皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.614 | 6点 | 屍の記録- 鷲尾三郎 | 2015/03/03 11:48 |
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(ネタバレなしです) 1957年に出版された本書は私立探偵・南郷宏シリーズの第一長編の本格派推理小説です。南郷の登場場面は極めて少ないのでシリーズ入門編としては傑作と評価の高い短編「文殊の罠」(1955年)あたりがお勧めかもしれませんが本書は本書でなかなか面白い作品です。不可能犯罪要素あり伝奇要素あり、起伏に富んだストーリー展開で飽きさせません。サービス過剰になっていて現代ミステリーに慣れた読者には犯人当てとしては少し容易な部類になってしまったかもしれませんけど。どこか間抜けな印象のある人間消失トリックもユニークです。しかし大きな問題があり、それはハンセン病(作中表記は癩病)の人物を登場させていることです。その描写は現代社会では容認しにくいだろうし、さりとてプロットに影響を与えずに削除することも難しく、復刊は難しいかもしれません。(後記:何と2016年に復刊されました) |
No.613 | 6点 | グレイストーンズ屋敷殺人事件- ジョージェット・ヘイヤー | 2015/02/28 23:57 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のハナサイド警視シリーズ第4作の本格派推理小説です。シリーズ最終作であるのですが特別に最終作的な演出はありません。また第二次世界大戦直前の発表ですが時代の不安を感じさせるところもありません。殺害時刻前後に何人もの容疑者が現場近くにいたという設定が謎解きのサスペンスを上手く盛り上げており、これまで読んだシリーズ作品では1番楽しめました。タイトルは英語原題の「Blunt Instrumental」を直訳した方がよかったと思います(エラリー・クイーンの某作品を思い出しますが関連は...)。 |
No.612 | 6点 | 風花島殺人事件- 下村明 | 2015/02/28 23:35 |
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(ネタバレなしです) この作者のミステリー作品では比較的知られている1961年発表の本格派推理小説です。社会派推理小説全盛期の作品だからでしょうか、意外と手堅く書かれた作品で羽目を外すようなことがありません。私立探偵が活躍しますが失踪人探しから始まる展開、地道なアリバイ崩しと地味な内容です。後半の嵐の場面はそれなりに盛り上がり、ミステリープロットとの絡ませ方もまずまず(単なる背景描写に留まっていません)。 |
No.611 | 6点 | 十三回忌- 小島正樹 | 2015/02/27 23:01 |
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(ネタバレなしです) デビュー作で海老原浩一シリーズ第2作が2008年発表の本書です。デビュー作なのにシリーズ第2作?、と疑問に感じる人がいるかもしれませんが、シリーズ第1作の「天に還る舟」(2005年)はあの島田荘司との共著です。ちなみに本書の双葉文庫版の巻末解説で島田がその経緯を説明していますが、わかるようなわからないような...。さて本書の感想ですが、豊富なトリックを駆使した謎解きは本格派好きにはたまらない魅力で一杯です。謎を盛り上げる演出は意外とあっさりしていますが、代わりに話のテンポが早くて読みやすい展開となっています。この「あっさり」は時に弱点でもあり、特に人物描写は10年以上にまたがる物語なのに年齢の積み重ねを全く感じさせません。感情描写場面もほとんどないので、これだけの犯罪を起こした動機も読者には伝わりにくいです(説明はしています)。しかし本格派好き読者のみにしか受けないであろう執筆姿勢はある意味いさぎよささえ感じさせます。 |
No.610 | 5点 | ギルフォードの犯罪- F・W・クロフツ | 2015/02/27 22:46 |
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(ネタバレなしです) 1935年に発表されたフレンチシリーズ第13作の本書は久しぶりに伝統的な本格派推理小説となっています。一応は企業ミステリーと言ってもいいのですが、ノーンズ商会の描写は表層的なものに留まっています。フレンチが担当するロンドンの盗難事件の方が重点的に描かれていますが、ここでのトリックを読者が推測するのは難しいでしょう(フレンチが唐突に見破っています)。殺人事件のトリックの方がまだしも読者が推理する余地がありますが、こちらは旧作の焼き直し的トリックであまり感銘できませんでした。アリバイ崩しと犯人探しの両立ができているのは長所だと思います。 |
No.609 | 5点 | 人生の阿呆- 木々高太郎 | 2015/02/27 22:36 |
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(ネタバレなしです) 木々高太郎(きぎたかたろう)(1897-1969)はミステリー芸術論を提唱し、松本清張の文壇登場を後押ししたことでも知られ、ミステリー文学派の代表として本格派に対しては批判的な態度をとったとされています。こういった経歴からその作品は本格派とは距離を置いていると私はずっと思っていましたが、1936年発表の長編ミステリー第1作である本書は何と「読者への挑戦状」が挿入されているではありませんか。あのエラリー・クイーンの「中途の家」と同年の発表です。もしかしたら国内初の「読者への挑戦状」付きミステリーかもしれません。とはいえ本格派推理小説として過度に期待してはいけないと思います。多くの謎の中のほんの一部しか挑戦状は「読者が解ける」と告知しておらず、全ての謎が論理的に説明されているわけではありません。また良吉の海外旅行のエピソードが謎解きプロットと上手く融合できておらず物語構成的にばらばらの印象を受けます。とはいえクイーンのコピー商品ではない、独自の作風を追求した姿勢は評価すべきでしょう。 |
No.608 | 5点 | パンチとジュディ- カーター・ディクスン | 2015/02/27 14:22 |
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(ネタバレなしです) 1936年発表のH・M卿シリーズ第5作で、前作の「一角獣殺人事件」(1935年)同様、ケンウッド(ケン)・ブレイクの冒険談的な要素が非常に強い作品です。次々に展開が目まぐるしく変わり、ピンチに次ぐピンチをケンがどうやってくぐり抜けるのか全く目が放せません。但し本格派推理小説としては出来があまり良くないのが難点。最大の問題点は10章と11章で、死体が遠く離れた場所に瞬間移動したかのような魅力的な謎が10章で提示されたと思ったら11章であまりにもお粗末なオチだったのには本当にがっかりさせられました。H・M卿が一人一人に誰が犯人かを推理させる終盤の場面なんかは謎解きのスリリングに満ち溢れているのですが、私にとってはあまりにも中盤の落胆度が大きかったです(それでも好きな作家なのでおまけして5点評価しちゃいますが)。 |
No.607 | 6点 | 放送中の死- ヴァル・ギールグッド&ホルト・マーヴェル | 2015/02/27 08:51 |
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(ネタバレなしです) 英国のヴァル・ギールグッド(1900-1981)とホルト・マーヴェル(1901-1969、エリック・マシュウィッツの名前の方が有名らしいです)は共にラジオ番組やテレビ番組製作などに辣腕を振るった放送業界人ですが、4作のスピアーズシリーズ(本書では警部補、最終作では首席警部)を合作で発表しました。1934年発表の本書はその第1作の本格派推理小説で、同年には映画化もされています(しかもギールグッドは容疑者役で出演したらしい)。放送局という舞台、放送録音に殺人の手掛かりを求めるというプロットは大変ユニークです。舞台描写については物足りない部分もありますが、あまり克明に描写すると物語のリズムが悪くなることもあるのでこのあたりは一長一短ですね。人物の個性はもう少し描いてほしく、最初は誰が誰やらなかなか理解できませんでした。第14章で現場見取り図を提示してくれていますが、読者サービスとしては冒頭に置いた方がよかったようにも思います。動機の探求が後回し気味の捜査のためか前半は謎解きに停滞感がありますが後半はうまく巻き返します。 |
No.606 | 6点 | 怒った会葬者- E・S・ガードナー | 2015/02/25 11:42 |
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(ネタバレなしです) 1951年発表のペリー・メイスンシリーズ第38作です。作者によるまえがきの中で「状況証拠の問題を扱ってみた」と書いている通り、手掛かりを豊富に揃えて本格派推理小説としての謎解き要素が濃く、母娘間の対立と気づかい、検事だけでなく弁護士とも争うことになる状況設定などプロットも充実しています。登場人物も多過ぎず少な過ぎずで(ハヤカワポケットブック版の)古い翻訳がそれほど気にならない読みやすさでした。タイトルに使われている会葬場面が非常に短かったのがちょっと意外でしたが、確かに会葬者の1人が色々な場面でやたら怒ってましたね(笑)。 |
No.605 | 6点 | 画商の罠- アーロン・エルキンズ | 2015/02/25 11:30 |
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(ネタバレなしです) 1993年発表のクリス・ノーグレンシリーズ第3作で、過去2作品に比べて組織的犯罪臭さがない分、本格派推理小説好きには受け入れやすい作品だと思います。とはいえメインの謎解きは絵の真贋であって、殺人犯探しが付随的に扱われているのが本書の長所(個性)でもあり短所(専門的ジャンルのため一般読者にはややわかりにくい)でもあります。 |
No.604 | 3点 | 猫はクロゼットに隠れる- リリアン・J・ブラウン | 2015/02/24 19:06 |
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(ネタバレなしです) もともとこのシリーズは謎解きの面白さにはあまり期待をかけれなかったのですが、1993年発表のシリーズ第15作の本書あたりから一段とミステリーらしさが失われてしまったような気がします。主な事件は遠く離れたフロリダで起こった自殺らしき事件(クィラランは現場へ行きません)と農場主の失踪事件で、どちらも事件性が低いためミステリーとしての魅力にやや乏しく、クィラランの推理も論理よりは直感に頼った感があります。ミステリー以外の部分(演劇、ハロウィーン、クリスマスなど)の描写の方が光っています。 |
No.603 | 6点 | ロマンチック街道殺人ルート- 高柳芳夫 | 2015/02/19 15:26 |
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(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説で、日本で事件が起こり中盤は(当時の)西ドイツが舞台になり、そして最後は再び日本に戻って事件が解決されます。ロマンスも描かれていますが控え目で、むしろ企業(銀行)のスキャンダル疑惑の描写の方が目立っておりロマンチックな雰囲気はそれほどありません。犯人はかなり杜撰な行動をしていますが相当な強運に助けられていたなあという感想です。 |
No.602 | 5点 | 死人島の呪い雛- 山村正夫 | 2015/02/18 19:29 |
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(ネタバレなしです) 1985年発表のシリーズ第3作の伝奇本格派推理小説です。大まかな範囲では難解な謎解きではないと思いますが、最終章での細部の説明が何でもあり的な真相なので不満が残りました。またこの最終章で新たな殺人事件を起こしているのは(滝は言い訳していますが)何とか防げなかったのかという気分にさせられます。伝奇的要素と現代的要素を上手く融合しており、過度ではないユーモアも心地よく、読みやすい作品です(ただ低俗な人間関係描写は好き嫌いが分かれそう)。 |
No.601 | 6点 | サイモン・アークの事件簿〈Ⅲ〉- エドワード・D・ホック | 2015/02/18 09:09 |
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(ネタバレなしです) ホックが日本の読者向けに選んだシリーズ中短編26作を3冊の短編集に分けて日本出版されたものの最後となった短編集(2011年出版)で8作品が収められていますが他の2つの短編集と遜色ない水準です。濃厚なオカルト色と現代的な真相の対比が印象的な「焼け死んだ魔女」(1956年)、オカルト色は薄いですがエレヴェーターからの人間消失の謎が魅力的な「黄泉の国への早道」(1988年)、海の中から光と共に現れる女妖術師の「海の美人妖術師」(1980年)などが楽しめましたが他の作品も粒ぞろいです(「魂の取りたて人」(1989年)の足音トリックはすぐばれてしまいそうな気もしますが)。また創元推理文庫版の鳥飼否宇による巻末解説はこのシリーズの特徴を要領よく紹介した名解説だと思います。 |
No.600 | 5点 | エドウィン・ドルードのエピローグ- ブルース・グレイム | 2015/02/16 12:18 |
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(ネタバレなしです) 英国のスティーヴンズ警視とフランスのアレン警部が活躍する本格派推理小説は全部で13作書かれていますが、1933年発表のシリーズ第3作の本書は最大の異色作でしょう。アレンが登場しないのも理由の一つですが、スティーヴンズが1857年の世界に移動(?)するのです。しかもそこはチャールズ・ディケンズの未完のミステリー「エドウィン・ドルードの謎」(1870年)の中の世界なのです。但しグレイムはディケンズの作風を踏襲する気は全くなかったようで、ディケンズと比べると人物描写にはほとんど配慮していません。失踪中のエドウィン・ドルードは仕方ないでしょうが、ローザ・バッド、ランドレス兄妹、ディック・ダッチェリーなどの重要人物の登場が非常に少なく、未完のディケンズ作品の続編を期待する読者は物足りなく感じるかもしれません。その代わりというわけではありませんが13章から14章にかけての法廷場面でスティーヴンズがつい20世紀の知識を口に出してしまって窮地に陥ってしまうなど、過去の世界で現代人が悪戦苦闘する描写は本書の個性となっています。謎解きは証拠不足を好都合な証言で強引に解決しているような印象が強くすっきりできませんでした。21章の最後のとんでもない自白には唖然とするばかりです。 |
No.599 | 6点 | マシューズ家の毒- ジョージェット・ヘイヤー | 2015/01/30 16:29 |
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(ネタバレなしです) 1936年発表のハナサイド警視シリーズ第2作の本格派推理小説です。「紳士と月夜の晒し台」(1935年)と同じくプロットにメリハリが乏しいのは弱点です。個性的な登場人物描写は長所ですが誰が主人公と特定できないのも作品の焦点が定めにくい一因でしょう。真相は意外と言えば言えるのですが、そもそもが後手に回った捜査のせいで大事な手掛かりの登場が終盤近くまで登場しないのですから謎解きとしても少々不満があります。 |
No.598 | 6点 | 七番目の仮説- ポール・アルテ | 2015/01/28 14:33 |
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(ネタバレなしです) 1991年発表のアラン・ツイストシリーズ第6作です。四部構成となっていますが、第一部はいかにもアルテらしい、不可能としか思えない謎の魅力がたっぷりです。しかし本書の特色はむしろ第二部以降で、一体誰がどんな陰謀を企んでいるのかという謎を巡って推理します。トリックよりも犯人と動機の謎解きに力を入れた作品で、特に後者については単なる犯行動機だけでなく、なぜこれほど複雑怪奇な事件にしたのかという理由も追求されます。アルテといえば不可能犯罪と期待する読者にはやや物足りなく感じるかもしれませんが、作者がトリックメーカーに留まらないことを示した作品と個人的には評価したいです。真相解明場面での犯人とツイスト博士の心理対決のサスペンスなどさすがにこの作者は演出が巧いです。 |
No.597 | 4点 | 無縁坂殺人事件- 草川隆 | 2015/01/27 16:27 |
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(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。丁寧な捜査描写の結果、犯人の正体は中途で見当がつくのですが(この人以外に有力な容疑者がいない状況になる)、動機が完全に後出しのため意外というより拍子抜け感が強いです。不可能犯罪要素もありますが何か謎解きを盛り上げるもう一工夫が欲しかったですね。 |
No.596 | 6点 | 真赤な子犬- 日影丈吉 | 2015/01/27 13:30 |
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(ネタバレなしです) 1959年発表の長編ミステリー第2作で、作者のトレードマークである幻想的作風はまだ見られませんがそれでも初期代表作と評価されるにふさわしい本格派推理小説です。同時代の社会派推理小説とも味気のない本格派推理小説とも違うところを目指していただけあって個性豊かな作品です。自殺希望者が殺されるという不思議な事件に始まり後半には不可能犯罪も発生しますが、謎解きだけでなくバラエティーに富む人物描写や控え目なユーモアも作品の個性です。 |
No.595 | 6点 | そして医師も死す- D・M・ディヴァイン | 2015/01/27 10:27 |
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(ネタバレなしです) 1962年発表の長編第2作の本格派推理小説です。前作の「兄の殺人者」(1961年)と比べると主人公が容疑者となっているのが特徴で、そこに複雑な人間関係を絡ませて地味な展開ながら退屈しないプロットになっています。色々な場面で周囲との対決姿勢を隠さない(ある意味不器用な)主人公の将来がどうなるのかも読ませどころです。ミスディレクションが巧く、真相説明で語られる「論理の穴」はなかなか印象的でした。ただ真相説明が「兄の殺人者」に比べて十分とは言えず、容疑者を残り3人に絞ったところで2人を犯人候補から外した理由は明らかでないように思います。まあそれは全体から見れば些細な問題で、水準の高い謎解き小説だと思います。 |