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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.215 5点 白と黒- 横溝正史 2011/01/25 14:49
(ネタバレなしです) 1960年発表の金田一耕助シリーズ第25作の本格派推理小説ですが当時台頭してきた社会派推理小説を意識したような作品でもあり、集合住宅とその住人たちの人間関係を重厚に描いた異色作です。金田一耕助シリーズでこのような都会風な作品が書かれるとは驚きです(都会風といっても洗練とかお洒落とかとはちょっと違いますが)。シリーズ中最も大作のボリュームですが人間関係を複雑にし過ぎて謎解きのサスペンスが少ないのが惜しまれます。

No.214 8点 乙女の悲劇- ルース・レンデル 2011/01/25 12:52
(ネタバレなしです) 1978年に発表されたウェクスフォード警部シリーズ第10作の本格派推理小説です。犯人の正体にはそれほど驚きませんでしたが(でも私は当てられませんでした)、逮捕後にウェクスフォードが酒場で語る真相には驚きました。実際にあった事例まで紹介しての推理は個人的には十分納得できるものでした。「罪人のおののき」(1970年)と「偽りと死のバラッド」(1973年)で私が感じた不満点を解消しており、お気に入りのシリーズ作品です。

No.213 6点 招かれざる客- 笹沢左保 2011/01/25 11:46
(ネタバレなしです) 生涯に350作以上の作品を世に出した笹沢左保(1930-2002)の1960年発表のデビュー作で本格派推理小説です。犯人の正体は早い段階で見当がついてしまい犯人当てとしては楽しめませんが、メインの謎解きであるアリバイ崩し以外にも凶器、暗号、動機など実に様々な工夫が織り込んであり推理も丁寧です。デビュー作ゆえかまだ文章にロマンは感じられず、特に報告調の前半はむしろ素っ気無いほどですが謎解きの魅力で最後まで押し切ったような印象を受けました。

No.212 4点 象は忘れない- アガサ・クリスティー 2011/01/25 11:39
(ネタバレなしです) 1972年発表のポアロシリーズ第32作となる本格派推理小説です。この後シリーズ最終作として「カーテン」(1975年)が出版されましたがそれは死後発表用として(結果的には存命中に発表しましたが)ずっと以前に書かれており、執筆順としては本書が最後に書かれたシリーズ作品です。後期の作者が得意とする「回想の殺人」を扱っていますが沢山の容疑者の中から犯人を探す通常タイプのミステリーではありません。12年前に崖の上で撃たれた死体となって発見された夫婦のどちらが相手を殺したのかという風変わりな謎解きになっています。謎解きに関しては不満点が多く、特にコナン・ドイルの某作品のネタをそっくりそのまま使っているのはいかがなものかと。とはいえ本書で作者が試みたのは人間ドラマとしてどう決着させるかであり、そのために真相がご都合主義的になったのも納得できました。ルース・レンデルの「死が二人を別つまで」(1967年)をちょっと連想しました。

No.211 7点 仮面舞踏会 伊集院大介の帰還- 栗本薫 2011/01/24 11:24
(ネタバレなしです) 「天狼星」三部作で作風の大きな変更を見せた伊集院大介シリーズですが、「伊集院大介の帰還」の副題を持つ1995年発表のシリーズ第8作の本書は本格派推理小説の良作です。ネット社会が描かれていますがネットに精通していない私でも十分楽しめた内容でした。顔の見えない人間同士の微妙な人間関係と犯罪の原因となりかねない危険性を提言した社会派推理小説要素もあり、また新手の安楽椅子探偵ものとしても評価できると思います。ただネット会話の言葉遣いがあまりにも乱暴で時に低俗になるのは少々うんざりしましたが(それもある意味リアルさを感じさせますけど)。

No.210 7点 蛇は嗤う- スーザン・ギルラス 2011/01/20 18:01
(ネタバレなしです) 英国の女性作家スーザン・ギルラス(1911-没年不詳)については経歴がそれほどはっきりしていません。世代的にはエリス・ピーターズ(1913-1995)に近いのですが亡くなるまで執筆を続けたピーターズに対してギルラスは1950年代から1960年代までとごく限られた期間に7作品を発表したのみでした。そのミステリーはライアン・クロフォードとゴードン警部を主役にしたシリーズですが最終作(つまりシリーズ第7作)となった本書(1963年出版)を読む限りではかなりの実力を感じさせる作家です。抑制の効いた異国情緒と個性的な人物描写の組み合わせが魅力的です。陰謀の影がちらつくスリラー小説風な雰囲気と本格派推理小説としてのしっかりした謎解きプロットのバランスも絶妙で、これはなかなかの掘り出し物でした。モロッコのタンジールを舞台にした本格派推理小説というとカーター・ディクスンの「赤い鎧戸のかげで」(1952年)がありますが、文体は異なれど結構共通する描写もありますので比較しても面白いかも。ロマンチックな幕切れも印象的で、続編が書かれなかったのが非常に残念です。

No.209 7点 密室に向かって撃て!- 東川篤哉 2011/01/19 09:18
(ネタバレなしです) 2002年発表の烏賊川市シリーズ第2作の本格派推理小説です。ユーモアの度合いが前作「密室の鍵貸します」(2002年)に比べて数段パワーアップしています。謎解きも充実しており、お笑いの中に謎解き伏線をしっかり張ってあります。前作のような破天荒な真相ではありませんが、その分解決のまとまりは良いので本書の方が一般受けしやすいと思います。

No.208 6点 落馬- ジョン・L・ブリーン 2011/01/18 21:07
(ネタバレなしです) ミステリー評論家としても名高い米国のジョン・L・ブリーン(1943年生まれ)が1983年に発表したジェリー・ブローガンシリーズ第1作となる本格派推理小説です。有名ミステリー作家のパロディ作品を書いている作者だけあって本書に登場するオリビア叔母さんのキャラクター描写が秀逸です。古典的推理小説が大好きでホームズ流の人物鑑定や、容疑者を一堂に集めての謎解きを追い求める場面は本格派ファンなら笑いが止まらないでしょう。犯人が誰かという謎解きもさることながら、オリビア叔母さんの願いがどういう結末を迎えるかも本書のお楽しみの一つでしょう。推理は初期エラリー・クイーンを彷彿させる、これまた本格派好きを意識したようなところがありますがクイーンのように色々な可能性を一つずつ吟味することなく、「これしか考えられない」と一足飛びに結論に至っているのがちょっと残念です。でもまあ面白く読めました。

No.207 5点 影の複合- 津村秀介 2011/01/18 09:31
(ネタバレなしです) 津村秀介(1933-2000)はミステリーデビュー作が1982年発表の本書なので、ミステリー作家としてのキャリアは決して長い方ではありませんがそれでも50作を超す長編作品を残しました。色んなジャンルに手を出すことの多い国内作家の中でアリバイ崩しの本格派ばかりを書き続けたこだわり型作家です。当然ながら本書でもアリバイトリックに力を入れていますが、それ以上に目立っているのが人間関係が少しずつ明らかになる捜査描写です。この複雑な人間関係がちゃんと理解できないとさっぱり面白くない作品なので、登場人物リストを作成しながら読むことを勧めます。⇒(後記)正確には本書は「偽りの時間」(1972年)を10年ぶりに改訂した作品なので再デビュー作と紹介すべきでした。

No.206 6点 赤い数珠- モーリス・ルブラン 2011/01/11 19:29
(ネタバレなしです) モーリス・ルブラン(1864-1941)晩年の1934年に発表された本書はなぜかルパンシリーズのように紹介されたこともありますがこれは完全な誤りで、ルパンは名前さえも登場しません(登場人物の1人が後年発表の「カリオストロの復讐」(1935年)で再登場するという関連性はありますが)。本格派推理小説に属する作品ですが、探偵役のルースランの手法は通常捜査や証拠の吟味に重きを置かず容疑者同士を互いに告発させ合うという風変わりというかとんでもないな手法で、独特のユーモアに満ちた締めくくりもまず日本人作家には書けなさそうです。但しルブラン得意の冒険アクションスリラーを期待する読者には勧め難い作品です。

No.205 6点 消えた玩具屋- エドマンド・クリスピン 2011/01/11 19:17
(ネタバレなしです) 1946年発表のフェン教授シリーズ第3作の本書はクリスピン全作品中でもファルス派ぶりが最も顕著な作品ではないでしょうか。映画化が検討されたというのも納得のどたばたの連続に、玩具屋消失という大変魅力的な発端の謎と相まって中盤までは文句なしの面白さです。謎解きがやや残念レベルで、玩具屋消失トリックが推理と関係なく明らかになってしまうし、それとは別のトリックも非常に珍しいのは確かだけど実行にはあまりにも大きなリスクが伴いそうでぴんと来ませんでした。良くも悪くも読み応えがたっぷりなのは確かで、ある人物をフェンや学生たちが追い回すシーンやフェンと犯人との対決シーンなどは抜群に面白いです。

No.204 6点 蔵王山荘連続殺人事件- 草野唯雄 2011/01/11 18:35
(ネタバレなしです) 1983年発表の本書は、「初心にかえって古典ミステリーの原点に挑んだ」と作者コメントの通りヴァン・ダインの某作品や横溝正史の某作品を連想させるようなシーンがあちこちにあって、1980年代の作品とは思えない古さを感じさせる本格派推理小説です。あまりに真相が見え見えの展開と思わせて後半に捻りを入れているのがちょっとした工夫で、古き良き謎解き推理小説好き読者ならそれなりに楽しめる作品です。

No.203 6点 証拠が問題- ジェームズ・アンダースン 2011/01/11 18:16
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説の本書の特徴は2人の男女がコンビを組んで謎解きに挑戦というよくありそうな設定で、このパターンだと往々にしてユーモアミステリーになりがちですが本書は全く違う様相を見せます。重要容疑者の家族だったり被害者の親族だったりと微妙な立場にあり、その探偵活動は決して足並みが揃っているわけではなく次の展開が容易には予想できません。最後のロマンスは唐突かつ余計な気もしますが緊迫感漂うプロットは魅力的です。

No.202 6点 金魚の眼が光る- 山田正紀 2011/01/11 17:13
(ネタバレなしです) 1990年発表の本格派推理小説で後年に「灰色の柩」と改題されました。全体的に叙情性を意識したような作風で、時にそれがサスペンスを犠牲にしていますが1930年代という作中の時代性描写には効果的だったと思います。ヒロイン役を設定したことにより探偵役の呪師霊太郎(しゅしれいたろう)の捜査の全てが読者に提示されるプロットでなくなりましたが、物語の幻想性の演出面でのメリットの方が大きくなったように思います。

No.201 8点 ウォリス家の殺人- D・M・ディヴァイン 2011/01/11 17:07
(ネタバレなしです) ディヴァイン(1920-1980)の死後の1981年に出版された第13作ですが文献によっては執筆されたのは結構早く、ずっと陽の目をみなかった作品とも紹介されています。未発表にしていた理由が思い当たらないほど優れた内容で、コンパクトにまとめられていますが完成度はとても高いです。個性的な登場人物が織り成す複雑なドラマと充実した謎解きが楽しめます。地味なプロットながらじわじわとサスペンスを盛り上げる手腕も見事で、第三部前半で容疑者たちがガーストン館に集結する場面の何ともいえない息苦しさがたまりません。ミスディレクションも相変わらず巧妙です。

No.200 5点 赤い霧- ポール・アルテ 2011/01/07 21:19
(ネタバレなしです) 1988年に発表された第2長編でシリーズ探偵は登場しません。最初から3分の2ぐらいまでが純然たる本格派推理小説、最後の3分の1がスリラー小説という構成です。とはいえ前半部にも不気味な部分はあるし、後半部でも謎解きがなくなったわけではありません。ジャンルにこだわらない読者なら1冊で2度おいしい思いができたと満足するかもしれませんが、私のように本格派偏愛タイプだと微妙な判定(笑)。ブラックフィールド村を舞台にした第一部で謎のかなりの部分が解決され、第二部は舞台をロンドンに移しての後日談的な物語となるのですが、最後の謎解きが腰砕け気味(脱力系トリック)なのが個人的には残念。

No.199 6点 十和田殺人湖畔- 山村正夫 2011/01/07 18:58
(ネタバレなしです) 1987年発表の柏木美也子シリーズの本格派推理小説ですが通俗サスペンスっぽい雰囲気が濃く、ヒロイン役が容疑者の1人に強姦されてしまうのはいくら何でもやり過ぎという気がします(プロット上の必要性がありません)。とはいえ謎解きがしっかりしているところはさすがで、短編ミステリー並みに少ない容疑者数ながら次々に状況証拠が出てきて誰もが怪しく見え、容易に犯人は絞れません。柏木美也子の推理は誰が犯人かだけでなく、他の容疑者がなぜ犯人でないかまで説明した丁寧なものです。新聞連載時には「風景のない旅路」というなかなか味わいのあるタイトルだったそうですが、なぜ西村京太郎作品のパクリみたいなタイトルに改題したのか理解に苦しみます。

No.198 5点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2011/01/07 18:29
(ネタバレなしです) 1937年発表の本書(シリーズ探偵は登場しません)は評価が大きく分かれている本格派推理小説で、なぜ賛否両論なのかは最終章のどんでん返しによるものです。このどんでん返しは意表を突かれることは間違いないのですが非常に型破りなため受け入れられない読者がいるのもごもっともで、少なくとも万人受けはしないでしょう。逆にマニア系や評論家からは絶賛されることが多いでしょう。マニア読者レベルに程遠い私はわかる人にはわかるよりは誰にでも受け入れられる方を好むので6点評価になりました。カーを初めて読む人には本書以外から始めることを勧めます。

No.197 5点 からくり人形は五度笑う- 司凍季 2010/12/26 13:34
(ネタバレなしです) 島田荘司の「奇想、天を動かす」(1989年)を読んでミステリー作家を目指すようになった女性作家の司凍季(つかさとき)(1958年生まれ)の1991年発表のデビュー作で、一尺屋遥(いっしゃくやはるか)(男性です)シリーズ第1作の本格派推理小説です。印象的な主役交代、魅力的な謎、大スケールのトリックと面白いネタは十分揃っていますが全体的に淡白で、ページを増やしてもいいからもう少し演出に凝ってほしいという気持ちもありますが、演出過剰になってグロテスクな部分が際立つのも苦手なので、これはこれでいいという気もします(いい加減な感想だ)。横溝正史の金田一耕助のような飄々とした人物ながら、憎まれないキャラクターの金田一とは対照的に容疑者たちから嫌われまくる一尺屋が何ともおかしいです。

No.196 7点 ベルガード館の殺人- ケイト・ロス 2010/12/26 13:13
(ネタバレなしです) 癌による早逝が大変惜しまれますが弁護士でもあった米国のケイト・ロス(1956-1988)は19世紀初頭の英国を舞台にジュリアン・ケストレルを探偵役にした本格派推理小説を4作書いています。1993年発表の第1作である本書はすぐには殺人事件が起こらず、代わりに「なぜ誇り高きフォントクレア家は、かつての使用人の娘にすぎないモード・クラドックと一族の人間との婚約を承諾したのか?」というミステリーというよりはロマンス小説的な謎で読者を引っ張っているのが珍しいです。その謎が意外な形で事件に絡んでくるのが巧妙だし、結構意表を突かれる真相でした。人物描写に優れており本の分厚さを感じさせないストーリーテリングも素晴らしいです。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)