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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1745 4点 暗黒太陽の浮気娘- シャーリン・マクラム 2016/09/21 07:51
(ネタバレなしです) 米国の女性作家シャーリン・マクラム(1948年生まれ)の1988年発表の本書はミステリーらしからぬタイトル(英語原題は「Bimbos of the Death Sun」)の本格派推理小説です。このタイトル、主人公の新進SF作家のデビュー作のタイトルなんですが別にこのデビュー作が作中で重要な役割を果たすわけでもないのでどうしてこんなタイトルづけしたのか全く理解できません(SFファンの注目を集めるため?)。ルビコンというSFファンのためのイベントに大勢の人間が集まる中で起きた殺人事件の謎解きをしてますが、プロット自体にSF要素は全くありません。しかしSFファンのユーモアに満ちた言動描写が半端でなく、ミステリーならではの捜査や推理描写を完全に食っています。最後はなんとD&Dのプレー中に犯人が指摘されており、本書は果たしてミステリーファン向け作品なのかSFファン向け作品なのか私にはよくわかりませんでした。

No.1744 6点 騙し絵の檻- ジル・マゴーン 2016/09/19 03:08
(ネタバレなしです) 1987年発表の本書はマゴーンのミステリー第4作でシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。森英俊は本書を戦後ミステリーでベスト3クラス、法月倫太郎もクリスティー亡き後の25年間に登場したミステリーでベスト3クラスと手放しで大絶賛しています。高い評価の理由は黄金時代の本格派を彷彿させるような謎解きになっているからでしょう。終盤で主人公が事件関係者を集めて推理を披露しながら一人また一人と容疑者リストから外していく、エラリー・クイーンの国名シリーズのような展開を見せます。そしてかなり思い切ったどんでん返しがあるのですがここはもう少し説明を尽くしてほしかったですね。このどんでん返しは考えようによってはあまりに単純なだけになぜ警察の捜査で気づかなかったのかという十分な理由が必要ではないでしょうか。上手く騙されたと納得の敗北感を味わうよりも本当にそれってあり得たのかというもやもや感が残ってしまいました。

No.1743 4点 大聖堂は大騒ぎ- エドマンド・クリスピン 2016/09/19 02:36
(ネタバレなしです) 1945年発表のフェン教授シリーズ第2作で、豪快な密室トリックに手掛かり索引付きの謎解き、どたばた劇やオカルト要素まで織り込んだ贅沢な本格派推理小説ですが真相には不満を覚えました。ネタバレになるのでその理由を詳しく書けませんが動機に関する真相があれでは何でもアリの謎解きになってしまうと思います。書かれた時代を考慮するとこういうのもアリなのかもしれませんが。物語としてはユーモアも交えていますがどちらかというと悲劇的で救いのない読後感を残します。

No.1742 5点 ホッグ連続殺人- ウィリアム・L・デアンドリア 2016/09/19 02:26
(ネタバレなしです) 1979年発表のベイネディッティ教授シリーズの第1作である本書はデアンドリアの代表作として有名な本格派推理小説です。連続怪死事件が扱われているので謎も色々用意されていますが中でもストーブの前での凍死は秀逸です。ロナルド・A・ノックスの名作短編「密室の行者」(1931年)の食料を前にしての餓死を彷彿させる魅力的な謎にノックスとは全く異なる解答が提示されます。ただ全体としてはそれほど感銘を受ける謎解きではなかったし何よりも探偵役のベイネディッティ教授のキャラクターに全く共感できず、それほどのめり込めなかったです。タクシー運転手とのやり取りなんかは悪ふざけも度が過ぎると思います。

No.1741 5点 殺され急ぐ女たち- エマ・ダーシー 2016/09/19 02:04
(ネタバレなしです) オーストラリアのエマ・ダ-シーはフランク・ブレナン(1936-1995)とウェンディ・ブレナン(1940年生まれ)の夫婦によるロマンス小説家としてのペンネームです。フランクの死後もウェンディは作品を旺盛に書き続け、2001年から2003年にかけてタイトルに「Who Killed」を冠したミステリー三部作を発表しました。2002年に出版された、英語原題が「Who Killed Bianca?」の本書はその第2作です。豪華列車「ザ・ガン」に乗り込んだゴシップ記者のビアンカが殺され、偶然同じ列車に乗り合わせた女性ロマンス作家のK・C・ゴードンが探偵役となる本格派推理小説です。ロマンス作家としての経験が活きているのでしょう、登場人物の思惑、打算、不安、愛憎の描写はとても上手いです。もっとも心理描写に筆を割きすぎて物的な手掛かりが少ないのが謎解きとしてはやや弱く感じました。

No.1740 5点 死者の長い列- ローレンス・ブロック 2016/09/19 01:20
(ネタバレなしです) ほとんど本格派推理小説ばかり読み漁っている私が1994年発表のマット・スカダーシリーズ第12作である本書を読んだ理由は二見文庫版で本格派推理小説と謳っていたからです。特に派手なアクションシーンもなくスカダーの地道な足の探偵ぶりが描かれています。殺人かどうか明確でないままに連続怪死事件を調べるプロットはレックス・スタウトの「腰抜け連盟」(1935年)やレジナルド・ヒルの「薔薇は死を夢見る」(1983年)などを連想させます。しかし犯人の正体は意外と早い段階で明かされ、後はホワイダニットの謎と逃げた犯人をどう捕まえるかという展開で読ませます。犯人当ての謎解きとしては25章で手掛かりが一つ紹介されていますが、他の伏線については(あったとしても)スカダーは説明してくれないので推理という点では不満でした。最後のスカダーと犯人の会話シーンなんかいかにもハードボイルドならではといった感じで、あまり本格派を期待して読むと辛いかも。地味な物語を退屈させない文章力はさすがです。

No.1739 5点 子供の悪戯- レジナルド・ヒル 2016/09/18 08:36
(ネタバレなしです) 1984年発表のダルジールシリーズ第9作の本格派推理小説で、タイトルから少年少女が活躍するミステリーを期待する人がいるかもしれませんがそういう作品ではありません。といっても看板に偽りありというわけではなく、エピローグでタイトルの意味が明らかになります。このエピローグが非常に衝撃的で、明かされた秘密も意外性がありますがそれより度肝を抜かれたのがパスコー主任警部の行動。主役キャラの中で一番の常識人なのですが時にダルジール警視以上にとんでもないことやってくれますね。ウィールド部長刑事が危機を迎えるサイドストーリーに殺人事件の謎解きが食われているなどプロットにはやや不満がありますがあのエピローグだけは忘れられそうにありません。

No.1738 5点 ミステリー・マイル- マージェリー・アリンガム 2016/09/18 08:21
(ネタバレなしです) 1930年発表の本書はアルバート・キャンピオンシリーズ第2作で前作(1929年発表)では脇役扱いだったキャンピオンが初の主役を務めた作品です(このシリーズ、後年にもキャンピオンが脇役に回る作品が少なくありませんが)。内容は冒険スリラー小説で、アメリカのギャングのシミスター一味から命を狙われているらしいロベット判事とその家族をキャンピオンの提案で本土とは道1本で繋がって入る以外は塩沢地と泥地に囲まれたミステリー・マイル村にかくまうというプロットです。後年の作品のような人物描写の冴えや物語の深みはありませんがスピーディーな展開の読みやすい作品に仕上がっています。

No.1737 6点 さむけ- ロス・マクドナルド 2016/09/18 08:01
(ネタバレなしです) ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーによって米国ミステリー界で人気の高かったハードボイルド小説も1960年代に警察小説やスパイ小説が台頭するとその人気に翳りが見えてきました。皮肉なことにロス・マクドナルドはこの時期に作家としての絶頂期を迎えています。中でも1963年発表のリュウ・アーチャーシリーズ第11作の本書は作者自身や多くの読者から最高傑作として賞賛されています。「ウィチャリー家の女」(1961年)と共に本格派の謎解きも楽しめるハードボイルドとも評価されている作品です。アクションシーンは控え目、エログロ描写なし、プロットは過去の殺人事件まで遡っていく複雑なものとなっています。私の読んだハヤカワ文庫版の登場人物リストには過去の事件関係者が載っていなかったのでちょっとプロット展開に唐突感がありましたが、最終章で明かされる真相には唖然、そして沈黙を余儀なくされました。

No.1736 6点 左ききの名画- ロジャー・オームロッド 2016/09/18 07:46
(ネタバレなしです) 英国のロジャー・オームロッド(1920-2005)はミステリー作家としてデビューしたのは1970年代とやや遅いスタートながらその後は年2作近いペースで50作近い作品を発表しました。シリーズ探偵ものもありますが1988年発表の本書は非シリーズ作品です。最初はたった一枚の絵の真贋の謎だったのが段々とスケールアップして80枚を越える絵と絵を撮った写真までもが入り乱れてもう大変です(笑)。途中から何人もの部下を抱える悪役が登場し、名画を巡るスリラー小説風に展開しますが最後は手掛かりに基づく推理によって謎が解かれる異色の本格派推理小説です。プロットは複雑ですが文章は読みやすいです。

No.1735 7点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2016/09/18 07:23
(ネタバレなしです) 1935年発表のポアロシリーズ第9作の本格派推理小説で「謎のクイン氏」(1930年)のワトソン役サタスウエイトが登場するのが珍しいです。充実期の傑作の一つで横溝正史の某作品に影響を与えたようなトリックが使われています。ポアロの活動を控え目にしてアマチュア探偵団の活躍を描いたプロットも読み応えあります。動機もよく考え抜かれています。ところが驚いたことにクリスティ再読さんやHORNETさんのご講評で説明されているように創元推理文庫版とハヤカワ文庫版ではこの動機が微妙に異なっていました。個人的には創元推理文庫版の方が推理による解明がしっかりしているように思えます。あとタイトルですがそれほど芝居風でないとはいえ「三幕」なのですから米国版の「殺人」よりは英国版の「悲劇」の方がふさわしいように思います。

No.1734 4点 天狼星- 栗本薫 2016/09/17 04:21
(ネタバレなしです) 人肉を食らう怪人を手下に従えて猟奇的な殺人を次々に行うシリウス(天狼星)と名乗る極悪人と名探偵の対決を描いたスリラ-小説の「天狼星」三部作の1986年発表の第1作です。現代版切り裂きジャックを意識しており終盤にはエラリー・クイーンの「恐怖の研究」(1966年)を連想させる場面もあります。作者はよほど思い入れがあったのか後にはミュージカル化までしています(商業的には失敗したそうですが)。シリウスに対して防戦一方気味ながら名探偵の能力も相当なもので、変装の名人で格闘技に秀でてる上に第12章では窮地からの脱出にとんでもない能力を使っていたことが語られます。不思議でならないのはこの名探偵があの伊集院大介であることです。これまでの作品で築き上げたイメージとシリーズ第5作である本書のアクション探偵ぶりは合わない気がします。伊集院でない新しいキャラクターの名探偵を登場させてもよかったのではないでしょうか。グロテスク描写の多い中でシリーズ初登場の伊庭緑郎(いばろくろう。本書ではまだ23歳)のお間抜けぶりがちょっとした清涼剤の役割を果たしています。

No.1733 5点 弓弦城殺人事件- カーター・ディクスン 2016/09/17 00:59
(ネタバレなしです) ジョン・ディクスン・カーにはカーター・ディクスンという別のペンネームがあり、1933年に発表した本書がその名義での第1作です(正確には初版はカー・ディクスン名義だったそうですが)。作者得意の密室殺人事件を扱っていますが本書のトリックはかなり無茶です。あんなトリックを実行したら痕跡が残ってすぐにばれるはずだと思います。そして実際に残っているのですが、にもかかわらず探偵役のジョン・ゴーントが最後に説明するまでずっと謎のまま引っ張っているところに無理筋を感じます。怪奇小説的な暗い雰囲気づくりに成功しており、甲冑の不気味さなんかはなかなかいい味出しています。カー名義の「絞首台の謎」(1931年)が好きな読者なら本書も受け容れやすいかもしれません。

No.1732 10点 毒入りチョコレート事件- アントニイ・バークリー 2016/09/17 00:10
(ネタバレなしです) 1929年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第5作の本書は大胆な趣向が多いバークリーの作品中でも極めつけの作品だと思います。複数の探偵役による多重解決ものの本格派推理小説は本書の後にも何作も登場していますが今なお本書の価値は色褪せていません。物語の3分の2が解決編という構成からして破格ですし、あちこちに「常識破り」の爆弾が仕掛けてあります。探偵役が推理を披露している途中なのに犯人として指摘されようとしている名前を傍聴者役が先回りしてばらしてしまう場面なんか思わずのけぞりました。しかしそんなのはほんの肩ならし程度の型破りです。

No.1731 6点 アプルビイズ・エンド- マイケル・イネス 2016/09/17 00:01
(ネタバレなしです) 1945年発表の本書はアプルビイ警部シリーズ第10作です。「エンド」というタイトルが付いていますが別にシリーズ最終作ではありません(イネスはこのシリーズを1986年まで書き続けました)。エキセントリックな登場人物たち、先の全く読めないストーリー展開、幻想的かつ何ともユーモラスな描写、そして文学や芸術に関する知識があちこちで披露されていてわかりやすい作品ではありませんが、それでいながら不思議とすらすら読めるというイネス流ファルス本格派の典型的な作品です(肌が合わない読者もいるでしょうけど)。ところで本書はアプルビイとジュディス(未来の奥さん)の初めての出会いが描かれていますが、いつの間に結婚を決意したんだろ?

No.1730 5点 矢の家- A・E・W・メイスン 2016/09/16 23:54
(ネタバレなしです) 「薔薇荘にて」(1910年)から実に14年を経て1924年に発表されたアノーシリーズ第2作の本格派推理小説です。謎解きの水準は大きく進化していて読者に対して手掛かりをフェアに提示することをかなり意識しています。ただし登場人物の描き方のバラツキがひどくて犯人はこの人しかありえないだろうと容易に見当がつきやすいのは大きな欠点でしょう。まあ冒険小説や歴史小説の分野で名高いメイスンをアガサ・クリスティーのようなミステリー専門作家と比較してはちょっと不公平かもしれませんけど。

No.1729 6点 野獣死すべし- ニコラス・ブレイク 2016/09/15 19:06
(ネタバレなしです) 1938年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第4作は前半を犯罪小説、後半を犯人当て謎解き小説という構成が斬新で、法月綸太郎の「頼子のために」(1990年)に大いなる影響を与えました。前半が緊張感豊かな分、後半の謎解きプロットは緩いとは言わないまでも普通にしか感じられませんでしたが登場人物のキャラクター分けは大変見事で、特にフィル少年の描写は実に秀逸です。

No.1728 5点 密偵ファルコ/錆色の女神- リンゼイ・デイヴィス 2016/09/15 18:19
(ネタバレなしです) 英国の女性作家リンゼイ・デイヴィス(1949年生まれ)は歴史ミステリーのジャンルで最も人気ある作家の一人です。シリーズ主人公であるファルコはある時はローマ皇帝の命を受けた密偵として、またある時は私立探偵として難題を解決します。こう紹介すると古典的ハードボイルド小説に登場する「孤高のヒーロー型探偵」のように思えるかもしれませんが、家賃を滞納して大家の取りたてにびくびくしたり女性中心の家族に頭が上がらないなど情けない面も見せていて、読者に親しみやすいキャラクターになっています。デビュー作の「白銀の誓い」(1989年)では皇帝への反乱分子退治を、2作目の「青銅の翳り」(1990年)ではその残党処理を描いて冒険ロマン小説とハードボイルド小説をミックスしたような作品になっていますが1991年に発表されたシリーズ3作目の本書では私立探偵としてのファルコが描かれていて本格派推理小説の要素が強いのが特色です。かなり綱渡り的ですが変わった毒殺トリックが使われています。謎解き好きなら楽しめそうな作品ですが、その代わり過去の2作品に比べてスケール感では小ぢんまりしてますので読者の評価は分かれるかもしれません。

No.1727 6点 フェニモア先生、人形を診る- ロビン・ハサウェイ 2016/09/15 18:08
(ネタバレなしです) 2000年発表のフェニモアシリーズ第2作は何とびっくりの「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説でした。しかもこの挑戦状は2回も挿入されています。その割に推理がやや物足りない面もありますが途中で犯人の手記を挿入してサスペンスを盛り上げるなど、コージー派でありながら謎解きプロットもしっかり組み立てようとしています。フェニモアの探偵ぶりは(大いに)疑問符が付きますが、ドイル夫人を筆頭にサブキャラの活躍ぶりが光ります。

No.1726 5点 死体のない事件- レオ・ブルース 2016/09/15 18:02
(ネタバレなしです) 1937年発表のビーフ巡査部長シリーズ第2作でパット・マガーの「被害者を捜せ!」(1946年)を先取りしたかのような被害者捜し趣向の本格派推理小説です。このアイデアは秀逸ですが新樹社版の巻末解説にあるように犯人の計画が杜撰過ぎると思います。また被害者候補として行方不明者を色々と登場させるのはいいのですがあまりにも次々と発見されてしまうので誰が被害者なのか容易に見当がつき易くなっているのは惜しまれます。謎解き場面まで何人かは行方知れずのままにしておくような工夫があれば少しは意外性を演出できたのではと思います。とはいえminiさんのご講評で指摘されているようにアイデアの先見性をまずは誉めるべき作品でしょう。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)