皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] 誰もがポオを読んでいた エドワード・トリローニー&キャサリン・パイパー |
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アメリア・レイノルズ・ロング | 出版月: 2017年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 3件 |
論創社 2017年01月 |
No.3 | 6点 | おっさん | 2020/03/12 21:16 |
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ロバート・エイディ「不可能殺人ものに非ず。作中テーマとなっているエドガー・アラン・ポオと、「モルグ街の殺人」という章立てのせいもあって、よく密室ミステリと勘違いされるが、「モルグ街」が引き合いに出されるのは、死体の扱いかたが理由で(そう、煙突に押し込まれる)、それを除くと、この本は興味を引くものではない」(『Locked Room Murders』)
M.K.「Adey氏はあまり評価していないが、私の入手したコピーには著名なコレクターと思われる前所有者によるexcellent という読後感が記されていた。ポーの未発表原稿の発見とその盗難に端を発して、アモンティラードの樽、マリー・レジェの謎、モルグ街の怪事件といった名作に見立てた連続殺人が起こる。各章の題名にポーの名作を引用し、怪奇性も漂わせた究極のビブリオミステリであり、著者の意気込みが感じられる。行ったり来たりの推理も好ましく、短めの分量にトリックが凝縮している」(『ある中毒患者の告白~ミステリ中毒編』) 知る人ぞ知る、原書ミステリ読みの達人、M.K.氏の強力なプッシュで実現した、アメリカ・マイナー女流アメリア・レイノルズ・ロングの邦訳第一弾。巻末解説も、絵夢恵(えむ・けい)の名義で同氏が担当されています。 1944年の作で、原題は Death Looks Down (死が見下ろす)。これを、本邦の、ポオづくしの連続見立て殺人もの『だれもがポオを愛していた』(平石貴樹 1985)に合わせて、『誰もがポオを読んでいた』という訳題にしたのは、論創海外ミステリ編集部の遊び心でしょう。こういうの、筆者は好きだなあ。 だがしかし。 そのせいで、ガチのパズラーとしては絶品といっていい平石作品に比べられてしまうと、ロングは分が悪い。小説づくりの腕だけなら、両者どっこいどっこいなんですがねw 「貸本系アメリカンB級ミステリの女王」という触れ込みから想像されるほど、通俗に振り切った感じがなく(そこが、乱歩のそのテの作品の洗礼を受けた筆者には、逆にちょっと物足りない)意外にカッチリまとまっているぶん、どうしても“本格もの”としての論理面の緩さが目についてしまいます。――「すべての殺人がエドガー・アラン・ポオの小説を模したものでした。つまりこれは、単独犯であることを示しています」というセリフが、名探偵トリローニーの口から出てきますけど、これにはツッコミを入れたい読者が、とりわけ日本にはたくさんいるでしょうww 全体に、もう少し手を加えれば、描写を補えば良くなるのに、と思わせる箇所が散見するのが、「B級」たるゆえんか。 頑張れロング、と応援したくなる、不思議な魅力はあります。 というわけで、ひとまず、努力賞。 それにしても。(以下、妄想) 平石貴樹は、くだんの『だれもがポオを愛していた』を書く前に、本書の原作を読んでいたんじゃないか? 50年代以降、本国アメリカでも忘れ去られたマイナーなミステリ作家の未訳作品を、1948年生まれの日本人が読んでいた可能性は、普通ならゼロに近いでしょう。 しかし、相手は普通じゃない。英語に堪能な本格ミステリ好きのアメリカ文学者です。 たとえば、1979年に出た、ロバート・エイディの『Locked Room Murders』の第一版を、入手していたとしたら。前掲の文章から、アメリア・レイノルズ・ロングなる作家に、何やらエドガー・アラン・ポオをモチーフにした長編があるらしいことが分かります。彼は興味を持たないでしょうか? そしてそうなれば、海外の古書店を通じて本を探すという段階へ進んでも……おかしくはないのでは? おかしいよ、ですか。ハイ、すみません。 でも、平石版の「だれポオ」の基本着想が、ロング版の「誰ポオ」のパクリなどではなく、あたかも、弱点の改善とも思えるアクロバチックなものであることは、指摘しておきたいと思います。 偶然――かなあ? |
No.2 | 6点 | 人並由真 | 2017/02/20 15:57 |
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(ネタバレなし)
1940年代のペンシルバニア州。地元のフィラデルフィア大学の大学院に通う「ピーター」こと「私」=キャサリン・パイパーは学生ながらミステリ作家でもあり、すでにいくつかの現実の事件にも携わっていた。E・A・ポオの愛読者でもあるピーターは、ポオ研究家として高名なパトリック・ルアク教授の講義を受けるが、そんななか、先だって大学が購入したポオの直筆原稿が偽物ではないかという噂が流れる。さらにそれと前後してポオの短編『アモンティラードの酒樽』を想起させる状況で殺人が発生。やがて事件は、ポオの諸作に見立てた怪異な連続殺人劇に発展していく。 amazonの分類では2017年刊行扱いだが、実際には2016年の歳末に書店に並んだ、同年の論創海外クラシック路線をシメる一冊。 まあ<ポオ作品に見立てた連続殺人>というケレン味自体はとても素敵なものの、解説にもある通り登場人物がそろって無個性なキャラクターなので、せっかくのこの趣向が、次に殺される者は? 肝心の真犯人は? などのゾクゾク味にあまり繋がっていない感じもして、そこは残念。ルアク教授とライバル格っぽい、ポオが嫌いなもうひとりの文学教授オストランダー先生なんか描きようによっては、もっともっと美味しいキャラになったんじゃないかと思うんだけど。 連続殺人が続いて無事な関係者が減っていき、推理が循環する結果、犯人の意外性がどうしても生じにくくなってるのも弱点。それでも見立て連続殺人の進行を意識した劇中人物が、次はどのポオ作品に由来する殺人が起こるかと前もって考えるあたりなど、ちょっとだけブラックな愉快さも感じさせる(笑)。 とまれ真相の説明で特に心の琴線に響いたの、はさりげなく? 張ってあったいくつかの伏線で、その中には、ああ、なるほどと感心したものもちらほら。そういう部分はE・D・ホックの短編みたいで、確かによく出来ている。 総体的には、nukkamさんのおっしゃるとおり、とても端正な連続殺人劇の謎解きパズラーが楽しめた。このレベルなら1~2年に1冊ずつくらいは紹介してほしい気もするので、今後も邦訳をお願いします。 |
No.1 | 6点 | nukkam | 2017/01/16 04:58 |
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(ネタバレなしです) 1944年発表の犯罪心理学者トリローニーシリーズの本格派推理小説で、ミステリー作家キャサリン・パイパーも登場しています。エドガー・アラン・ポオの作品に見立てたような連続殺人という派手な設定の事件を扱ってはいますが、抑制の効いた文章表現のためか「安っぽい」とか「パルプ調の」とかの通俗スリラー色はそれほど強くありません。同時代のセオドア・ロスコーやハリー・スティーヴン・キーラーやアンソニー・アボットらの典型的なB級ミステリーに比べれば端正な本格派推理小説です。それでも後半になるほど不気味な雰囲気は盛り上がりますし、推理に次ぐ推理(その中には巧妙なミスリーディングもあります)が楽しめます。 |