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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1465 4点 ハルイン修道士の告白- エリス・ピーターズ 2016/07/18 19:04
(ネタバレなしです) 時は1142年12月、事故で重傷を負って死を覚悟したハルイン修道士がラドルファス院長とカドフェルにかつて人を死に追いやった罪を語り始めることから物語が始まる、1988年発表の修道士カドフェルシリーズ第15作です。このシリーズは単なる謎解き小説ではなく人間ドラマとして読ませることにも力を入れていますが本書の場合は特にその傾向が強く、前半は完全に非ミステリー作品のプロットになっています。後半になるとようやくミステリーらしくなってきますがこの締めくくり方ではミステリーとしては不満を覚える読者も多いのではないでしょうか(だから私は厳しい採点にします)。しかしある登場人物が言うように「神のお導きにより」としか思えないような展開が充実の読み応えを感じさせる人間ドラマを成立させています。

No.1464 7点 名門校 殺人のルール- エリザベス・ジョージ 2016/07/18 18:43
(ネタバレなしです) 全寮制の名門校から新入生が1人行方不明になったことに端を発する1990年発表のリンリー警部シリーズ第3作です。これはどう転んでも「痛々しい」結末しかありえないだろうという雰囲気が前半から漂っています。私は身構えて読んでしまったので結末の衝撃という点では「大いなる救い」(1988年)には一歩譲るように感じましたが本書も相当なものです。重厚さと読みやすさが両立するストーリー展開が見事だし、犯人探しの謎解きもきちんとやっています。サイドストーリーも本筋を邪魔しない範囲内で充実しており、特にハヴァーズ部長刑事は「逆境に負けるな」と応援したくなります。ドラマとして出来過ぎていて、これから子供を寮や寄宿舎に預けようかと検討している親にはちょっと勧めにくいかも。

No.1463 6点 爬虫類館の殺人- カーター・ディクスン 2016/07/18 18:33
(ネタバレなしです) 1944年発表のH・M卿シリーズ第15作は単に施錠されているだけでなくドアや窓の隙間に目張りまでされているという、とんでもない密室の謎が提供される本格派推理小説です。この謎についてはクレイトン・ロースンとアイデア競争があったという裏話があり、ロースンは短編「この世の外から」で謎解きしてますので本書と比較するのも一興でしょう(両者にトリックの共通点はほとんどありません)。戦時色濃厚な作品ですが単なる雰囲気づくりだけでなくプロットに活かしているところも巧妙です。完全に余談ですがプロットに若い男女のロマンス描写を織り込むのも恒例ではあるのですが本書の場合は冒頭の出会いの場面の印象が(個人的に)悪く、ロマンスを応援する気になれませんでした。これまた余談ですがH・M卿が犯人に仕掛けた罠の危険性を別の人物が危険ではないと説明していますがアレ(ネタバレ防止のため不詳)が氷のようにツルツルならという条件で成立する指摘であり、今回の条件では多分成立しない(つまり危険)と思いました。

No.1462 5点 百万に一つの偶然 - ロイ・ヴィカーズ 2016/07/18 03:26
(ネタバレなしです) 短編倒叙推理小説の書き手としてはおそらくフリーマン、クロフツと並ぶ存在のヴィカーズですが、この迷宮課シリーズの大きな特色は犯人の失敗というよりも偶然の要素が解決につながることが多いところでしょう。9作を収めて1950年に出版されたシリーズ第2短編集である本書に収められている「百万に一つの偶然」はその典型で、決め手としては完全ではありませんがこの手掛かりは実に印象的です(私は何かのネタバレで読む前に知っていてあまり驚けなかったのが残念)。「ワニ革の化粧ケース」は手掛かりに基づく推理が丁寧なところに好感を持てます。中には何で殺人に至ったのかよくわからないプロットの作品もありますが「相場に賭ける男」や「9ポンドの殺人」などは犯人と被害者の関係をきっちり描いて物語としても十分に読ませます。余談ですがこの短編集、英語原題が「Murder Will Out」ということわざでした(興味ある方は英語辞書を参照下さい)。

No.1461 5点 アパルトマンから消えた死体- キャサリン・ホール・ペイジ 2016/07/18 00:43
(ネタバレなしです) 1992年発表のフェイス・フェアチャイルドシリーズ第4作はフランスを舞台にしています。本書でのフェイスはこれまでの作品に比べると探偵能力が結構上がったようなところがあり、少なくとも中盤までは警察よりも真相に迫っているように感じられました。但し探偵小説らしい展開は物語の3分の2ぐらいまでで、残り3分の1は冒険スリラー小説風に流れていきます。決して後半部の出来が悪いわけではありませんが本格派推理小説好きの私としてはちょっと残念でした。まあこのシリーズは謎解きにそれほど重きを置いていないのが過去3作品を読んでいてわかってはいましたのでそれほど落ち込みもしませんが(笑)。

No.1460 7点 転がるダイス- E・S・ガードナー 2016/07/18 00:30
(ネタバレなしです) 一族のもてあまし者扱いされていたオルデン・リーズは今や大金持ち。その彼が謎の人物宛てに2万ドルの小切手を振り出した。もしもこれが詐欺や脅迫絡みなら、意地悪な親戚がオルデンを禁治産者に仕立てて財産を処理できないようにしかねないという相談をペリイ・メイスンが受けるプロットの1939年発表のペリイ・メイスンシリーズ第19作です。敵対する側は無論ですがオルデン側にも一筋縄ではいかない人物を配するなど複雑な人物模様にメイスンもなかなか大変ですが、しかしそこを見事に切り開くのがやはりメイスンならでは。本格派推理小説としての謎解きも充実しており、なかなか印象的なトリックが使われています。

No.1459 7点 大鴉の啼く冬- アン・クリーヴス 2016/07/18 00:18
(ネタバレなしです) 日本では1980年代に「新本格派」と呼ばれる作家が登場して本格派推理小説の一時代を築き上げましたが、海外でもこの時期はポール・アルテ、エリザベス・ジョージ、ポール・ドハティ、ジル・マゴーン、ジェニファー・ロウなど本格派の実力者が次々にデビューしています。1986年デビューの英国の女性作家アン・クリーヴス(1954年生まれ)もその一人です。2006年発表の本書はCWAの最優秀長編賞を獲得した作品で「シェトランド島四重奏」の第1作となる本格派推理小説です。文章表現は地味で、後半の祭りの場面なんかはもっと賑やかに盛り上げてもいいのではと思わなくもありませんが単調で退屈というわけではなく、しみじみと読者の心に訴える語り口が何とも心地よいです。謎解きプロットもしっかりしていますが小説としても丁寧に作られているので、ミステリーを読まず嫌いの読者にも試しに読んでみたらと勧められるような作品です。

No.1458 5点 月夜のかかしと宝探し- シャロン・フィファー 2016/07/18 00:06
(ネタバレなしです) 2004年発表のジェーン・ウィールシリーズ第4作です。やはりこのシリーズはコージー派ミステリーとしては明るさが楽しさは少ないです。第13章で主人公のジェーンが自己を振り返っているように過剰反応、曲解、自己防衛、そして自信喪失と読者の共感を得にくい描写が少なくないのも一つの理由だと思います。謎解きも論理的な説明でありません。本書の1番の読ませどころはジェーンの昔なじみの老夫婦(容疑者でもあるのですが)の抱える問題描写で、コージー派どころか読んでて辛くなるような重苦しい人間ドラマを生み出しています。

No.1457 5点 ぶち猫 コックリル警部の事件簿- クリスチアナ・ブランド 2016/07/16 01:37
(ネタバレなしです) コックリル警部の事件簿とも言うべき本書はブランドの死後の2002年に発表されており、コックリル警部の人物像を紹介したエッセイやショート・ショートまで幅広く収容されています。三幕構成の戯曲「ぶち猫」がなかなかの力作です(上演されたのかなあ)。第二幕で登場人物の動きに「ここは観客に見えなくていい」とか細かく指定しているのが緻密なブランドらしいですね。コックリルが精彩を欠いているのが物足りませんが第三幕のどんでん返しの連続は圧巻です。ショート・ショートの「アレバイ」も切れ味鮮やかです。残念ながら論創社版は英国オリジナル版から4作品が除外されています。その4作品とは「招かれざる客たちのビュッフェ」(1983年)(創元推理文庫版)に収められたコックリル警部シリーズ4短編で、重複しないよう配慮したのでしょうけど名作中の名作「婚前飛翔」だけでも残すべきではなかったでしょうか。これでは論創社版はマニア読者向けではあってもビギナー読者向けとは言えなくなってしまったように思います。

No.1456 6点 荒野のホームズ、西へ行く- スティーヴ・ホッケンスミス 2016/07/16 01:15
(ネタバレなしです) 2007年発表のアムリングマイヤー兄弟シリーズ第2作はハヤカワポケットブック版の巻末解説の通り、映像化をねらったかのような派手なシーンが満載で特に終盤の盛り上がり方は半端ではありません。推理があっさり過ぎに感じられましたがこれだけ勢いのある展開に押し流されると不思議と不満に感じません。謎解き伏線は再読時に改めて回収することにしましょう(笑)。

No.1455 6点 シャーロック・ホームズのドキュメント- ジューン・トムスン 2016/07/16 01:06
(ネタバレなしです) シャーロック・ホームズが兄マイクロフトの依頼でフランスの暗殺者と対決する「並木通りの暗殺者」、主人の命が危険にさらされていると家政婦が訴える「ウィンブルドンの惨劇」など、ホームズが公表の許可を与えなかった7つの事件記録を収めた第4短編集で1997年に出版されました。失敗談あり(但しホームズは満足しています)、命がけの仕事ありと多彩な作品が読めますがそれでいてドイル原作の雰囲気を壊すことはありません。人情談的要素のある「フェラーズ文書事件」や、犯人逮捕で終わらずホームズが事件の凶悪性を長々と説明しているのが珍しい「ウィンブルドンの惨劇」が印象に残りました。

No.1454 6点 カオスの商人- ジル・チャーチル 2016/07/16 01:02
(ネタバレなしです) 1998年発表のジェーン・ジェフリイシリーズ第10作は家族の触れ合いやご近所との付き合いなどの主婦奮闘ぶりが久しぶりにたっぷりと描かれています。どたばたと混乱の中でも親友シェリイとのアマチュア探偵活動はちゃんとやっています。事件も手掛かりも勝手に向こうからジェーンの方にやって来る展開の上に警察より先行して謎解きしていくのですから、メル・ヴァンダイン刑事が感謝といらだちを同時に顔を出すのもごもっとも(笑)。

No.1453 6点 ポカパック島の黒い鞄- シャーロット・マクラウド 2016/07/16 00:59
(ネタバレなしです) 1989年発表の本書はセーラ・ケリングシリーズの第9作と紹介されることもあるようですがセーラは電話の声のみの出演で完全に脇役です。代わりに「唄う海賊団」(1985年)にも登場した伯母のエマ・ケリングが主人公の番外編的作品です。友人の代わりにコテージ滞在客の世話をする羽目になったエマですが、エキセントリックな客たち相手に臆することもなく仕切っていて十分に主人公ぶりを発揮しています。被害者の登場場面が少なく死後もあまり話題になっていないこともあってミステリーのプロットとしては惹きつける力が弱く、「私は探偵には向いてません」とエマもとまどい気味ですが最後はちゃんと推理して犯人を見抜いていましたね。

No.1452 5点 クッキング・ママの告訴状- ダイアン・デヴィッドソン 2016/07/15 13:08
(ネタバレなしです) 2000年発表のゴルディシリーズ第9作です。事件に巻き込まれた大切な人間をゴルディが救おうとするお決まりのパターンではなくゴルディ自身が有力容疑者で、しかも何者かに何度も狙われるというのがこのシリーズとしては珍しいですね。他人への思い入れが強くて心配性というゴルディのキャラクターが時に濃すぎると感じる人には本書はややあっさり目の描写なのでその分読みやすいかもしれません(とはいえ悪い方悪い方へと考えすぎ気味なのは相変わらずですが)。ゴルディの探偵癖が宣伝されてしまい、容疑者たちから敬遠されているのも見所です。推理は十分といえず真相はまたも場当たり的に解決されてしまうのは前作「クッキング・ママの真犯人」(1998年)と同じです。

No.1451 6点 臆病な共犯者- E・S・ガードナー 2016/07/15 12:26
(ネタバレなしです) ミスディレクションが鮮やかな「日光浴者の日記」(1955)ととんでもない展開に驚かされる「怯えるタイピスト」(1956年)の間にはさまれて1955年に発表されたペリイ・メイスンシリーズ第48作の本書はやや地味な印象を受けますがそれでもそれなりの特色を持っています。アメリカの法廷では夫婦は互いの不利になる証言をしないですむようになっているようで、メイスンシリーズでも「カレンダー・ガール」(1958年)などでそれを巡っての法廷駆け引きが見られますが本書ではあのメイスンがその禁じ手を使おうとしているのが大変珍しいです。その顛末(てんまつ)がどうなるかは読んでのお楽しみです。

No.1450 5点 列車の死- F・W・クロフツ 2016/07/15 12:22
(ネタバレなしです) 1946年発表のフレンチシリーズ第26作で後期の代表作と評価されています。列車とその運行を丁寧に描写しているところは鉄道技師出身の作者ならではの個性が発揮されていてなかなか読ませますがミステリーとしてはそれほど感銘できませんでした。内容は組織対組織の色合いの強いスパイ・スリラーで、フレンチの地道な捜査も描かれているとはいえフーダニットの要素もほとんどありません。あっけにとられるほど「暴力的」解決だったのが珍しいですが、でもこれは私が期待するクロフツとは程遠かったです。

No.1449 6点 女郎ぐも- パトリック・クェンティン 2016/07/15 12:16
(ネタバレなしです) 1952年発表のダルース夫妻シリーズ第8作でシリーズ最終作(トラント警部も登場します)、ウェッブとホイーラーのコンビ作品としても最後の作品らしいです。本書以降のクェンティン作品はホイーラー単独執筆によるサスペンス小説路線になるのですが本書でも本格派推理小説としての謎解きはあるけれどピーター・ダルースの危機また危機の描写の方にに力点を置いており、後年の代表作「二人の妻をもつ男」(1955年)を彷彿させます。もっともピーターの行動は時に思慮を欠いていて身から出た錆ではないかと思いましたけど(笑)。

No.1448 5点 ロンジン・ティーと天使のいる庭- ローラ・チャイルズ 2016/07/15 12:10
(ネタバレなしです) 2007年発表の「お茶と探偵」シリーズ第8作で、18章や終盤ではアクションシーンがやや目立っているもののコージー派の気楽に読める雰囲気は損なわれていません。前ぶれ的な推理もなく犯人の正体が唐突に判明してそこからばたばたと真相が明らかになる展開は謎解き好き読者には不満も多いでしょうが、このシリーズはどの作品も解決パターンが似たり寄ったりなのでそこはあきらめましょう(笑)。

No.1447 5点 一瞬の光- アーロン・エルキンズ 2016/07/14 16:26
(ネタバレなしです) 1991年発表の美術館員クリス・ノーグレンシリーズ第2作です。殺人事件もありますが盗難事件での巻き添えに過ぎません。前作「偽りの名画」(1987年)と同じく手先を使っての(しかも今回はマフィアがらみ)犯罪があるのではせっかく20章でクリスが推理を披露して犯人を指摘していても本格派推理小説としての魅力を落としていると思います。美術好きなら美術及び美術界に関する知識をたっぷり堪能できますし、美術に無関心の読者でもイタリア描写は(料理も美味しそう)楽しめると思います。

No.1446 6点 カウント9- A・A・フェア 2016/07/14 14:50
(ネタバレなしです) 1958年発表のドナルド・ラム&バーサ・クールシリーズ第18作で、ハヤカワポケットブック版の巻末解説で紹介されているように本格派推理小説要素がかなり強い作品です。しかも密室風の謎というのが珍しいです。但し不可能犯罪的な演出は弱いのですが。ハウダニットに重きを置きすぎて犯人当てとしては推理らしい推理もなく解決してしまったようなところがあります。また密室トリックについてもある大事なところが(ネタバレ防止のため詳しく書けませんが)説明されていないような気がします。むしろ前半の盗難品探しに関する切れ味抜群の推理の方が印象的でした。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)