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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 655件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.95 8点 イニシエーションラブ- 乾くるみ 2010/01/01 02:01
アイデア勝ち!実にすばらしい出来ばえです。
仕掛けが抜群にうまい。特に時制のほうは文句なしです。伏線もばっちりで、これを解説の用語辞典や分析(ネタバレ)サイトで復習すれば、点数を上げざるを得ません。まさかコンテンツのサイドA、サイドBまでがヒントになっているとは。。。「国電」と「JR」も良かったですね。それから、当時(80年代)のテレビ番組名や流行語など歴史的事象で当時を懐かしむのも一興ですね。作者と同世代なら、まちがいなく青春小説としても楽しめます。

No.94 3点 凍える森- アンドレア・M・シェンケル 2009/12/25 16:12
2007年のドイツ・ミステリー大賞らしい。帯の児玉清さんの評にひかれて読んでみました。それと、1920年代に起こった実話(6人惨殺事件)にもとづいているところにも、興味が引かれました。
しかし、どこが評価されたのでしょうか。私は肌に合いませんでした。謎めいてはいるけど謎解きするほどではなく、スリル・サスペンスもわずかで、ただ重苦しく薄気味悪いだけです。ドイツではベストセラー首位独走だったらしいですし、国内未公開ですが映画化もされているようです。ドイツってミステリ後進国なのでしょうか?
ページ数が少ないのでさっと読めますが、登場人物(事件の証言者)が意外に多く、シーン割りがひんぱんで、視点がコロコロ変わるので理解しにくいですね。洋画に多くありそうな展開です。もっとページ数を増やして人物描写をしっかりやれば、日本人にも受け入れられるのにと思いました。訳者のあとがきによれば、新しい手法により臨場感があるということだけど、関係者ごとの証言による章立て手法は、国内の「吉原手引草」でも経験ずみなので新しさは感じられなかったし、臨場感も最後の10ページぐらいにサスペンスがあった程度です。
ところで、近くの本屋ではクリスマス・コーナーに平積みされていたけど、なぜ?

No.93 6点 名探偵の掟- 東野圭吾 2009/12/24 15:10
本格ミステリの書き手、読み手に通じる暗黙のルールを示すことが本書の趣旨だとすれば、すべてに納得でき、その結果楽しめました。しかも、パロディで茶化して笑わせてくれるので二度美味しいです。
本書が出た当初、すぐに購入し、その後何度も読み始めるのですが、そのたびに、あまりのばかばかしさと、メタミステリの構成とに嫌気がさして途中で投げ出していました。今回趣旨がわかって、やっと読了できました。ミステリとしての出来はともかくとして、これだけ楽しめればある程度の評価はできますね。

(余談ですが)本書や、メタミステリの一種とされる読者への挑戦(特にクイーン)など、あからさまに読者へ問いかけるものは、物語に入り込むタイプの私にとって、興醒めし読む気が失せてしまうので好きになれませんでしたが、ミステリファンなら、こだわりなくなんでも読むべきですね。歳とともに、何でもOKのミステリ嗜好にもなってきましたし(笑)。

No.92 8点 向日葵の咲かない夏- 道尾秀介 2009/12/14 14:31
衝撃のミステリです! (全体としてネタバレっぽいです)
本書は気味の悪い幻想ミステリですが、道理に適った本格ミステリでもあります。本作を読む限り道尾氏は、私の求めるところの文章テクニックにすぐれた天才叙述作家だと思います。とにかく、計算しつくされた叙述には脱帽します(やりすぎの感もあるが)。物語としてはラストがショッキングすぎて救いがありませんが、うますぎるテクニックがカタルシスを与えてくれ、余韻が残りました。
なお、駅員との会話は他の方が指摘されているとおりですし、ミカに関する自由作文の箇所なども無理があるように思いましたが、読み方によっては大目にみてもいいかもしれません。

初めて読む道尾作品なのに「天才」は言いすぎかもしれませんね。ただ、これからも絶対に読み続けたい作家にはちがいありません。こうさんとは、まるで逆みたいです(笑)。採点は、自分の「高評価と近い人」と比較しながら考えたところ、9点には届きませんでした。

No.91 6点 ミステリが読みたい! 2010年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2009/12/09 15:06
立ち読みで済まそうと思っていたが、内容に引かれて衝動買い。ガイド本で高い支払いはいやだから、今シーズンは、『このミス』『本ミス』は立ち読みか、図書館か、あるいは古本にするつもり。

本書の良い点は、先日読んだ『新海外ミステリ・ガイド』と同様、ジャンル別のランク付けがあること。以前から思っていたが、ランク付けや書評を、ミステリという1つのくくりでするのはどう考えてもナンセンス。このような売り物のガイド本のランキングや書評は、作品をジャンル別、目的別にじっくりと吟味できるように分けるのがベストだと思う。こういうランキング方式をもっと浸透させてほしいですね。
その他の特徴点としては、ランク付けにストーリー、サプライズ、キャラクター、ナラティヴという4つの基準をもうけて採点しているところ。私の基準としてはストーリー、サプライズ、キャラクター。ナラティヴ(文体)も気になるが、好みが分かれるので点数は参考にしない。
それに、作品紹介と解説に徹底しているのも良い。『このミス』の座談会とか隠し玉などの企画物は工夫が感じられるし、それなりに楽しめるので捨てがたいが、すこしでも多くの作品情報を得たいと思っている読者には本書のほうが向いている。
また、『ベスト100 for ビギナーズ』は、ちょっとした事典代わりになるのが良い。
細部の話だが、今年のベスト100の中にドストエフスキーの『罪と罰』があったのは驚きだった。この小説をミステリとして扱ってくれたのは、ファンとしてうれしい。

(ちょっと余談を)
書店で本書のとなりに並べてあった『本ミス』は早々にパスすることにしたが、むしろ、反対側のとなりに置いてあった、権田萬冶の『松本清張 時代の闇を見つめた作家』と、そのとなりの連城三紀彦の『造花の蜜』(本書の国内ベスト1)には、食指が動いた。結局買わなかったけどね(笑)。

No.90 7点 新海外ミステリ・ガイド- 事典・ガイド 2009/12/08 11:53
タイトルどおりガイド本なのですが、一般のガイド本とちがって体系的に分類、章立てされていて、その分類されたジャンルごとに作品が順次時系列に登場します。作品ごとに区切って説明していないので、安っぽいガイド本の印象はなく、一見すると、評論のようにも見えてしまいます。このように、本格、サスペンス、ハードボイルドと分類して紹介してくれるのは、雑多なミステリ嗜好の私にとって大変うれしいです。もちろん、本格などの特定分野しか読まないという読者なら、もっと喜ばれるのではと思います。巻末のベスト100にしても、ごちゃまぜのランキングではなく、ジャンルごとなのがいいですね。それから、映画化の章もファンには垂涎の的です。残念なのは索引がないこと。だから、目当ての作品を探すのはむつかしく、結局、ミステリ事典に頼らなければいけません。

No.89 4点 鳩笛草- 宮部みゆき 2009/12/08 10:37
予知能力を持つ女性の生き方を扱った3作品。著者は社会派、時代物、SF、ファンタジーとなんでも書ける器用な作家だが、本書はそのうちのファンタジー系風だろうか。既読の数作品はみなこのノンセクション系統。文章、構成ともにうまいなといつも感心している。
本書も文章がよいので、最初の作品『朽ちてゆくまで』は冒頭から中盤まではかなり惹き込まれた。しかし読み終わってみれば3作品とも、楽しめる内容ではなかった。暗めのテーマのせいというわけではなく、ミステリ的にあまりにも平板すぎるからなのかもしれない。発端の不可思議性、途中のわくわくするような展開、驚愕の結末、どの1つも満足できるものはなく、とくに結末が弱すぎる感がした。ミステリとして期待しすぎたせいかもしれない。どんな小説か最初からわかっていたら、結末にがっかりすることもなかったのだろうけど。

No.88 7点 事件- 大岡昇平 2009/12/01 10:45
1978年の日本推理作家協会賞受賞作品。
映画もテレビドラマも見ていたので、いつかは原作も読みたいとハードカバー本を30年間も積読していた作品。このたび著者の生誕100年を機に読破した。

映像化作品は一級の娯楽作品だったが、小説は三人称神視点の地味な社会小説か、ノンフィクション風の退屈な裁判物かと想像していた(これが長期積読の原因)。読み始めると、たしかに神視点で描かれていて、裁判の進行方式を逐一説明する、くどさもあったが、法廷物らしい謎が提起され、圧倒的に現実感のある描写でもってその謎がロジカルに解明されていくから、知らぬ間に物語の中に入り込んでいける。事件とその裁判の内容を徹底したリアリズムで描けばベストエンターテイメントになり得ることを実感した。真相に向けて少しずつ謎が解きほぐされていく過程は、目が離せない。ほとんどが法廷シーンで、通常の法廷ドラマのラスト10分ほどの法廷弁論が全編にわたって繰り広げられているような感じだ。プロットはベストとはいえず平板な感はあるが(終始法廷シーンなので止むを得ない)、読者を飽きさせることはない。

映画では松坂慶子、渡瀬恒彦、テレビでは若山富三郎の演技が印象に残っている。実は読む前、ストーリーをほとんど思い出せなかったのだが、読み始めてすぐ、映画の真相シーンが浮かんできてしまった。これが唯一、残念なことだった。

真相に意外性はあるが、結果は小粒。どんでん返しというわけでもなく、全体として地味。ケレンミを望む読者には物足りないだろう。でも、真相はある意味、驚愕である。

No.87 6点 ライノクス殺人事件- フィリップ・マクドナルド 2009/11/19 18:32
ミステリとしては異色中の異色です。なんといっても「結末」から始まって「発端」で終わっているのが面白い試みだと思います。ミステリ好きなら、ぜひ読んでもらいたい作品ですね(私はミステリファンになって30数年後の初読みですから、えらそうなことはいえませんが(笑))。

実は本書は、構成の逆転や登場人物、その他諸々の工夫で、真相にたどりつきやすくなっています。しかも神の視点なので読者が作中人物といっしょに味わえるサスペンスもなく、ミステリとしてはそれほど高く評価できないかもしれません。トリックだけは当時なら評価できるとは思いますが。
何が良かったかというと、「結末」につながる「発端」をラストできれいにまとめたことではないかと思います。それに主要な登場人物がみな明るく、会話もユーモアたっぷりで楽しく、ストーリーがテンポよいところも魅力です。もちろん読後感は爽快でした(これが最高!)。さらに、短いことも良かったですね。この人物誰だっけ、と前のページに戻るのも楽ですし。長編を2時間の洋画にしたような感じで、細かなシーン割りはちょっとつらかったですが、その点も再読、復習すれば問題なしです。

(以下、ネタバレ注意)
さすがに冒頭の「結末」だけで真相を見抜くことはできないですが、犯行までの展開と、その後の書簡のやりとりぐらいまで(全ページの半分ぐらい)で、だいたい見当がついてしまいます。私の場合、「発端」の締めくくり方までは予想できませんでしたが、だからこそ十分に楽しめたのかもしれません。それから、「結末」で提示された「金額」には、読み返したときにニヤリとさせられましたね。

(2010年6月追記)
冷静に考え、他と比較すれば6点ですね。

No.86 5点 ペルシャ猫の謎- 有栖川有栖 2009/11/14 13:14
著者に対して期待が大きいのか、この程度の短編集では不十分という意見が多いのには驚かされます。でも、有栖川初心者の私にとっては十分です。むしろ多様なバリエーションで書けることに感心しているぐらいです。総じてオチが弱いことはたしかですが、ミステリとして、エンターテイメントとして適度に楽しめたことにはちがいありません。

No.85 6点 赤髯王の呪い- ポール・アルテ 2009/11/11 12:26
主人公たちは回想シーンでは十台半ばですが、怪奇幻想仕立てにしているので、青春ものといった雰囲気はまったくありません。歴史的事実?と、回想シーンと、現在のシーンとをうまく組み合わせての雰囲気作りは、抜群の上手さを感じられます。映像化してほしいような作品でした。

(以下、わずかにネタバレ)
事件の核心である密室トリックについては、小道具はそろっているのですが、トリック自体はきわめてシンプルで、しかも犯人による犯行が偶発的である点は、やや期待はずれです。(とはいっても、犯人が現場を作るために、目撃者を遠ざけるテクニックは自然で良かったですね。)
でも、本書のねらいはトリックにあるのではなく、むしろ読者を過去と今とを行き来させながら犯人当てを誘導してゆくストーリー展開にあります。デビュー作とは思えないほどテクニカルです。ただ、この展開には好き嫌いがあるでしょうね。

表題作のほかに、ツイスト博士ものの短編が3篇、併録されています。みな本格謎解きもので、本格派ファンには垂涎の的だと思います。ちなみに私は、本格、変格、非本格と守備範囲が広い(その分浅いですが)ほうなので、トリックのない、怪奇ものやサスペンスものが1つぐらい入っていてもいいのになと思いました。

No.84 7点 戻り川心中- 連城三紀彦 2009/11/02 19:17
5編の共通点は、花がテーマになっていること、それといずれもがホワイダニット物ということです。概ね伏線がうまく示されているので、結末に驚かされるだけではなく、ミステリとしての上手さも感じられます。

個別には、『藤の香』『桔梗の宿』がシンプルにまとまっているし、幻想的で奇妙な味が出ていて、好みです。『桔梗の宿』の結末もよかったですね。それから、『桐の柩』の「柩」の発想には驚かされました。『白蓮の寺』『戻り川心中』は、文学的な美文を駆使して、ここまで巧妙に書かなくても、と思うほど実に手のこんだ作品です。ただ、私にとっては、正直なところ2作品とも、いい印象を持てませんでした。

ミステリ的に評すればもっと高得点なのですが、総合的にはこの程度ですね。

No.83 5点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2009/10/27 14:04
ポアロとヘイスティングズのコンビ作品で、ヘイスティングズの一人称で語られている、典型的な捜査中心の探偵小説です。
ポアロは犯人の知恵と知性に翻弄されるし(ポアロが犯人に振り回されるのはけっこう面白いですね)、ヘイスティングズもへまをやらかすなど、ミスディレクション要素はたっぷりあって、読者もいっしょに寄り道をしてしまいますが、肝心のトリックは大掛かりで緻密なわりには、解けてしまえばやや大味かなという気がします。犯人の意外性は楽しめますが、全体としては、ごく平均的なミステリだと思います。でも、クリスティーの場合、異色作が多いせいか、こんな王道的な作品であっても十分に興味をそそられることも事実です。
また、プロットはさすがに良くできていると思うのですが、私が読んだ新潮版は翻訳がイマイチ合わず、読んでいて何度もつまづいてしまいました。ハヤカワか創元推理にすれば良かったかな、と後悔しています。

No.82 7点 ブラジル蝶の謎- 有栖川有栖 2009/10/17 09:08
初めて読む作家で、それほど期待せずに読み始めました。2,3編読み進んだところでは、みな探偵があっけなく解決してしまうのでイマイチだなとの印象でしたが、尻上がりに良くなってきました。トリックが良いとか、謎解きが論理的だとかいうのではなく、感性にマッチしているといった感じです。読みやすさや、関西のなじみの地名がよく出てくることも良く感じたことの一因なのですが、それだけではないようです。
作品としては、『人喰いの滝』の馬鹿げたトリックが気に入っています。『鍵』のオチも良かったですね。それから、『蝶々がはばたく』はなんだかジーンときました。この『蝶々』は短編のラストを飾るにふさわしい作品だと思います。

No.81 6点 ミステリーのおきて102条- 評論・エッセイ 2009/10/17 08:57
「小説はみなミステリーだ」。北村薫も阿刀田高と同じことを考えているのだなと思っていたら、よく見ると読みたかった北村の評論ではなく阿刀田高を借りてしまっていた。しかも、中身は評論というより週刊誌連載のエッセーだった。失敗したかなと思いながら、軽く斜め読みし始めたが、これが意外に面白かった。
乱歩、清張、ポー、クイーン、クリスティーなど、古今東西の有名作家と、著名作品が続々登場する。「おきて」や「書き方」というほどではなく、裏話的で、著名作品を絡めながら趣のあるエピソード話をしてくれるのが、ミステリー情報収集家?である私にとってはうれしい。著者は映画通でもあるため「シャレード」や「太陽がいっぱい」などのサスペンス映画の話もあれば、傍点は推理小説では使ってはいけないとかの書き方の工夫話もある。それから、書評済みの山本周五郎の『五瓣の椿』がコーネル・ウールリッチの『黒衣の花嫁』を下敷きにしたものである等々の種々の新たな情報が得られた点も良かった。

No.80 6点 火と汐- 松本清張 2009/10/11 09:57
表題作と、『証言の森』『種族同盟』『山』の4篇からなる短編集です。
表題作は、刑事二人がアリバイ崩しに挑む、「点と線」の簡易版といった謎解き本格モノです。ただ、かなり確実性の低いアリバイトリックなので、感動はありません。
その他の作品はアリバイ崩しモノではなく本格性は低いのですが、謎をうまく積み重ねて読者を引き込んでくれます。『証言の森』は時代設定が戦前で古めかしすぎて抵抗がありましたが、実はその古さにもわけがありました。これと他2作は、それなりに楽しめました。
4作の共通点は女性が被害者であること、それから雰囲気がみな陰鬱なことです。すこし陰鬱すぎるとも思いましたが(だいたい清張作品は暗いですね)、結果的には、いつものようにぐいぐいと引き込まれていきました。

No.79 6点 第四の扉- ポール・アルテ 2009/10/03 09:21
アルテはフランスのディクスン・カーと呼ばれている密室の得意な作家だそうです。海外版新本格といったところでしょうか。
本書には、もちろん密室殺人が含まれていますが、そのほかにこれでもかというほどの多くの事件が盛り込まれています。しかも、幽霊屋敷、交霊会などの怪奇的要素も十分にあります。そして、後半には展開にひと捻りあり、最後には衝撃もあります。しかし、詰め込みすぎのせいか、ツイスト博士によって解明された真相にはすこし無理があります。得意の密室トリックも私にとってはイマイチでした。それから、後半の展開はアイデアとしてはよかったのですが、さんざん無理のある真相を読まされたあとなので、驚愕もさほどではありませんでした。良かったのは、不気味な雰囲気を楽しめたことと、ストーリーに無駄がなかったことぐらいでしょうか。

No.78 5点 氷菓- 米澤穂信 2009/09/29 10:27
推理対象となる事件は殺人ではないが、学校の33年前の封印された事件なのでそれなりに重みがある。その謎に対して古典部の4人の推理合戦が繰り広げられる。謎が過去の事件のものであり、また学校という閉鎖空間での出来事なので、謎解きとしては深みがあり、真相解明の過程は読んでいておもしろい。それに、事件や真相による物悲しさが学園物の爽やかさにほどよく調和していて、良い雰囲気が出ている。ただ、真相も、「氷菓」の意味もさほど驚くほどではなかった。
主人公の折木奉太郎の性格の描写にも問題がある。主人公は自らの性格をなにごとにもかかわらない省エネ主義だと一人称の地の文で語っているが、実際の行動はそれとはかけ離れている。一人称小説なのにそれはおかしいのでは、と違和感を感じた。だから、あまり感情移入はできなかった。年の差もありすぎるけどね(笑)。
「氷菓」だけに「評価」しにくい作品であった。

No.77 7点 死が招く- ポール・アルテ 2009/09/24 12:25
著者は、フランスミステリには似つかわしくない本格派のミステリ作家です。しかも小説の舞台はイギリス、時代設定は1920年台で、ディクスン・カーを意識したものとなっています。
長編とはいえ、やや短めで、短いわりに詰め込みすぎとの印象もありますが、むしろ短いことで、スピーディーでサスペンスフルなストーリー展開を楽しむことができます。もちろん、不気味な密室殺人、双子の兄弟、死者の怨念など魅力的な要素が備わっているので、おどろおどろしさも十分に味わえます。
読み終わってしまえばいえることですが、短めサイズに応じて贅肉がほとんどないため、丹念に読めば犯人当ては意外に簡単かもしれません。さいわいにも私は解けなかったので、ツイスト博士が真犯人を名指ししたときには、快感にひたることができました。

No.76 7点 ベスト・ミステリ論18- 評論・エッセイ 2009/09/24 12:15
北村薫、坂口安吾、都筑道夫、瀬戸川猛資、法月ら著名批評家13人による18のミステリ評論を集めたアンソロジーです。若島正の評論が目的で図書館で借りましたが、都筑道夫、坂口安吾の評論も楽しく読ませてもらいました。評論というよりエッセイという感じです。

若島正の「明るい館の秘密」では、クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」を「アクロイド」と比較しながら、その心理描写を徹底分析し、叙述トリックを解析し、そして致命的な誤訳を指摘しています。この内容については予備知識があったので、どちらかというと裏づけがとれたという感じで、これですっきりとしました。章ごと登場人物ごとに詳細に分析していることには本当に驚かされます。「そして」を既読の方には絶対にお勧めです。「そして」の本格物としての面白さが倍増し、クリスティーの緻密さと文章力の豊かさを理解できると思います。若島正の著書には「乱視読者」シリーズもあるので、そちらも読んでみたいです。

また、都筑道夫の「トリック無用は暴論か」では、フィリップ・マクドナルドを例に挙げ、また森村誠一氏の「高層の死角」や斉藤栄氏の「奥の細道殺人事件」を槍玉に挙げながら、アリバイつくりや密室構成は従であり、解決にいたる論理が主であることを説いています。たしかに論理さえしっかりしていれば、少々無理のある真相、動機でも納得させられることがあるのは事実ですね。この評論が書かれたのが国内で新本格が登場するずっと前(1970年ごろ)の社会派全盛の時代ですから、時代に合った、国内本格を悲嘆したような内容といえますが、いま発表されたとすれば新本格ファンから反感を買うかもしれません(笑)。でも、論理が多少無茶でも、綾辻氏の「十角館」などのように、文章(叙述トリックなど)で驚かされるのも個人的には好きなほうなので、論理が全てではないと思いますが。。。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
好きな作家
採点傾向
平均点: 5.90点   採点数: 655件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(14)
アガサ・クリスティー(12)
松本清張(12)
東野圭吾(12)
今野敏(11)
アーサー・コナン・ドイル(11)
横溝正史(11)
連城三紀彦(10)
内田康夫(9)
評論・エッセイ(9)