皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
|
---|---|
平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.934 | 5点 | 湖列車連殺行- 阿井渉介 | 2015/12/31 08:29 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1989年に(当時は「火の湖列車連殺行」というタイトルで)発表された列車シリーズ第2作の本格派推理小説です。作者は「謎をいくつさし出すことができるか?これは読者へのチャレンジです。またサービスです」とコメントしていますが、これは本書のみならずシリーズ全般の特色となりました。前半はカチカチ山に見立てたかのような事件、光る幽霊、1年前の死者の指紋、全ての家具がひっくり返された部屋などの不思議な謎が連続します。中盤は一転して複雑な人間関係が明らかになっていく地味な展開になりますが、終盤近くになると走る人間が人形に変化したり鉄壁のアリバイが登場するなどまたまた謎が増えていきます。しかし謎解きのまとまりがいいとは言えず、説明は論理的でなく、トリックのためのトリックとしか思えないものばかりでした。 |
No.933 | 6点 | 若きウェルテルの怪死- 梶龍雄 | 2015/12/31 07:58 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1983年発表の旧制高校シリーズ第2作で、舞台は仙台の旧制二高です。過度に重々しくはありませんが戦争が迫りつつある緊張感と反戦活動が随所に描写されています(作中時代は1934年)。主人公は事件捜査にはほとんど直接参加できず伝聞的に知らされる情報に感情的に反発するばかり、この主人公に共感すればするほど読者は真相から遠ざかってしまうような気分にさせられるという本格派推理小説としてはユニークなプロットです。終盤には「読者への挑戦状」が挿入され、畳み掛けるようなどんでん返しの連続が待っています。都合よすぎる偶然に感じられる部分もありますがなかなかの力作です。 |
No.932 | 5点 | 探偵の夏あるいは悪魔の子守唄- 岩崎正吾 | 2015/12/31 07:45 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 岩崎正吾(いわさきせいご)(1944年生まれ)は綾辻行人と同じく新本格派作家の一人で、「田園派ミステリー」を書くことを宣言した異色の存在です。もともと地方出版社の経営に携わっていて、そこで「横溝正史殺人事件あるいは悪魔の子守唄」というタイトルで1987年に出版したのが本書です。最終章で「本歌どり」について説明されていますが、人名、地名、せりふなど随所に横溝正史作品を連想させる場面が一杯で、横溝好きの読者なら大いに楽しめそうです。無論謎解きは横溝作品をそのままコピーしてはいないし、横溝作品を読んでいない読者でも十分に楽しめる内容です。ただ肝心の真相が偶然の重ねがけになってしまっているところはちょっと不満ですが。 |
No.931 | 6点 | ひとり者はさびしい- A・A・フェア | 2015/12/31 07:32 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1961年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第21作です。個性的な女性が多く描かれ(男性もそれなりにはいますけど)、ドナルドのモテモテぶりもたっぷりです(笑)。無論ひどい目にも合わされるのですがそれは後で手ひどいしっぺ返しをくらっています(本書ではセラーズ部長刑事)。善悪の関係がわかりやすいので犯人の意外性などほとんどない謎解きですが、いかにしてハッピーエンドに持って行くかを楽しめれば本書はそれでいいのでしょう。 |
No.930 | 5点 | 仮面幻双曲- 大山誠一郎 | 2015/12/31 07:21 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 大山誠一郎(1971年生まれ)の2006年発表の長編第1作である本格派推理小説です。人物描写も雰囲気もあっさりしており悪く言えば書き込み不足、良く言えば簡潔にして要領を得ており個人的には後者に一票を投じたいです。沢山のトリックを組み合わせておりその多くは過去のミステリーで使われたトリックの再利用或いは少々加工したものですが、豊富な謎解き伏線と合わせての推理説明はまさにパズルストーリーの典型です。本格派嫌いの読者にお勧めできる要素は全くなく、逆に好きな人にはたまらない作品です。第二の事件で使われているトリックはあまりにも失敗リスクが高そうですけど(詳しく書けませんが絶対に不自然な痕跡が残りそう)。 |
No.929 | 4点 | 終わりのない事件- L・A・G・ストロング | 2015/12/31 07:06 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) イギリスのL・A・G・ストロング(1896-1958)は詩、伝記、戯曲、評論など幅広い分野で活躍し、小説も20作以上書いていますがその内ミステリーは6作程度に留まるようです。本格派推理小説の書き手として認知されているようですが、全4作のエリス・マッケイ主任警部(男性です)シリーズの第3作である1950年発表の本書はジャンルの特定に悩みそうな作品です(論創社版の巻末解説ではスリラー作品と紹介されています。エリスがどんな犯罪事件を追いかけているのか、それともこれから起きるのか曖昧な状態で物語が進行します。中盤で死体が登場するも身元はわからず雲をつかむようなプロットです。文章は洗練されていて時にはユーモアも交えていますが読みにくい作品でした。まるっきり運任せで解決したわけではありませんが、終盤でエリスは「僕は正しいことをなにひとつしていない。成り行きでひょっこり真実が見つかったというだけにすぎない」と自虐的なコメントを残しています(笑)。しっかりしたプロットは他のシリーズ作品に期待した方がよさそうです。 |
No.928 | 4点 | ハリウッド・サーティフィケイト- 島田荘司 | 2015/12/31 06:29 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2001年発表の本書は「龍臥亭殺人事件」(1996年)と同じく御手洗潔シリーズの番外編というべき長編で、主人公は松崎レオナです。御手洗潔は間接的な登場に留まっており、探偵というより学者としてのアドバイスをレオナに与えているだけです。「龍臥亭殺人事件」がいかにも日本風な作品だったのに対して本書は米国風を意識した感があります。レオナがIQ200以上の知性の持ち主であることが紹介されていますが頭脳派というより行動派の探偵役として描かれていて推理による謎解きがあまりありません。とんでもないトリックが使われているところは島田らしいとも言えますが扱いは案外と小さいし、終章のどんでん返しもレオナの(なぜ解ったのかの)説明があれでは本格派推理小説としては破綻しているのでは。個人的には本書はエログロ描写、暴力描写に遠慮のないハードボイルドで、レオナの多重人格ぶり(?)ばかりが目だっている印象を受けました。 |
No.927 | 6点 | 殺人は死の正装- 筑波耕一郎 | 2015/12/31 06:02 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 筑波耕一郎(1939年生まれ)は1976年にデビューした本格派推理小説(若干の例外もあるようです)の書き手です(ちなみに1970年代は筑波孔一郎というペンネームを使っていました)。本書はその長編第1作で作家の蓬田専介とルポライターの木島逸平のコンビシリーズ第1作でもあります。不可能犯罪トリックもありますがそちらはメインの謎ではなく、複雑な人間関係を解きほぐすことを重視しています。トリックでなくプロット勝負というのは決して悪くはありませんが本書はあまりに地味過ぎ、もう少し登場人物の個性を目立たせていれば結構読ませる作品になったのではと思います。文章自体は読みやすいです。 |
No.926 | 6点 | 致死量未満の殺人- 三沢陽一 | 2015/12/31 05:48 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 三沢陽一(1980年生まれ)が2013年に発表したデビュー作でアガサ・クリスティーのデビュー作の「スタイルズの怪事件」(1920年)をちょっと連想させる、犯人当てと毒殺方法の謎解きをメインとする本格派推理小説です。冒頭に自称犯人を登場させており、その自白にもそれなりの説得力があるのですがそこからのどんでん返しの連続が半端ではありません。やたら登場人物の多いミステリーが氾濫しているこの時代に少ない登場人物で深みのある謎解きに挑戦した姿勢に好感を持ちました。 |
No.925 | 6点 | 盲目の鴉- 土屋隆夫 | 2015/12/29 19:54 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 長編作品としては「妻に捧げる犯罪」(1972年)以来となる1980年発表の本書は千草検事シリーズ第4作の本格派推理小説です。土屋のミステリーはよく文学性が濃いと評価されますが本書は特にその特徴が強いと思います。謎解きに関しては千草検事が「犯人の自白もなく、目撃者の証言もなく、推理を裏づける物証もなかった」と事件を振り返っていますがプロットは非常にしっかりしています。トリックは失敗する可能性が高いように思いますし(但し実現性については事前に確認したそうです)、犯人の正体について読者が推理に参加する余地がないのは本来私の好みではないのですが本書に関してはそういったことも不満に感じませんでした。 |
No.924 | 5点 | 球型の殺意- 山村正夫 | 2015/12/29 19:39 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 山村正夫(1931-1999)はまだ10台の若さの1949年にミステリー短編を発表して長い作家歴を持ちますが短編作家のイメージが強く、長編作品に力を入れるようになったのは1980年代になってからです。「ボウリング殺人事件」のタイトルで1972年に発表された本書は当時の作者にとって希少な長編です。作者あとがきでは「本格的推理小説」と書かれていますがkanamoriさんのご講評の通り、一般的な犯人当て謎解き小説とは異なります。強盗事件で幕を開けますがこの強盗団の正体は早い段階で読者に知らされます。作者は「トリックのフェアプレー」にこだわっており、ちょっと変わった密室トリックが使われているのが印象に残ります。しかしそれ以外には読者が推理に参加できる余地がほとんどなく、通俗スリラー色が濃いのも好き嫌いは分かれそうです。 |
No.923 | 7点 | エコール・ド・パリ殺人事件- 深水黎一郎 | 2015/12/29 19:01 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2008年発表の芸術探偵・神泉寺瞬一郎シリーズ第1作の「読者への挑戦状」付き本格派推理小説です。エコール・ド・パリの画家たちに関する知識があちこちで紹介されていますが高尚な芸術論ではなく、画家の悲劇的な生涯を通じてその人間性を中心にした描写になっていますので美術の苦手な私でも十分に理解できる内容でした。しかもそれが単なる装飾ではなく、謎解きの伏線としても使われているのですからこれは巧妙としか言いようがありません。 |
No.922 | 5点 | 虹の舞台- 陳舜臣 | 2015/12/29 18:52 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 非ミステリー作品が作者の主流となりつつあった時代の1973年に発表された陶展文シリーズ第4作の本格派推理小説で、「割れる」(1962年)以来のシリーズ作品ですがこれがシリーズ最終作となりました。謎解きに関しては最終章の「割り算の余り」の真相が読者に対してアンフェアに感じられてしまのですが、美味しそうな料理を始めとする日常生活描写が地味なプロットを退屈の手前で留めているのはこの作者らしいです。 |
No.921 | 5点 | 焦げた密室- 西村京太郎 | 2015/12/29 18:40 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) トラベル・ミステリーの量産作家として大成功した西村京太郎(1930年生まれ)の長編第1作は社会派推理小説の「四つの終止符」(1964年)(私は未読です)ですが、本書はそれよりも前の、懸賞小説に応募しては失敗していた時代の1962年に書かれたそうです。奇跡的に原稿が発見されて2001年に出版されて陽の目を見ましたが、何と本書はユーモア本格派推理小説です。「四つの終止符」が出版されて本書がボツになったのも社会派推理小説全盛の時代の流れだったのでしょうか。ユーモアに関しては不器用な印象を受けますが謎解きはしっかり考えられています(とはいえ犯人当てとしてはちょっと不満もあります)。出版にあたって改訂されたそうですが、古典ミステリーの露骨なネタバレは削除してほしかったですね。 |
No.920 | 5点 | キリオン・スレイの敗北と逆襲- 都筑道夫 | 2015/12/29 18:15 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) これまで3つの短編集で活躍してきたキリオン・スレイの最後の作品にして唯一の長編作品である、1983年発表の本格派推理小説です。相変わらずキリオンは変な日本語で話の腰を折っていますが、短編作品だとあまり気にならなかったのですが本書ではややしつこいような気もします。長編ならではでしょうか、見立て連続殺人を扱っていますが結構死人が出る割には登場人物たちが淡々としていて何とも不思議な雰囲気の作品です。犯人当て推理としては動機が後づけ気味になっているなど少々問題点ありですが、短編集では飄々としていたキリオンが本書では喜怒哀楽を表に出しているのが印象的でした。 |
No.919 | 6点 | 「不要」の刻印- 本岡類 | 2015/12/29 17:54 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2001年発表の水無瀬翔シリーズ第4作の本格派推理小説です。「意外性、派手さ、論理性などが過度なほどに重視される新本格ミステリーに疲れを感じている」読者向けと作者がコメントしているように、誘拐を扱いながらもサスペンスは控え目だし、中盤では「重量物に潰されて圧死」という珍しい謎が登場しますが「飛び鐘伝説殺人事件」(1986年)と比べると演出は随分と抑制されています。作者は「テーマからプロット、トリックまで全てが上手くいきました」と相当な自信をもって送り出していますが、本格派推理小説としては本書が最後と思われ、小説家としても非ミステリーの「愛の挨拶」(2007年)を最後に断筆して、再び小説作品が発表されるまで2023年まで待たなくてはなりませんでした。 |
No.918 | 4点 | デス・コレクターズ- ジャック・カーリイ | 2015/12/28 22:19 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 米国のジャック・カーリイはジェフリー・ディーヴァーの後継者のように紹介されていたし、デビュー作のカーソン・ライダーシリーズ第1作である「百番目の男」(2004年)(私は未読です)もサイコスリラーと警察小説のジャンルミックスらしかったので本格派推理小説ばかり偏愛している私には関心外の作家だったのですが、2005年発表のカーソン・ライダーシリーズ第2作は本格ミステリとして評価、それも傑作として評価されているようなので読んでみました。文春文庫版の登場人物リストには3人もの「連続殺人犯」が載っていますが既に1人は死亡、2人は拘束されていて、本書で起きた連続殺人の犯人は終盤まで素性を隠しています。巻末解説では周到な伏線のことを誉めていますが、犯人が緻密に計画していることは丁寧に説明してはいても犯人を特定する手がかりについては説明不十分です。正体を現した犯人の異常な本性の描写など読ませどころはたっぷりあるのですが、私が期待していた「本格」とは異なる作品でした。これは私の読み方がいけなかったようです。 |
No.917 | 7点 | ミス・エリオット事件- バロネス・オルツィ | 2015/12/27 06:19 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) バロネス・オルツィ(1865-1947)はハンガリーの貴族出身ですが使用人の暴動によって一家は祖国を離れて英国に帰化したという数奇な経歴の持ち主です。なおバロネスは名前ではなく「男爵夫人」または「女男爵」という肩書きのことで、オルツィの場合は夫が民間出身者なので女男爵と訳すのが正しいです。英国では歴史小説家として名高く、特に「紅はこべ」(1905年)は後に映画化もされ次々に続編が書かれたほどヒットしました。日本では隅の老人シリーズを書いたミステリー作家として有名で、何度も日本独自の短編集が出版されていますが作品社版は3つの短編集全てと単行本未収録だった「グラスゴーの謎」(1901年)のシリーズ全38作を収めたまさに完全全集版です。値段は短編集3冊分どころか6冊分ぐらいしてしまうのですが(笑)、資料的価値は非常に高いです。第一短編集である「ミス・エリオット事件」(1905年)は第二短編集である「隅の老人」(1909年)に収められた1901年から1902年の作品よりも後年の、1904年から1905年にかけて発表された12作が収められています。「隅の老人」の作品と比べると若干ながら登場人物が増えてプロットも複雑になり謎解き小説としての進化が確実に見られます。「<ノヴェルティ劇場>事件」で4人の容疑者から犯人当て推理を試みているのはその一例です。「トレマーン事件」や「<バーンスデール>屋敷の悲劇」もお勧めです。 |
No.916 | 6点 | 悪夢の優勝カップ- アーロン&シャーロット・エルキンズ | 2015/12/27 05:45 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1995年発表のリー・オフステッドシリーズ第2作です。前作と比べるとミステリーとしての面白さは格段に向上しており、凄いトリックではないものの雷による感電死のような殺人という謎が非常に珍しいです。リーの探偵ぶりも進歩しており、警察をリードして謎解きしているわけではありませんがとっさの閃きで犯人を指摘する場面は鮮やかな印象を残します。ゴルフ場面やロマンス場面もほどほどに楽しめました。この「ほどほどに」というのが個人的には重要でして、ミステリーを押しのけてはいないのがいいですね。 |
No.915 | 5点 | 木曜日ラビは外出した- ハリイ・ケメルマン | 2015/12/27 05:34 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1978年発表のラビ・スモールシリーズ第7作の本格派推理小説で、これで曜日をタイトルに使った作品は勢ぞろいです。なお本書以降もケメルマンはタイトルに「Day」を使ったシリーズ作品をさらに4作書き上げました。「金曜日ラビは寝坊した」(1964年)と同じく、謎解き伏線が見え見えで人物関係が複雑な割には犯人が当てやすい作品だと思います(私が当てられたかは内緒)。 |