海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.45点 書評数: 2753件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.26 5点 母親探し- レックス・スタウト 2024/03/29 03:49
(ネタバレなしです) 1963年発表のネロ・ウルフシリーズ第26作の本格派推理小説です。依頼人は若い未亡人で、自宅の前に「父親の家に住むのが当然だから」というメッセージを添えられて捨てられた赤ん坊の母親を探して欲しいと依頼してきます。赤ん坊の母親を探すための試行錯誤の捜査が読ませどころで、特に第12章で「殺人は自策で」(1959年)に登場した女性探偵サリー・コルベット(アーチーは現代最高の女探偵と絶賛しています)の助けを借りての写真大作戦が面白いです。もっともサリーは一言も発せず描写は極めて地味で(論創社版の登場人物リストにも載っていません)、ここはもっと盛り上げる演出が欲しかったですね。途中で殺人事件も発生しますがウルフはそちらは警察まかせと解決に乗り気ではありません。もちろん最後には殺人犯を指摘するのですが推理はそれほど印象に残らず好都合な証人に助けられており、他の容疑者が犯人であってもおかしくないように感じました。

No.25 5点 ネロ・ウルフの災難 激怒編- レックス・スタウト 2023/04/30 06:15
(ネタバレなしです) 国内独自編集版ながらおそらく国内初の単行本と思われる論創社版のネロ・ウルフシリーズ中短編集、本書が最終巻らしいのは少々残念ではありますが、米国オリジナルで14の短編集で全41作のシリーズ作品が論創社版の6つの短編集で半分弱の19作が読めるようになったのは感謝に絶えません。米国版第6短編集(1952年)の「悪い連“左”」は共産主義者たちを容疑者にしてFBIまで登場させた、時代性を強く感じさせる作品です。推理の根拠が容疑者の不自然な言動なので、証拠として強力には感じませんが。米国版第12短編集(1962年)の「犯人、誰にしようかな」がプロットの面白さでは1番。論理的推理ではないですけどミスリードが効果的です。珍品なのがスタウトの死後に出版された第14短編集(1985年)の「苦い話」で、実は1940年に雑誌掲載されたシリーズ初の中編作品です。この第14短編集の作品はいずれも改訂版や別バージョン版というマニア読者向けで、「苦い話」はネロ・ウルフの登場しない長編を改訂したもの(登場人物名を使い回ししている!)。中短編の長編化はよくありますが、長編の中短編化は珍しいですね。食い物の恨みを晴らそうというウルフの探偵動機は長編版にはない面白さですけど、(私は長編版を先に読んでしまっていたので)謎解きに関しての新しい発見はなかったです。個人的には他のシリーズ作品を収めてほしかったです。

No.24 5点 殺人は自策で- レックス・スタウト 2022/03/09 11:04
(ネタバレなしです) 1959年発表のネロ・ウルフシリーズ第22作の本格派推理小説です。複数の作家が盗作を訴えられるという事件が発端です(数件は既に賠償金を支払っています)。ウルフは盗作されたと主張の原稿を調べて全て同一人物の作と推理します。この推理の根拠となる原稿がきちんと提示されないので読者にぴんと来ないと思いますが、もし全部掲載したら相当長大なページが必要でしょうからこれは仕方ないという気もします。中盤までの展開がまどろこしいですが殺人事件が起きるとソール・パンザーたちいつもの面々だけでなく「手袋の中の手」(1937年)で活躍した女性探偵ドル・ボナーにも協力を仰いでいます。もう1人の女性探偵サリー・コルベットについては私はよく知りません(後年の「母親探し」(1963年)にも登場との文献がありましたが)。ウルフが自虐的になって解決まではビールも肉も摂取しないと宣言したり犯人に対してかなりの敬意を表したりしているのが印象的ですが、謎解きとしては推理説明された証拠が非常に脆弱に感じられました。そもそものきっかけである多重盗作詐欺の動機も曖昧です。

No.23 6点 ネロ・ウルフの事件簿 アーチー・グッドウィン少佐編- レックス・スタウト 2021/10/23 23:27
(ネタバレなしです) 国内独自編集のネロ・ウルフシリーズ第3短編集として2016年に出版されました。アーチー・グッドウィンが第二次世界大戦中に軍務についていた時代の作品を収めたためか、米国本国での第2短編集(1944年)の全2作が丸ごとと第3短編集(1949年)の全3作から2作と執筆時期の近い中編4作が集められました。どうせなら米国版第3短編集の「証拠のかわりに」(1946年)も収めて2つの短編集の合本版にしてくれたらと思わないでもありませんが。米国版第2短編集のタイトルにもなった「死にそこねた死体」(1942年)が断トツの面白さです。ウルフを呼びだせとの軍上層部の命令を受けて依頼人側に回ったアーチーがどうするのかと思ったら、そこから予想の斜め上展開になってぐいぐい読ませます。ウルフの切れ味鋭い推理が暴いた真相はとてつもない「嘘から出た真(まこと)」でした。「ブービートラップ」(1944年)ではついにウルフが軍からの依頼を引き受けます。警察相手でも自分の流儀を押し通すウルフですが戦争で愛国心が燃え上がって軍には恭順姿勢なのが異色です。タイトルに使われているようにトラップで犯人を特定しているのが本格派推理小説好きの私としては物足りないですけど。ウルフに殺人予告状が届けられる「急募、身代わり」(1945年)はプロット展開の面白さは「死にそこねた死体」に匹敵しますが、推理の根拠となる手掛かりは後出しだし説明があまり論理的でないのが惜しいです。ウルフが「親しみをこめて軽く笑った」に仰天させられる「この世を去る前に」(1947年)は裏社会の大物が登場することもあって非常にハードボイルド色の強い作品。本格派らしさもありますが論創社版の巻末解説で触れられているように手掛かりが感心できないのは残念。個性豊かな作品揃いでいつもと違うウルフとアーチーが見られるのは貴重でもありますが、初めてこのシリーズを読む読者はいつもの2人が描かれている他のシリーズ作品から先に手に取ることを勧めます。

No.22 5点 ネロ・ウルフの災難 外出編- レックス・スタウト 2021/07/08 21:55
(ネタバレなしです) ネロ・ウルフが嫌い(苦手)なのは女性と外出ということで本書は日本独自編集でウルフが外出する3つの中編を収めたシリーズ中編集です。もっとも論創社版の巻末解説によると「実際の事件の半分ほどでウルフは外出している」とのこと。私はこのシリーズの良き読者とは到底言えませんけど、そんなに沢山の作品で外出していたという記憶がありません(記憶の自信もありませんが)。どうせなら外出作品一覧を作ってほしかったですね。それはともかく本書に収められたのは本国オリジナルでは第4中編集(1950年)から「死への扉」、第8中編集(1956年)から「次の証人」、第11中編集(1960年)から「ロデオ殺人事件」です。「死への扉」は解決場面に至るまでは文句なしの面白さです。早く解決したいウルフですが事件関係者は非協力的だし警察は堂々と妨害してきます。どんどんページが少なくなってハラハラしますが終盤が残念。はったり(ウルフ曰く「力強い揺さぶり」)での解決です。ここで切れ味鋭い推理を披露できれば傑作だったのに。「次の証人」はウルフが法廷に証人喚問されたというだけでも注目ですが証言台に立つ前に法廷から出ていってしまうびっくり展開、「ロデオ殺人事件」は容疑者の大半がカウボーイ、カウガールとどちらもそれなりに作品個性はありますが本格派推理小説の謎解きとしては推理の説得力が弱いのは残念です。

No.21 4点 毒蛇- レックス・スタウト 2020/07/14 22:49
(ネタバレなしです) 様々な職業を経験した米国のレックス・スタウト(1886-1975)がネロ・ウルフシリーズ第1作となる本書を発表したのが1934年、決して早咲きの作家ではありませんが晩年まで精力的に書き続け、このシリーズだけでも長編33作に中短編集14作(1作は死後出版)が残されました。私の読んだハヤカワ・ミステリ文庫版の裏表紙の作品紹介では「発表当時、大センセーションを巻き起こし、現在も本格推理小説の古典的傑作と評されるレックス・スタウトの大傑作」、巻末解説でも「訳者の好みからいえば、おそらく彼の最高の作品で、全探偵小説の傑作の一つといえるであろう」とこれ以上は考えられないほどの大絶賛です。読む前の期待はいやがおうにも高まったのですが...。同じ本格派といっても同時代のエラリー・クイーンとは作風がまるで違いますね。推理説明はそれほど論理的でなく、手掛かりもカモフラージュされた伏線でなくストレートに提示されるので謎解きに意外性など全くありません。しかも犯人の正体が明らかになってからの展開も長いです。しかし私が最も失望したのは謎解きの出来栄えではありません。いくら捜査に非協力的だとはいえ、証言を引き出すために大の男が集団で女性相手に暴力的手段をとっていることです(外出しないウルフは直接加担はしませんが共犯も同然です)。米国ではネロ・ウルフは絶大な人気を誇ってるそうですが、個人的にはこんな卑怯者のどこがいいんだ?と聞きたいです。私にとっては(ひどい意味で)センセーショナルな作品でした(笑)。

No.20 5点 ギャンビット- レックス・スタウト 2020/03/10 20:22
(ネタバレなしです) 1962年発表のネロ・ウルフシリーズ第25作で、国内では雑誌「EQ」の87号(1992年5月号)と88号(1992年7月号)に連載されました。タイトルに使われている「ギャンビット」とはチェスの戦術だそうで、エラリー・クイーンの「盤面の敵」(1963年)の章のタイトルに使われていましたね。動機がスタウトの作品では珍しく(といっても私はスタウト作品に精通しているとはとても言えませんけど)、どちらかといえばアガサ・クリスティーの作品でよくありそうだったのが印象的でした。それはいいのですがプロットもスタウトらしくなかったのが気になります。このシリーズはウルフの助手のアーチーが手掛かりや証言をかき集め、最後にウルフが犯人を突き止めるというのが定番パターンですが、本書ではアーチーが先に真相にたどり着いたという印象が強くてウルフが精彩を欠いているように感じました。

No.19 6点 ネロ・ウルフの災難 女難編- レックス・スタウト 2020/02/27 22:07
(ネタバレなしです) ネロ・ウルフシリーズ第11中短編集(1960年)、第12短編集(1962年)、第13短編集(1964年)から1作ずつ選出して国内独自編集版として2019年に出版されました(国内単行本としては4冊目です)。最も女難らしい作品は「トウモロコシとコロシ」(1962年)で女難に遭ったのはアーチーですが、アーチーのトラブルはウルフにとってもトラブルです。愛憎ドラマ風のプロットがこのシリーズとしては珍しく、強引なところもありますが推理もまずまずです。「殺人規則その三」(1960年)では何とウルフを面と向かって罵倒する女性が登場、これには思わず笑ってしまいました。ウルフがアーチーの助手となる逆転設定はあまり効果を上げてないし、推理も強引かつ唐突ですが楽しく読める作品です。「悪魔の死」(1961年)はオカルト要素はなく、女難らしさも希薄、推理が弱くてはったりのみでの解決にしか感じられず3作の中では1番印象に残りませんでした。

No.18 6点 Xと呼ばれる男- レックス・スタウト 2018/12/19 22:21
(ネタバレなしです) 1949年発表のネロ・ウルフシリーズ第11作でアーノルド・ゼック三部作の第1作でもある本格派推理小説で、国内では雑誌「EQ」の125号から129号(1998年9月号から1999年2月号)の5回に渡って連載されました。ゼックはシャーロック・ホームズに対するモリアーティー教授のごとく暗黒街の黒幕という役柄のようですが本書では出番が遅く、しかも声のみの出演で存在感はそれほどでもありません。人気ラジオ番組の放送中にスポンサー提供のドリンクを飲んだゲスト出演者が毒殺される事件が扱われてます。名探偵が事件関係者を一堂に集めるといよいよ解決かと読者の期待が高まりますが、本書ではそれが実に3回もあります。新事実が明らかになって捜査は確かに進展しているのですがそれでも解決がなかなか見えてこない難事件です。ウルフの説明は「(証拠はないが)この仮説ですべて説明がつき、矛盾点もない」というもので、謎解き伏線を回収しての論理的推理を期待する読者には物足りなく感じられるかもしれませんが、プロットは充実していてそれなりに楽しめる作品です。余談になりますが日本語タイトルは(ゼックの頭文字をとって)「Zと呼ばれる男」の方がよかったように思います(英語原題は「And Be a Villain」です)。

No.17 6点 遺志あるところ- レックス・スタウト 2018/09/16 00:22
(ネタバレなしです) 1940年発表のネロ・ウルフシリーズ第8作で、シリーズ次作の「語らぬ講演者」はだいぶ後年の1946年の発表ですから第1作の「毒蛇」(1934年)から本書までが一応シリーズ第1期として分類できるのではと思います。国内では雑誌「EQ」の94号(1993年7月)から95号(1993年9月)の2回に渡って連載されました。発端は不公平感の強い遺言書に反発する遺族からの相談というウルフが全く気乗りしない依頼なのですが、そんなことは問題にならない充実のプロットです。個性豊かで曲者ぞろいの容疑者たちを相手にウルフもアーチー・グッドウイン、ソール・パンザー、フレッド・ダーキン、オリー・キャザーのお馴染みの面々だけでなく第五の部下ジョニー・キームズも繰り出し、さらには自身が滅多にしない外出までするのです。その外出先である出来事が起きてあっという間に帰宅する(逃亡する?)ウルフの素早さが何ともおかしいです。解決がやや駆け足気味に感じられますが、複雑さとサスペンスを両立させた本格派推理小説として楽しめました。

No.16 5点 女が多すぎる- レックス・スタウト 2018/08/18 16:45
(ネタバレなしです) 1947年発表のネロ・ウルフシリーズ第10作の本格派推理小説で日本では雑誌「EQ」の72号(1989年11月号)から74号(1990年3月号)の3回に渡って連載されました。「料理長が多すぎる」(1938年)を連想させるタイトル(英語原題は「Too Many Women」)ですが作品同士の関連は全くありません。タイトルはある大会社の社員が轢き逃げ事故で死亡し、それが事故なのか殺人なのか調査を依頼されてアーチーがその会社に潜入することになりますがそこは500人もの女性社員が働いていることに由来します。女性が多く採用されている職場は(例え米国でも)当時は現代よりはるかに少ないと思いますがせっかくの(珍しい)舞台が十分に活用されているとは言い難く、重要な役割を与えられている女性はほんの一握りで容疑者に限定すれば男女ほぼ同数です。ネロ・ウルフをして「わたしの上をいくずるがしこい敵に出くわしたのだ。ずるがしこいか、さもなければめっぽう運のつよいやつにね」と弱音を吐かせるほどの難事件でどう解決するのかわくわくさせるプロットですが、推理ではなくはったりで解決してしまうのが謎解きとしては残念レベル。ウルフと犯人の直接対決さえありません。最終章のアーチーのもてもてぶりは男性読者の私は笑えましたが女性読者からは顰蹙を買うかも。

No.15 4点 ファーザー・ハント- レックス・スタウト 2018/07/28 23:05
(ネタバレなしです) 1968年発表のネロ・ウルフシリーズ第30作で、日本では雑誌「EQ」の25号から27号(1982年1月号から5月号)で3回に渡って連載されました。轢き逃げ事故で母親を亡くして天涯孤独となった娘から父親を探す依頼を受けるという変わったプロットが特徴です。しかしこれが結構な難題、これはと目をつけた容疑者(?)に父親でない証拠を突きつけられたりします。そこでウルフは作戦変更し、母親は殺されたのでありその犯人を探すことが父親発見につながると(あまり論理的ではありませんが)考えます。ところがこの犯人、何と指紋を残すという致命的失敗をしていて指紋を入手して照合しさえすれば判明してしまうのです。犯人逮捕となると父親探しに支障が生じるという状況をどう解決するかが興味深いものの、その父親探しも推理で突き止めているわけではありません。捜査小説としては楽しめても本格派推理小説の謎解きを期待する読者にはお勧めできない内容でした。

No.14 6点 料理長が多すぎる- レックス・スタウト 2016/10/01 01:26
(ネタバレなしです) ネロ・ウルフの最大の関心事が蘭と食事であることは有名ですが1938年発表のシリーズ第5作である本書はそんな彼にふさわしい事件が扱われています。15人の世界的に有名な料理長を集めた晩餐会に招待されたとあって外出嫌いのウルフが外出するのですから。ウルフがソースの味見テストの結果から犯人を割り出そうとする中盤の推理はとても印象的で、そこからのどんでん返しも見事です。あびびびさんやあいさんがご講評で述べられているように犯人当てとして読者に対してフェアに謎解き伏線が与えられているかは微妙な気がしますけど真相は細部に至るまでよく考えられており本格派推理小説らしさは十分あると思います。ところで原書では料理レシピが付いていたらしいですが、謎解きと直接関係はないとはいえ残念なことにハヤカワ文庫版ではそのレシピが削除されてしまっています。

No.13 6点 アルファベット・ヒックス- レックス・スタウト 2016/09/26 02:06
(ネタバレなしです) 1941年発表の本書はスタウトの数少ない非ネロ・ウルフシリーズ作品の本格派推理小説で、かつて弁護士だったタクシー運転手アルファベット・ヒックスが活躍します。物語の中で重要な役割を担う小道具がソノシート(CD世代の読者は見たことないかも)というのが時代を感じさせますが全体の流れはスムーズで読みやすく、終盤にはどんでん返しが効果的な謎解きが用意されています。

No.12 4点 語らぬ講演者- レックス・スタウト 2016/09/21 09:05
(ネタバレなしです) 「遺志あるところ」(1940年)の後は第二次世界大戦の影響でしょうか久しく書かれなかったネロ・ウルフシリーズですが1946年にシリーズ第9作となる本書で復活です。既に殺人事件が起きてから48時間が経過したところから物語が開始されており、全てを後追いさせられるプロットは非常に読みづらいです。登場人物も多く、登場人物リストを作って関係整理しないと大変です。ある証拠品が鍵を握り、それを捜索することに全力を尽くしていますが推理による解決要素が少ないのは本格派推理小説好き読者には物足りないでしょう。

No.11 7点 シーザーの埋葬- レックス・スタウト 2016/09/04 10:09
(ネタバレなしです) 1939年発表のネロ・ウルフシリーズ第6作の本格派推理小説です。軽妙な会話や大胆な行動によるユーモアがスタウト独特の魅力ですが本書では特にそれに磨きがかかっているように感じられました。それは本書で初登場するリリー・ローワンというアーチーの恋人役に拠るところも大きいでしょう。恋人関係といってもベタベタな描写はほとんどなく、物語のスムーズな流れを全く妨げていません。タイトルに使われている「シーザー」とは全米チャンピオンの座を獲得した名牛ヒッコリー・シーザー・グリントンに由来しますが牛を謎解きに絡めたプロットが個性的で、スタウトを代表する傑作と評価されているのも納得です。

No.10 6点 究極の推論- レックス・スタウト 2016/08/28 02:20
(ネタバレなしです) 1961年発表のネロ・ウルフシリーズ第24作の本格派推理小説で、ミステリー雑誌「EQ」118号(1997年)で国内紹介されました。家族を誘拐されたという依頼人の登場というのが珍しいですが、身代金を犯人に渡すまではウルフにほとんど情報を提供しないという依頼人の態度が事態をややこしくします。そんな制約下でもウルフはそれなりに手を打って何と誘拐犯の共犯者の目星までつけるところがさすが名探偵です。しかしそこからプロットは二転三転して殺人事件まで発生し、癖のある容疑者たちとのやりとりもあってあっという間に終盤です。推理が容疑者の性格分析に拠るところが多くて説得力はやや弱いですがウルフが容疑者を1人ずつ犯人でないと消去していき、最後に残った容疑者を犯人だと指摘する場面はサスペンスに富んでます。

No.9 6点 編集者を殺せ- レックス・スタウト 2016/07/28 09:20
(ネタバレなしです) スタウトの個性が良くも悪くも発揮されている1951年発表のネロ・ウルフシリーズ第14作の本格派推理小説です。行動型探偵のアーチーが実によく描かれ、特に前半のディナー・パーティー編でのスマートでお洒落、そしてユーモアも豊かな手腕が大変面白いです。しかし14章以降の西海岸編では「毒蛇」(1934年)ほどではないけれど証拠を入手するために乱暴な手段も辞さないのが個人的にはあまり感心できませんでした。起伏ある物語展開でとても読みやすいです。ウルフ自身が「もう少しで出し抜かれるところだった」というほど冷血で手ごわい犯人にとって最後の一撃が思いもよらぬものだったのが印象に残る作品です。

No.8 6点 手袋の中の手- レックス・スタウト 2016/07/26 08:28
(ネタバレなしです) 1937年に発表された本書は女性の私立探偵を主人公にしたミステリーとして時代を先取りした作品と評価されています。もっともキャラクター小説を期待すると肩透かしを感じるかもしれません。探偵役のドル・ボナーが死体を発見してショックを受けたり自分自身にはっぱをかけたりと感情を表に出すシーンもありますが、全般的にはドライに描かれています。スタウトは個性的な女性を描くのは決して苦手ではないと思いますが、探偵役としてはうまく書ける自信がなかったのかドルは本書以外にも中編「探偵が多すぎる」(1938年)と長編「苦いオードブル」(1940年)にも登場していますがそちらでは脇役扱いです。ミステリーとしての出来栄えは平均点的な本格派推理小説といったところでしょうか。

No.7 5点 殺人犯はわが子なり- レックス・スタウト 2016/06/12 05:54
(ネタバレなしです) 1956年発表のネロ・ウルフシリーズ第19作は、ウルフたちが事件に巻き込まれる出だしから快調で中盤まで文句なく楽しめる本格派推理小説でした。残念なのは重要証拠がどこにあるかという推理はあるものの、それがどういう証拠なのかはウルフが関係者を集めて真相を説明するまでヒントさえ与えられていないこと。読者が自力で謎解きするには手掛かり不足なのが惜しまれます。

キーワードから探す
nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.45点   採点数: 2753件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)