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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.954 5点 殺人協奏曲ホ短調- 由良三郎 2016/01/10 02:57
(ネタバレなしです) 1985年発表の長編第3作で結城鉄平シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「運命交響曲殺人事件」(1984年)と同じようにクラシック音楽を連想させるタイトルが付いていますが、本書ではクラシック音楽とは別ジャンルの音楽がプロットに絡んでいます。それ以上に印象的だったのは医学博士である作者ならではのトリックです。このトリックにしろ音楽知識にしろ一般的な読者には敷居が高いのですが、説明は非常に丁寧でわかりやすいです。謎解きのどんでん返しも効果的です。

No.953 4点 数奇にして模型- 森博嗣 2016/01/10 02:47
(ネタバレなしです) 1998年発表のS&Mシリーズ第9作で講談社文庫版で700ページを超す大作の本格派推理小説です。その巻末解説で森博嗣が1970年代後半に漫画同人誌の編集と、「森むく」というネームで漫画を描いていたことを初めて知りました。本書の舞台背景にはその当時の経験が活かされているそうです(模型とかコスプレとか)。謎解きに関しては不満点が多く、特に動機は異常過ぎて納得できません。その分犯人の異常性描写はなかなかの迫力ですが。萌絵の遠縁にあたる犬御坊安朋の個性も強烈で(読者受けするかは微妙な気もしますけど)、作者が一番力を入れているのは人物描写なのかもしれません。

No.952 7点 戦艦金剛- 蒼社廉三 2016/01/09 22:46
(ネタバレなしです) 何の予備知識もなければ1967年発表の本書のタイトルからミステリーを期待する読者は少ないでしょう。しかし1942年3月から1944年11月までの第二次世界大戦中の時代を背景に戦艦金剛の砲塔内で起こった殺人事件の謎解きに取り組んだ個性的な本格派推理小説です。軍人精神、反戦活動、そして戦闘場面などの描写にも力が入っており、ミステリーと戦記小説の(非常に珍しい)ジャンルミックスとして成功しています。やはり戦時下の事件を扱った梶龍雄の「透明な季節」(1977年)は戦争の激化描写がややもすると謎解き興味を減退させてしまったのですが本書ではぎりぎりの線でミステリーとして踏みとどまり、終盤の極限状態の中で追い詰められた探偵役(容疑者の1人でもありました)が犯人の正体に気がつく場面の何とスリリングなことでしょう。

No.951 5点 球魂の蹉趺―高校野球殺人事件- 左右田謙 2016/01/09 22:18
(ネタバレなしです) 「高校野球殺人事件」の副題を持つ1985年発表の本格派推理小説です。殺人事件は中盤近くまで発生しませんが、洗練された文章で読みやすく退屈はしません。しかしこれはというインパクトもなく、読後に残るものがありません。入学を巡る駆け引き、校内恋愛、校内暴力、賭博、そして高校野球など色々な要素を器用に織り込んでいますが物語としてのメリハリがなく平明に過ぎた感があります。探偵役の考えていることを読者に対してオープンにしているのはフェアでありますが、そのため真相が早々と予想がつきやすくなっているのも評価が分かれそうです。

No.950 4点 吸血鬼と精神分析- 笠井潔 2016/01/08 10:10
(ネタバレなしです) 「オイディプス症候群」(2002年)以来となる2011年発表の矢吹駆シリーズ第6作の本格派推理小説で光文社文庫版で上下巻合わせて1000ページに達する大作です。タイトルにも使われている精神分析、そして宗教に関する知識の説明がとてつもなく多くて読んでて疲れました。それは謎解きとも有機的に関連するのですが、私には専門的過ぎて十分に理解できませんでした。

No.949 5点 赤いランドセル- 斎藤澪 2016/01/07 20:24
(ネタバレなしです) 1982年発表の長編第2作で、ゴトゴトと動き続けるコインランドリーの乾燥機の中から幼女の死体が発見されるという事件を扱っていますが残虐性や異常性はそれほど強調されていませんし、恐さもそれほど感じませんでした。探偵役であるフリー・ライターの浅見恭介が第2章で「各自が自分の世界に沈んでいる」とコメントしているように、事件が登場人物たちの心に落とした影の描写に作品の特色があります。サスペンス小説としては地味で、本格派推理小説としては最後に明らかになる真相を読者が推理する手掛かりが十分ではなく、謎解きのスリルよりも悲劇性の描写で勝負した作品と言えそうです。

No.948 7点 北アルプス殺人組曲- 長井彬 2016/01/06 19:33
(ネタバレなしです) 社会派推理小説と本格派推理小説のジャンルミックス型の作品を3作書き上げた長井は1983年発表の本書(長編第4作)でより本格派寄りに舵を切りました(本格派好きの私としては大歓迎です)。登場人物が少なく犯人の意外性で勝負しているミステリーではありませんが、それはさほど問題ではありません。第5章で羅列された9つの謎、アリバイ崩しに密室と充実の謎解きが楽しめます。アマチュア探偵(容疑者でもあります)の使い方も上手く、適度なタイミングで捜査が暗礁に乗り上げたり何者かに襲撃されたりとプロットに起伏があります。トリックも豊富で、ガス中毒未遂事件のようにそんな単純な方法でできるのか疑わしいのもありますけど、意外と手の込んだトリックが使われています。一番釈然としなかったのはあんな簡単に(トリック的に)結婚が成立してしまうこと。本当に可能だったらある意味恐い(笑)。

No.947 6点 生きている痕跡- ハーバート・ブリーン 2016/01/06 18:51
(ネタバレなしです) ブリーンは「時計は十三を打つ」(1952年)でレイモンド・フレイムシリーズを打ち切り、その後警察小説の「真実の問題」(1956年)を書いたきりでしたがそれから久しぶりの1960年に発表したのが雑誌記者のウィリアム・ディーコンを主人公にした本書です(シリーズ作品としては次の「メリリーの痕跡」(1966年)で終了してしまいますが)。死んでいるはずの人間が生きている?とか、生きているはずの人間が死んでいる?という謎で読者を煙に巻くのが上手い作家となると私はクレイグ・ライスを連想するのですが、ライスほど派手などたばたではないものの本書のツイストの利いたプロット、都会風な洗練さを感じさせる描写、さりげないユーモアはライス好きな読者なら気に入りそうな本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版が半世紀以上前の古い翻訳なので新訳版の登場を望みます。

No.946 5点 伯母の死- C・H・B・キッチン 2016/01/06 18:25
(ネタバレなしです) イギリスのC・H・B・キッチン(1895-1967)は裕福な家庭出身の上に証券取引などで財産を増やしたおかげでかなり悠々自適な生活をおくったという、何ともうらやましい境遇の作家です。作品数が長編5冊と短編集1冊のみといっても本人にとっては余技程度だったのかもしれません。1929年発表の本書はマルコム・ウォレンシリーズ第1作の本格派推理小説で、「30年後の本格探偵小説のたどりつく姿を示した作品」と極めて高く評価されているようですが、残念ながら私の知能水準では本書の何が時代を先取りしているのか理解できませんでした。主人公のマルコムの1人称形式、しかもマルコムが探偵役であり容疑者でもあるという設定は確かにユニークで、それ以上に珍しさを感じたのがイラスト付きの家系図です。しかし人物描写もストーリー展開も非常に地味です(13章でのマルコムの突拍子もない言動には驚きましたが)。マルコムも色々と推理はしているのですがどこか迷走気味で、解決も唐突感があります。せっかくの家系図も容疑者となる者がほんの一握りでは十分に活用されたとは言えないでしょう。

No.945 5点 護りと裏切り- アン・ペリー 2016/01/06 13:31
(ネタバレなしです) 1992年発表のウィリアム・モンクシリーズ第3作で、創元推理文庫版で上下巻合わせて700ページを超す大作です。モンク、ヘスターに加えて弁護士のオリヴァー・ラスボーンも腕の見せところが多く、3人のチームプレーで解決したと言っていいでしょう。早々と犯行を認めた容疑者をどうやって無罪放免するかというのがメインプロットです。古い時代のミステリーだと真犯人探しになるのが通例ですが、一応その可能性も検討はするものの真の動機は何かを調べることにページの大半を費やしています。しかしそれも中盤あたりでおおよその真相が読者に知らされ、法廷でその真相をいかにして証明するかが後半の山場となります。人間ドラマとしては非常に充実(不快な要素を含むドラマですがよくできていることに間違いなし)していますが、推理要素がほとんどないのが個人的には残念でした。

No.944 6点 毒のたわむれ- ジョン・ディクスン・カー 2016/01/06 13:02
(ネタバレなしです) 1932年発表の長編第5作である本書はバンコランシリーズのワトソン役であるジェフ・マールは登場しますがバンコランは登場せず、パット・ロシターという青年が探偵役です。ロシターは本書のみの登場で、そのためかフェル博士シリーズ第1作である「魔女の隠れ家」(1933年)へのつなぎ的な作品のように位置づけられていますが本書は本書でなかなか個性的です。舞台をクエイル邸に限定し、登場人物もほとんどがクエイル家ゆかりの者に限定してクローズド・サークル的な世界でじわじわと緊迫感を盛り上げているのはカーとしては珍しいです(邸の見取図があればもっとよかった)。謎解き手掛かりやミスディレクションに気を配っており、本格派推理小説として十分に水準をクリアしています。ユーモア要素はほとんどありませんが最後に意外な「笑い」の理由が説明され、なぜタイトルに「たわむれ」を使っているのかが納得できました。

No.943 5点 万引女の靴- E・S・ガードナー 2016/01/06 12:29
(ネタバレなしです) 1938年発表のペリイ・メイスンシリーズ第16作です。1930年代の作品に力作の多いガードナーですが、本書も一癖も二癖もありそうな人物がずらりと登場する上にプロットが予想外の展開を見せて読ませどころ満載です。メイスンに敵意むき出しのホルコム部長刑事の駄目っぷりも効果的です。しかしハッピーエンド狙いのためか強引で魅力に乏しい真相になってしまい、検察だけでなく読者まではぐらかされた感が残るのが惜しいです。あと物語とは関係ありませんが、序盤で秘書のデラの体重を暴露してますけどいいのかなあ。

No.942 6点 養鶏場の殺人/火口箱- ミネット・ウォルターズ 2016/01/01 08:57
(ネタバレなしです) 2つの中編を収めて2013年に出版された中編集で、ウォルターズ入門として好適と評されていますがなるほどと納得しました。2006年発表の「養鶏場の殺人」は1920年冬に出会った男女が恋仲になり、しかし4年後に女性が謎の死を遂げるという実際に起こった事件を題材にしたもので、味気ないノンフィクション小説だろうと思ったらいい意味で裏切られました。2人の主人公の心理を丁寧に描写し、悲劇的破局に向かってじわじわとスリルが盛り上がり、大変読みやすいサスペンス小説でした(最後の4ページだけ作者による犯罪ドキュメントタッチになっていますが)。1999年発表の「火口箱」は本格派推理小説です。登場人物も多く、社会問題まで提起している上に結末の意外性もねらった感があって長編並みに濃厚な内容の作品。しかし何度も過去と現在を入れ替えているプロットはさすがに技巧に走り過ぎで、無用に読みにくくしたとしか思えません。もっとも読解力のない私がそう思っているだけのようで、世間一般の評価はおおむね好評です。

No.941 5点 今宵は浮かれて- アリサ・クレイグ 2016/01/01 08:33
(ネタバレなしです) 1991年発表のマドック&ジェネットシリーズ第2作で、マクラウド名義の「にぎやかな眠り」(1978年)や「消えた鱈」(1984年)と同様クリスマスの雰囲気豊かなコージー派の本格派推理小説です。個性豊かな登場人物と地道なアリバイ崩しというちょっと不思議な組み合わせのプロットで、意外にトリッキーな作品でした。かなり強引なトリックではありますが。

No.940 6点 妖かし蔵殺人事件- 皆川博子 2016/01/01 08:25
(ネタバレなしです) 1986年発表の本書は芝居の世界で起きた事件を扱っていますので、同じ作者の「旅芝居殺人事件」(1984年)と比較するのも一興でしょう。作者の特徴である幻想性は後退していますが、本格派推理小説としての謎解きは本書の方が充実しているように思います。不可能犯罪を巡っての推理議論が謎解きを盛り上げます。人間消失トリックは一般読者にはちょっとなじみにくそうですが作品世界を活かしたものです。単なる謎解きに留まらず人間ドラマとしてもよくできていて、最後のモノローグの悲哀を含んだ余韻が何とも言えません。プロットも人間関係も大変複雑ですので登場人物リストを作成しながら読んだ方がいいと思います。

No.939 7点 黒潮の偽証- 高橋泰邦 2016/01/01 08:04
(ネタバレなしです) 高橋泰邦(1925-2015)は翻訳家の活動の方に力を入れていたようですが、海洋小説の書き手としても評価は高いです。作品数が少ないにも関わらず冒険小説、サスペンス小説、果てはSFからノンフィクション・ノヴェルと作風が幅広いのも特徴です。本書は長編第4作で海事補佐人(海難審判の弁護人のようです)の大滝辰二郎シリーズ第3作です。過去のシリーズ2作(私は未読です)がサスペンス小説系だったのに対して本書は本格派推理小説です。それもそのはず、1963年に東都ミステリー版で発表された際には犯人名と重要な手掛かりを読者に当てさせる懸賞小説だったのです。当然ながらこれから読む人には解決まで整理されている光文社文庫版を勧めます。懸賞小説だっただけに読者に対するフェアプレーを意識しており、物的手掛かりが少ないながらも細部まで丁寧に謎解きしています。海図や船の見取図まで添付されていて上質な海洋ミステリーを読んだ手応えがありました。

No.938 5点 天城一の密室犯罪学教程- 天城一 2016/01/01 07:45
(ネタバレなしです) 3つのPARTで構成された2004年発表の短編集で、PART1は8つのショート・ショートと2つの短編を収めた「実践編」、PART2は先人やPART1の作品を引用しながら密室を9つのタイプに分類した評論の「理論編」、そしてPART3は初期の名探偵・麻耶正シリーズの全作品10作が収まっています(PART1にも1作あるので厳密にはシリーズ全11作)。もともとはPART2の前身である評論「密室作法」(1986年)があり、そこにPART1が追加されて「密室犯罪学教程」(1991年)として私家版が出版されています。誰でも入手しやすい商業出版された本に追加されたPART3は本来は「教程」と関係がなくおまけのようなものですが、麻耶正シリーズが全部読めるようになったのは歓迎です。ただこの短編集、これから推理小説家を目指す人やマニアなど限られた読者向けかなと思います。「無駄を削ぎ落とした作品」と好意的に評価する人もいますが、個人的にはどんな事件が起きたのかさえも説明不足の作品が多くて非常に読みにくく、トリックも(悪い意味で)唖然とさせらます。PART2では自作のみならず、ルルー、ルブラン、カーなど多くの作品の(トリックだけでなく時には犯人名まで)ネタバレしているのでビギナー読者には到底勧められません。

No.937 5点 十二人の抹殺者- 輪堂寺耀 2015/12/31 10:21
(ネタバレなしです) 1960年発表の江良利久一シリーズの本格派推理小説で、1952年に雑誌連載されながら中絶してしまった「狼家の恐怖」を改訂完成させたものだそうです。1960年といえば本格派推理小説の人気は下降線を描き、社会派推理小説が肩で風を切っていた時代だと思いますが時代の潮流に器用に迎合することができなかったのでしょうね。殺人予告状に連続殺人事件(犠牲者の数が半端ないです)、密室に足跡のない殺人、アリバイ崩しにどんでん返しと本格派以外の何物でもない世界が広がります。トリックに見るべき物がないとか事情聴取が丁寧すぎて物語のテンポがやや重いとかなどの弱点はありますが、輪堂寺耀(りんどうじよう)(1917-1992)の代表作と評価されるのも納得の力作ではあります。しかし自分の作風が(当時の)読者が求めている物ではないことを悟ったのでしょうか、本書以降は作品を発表することはありませんでした。

No.936 5点 虹の視覚- 鷲尾三郎 2015/12/31 10:05
(ネタバレなしです) 1963年発表の三木要シリーズの本格派推理小説で、結婚式の当日に花嫁がホテルの花嫁休憩室で殺される事件を扱っています。青樹社版で150ページ程度と分量は多くなく、ストーリーもシンプルで大変読みやすい作品ですが特徴となると動機をちょっとひねってあるぐらい(それも万人受けしにくい動機)。シンプルなのは必ずしも弱点だとは思いませんが、それにしてももう少し作品個性が欲しかったですね。

No.935 5点 消えた相続人- 山村美紗 2015/12/31 09:54
(ネタバレなしです) 1982年発表のキャサリン・ターナーシリーズ第4作でシリーズ最大の異色作です。誘拐サスペンスの体裁をとり、いかにして人質を救出するかがメインプロットになっています。人質救出のためのキャサリンのアイデアが大変独創的で、そこからの展開もサスペンス豊かです。とはいえこの作者は本質的に本格派推理小説家で、終盤にはどんでん返しの謎解きがありますが個人的には苦しい後づけに感じました。本格派好きの私から見ても本書は最後まで誘拐サスペンスを貫いた方がよかったように思います。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
ローラ・チャイルズ(24)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)