皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
|
---|---|
平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.1825 | 5点 | 反逆者の財布- マージェリー・アリンガム | 2016/12/25 00:33 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1941年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第10作は記憶を失った上に警官殺しの容疑をかけられたキャンピオンが描かれた冒険スリラーです。キャンピオンが少しずつ記憶を取り戻しながら捜査と逃亡を繰り返すプロットで、ラッグやアマンダといったシリーズ常連キャラが謎の人物として記憶喪失中のキャンピオンの前に登場するのがなかなか新鮮です。第15章でキャンピオンが「どんな絵ができるのかを知らずにはめ絵合わせをやろうとしているのだ」と語っているように冒険スリラーにしてはもやもや感を長く引きずるストーリー展開ですが、最後にキャンピオンが明らかにした悪人たちのねらいはなかなか印象的です。 |
No.1824 | 5点 | 白妖鬼- 高木彬光 | 2016/12/23 06:22 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1952年発表の神津恭介シリーズ第4作の本格派推理小説です。神出鬼没の毛皮の女とか行方知れずの共産主義者とか元子爵の一族とか怪しげな人物を数多く登場させていますが被害者も含めて互いの関係が曖昧な状態が続きます。謎を深めるために意図的に曖昧にしているのでしょうけど、どこか散漫なプロットになってしまったような印象を受けました。タイトルに使われている白妖鬼の存在感も埋もれ気味です(殺人予告をしたり神津恭介を挑発したりと実は結構アピールしているのですけど)。後年の名作「人形はなぜ殺される」(1955年)を連想させるところがありますがプロットの整理と謎解きの切れ味で劣るのが惜しまれます。 |
No.1823 | 5点 | クリスマスの朝に- マージェリー・アリンガム | 2016/12/17 11:55 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 国内では2016年に独自に編集されたアルバート・キャンピオンシリーズ第3短編集で、収められた作品はわずか2作、17章構成で創元推理文庫版で200ページを越す「今は亡き豚野郎の事件」(1937年)と「クリスマスの朝に」(1950年」です。「今は亡き豚野郎の事件」は「判事への花束」(1936年)に次ぐシリーズ第8長編と位置づけられてもおかしくない作品なのですが英国本国でこそ単独で出版されたもののアメリカでは6つの短編と一緒に第1短編集(1937年)に収められたという微妙な中編扱いの(笑)本格派推理小説です。創元推理文庫版にはアガサ・クリスティーによる「マージェリー・アリンガムを偲んで」というエッセーも収めれてますが、そこでクリスティーがアリンガムの特徴として「幻想性と現実感の混在する味わい」を指摘していますが「今は亡き豚野郎の事件」はその特徴がよくでていると思います。ただそれは時に読みにくく、私がアリンガムに苦手意識を抱いている特徴でもあるのですが。いかにも短編らしい「クリスマスの朝に」は1種のアリバイ崩し作品で、謎解き自体は他愛もないのですがしみじみ感を残す結末が素晴らしい効果をあげています。 |
No.1822 | 5点 | 悪魔の水槽密室 「金子みすヾ」殺人事件- 司凍季 | 2016/12/11 21:23 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1996年発表の一尺屋遙シリーズ第5作の本格派推理小説です。どちらかといえばサブタイトルの「金子みすゞ殺人事件」の方が作品内容に合っているような気がしますが「水槽密室」の謎もなかなか魅力的です。トリックの着想も悪くないと思いますし密室にする理由も一応は考えられています。人物描写の弱さは相変わらずですが本書の場合は深刻に受け止めると気分が悪くなりそうな事件背景があり、深みのない文章はかえって正解だったように思います。これは賛否の分かれそうなところで、悲劇ドラマとしての重苦しさをもっと求める読者もいるでしょうけれど。 |
No.1821 | 5点 | アンジェリーナ・フルードの謎- R・オースティン・フリーマン | 2016/12/11 02:07 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1924年発表のソーンダイク博士シリーズ第7作の本格派推理小説です。失踪事件という短編ネタといってもいいのではという謎で(しかもフリーマンらしく飾り気のない文体で)長々と地道に引っ張ります。しかし多くの読者から批判されかねないこの大胆な真相を納得させるにはある程度の長さは必要だったのかもしれません。この仕掛けには無理があるのではとの疑惑が拭えない読者にソーンダイクが法医学者ならではの推理説明を最終章でしてくれます。とはいえこれからミステリーを読もうとする読者には(風変わり過ぎて)勧めにくいのであまり高得点は与えにくいですが。 |
No.1820 | 4点 | 東京トワイライトクロス- 風見潤 | 2016/12/10 23:27 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1987年発表の本書は失踪した娘の浩子を探しに上京した夫婦の捜査と浩子を知る大学生の絵里子が死体(正確には瀕死のけが人)に遭遇する事件を描いた冒険スリラーです。絵里子が単独で活躍するわけではなく大学生の仲間たちに結構助けられており、事件解決に1番貢献したのは絵里子よりも真弓の方ではないかと思います。最終章でなかなか複雑な秘密が明かされますが推理でなく証人が一堂に集まって判明するという結末なので本格派推理小説を期待しない方がいいでしょう(暴力団をあやつる黒幕がいたりしますし)。舞台が東京のあちこちを転々としますが観光ミステリー要素もあまりありません、 |
No.1819 | 5点 | 殺人交響曲- 蒼社廉三 | 2016/12/04 01:28 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1963年発表の長編第2作です。轢き逃げ事故で死んだヴァイオリン奏者が持っていた楽譜が散逸し、ばらばらに拾われた3枚を巡って様々な人間が入手しようと画策します。拾った側も善意の第三者にはならず、コン・ゲーム(騙し合い)の様相を呈する展開が前半です。直接的な官能描写こそ少ないですが男女間の乱れた関係描写が絡むところはkanamoriさんのご講評で指摘されているように通俗色が濃いです。後半になると新たな犠牲者が出てサスペンスが盛り上がりますし、前作の「紅の殺意」(1961年)と同様に容疑が転々として謎解きの興味も高まります。しかし明確な探偵役がおらず自白頼りの解決になっていることや重要証拠と思われる楽譜の暗号がきちんと読者に提示されていないなど、本格派推理小説として評価すると全部で3作書かれた長編ミステリーの中では1番劣ると思います。とはいえ悲劇的かつ印象的な締め括りなど人間ドラマとしてはなかなかの読み物に仕上がっています。 |
No.1818 | 4点 | おめかけはやめられない- A・A・フェア | 2016/12/03 08:40 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1960年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第20作です。ドナルドの活躍ばかりが目立つことも多いシリーズ作品ですが本書ではバーサも結構活躍しています。10万ドルの大金が盗まれ、5万ドルは取り返したが残りの5万ドルがまだ見つからない事件を扱います。ドナルドは見事に金を発見するのですが何者かの小細工でその金が消えてしまうのです。殺人事件まで起こり警察からの横槍をかいくぐりながらの捜査が続きます。容疑者は結構多いのですが登場場面の少ない人物が多くて誰が誰だかなかなか把握しきれず、散漫な印象のプロットです。推理による謎解き伏線の回収もほとんどなく、結果のみの真相説明に近いのも本格派推理小説好きの私には物足りませんでした。 |
No.1817 | 7点 | 肖像画(ポートレイト)- 依井貴裕 | 2016/11/23 20:33 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1995年発表の多根井理シリーズ第3作の本格派推理小説です。この作者がエラリー・クイーンを意識しているのは有名ですが、特に本書ではクイーン作品のパスティッシュを書こうとしたのではと思えるような場面が一杯です。クイーン作品に精通している読者なら次々に届けられる謎の贈り物、猫殺し、殺人シナリオ、犯人逮捕の場面などでクイーンの色々な作品の名前が頭に浮かぶのではないでしょうか。謎解きはちゃんと作者の独自性が発揮されており、「読者への挑戦状」の後で実に複雑な真相が丁寧に説明されます。犯人は当てられても何が起きたのかを完全正解するのは難しいと思いますが(ちなみに私は犯人も当たってません)、これぞ本格派の中の本格派と言える作品です。本格派(特にそのパズル要素)が苦手な読者には間違ってもお勧めできませんが。 |
No.1816 | 3点 | 女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険- ブリタニー・カヴァッラーロ | 2016/11/19 06:39 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) アメリカの女性作家ブリタニー・カヴァッラーロ(1986年生まれ)の2016年発表のデビュー作で、あのシャーロック・ホームズの子孫であるシャーロット・ホームズとジョン・H・ワトソンの子孫であるジェームズ(ジェイミー)・ワトソンの出会いの物語です。ヴィクトリア朝のイギリスで書かれたコナン・ドイルのホームズシリーズと21世紀のアメリカで書かれた本書(舞台もアメリカの高校です)では作風が全然違うのは当然なのですが、それにしてもホームズ物語のパスティーシュで高校生の2人を主役にしているのですからもう少し万人受けする要素があってもよいのではと思います。初期のドイル作品でもシャーロックが麻薬癖があったことが描かれているとはいえ本書でのシャーロットを同じ設定にする必要性はないと思うし、性的暴行を受けた経験があるというのも無用に物語を重く暗くしています。個人の能力では解決しようのない事件を扱って、シャーロットの兄マイロの所属する秘密組織の力を借りて犯人(というより敵)を闇に葬るというスリラー小説プロットだったのも探偵のデビューとしては個人的には感心できません。 |
No.1815 | 5点 | ホワイトハウスの冷たい殺人- エリオット・ルーズベルト | 2016/11/15 18:54 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 米国のエリオット・ルーズベルト(1910-1990)は第32代大統領フランクリン・ルーズベルトの息子で、1984年から史上最も有名なファースト・レディ(大統領夫人)のエレノア・ルーズベルトを主人公にしたミステリーのシリーズを書きました。いや、これは正しい紹介ではありません。なぜなら今ではウィリアム・ハリントン(1931-2000)による代作であることが判明しているのですから。ちなみにハリントンはこのシリーズをエリオットの死後も書きつづけました。本書は1987年発表のシリーズ第4作です。イギリス首相チャーチルの訪米を受けているホワイトハウスの冷蔵室から死体が発見されるというとんでもない事件が起こります。やはりホワイトハウスを舞台にしたマーガレット・トルーマンの「ホワイトハウスの殺人」(1980年)(これもハリントが書いた可能性があるらしいですが)を意識して書かれたかはわかりませんが、読みやすさでは本書が格段に上回っています。リアリティーについては何とも言えませんが、ホワイトハウスの描写やルーズベルト夫妻やチャーチルの人物描写は読者の興味を大いに引くでしょう(謎解きに参加しないのが残念ですがチャーチルが実に個性的です)。捜査はドメニク・デコンチーニを中心としたシークレット・サービスが行い、エレノアはほとんど前面には出ません。謎解きはしているものの本格派推理小説というよりはスパイ・スリラーに分類すべき作品で、エレノアがある手掛かりに着目したのも推理というよりは昔の記憶の勝利の印象を受けました。フィクションとはいえホワイトハウスの警備体制があまりにも隙だらけだったのはちょっと信じ難いですけど。それにしてもマーガレット・トルーマンといいエリオット・ルーズベルトといい、どうして大統領ファミリーはゴーストライターを使ってまでミステリーを発表しようとしたんでしょうね? |
No.1814 | 6点 | 伯林-一八八八年- 海渡英祐 | 2016/11/13 03:27 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 「海を渡った英雄」に由来するペンネームを使った海渡英祐(かいとえいすけ)(1934年生まれ)は国内スパイスリラーの人気が高まりつつあった1961年に「極東特派員」(私は未読です)でデビューして脚光を浴びますが、次に発表した「爆風圏」(1961年)(私は未読です)はどうも成功しなかったようでそれからしばらく沈黙して1967年に発表した第3作が本書です。今度はがらりと趣向を変えてタイトル通り作中時代を1888年、舞台をドイツ、森林太郎(後の森鴎外)とビスマルクという歴史上の人物を登場させた本格派推理小説です。kanamoriさんやisurrenderさんのご講評で指摘されているように発表当時はこういう歴史本格派は珍しかったと思います。若き留学生だった森の青春物語の要素も含んでおり、単なる第三者的な探偵役でないところがプロットで上手く活かされています。雪の降るドイツの古城で起こった密室殺人事件という古典的かつロマンチックな舞台も魅力的です。密室トリックはある意味不満もあるのですが決してトリックのためのトリックではなく、必要性まできちんと考え抜かれています。 |
No.1813 | 6点 | 夜の挨拶- 樹下太郎 | 2016/11/13 02:11 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 会社員を辞めて作家一筋を決意した作者が1960年に発表した長編ミステリー第2作の本格派推理小説です。推理の論理性は弱く、第5章で刑事が閃いた新たな可能性(それが正解なのですが)は思いつきが当たっただけという印象を受けます。第6章で明かされる犯人の秘密は普通に容疑者の身上調査していればもっと早くに発覚されるべきものでしょう。しかしそれらの問題点があまり気にならないのはプロットが充実しているからです。ある中小企業の新商品の企画がライバル会社にリークされ、やがて殺人事件にまで発生して社内社外の様々な人間模様が浮かび上がり謎が深まっていく展開がお見事です。人物視点を次々に変更する手法も効果的です。 |
No.1812 | 4点 | 緑の髪の娘- スタンリー・ハイランド | 2016/11/12 23:26 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 「国会議事堂の死体」(1958年)から長い空白を経て1965年に発表されたミステリー第2作の本格派推理小説で、織物工場の染料桶から緑色に染まった女性工員の死体が発見されるというショッキングな事件を扱っています。論創社版の巻末解説で評価が賛否両論の作品として紹介されていますが、その中で「性格描写も推理もない。だが容疑者は数多い」という評価に私は一票を投じたいです。刑事たちが手分けして捜査しているのですが場当たり的に容疑者が増えていくばかり、しかも被害者との関係が整理されていないので物語のだらだら感は相当なもの。この読みにくさはグラディス・ミッチェルといい勝負かも。読解力が読者平均を大きく下回る私には本書の英国風ユーモアを楽しむ余裕などありませんでした。 |
No.1811 | 6点 | 宛先不明- 鮎川哲也 | 2016/11/09 19:48 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 9人の作家による「産業推理小説シリーズ」(最終的には8人8作で終わった模様です)の1作として1965年発表に発表された鬼貫警部シリーズ第9作です。作者自身が「産業推理あるいは企業推理などの分野には興味も感じないし関心も持っていない」と述べていますが、会社内における派閥争いや企業秘密の漏洩などを取り入れているところが鮎川なりの産業推理なのでしょう。とはいえ本書はやはりアリバイ崩しの本格派推理小説として読むべき作品で、このシリーズでは珍しい郵便アリバイに挑戦しています。犯人がいきなり堅固なアリバイを主張するのではなく、警察が捜査を進めるほどにアリバイが強固になっていく展開が巧妙です。鬼貫の登場場面はかなり後半になってからです。 |
No.1810 | 5点 | 殺人ごっこ- 左右田謙 | 2016/11/08 11:24 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 左右田謙(そうだけん)(1922-2005)は本名を角田実といい、あの角田喜久雄と親戚関係の作家です。1950年頃に本名名義で作家デビューし、1961年発表の本格派推理小説である本書(当時は「県立S高校事件」というタイトルでした)から左右田謙名義の作品を発表するようになります。舞台は女子高ですが登場人物はほとんどが大人で青春物語要素は全くありません。校長によって失職に追い込まれたもと教師、謎の人物によって派遣され校長を殺害するよう指示されたにせ教師、そして当の校長とそれぞれが秘密或いは陰謀を胸に収めていることが描写され、やがて悲劇が起こります。後半になると乾刑事による地道な捜査描写となりますが、かなりの秘密が読者にとっては秘密ではないプロットなので読者が推理に参加する気分は味わえません。それでも明かされた真相には驚きのどんでん返しが用意されてあります。 |
No.1809 | 3点 | 殺人ツアーにご招待- マリアン・バブソン | 2016/11/08 11:18 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1971年デビューのマリアン・バブソン(1929年生まれ)は米国の女性作家ですが英国に在住しており、1985年発表の本書も舞台は英国です。英国ならではのお屋敷ホテルを舞台にしてツアー客や役者が参加する推理劇の最中に本当の殺人事件が発生する本格派推理小説です。本当の犯罪が起きた後もなぜか推理劇は続行され、犯罪捜査とゲームの探偵活動がごちゃごちゃになるのが本書の特徴です。謎解きは伏線が十分でないままに唐突に犯人が明らかになります。扶桑社文庫版の登場人物リストが重要人物が何人も漏れていて不完全なのも残念です。 |
No.1808 | 6点 | 出雲神話殺人事件- 風見潤 | 2016/11/08 11:01 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 子供向けミステリー作家として名高い風見潤(1951-没年不詳)が一般読者向けに初めて書いた本格派推理小説で1985年に発表されています。作者あとがきによれば1970年代後半に発表された初期3作(私は未読です)のトリックが流用されているそうです。出雲地方の村に伝承される七不思議をなぞったような事件が次々起こります。初めはいたずらレベルですがやがて殺人事件に発展します。被害者が殺される理由が見当つかず、なぜ七不思議の見立て殺人にしたかの謎も探偵役の羽塚たかしを悩ませます。子供向けミステリーの経験が活きているのでしょう、文章は明快で物語のテンポも軽快です。出雲神話や地方歌舞伎、郷土料理描写など地方色もそれなりに豊かです。横溝正史の「悪魔の手毬唄」(1957年)を洗練させたような軽妙な作風ですが謎解きは実に手が込んだ充実作です。 |
No.1807 | 4点 | 検事燭をかかぐ- E・S・ガードナー | 2016/11/01 19:27 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1938年発表のダグラス・セルビイシリーズ第2作で、後にセルビイのライバルとなるアイネズ・ステープルトン初登場の作品です。事件がちょっと変わっていて、殺人をもくろんでいた(らしい)男が犯行に及ぶ前に事故で死んだ(らしい)というものです。粘り強く捜査を進めるセルビイの前に立ちはだかるのが地元の権力者で、事件関係者かもしれない息子をかばってセルビイに圧力をかけまくります。権力に屈しないセルビイの姿勢描写に力を入れた作品で、そういう読み物としては面白いのですが謎解きの方がどうにも粗すぎます。推理よりもはったりで自白を引き出している印象が強く、前作の「検事他殺を主張する」(1937年)と比べると本格派推理小説としての面白さは後退してしまっています。 |
No.1806 | 5点 | スペードの女王- 横溝正史 | 2016/10/30 02:57 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1958年発表の短編を1960年に長編化した金田一耕助シリーズ第20作の本格派推理小説です。内股にスペードのクイーンの刺青のある女性の首無し死体が見つかりますが、同じ刺青を持つ女性が2人いるらしくどちらが殺されたのかがわからないため容疑者も容易に絞り込めません。物語の途中で「案外簡単に事件は解決した」とか「事件は急転直下、解決にむかった」といった文章が挿入されていますが被害者の素性が確定するのはほとんど終盤という難事件です。金田一の推理は犯人の特徴を推論するプロファイリングに近いのですがこれでは犯人特定には弱く、結局犯人の自滅を待っての事件解決です。動機は完全に後出しでしかも強引な解釈だし、そもそも金田一が捜査に参加するきっかけとなった彫物師の死の謎が事故なのか殺人なのか(多分後者らしいですが)はっきりと説明されないのも不満です。 |