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[ サスペンス ]
最後の人
樹下太郎 出版月: 1959年01月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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東都書房
1959年01月

東都書房
1961年01月

No.2 6点 2019/04/07 04:25
 恋人との幸福な時間を満喫する十九歳の少女・入船なぎさ。だが三月十三日の夜、突然それは起こった。二人がつと離れた合間に、なぎさが酒に酔った三人の大学生たちに暴行されたのだ。無力感と憤りに震える恋人は、幸運にも帰りの終電車で学生のひとりを確認する。数日後恋人の持つ黒い手帖には、三人の名が記されていた。
 佐川喜四夫。大城朝人。柏猛。
 そして一年経った。夜通しつめたい雨が降りつづいた翌朝、自宅のかれの部屋で、大城はガス中毒による変死体として発見された。三月十四日の朝に。彼が死んだのはその前夜、三月十三日の晩のことと思われた・・・
 1959年発表の処女長編。東都書房の現代長篇推理小説全集で読了。なぎさを暴行した三人の男たちが一年ごと、三月十三日に次々と事故死してゆき、残された加害者たちは見えない〈誰か〉の影に怯えます。
 叙述トリックやレッドへリングによるミスリードはあるものの、唯一の手がかりは第一の事件から読者にはっきりとわかる形で示されており、真相に思い至るのはさほど難しくはないでしょう。
 それよりも復讐を望みまたそれを怖れ、打算を繰り返しながらも自分なりの幸福を捜し求めようとする、登場人物たちの行動が齎す悲喜劇が作者の真骨頂。むしろ真相が判明してからのラスト数ページでの心理の二転三転が、この作品の読み所かもしれません。
 時代は移り変わっても人間の心理はそう変化するものではないだけに、己の持ち味を最大限に生かしたこの作者の特徴は、一作目のこの作品からすでに現れています。あっさりめですがなかなか良質のサスペンスです。

No.1 5点 nukkam 2016/01/23 10:12
(ネタバレなしです) 樹下太郎(きのしたたろう)(1921-2000)はミステリー作家としてデビューしましたがミステリーを書いたのはわずか5年ほどで、サラリーマン小説家としての活躍で有名です。1959年に発表された本書が長編ミステリー第1作にあたります。登場人物たちの心理を丁寧に描写したサスペンス小説としてなかなかよくできた作品だと思います。社会常識や価値観は時代と共に変化するところもありますけど、人間の感情の本質は今も昔も同じ、現代の読者が読んでもそれほど古臭さを感じないと思います。3月23日に卒業を控えた大学生3人による女性暴行事件が起き(官能描写はほとんどありません)、その1年後の3月23日に彼らの1人が変死体となる事件を扱い、犯人当ての興味を最後まで維持していますがたった一つの手掛かりに基づく一発推理勝負に近いので本格派推理小説としての謎解きはおまけ程度と思った方がよいです。


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樹下太郎
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