皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.1434 | 5点 | チェリー・チーズケーキが演じている- ジョアン・フルーク | 2016/07/12 19:50 |
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(ネタバレなしです) 2006年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第8作です。冒頭(プロローグ)でいきなり事件が起きていますが第1章からは事件の2週間前にさかのぼって事件に至るまでの過程を描くという、アガサ・クリスティーの「ゼロ時間へ」(1944年)やパット・マガー的な手法を採っています。しかし内容的には益々ややこしいことになっていくハンナのロマンス描写が中心で、ミステリーとしての盛り上がりを欠いた物語が長く続くので少々冗長に感じます。事件がようやく起きてからはハンナとその仲間たちによるおなじみのにぎやか捜査が楽しめますがわかりやすい証言や証拠に巡り合って犯人の正体が場当たり的かつ容易に見当がついてしまうという、推理要素の少ない謎解きは物足りなかったです。 |
No.1433 | 6点 | マダム・タッソーがお待ちかね- ピーター・ラヴゼイ | 2016/07/12 19:43 |
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(ネタバレなしです) 1978年発表の本書はクリッブ部長刑事&サッカレイ巡査シリーズの第8作でシリーズ最終作となった本格派推理小説です(但し本書はサッカレイは登場せずクリッブ単独の物語です)。エラリー・クイーンの「Zの悲劇」(1933年)やウィリアム・アイリッシュの「幻の女」(1942年)のようなタイムリミットが設定されていますがりゅうさんのご講評でも紹介されていますがサスペンスはそれほど強くなく、クリッブの地道な捜査を丁寧に描いてテンポはむしろ遅めです。アガサ・クリスティーの某作品を連想させるトリックが使われていますがトリックそのものよりもクリッブが真相を掴むことによって事件関係者たちが動揺するシーンの方が印象に残る作品でした。 |
No.1432 | 5点 | キルトは楽しい- アリサ・クレイグ | 2016/07/11 01:52 |
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(ネタバレなしです) 1985年発表のディタニー・ヘンビットシリーズ第2作です。このシリーズの面白いところはグラブ&ステークス園芸ローヴィング・クラブの面々の会話や行動だと思います。本書の場合は序盤はなかなか快調ですが中盤からはそれが控えめになり、普通のミステリーになったのがちょっと物足りませんでした。屋根裏部屋の窓から墜落死したかに思えたがその窓は人が通り抜けるには小さすぎたという事件が起こり、フーダニットよりもハウダニットの謎の方に焦点を当てているのが珍しいですが、トリックは拍子抜けでした。ちゃんと鑑識していれば最初からばれてしまうと思います。 |
No.1431 | 4点 | 愛は売るもの- ジル・チャーチル | 2016/07/11 01:44 |
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(ネタバレなしです) 2003年発表のグレイス&フェイヴァーシリーズ第4作ですがシリーズとしての方向性を見失っているのではと心配になりました。前作「闇を見つめて」(2001年)に比べると歴史描写が物足りなく、さりとて第1作や第2作のユーモアが戻ってきたわけでもありません。リリーはまだしもロバートの存在感が希薄なのも気になります。謎解きも中だるみ気味でした。 |
No.1430 | 4点 | 淑女の肖像- ダイアン・A・S・スタカート | 2016/07/11 01:34 |
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(ネタバレないです) 2009年発表の本書はレオナルド・ダ・ヴィンチシリーズ第2作ではありますが主人公が語り手のディノ(デルフィーナ)なのはいいとしても今回のレオナルドは登場場面が少なく、最後の場面でも格好よく締めくくったとはいえません。ストーリーの盛り上げ方は巧妙ですが謎解き要素は前作よりもますます希薄になりロマンチック・サスペンス風に流れていきます。もともとこの作者はロマンス小説家だったのでこうなってもおかしくはありませんけど。 |
No.1429 | 5点 | バジャーズ・エンドの奇妙な死体- ケイト・キングズバリー | 2016/07/11 01:23 |
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(ネタバレなしです) 1994年発表のペニーフット・ホテルシリーズ第2作です。控え目のようで大胆なセシリーと控え目のようでやっぱり控え目な(笑)バクスターとのやり取りが滅法楽しいです。時代や風景描写をそれほど強調してはいませんが古きよきイギリス的な雰囲気を十分に演出しており、しかもちゃんと謎解きを中心に展開するプロットなのはあのアガサ・クリスティーを連想させます。とはいえあまりにも犯人がみえみえになってしまうところはさすがにクリスティーレベルとまでは言えませんけど。 |
No.1428 | 6点 | ママ、死体を発見す- クレイグ・ライス | 2016/07/11 01:16 |
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(ネタバレなしです) 実在のエンターテイナーであるジプシー・ローズ・リー(1911-1970)の名義で1942年に出版された本書はリーの真作なのかライスによる代作なのか完全には証明されていませんが、多彩な登場人物が織りなすどたばた描写がライス説を有力なものにしています。いろいろな出来事が既に起こった状態で物語が始まるので最初は混乱しますが第6章でようやく整理されます。喜怒哀楽の振り幅が大きいライスにしては本書は「哀」の部分がほとんど描かれず、一本調子なところもありますがユーモア本格派としての水準には達しています。 |
No.1427 | 5点 | 古書殺人事件- マルコ・ペイジ | 2016/07/10 21:34 |
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(ネタバレなしです) 作家としてよりも映画脚本家として有名な米国のハリー・カーニッツ(1907-1968)がマルコ・ペイジ名義で1938年に発表したのが本や本業界が重要な役どころを担うビブリオ・ミステリーの古典と評価される本書です。内容はジャンル・ミックス型で、前半はグラス夫妻のユーモア溢れる会話が楽しい本格派推理小説のプロットですが後半になるとハードボイルド風な殺人や誘拐が発生して個人的にはやや苦手な展開になりました。しかし最後は推理による謎解きで締めくくっています。私の読んだハヤカワポケットブック版は古い翻訳で一部印字がひっくり返っていたりしましたがストーリーテンポが早いためか意外と読みやすかったです。 |
No.1426 | 5点 | カラスは数をかぞえない- A・A・フェア | 2016/07/10 21:30 |
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(ネタバレなしです) 1946年発表のドナルド・ラム&バーサ・クールシリーズ第10作です。途中まではやや地味な展開ですが後半になると南米コロンビアが舞台になったのは驚きました。第二の殺人がハードボイルド風なところが個人的には好きではありませんが謎解きは思い切ったどんでん返しの真相が用意されていたのが印象的です。 |
No.1425 | 5点 | ピカデリーの殺人- アントニイ・バークリー | 2016/07/10 21:20 |
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(ネタバレなしです) 1929年発表の本書は傑作と名高い「毒入りチョコレート事件」(1929年)と「第二の銃声」(1930年)にはさまれて目立たない存在の本格派推理小説です。個性的とはいえないチタウィック氏を探偵役にしているので物語がなかなか盛り上がらない上に、プロット全体にまたがる仕掛けが印象的だった前後作に比べると本書のどんでん返しは小手先に感じられるのはやむを得ないでしょう。決して悪い出来ではないのですがバークリーとしては地味な作品という評価が多いようですが私も賛同します。 |
No.1424 | 4点 | クッキング・ママの真犯人- ダイアン・デヴィッドソン | 2016/07/10 21:13 |
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(ネタバレなしです) 1998年発表のゴルディシリーズ第8作のコージー派ミステリーで第1章から大勢の登場人物と複雑な人間関係が重厚に描かれて整理が大変です。いつも誰かのために探偵役をしているゴルディですが第二の事件に関しては珍しくもただ知りたいという理由で探偵しています。ケータリング業の妨害犯探しが殺人犯人探しよりも切迫感があったりしています(まあそっちがゴルディの本業ですからね)。そのせいではないでしょうが殺人犯はあまりに唐突に正体が明らかになり十分な謎解き説明もないままに解決、あっけなさ過ぎです。 |
No.1423 | 3点 | 注文の多い宿泊客- カレン・マキナニー | 2016/07/10 21:03 |
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(ネタバレなしです) アメリカのカレン・マキナニー(1970年生まれ)によって2006年に発表されたコージー派ミステリーのデビュー作です。作品を彩るのは舞台となるクランベリー島の自然描写とおいしそうな朝食レシピです。意外だったのがコージー派らしからぬ暴力シーンの描写で、結構痛そうな場面もありますのでコージー派ファンの読者受けするかはちょっと微妙です。推理がほとんどなく体当たり的捜査(しかもかなり危険を伴う)で謎が解かれる展開も個人的には好みではなかったです。その分サスペンスはコージー派としては豊かな方ですが。 |
No.1422 | 6点 | ビール工場殺人事件- ニコラス・ブレイク | 2016/07/09 23:59 |
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(ネタバレなしです) 1937年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第3作の本格派推理小説です。ビール工場の圧力がまの中から肉がすっかり溶けて骨だけになった死体が出てくるという衝撃的な事件が起きますが恐い描写はなく、この作者らしい地道で丁寧な謎解きを楽しめます。それでいて終盤には(ナイジェルの言葉を借りると)ギャング映画顔負けの大活劇まであります。ナイジェルの分析が緻密過ぎて真相が予測しやすくなっているところは評価が分かれるかもしれません。 |
No.1421 | 6点 | 槍ヶ岳殺人行- 長井彬 | 2016/07/09 23:34 |
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(ネタバレなしです) 1985年発表の長編第6作である本格派推理小説です。タイトル通り槍ヶ岳を舞台にして次々に人が消失したり死体が出現したりと不可解な事件が起こります。登場人物の1人が「山の密室」を主張して山岳パトロールから「あなたは『密室』にこだわりたくてしがたがないようだ」とたしなめられてますが、これは密室というよりはアリバイ崩しでしょうね。証言や証拠も微妙に怪しく、何を信じたらいいのか捉えどころのない謎が読者を悩ませます。事件解決後の人間ドラマも微妙にすっきりせず、何とも言えない読後感を残します。 |
No.1420 | 6点 | 蛇、もっとも禍し- ピーター・トレメイン | 2016/07/09 23:05 |
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(ネタバレなしです) 女子修道院の井戸の中から発見された首なし死体の身許と犯人の探索という難題にフィデルマが挑む1996年発表の修道女フィデルマシリーズ第4作です。前作の「幼き子らよ、我がもとへ」(1995年)と比べると冒険スリラー要素は控え目で本格派推理小説としてのまとまりはよくなっています。但しその分やや地味に感じられるかもしれませんので好みは読者によって分かれそうです。地味といっても退屈な作品ではなく、創元推理文庫版で上下巻にまたがる厚さもさほど気になりませんでした。 |
No.1419 | 5点 | 二の悲劇- 法月綸太郎 | 2016/07/09 23:01 |
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(ネタバレなしです) 完成に2年もかけた1994年発表の法月綸太郎シリーズ第6作ですが残念ながら出来栄えにはあまり感心できませんでした。「きみ」を登場人物にする二人称形式が随所で挿入されているのが大変珍しいですが、会話も動作も少ないため読者が感情移入しにくくあまり効果を上げていません。それ以外の法月綸太郎の登場場面や後半の日記も盛り上がりに乏しく、悲劇性までもがあまり伝わってこないのはつらいところです。本書発表時期の作者はスランプを自覚していたようですがそれは更に長期化し、次の長編が発表されたのは何と10年後になりました。ちなみに「一の悲劇」(1991年)とは関連性はなく、どちらを先に読んでも支障はありません。 |
No.1418 | 5点 | ある閉ざされた雪の山荘で- 東野圭吾 | 2016/07/09 22:57 |
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(ネタバレなしです) 1992年発表の本格派推理小説ですが作者自身のコメントで「本格推理のイミテーション」を目指したとあるようにかなり風変わりなプロットとなっています。ミステリ劇の舞台稽古という設定が非常に巧妙で、登場人物の不自然な言動があっても稽古だからあり得るかもという説得力を持たせています。それでもあまりに「作り物めいた」雰囲気は好き嫌いが分かれるかもしれませんが。 |
No.1417 | 6点 | 灯火管制- アントニー・ギルバート | 2016/07/08 19:49 |
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(ネタバレなしです) 1942年発表のクルック弁護士シリーズ第11作で派手な描写ではありませんが戦時中であることを感じさせます。この作者は前半をサスペンス小説、後半を本格派推理小説という構成が得意パターンと私は勝手に理解していましたが本書の構成はその逆で、前半が本格派推理小説風、後半がサスペンス小説風でした。といっても最後はクルックによる緻密な推理説明で本格派推理小説として着地しています。ミスディレクションも巧妙です。 |
No.1416 | 5点 | ボニーと警官殺し- アーサー・アップフィールド | 2016/07/08 19:32 |
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(ネタバレなしです) パトロールに出かけた方向とは全くはずれた場所で巡査の死体が発見された事件を扱った1953年発表のボニーシリーズ第19作です。地道な捜査と広大な舞台という組み合わせを上手に描いており、見えない探偵との競争的な趣向も印象的です。早い段階でボニーが堂々とヒントを述べるので犯人の正体が見当がつきやすくなっていますが、もともとこのシリーズは本格派推理小説といっても読者が犯人当てを試みる要素は少ないのでそこは仕方ないとあきらめるほかないですね(笑)。 |
No.1415 | 7点 | 頼子のために- 法月綸太郎 | 2016/07/08 19:12 |
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(ネタバレなしです) 1989年発表の法月綸太郎シリーズ第3作の本書で作者はそれまでに書かれた純粋な謎解き小説とは大きく作風を変化させて評論家や読者を驚かせました。きちんと推理している本格派推理小説であることは変わりありませんが、人間ドラマとしての深みをぐっと増して重厚な雰囲気が漂います。息苦しいほどの悲劇性は賛否両論あるようですがよくまとめられた傑作だと思います。 |