皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2877件 |
No.1817 | 7点 | 肖像画(ポートレイト)- 依井貴裕 | 2016/11/23 20:33 |
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(ネタバレなしです) 1995年発表の多根井理シリーズ第3作の本格派推理小説です。この作者がエラリー・クイーンを意識しているのは有名ですが、特に本書ではクイーン作品のパスティッシュを書こうとしたのではと思えるような場面が一杯です。クイーン作品に精通している読者なら次々に届けられる謎の贈り物、猫殺し、殺人シナリオ、犯人逮捕の場面などでクイーンの色々な作品の名前が頭に浮かぶのではないでしょうか。謎解きはちゃんと作者の独自性が発揮されており、「読者への挑戦状」の後で実に複雑な真相が丁寧に説明されます。犯人は当てられても何が起きたのかを完全正解するのは難しいと思いますが(ちなみに私は犯人も当たってません)、これぞ本格派の中の本格派と言える作品です。本格派(特にそのパズル要素)が苦手な読者には間違ってもお勧めできませんが。 |
No.1816 | 3点 | 女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険- ブリタニー・カヴァッラーロ | 2016/11/19 06:39 |
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(ネタバレなしです) アメリカの女性作家ブリタニー・カヴァッラーロ(1986年生まれ)の2016年発表のデビュー作で、あのシャーロック・ホームズの子孫であるシャーロット・ホームズとジョン・H・ワトソンの子孫であるジェームズ(ジェイミー)・ワトソンの出会いの物語です。ヴィクトリア朝のイギリスで書かれたコナン・ドイルのホームズシリーズと21世紀のアメリカで書かれた本書(舞台もアメリカの高校です)では作風が全然違うのは当然なのですが、それにしてもホームズ物語のパスティーシュで高校生の2人を主役にしているのですからもう少し万人受けする要素があってもよいのではと思います。初期のドイル作品でもシャーロックが麻薬癖があったことが描かれているとはいえ本書でのシャーロットを同じ設定にする必要性はないと思うし、性的暴行を受けた経験があるというのも無用に物語を重く暗くしています。個人の能力では解決しようのない事件を扱って、シャーロットの兄マイロの所属する秘密組織の力を借りて犯人(というより敵)を闇に葬るというスリラー小説プロットだったのも探偵のデビューとしては個人的には感心できません。 |
No.1815 | 5点 | ホワイトハウスの冷たい殺人- エリオット・ルーズベルト | 2016/11/15 18:54 |
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(ネタバレなしです) 米国のエリオット・ルーズベルト(1910-1990)は第32代大統領フランクリン・ルーズベルトの息子で、1984年から史上最も有名なファースト・レディ(大統領夫人)のエレノア・ルーズベルトを主人公にしたミステリーのシリーズを書きました。いや、これは正しい紹介ではありません。なぜなら今ではウィリアム・ハリントン(1931-2000)による代作であることが判明しているのですから。ちなみにハリントンはこのシリーズをエリオットの死後も書きつづけました。本書は1987年発表のシリーズ第4作です。イギリス首相チャーチルの訪米を受けているホワイトハウスの冷蔵室から死体が発見されるというとんでもない事件が起こります。やはりホワイトハウスを舞台にしたマーガレット・トルーマンの「ホワイトハウスの殺人」(1980年)(これもハリントが書いた可能性があるらしいですが)を意識して書かれたかはわかりませんが、読みやすさでは本書が格段に上回っています。リアリティーについては何とも言えませんが、ホワイトハウスの描写やルーズベルト夫妻やチャーチルの人物描写は読者の興味を大いに引くでしょう(謎解きに参加しないのが残念ですがチャーチルが実に個性的です)。捜査はドメニク・デコンチーニを中心としたシークレット・サービスが行い、エレノアはほとんど前面には出ません。謎解きはしているものの本格派推理小説というよりはスパイ・スリラーに分類すべき作品で、エレノアがある手掛かりに着目したのも推理というよりは昔の記憶の勝利の印象を受けました。フィクションとはいえホワイトハウスの警備体制があまりにも隙だらけだったのはちょっと信じ難いですけど。それにしてもマーガレット・トルーマンといいエリオット・ルーズベルトといい、どうして大統領ファミリーはゴーストライターを使ってまでミステリーを発表しようとしたんでしょうね? |
No.1814 | 6点 | 伯林-一八八八年- 海渡英祐 | 2016/11/13 03:27 |
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(ネタバレなしです) 「海を渡った英雄」に由来するペンネームを使った海渡英祐(かいとえいすけ)(1934年生まれ)は国内スパイスリラーの人気が高まりつつあった1961年に「極東特派員」(私は未読です)でデビューして脚光を浴びますが、次に発表した「爆風圏」(1961年)(私は未読です)はどうも成功しなかったようでそれからしばらく沈黙して1967年に発表した第3作が本書です。今度はがらりと趣向を変えてタイトル通り作中時代を1888年、舞台をドイツ、森林太郎(後の森鴎外)とビスマルクという歴史上の人物を登場させた本格派推理小説です。kanamoriさんやisurrenderさんのご講評で指摘されているように発表当時はこういう歴史本格派は珍しかったと思います。若き留学生だった森の青春物語の要素も含んでおり、単なる第三者的な探偵役でないところがプロットで上手く活かされています。雪の降るドイツの古城で起こった密室殺人事件という古典的かつロマンチックな舞台も魅力的です。密室トリックはある意味不満もあるのですが決してトリックのためのトリックではなく、必要性まできちんと考え抜かれています。 |
No.1813 | 6点 | 夜の挨拶- 樹下太郎 | 2016/11/13 02:11 |
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(ネタバレなしです) 会社員を辞めて作家一筋を決意した作者が1960年に発表した長編ミステリー第2作の本格派推理小説です。推理の論理性は弱く、第5章で刑事が閃いた新たな可能性(それが正解なのですが)は思いつきが当たっただけという印象を受けます。第6章で明かされる犯人の秘密は普通に容疑者の身上調査していればもっと早くに発覚されるべきものでしょう。しかしそれらの問題点があまり気にならないのはプロットが充実しているからです。ある中小企業の新商品の企画がライバル会社にリークされ、やがて殺人事件にまで発生して社内社外の様々な人間模様が浮かび上がり謎が深まっていく展開がお見事です。人物視点を次々に変更する手法も効果的です。 |
No.1812 | 4点 | 緑の髪の娘- スタンリー・ハイランド | 2016/11/12 23:26 |
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(ネタバレなしです) 「国会議事堂の死体」(1958年)から長い空白を経て1965年に発表されたミステリー第2作の本格派推理小説で、織物工場の染料桶から緑色に染まった女性工員の死体が発見されるというショッキングな事件を扱っています。論創社版の巻末解説で評価が賛否両論の作品として紹介されていますが、その中で「性格描写も推理もない。だが容疑者は数多い」という評価に私は一票を投じたいです。刑事たちが手分けして捜査しているのですが場当たり的に容疑者が増えていくばかり、しかも被害者との関係が整理されていないので物語のだらだら感は相当なもの。この読みにくさはグラディス・ミッチェルといい勝負かも。読解力が読者平均を大きく下回る私には本書の英国風ユーモアを楽しむ余裕などありませんでした。 |
No.1811 | 6点 | 宛先不明- 鮎川哲也 | 2016/11/09 19:48 |
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(ネタバレなしです) 9人の作家による「産業推理小説シリーズ」(最終的には8人8作で終わった模様です)の1作として1965年発表に発表された鬼貫警部シリーズ第9作です。作者自身が「産業推理あるいは企業推理などの分野には興味も感じないし関心も持っていない」と述べていますが、会社内における派閥争いや企業秘密の漏洩などを取り入れているところが鮎川なりの産業推理なのでしょう。とはいえ本書はやはりアリバイ崩しの本格派推理小説として読むべき作品で、このシリーズでは珍しい郵便アリバイに挑戦しています。犯人がいきなり堅固なアリバイを主張するのではなく、警察が捜査を進めるほどにアリバイが強固になっていく展開が巧妙です。鬼貫の登場場面はかなり後半になってからです。 |
No.1810 | 5点 | 殺人ごっこ- 左右田謙 | 2016/11/08 11:24 |
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(ネタバレなしです) 左右田謙(そうだけん)(1922-2005)は本名を角田実といい、あの角田喜久雄と親戚関係の作家です。1950年頃に本名名義で作家デビューし、1961年発表の本格派推理小説である本書(当時は「県立S高校事件」というタイトルでした)から左右田謙名義の作品を発表するようになります。舞台は女子高ですが登場人物はほとんどが大人で青春物語要素は全くありません。校長によって失職に追い込まれたもと教師、謎の人物によって派遣され校長を殺害するよう指示されたにせ教師、そして当の校長とそれぞれが秘密或いは陰謀を胸に収めていることが描写され、やがて悲劇が起こります。後半になると乾刑事による地道な捜査描写となりますが、かなりの秘密が読者にとっては秘密ではないプロットなので読者が推理に参加する気分は味わえません。それでも明かされた真相には驚きのどんでん返しが用意されてあります。 |
No.1809 | 3点 | 殺人ツアーにご招待- マリアン・バブソン | 2016/11/08 11:18 |
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(ネタバレなしです) 1971年デビューのマリアン・バブソン(1929年生まれ)は米国の女性作家ですが英国に在住しており、1985年発表の本書も舞台は英国です。英国ならではのお屋敷ホテルを舞台にしてツアー客や役者が参加する推理劇の最中に本当の殺人事件が発生する本格派推理小説です。本当の犯罪が起きた後もなぜか推理劇は続行され、犯罪捜査とゲームの探偵活動がごちゃごちゃになるのが本書の特徴です。謎解きは伏線が十分でないままに唐突に犯人が明らかになります。扶桑社文庫版の登場人物リストが重要人物が何人も漏れていて不完全なのも残念です。 |
No.1808 | 6点 | 出雲神話殺人事件- 風見潤 | 2016/11/08 11:01 |
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(ネタバレなしです) 子供向けミステリー作家として名高い風見潤(1951-没年不詳)が一般読者向けに初めて書いた本格派推理小説で1985年に発表されています。作者あとがきによれば1970年代後半に発表された初期3作(私は未読です)のトリックが流用されているそうです。出雲地方の村に伝承される七不思議をなぞったような事件が次々起こります。初めはいたずらレベルですがやがて殺人事件に発展します。被害者が殺される理由が見当つかず、なぜ七不思議の見立て殺人にしたかの謎も探偵役の羽塚たかしを悩ませます。子供向けミステリーの経験が活きているのでしょう、文章は明快で物語のテンポも軽快です。出雲神話や地方歌舞伎、郷土料理描写など地方色もそれなりに豊かです。横溝正史の「悪魔の手毬唄」(1957年)を洗練させたような軽妙な作風ですが謎解きは実に手が込んだ充実作です。 |
No.1807 | 4点 | 検事燭をかかぐ- E・S・ガードナー | 2016/11/01 19:27 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のダグラス・セルビイシリーズ第2作で、後にセルビイのライバルとなるアイネズ・ステープルトン初登場の作品です。事件がちょっと変わっていて、殺人をもくろんでいた(らしい)男が犯行に及ぶ前に事故で死んだ(らしい)というものです。粘り強く捜査を進めるセルビイの前に立ちはだかるのが地元の権力者で、事件関係者かもしれない息子をかばってセルビイに圧力をかけまくります。権力に屈しないセルビイの姿勢描写に力を入れた作品で、そういう読み物としては面白いのですが謎解きの方がどうにも粗すぎます。推理よりもはったりで自白を引き出している印象が強く、前作の「検事他殺を主張する」(1937年)と比べると本格派推理小説としての面白さは後退してしまっています。 |
No.1806 | 5点 | スペードの女王- 横溝正史 | 2016/10/30 02:57 |
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(ネタバレなしです) 1958年発表の短編を1960年に長編化した金田一耕助シリーズ第20作の本格派推理小説です。内股にスペードのクイーンの刺青のある女性の首無し死体が見つかりますが、同じ刺青を持つ女性が2人いるらしくどちらが殺されたのかがわからないため容疑者も容易に絞り込めません。物語の途中で「案外簡単に事件は解決した」とか「事件は急転直下、解決にむかった」といった文章が挿入されていますが被害者の素性が確定するのはほとんど終盤という難事件です。金田一の推理は犯人の特徴を推論するプロファイリングに近いのですがこれでは犯人特定には弱く、結局犯人の自滅を待っての事件解決です。動機は完全に後出しでしかも強引な解釈だし、そもそも金田一が捜査に参加するきっかけとなった彫物師の死の謎が事故なのか殺人なのか(多分後者らしいですが)はっきりと説明されないのも不満です。 |
No.1805 | 4点 | ホワイトハウス殺人事件- マーガレット・トルーマン | 2016/10/27 13:40 |
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(ネタバレなしです) 米国のマーガレット・トルーマン(1924-2008)は第33代米国大統領ハリー・S・トルーマン(1884-1972)の娘で、1980年に本書を出版した時は大統領ファミリーがホワイトハウスで起こった殺人事件をテーマにした本格派推理小説を書いたと結構話題を集めたようです(日本でもすぐ翻訳出版されました)。しかし現在はこれについては疑問符がついてます。というのはトルーマンは本書の成功に自信を得て全部で25作(1作は死後出版)のミステリー(「Capital Crime」シリーズと呼ばれてます)を発表したのですが実は第2作以降は全てドナルド・ベイン(1935年生まれ)による代作であり、本書についても(証明はされていないものの)ウィリアム・ハリントン(1931-2000)による代作の可能性があるという何とも灰色な状況になってしまったのです(余談ですがベインはトルーマンの死後も遺族と契約して「トルーマン」の作品を書き続けています)。さて作品内容についてですが、殺人舞台はまさしくホワイトハウスでしかも被害者は国務長官という超大物ですが派手な描写は全くありません。特殊な場所ゆえに容疑者もすぐ絞り込まれそうですが、機会よりも動機に捜査の重点を置いたかのように被害者の人間関係をひたすら地味に調べていく展開が続きます。ドライな文体で淡々と(やや一本調子気味に)進行しますが最後は人間ドラマとして感情の高まりが描写されます。推理は物足りなく、謎解きの大半は自白頼りです。 |
No.1804 | 6点 | 浴室には誰もいない- コリン・ワトスン | 2016/10/23 04:21 |
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(ネタバレなしです) 1962年発表のパーブライト警部シリーズ第3作の本格派推理小説です。何と情報部員が登場して捜査に参加しているのが本書の特徴です。アガサ・クリスティーもエルキュール・ポアロシリーズの「複数の時計」(1963年)で同様の試みをしており、本書と読み比べるものも一興かもしれません。創元推理文庫版の巻末解説で説明されていますが、イアン・フレミングのジェイムズ・ボンドシリーズの世界的ヒットでスパイ小説が大人気だった時代だからこそ本書のような作品が生まれたのでしょうね。「笑える作品」、「コメディの花火」、「ファルス・ミステリ」と表現は違えどアントニイ・バークリー、ジュリアン・シモンズ、H・R・F・キーティングがユーモアミステリーとして高く評価していますが、クレイグ・ライスやジョン・ディクスン・カーのように派手で勢いのあるどたばたで笑わせるのとは違い、見解の相違やちょっとした皮肉からじわじわと醸成されるユーモアです。私のように理解力が弱い読者だと二度読み三度読みしないと作品のよさがぴんと来にくいかもしれません。謎解き説明ももう少し丁寧さが望まれます。 |
No.1803 | 5点 | ハリウッド的殺人事件- マリアン・バブソン | 2016/10/22 14:10 |
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(ネタバレなしです) 1986年発表の本格派推理小説で、もとハリウッド・スターの2人の女性を主人公にしていますが作品舞台は英国のロンドンです。高齢の2人ですが個性は強烈で、エヴァンジェリンは自分が目立つのが大好きで他人が目立つのが大嫌い、語り手のトリクシーはもう少し常識人ぽいけどタップダンスを踊りだしたり心配性の娘のマーサとどこか噛み合わない会話をしたりとこちらも目が離せないキャラクターです。この2人を中心にもとスターや演劇研究生たちが繰り広げるどたばた劇とミステリーを組み合わせており、どこかクレイグ・ライスを髣髴させるユーモア本格派です。どたばた描写で手一杯で謎解きとしては粗く、解決が唐突過ぎる感があります。主人公以外の登場人物も書き込み(説明)不足で、被害者のフィオーナって結局どういう人物だったのかよくわかりませんでした。 |
No.1802 | 5点 | 呪縛の沼- 鷲尾三郎 | 2016/10/18 13:33 |
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(ネタバレなしです) 1959年発表の三木要シリーズの本格派推理小説です。底なし沼の畔に建つ療養所で起こった密室殺人事件の謎解きを扱っています。第6章の人名表で20名を超す人物が紹介されていますが実のところ重要容疑者はごく一部です。もっともそれは読み進めないとわからないので無駄に人数が多過ぎる印象を受け、犯人を当てようとする意欲がわきにくくしているのが本格派としては弱点だと思います。三木の説明も丁寧ではありますが推理の過程がそれほど理路整然としているわけではありません。第14章の惨劇描写の凄まじさが1番記憶に残りました。 |
No.1801 | 4点 | ディフェンスをすり抜けろ- リチャード・ローゼン | 2016/10/14 12:20 |
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(ネタバレなしです) 1986年発表のハーヴェイ・ブリスバーグシリーズ第2作で、プロ野球界を引退したハーヴェイは私立探偵になっています。意外にも本書では野球界でなくバスケットボール界で起こった犯罪が扱われています。プロバスケットボール選手の相次ぐ失踪事件に端を発していますがこれが殺人事件に発展し被害者たちの過去、つまり学生バスケットボール界にまでハーヴェイの調査は広がります。ハーヴェイの捜査は丹念ですが殺人のきっかけになったと思われる過去の出来事に注目したのはほとんどヤマ勘に近いのが少々ご都合主義を感じさせます。前作の「ストライク・スリーで殺される」(1984年)は本格派推理小説とハードボイルドのジャンルミックス型ですが本書はハードボイルドに徹しており、痛快アクションを期待する読者にはお勧めできませんがきれいごとだけではないスポーツ界を描いたミステリーとしては貴重だと思います。 |
No.1800 | 6点 | 消えたボランド氏- ノーマン・ベロウ | 2016/10/10 19:31 |
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(ネタバレなしです) 1954年発表の本格派推理小説で、タイトル通り崖から飛び降りたはずのボランド氏が崖下に墜落することなくそのまま消えてしまうという不思議な謎が読者に提示されます。もっともメインの謎はむしろ人間関係にあり、ボランド氏も含めて3人もの正体不明の人物がいて、それ以外にもその正体を探って密告する男がいたりさらにその男の情報を密告する女がいるなどまともでなさそうな人間がぞろぞろです。これで裏社会の描写がもっとこってりしていたら本格派推理小説というより通俗スリラーになったかもしれません。作者の特色の一つであるオカルト演出は全くありませんが、代わりに素性の怪しい人物を何人も配して謎めいた雰囲気を盛り上げています。第25章ではユーモア溢れるどんちゃん騒ぎを起こしており、この作者がジョン・ディクスン・カーから強い影響を受けていることを再認識させられます。 |
No.1799 | 5点 | 屍衣を着た夜- 筑波耕一郎 | 2016/10/09 11:18 |
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(ネタバレなしです) 1977年発表の蓬田専介シリーズ第2作の本格派推理小説ですがシリーズ前作の「殺人は死の正装」(1976年)以上に専介の影が薄く、ワトソン役の木島逸平の地味な捜査に多くの筆を割いています。謎の発端は失踪事件で、読者を退屈させないようにと考えたのか雪の上に残された足跡が途中で消えていたという不可能趣味に彩られた謎を付加しています。トリックはわかりやすいものですが(作品名は忘れましたが)某ミステリー作品で痕跡をちゃんと調べれば見破られると説明されてたトリックで、しかも必要性がまるで感じられずトリックのためのトリックです。犯人の計画も本当にこんなんで犯罪が成功すると思ってたのかと聞きたいぐらい粗いと感じました。 |
No.1798 | 5点 | 白の恐怖- 鮎川哲也 | 2016/10/09 10:39 |
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(ネタバレなしです) 1959年発表の星影龍三シリーズ第2作の本格派推理小説で、雪の山荘を舞台にした連続殺人事件を扱っています。残った容疑者よりも死者の方が多いという、「りら荘事件」(1958年)の同工異曲的な作品ですが「りら荘事件」ではアリバイ成立など犯人を簡単に特定できないような難関を設定していたのに本書ではそういう工夫が足りず、まあ犯人はこの人だろうと予測しやすくなっています。星影の説明は真相はこうだという結果説明に過ぎず、江守森江さんや空さんのご講評で指摘されているように伏線を回収しての推理になっていないのが「りら荘事件」と比べて物足りません。読みやすい作品ですが荒削りな部分が多く、作者が改訂を検討していたというのも納得です(結局改訂は果たされませんでした)。 |