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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.894 6点 吸血の家- 二階堂黎人 2015/12/06 02:08
(ネタバレなしです) 1992年発表の本書は出版順では二階堂蘭子シリーズ第2作となりますが執筆順ではデビュー作の「地獄の奇術師」(1992年)より早かった本格派推理小説です(読む順はどちらが先でも大丈夫)。講談社文庫版で500ページを超す大作ですが他のシリーズ作品と比べるとプロットはシンプルで読みやすく、グロテスクな描写も少ないのでシリーズ入門編として好適かと思います。密室事件もありますが何と言っても被害者の周囲の雪の上に被害者と死体発見者以外の足跡のない事件が本書のハイライトで、非常に印象的なトリックが使われています。「地獄の奇術師」と同じく、手掛かり脚注を使った丁寧な謎解きが楽しめます。ただ最終章の「嘘」に関する蘭子の説明は蛇足のような気もします。また蘭子たち捜査陣側の描写が大半を占めるのは読者に探偵役と同条件で推理に参加させている気分を味わえる一方で、容疑者描写は物足りなくそこは一長一短でしょう。⇒(後記)本書で感心した足跡トリックが1950年代の国内ミステリーで既に使われていたのを私が知ったのはずっと後のことですがそれでも本書の評価を変えるつもりはありません。

No.893 7点 枯葉色の街で- 仁木悦子 2015/12/06 01:32
(ネタバレなしです) 1966年発表の本格派推理小説です。謎解きの面白さでは「猫は知っていた」(1957年)や「林の中の家」(1959年)に一歩譲りますが水準レベルには十分に達していますし、何よりもこの作家ならではの人情あふれるプロットが非常に魅力的です。こういうのが本当の万人受け作品だと思います。

No.892 4点 ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密- ポール・アダム 2015/12/05 23:18
(ネタバレなしです) 2009年発表のジャンニ・カスティリョーネシリーズ第2作の本格派推理小説です。動機の追及が音楽史の謎解きと絡むという歴史本格派推理小説の要素がありますがクラシック音楽関連ということでどれだけ興味を抱く読者がいるかは未知数です。音楽用語は極力使わず、明快な文章で人間ドラマとしての謎解きにするよう努力はしています。犯人当てとしては片方の事件は推理らしい推理もなく解決されてしまうし、もう片方の事件も唐突過ぎる解決で、私の乏しい理解力ではついていけない推理でした。

No.891 5点 一、二、三-死- 高木彬光 2015/12/05 23:08
(ネタバレなしです) 1974年発表の墨野隴人シリーズ第2作の本格派推理小説です。角川文庫版の巻末解説でこのシリーズを「近代推理小説の新しい試練(社会派推理小説の隆盛と本格派推理小説の衰退のことでしょう)をへたうえで本格探偵小説を書いてみたらどうなるか」を実践した作品と自己評価しています。確かに本書は犯人当て本格派推理小説ではあるけれど社会問題やビジネスへの投資に関するやり取りが随所にあったりして社会派の影響も見られます。謎解きのロマンを減じていると感じる読者もいるかもしれませんが、時代が時代だけに派手な演出の本格派は書きにくかったのかもしれません。個性的な容疑者を揃えようとはしているのですがちょっと顔見せしたかと思うとしばらく登場しなかったりしてプロットのリズムが悪く、誰が誰だかわからなくなるのが辛かったです。墨野の推理をもってしても「見当がつかない」動機の異様さは印象的でした。

No.890 5点 不思議なキジのサンドウィッチ- アラン・ブラッドリー 2015/12/05 22:10
(ネタバレなしです) 2014年発表のフレーヴィア・ド・ルースシリーズ第6作で、作者は当初本書をもってシリーズ最終作にするはずだったのが、人気が高まったのに応えて全10作とする予定に変更しました。前作の「春にはすべての謎が解ける」(2013年)での衝撃的結末の後を引き継ぐ物語となっており最低でも前作、できればこれまでのシリーズ作品を全部読んでフレーヴィアを取り巻く環境になじんでおくことを強く勧めます。初めて読んだシリーズ作品が本書ということになると面白さは大きく後退します。ある人物との思わぬ形での再会、何と(作中時代では)元首相のチャーチルが登場し、さらにはフレーヴィアのとてつもない計画(成功するわけないと思っていてもどうなるのかどきどきします)とページをめくる手が止まらない展開です。殺人もおきますがその謎解きはややもすると脇に置かれ、ド・ルース家がどういう結末を迎えるのかという方が気になって仕方ありません。本格派推理小説でなくスパイスリラー系のミステリーであったことも意外でした。

No.889 6点 延期された殺人- E・S・ガードナー 2015/12/04 18:24
(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)の死後に発見された2作のメイスン作品の1つで1973年発表のシリーズ第82作の本格派推理小説、よくもここまで書き続けたと感心するばかりです。結果的にはシリーズ最終作です。行方不明になった姉メイを危惧する依頼人、実はその依頼人こそがメイ本人ではないかとメイスンが疑うところから始まる本書は、最晩年の作品ゆえか粗いと思わせる部分もありますが意外と緻密で複雑な謎解きプロットで読ませる作品でした。

No.888 5点 その灯を消すな- 島田一男 2015/12/04 12:00
(ネタバレなしです) 1957年発表の南郷弁護士シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「上を見るな」(1955年)でも地方の旧家を中心した事件を扱っていましたが、本書でも山奥の平家村を舞台にして古風な雰囲気を出しています。同時代の横溝正史と比べると人物描写がドライですがそれでも現代社会とはまるで異質のどろどろした世界です。被害者が死んだ時には灯が消えた状態だったという設定は面白そうですが、よく考えると灯が消えていれば必ず事件が起きるわけではありません(寝る時に普通に灯を消しているはず)。意外と人物関係が複雑でアリバイを細かく検証したりしているのでじっくり読むことを勧めます。謎解きはご都合主義的な部分が多くてあまり感心しませんでしたが、物語の結末は重苦しい余韻を残します。

No.887 4点 鬼女の都- 菅浩江 2015/12/03 18:02
(ネタバレなしです) 女性SF作家の菅浩江(すがひろえ)(1963年生まれ)が1996年に初めて発表した京都を舞台にした本格派推理小説です。「誰がどのようにして死者を自殺に追い込んだのか」という風変わりな謎を扱っているのがユニークです。作者は「ミステリの確固たるロジックは、SFの確固たる科学考証と同じ魅力がある」と語っていますが、最後は冷静沈着な探偵役が真相を明らかにしているものの論理性はそれほど強くなく、人物心理を好きなように解釈しているに過ぎないような印象を受けます。京都の魔力のようなものを丁寧に描くことには成功していますが、思い入れが強過ぎて万人受けは難しいかもしれません。

No.886 6点 笛の鳴る闇- 日下圭介 2015/12/03 16:24
(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説で、作者は「贅沢な推理小説愛好家のために密室、暗号、将門伝説と三つの大きな謎を用意した」とアピールしています。確かにその通りではありますが、密室はトリックが小粒だし、平将門伝説は何が謎なのか焦点が定まっておらず犯罪の謎解きとの関連が薄くて浮いてしまったように感じます。暗号の謎解きは力が入っていて様々な解釈が飛び交いますが、犯人の最後のせりふの通り、「どれほど証拠能力があるか疑わしい」レベルです。緻密に書かれていますがどこか木を見て森を見ずの印象が残ります。なお本書は倉原真樹初登場の作品ですが彼女の登場場面は最後の3章のみで、その範囲内では確かに活躍していますが第一の事件の謎解きには全く関わっていません。全体の主役は古賀父子です。またタイトルに使われている笛は暗号文の中に登場するのみで全く鳴らないのがちょっと肩透かしでした。

No.885 6点 死の部屋でギターが鳴った- 大谷羊太郎 2015/12/03 15:05
(ネタバレなしです) 1973年発表の本格派推理小説で、似たようなタイトルで「死を運ぶギター」(1968年)(後に改訂されて「死を奏でるギター」(1986年))がありますが本書とは別物です。「殺人予告状」(1972年)に続く、芸能プロダクションのマネージャー松原直人の巡業殺人シリーズ第2作ですが巡業描写はぐっと控え目になり、その代わりに第一容疑者となってしまったためか松原の活躍がより鮮やかになりました。ドアも窓も「鍵のかかっていない」密室という風変わりな不可能犯罪を扱っているのが珍しいです。トリックは成功したとしても犯人を隠すのに有効だったのか疑問ではありますが、アイデア自体はなかなか面白かったです。

No.884 3点 猫は泥棒を追いかける- リリアン・J・ブラウン 2015/12/03 14:06
(ネタバレなしです) 1997年発表のシャム猫ココシリーズ第19作です。非常にミステリー色が薄く、事件が起きてもジム・クィラランは通り一遍の関心しか示さず新聞コラムに載せるネタ探しの方に傾注していて謎解きは全く盛り上がりません。そのネタの方も中にはちょっと面白い小話もあるものの長編作品を支えるには力不足で、だらだらとした物語に感じました。かなり後半になって起きた事件でようやく重い腰を上げたクィラランが強引に犯人を持ち上げて幕引きとなりますが、犯人が冷静に開き直ったらどうしようもないほど根拠薄弱な推理でした。

No.883 6点 亜愛一郎の転倒- 泡坂妻夫 2015/12/03 13:52
(ネタバレなしです) 1977年から1980年にかけて発表された亜愛一郎シリーズの短編8作を収めて1982年に出版されたシリーズ第二短編集です。派手な謎が印象的な作品では何と言っても「砂蛾家の消失」。折原一の「鬼面村の殺人」(1989年)に影響を与えたのではと思わせる家屋消失はインパクトが強烈。使われたトリックは異なりますが意外な共通点がありましたね。しかも消失以上にインパクトある謎解きまでありました。綱渡り的なトリックの「三郎町路上」や奇想天外な動機の「意外な遺骸」もなかなか面白かったです。一方でちょっとした謎から意外な真相を導こうとした作品は出来不出来があり、他愛もない謎が他愛もない真相で終わってしまったような作品もあります。

No.882 4点 世阿弥殺人事件- 皆川博子 2015/12/03 13:11
(ネタバレなしです) 1986年発表の本格派推理小説です。作者の特徴である幻想性は微塵もなく、明快なストーリー展開にユーモアも交えて読み易さは抜群です。世阿弥に関する謎解きは古文の文献が私には難解過ぎですが推理はわかりやすく、しかも学説をひっくり返ないところで上手く寸止めしています。これなら学者や研究家からバッシングされることもないでしょう(笑)。一方で殺人の謎解きは残念レベル。第一の殺人の手掛かり説明にはなるほどと感心しかけましたがページをさかのぼって調べるとその手掛かりが見つかりません(私の探し方がまずいのか?)。第二の殺人もトリック説明に唐突感が拭えず、強引な幕引きにしか感じませんでした。

No.881 5点 準急ながら- 鮎川哲也 2015/12/03 12:57
(ネタバレなしです) 1966年発表の鬼貫警部シリーズ第10作のアリバイ崩し本格派推理小説です(読者が犯人当てに挑戦するタイプの作品ではありません)。全7章で(光文社文庫版で)250ページに満たない短い作品です。犯人のアリバイが成立した時はもう第6章に突入しており、鬼貫警部が前面に出て活躍するのもようやくここからです。残り少ないページ数で時刻表や写真からアリバイを崩そうと試行錯誤するところが本書のハイライトです。トリックもそれを見破られる失敗もそれほどインパクトのあるものではないのですが、その割に鬼貫警部に挑発まがいのことをする犯人の自信はどこから来るのでしょうかね。

No.880 6点 被告人、ウィザーズ&マローン- スチュアート・パーマー&クレイグ・ライス 2015/12/02 20:38
(ネタバレなしです) ユーモア本格派推理小説の人気作家であったクレイグ・ライス(1908-1957)とスチュアート・パーマー(1905-1968)はそれぞれのシリーズ探偵であるジョン・J・マローンとヒルデガード・ウィザーズを共演させた短編を共作発表しました。1950年から1963年にかけて6編が発表されており決して多くはないのですが、友人同士であったとはいえ大物作家同士の共作で両者の持ち味をバランスよく発揮していることは奇跡に近いと評価されています(1963年に短編集として出版もされました)。6編の内2編はライスの死後に書かれていますがライスのアイデアをちゃんと活かしてあるそうで、これも立派な共作と言えるでしょう。短編ながらプロットは複雑でどたばた要素もたっぷり、軽妙でありながら濃厚な作品が揃っています。個人的に好きなのは推理のしっかりしている「エヴァと3人のならず者」と異色の法廷場面のある「ウィザーズとマローン、知恵を絞る」です。

No.879 4点 今をたよりに- ジル・チャーチル 2015/11/30 00:11
(ネタバレなしです) 2005年発表のグレイス&フェイヴァーシリーズ第6作の本書では兄ロバートの活躍が目立つ一方で妹リリーはあまり目だっていません。そのロバートにしても謎解きに関しては解決に貢献している部分は少なく、プロットも推理小説というよりは捜査小説なので本格派推理小説好き読者にはあまりアピールできないと思います。

No.878 6点 白尾ウサギは死んだ- ジョン・ボール 2015/11/30 00:03
(ネタバレなしです) 1966年発表のヴァージル・ティッブスシリーズ第2作です。全員がヌーディストという何とも個性的な一家が登場しますが裸体の直接描写はほとんどなく、人間性の魅力の描写が際立っています。決して官能路線作品ではないのでそちらを期待する読者は他をあたって下さい(笑)。魅力では主役のティッブスも同様で、両者とも社会の中では差別的待遇を受けやすいのですが対立も逃避もせずに上手に世間と向き合っています。それが理想的に過ぎると感じる読者もいるでしょうけど読んでて不快感を覚えさせない手腕を私は高く評価したいです。本格派推理小説としては傑作の「夜の熱気の中で」(1965年)と比べると推理の切れ味がやや鈍っていますが水準は十分クリアしていると思います。

No.877 6点 退職刑事1- 都筑道夫 2015/11/29 23:42
(ネタバレなしです) 短編ミステリーに定評ある作者ですがその中でも1973年より書かれた退職刑事シリーズは有名です。1975年出版の第一短編集には1973年から1975年にかけて発表された本格派推理小説のシリーズ短編7作が収められています。作者自身のコメントに拠れば、「ストーリーの起伏や遊びの要素を切り捨てた」作品なので時に味気なく感じられることもありますがどんでん返しが鮮やかに決まった作品もあり、「妻妾同居」や「狂い小町」などはその成功例だと思います。

No.876 6点 終列車連殺行- 阿井渉介 2015/11/29 21:48
(ネタバレなしです) 下り寝台特急の寝台で発見された大量の血痕と上り寝台特急で発見された他殺死体。途中駅で死体または死にかけた被害者が乗り換えたとしか考えられないが、その駅では下り列車の到着より先に上り列車が出発するためそれは不可能だったという事件を扱った1990年発表の列車シリーズ第4作の本格派推理小説です。死体移動の謎だけでなく、空中浮遊や伝説の怪物ヌエによる(と思われる)殺人といった謎も散りばめられています。最後の事件がかなり終盤になって発生して駆け足気味に解決されたのが少し気になりますが、このシリーズの中では謎解きのまとまりはいい方です。犯人像の描写も印象的でした。

No.875 6点 野兎を悼む春- アン・クリーヴス 2015/11/29 21:21
(ネタバレなしです) 2009年発表のシェトランド四重奏第3作です。第1作の「大鴉の啼く冬」(2006年)では謎解きと物語性のバランスに感心したのですがこのシリーズ、段々と謎解き要素が後退しているような気がします。地味な展開ながらも退屈させない筆力はあるのですが、終盤のペレス警部と犯人のやり取りの中で真相に至る推理プロセスがほとんど語られないのは個人的には不満です。本格派推理小説を読もうとする読者にもう少し配慮してほしいです。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)