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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.325 5点 飛び鐘伝説殺人事件- 本岡類 2012/08/15 16:31
(ネタバレなしです) 1986年発表のユーモア本格派推理小説で、警察同士でもふざけたような会話が飛び交っています。その割りに個性を感じさせる登場人物が探偵役の秀円ぐらいしかいないのがちょっと辛いですが全般的には読みやすい作品です。「800kgもある鐘が空を飛んで人を押し潰した」という謎の魅力は一級品です。このトリックは証拠が残るので普通ならもっと早く見破られるだろうとは思うのですが、アイデアとしては中々の優れものもだと思います。

No.324 7点 夜の熱気の中で- ジョン・ボール 2012/08/14 16:56
(ネタバレなしです) 米国のジョン・ボール(1911-1988)は1950年代後半から作家活動を始めていますが最初の成功作は1965年発表の黒人刑事ヴァージル・ティッブスシリーズ第1作の本書で後年には映画化もされました。ティッブスが人種差別と戦いながら捜査をする、国内作品なら社会派推理小説に属する作品かと思い込んで長らく敬遠していましたが読んでみると違いました。人種差別描写は確かに、それも結構強烈に描写されており、奴隷制時代からの悪しき風習が米国南部にいまだ根強く残っていることにはカルチャーショックを受けました。しかしそれをハンデとはせず、自身の人間的魅力と探偵としての才能で解決へと前進するティッブスが実に格好いいです。社会問題の解決を期待する読者には勧められませんが、本格派推理小説の謎解きを純粋に楽しみたい読者になら勧められます。

No.323 5点 加賀友禅愛憎殺人- 山村正夫 2012/08/14 16:39
(ネタバレなしです) 滝連太郎シリーズは伝奇本格派推理小説と一般的に認知されていると思いますが、1993年発表のシリーズ第11作の本書はこのシリーズとしては珍しく伝奇要素のない本格派推理小説です。加賀友禅をモチーフにして和風の雰囲気を醸し出しているのが個性になっています。滝の推理は粗く、好都合的に登場した証人に助けられているのが謎解きとしての不満になっています。悲劇調になることの珍しくないシリーズですが、本書では滝の大食いぶりを随所で描いてそれを中和しており読後感は悪くありません。

No.322 6点 精神分析殺人事件- アマンダ・クロス 2012/08/14 15:15
(ネタバレなしです) 今でこそ男性の領域とされる分野で活躍する女性を主人公にしたミステリーは珍しくもありませんが、その先駆けとされるのが米国の女性作家アマンダ・クロス(1926-2003)のケイト・ファンスラー大学教授シリーズです。クロスは後にフェミニズム(男女平等主義)をミステリーに織り込んだ作家として有名な存在になりますが、デビュー作の本書は驚くことにユーモア本格派推理小説でした。ここにはフェミニズムの要素は全くなく、それゆえ作者の個性が発揮されていないと一般的な評価は低いようですが、私がこれまでに読んだクロス作品で純粋にミステリーとして楽しめたのは本書が1番でした。お堅い印象のタイトルですが(英語原題は「In the Last Analysis」)それほど学術的な難解さがないので私の好感度は高いです。

No.321 4点 扉の影の女- 横溝正史 2012/08/14 15:03
(ネタバレなしです) 雑誌掲載された短編「扉の中の女」(1957年)を長編化して1961年に発表した金田一耕助シリーズ第23作ですがこれは結構な問題作でしょう。地味な事件を地味に調べる盛り上がりに乏しいプロットなのはまだしも、この真相は本格派推理小説としては反則と批判されても仕方ないと思います。金田一の日常生活が紹介されているのがファン読者へのアピールポイントにはなっていますけど。

No.320 5点 ホッグズ・バックの怪事件- F・W・クロフツ 2012/08/14 14:45
(ネタバレなしです) クロフツの作品は探偵役の行動だけでなく考えていることまで丁寧に描写しているので早い段階で犯人の見当がつきやすいのが珍しくありませんが、1933年発表のフレンチ警部シリーズ第10作となる本書では最後まで犯人の正体を隠しているだけでなく何と64個の手掛かり索引を使っての推理説明があります。とはいえこの手掛かりは大半が重箱の隅をつついたような細かい手掛かりで、そんなところまで覚えていられるわけないだろうと凡才読者の私としては抗議したくもなりましたが。それにしてもこんな失踪事件で(最終的には殺人事件に発展しますが)引っ張り出されるなんてロンドン警視庁って結構暇なのでしょうか(笑)?

No.319 5点 出口のない部屋- 岸田るり子 2012/08/13 18:39
(ネタバレなしです) デビュー作の「密室の鎮魂歌」(2004年)はサイコ・スリラー要素のある本格派推理小説ですが、2006年発表の長編第2作の本書は本格派推理小説要素のあるホラー小説というのが個人的な評価です。怖いというより気持ち悪いと感じましたが。前半はややもたもたした展開で、犯罪描写はありますがミステリーらしくありません(ホラーらしくもありません)。後半はテンションが上がります。謎解きはやや駆け足気味な気もしますが、要点のわからないばらばらの物語を有機的にまとめあげる手腕は見事で、作者の実力の高さを十分に示しています。本格派とホラーの組み合わせというと今邑彩や綾辻行人もそういう作品を書いているので比較するのも面白いかも。

No.318 7点 スリー・パインズ村の不思議な事件- ルイーズ・ペニー 2012/08/13 17:58
(ネタバレなしです) ルイーズ・ペニー(1958年生まれ)はカナダ人の女性作家で2005年発表のガマシュ警部シリーズ第1作である本書でミステリー界にデビューし、レジナルド・ヒルやピーター・ラヴゼイから好意的なコメントを寄せられています。このシリーズは一時期コージー派ミステリーであるかのように紹介されたこともあったような記憶がありますが、どうしてそうなってしまったのでしょうか?キャロライン・グレアムの傑作「蘭の告発」(1987年)に雰囲気の近い本格派推理小説で登場人物の心理を非常に丁寧に描き、平和で静かな世界の秘められた悪意をガマシュ警部が追求するプロットになっています。謎解き伏線もしっかり張っており、なかなかユニークな手掛かりが印象的です。ガマシュ警部も十分に活躍していますが、もう1人名探偵にふさわしい推理をした人がいましたね。

No.317 6点 ライン河の白い霧笛- 高柳芳夫 2012/08/13 15:47
(ネタバレなしです) タイトルが紛らわしいですが1981年発表の本書は「ライン河の舞姫」(後に「『ラインの薔薇城』殺人事件」に改題)(1977年)とは全く別の作品です。小説部分のプロットには釈然としないところもあります。例えば主人公の鷹見が敵対的であることに気づきながら雇い主のヴォルフマンが解雇しないのは不思議としかいいようがありません(いくら優秀でも運転手の代わりならいくらでも見つけられそうですが)。また鷹見のキャラクターも読者の共感を得られるかは疑問です。しかし本格派推理小説の謎解きとしてはユニークなトリックが光る作品で、一読の価値は十分にあります。

No.316 6点 QED 龍馬暗殺- 高田崇史 2012/07/13 11:37
(ネタバレなしです) 2004年発表の桑原崇シリーズ第7作の本格派推理小説です。本書で取り上げられた歴史の謎は坂本龍馬暗殺事件で、歴史の苦手な私でも知っている暗殺事件であることと、本格派推理小説の犯人当てに通じるところがあるので比較的とっつきやすい歴史の謎解きでした。とはいえ桑原崇の説明は(奈々の指摘の通り)物的証拠のない解決なのですっきり感は得られませんでしたが。現代の事件の方は何と嵐の山荘ならぬ嵐の村落で起こったのが新鮮でした。ところが警察の介入がないので大手を振って探偵活動するのかと思ったら、事件そっちのけで龍馬暗殺の議論に明け暮れているではありませんか。そりゃ彼らは一般人だから犯罪事件に自ら顔を突っ込まないのが普通と言われればそれまでですけど。最後はちゃんと解決していますけど、色々な意味で私の思惑を外された作品でした。

No.315 8点 夏の記憶- ピーター・ロビンスン 2012/07/12 20:27
(ネタバレなしです) 初期の作品は叙情性の勝った作品が多いのですが、特に1988年発表のアラン・バンクスシリーズ第2作の本書はその典型です。この作者は男性作家とは思えないほど人物描写が繊細ですが、それだけに結末の衝撃性はより一層重く響きます。解決後に漂う悲哀感もまた強烈で、地味な展開ながら全く退屈しない本格派推理小説でした。個人的にはシリーズ作品中1番のお気に入りです。

No.314 6点 海を見ないで陸を見よう- 梶龍雄 2012/07/12 20:22
(ネタバレなしです) 1978年発表の長編第2作の本格派推理小説です。第1作の「透明な季節」(1977年)から作中時代が4年が経過した設定で同じ主人公(芦川高志)が登場していますが、前作のことに全く触れていないのでどちらを先に読んでも支障はありません。青春小説要素が濃いのは前作と共通していますが前作が後半になるとミステリー要素が薄くなるのとは対照に、本書は後半になるほど本格派推理小説として充実したものとなり、最終章では豊富な伏線に基づく推理が披露されています。容疑者の中に進駐軍所属の外国人が登場するためか英語交じりの会話が多いですが、現在の日常会話には定着しなかった単語が結構多いですね。

No.313 5点 罪深き眺め- ピーター・ロビンスン 2012/07/12 20:17
(ネタバレなしです) 英国に生まれ、カナダに在住しているミステリー作家ピーター・ロビンスン(1950-2022)の1987年発表のデビュー作です。殺人事件、のぞき事件、盗難事件の3つの事件を同時並行的に扱いながら混乱させない筆づかいはお見事です。人物描写に秀でており、バンクス首席警部が妻サンドラと心理学者ジェニーとの間で気持ちが揺れ動く様子を繊細に描き、それが捜査にも微妙に影響するところも巧妙なプロットづくりが光ります。推理が弱いのと、メインとなるべき殺人事件があっさりした扱いなのが少々惜しまれますが。

No.312 5点 アルキメデスは手を汚さない- 小峰元 2012/07/11 14:19
(ネタバレなしです) 小峰元(こみねはじめ)(1921-1994)は鮎川哲也や高木彬光に近い世代で、1940年代後半から活動しているのですが短編作品が中心だったためか長らく知る人ぞ知る存在でした。有名になったのは長編第1作である本書を1973年に発表してからで、某出版業界サイト情報によると1974年のベストセラートップ10にランクイン(ミステリー作品としては珍しい)したほどの成功作です。この成功に自信を得た作者は青春ミステリーの書き手として東野圭吾に影響を与えるほどの存在になりました。本書は本格派推理小説ではありますが本格派としての評価は難しく、色々と謎はあるのですがメインの謎が何かについてはやや焦点が定まっていないこと、読者が推理に参加する余地があまりないこともあって謎解きとしてはそれほど楽しめませんでした。やはり青春小説要素の方がこの作品の価値を高めているのでしょう。某サイトの感想で「ふてぶてしい」と表現していましたがまさにその通りで、本書の高校生は「大人になろうと背伸び」しているのでも「大人を拒絶」しているのでもなく、今の自分が人生のピークであるかのように堂々としています。こういう高校生にリアリティを感じるかは意見が分かれるでしょうし、読者にあれこれ考えさせているところに人気の秘密があったのではと思います。

No.311 10点 五匹の子豚- アガサ・クリスティー 2012/06/17 11:25
(ネタバレなしです) 1942年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第21作の本格派推理小説です。既に有罪判決まで出た16年前の事件の再調査という難題にポアロが挑みます。ポアロはそれぞれの事件関係者(容疑者でもある)に事件の再構成をさせているのですが、ある意味繰り返しの連続です。しかしこれが全く退屈しないのですからすごい筆力です。味気のない証言ではなく、登場人物の心理状態もたっぷり織り込まれた物語となっているので読者が感情移入しやすくなっているのが成功の理由の一つでしょう。プロット、人物描写、謎解きと三拍子が揃った完成度の高い大傑作で、最後の一行も何とも言えぬ余韻を残して印象的でした。

No.310 5点 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 2012/06/17 10:04
(ネタバレなしです) バラバラにされた女性の死体が7つの駅で発見されるという衝撃的な事件の起きる、1984年発表の吉敷竹史シリーズ第2作です。犯人の正体は中盤頃には判明しており(推理としては粗いと思いますが他に有力容疑者がいません)、アリバイ崩しの本格派推理小説となっています。複数の駅と路線が登場し、時刻表、路線図、駅や車両の配置図なども豊富に揃えており、いかにも「鉄道ミステリ」の雰囲気が濃厚な作品です。推理は丁寧だしトリックも細かいレベルまで考えてはいますが、そもそも犯人がここまでする必要があったのかという点に関しては疑問が残りました(結構綱渡り的なトリックだと思います)。

No.309 8点 花面祭- 山田正紀 2012/06/07 20:12
(ネタバレなしです) 元々は1990年に発表された主人公の異なる4つの短編で、それらを合体させて加筆して1995年に長編化したそうですがつぎはぎ感は全くなく、実に完成度の高い本格派推理小説に仕上がっています。戦時中の密室からの人間消失トリックには驚きました。このトリック自体はアガサ・クリスティーの作品に前例があります。クリスティーは密室でない用途でこのアイデアを使い、それも結構巧妙でしたがこれを密室トリックに流用した山田のアイデアもすごいと思います。この作者ならではの幻想的雰囲気も女性と花との組み合わせにマッチしていると思います。

No.308 6点 迷走パズル- パトリック・クェンティン 2012/06/07 18:11
(ネタバレなしです) リチャード・ウエッブ(1901-1966)とヒュー・ウィーラー(1912-1987)の黄金コンビ時代の幕開けを飾る、1936年発表のダルース夫妻シリーズ第1作(但し本書ではまだ夫妻ではない)の本格派推理小説です。このシリーズは主人公が名探偵役とは限らなかったり、ダルース夫妻の関係が山あり谷ありだったり、後期作品ではサスペンス小説要素が濃くなってきたりと実に変化に富んでいます。精神病院を舞台にしていますが、舞台や人物の特殊性をそれほど強調しておらず謎解きの面白さを損ねない範囲で留まっているのがいいですね。リアリティを重視する読者にはそこのところの評価が微妙かもしれませんが。終盤のどんでん返しが鮮やかです。

No.307 6点 殺人配線図- 仁木悦子 2012/06/07 17:51
(ネタバレなしです) 1960年発表の長編第3作の本格派推理小説で、ちょっと理系要素がありますが(実際に配線図も2つ登場)、そういうのが苦手な読者(私もそうです)でもそれほど抵抗なく読めると思います。主人公が謎解きする理由が自分の不注意で父親が死んだと思い込んでいる従姉妹の心の重荷を取り除くというのがユニークで、こういうハッピーエンド狙いのミステリーを(しかもわざとらしさを感じさせずに)書ける作家は案外そうはいないでしょう。探偵役の吉村俊作は本書以外に短編4作に登場するそうです(仁木兄妹や三影潤に比べると地味ですが)。

No.306 6点 エドウィン・ドルードの謎- チャールズ・ディケンズ 2012/04/29 15:33
(ネタバレなしです) 19世紀英国を代表する作家チャールズ・ディケンズ(1812-1870)は友人でもあったウィルキー・コリンズから「月長石」(1868年)を献呈されたことに刺激を受けたか自らもミステリーを書こうとしました。しかし残念なことに全体の30%程度を発表したところで1870年に作者が死去してしまい、未完の作となってしまいました。20分冊予定の6分冊までしか書かれなかったのですが、この6分冊分だけで創元推理文庫版で23章400ページ以上あるのですからもし完成したらコリンズの「月長石」(1868年)を上回る(当時としては)「世界最長のミステリー」になったかもしれません。物語としては14章でようやく事件(それも失踪)が起きるというゆっくりした展開で、23章で謎解きの雰囲気が盛り上がり始めたところで絶筆。うーん、消化不良だ(笑)。ちなみに創元推理文庫版の巻末解説では、ディケンズの友人の伝記作家の証言(ディケンズから聞いたという伝聞証拠)に基づいて完成したらこういう謎解きになっていたはずだと紹介しています。物語中の伏線と整合がとれており説得力はそれなりに高いですが、まだ物語は30%程度の段階ですからここから(新証拠や新容疑者が登場して)二転三転する予定ではと期待もしたくなります。いずれにしても全ては永遠の謎になってしまいましたが。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)