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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.174 5点 名探偵なんか怖くない- 西村京太郎 2010/10/18 20:04
(ネタバレなしです) 1971年に発表された名探偵4部作の第1作となる本格派推理小説です。他作家の探偵(エラリー・クイーン、メグレ、エルキュール・ポアロ、明智小五郎)を借用して登場させるパロディー作品で、同じ本格派作品でも「殺しの双曲線」(1971年)とはまるで雰囲気の違う軽妙な作品です。名探偵を4人も登場させたので探偵対決ものかと思ったら案外そういう作品でなかったのが意外でした(といってもチームプレーでもありませんが)。探偵は借り物でもプロットは独自の創作で(もっとも実際に起こった3億円盗難事件を引用してはいますが)、「ある人物を犯罪に走らせる」という異色の展開がユニークです。他作家の探偵を拝借するのも個人的にはあまり感心しないのですが、ましてや古今の名作のネタバレを作中でするのはやり過ぎではと思います。江戸川乱歩の「化人幻戯」(1955年)、クリスティーの「アクロイド殺害事件」(1926年)や「オリエント急行の殺人」(1934年)、クイーンの「日本庭園の秘密」(1937年)、シムノンの「男の首」(1930年)などは本書より前に読んでおくことを勧めます。

No.173 4点 列のなかの男―グラント警部最初の事件- ジョセフィン・テイ 2010/10/07 20:51
(ネタバレなしです) スコットランド出身の英国の女性作家ジョセフィン・テイ(1896-1952)がゴードン・ダヴィオットという男性名義で1929年に発表した初のミステリー作品が本書です。テイは大器晩成型と評価されることが多いので初期作品には読むべきものがないかのような印象を受けますが、確かに本書の謎解きに関しては残念レベルとしか評価できません。あまりにも唐突な解決、しかも運の良さに助けられており本格派推理小説としては納得できないと感じる読者も少なくないでしょう。しかし登場人物描写の上手さはデビュー作である本書で早くも発揮されており、端役的な人物でもわずかな登場場面で存在感を示しています。F・W・クロフツのフレンチ警部風の「足の探偵」であるグラント警部もその深い苦悩ぶりには単なる探偵役を超越した個性を感じさせます。

No.172 4点 太陽黒点- 山田風太郎 2010/10/04 18:57
(ネタバレなしです) 山田風太郎自身が1963年発表の本書を「推理小説」と位置づけていることは尊重します。ただそれでも私にとっては「推理小説」としての面白みがあまり感じられませんでした。確かに序盤に大胆な伏線が張ってあったことには驚かされます。しかし解くべき謎が全く提示されないまま終盤まで引っ張るプロットでは謎解きのカタルシスを得られません(ほとんど普通小説にしか感じられません)。問題なしで最後に答えだけを示されたような変な読後感が残りました。

No.171 6点 絹靴下殺人事件- アントニイ・バークリー 2010/10/04 17:50
(ネタバレなしです) 無差別連続殺人とアマチュア探偵団の捜査という組み合わせで有名なのはアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」(1935年)ですが、1928年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第4作である本書はそれよりもずっと早く書かれています。バークリー作品としてはユーモアが弱いと評価されていますが、確かにシリアスなシーンも多いけど(また新たな犠牲者が出るのではとロジャーが焦りの色をにじませます)、軽妙な会話や皮肉もちゃんと用意されており堅苦しいばかりの作品ではありません。推理はやや強引ですがおとり捜査場面や犯行再現場面ではこの作者としてはサスペンスが強く感じられるなど十分に個性的な本格派推理小説です。

No.170 5点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2010/10/01 22:18
(ネタバレなしです) 1959年発表の金田一耕助シリーズ第18作の本書は横溝正史の代表作の1つとされ、TVドラマ化も映画化もされた本格派推理小説です。ただ重厚に作りすぎたというか登場人物が多くて人間関係も複雑に過ぎて誰が誰だかなかなか理解できませんでしたし、物語のテンポも遅めです。それだけに再読するだけの価値は十分ある人間ドラマではありますが。

No.169 5点 錯誤配置- 藍霄 2010/10/01 15:51
(ネタバレなしです) 台湾の藍霄(ランシャウ)(1967年生まれ)は、産婦人科医の肩書きを持つミステリー作家です。台湾には日本のミステリーも多数紹介されているようで2004年出版の長編第1作の本書の中でも横溝正史、島田荘司、綾辻行人などが紹介されています。どれだけこの作家が日本のミステリーの影響を受けているかはよくわかりませんが、本書を読んで私が連想したのは江戸川乱歩のスリラー系ミステリーでした。6つもの図面を駆使して描写される密室殺人事件に探偵役の秦(チン)博士の名推理など本格派推理小説としての条件も十分満たしてはいます。友人たちと談笑していた男がちょっと席を外して戻ってくると全員から見知らぬ男扱いされてしまうという発端の謎が見事で、その後の展開も変化に富むもので飽きさせません。性犯罪絡みのネタを扱っていますが産婦人科医出身の作者だけあってエロ路線には走りません(とはいえ万人受けするネタでもないでしょうけど)。作者は幻想性を重視したようですが中盤まではともかく、本格派推理小説としては最後はすっきり終結させてほしかったです。残念ながら謎解き説明が不十分に感じられました。

No.168 5点 カブト虫殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2010/09/29 21:05
(ネタバレなしです) 1930年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第5作にあたる本格派推理小説で、全作品中でも最も緻密な謎解きがされた作品ではないかと思います。もちろんそれは必ずしもいい意味ばかりではなく、小細工が多過ぎて普通なら早々と犯人の計画は破綻するはずだと指摘することも可能でしょう。とはいえ私の頭脳レベルでは完成度の高い本格派推理小説として認識しています。丁寧に作り過ぎて盛り上がりに乏しくなってしまってはいますが、後半部はサスペンスもたっぷりで博物館という舞台も上手く活かされています。

No.167 6点 哲学者の密室- 笠井潔 2010/09/29 19:51
(ネタバレなしです) 矢吹駆シリーズを1983年までに3作発表したもののあまり売れなかったのか笠井潔の創作はヴァンパイヤー戦争シリーズなどの伝奇SF小説が中心を占めるようになります。しかし新本格派の台頭に刺激されたのか1992年にシリーズ第4作となる本書で復活します。もともと暗くて重苦しい作風の作者ですがそれに加えて本書は(創元推理文庫版で)1100ページを超す分厚さを誇り、容易に手を出しづらい雰囲気があります。長大なだけでなく密度も濃いのでなかなか読み進めません。この作者ならではの哲学談義がびっしりで(私にはほとんど理解不能)、おまけに第1の事件の解決を見ないまま途中から時代も舞台も異なる別物語が挿入されるという複雑な構成です。ナディアの推理がボツになるのはわかっていても説得力が向上したことと、駆の推理が(最後は真相を見抜くのがわかっていても)途中で一度は破綻していることで2人の間の距離は縮まった...のかな?

No.166 7点 アリントン邸の怪事件- マイケル・イネス 2010/09/29 16:47
(ネタバレなしです) 1968年発表のアプルビイシリーズ第20作の本格派推理小説です。既にアプルビイが警察を引退した身分というのは時代の流れを感じさせます。ドロシー・L・セイヤーズの「死体をどうぞ」(1932年)を髣髴させるような、アプルビイ夫妻のユーモアたっぷりの探偵活動が楽しく、後期の作品ゆえかプロットもすっきりして読みやすいです。それでいて謎解きは意外と手が込んでおり、第20章の驚愕の告発、そこからのどんでん返しにチェスタトン的な大胆な仕掛けと充実しまくりです。できればアリントン・パークの見取り図があれば言うことなしでしたが、それを割り引いても傑作だと思います。

No.165 6点 キリオン・スレイの生活と推理- 都筑道夫 2010/09/27 21:47
(ネタバレなしです) 長編1作と短編集3作で活躍するキリオン・スレイシリーズの1972年発表の第1短編集です。発表時にはちゃんとタイトル付きの短編だったのを、短編集を編集した際にはタイトルを削除して「なぜ」で始まるサブタイトルのみが残りました。「なぜ密室から凶器だけが消えたのか」(原題は「溶けたナイフ」です)のような不可能犯罪風な事件さえも、「どうやって」よりも「なぜ」を謎の主眼に置いています。トリックにはあまり多くを期待しない方がいいと思います。ユーモア本格派推理小説に属しますが謎解きはしっかりしており、理詰めというよりはちょっとした伏線から推理をどんどん飛躍させているような感じを受けましたが、作品の質は均一です。

No.164 7点 つきまとう死- アントニー・ギルバート 2010/09/10 11:10
(ネタバレなしです) ギルバートが1956年に発表したクルック弁護士シリーズ第30作にあたる本格派推理小説です。わがままで大金持ちの家長、それに振り回される家族、謎めいた過去を持つ女性とミステリーネタとしてよくあるネタを使っていますがそれらをうまく組み合わせて新鮮な驚きとサスペンスを提供することに成功しています。クルックも登場場面が少ないながらしっかり存在感を示しており、謎解き伏線の張り方も巧妙です。

No.163 6点 水の迷宮- 石持浅海 2010/09/10 10:26
(ネタバレなしです) 水族館に何者から脅迫じみたメールが届き、水槽に悪質な悪戯が仕掛けられ、ついには殺人事件が起きてしまう2004年発表の本格派推理小説です。光文社文庫版の(辻真先による)巻末解説の通り、これは「甘い」です。賛否両論あるでしょうが、否定派は「感動の押し売り」を感じてしまうかもしれません。甘口なのでこの種の結末を何冊も読まされれば辟易してしまいますが、たまに読む分にはメロドラマもいいのではと思います。事件の真相は偶然頼みの部分もありますが本格派推理小説としての謎解きはしっかりしています。

No.162 7点 眠れるスフィンクス- ジョン・ディクスン・カー 2010/09/07 19:01
(ネタバレなしです) 1947年発表のフェル博士シリーズ第17作で、カーの作品の中ではそれほど有名ではないようですがなかなかの出来栄えの本格派推理小説だと思います。納骨堂のトリックなどはトリックのためのトリックで終わったような感もありますが、本書の成功要因はTechyさんのご講評で指摘されているように物語性だと思います。大切に思う人が犯人ではないかという疑惑がどんどん増していく展開とどんでん返しの推理が生み出すサスペンスが出色の傑作です。皮肉たっぷりのエンディングも印象的です。それから本筋とは関係ありませんが、過去にフェル博士がもみ消した事件のことが紹介されています。あのもみ消しはしっかりばれていたんですね。フェル博士、立場がやばいんじゃないですか(笑)?

No.161 4点 びっくり館の殺人- 綾辻行人 2010/09/07 16:29
(ネタバレなしです) 館シリーズ前作の「暗黒館の殺人」(2004年)の圧倒的ボリュームに読者の多くは驚いたでしょうが、2006年発表のシリーズ第8作の本書が子供向けミステリーだったことにはもっと驚いたのではないでしょうか。もっとも子供向けとしては雰囲気が重苦し過ぎるように思えますし、結末は(ハッピーエンドかどうかは別にしても)はっきりと決着させてほしかったです。また、一部の部屋ばかりに焦点が当たっていて、「館全体が持つオーラのようなもの」が感じられなかったのも残念でした。

No.160 5点 もう生きてはいまい- ハーバート・ブリーン 2010/08/30 21:31
(ネタバレなしです) 「ワイルダー一家の失踪」(1948年)の後日談的な1950年発表のレイノルド・フレイムシリーズ第3作の本格派推理小説で、前作のネタバレはしていませんができればあちらを先に読むことを勧めます。独立戦争時代に負傷した英国将校が死亡した部屋で、寝る時にはなかったランプが出現したり英国軍の行進する音が聞こえるといった謎にはオカルト要素もありますが雰囲気としてはあっさり目です。とはいえこれはある意味正解で、風呂敷を広げ過ぎない分、(予想通りの)B級トリックが使われていてもあまり失望しませんでした。シンプルなプロットと(意外と)複雑な真相の対比が楽しめますが、ハヤカワポケットブック版の訳がさすがに古くて読みづらいのが残念です。

No.159 6点 ドーヴァー6/逆襲- ジョイス・ポーター 2010/08/30 21:11
(ネタバレなしです) 1970年発表のドーヴァーシリーズ第6作は大地震でパニックの最中の殺人というアイデアが秀逸な本格派推理小説です(イギリスって地震とはあまり縁がなさそうなイメージがあります)。巧妙な手掛かりによる推理も光ります。(トイレネタが多いですが)ユーモアも好調です。ところが...。それまでの雰囲気が大きく変わるような最後の一行には愕然としました。確かにインパクトは強烈ですが、これはなかった方がよかったのでは?悩みながらの採点となりました。

No.158 6点 拷問- ロバート・バーナード 2010/08/30 21:01
(ネタバレなしです) 1981年発表のペリー・トリソワンシリーズ第1作で、変人揃いの一族と縁を切っていたぺりー・トリソワン警部が父レオの怪死事件を調べます。いかしこのタイトルでは敬遠する読者も多いのではないでしょうか。拷問による肉体的苦痛とトリソワン警部の精神的苦痛を暗示するタイトルに嘘偽りはありませんが。直接的な暴力描写やエログロ描写はなく、すっきりした文章で読みやすい作品です。すっきりし過ぎて登場人物のエキセントリックさまでがうまく伝わっていないところもありますけど。それでいて謎解きは本格派黄金時代の作品と遜色ないほどしっかり考え抜かれています。

No.157 5点 死の周辺- ヒラリー・ウォー 2010/08/30 20:33
(ネタバレなしです) 1963年発表のフェローズ署長シリーズ第6作ですが、犯罪小説が3分の2、警察小説が3分の1という構成のシリーズ異色作です。「事件当夜は雨」(1961年)や「冷え切った週末」(1965年)のような地道な謎解き要素はほとんどなく、代わりに脱獄囚の心理描写や段段とエスカレートしていく悪事でサスペンスを盛り上げています。読みやすさは抜群だし決して悪い出来ばえではないのですが、このシリーズならではの作品かというと微妙な違和感を覚えます。

No.156 6点 スウェーデン館の謎- 有栖川有栖 2010/08/30 16:16
(ネタバレなしです) 1995年発表の火村英生シリーズ第4作の本格派推理小説で、雪の上の足跡の謎と論理的推理の組み合わせに事件の背景にある悲劇性の演出にまで取り組んだ意欲作です。磯田和一との共著「有栖川有栖の密室大図鑑」(1999年)で自作代表として紹介しているだけあってトリックはなかなかのもの。既存トリックの応用ですがよく練り上げられており、しかも論理的解決と有機的に結び付けてあってトリックだけ浮き上っていないのが素晴らしいです。悲劇性の演出はもう一工夫ほしいところですが、謎解きが充実しているので個人的には十分満足です。犯人を当てられなかったのはまあよくあることとあきらめもつくのですが、川とバケツのパズルが解けなかったのが悔しい...(笑)。

No.155 3点 死の笑話集- レジナルド・ヒル 2010/08/17 22:06
(ネタバレなしです) 2002年発表のダルジールシリーズ第18作で、軽そうなタイトルとは裏腹に650ページ近い分量で読者を圧倒する巨大な作品です。厚さだけではなく作者得意の複数のエピソードを並行して絡ませる複雑な構成をとっており、更には過去作品の「武器と女たち」(2000年)や「殺人のすすめ」(1971年)と密接なつながりを持っているプロットの奥深さは凄いんですけど、凡庸な頭脳の持ち主である私にはとてもついていけない世界でした。また前作の「死者との対話」(2001年)の後日談にもなっていて、曖昧なままだった物語にある種の決着をつけています。というかこれでは前作は中途半端に未完だったように感じてしまいます。本格派推理小説としての推理の楽しみもなく、探偵役(ダルジールにしろパスコーにしろ)が特に活躍することもありません。最後はちょっと感動的な場面がありますが、私はあまりの難解さにぐったりでした。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)