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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2005 4点 <稲妻>連鎖殺人- 吉岡道夫 2018/05/29 19:10
(ネタバレなしです) シナリオライターや劇画家として活躍していた吉岡道夫(1933年生まれ)がミステリー作家に転身して1990年発表したデビュー作の本格派推理小説です(当初のタイトルは「メビウスの魔魚」です)。発表時期は綾辻行人を筆頭とする新本格派推理小説全盛時代ですが、講談社文庫版の巻末解説はむしろ1960年代の「新本格派」と共通性があると評価しています。私は国内ミステリーをあまり読んでいないので2つの「新本格派」の違いもよくわからないのですが、本書は読者が犯人やトリックを自力で当てるパズル要素はほとんどない本格派です。錦鯉の愛好家の失踪と錦鯉の生産者の殺人事件、被害者が手塩にかけて育てた不世出の錦鯉「稲妻」と錦鯉を巡っての謎解きですが、多彩な人間関係描写や政治家の捜査への横槍など他にも色々な要素を詰め込んでいます。その割にすっきりして読みやすいのはよいのですが、それぞれの要素がメリハリなく並べられただけという印象が拭えません。通俗描写も好き嫌いが分かれそうです。

No.2004 5点 ロードシップ・レーンの館- A・E・W・メイスン 2018/05/26 23:08
(ネタバレなしです) 19世紀にデビューしたA・E・W・メイスン(1865-1948)の最後の作品となったのが1946年発表の本書でアノーシリーズ第5作でもあります。このシリーズで唯一イギリスを舞台にした作品でフランス人のアノーがとんちんかんな英語を何度も披露しているのが特徴の一つですが、都筑道夫の「キリオン・スレイの敗北と逆襲」(1983年)でのキリオンの怪しげな日本語と同じく度が過ぎて物語のテンポを悪くしてしまったように思います(論創社版でこれを再現しようとかなり苦労しているのは努力賞ものですけど)。失踪と出現を繰り返す謎の人物と殺人事件の関係が整理不十分で、会話も時に誰が話しているのかわかりにくく(私の読解力の弱さもいけないのですが)どうにも読みにくかったです。冒険スリラー風になったり終盤に犯人視点での事件再現場面を挿入しているところはこの作者らしいですが、本格派推理小説としては回りくどいと感じる読者もいるかもしれません。

No.2003 5点 キプロスに死す- M・M・ケイ 2018/05/26 21:57
(ネタバレなしです) インド生まれの英国の女性作家メアリー・マーガレット・ケイ(1908-2004)は歴史小説、児童書(何作かはイラストも自作です)、ラジオドラマ脚本なども書いていますが、軍人の夫に帯同して海外諸国で生活した経験を基に外国を舞台にしたミステリーを1953年から1960年の間に6作残しました。1956年発表の本書(英語原題は「Death Walked in Cyprus」)はミステリー第2作です(ハヤカワミステリ文庫版では1984年出版と記載されていますがこれは「Death In Cyprus」に改題出版された年です)。ロマンチック・サスペンスと本格派推理小説のジャンルミックスタイプです。人物描写や舞台描写は上手いし(個人的には主人公にいまひとつ共感しにくかったですけど)、謎解き伏線も意外と豊富に用意されていてなかなか楽しめました。とはいえ本格派推理小説としてはジュリア殺しのあまりにも残念なトリック(ピーター・ラヴゼイも使っていたと思う)に減点評価せざるを得ませんが。

No.2002 6点 吠える犬- E・S・ガードナー 2018/05/26 21:09
(ネタバレなしです) 1934年発表のペリイ・メイスンシリーズ第4作の本格派推理小説です。隣家の犬が吠えてうるさい、いや吠えていないというミステリーネタとして食指が動きそうにない問題で幕開けしますがメイスンは結構大真面目に取り組んでます。依頼人が駆け落ち(?)でいなくなってしまいメイスンは新たな依頼人を見つけてきますが、最初の依頼人の利益を損ねる可能性があるからと複数の依頼を引き受けるのに慎重な後年作品のメイスンとは少し違いますね。また弁護士の信条についてメイスンが何度も熱く語っているのが印象的ですが、依頼人を守るためとはいえ相当過激な手法をとってます。謎解きはかなり粗く、18章でメイスンが語る真相の一部には驚かされますが推理の根拠をほとんど説明していないので合理的とは言えても論理的とは言えないように思います。なお最後に生きるか死ぬかの問題を抱えているらしい女性の訪問で「奇妙な花嫁」(1934年)へ続くという幕切れにしていますがこの場面、新潮文庫版では読めますが創元推理文庫版とハヤカワポケットブック版では削除されています(創元推理文庫版ではその場面は「義眼殺人事件」(1935年)に挿入されています。でもそれだと出版順と矛盾してるんですけどね)。

No.2001 6点 人体密室の犯罪- 由良三郎 2018/05/21 09:05
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説で、病院を舞台にして登場人物の大半も医療関係者にしているところは医学者だった作者らしいですね。当初のタイトルは「円周率πの殺人」でしたが改題したのは正解だと思います。外傷は見つからないのに胃と腸が切り離されて死んでしまうという前代未聞のトリックに挑戦です。とても自然死では押し通せそうになく、実行可能な人間が絞られるなど犯人にデメリットしかなさそうなトリックですが作者の挑戦意欲を買いましょう。トリックが(当時としては)先進的なアイデアなのに対して動機が泥臭いまでに古典的(というか通俗的)なのが印象的です。犯人当てとしては自白便りになっているところが少々物足りないですが。

No.2000 5点 ムッシュウ・ジョンケルの事件簿- M・D・ポースト 2018/05/19 02:22
(ネタバレなしです) 1923年発表の本書は中編「異郷のコーンフラワー」(短編2作分の分量です)と11作の短編から成る短編集で、パリ警視総監のジョンケル氏が活躍します(もっとも警察官としての捜査描写はほとんどありませんが)。舞台はフランスだけでなくイギリス、スイス、ベルギー、そして真相が有名な「大暗号」(1921年)ではアフリカのコンゴと多岐に渡ります。舞台以上に多彩なのがプロットで、何が起きているのかさえわからない作品も少なくありません。本格派推理小説として明快な筋立ての多かったアンクル・アブナーシリーズとは対照的で、チェスタトンのブラウン神父シリーズほどではないにしろ回りくどくて読みにくさを覚える時がありました。何の伏線もなく真相が明らかになるので意外というより唐突感の方が強かったです。

No.1999 5点 人喰い- 笹沢左保 2018/05/15 00:57
(ネタバレなしです) 1960年発表の長編ミステリー第4作の本格派推理小説です。企業における労使の対立を描いたり、失踪して殺人容疑者となった姉の無実を証明しようとする妹を主人公にしたりと当時人気の高かった社会派推理小説の影響が色濃くにじみ出ています。この作者らしくトリックもありますが、アマチュア探偵となった主人公の推理が時にミスディレクションの役割を果たしているところが工夫になっていてトリックよりもプロットで勝負した作品だと思います。1960年の初期4作の中では謎解きの出来では劣るように感じますが、物語性では1番充実していると思います(主人公の不幸が強調された物語ですが)。

No.1998 5点 雪の夜は小さなホテルで謎解きを- ケイト・ミルフォード 2018/05/11 09:05
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ケイト・ミルフォードが2014年に発表した本書は創元推理文庫版の巻末解説で紹介されているように色々な要素を詰め込んでいますが、個人的には冒険小説とファンタジー小説の要素が強いように思います。アメリカ探偵作家クラブ賞のジュブナイル部門で最優秀賞を獲得したそうですが、雰囲気はライトながらどうもごちゃごちゃして読みにくかったです。主人公のマイロとメディがロールプレイイングゲームのキャラクター(ネグレとサイリン)を演じるのですが、4つの名前が入り乱れるのは無用な混乱を招いただけに感じました。ホテルの見取り図も欲しかったですね。ミステリーとしては小さな謎を小出しにされていて焦点が定めにくく、11章の終わりのマイロの推理説明はまずまず読ませますが12章での驚愕の事実の前に謎解き興味は吹っ飛びます。日本語タイトルから謎解きにあまり期待をかけるとがっかりするかもしれません(英語原題は「Greenglass House」です)。

No.1997 6点 卑弥呼の殺人- 篠田秀幸 2018/04/27 09:41
(ネタバレなしです) 2005年発表の弥生原公彦シリーズ第9作の本格派推理小説で、歴史の謎解きと現代事件の謎解きの二本立てというのは「法隆寺の殺人」(2001年)以来です。歴史の謎は高木彬光の「邪馬台国の秘密」(1973年)でも扱われていた「邪馬台国はどこにあったか」という謎で、高木説に松本清張説まで引用して考証しています。作中に20以上の図表が登場しますが現代事件に関する図表はわずか2つですので歴史の謎解きに相当力が入っていることがわかりますが、付随的に見える現代事件の謎解きもある意味「究極のミステリー」を狙った大胆な仕掛けが用意されていました。この仕掛けと「読者への挑戦状」が両立しているのか微妙な気もしますが、往々にして読者が馬鹿にされたと感じてしまうところを馬鹿にされたのはワトソン役であると感じさせるように工夫していてそれほど不満は覚えませんでした。但し弥生原が「究極の密室トリック」と自賛しているトリックが先輩作家トリックのもろパクリなのは許さん(笑)。

No.1996 5点 間に合わせの埋葬- C・デイリー・キング 2018/04/20 09:10
(ネタバレなしです) 1940年発表のABC三部作(出版はCABの順)の最終作となった本格派推理小説で、ミステリー作家としてのキング(1895-1963)はこの後は短編を散発的に発表したのみでした。英語原題が「Bermuda Burial」とあるように舞台は北大西洋のバミューダで、情景描写はそれほどでもありませんがプロットの中でバミューダを選んだ理由づけがしっかりしています。誘拐予告に端を発していますが事件がなかなか起きない展開はやや冗長に感じました。論創社版の巻末解説は不可能犯罪、フェアプレイ、多重解決を期待する読者には不満の残る内容と厳しい論調ですが、確かに殺人事件に関する説明があまりに短くて推理説明として不十分だったりしてますが「いい加減な遺骸」(1937年)のように(トリックの)ひどさが突出しているほどではありません。ロード警視が女性にめろめろになって捜査に冴えがないのが印象的で、探偵役の恋愛を絡めたミステリーの先駆的作品であるE・C・ベントリーの「トレント最後の事件」(1913年)が頭に浮かびました。

No.1995 4点 二十世紀鉄仮面- 小栗虫太郎 2018/04/15 12:24
(ネタバレなしです) 法水麟太郎シリーズは長編2作と短編数作が書かれましたが、1936年発表の本書がシリーズ長編第2作です。奇書と評価されている「黒死館殺人事件」(1935年)はヴァン・ダインの影響が明らかな本格派推理小説ですが本書は「探偵小説から極力離れようとして」書かれた冒険スリラー系で、作者は「新伝奇小説」と銘打っています(但し推理による謎解きも少しあります)。冒頭で伝染病による死亡事件が発生しますが法水はこれをある人物による人為的な事件であると断じます。その手段についてはほとんど説明されませんが動機のとてつもなさには驚かされ、巨大な悪の存在であることが早い段階で印象づけられます。もっともこの悪の主人公、それなりの数の部下がいますが結構自ら前面に出て法水と直接対決しているし、時に二人が休戦状態になったりと単純な敵対関係でないところがユニークです。また法水が感情的になる描写がかなりあることも「黒死館殺人事件」と大きく異なります。「黒死館殺人事件」に比べれば読みやすい作品ですが、それでも癖のある文章のおかげで物語の変化についていくのは非常に苦労しました。

No.1994 5点 葬儀屋の次の仕事- マージェリー・アリンガム 2018/04/12 08:25
(ネタバレなしです) 1948年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第12作の本格派推理小説で、後期のシリーズ作品で活躍するルーク(本書ではロンドン警視庁分区暑の署長)が初登場します。論創社版の巻末解説で非常に適切に説明されているように「文体や表現が単純でない」「会話はちぐはぐ」「読者にとってなじみのない固有名詞がいきなり出てくる」など私には難解な作品でした。一方でミステリー雑誌「EQ」の「代表作採点簿」で「プロット」8点、「登場人物描写」9点、「読みやすさ」9点と高く評価する向きもあり、読者を選ぶ作品のようです。馬車を自動車で追跡する場面や毒殺の機会についてのキャンピオンの説明などレトロと(当時の)モダンが入り混じったような何とも不思議な印象を残します。

No.1993 4点 殺意の絆- 島田一男 2018/04/07 22:26
(ネタバレなしです) 8冊の長編と1冊の短編集が発表された南郷弁護士シリーズの最後の長編として「去来氏曰く」(後に「夜の指揮者」に改題」)(1960年)から大分間を開けて1970年に出版されました。このシリーズには「上を見るな」(1955年)や「その灯を消すな」(1957年)といった命令形のタイトルが印象的な作品がありますが、本書も発表時には「ふざけるな」という唖然とするようなタイトルでした。そのタイトルに見合った内容かというと微妙なのですが。光文社文庫版の巻末解説(家系図が親切です)で「軽佻な風俗性を背景にしている」と評価しているように(用語が時代の古さを感じさせますが)フーテン、ゲバルト学生、アングラ喫茶、(直接的な摂取描写はないものの)阿片、大麻、シンナーが登場し、高級人形制作の名門一族を登場させながらその当主(9代目)が後継者候補のフリーセックスを容認しているという乱れた人間関係です。本格派推理小説ではありますが通俗色があまりにも濃いのは好き嫌いが分かれそうです。締め括りはシリアスかつ重苦しく終わらせていますが。

No.1992 5点 盗まれたフェルメール- マイケル・イネス 2018/04/04 08:59
(ネタバレなしです) 1952年発表のアプルビイシリーズ第13作で、「ハムレット復讐せよ」(1937年)の登場人物が再登場しています。死んだ画家の遺作展示会での絵画盗難に端を発し、その画家は殺されたらしいこと、問題の絵画には思わぬ秘密が隠されていたことがわかる展開には本格派推理小説らしさもありますが、事件が組織犯罪であることが確実視される後半はアクションシーンも挿入されるスリラー小説に変貌します。本書のアプルビイは警視監という地位にあり、本来なら捜査指揮をとる立場だと思いますが何と単身で敵地に乗り込むような展開になってサスペンスが盛り上がります。アプルビイの妻ジュディスも巻き込まれてスリル感はさらに加速します。最後にはアプルビイによる真相説明があって驚くべき秘密が明かされますが、本格派のように謎解き伏線を回収しての推理説明ではないのがちょっと残念。

No.1991 4点 QED 出雲神伝説- 高田崇史 2018/04/01 05:24
(ネタバレなしです) 2008年発表の桑原崇シリーズ第15作の本格派推理小説です。現代の謎解きと歴史や宗教の謎解きが組み合わされ、後者の方に力が入っているのはこのシリーズならではの特徴です。もう10作以上このシリーズを読んだので自分は学問的な謎解きは肌に合わないなどという不平は今さら表明しませんけど(してるじゃん)、それにしたって現代の謎解きで事件現場に残された紋章の真相がご都合主義的というかいくらでも他の解釈も可能ではという程度の説得力しかないのは何とかならなかったのでしょうか。

No.1990 6点 湖畔の殺人- フランセス&リチャード・ロックリッジ 2018/03/31 22:57
(ネタバレなしです) 劇評論家として有名な米国のリチャード・ロックリッジ(1898-1982)とその妻フランセス・ロックリッジ(1890-1963)はコンビ作家としてノース夫妻シリーズやヘイムリッチ警部シリーズなど50作近いミステリーを書きました。フランセスの死後もリチャードは単独で更に20作以上発表しています。特に人気が高かったのが出版社社長のジェラルドとその妻パメラのノース夫妻シリーズです。デビュー作は「ノース夫妻」(1936年)という非ミステリーのコメディー短編集でしたが1940年発表の長編第1作からはミステリーシリーズになりました。1941年発表の本書はシリーズ第2作長編です。ノース夫妻以上に活躍しているのがウエイガンド警部で、真相を突き止めるのはウエイガンド、ノース夫人のパム、そしてリチャード・ノースの順番でした。しかもウエイガンドには謎解きとは別に重要な出来事が待っています。16章の終わりには「読者への挑戦状」風なメッセージがあって本格派推理小説として予想以上にしっかりしています。終盤の活劇がサスペンス豊かなのも嬉しい誤算でした。惜しまれるのは六興推理小説選書版の登場人物リストで、何人かの容疑者が掲載されておらず犯人が(私でも当てられたぐらい)わかり易くなってしまっています。

No.1989 6点 青鷺はなぜ羽搏くか- 岡村雄輔 2018/03/31 16:39
(ネタバレなしです) 1952年発表の長編第2作である本格派推理小説です。「加里岬の踊子」(1950年)で活躍した秋水魚太郎はほんの数ページしか登場せず、本書の名探偵役は熊座警部補です(続く「幻女殺人事件」(1954年)では完全に熊座しか登場しなくなります)。東京の下町である佃島で起こった殺人事件の謎解きですが捜査描写は非常に地味で派手な展開もありません。しかし風景描写や人物描写には力が入っており、独特の叙情性があります。中でもある人物の特異な性格描写は実に強力な個性となっています。殺人現場近くで謎の女性が目撃されて一見単純そうな事件ながら容疑は二転三転、熊座を悩ませます。ミスディレクションの巧さも光ります。

No.1988 7点 オリエント急行はお嬢さまの出番- ロビン・スティーヴンス 2018/03/29 08:14
(ネタバレなしです) アガサ・クリスティーの名作本格派推理小説「オリエント急行の殺人」(1934年)を意識して2016年に発表された英国少女探偵の事件簿シリーズ第3作で作中時代は1935年、クリスティー作品が発表された翌年という設定です。オリエント急行での旅行という贅沢な夏のバカンスを過ごすことになったデイジーとヘイゼルが列車内の殺人事件に巻き込まれます。この舞台だけでも謎解き好き読者ならわくわくしますが、事件は密室殺人だし容疑者はマジシャン、霊媒師、犯罪小説家、外国の貴族と実に多彩な顔ぶれ、更にはライバル的な探偵役まで登場します(デイジーたちは無能と見下しますが)。そして旅行に同伴したヘイゼルの父親が女の子が探偵活動なんかまかりならんと目を光らせるという設定もサスペンスを盛り上げます。クリスティー作品のような大仕掛けはさすがにありませんが充実のプロットを楽しめました。

No.1987 5点 呪い殺しの村- 小島正樹 2018/03/28 08:45
(ネタバレなしです) 2015年発表の海老原浩一シリーズ第6作の本格派推理小説です(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)はカウントしていません)。不思議な謎を次から次へと提供するサービス精神は相変わらずでそこは大いに賞賛できるのですが、HORNETさんのご講評で指摘されているように「風呂敷を広げたはいいが上手く畳み切れていない」感覚が残る作品でもあります。その中でメインの謎はトリック説明に最もページを割いていることから「千里眼」「予知」「呪殺」の超能力トリックになるのでしょうが、私には類例を思いつけない独創的なトリックではありますが斬新というより珍奇という印象のトリックでした。個性的な探偵とは言えない海老原の痛ましい過去を序盤で紹介しているので物語の中で何か重要な役割を果たすのかと期待しましたが、結局活かされないまま終わってしまいました。

No.1986 5点 アリバイ- ハリー・カーマイケル 2018/03/27 20:50
(ネタバレなしです) 実にシンプルなタイトルが印象的な1961年発表のジョン・バイパー&クインシリーズ第19作の本格派推理小説です。もっとも強固なアリバイとそのアリバイ崩しに徹した作品かというとさに非ず。まず前半はパイパーが失踪した女性の足どりを追跡するという何とも緩い展開です。ようやく凶悪な事件が起き、有力容疑者にはアリバイがあることもわかるのですがパイパーも警察も早々とアリバイは鉄壁だと認めてしまい、崩そうとする気合が感じられません(笑)。それでいて容疑が晴れたと割り切るわけでもなくつかず離れずの捜査が続きます。別の容疑者も何人かいますがこちらの容疑も弱く、実にじれったいプロットです。終盤は一気にサスペンスが濃くなり、そして真相はというとクロフツの某作品、クリスティーの某作品、ルース・レンデルの某作品が頭に浮かびました(最後のは本書より後発の作品ですけど)。ネタバレになるので詳しくは書けませんがアリバイのことだけ考えればよいという作品ではなかったです。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)