皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ サスペンス ] 銀と青銅の差 |
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| 樹下太郎 | 出版月: 1961年01月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
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画像がありません。 光風社 1961年01月 |
![]() 東都書房 1961年01月 |
![]() 角川書店 1962年01月 |
![]() ノーブランド品 1977年01月 |
![]() 文藝春秋 1984年06月 |
| No.2 | 7点 | 斎藤警部 | 2026/06/12 00:18 |
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| 「課長らしい貫禄がついてからにしようと思ってね」
オープニングの衝撃で一気に引きずり込まれた。 出世を望むが意に反し降格させられた男と、出世 ‘しない’ ことを望むが意に反し昇格させられそうな男。 同期で同じ部署に配属された二人は、性格や価値観こそまるで正反対なものの、ウマが合う。 そんな二人がホニャホニャやる昭和中期サラリーメンのトラジコメディかと最初は見えたが、そんな筆の戯れで済まされる筈がない。 何しろ、プロローグでいきなり二人もの人間が死んでいるのだ。 “決して恐ろしいことではない。 ちょっとした決意と勇気がいるだけのことだ。” 前述した同期の二人は、ある目的に向かって共闘するに至る。 彼らにはそれぞれ、妻と恋人がいる。 一方では悪役を引き受けた形の専務と、その高慢ちきな愛人がいる。 上記の都合六人を中心に、それぞれが社内外で置かれたサスペンスフルな立場の収束先は、冒頭に示された二つの屍体によって、そのミステリ的方向性が担保されている。 “応接室のドアをあけると、タイプライターの音が潮騒のようにきこえてきた” ↑ いいねえ、この昭和のオフィス描写 .. 一種のセミ叙述トリックめいた、意外な近過去に中過去の様々なイキサツ .. いや、こいつはやはり鮮やかな叙述ギミックの成功、並びに構成の妙というべきであろう。 現代なら、いかにもイヤミスでございと最後でやっと明かされがちな類の真相暴露かも知れない。 この前のめりの(?)フェアプレイがスリルを減速どころか加速させているのだからたまらない。 「あんたをやっつけるためにはそれが一番いい方法だってことに気がついた」 「専務から与えられた侮辱へのお返しとしては、ほかに方法がなさそうですからね」 一見素朴過ぎるようで、どっこい斬新大胆不敵な殺人トリックの発露。 そして適度に込み入った、死への道筋。 こりゃあ効いた! “バッジ” 出生の機微もしっかりと語られた。 たしかに、銅(青銅)、銀と来て、肝腎の(?)金が無いってえのは、何気な違和感があったね。 最後のカタストロフィでササヤカな唐突感が忍び込んだ感が無くもなく、そこに本作を無理にでも本格ミステリに仕立てようとした作者の心が透けて見えもしたが、だがこのシーンの重大さ、劇的さ、ミステリとしての大見得切りっぷりの前には何の障害にもなりゃしねえと思う。 エピローグ、ラストサブ章、ラストシークエンス、最後の台詞、ラストセンテンス、どれもこれも、知的興味を纏ったにこやかさで迫り来る素晴らしさだ。 興味を惹きつつスッキリした構成で瞬殺的に読ませながらも、最後は謎めいた深みを工夫たっぷりと心に沁みさせる、そんな素敵な小説でありました。 現代の視点で見ると相当なコンプライアンスをぶっ飛ばせ大会で盛り上がっているような台詞や地の文も目立ちます。 けしからんことですが、何とかミステリ的に許していただけないものでしょうか。 「全くだな。 ほんとにあの頃が恋しい」 |
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| No.1 | 6点 | 雪 | 2019/04/17 13:41 |
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| 順調に拡大を続ける電気製品メーカー楡製作所。現在の従業員数は二千名を越えるが、従業員数が五百名近くになったとき、会社はバッジを作り全従業員に手渡す。だが、バッジには二種類あった。銀バッジと青銅バッジ。課長以上しかつけられない銀バッジに、全社員はあこがれを抱いていた。
臨時工員あがりの社員尾田竜平は、発送部から事務方、さらに社員に昇格し、一念発起した結果仕入課長代理として待望の銀バッジを手にする。だがそれはつかの間の夢に過ぎなかった。十一ヵ月後、彼は営業課に左遷され再び平社員、青銅バッジに降格されたのだ。しかも、寿退社した女子職員の代理として。さらに降格と同時に、かれの部下が課長代理に昇進するというおまけつきだった。 楡製作所初の銀バッジから青銅バッジへの格下げ。あてつけのような左遷に憤懣を抱える尾田だったが「ばかになりきれ!」と自分に言い聞かせ、慣れない仕事にサボタージュを繰り返しつつ堪え続ける。 そして三年後。待遇は変わらぬものの係長となった尾田にも部下が出来ていた。その一人、工場勤務に移された女子社員島木むつ江から彼は驚愕の事実を聞かされる。社長の右腕たる人事担当専務・進士文明のかくれもない愛人で、同じく女子社員の深井基代。彼女の差し金で、むつ江も尾田も降格させられてしまったというのだ。尾田の怒りは彼の忍耐を越えた。 一方同期入社の親友大江もまた、進士専務に生き甲斐である絵画の道を閉ざされ、その代わりに望みもしない銀バッジと課長昇進を押し付けられようとしていた。二人が抱く憎しみは高まり続け、やがて専務への殺意となってゆく・・・ 1961年発表の第6長編。以前取り上げた「目撃者なし」の前作で、一般に樹下の代表作と思われるもの。 プロローグで無理心中と思われる男女二人の死体が折り重なって発見され、玄関はもちろん全ての出口には厳重に鍵がかけられている。女性は絞殺されており妊娠三ヵ月。家屋はガスが充満しており、庭には例の銀バッジが。 二人の名前は最後まで伏せられており、殺されたのは果たして誰か、果たして自殺か他殺か? これ一本で引っ張っていく小説。全三章、各三組のカップルが選ばれ、合間には思うに任せぬサラリーマン社会の鬱屈がネチネチと描写されます。 ただ、安易に競争社会を糾弾する社会派にならないのが樹下の良いところ。いかにもアレ系の題材ですがそちらには向かわず、「どの社会にでもある人間同士の行き違い」で登場人物たちを動かしていく。これが今読んでも新鮮さを失わない理由でしょう。 二種類のバッジの由来も社員管理などではなく「バッジ屋が頼みもしないのに試作品をふた種類持ってきた」「銀台を捨てちゃうのも惜しいよね」というしょうもないもの。進士専務も悪人などではなく、尾田の左遷もただの偶然。本来なら笑い話で済む所が、女の浅知恵が絡んでどんどんイヤな方向に転がっていきます。 一章二章の尾田と大江の懊悩はかなり深刻で、このあたりはサラリーマン小説としても秀逸ですがなにぶん重い。その分ミステリとして軽く皮肉に纏めた感じですね。7点に限りなく近い6.5点といった所ですが佳作の多い作家ですので、これを最高作と言い切ってしまうのは躊躇われます。 |
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