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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.285 5点 死霊谷の呪い館- 山村正夫 2011/10/31 21:18
(ネタバレなしです) 1990年発表の滝連太郎シリーズ第7作の本格派推理小説です。前半は快調です。この作者ならではの伝奇要素と現代要素のバランスが絶妙で、謎の面白さもたっぷりです。本格派推理小説好き読者としては最後は合理的に解決してもらいたいので、後半になって伝奇性が薄まるのも問題とは感じません。とはいえ必要性が全くないうえにあまりに陳腐なトリックの密室を始め、真相はかなりの残念レベルです。結末が全てだとまでは言いませんけど、本書の場合は前半との落差があまりに大きすぎました。

No.284 7点 拳銃をもつジョニー- ジョン・ボール 2011/10/31 20:05
(ネタバレなしです) 有名ミュージカル「アニーよ銃をとれ」(英題「Annie Get Your Gun」)(1946年)のタイトルを流用した1969年発表のヴァージル・ティッブスシリーズ第3作(英題「Johnny Get Your Gun」)です。犯罪を犯して逃亡する少年ジョニーと彼を追跡するヴァージル・ティッブスたち捜査陣を描いた犯罪サスペンスと紹介しても間違いではありませんが、要所ではティッブスの鋭い推理による謎解きも披露され、本格派推理小説好き読者へのアピール力もあります。社会問題描写や子どもへの温かい気配り描写など実に充実した内容で、悲劇に終わるのか救いがあるのか最後まではらはらさせる展開もお見事です。

No.283 5点 死仮面- 横溝正史 2011/10/24 17:30
(ネタバレなしです) 作者絶頂期の1949年に書かれた金田一耕助シリーズ第4作ながら、地方誌に連載されたこともあって完全な原稿が見つからず長らく幻の作品扱いされていたそうです(単行本化されたのは作者の死後となりました)。しかも原稿を全部集約するのに難儀した結果、角川文庫版は一部を評論家の中島河太郎(1917-1999)が補筆しての出版で、後発の春陽文庫版が完全オリジナル版だそうです(私はこちらを読みました)。本書の後には「犬神家の一族」(1950年)や「八つ墓村」(1951年)が続くので本書に期待した読者も多かったのではと思いますが、残念ながらあれほどのスケール感はありません(長編としてはページ数が少ないという制限があるので仕方ないところもありますけど)。前半は複雑な人間関係が重厚かつ地味に描かれています。事件性がはっきりしないこともあって盛り上がりに欠けています。ところが後半になると学園を舞台にした冒険スリラー風に様相が変わってびっくり。推理には不満もありますが、ミスディレクションが効果的な謎解きでした。

No.282 6点 ドーヴァー9/楽勝- ジョイス・ポーター 2011/10/23 13:08
(ネタバレなしです) 1979年発表のドーヴァーシリーズ第9作はトイレネタが多少目立つ程度で、このシリーズ作品としては羽目をはずす場面が少なく普通の本格派推理小説の印象が強い作品です。良くも悪くも平均点的な内容で、「普通」がいけないわけでは決してありませんが、これといった特色を見出しにくかったです。

No.281 5点 生贄伝説殺人事件- 山村正夫 2011/10/19 22:02
(ネタバレなしです) 1992年発表の滝連太郎シリーズ第9作の本格派推理小説です。女子中学生が誘拐され、誘拐犯の一人と思われる男が殺されるという事件を扱っています。直接的な官能シーンがあるわけではないのですがロリコンとか少女売春がらみのプロットは読者を選びそうですね。登場人物が少なくてストーリーも比較的シンプル、ページ数も講談社文庫版で300ページに満たないので大変読みやすい作品です。このシリーズの特色である伝奇要素もそれほど強力ではなく、全般的に淡白過ぎる印象もありますが、この題材であまり濃密に描かれるのもちょっと...。

No.280 8点 一日の悪- トマス・スターリング 2011/10/19 09:23
(ネタバレなしです) 米国のトマス・スターリング(1921年生まれ)については詳しく知りませんが、デビュー作はサスペンス小説、第2作は犯罪小説、そして第3作の本書(1955年発表)は本格派と、特定ジャンルにはめられない作風の作家のようです。アガサ・クリスティーやエラリー・クイーンの書く本格派推理小説とは趣が異なり、サスペンス小説色が濃厚なプロットですが結末に至るとそれまでに張り巡らされた様々な伏線が真相を明らかにするという、本格派ファン満足の謎解きが待っています。この謎解きは視覚的に訴える手掛かりを巧妙に活用しており、映画化(1967年)されたのも十分うなずけます。

No.279 5点 人形館の殺人- 綾辻行人 2011/10/18 16:49
(ネタバレなしです) 1989年発表の館シリーズ第4作ですが、それまでのシリーズ作品が本格派推理小説の王道路線だったのに対し本書は思い切って作風を変えています。謎解き要素もちゃんと残してはいますが、サイコ・サスペンス色濃厚なプロットは好き嫌いが分かれそうです(個人的にはあまり楽しめませんでした)。大胆などんでん返しに驚かされましたが、反則とは言わないまでもこれは少々やり過ぎではという気もします。

No.278 5点 漂う殺人鬼- ピーター・ラヴゼイ 2011/10/10 19:36
(ネタバレなしです) 2003年発表のピーター・ダイヤモンドシリーズ第8作で、ハヤカワ文庫版で600ページ近い分厚さが苦にならない語り口の巧さが光る警察小説の佳作です(本格派推理小説としては真相がアンフェアに感じられますが、そもそもラヴゼイがシリーズ作品であっても色々とスタイルを変えるのですから注文つけても仕方ありません)。シリアル・キラー(連続殺人犯)を扱っていますが、犯人描写が残酷さや非情さよりも知能犯ぶりに重点を置いているため、万人受けしやすくなっています。ダイヤモンド警視の方が活躍度が高いものの本書が初登場となるヘン・マリン主任警部も印象的なキャラクターで、後年には彼女を主役とした作品が書かれることになります。

No.277 5点 嘘をもうひとつだけ- 東野圭吾 2011/10/05 18:52
(ネタバレなしです) 2000年発表の加賀恭一郎シリーズ短編集で、5つの短編のどれも完成度は高く読み応えも十分です。しかし短編集としてまとめられて通しで読むとどの作品もプロットパターンが似通っているように感じられました。最初に主人公と加賀美刑事のやり取りが続き、登場人物が極端に少ないこともあって犯人の正体は早々と見当がつく展開で共通しています。このワンパターンはもう少し工夫して変化をつけてほしかったです。どれか1つを選ぶならひねりのインパクトが大きい「狂った計算」でしょうか。

No.276 6点 ファッジ・カップケーキは怒っている- ジョアン・フルーク 2011/10/05 18:27
(ネタバレなしです) 2004年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第5作で、やや厚めの作品ですが読みにくさはありません。事件の謎解きとは別にレシピの謎解きまでやっているのがとてもユニークです。これって料理好きなら十分に見破れる謎解きになっているのでしょうか(料理のできない私は論外ですけど)?犯人当ての方はあまりにも堂々と張られていた伏線に思わず笑ってしまいました。

No.275 4点 赤い列車の悲劇- 阿井渉介 2011/10/03 21:46
(ネタバレなしです) 1991年発表の列車シリーズ第7作です。「駅、線路、車両、乗客の四重消失」(正確には2つの二重消失だと思いますが)というスケールの大きな謎も十分に魅了的ですがこれだけではなく、中盤にかけてどんどんと謎が追加されて一体どう解決するのかと心配になるほどです。そしてその心配があたってしまったというか、この何でもあり的な真相は本格派推理小説好きの読者には受けにくい真相だと思います。社会派推理小説の要素も非常に濃いですが、リアリティー度外視の真相は社会派好き読者に受けるかもやはり未知数です。傑作か凡作かという分類を超越した、怪作というべき作品でしょう。

No.274 6点 金蝿- エドマンド・クリスピン 2011/10/03 21:25
(ネタバレなしです) 英国のエドマンド・クリスピン(1921-1978)は本格派黄金時代の末期に登場した作家です。フェン教授を名探偵役にしたシリーズを書いていますが、他にも作曲家、SF評論家など多方面で活躍した多才な人物でした。1941年発表の本書はデビュー作ゆえかファルス作家らしさはまだ見られず(フェン教授夫妻の会話にユーモアがちょっと見られる程度)、手堅く生真面目に作られた本格派推理小説です。不可能犯罪トリックや指輪の秘密などにはジョン・ディクソン・カーの影響が濃く表れています。個性がまだ発揮されていないとはいえ、学生時代に書かれた若書きとは思えぬ完成度は高く評価できます。

No.273 4点 悪霊館の殺人- 篠田秀幸 2011/09/29 14:02
(ネタバレなしです) 問題作と評価された「蝶たちの迷宮」(1994年)から5年を経て1999年に発表された、弥生原公彦シリーズ第1作の「読者への挑戦状」付き本格派推理小説です。タイトルといい、本の分厚さといい二階堂黎人の「悪霊の館」(1994年)を意識した作品かと思いましたが意外と共通点はありませんでした。それどころか舞台があちこちと変わるので悪霊館の存在感が希薄でした。重厚長大な物語の中に多くの謎と仕掛けを用意した力作なのは認めますが、小粒な謎解きの積み重ねに終始してしまった感があります。せめて1つぐらいインパクトのある手掛かりか推理があるだけでも随分と読後の印象が違うのですが。

No.272 3点 二重の悲劇- F・W・クロフツ 2011/09/25 16:41
(ネタバレなしです) 1943年発表のフレンチシリーズ第24作の本書は久方ぶりの倒叙推理小説でしたが出来栄えは芳しくないように感じました。kanamoriさんのご講評の通り、犯人のアリバイトリックが非常に稚拙で古臭さを感じさせます。(倒叙なので)早い段階でトリックを紹介されたため、前半からして凡作の予感がします(笑)。誉めるとすれば犯人の予想もしない事後共犯者を登場させたのがプロット上の工夫になっていることでしょうか。フレンチもこの事件に関しては成功したとはいえないと思います(最後はめでたしめでたしなんですが)。

No.271 7点 リア王密室に死す- 梶龍雄 2011/09/20 10:52
(ネタバレなしです) 梶龍雄には旧制高校を舞台にした4作の本格派推理小説があり(登場人物は共通しません)、作者の代表作と評価されていますが1982年発表の本書はその第1作です。作中時代は1948年、三高のリア王こと伊場富三が密室状態の下宿の部屋で毒入り注射で殺され、部屋の鍵を持っていてアリバイが曖昧なことから容疑者とされた同級生を救うために三高の仲間たちが立ち上がるというプロットで、青春小説、時代小説、本格派推理小説の様々な要素がバランスよくとれた良作です。密室トリックは実現性には疑問符が付くかもしれませんが、アイデアとしてはとても面白いです。洗練された文章による語り口の巧さも高く評価できます。このタイトルでシェークスピアと全く関連がなかったのには意表を付かれましたが。

No.270 5点 会員制殺人クラブ- グレゴリー・マクドナルド 2011/09/20 10:38
(ネタバレなしです) 1984年発表のフリン警視シリーズ第3作です。社会的名士の集まるクラブで起きた殺人という設定自体は珍しくありません。しかしその会員たちの(やり過ぎ気味の)捜査妨害によってフリン警視の捜査がなかなか進展しないというプロットはなかなか新鮮です。登場人物の心理描写の抑制が効きすぎたか、異常な状況下での連続殺人にも関わらず意外と緊迫感が高まりません(まあこれに難癖をつけるど相当数のミステリーが批判対象になってしまうのですが)。犯人指摘があまりにも唐突であっけなく、動機も後付け気味です(一応の謎解き伏線はありますが)。

No.269 6点 瀬戸内海殺人事件- 草野唯雄 2011/09/14 23:13
(ネタバレなしです) サスペンス小説家として知られる作者ですが1972年発表の初期作品の本書は何と「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説でした。プロットはシンプルで登場人物も多くなく、2人のアマチュア探偵のどたばた描写が目立つなど挑戦状付きにしては随分肩の力を抜いて書かれたような作品です。死体がまだ発見されてもいないのに「挑戦状」の中で「殺されているのは事実なのだ」と堂々と明かしていたのもびっくりです。とはいえ真相にはなかなか思い切ったひねりが入っています。もう少し容疑者を増やすなどしていれば、このひねりはより効果的だったのではないかと思いますが。

No.268 5点 騙す骨- アーロン・エルキンズ 2011/09/14 23:08
(ネタバレなしです) 2009年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第16作です。ギデオンがスケルトン探偵と呼ばれていることを聞いた作中人物が「知り合いにミイラ探偵なんていないかな」と冗談めかしていますが、そういえば私もこのシリーズは妖怪が主人公の作品と誤解して、なかなか手を出さなかったのを思い出しました(笑)。犯人が意外と早く判明し、その時点でギデオン・オリヴァーはまだ五里霧中状態でまだまだ多くの謎が残っているという、ちょっと珍しいプロットです。残念ながら最後の手掛かりが(一般読者には予想のしようもない)骨の分析結果では謎解きプロセスとしては不満があります(「骨の島」(2003年)と同じ問題点)。とはいえ文章も説明もしっかりしているところは評価できます。

No.267 6点 鉄鎖殺人事件- 浜尾四郎 2011/09/11 14:54
(ネタバレなしです) 完成作としては浜尾四郎(1896-1935)の最後の作品となった、1933年発表の藤枝真太郎シリーズ第3作の本格派推理小説です。ヴァン・ダインの影響を強く受けたシリーズして有名ですが、ワトソン役の不器用な恋愛を描いている点ではアガサ・クリスティーの「ゴルフ場の殺人」(1923年)を彷彿させます。重厚なプロットの中でこの恋愛描写が単なる添え物以上の役割を果たしているところが優れています。丁寧な心理分析にはヴァン・ダイン風なところもありますが、ヴァン・ダイン作品には見られない要素もあり、今後にますますの飛躍の期待のかかる作家でしたが本書が最後の作品となってしまったのは残念。

No.266 5点 ブルー・ムーン亭の秘密- パトリシア・モイーズ 2011/09/11 14:07
(ネタバレなしです) 1993年発表の本書は、パトリシア・モイーズ(1923-2000)の第19作にして最後の作品となった本格派推理小説です。経営不振のパブ(ブルー・ムーン亭)を相続したスーザンを語り手役にした一人称形式がスリルを高めるのに効果的で、ロマンチック・サスペンス風な味わいもあります。但しその分、ヘンリとエミーのティベット夫妻の存在感が希薄になってしまったという問題点もありますが。謎解きに関しては犯人の計画が強引過ぎかと思います。なお英語原題の「Twice in a Blue Moon」は英語の慣用句「Once in a Blue Moon」(興味ある人は英語辞書を参照下さい)をもじったんでしょうね。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)