019/01/17 09:32 |
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俳優の大泉洋さんを当て書きした作品です。
表紙、裏表紙は大泉氏のカラー写真で構成され、章ごとにも白黒写真が挿入されている。 出版業界の内部が描いてある。 主人公の速水は、小説好きの雑誌編集長で、仕事はでき、社交術に長け、浮気もする、この業界ではありがちな(よくは知らないが)、スーパー編集長、スーパーサラリーマンである。 タイトルにときめき図書館で借りてしまったが、これがミステリーなのか? タイトルと表紙写真があまりにもアンマッチだったので、初めから不安ではあったが、そこだけがミステリーなのだろうとあきらめ気分で、期待せずに読んだ。 一気読みできるほど楽しい読書ではあった。 後半になって小さな事件が種々勃発するが、事件発生が遅すぎるし、その事件もミステリー的には些末すぎる。 やはり業界の裏話的な物語を楽しく読めただけ、という感じがする。 とはいえ、どんでん返し(らしきもの)はいちおうある!(かな?) こんな書き方をすれば、このサイトではまず読んでもらえない。 だから、抜群のリーダビリティで出版業界の内幕を鋭く描いた社会派ミステリー秀作ということにしておきます。 |
No.575 | 7点 | 蝶々殺人事件- 横溝正史 | 2018/12/19 13:35 |
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いま読んでも違和感はない。まあ現代風と言えなくもない。
トリックもまずまずの出来、いや多くの読者が感心するレベルだろう。 ただ、犯人はこの人しかいない、というのが欠点かな。でも当時は驚いたんだろうなあ。 ということで、いちおうは上出来レベルの評価である。 でも、そんな評なんてどうでもいい。 それよりもストーリーの記憶がまったくよみがえってこないことに驚嘆した。 映像を観てないせいなのか? ずっと、なんとなくだが、横溝長編の中で本作は、6,7番目ぐらいの出来だと記憶していたが、これはひどい、ひどすぎる。(自分自身の記憶力のことです。) 金田一長編なら、「悪魔の手毬唄」「夜歩く」「犬神家」「獄門島」「女王蜂」 金田一短編なら、「女怪」 由利長編なら、「真珠郎」「蝶々殺人事件」 由利短編なら、・・・忘れた! (時代物は読んでいない) と、自分勝手なランキングを楽しんでいたのに、これもかなりあやしくなってきた。 たしか、数年前、「夜歩く」を再読したときも、もしかして初読かと思ったぐらいだ。 じつは、「真珠郎」「悪魔が来りて笛を吹く」は再読せずに書評したが、これらも2,3%ぐらいしか覚えていない状態だった。「手毬唄」も未再読だがちょっとマシで5,6%ぐらいか。「犬神家」の記憶は、映像版をなんども観たのでかなりマシ。 とにかくひどすぎる。 |
No.574 | 7点 | 赤毛のレドメイン家- イーデン・フィルポッツ | 2018/12/10 09:38 |
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あのような事件だと、多くの読者は疑うはずです。
でも、著者がウラをかくこともあるし、ウラのウラ、さらにまたウラをかく場合だってある。 ということで、後半まで疑いをいだきながらも、ずっとワクワク感が持続しました。 ということでトリックは、当時なら上等、いまでも十分に通用するレベルです。 サスペンス要素がたっぷりあるし、人物が面白く描いてあったり、場面を種々変転させたりと、著者は楽しませる要素を熟知しているようです。エンタメ小説としてのプロットは抜群の出来です。 最後の告白の分量が多すぎることだけが、マイナス点です。 情景描写を多く盛り込んで文芸作品に見せながらも、じつは、読者を惹きつけるのが巧みなコテコテの大衆文学作品でした。 |
No.573 | 6点 | 二年半待て- 新津きよみ | 2018/11/22 10:13 |
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2018年、徳間文庫大賞を受賞。
松本清張の短編小説に「一年半待て」というのがある。それからの連想でちょっと読んでみた。 就活、婚活、恋活、妊活、保活、離活、終活などがテーマの家庭ミステリー短編集。 このテーマだから当然、社会派ではあるが社会派らしい重さはまったくない。著者お得意の心理ホラーでもない。 作品紹介には大どんでん返しミステリーとある。たしかに最後にどんでん返しのようなものはあるが、なぜか驚けない。想定の範囲というわけではない。ようするに、最後にいきなりきても、「あ、そうなの」という程度にしか感じられないというレベルだ。 保活の「ダブルケア」、離活の「糸を切る」、終活の「お片づけ」は6~7点。他は4,5点というところか。 最後の「お片づけ」だけは、はっきりとした謎が提示される日常の謎モノで、これだけはミステリーと言えるかもしれない。 ということで全体としてミステリーとしては低評価になってしまうが、ストーリーそのものはおもしろく、しかも時事ネタが盛り込んであり、上等の短編集だと思う。 読んで損はないし、かるく読めるし、ひまなときにさっと読むのにはちょうどいい。 |
No.572 | 7点 | 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン | 2018/11/15 10:07 |
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興味がそがれることなく最後まで楽しめました。つまり、少ない登場人物にもかかわらず、解けそうに見えてまったく真相にたどりつけず、でも飽きることもなく、嫌気がさすこともなく、事件に対する興奮が最後まで持続したということです。
本格ミステリーとしては、やや変化球気味。これでもトリックなのか、とも言えますが、これを密室に絡めたことが最高のテクニックなのでしょう。 クイーンは密室が苦手なのか、密室トリックをバカにしているのか、あるいはいいネタが思いつかなかったのか、とも言えますがね。 そしてトリックと同程度にすごいのが、エラリーの過激な推理です。これが際立っています。 たしかに、推理は飛躍しすぎの感もあり、なんでそこまでわかるの、という疑問はあります。でも、それを話の面白さがカバーしてくれます。 ようするに、トリック、推理、ストーリーの三拍子そろった作品でした。 ちょっと褒めすぎか? 日本の文化、習慣を題材にした作品なので、ちょっと贔屓してしまいました。 |
No.571 | 6点 | どんどん橋、落ちた- 綾辻行人 | 2018/10/30 09:58 |
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フーダニットに特化した、おふざけ短編集。
皮肉はないが、遊び心がたっぷり詰まっていて、東野圭吾氏の『名探偵の掟』の対抗馬と云っていいだろう。 謎解き性のみ有り、物語性無し、動機無しの、こんな短編集は、本格好き、というよりもパズル好きにはたまらん。数独、論理クイズに臨むような感覚です。 でも、表題作で、ちょっと違和感を覚えた程度で、結局、全く解けなかった。 じつは、物語性無しとか云いながら、『伊園家の崩壊』では話に夢中になりすぎて、ミステリであることを忘れてしまっていた。 『どんどん』が7点、『ぼうぼう』が6.5点、『フェラーリ』『伊園家』が6点、『意外な犯人』が5点。 |
No.570 | 7点 | ユリ迷宮- 二階堂黎人 | 2018/10/19 09:52 |
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ロシア館の謎・・・7点。館消失モノ。壮大で滅茶苦茶なトリックが良い。島田氏の「ロシア幽霊軍艦事件」みたいに長編にしてもらいたかった。でもそうなるとぼろが出るから、このぐらいがちょうどいいところか。想い出語りスタイルも良い。
密室のユリ・・・6点。普通の密室モノ。「ロシア・・・」の後だから、どんな凄いのが出てくるかと思っていたら、意外にフツー。でも短編本格としては十分に満足した。 劇薬・・・7点。毒薬ブリッジ中編モノ。いやこういうのを読むとワクワク感がたまらんな。二転三転も良い。気合が入っていると思われるのに、さらっと書いてあるのがとても良い。 |
No.569 | 5点 | 完全・犯罪- 小林泰三 | 2018/10/12 18:56 |
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短編5編。
初めての作家さんです。 1.「完全・犯罪」 6点 星新一のショート・ショートにありそうな内容で、ボリュームは5倍ぐらい。 途中でわからなくなったのが残念だが、ナンセンスなのがグッド。 2.「ロイス殺し」 5点 復讐物。火刑法廷のオマージュらしいが・・・ 3.「双生児」 4点 双子の同一性がテーマか? よくわからん。 4.「隠れ鬼」 4点 これもよくわからん。印象が薄い。 5.「ドッキリチューブ」 5点 テレビのドッキリ番組は趣味が悪いが、ついつい観てしまう。 それと同じで厭らしい感じがあるも、テレビと同じで、馬鹿げた内容に乗せられて、ページを繰る手が止まらず、あっという間に読んでしまった。 アイデアが色々あるようで、共通点はブラックなところだけで、5編の関連性はない。 1、2編目はまずまずだが、共通点はないのに、なぜか3、4編目で飽きてきて中だるみし、5編目で少し盛り返したという印象。文章が合わないのかなぁ? ほかに評価の高い作品もあるようだし、本格ミステリーもあるようなので、それらに期待します。 |
No.568 | 7点 | バスカヴィル家の犬- アーサー・コナン・ドイル | 2018/09/28 13:07 |
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ホームズの出番はわずか。そのせいなのか短編のように、とんとんとんと急展開に話が進むことはありません。ホームズ短編は良すぎるから、くらべることに無理があります。
とはいえ長編としては上出来の部類で、読み終えてみれば、長編4作の中で、「緋色の研究」より上位のベスト長編となりました。 2部構成にはせず、平板になりつつある中盤に脱獄囚を絡ませたり、その後絶妙なタイミングでホームズを再登場させたり、さらに冒険要素を盛り込んだり、とストーリーに変化をつけ、長編らしいサスペンス性豊かな作品に仕上げているのが、他の長編との違いです。 謎の提起や謎解き自体に醍醐味があるのも特徴です。 ホームズの再登場の遅さの理由は想像どおり。このことを含め種々の事情を最後の背景開示&謎解き解説で説明してくれます。このパートは15ページほどありますが、この部分が、ドイルお得意の2部構成の第2部のようにも思えます。 |
No.567 | 5点 | シンメトリー- 誉田哲也 | 2018/09/10 14:52 |
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姫川玲子シリーズの初短編集。全7編が収録してある。
表題作が4編目で、目次を見たところ、「シンメトリー」を中心に左右対称っぽく見える。それも意識したのだろうと解説者は述べている。 通俗的で浪花節的なストーリーで読者を惹きつけてくれるのが、この著者の得意技なのだが、短編では人物造形も薄い感がして、それらの特徴は長編ほど顕著ではない気がする。 さらに個人的には、主人公・姫川のキャラにクールさが漂っているのも気にいらない。短編だから仕方がないのか。それとも、映像での記憶に押されて、記憶がねじ曲がってしまい、姫川を少しドジな熱血女刑事だと思い込んでいたためなのか。 まわりの刑事たちの個性もほとんど目立たない。 本格要素がほとんどないのも残念なところ。 とはいえ、先へ先へとページを繰ってしまうリーダビリティの高さは賞賛に値する。本格性については期待せずに、捕物帳を読む程度で臨めば問題はない。 しかも、ワンパターンにならず、プロットに種々工夫もある。 好きな作品は、殺し方が凄い「シンメトリー」と、人情物の「手紙」の2編。 |