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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2813件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1753 6点 割れたひづめ- ヘレン・マクロイ 2016/09/22 01:40
(ネタバレなしです) 「殺す者と殺される者」(1957年)の後のマクロイはしばらく不調期だったようで1960年代にはわずか3作しか発表していません。その1つである本書(1968年出版)は「幽霊の2/3」(1956年)以来久々に書かれたベイジル・ウィリング博士シリーズ第12作の本格派推理小説でマクロイの本格派路線への復帰を期待させました(しかし本書に続くシリーズ次作はさらに12年待たねばならなかったのですが)。カーター・ディクスンの「赤後家の殺人」(1935年)を彷彿させる「死の部屋」が扱われており、特に前半部が素晴らしいです。オカルト的な雰囲気に加えて子供たちの陰謀と事件との絡ませ方など謎とサスペンスの盛り上げが見事です。魅力的な謎に比べるとトリックが平凡なのはちょっとがっかりだし、謎が解けたらハイ終わりという結末(後日談の類はありません)には物足りなさも感じますがなかなかの読み応えがありました。

No.1752 7点 ママのクリスマス- ジェームズ・ヤッフェ 2016/09/22 00:44
(ネタバレなしです) 1990年発表のママシリーズ第2作の本格派推理小説です。民族問題に宗教問題と大変重いテーマが突きつけられますが軽妙でユーモアを交えた文体のおかげでそれほど深刻さを感じさせないのはありがたいです。不真面目と非難されるかもしれませんけど私はミステリーをあくまでも娯楽作品として読んでいて社会問題を考えるのは別の時にしたいのです。本格派の謎解きに関してはさすがにヤッフェ、大変充実してます。ママをも恐れさせた「狂信者」には驚かされました。確かにあれは常人の理解を超越していますね。

No.1751 7点 ドーヴァー 4/切断- ジョイス・ポーター 2016/09/22 00:38
(ネタバレなしです) 1967年に発表された史上最低の探偵ドーヴァー警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。本書のドーヴァーは人の迷惑を顧みないところは相変わらずですが推理に関してはいつになく鋭くて迷探偵ではなくちゃんと名探偵ぶりを発揮していたように思えます。結末はちょっと他に例を見ない型破りなもので(私は目が点になりました)、最高傑作との評価に恥じません。それまで私はブラックユーモアというのをあまりよく理解していなかったのですが、本書を読んでああこれこそブラックユーモア以外の何物でもないと啓蒙されました。

No.1750 6点 月が昇るとき- グラディス・ミッチェル 2016/09/22 00:30
(ネタバレなしです) 1945年に発表されたミセス・ブラッドリーシリーズ第18作の本書はミッチェルの代表作と評されていますが、なるほどミッチェル作品としては読みやすくビギナー読者にもとっつきやすいと思います。少年サイモンの眼を通して描かれる冒険談風の展開が時に幻想性さえ感じさせます。ミセス・ブラッドリーの描写は例えば初期の「ソルトマーシュの殺人」(1932年)に比べるとエキセントリックな面はそれほど見られず少年たちへの接し方も常識的です。好き嫌いが分かれるでしょうが明確な謎解き解説をせずにサイモンと読者の判断に委ねたような結末も含めて独特の霞がかったような物語が印象に残ります。

No.1749 5点 迷路- フィリップ・マクドナルド 2016/09/21 10:56
(ネタバレなしです) 本格派推理小説の黄金時代には謎を解く手掛かりを全て読者に提示するというフェアプレー精神を強調することも少なくなく、「読者への挑戦状」とか「手ががり脚注」などはその典型例でしょう。1931年発表のゲスリンシリーズ第5作の本書で採られた手法もなかなかユニークです。ゲスリンが海の向こうで起きた事件の真相を送られて来た裁判記録から読み取ろうとするプロットで、捜査活動には一切参加せず事件関係者と会ったり話したりもしていません。完璧に読者と同等の立場に立っているわけです。この手法は心理描写が得意でないマクドナルドの弱点を巧妙にカバーしていますが、同時に動機(犯人の心理)の説明が勝手な解釈にしか感じられないというという欠点にもつながっています。本格派嫌いの読者はよく「本格派推理小説は人間が存在感がなくて物語として全然面白くない」と指摘しますが、本書はその弱点が如実に現れた典型的なパズル・ストーリーです。

No.1748 6点 パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー 2016/09/21 09:44
(ネタバレなしです) 1957年発表のミス・マープルシリーズ第7作の本書はトラベル・ミステリー風にスタートしますがそれはほんの最初だけ、実質的には田舎屋敷を舞台にした本格派推理小説です。ややゆったりした感じで展開しますが中盤からはサスペンスが盛り上がり、最後に列車の目撃談が解決に活きてくるという着地もはまっています。もっとも犯人指摘の場面で狙った効果が空振りしていたらどうするつもりだったんでしょうね?推理説明が論理的でなく、第一の殺人の動機が後づけ説明ではありますがなかなか楽しめました。

No.1747 4点 語らぬ講演者- レックス・スタウト 2016/09/21 09:05
(ネタバレなしです) 「遺志あるところ」(1940年)の後は第二次世界大戦の影響でしょうか久しく書かれなかったネロ・ウルフシリーズですが1946年にシリーズ第9作となる本書で復活です。既に殺人事件が起きてから48時間が経過したところから物語が開始されており、全てを後追いさせられるプロットは非常に読みづらいです。登場人物も多く、登場人物リストを作って関係整理しないと大変です。ある証拠品が鍵を握り、それを捜索することに全力を尽くしていますが推理による解決要素が少ないのは本格派推理小説好き読者には物足りないでしょう。

No.1746 5点 知恵の輪殺人事件- 山沢晴雄 2016/09/21 08:31
(ネタバレなしです) 砧順之助シリーズ第3長編の本格派推理小説で、シリーズ短編の「銀知恵の輪」(1952年)と「金知恵の輪」(1996年)と三部作を形成しているそうですが作品同士の関連性はなく、読む順番も特に問題にしていません。作中時代から推測すると1986年頃に書かれたようですが2000年にようやく同人誌で限定出版されています。ひたすらアリバイ崩しに徹しており(密室からの人間消失もありますが)、ほとんどの容疑者にアリバイが成立していてしかもどこか怪しいというプロットになっています。作者はトリックについて「安易な方法」だが「変化のあるストーリーができる」と自己弁護していますが複雑難解に過ぎたような気がします。「砧自身の事件」(2000年)以上に砧順之助の存在感が希薄なのも物足りません。

No.1745 4点 暗黒太陽の浮気娘- シャーリン・マクラム 2016/09/21 07:51
(ネタバレなしです) 米国の女性作家シャーリン・マクラム(1948年生まれ)の1988年発表の本書はミステリーらしからぬタイトル(英語原題は「Bimbos of the Death Sun」)の本格派推理小説です。このタイトル、主人公の新進SF作家のデビュー作のタイトルなんですが別にこのデビュー作が作中で重要な役割を果たすわけでもないのでどうしてこんなタイトルづけしたのか全く理解できません(SFファンの注目を集めるため?)。ルビコンというSFファンのためのイベントに大勢の人間が集まる中で起きた殺人事件の謎解きをしてますが、プロット自体にSF要素は全くありません。しかしSFファンのユーモアに満ちた言動描写が半端でなく、ミステリーならではの捜査や推理描写を完全に食っています。最後はなんとD&Dのプレー中に犯人が指摘されており、本書は果たしてミステリーファン向け作品なのかSFファン向け作品なのか私にはよくわかりませんでした。

No.1744 6点 騙し絵の檻- ジル・マゴーン 2016/09/19 03:08
(ネタバレなしです) 1987年発表の本書はマゴーンのミステリー第4作でシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。森英俊は本書を戦後ミステリーでベスト3クラス、法月倫太郎もクリスティー亡き後の25年間に登場したミステリーでベスト3クラスと手放しで大絶賛しています。高い評価の理由は黄金時代の本格派を彷彿させるような謎解きになっているからでしょう。終盤で主人公が事件関係者を集めて推理を披露しながら一人また一人と容疑者リストから外していく、エラリー・クイーンの国名シリーズのような展開を見せます。そしてかなり思い切ったどんでん返しがあるのですがここはもう少し説明を尽くしてほしかったですね。このどんでん返しは考えようによってはあまりに単純なだけになぜ警察の捜査で気づかなかったのかという十分な理由が必要ではないでしょうか。上手く騙されたと納得の敗北感を味わうよりも本当にそれってあり得たのかというもやもや感が残ってしまいました。

No.1743 4点 大聖堂は大騒ぎ- エドマンド・クリスピン 2016/09/19 02:36
(ネタバレなしです) 1945年発表のフェン教授シリーズ第2作で、豪快な密室トリックに手掛かり索引付きの謎解き、どたばた劇やオカルト要素まで織り込んだ贅沢な本格派推理小説ですが真相には不満を覚えました。ネタバレになるのでその理由を詳しく書けませんが動機に関する真相があれでは何でもアリの謎解きになってしまうと思います。書かれた時代を考慮するとこういうのもアリなのかもしれませんが。物語としてはユーモアも交えていますがどちらかというと悲劇的で救いのない読後感を残します。

No.1742 5点 ホッグ連続殺人- ウィリアム・L・デアンドリア 2016/09/19 02:26
(ネタバレなしです) 1979年発表のベイネディッティ教授シリーズの第1作である本書はデアンドリアの代表作として有名な本格派推理小説です。連続怪死事件が扱われているので謎も色々用意されていますが中でもストーブの前での凍死は秀逸です。ロナルド・A・ノックスの名作短編「密室の行者」(1931年)の食料を前にしての餓死を彷彿させる魅力的な謎にノックスとは全く異なる解答が提示されます。ただ全体としてはそれほど感銘を受ける謎解きではなかったし何よりも探偵役のベイネディッティ教授のキャラクターに全く共感できず、それほどのめり込めなかったです。タクシー運転手とのやり取りなんかは悪ふざけも度が過ぎると思います。

No.1741 5点 殺され急ぐ女たち- エマ・ダーシー 2016/09/19 02:04
(ネタバレなしです) オーストラリアのエマ・ダ-シーはフランク・ブレナン(1936-1995)とウェンディ・ブレナン(1940年生まれ)の夫婦によるロマンス小説家としてのペンネームです。フランクの死後もウェンディは作品を旺盛に書き続け、2001年から2003年にかけてタイトルに「Who Killed」を冠したミステリー三部作を発表しました。2002年に出版された、英語原題が「Who Killed Bianca?」の本書はその第2作です。豪華列車「ザ・ガン」に乗り込んだゴシップ記者のビアンカが殺され、偶然同じ列車に乗り合わせた女性ロマンス作家のK・C・ゴードンが探偵役となる本格派推理小説です。ロマンス作家としての経験が活きているのでしょう、登場人物の思惑、打算、不安、愛憎の描写はとても上手いです。もっとも心理描写に筆を割きすぎて物的な手掛かりが少ないのが謎解きとしてはやや弱く感じました。

No.1740 5点 死者の長い列- ローレンス・ブロック 2016/09/19 01:20
(ネタバレなしです) ほとんど本格派推理小説ばかり読み漁っている私が1994年発表のマット・スカダーシリーズ第12作である本書を読んだ理由は二見文庫版で本格派推理小説と謳っていたからです。特に派手なアクションシーンもなくスカダーの地道な足の探偵ぶりが描かれています。殺人かどうか明確でないままに連続怪死事件を調べるプロットはレックス・スタウトの「腰抜け連盟」(1935年)やレジナルド・ヒルの「薔薇は死を夢見る」(1983年)などを連想させます。しかし犯人の正体は意外と早い段階で明かされ、後はホワイダニットの謎と逃げた犯人をどう捕まえるかという展開で読ませます。犯人当ての謎解きとしては25章で手掛かりが一つ紹介されていますが、他の伏線については(あったとしても)スカダーは説明してくれないので推理という点では不満でした。最後のスカダーと犯人の会話シーンなんかいかにもハードボイルドならではといった感じで、あまり本格派を期待して読むと辛いかも。地味な物語を退屈させない文章力はさすがです。

No.1739 5点 子供の悪戯- レジナルド・ヒル 2016/09/18 08:36
(ネタバレなしです) 1984年発表のダルジールシリーズ第9作の本格派推理小説で、タイトルから少年少女が活躍するミステリーを期待する人がいるかもしれませんがそういう作品ではありません。といっても看板に偽りありというわけではなく、エピローグでタイトルの意味が明らかになります。このエピローグが非常に衝撃的で、明かされた秘密も意外性がありますがそれより度肝を抜かれたのがパスコー主任警部の行動。主役キャラの中で一番の常識人なのですが時にダルジール警視以上にとんでもないことやってくれますね。ウィールド部長刑事が危機を迎えるサイドストーリーに殺人事件の謎解きが食われているなどプロットにはやや不満がありますがあのエピローグだけは忘れられそうにありません。

No.1738 5点 ミステリー・マイル- マージェリー・アリンガム 2016/09/18 08:21
(ネタバレなしです) 1930年発表の本書はアルバート・キャンピオンシリーズ第2作で前作(1929年発表)では脇役扱いだったキャンピオンが初の主役を務めた作品です(このシリーズ、後年にもキャンピオンが脇役に回る作品が少なくありませんが)。内容は冒険スリラー小説で、アメリカのギャングのシミスター一味から命を狙われているらしいロベット判事とその家族をキャンピオンの提案で本土とは道1本で繋がって入る以外は塩沢地と泥地に囲まれたミステリー・マイル村にかくまうというプロットです。後年の作品のような人物描写の冴えや物語の深みはありませんがスピーディーな展開の読みやすい作品に仕上がっています。

No.1737 6点 さむけ- ロス・マクドナルド 2016/09/18 08:01
(ネタバレなしです) ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーによって米国ミステリー界で人気の高かったハードボイルド小説も1960年代に警察小説やスパイ小説が台頭するとその人気に翳りが見えてきました。皮肉なことにロス・マクドナルドはこの時期に作家としての絶頂期を迎えています。中でも1963年発表のリュウ・アーチャーシリーズ第11作の本書は作者自身や多くの読者から最高傑作として賞賛されています。「ウィチャリー家の女」(1961年)と共に本格派の謎解きも楽しめるハードボイルドとも評価されている作品です。アクションシーンは控え目、エログロ描写なし、プロットは過去の殺人事件まで遡っていく複雑なものとなっています。私の読んだハヤカワ文庫版の登場人物リストには過去の事件関係者が載っていなかったのでちょっとプロット展開に唐突感がありましたが、最終章で明かされる真相には唖然、そして沈黙を余儀なくされました。

No.1736 6点 左ききの名画- ロジャー・オームロッド 2016/09/18 07:46
(ネタバレなしです) 英国のロジャー・オームロッド(1920-2005)はミステリー作家としてデビューしたのは1970年代とやや遅いスタートながらその後は年2作近いペースで50作近い作品を発表しました。シリーズ探偵ものもありますが1988年発表の本書は非シリーズ作品です。最初はたった一枚の絵の真贋の謎だったのが段々とスケールアップして80枚を越える絵と絵を撮った写真までもが入り乱れてもう大変です(笑)。途中から何人もの部下を抱える悪役が登場し、名画を巡るスリラー小説風に展開しますが最後は手掛かりに基づく推理によって謎が解かれる異色の本格派推理小説です。プロットは複雑ですが文章は読みやすいです。

No.1735 7点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2016/09/18 07:23
(ネタバレなしです) 1935年発表のポアロシリーズ第9作の本格派推理小説で「謎のクイン氏」(1930年)のワトソン役サタスウエイトが登場するのが珍しいです。充実期の傑作の一つで横溝正史の某作品に影響を与えたようなトリックが使われています。ポアロの活動を控え目にしてアマチュア探偵団の活躍を描いたプロットも読み応えあります。動機もよく考え抜かれています。ところが驚いたことにクリスティ再読さんやHORNETさんのご講評で説明されているように創元推理文庫版とハヤカワ文庫版ではこの動機が微妙に異なっていました。個人的には創元推理文庫版の方が推理による解明がしっかりしているように思えます。あとタイトルですがそれほど芝居風でないとはいえ「三幕」なのですから米国版の「殺人」よりは英国版の「悲劇」の方がふさわしいように思います。

No.1734 4点 天狼星- 栗本薫 2016/09/17 04:21
(ネタバレなしです) 人肉を食らう怪人を手下に従えて猟奇的な殺人を次々に行うシリウス(天狼星)と名乗る極悪人と名探偵の対決を描いたスリラ-小説の「天狼星」三部作の1986年発表の第1作です。現代版切り裂きジャックを意識しており終盤にはエラリー・クイーンの「恐怖の研究」(1966年)を連想させる場面もあります。作者はよほど思い入れがあったのか後にはミュージカル化までしています(商業的には失敗したそうですが)。シリウスに対して防戦一方気味ながら名探偵の能力も相当なもので、変装の名人で格闘技に秀でてる上に第12章では窮地からの脱出にとんでもない能力を使っていたことが語られます。不思議でならないのはこの名探偵があの伊集院大介であることです。これまでの作品で築き上げたイメージとシリーズ第5作である本書のアクション探偵ぶりは合わない気がします。伊集院でない新しいキャラクターの名探偵を登場させてもよかったのではないでしょうか。グロテスク描写の多い中でシリーズ初登場の伊庭緑郎(いばろくろう。本書ではまだ23歳)のお間抜けぶりがちょっとした清涼剤の役割を果たしています。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2813件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)