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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1485 6点 死と陽気な女- エリス・ピーターズ 2016/07/25 02:04
(ネタバレなしです) 1962年発表の本書は「カマフォード村の哀惜」(1951年)から久方ぶりに書かれたフェルス一家シリーズ第2作ですがミステリーとして格段の進歩が見られます。丁寧な人物描写は後年のカドフェルシリーズと共通していますが、探偵役が警官なので(解決はやや強引ながらも)謎解き要素はカドフェルシリーズより濃厚です。プロであるジョージ・フェルス(部長刑事)の探偵活動とアマチュアであるドミニック・フェルスの探偵活動の両方が絡み合うプロットはユニークで、そこにフェルス一家の家族交流や少年ドミニックの成長物語の要素が上手く絡み合い、MWA(アメリカ探偵作家協会)の最優秀長編賞を受賞したのも納得の出来栄えになっています。

No.1484 5点 塩沢地の霧- ヘンリー・ウエイド 2016/07/25 01:59
(ネタバレなしです) 1933年に発表されたシリーズ探偵の登場しないミステリーです。本書は「半倒叙」と評価されることもあるようですがそれはいかにも犯人らしい人物を描きながら肝心の犯行場面を直接描写しないことによって犯人当て要素も残しているからのようです。もっとも有力な犯人候補が意外と少ないため犯人当て本格派推理小説としてはあまり面白くありません。物語としては良く出来ており、事件が中盤まで発生しないながら筋運びがだれることもなく結末の印象度も高いです。ところで国書刊行会版の巻末解説では結末のアイデアが某有名ミステリーを先取りしているかのように誉めていましたが、よく考えるとその某ミステリーの方が本書より先に出版されているではないですか!

No.1483 5点 これは殺人だ- E・S・ガードナー 2016/07/25 01:54
(ネタバレなしです) ガードナーがチャールズ・ケニー名義で1935年に発表したミステリーでシリーズ探偵は登場しません。探偵役のサム・モレインは行動力やはったりを駆使して捜査当局と渡り合いますがこれはハードボイルド探偵によくありがちな特徴で、弁護士ペリイ・メイスンに比べると個性には乏しいです。ハードボイルド的でありながらも非情さや残虐性はなく、本格派の謎解きも楽しめるところはペリイ・メイスンシリーズと共通しています。モレインが法廷場面で尋問役になれたのは地方検事ダンカンとの友情あってのものという設定は少々好都合すぎの気もします。犯人のトリックはなかなか機知に富んだものではありますがあの偶然のチャンスがなかったら打つ手なしだったように思え、やはりこれまたご都合主義的に感じられます。

No.1482 5点 シャーロック・ホームズのクロニクル- ジューン・トムスン 2016/07/25 01:44
(ネタバレなしです) 「正調贋作」と何とも不思議な紹介をされている1992年発表のホームズ・パスティシュシリーズ第2短編集で、ミュージックホールの楽屋で起こった密室殺人の「ハマースミスの怪人」、英国政府を脅迫する凶悪犯パイド・パイパーを追い詰める「スマトラの大鼠」など7作品を収録いています。時代描写だけでなく作品自体の出来栄えもいかにもコナン・ドイルが書きそうなミステリーに仕上げられていますが、そのためか純粋な謎解きを期待するとやや肩透かしかもしれません。中では「キャンバウェルの毒殺事件」が1番本格派推理小説らしいと思いますが犯人の意外性は全くといっていいほどありませんし、「ハマースミスの怪人」のトリックも感心するようなものではありません。むしろ印象に残るのは「ハーレー街の医師」でのユーモア溢れる締めくくりとか、「スマトラの大鼠」でワトスンの頭の冴えにホームズが驚く場面などで、雰囲気を楽しむべき作品だと思います。

No.1481 6点 証拠は眠る- R・オースティン・フリーマン 2016/07/24 06:59
(ネタバレなしです) 1928年発表のソーンダイク博士シリーズ第11作です。本書が発表されたのは本格派推理小説黄金時代の真っ只中で、次々と新進作家の意欲作が発表される中、先輩作家にあたるフリーマンはこの時期どういう立場だったんでしょう?時代遅れのレッテルを貼られてたんでしょうか?でも本書を読む限りではフリーマンらしさは十分主張できていると思います。珍しいトリック、グラフまで使った科学者探偵にふさわしいソーンダイクの推理などは他の作家には容易に真似できないでしょう。一方で読者の裏をかくような工夫はほとんどなく、しかも描写や説明がとても丁寧なため犯人当てとしてはわかりやす過ぎると思う読者もいるでしょう。

No.1480 5点 黒後家蜘蛛の会3- アイザック・アシモフ 2016/07/24 06:47
(ネタバレなしです) 1976年から1980年にかけて出版された作品を集めて1980年に発表された短編集ですが謎解きレベルはますます下がっているような気がします。専門知識が必要な謎解きが多いだけでなく真相(正解)の説得力が弱い作品さえあります。そういう不満点が少ない作品というと「犯行時刻」(といっても犯人探しではない)と「欠けているもの」(意外にも天文学知識なしでも何とかなる謎解きです)ぐらいでしょうか。レギュラーキャラクターたちの謎解き議論の楽しさは相変わらずです。1番アシモフらしい作品というなら(これはミステリーといえるかやや疑問ですが)どんでん返しがユニークな「かえりみすれば」かもしれません。

No.1479 4点 武器と女たち- レジナルド・ヒル 2016/07/24 06:39
(ネタバレなしです) 2000年発表のダルジールシリーズ第16作は(タイトルからも推測できるでしょうが)女性陣が目立つ作品です。とはいえダルジールも裏側でしっかり活躍しています。本書は過去作品の人物再登場や回想シーンが目立ちますのでダルジールシリーズ入門編としてはふさわしくありません。少なくとも「殺人のすすめ」(1971年)と「薔薇は死を夢見る」(1983年)は本書より先に読んでおいた方がいいと思います。本格派推理小説の要素は全くなく、(〇〇組織がらみの)スリラー小説系なのもシリーズ作品としては異色です。本の分厚さを感じさせないサスペンス豊かな展開はさすがですが個人的には推理による謎解きを楽しめないのが残念でした。

No.1478 5点 エミリーの不在- ピーター・ロビンスン 2016/07/24 06:35
(ネタバレなしです) 2000年発表のアラン・バンクスシリーズ第11作となる警察小説で本格派推理小説の推理要素がほとんどないのは個人的には残念。でも非常によくできた作品だと思います(私の好みのタイプではないので評価点は低いのですが)。序盤でバンクスがまるでハードボイルド小説の私立探偵みたいな活動をしているのが印象的です(派手なアクションシーンはありません)。中盤からはいつもどおりに警察官として活躍しますがどうも本書はハードボイルドでありながら内省的なロス・マクドナルドの作品を彷彿させます。マクドナルドがハードボイルドらしく人間をドライに描いているのとは対照的にロビンスンはきめ細やかな心理描写が特徴で、そのためか事件の悲劇性ややるせなさは息苦しいほどです。(ネタバレ防止のため曖昧な書き方になりますが)バンクスが最後にある人物に対してああいう態度をとるシーンの何と重苦しく悲痛なことでしょう。講談社文庫版が上下巻で出版されるほどの長大なボリュームを感じさせないストーリーテリングは見事ですがここまで救いの少ない物語は読者を選ぶかも。でも本書の講談社文庫版巻末解説によると後年作にはもっと気分が落ち込みそうな作品もあるようです。

No.1477 5点 最後の刑事- ピーター・ラヴゼイ 2016/07/21 15:50
(ネタバレなしです) クリッブ部長刑事&サッカレイ巡査、アルバート・エドワード皇太子殿下に続く第3のシリーズ探偵が1991年発表の本書でデビューしたピーター・ダイヤモンド(本書では警視)で、初めて現代を舞台にしたシリーズでもあります。捜査の初期段階では対決色が強かった容疑者から後半は頼りにされるなど、一見とっつきにくそうですが意外と人情味あふれる探偵役を演じています。大作の割に読み易い作品ですがダイヤモンドがどうやって犯人の正体に気づいたかの推理を説明しないのは本格派推理小説としては減点です。またこれは作者のせいではないのですが、ハヤカワ文庫版の裏表紙粗筋紹介で6部構成の物語の第5部での出来事まで紹介しているのはさすがに勇み足だと思います。せっかくの驚きの展開が効果減少になってしまいました。

No.1476 5点 引き潮の魔女- ジョン・ディクスン・カー 2016/07/21 15:30
(ネタバレなしです) 1961年発表の本書はシリーズ探偵の登場しない歴史本格派推理小説ですが、空さんのご講評で指摘されているように1907年という作中時代は歴史を感じさせるのには中途半端で、現代を舞台にしたミステリーと大差ないように感じました。そしてこれも空さんのご講評の通りですが、出てくる人物がそろいもそろって筋が見えにくい話ばかりするので特に序盤は非常に読みにくかったです。探偵競争的な要素を織り込んだ後半はサスペンスがそこそこありますが。カーが得意とする不可能犯罪(足跡のない犯罪)を本書でも扱っていますが現場見取り図はできれば付けてほしかったです。なおTetchyさんのご講評にあるように、作中にガストン・ルルーの「黄色い部屋の謎」(1907年)の露骨なまでのネタバレがあり、本書に手を出すような読者ならこの有名な古典的作品を既読でもおかしくないとはいえちょっとマナー違反行為ではないかなと思います。密室トリックから犯人の名前までばらしていますので。

No.1475 4点 シミソラ- ルース・レンデル 2016/07/21 12:23
(ネタバレなしです) 1994年発表のウェクスフォードシリーズ第16作は人種差別問題を取り上げた作品です。ウェクスフォードは保守的な人間ながら新世代の人間や価値観の異なる人間とも上手く迎合するだけの度量を持ち合わせ、例えば「無慈悲な鴉」(1985年)では過激なフェミニストへの事情聴取も無難にこなしていましたが本書では無意識の内に人種差別的な言動をとったことに衝撃を受けています。社会性描写に重きをおいたシリアスな作品で物語としては充実してますが残念ながらあまり推理場面はなく謎解としては物足りません。また登場人物が約50人近くと極めて多く、角川文庫版ではその内23人が登場人物リストに載っていますがあの重要人物(24章で〇〇を殴った人です)がリスト外扱いなのはちょっと問題ではないでしょうか。

No.1474 5点 夜の静寂に- ジル・チャーチル 2016/07/21 12:20
(ネタバレなしです) 2000年発表のグレイス&フェイヴァーシリーズ第2作です。時代描写(1930年代のアメリカ)に優れており、特に印象的だったのが第一次世界大戦の悲惨さが語られる場面でした。無論コージー派の作品なのでいつまでも重苦しさを引きずることはなく、随所にユーモラスな場面が用意されています。謎解きとしては動機の説得力がいまひとつ弱いように思えます。

No.1473 4点 死がお待ちかね- ベゴーニャ・ロペス 2016/07/21 12:03
(ネタバレなしです) ベゴーニャ・ロペス(1923-1989)はキューバの心理学者でミステリー作品は本書がデビュー作なのですが、1989年の出版直前に逝去したため遺作でもあります。私にとって初めてのキューバ作家の作品ですが別に共産主義を意識しているような場面はなく観光描写もありません。マリブラン家と近隣住民の人間関係の描写が大半で、その中で起こった殺人事件の謎解きを扱った本格派推理小説です。人物描写に力を入れてはいるのですがこれがとてもわかりづらく、アドリアーナ・マリブランの1人称になったり、(正体が伏せられている)犯人視点になったりと変化をつけていますがそれもあまり効果的とは思えず、物語のメリハリが感じられません。最後は何と警察の電話盗聴から事件解決です。どうやって犯人の目星をつけていたかの説明がないのも不満です。

No.1472 6点 流れる星- パトリシア・モイーズ 2016/07/20 05:09
(ネタバレなしです) 前作「殺人ア・ラ・モード」(1963年)ではファッション業界という特別な業界と業界人を緻密に描いていましたが、1964年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第5作の本書では映画業界が描かれています。登場人物のエキセントリックさが前作以上に強調されており、このあくの強さが受け入れられるかどうかで本書が面白く読めるかは左右されるでしょう。ユーモアも従来のモイーズ作品が持つ明るさよりはブラックで皮肉な面が目立ちます。但し本格派推理小説としての謎解き部分は真面目にしっかりと書かれています。

No.1471 6点 「エルサレム」亭の静かな対決- マーサ・グライムズ 2016/07/20 04:56
(ネタバレなしです) 1984年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第5作の本格派推理小説です。ピエール・ヴェリーの「サンタクロース殺人事件」(1934年)でも田舎風なクリスマスが描かれていますが、本書もそれ以上に素朴でしみじみとしたクリスマスが描写されています。終盤のメルローズ・プラントの贈り物も(多少メロドラマじみてはいますが)演出効果抜群です。ミスリーディングが効果的な謎解きもまずまずの出来栄えですが、これから読む人にはぜひ作品全体が醸し出す叙情的な雰囲気を堪能してほしいです。

No.1470 5点 イングリッシュ・ブレックファスト倶楽部- ローラ・チャイルズ 2016/07/20 04:51
(ネタバレなしです) 「お茶と探偵」シリーズも2003年発表の本書でシリーズ4作目になりますが作品の質という点では過去3作品と同じレベルで安定しており、シリーズファンなら安心して読めると思います。この作者の優雅な文章表現は個人的に大好きな部類に入るのですが謎解きが相変わらずなし崩し的解決に終わってしまうのはもう少し何とかならないかなあ。犯人が誰でもよかったように思ったのは私だけでしょうか(笑)。

No.1469 5点 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー 2016/07/20 04:49
(ネタバレなしです) 1949年発表のフェル博士シリーズ第18作ですが従来のシリーズ作品とはかなり趣を変えた作品です。本格派推理小説としての謎解き場面はちゃんとあるのですが弁護士のパトリック・バトラーを主人公にした冒険スリラー小説の要素が非常に強く、ジャンルミックスタイプのミステリーと言えそうです。「盲目の理髪師」(1934年)やカーター・ディクスン名義の「一角獣殺人事件」(1935年)のようにカーはこれまでにもアクションシーン豊富な本格派をいくつか書いていますがそれらとも異なるのは、ある組織の存在が事件の背後に見え隠れしていることです。これは本格派ファン読者にとって好き嫌いが分かれるでしょう。

No.1468 6点 ドーヴァー2- ジョイス・ポーター 2016/07/19 21:55
(ネタバレなしです) 長編10作(短編も同じぐらい書かれました)のドーヴァーシリーズの中で最も世評の高い作品といえば「切断」(1967年)、次いで「ドーヴァー 1」(1964年)あたりでしょう。確かにこの2作品は大変独創的ではあるもののその「ブラック」ぶりも半端ではなく、いきなりここから読むと拒否反応を起こす人がいるかもしれません。となると無難な入門書としては1965年出版のシリーズ第2作である本書あたりがお勧め。ドーヴァーの無茶苦茶ぶりもしっかり描かれてますが前述の2作品よりは口当たりがいいです。できれば8ヶ月前の事件の現場地図があれば謎解き好き読者としてはもっとよかったですが。

No.1467 6点 孤独な女相続人- E・S・ガードナー 2016/07/18 20:45
(ネタバレなしです) 1948年発表のペリイ・メイスンシリーズ第31作となる本書には容姿端麗な女相続人が登場しますが性格描写が意外とあっさりしているため読者が共感するほどのキャラクターになれていないのが惜しいです。でもマリリン・マーローという名前は当時人気絶頂だった女優マリリン・モンロー(1926-1962)に由来しているんでしょうね。物語としては切れ味があり、特に第11章や第17章でのやり取り場面や法廷でのトラッグ警部への反対尋問場面などは強い印象を与えます。

No.1466 7点 悪魔はすぐそこに- D・M・ディヴァイン 2016/07/18 20:26
(ネタバレなしです) 1966年に発表されたミステリー第5作となる本格派推理小説です。ディヴァイン自身大学の事務員だったということもあってか大学を舞台にした本書はかなりの力作です。登場人物が多過ぎで関係も複雑な感がありますがその割りには読みやすいです。謎解きに関してはミスディレクションも巧妙で結構難易度が高く事件発生前の伏線なんかはまず見落とすでしょう。物語のエンディングもきれいに締めくくっています。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
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