皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
|
---|---|
平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.225 | 6点 | 丹波家の殺人- 折原一 | 2011/05/06 08:06 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1991年発表の黒星警部シリーズ第3作ではありますが丹波家の人々の描写が中心で黒星の登場場面が少ないためかユーモアがほとんどないのが珍しいといえば珍しいです。ユーモア不足は通常なら弱点ではないのですけれど、このシリーズが好きな読者には物足りなく感じるかもしれません。もっとも丹波家の描写も意外とあっさりしていて、個性が記憶に残りません。その分すらすらと読めるのですから一長一短かもしれませんが。本格派推理小説としてはどんでん返しの謎解きが効果的で、密室トリックもややご都合主義的なところもあるけれど十分に合理的だと思います。 |
No.224 | 5点 | 死体が歩いた- ロイ・ウィンザー | 2011/05/06 07:49 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ロイ・ウィンザー(1912-1987)は米国の放送作家として有名ですが本格派推理小説も3作書いており、本書は1974年発表のアイラ・コブシリーズ第1作です。事故で即死したと思われる死体が現場から離れた池の中で発見される事件を扱い、大変魅力的なタイトルだと思いますが(英語原題もずばり「The Corpse That Walked」です)ジョン・ディクソン・カーのように不可能トリックに挑戦とかオカルト風な演出があるわけではありません。誰も死体が歩くなど本気で考えず、誰が何のために死体を移動させたかを議論しているオーソドックスなプロットの本格派推理小説でした。犯人当てとしては可もなく不可もなくといったところですが、犯人の正体が判明した後に「死体が歩く」謎が再度脚光を浴びる構成と皮肉な真相は印象的です。せっかくナンタケット島を舞台にしているのですからもう少し島の風土描写に力を入れてほしかったです。 |
No.223 | 5点 | ダージリンは死を招く- ローラ・チャイルズ | 2011/05/06 07:36 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ローラ・チャイルズが2001年に発表したミステリー第1作です。冒頭に置かれた作者の献辞文を読むと、心理サスペンスの巨匠メアリ・ヒギンズ・クラークを尊敬しているようですが本書はサスペンス小説ではなく、コージー派ミステリーです。ティーショップを経営するセオドシアが探偵役ですが推理要素は少なく、場当たり的に解決してしまうので本格派推理小説の謎解きを期待するとがっかりするかもしれませんが、叙情的と言ってもいいほど繊細で色彩的な文章は大変魅力的で、まさに紅茶を飲みながら読むのには最適の一冊かと思います。 |
No.222 | 6点 | 湯殿山麓呪い村- 山村正夫 | 2011/03/10 08:05 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 作者の最も有名なシリーズ探偵は滝連太郎ですが、その中でも1980年発表の第1作である本書は映画化もされたほど有名です。結核で早逝した音楽家の瀧廉太郎(1879-1903)を連想させる名前ですが、こちらの探偵は巨漢で大食漢という面白い設定です。横溝正史の伝奇本格派推理小説を継承したいという意欲が滲み出ており、伝奇要素と現代要素が巧みに融合されています。謎解き伏線も丁寧に張ってあり、ミステリーを読み慣れた読者には犯人当てとしてはやや容易に感じるかもしれませんが、難易度はほどほどの方が幅広く読者受けしやすいと思います。ただ重苦しい余韻を残す結末は好き嫌いが分かれそうですが。 |
No.221 | 5点 | 列車消失- 阿井渉介 | 2011/02/26 01:57 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1990年発表列車シリーズ第5作の本格派推理小説で、島田荘司の「奇想、天を動かす」(1989年)に触発されて書かれただけあって謎の凄みでは勝るとも劣らない作品です。走行中の列車から車両1台が抜き取られた?列車に飛び込んだばらばら死体の胴体だけがはるか離れた場所に出現して列車を再停止させた?列車の中に運び込まれた胴体が今度は大勢の目撃者の前を歩きだす?(手足がないので「歩く」という表現には微妙な違和感もありますが)、等々。とはいえ犯人当てとして楽しめるプロットではない上にトリックについても不満点が多く、竜頭蛇尾の感が強く残ってしまいましたが。人物描写も個性がなく、せっかくの複雑な動機が読者の心に訴える力が弱いのも惜しいです。 |
No.220 | 6点 | 「独り残った先駆け馬丁」亭の密会- マーサ・グライムズ | 2011/02/15 20:28 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1986年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第8作はこれまでのシリーズ作品でもっともコンパクトですが内容的には十分面白く、名作「『「跳ね鹿』亭のひそかな誘惑」(1985年)とは別の意味で劇的な結末は強く印象に残ります。とはいえ謎解き説明が一部曖昧なままに感じられたのは残念です。自分の理解力不足を棚に上げますが、私のようなお馬鹿な読者でもわかるような明快な説明をしてほしかったです。 |
No.219 | 6点 | フェミニズム殺人事件- 筒井康隆 | 2011/01/27 20:25 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) SF作家として有名な筒井康隆(1934年生まれ)は1970年代からSF以外の領域にも意欲作を多数発表するようになり、ミステリーの分野にも進出します。1989年発表の本書は雑誌掲載時には「読者への挑戦状」が挿入された正統派の本格派推理小説です(私の読んだ集英社文庫版では挑戦状は削除されています)。フェミニストの女性が登場しますが常識的な人間として描かれており、他の人物の方がよほどエキセントリックに映りました。お堅い学識的な部分もありますが一方で美味しそうな料理や色彩的なファッションの描写にも冴えを見せている作品です。多少強引な推理もありますが謎解きもしっかりしています。 |
No.218 | 8点 | オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー | 2011/01/25 16:57 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 世界で最も有名な国際列車オリエント急行を舞台にした1934年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第8作はアンフェアと批判されても仕方のない仕掛けの本格派推理小説です。しかしやはりこのアイデアの衝撃度は半端でなく、フェアかアンフェアかという問題さえどうでもよくなってしまいそう。好き嫌いはもちろんあるでしょうが、本書を推理史に残る傑作(或いは問題作)と位置づけられのに異議ありません。事情聴取場面が単調な繰り返しになって中盤まで読みにくいのはつらく、そこがちょっと減点理由です。 |
No.217 | 5点 | 狐の密室- 高木彬光 | 2011/01/25 16:25 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1977年発表の本書は神津恭介と大前田英策の共演作品(前者にとってはシリーズ第13作、後者にとってはシリーズ第4作で最終作)で、雪密室が登場するなどネタ的にはかなり面白そうですが思ったよりも淡白な本格派推理小説でした。もともと派手な言動とは縁遠い神津恭介の天才ぶりを際立たせるのは簡単ではないのですが、本書の合理的だけど小粒なトリックでは謎解きのカタルシスを得るのは難しいです。他の作品感想で駄目ワトソン役の松下研三の大袈裟な驚きぶりを私はあまりにも不自然だと何度か批判していましけど、彼が登場しないとそれはそれで何か物足りないですね(笑)。 |
No.216 | 5点 | パーフェクト殺人- H・R・F・キーティング | 2011/01/25 15:04 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1964年に発表された本書はゴーテ警部シリーズ第1作の本格派推理小説でCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得した本格派推理小説です。近代捜査法を導入しようとするゴーテ警部がインド社会の伝統や因習の前に悪戦苦闘して捜査が思うように進展しないのを面白おかしく描いているのがユニークです。例えばゴーテ警部の取調べをのらりくらりとはぐらかす事件関係者が「〇〇のお告げ」の前では「青菜に塩」状態になってしまう場面なんかは結構楽しめました。ただ謎解きとしては結末が腰砕け気味なのが残念で、ゴールド・ダガー賞は過大評価ではないかと思いますが。 |
No.215 | 5点 | 白と黒- 横溝正史 | 2011/01/25 14:49 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1960年発表の金田一耕助シリーズ第24作の本格派推理小説ですが当時台頭してきた社会派推理小説を意識したような作品でもあり、集合住宅とその住人たちの人間関係を重厚に描いた異色作です。金田一耕助シリーズでこのような都会風な作品が書かれるとは驚きです(都会風といっても洗練とかお洒落とかとはちょっと違いますが)。シリーズ中最も大作のボリュームですが人間関係を複雑にし過ぎて謎解きのサスペンスが少ないのが惜しまれます。 |
No.214 | 8点 | 乙女の悲劇- ルース・レンデル | 2011/01/25 12:52 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1978年に発表されたウェクスフォード警部シリーズ第10作の本格派推理小説です。犯人の正体にはそれほど驚きませんでしたが(でも私は当てられませんでした)、逮捕後にウェクスフォードが酒場で語る真相には驚きました。実際にあった事例まで紹介しての推理は個人的には十分納得できるものでした。「罪人のおののき」(1970年)と「偽りと死のバラッド」(1973年)で私が感じた不満点を解消しており、お気に入りのシリーズ作品です。 |
No.213 | 6点 | 招かれざる客- 笹沢左保 | 2011/01/25 11:46 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 生涯に350作以上の作品を世に出した笹沢左保(1930-2002)の1960年発表のデビュー作で本格派推理小説です。犯人の正体は早い段階で見当がついてしまい犯人当てとしては楽しめませんが、メインの謎解きであるアリバイ崩し以外にも凶器、暗号、動機など実に様々な工夫が織り込んであり推理も丁寧です。デビュー作ゆえかまだ文章にロマンは感じられず、特に報告調の前半はむしろ素っ気無いほどですが謎解きの魅力で最後まで押し切ったような印象を受けました。 |
No.212 | 4点 | 象は忘れない- アガサ・クリスティー | 2011/01/25 11:39 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1972年発表のポアロシリーズ第32作となる本格派推理小説です。この後シリーズ最終作として「カーテン」(1975年)が出版されましたがそれは死後発表用として(結果的には存命中に発表しましたが)ずっと以前に書かれており、執筆順としては本書が最後に書かれたシリーズ作品です。後期の作者が得意とする「回想の殺人」を扱っていますが沢山の容疑者の中から犯人を探す通常タイプのミステリーではありません。12年前に崖の上で撃たれた死体となって発見された夫婦のどちらが相手を殺したのかという風変わりな謎解きになっています。謎解きに関しては不満点が多く、特にコナン・ドイルの某作品のネタをそっくりそのまま使っているのはいかがなものかと。とはいえ本書で作者が試みたのは人間ドラマとしてどう決着させるかであり、そのために真相がご都合主義的になったのも納得できました。ルース・レンデルの「死が二人を別つまで」(1967年)をちょっと連想しました。 |
No.211 | 7点 | 仮面舞踏会 伊集院大介の帰還- 栗本薫 | 2011/01/24 11:24 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 「天狼星」三部作で作風の大きな変更を見せた伊集院大介シリーズですが、「伊集院大介の帰還」の副題を持つ1995年発表のシリーズ第8作の本書は本格派推理小説の良作です。ネット社会が描かれていますがネットに精通していない私でも十分楽しめた内容でした。顔の見えない人間同士の微妙な人間関係と犯罪の原因となりかねない危険性を提言した社会派推理小説要素もあり、また新手の安楽椅子探偵ものとしても評価できると思います。ただネット会話の言葉遣いがあまりにも乱暴で時に低俗になるのは少々うんざりしましたが(それもある意味リアルさを感じさせますけど)。 |
No.210 | 7点 | 蛇は嗤う- スーザン・ギルラス | 2011/01/20 18:01 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 英国の女性作家スーザン・ギルラス(1911-没年不詳)については経歴がそれほどはっきりしていません。世代的にはエリス・ピーターズ(1913-1995)に近いのですが亡くなるまで執筆を続けたピーターズに対してギルラスは1950年代から1960年代までとごく限られた期間に7作品を発表したのみでした。そのミステリーはライアン・クロフォードとゴードン警部を主役にしたシリーズですが最終作(つまりシリーズ第7作)となった本書(1963年出版)を読む限りではかなりの実力を感じさせる作家です。抑制の効いた異国情緒と個性的な人物描写の組み合わせが魅力的です。陰謀の影がちらつくスリラー小説風な雰囲気と本格派推理小説としてのしっかりした謎解きプロットのバランスも絶妙で、これはなかなかの掘り出し物でした。モロッコのタンジールを舞台にした本格派推理小説というとカーター・ディクスンの「赤い鎧戸のかげで」(1952年)がありますが、文体は異なれど結構共通する描写もありますので比較しても面白いかも。ロマンチックな幕切れも印象的で、続編が書かれなかったのが非常に残念です。 |
No.209 | 7点 | 密室に向かって撃て!- 東川篤哉 | 2011/01/19 09:18 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2002年発表の烏賊川市シリーズ第2作の本格派推理小説です。ユーモアの度合いが前作「密室の鍵貸します」(2002年)に比べて数段パワーアップしています。謎解きも充実しており、お笑いの中に謎解き伏線をしっかり張ってあります。前作のような破天荒な真相ではありませんが、その分解決のまとまりは良いので本書の方が一般受けしやすいと思います。 |
No.208 | 6点 | 落馬- ジョン・L・ブリーン | 2011/01/18 21:07 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ミステリー評論家としても名高い米国のジョン・L・ブリーン(1943年生まれ)が1983年に発表したジェリー・ブローガンシリーズ第1作となる本格派推理小説です。有名ミステリー作家のパロディ作品を書いている作者だけあって本書に登場するオリビア叔母さんのキャラクター描写が秀逸です。古典的推理小説が大好きでホームズ流の人物鑑定や、容疑者を一堂に集めての謎解きを追い求める場面は本格派ファンなら笑いが止まらないでしょう。犯人が誰かという謎解きもさることながら、オリビア叔母さんの願いがどういう結末を迎えるかも本書のお楽しみの一つでしょう。推理は初期エラリー・クイーンを彷彿させる、これまた本格派好きを意識したようなところがありますがクイーンのように色々な可能性を一つずつ吟味することなく、「これしか考えられない」と一足飛びに結論に至っているのがちょっと残念です。でもまあ面白く読めました。 |
No.207 | 5点 | 影の複合- 津村秀介 | 2011/01/18 09:31 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 津村秀介(1933-2000)はミステリーデビュー作が1982年発表の本書なので、ミステリー作家としてのキャリアは決して長い方ではありませんがそれでも50作を超す長編作品を残しました。色んなジャンルに手を出すことの多い国内作家の中でアリバイ崩しの本格派ばかりを書き続けたこだわり型作家です。当然ながら本書でもアリバイトリックに力を入れていますが、それ以上に目立っているのが人間関係が少しずつ明らかになる捜査描写です。この複雑な人間関係がちゃんと理解できないとさっぱり面白くない作品なので、登場人物リストを作成しながら読むことを勧めます。⇒(後記)正確には本書は「偽りの時間」(1972年)を10年ぶりに改訂した作品なので再デビュー作と紹介すべきでした。 |
No.206 | 6点 | 赤い数珠- モーリス・ルブラン | 2011/01/11 19:29 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) モーリス・ルブラン(1864-1941)晩年の1934年に発表された本書はなぜかルパンシリーズのように紹介されたこともありますがこれは完全な誤りで、ルパンは名前さえも登場しません(登場人物の1人が後年発表の「カリオストロの復讐」(1935年)で再登場するという関連性はありますが)。本格派推理小説に属する作品ですが、探偵役のルースランの手法は通常捜査や証拠の吟味に重きを置かず容疑者同士を互いに告発させ合うという風変わりというかとんでもないな手法で、独特のユーモアに満ちた締めくくりもまず日本人作家には書けなさそうです。但しルブラン得意の冒険アクションスリラーを期待する読者には勧め難い作品です。 |