皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.22 | 5点 | 紫の恐怖- 高木彬光 | 2022/09/04 09:16 |
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収録された神頭恭介もの6編、ページ数を比較すると長い順番に並んでいます。
最初が、神津恭介一高時代に起こった事件の中編『輓歌』です。プロローグとエピローグは彼の理学博士称号祝賀会になっていますが、この構成にはなるほどと思わせられました。中間部分はたいしたことはないのですが。 『死せる者よみがえれ』のプロットは後に登場人物設定を変えて別の探偵役で長編化していますが、この短編の方は最初から秘密を明かしてしまっている上、表現が大げさすぎて、緻密に構成された長編版と比較するとがっかりです。『盲目の奇蹟』はタイトルがねえ。しかし放火事件のトリックはなかなかのもの。『蛇の環』は、似たアイディアを使った別の作家のかなり後の長編を2編思い出しました。『嘘つき娘』はごちゃごちゃした印象だけ。最後の『紫の恐怖』は集中最も古い作品で、おもしろい殺人方法が使われています。 |
No.21 | 5点 | 魔の首飾- 高木彬光 | 2021/01/23 07:43 |
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江戸時代末の実在の侠客大前田英五郎の子孫と称する私立探偵大前田英策もの6編を収録した角川文庫の短編集。そのうち『掌は語る』と『飛びたてぬ鳥』は立風書房の長編『断層』にも併録されていました。
「私立探偵というものは人生の溝さらい、その事務所は社会のはきだめのようなもの」(『飛びたてぬ鳥』)と考える大前田英策は、個人営業ではなく何人もの探偵助手を雇う興信所を営んでいます。巻末解説には、神津恭介が天才的すぎ人間性に欠けるという批判に答えた一つの試みだとか、ある種のハードボイルド的な要素も持つとか書かれています。ただ、神津恭介の対極的な設定ではあっても、百谷弁護士などのようなリアリズム系ではありませんし、作者の文章はハードボイルドとは全く異なった、地の文で主観をむしろ大げさに表現するものです。冒頭の中編『暗黒街の密使』には暴力団や殺し屋は登場しますが。 |
No.20 | 5点 | 死神の座- 高木彬光 | 2020/10/20 23:24 |
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神津恭介シリーズの中では、たぶん最長の作品です。それにもかかわらず、神津恭介は最後の推理部分で「僕の手がけた事件の中では、これはそれほど難解な事件ではなかったはずです」と語っています。ただ続けて彼が言うとおり、犯人以外の登場人物たちにも隠している秘密があり、それが事件を厄介なものにしているのです。
ずいぶん前に読んだことがあるのですが、覚えていたのは、神津恭介が犯人の正体に確信を持てたという推理の部分だけでした。それも、なんだ、これだけの手がかりかと不満を持ったからだったのです。しかし再読してみると、推理はたいしたことがなく、説明不足な点もありますが、話は意外に楽しめました。占星学がテーマとして扱われていますが、占いには詳しい作者らしい趣向でしょう。しかし、最初の占星学によるという予言については、途中で一応意外な事情が明かされますが、さすがに偶然すぎます。 |
No.19 | 5点 | 二幕半の殺人- 高木彬光 | 2020/03/27 00:03 |
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霧島三郎検事シリーズの中短編5編。
最初の『被害者を探せ』は、取り壊し中の家に備え付けられた防空壕の中から発見されたコンクリート詰めの死体が誰かという謎ですが、真相にはなんとなく不満を感じてしまいました。犯人の狙いはわかりますし。作者自身の某初期長編のアイディアにさらにひねりを加えているのは悪くないとは思うのですが。次の『毒の線』はあまり印象に残りません。最もおもしろかったのが『同名異人』で、脅迫の相手はどちらだろうという、同名異人アイディアにもこんな使い方があったかと感心しました。『鬼と鯉』というのは刺青の絵柄のことで、暴力団の世界が扱われていますが、刺青の使い方に工夫があります。最後の表題作は100ページ近い中編ですが、長いわりに大したことはないという印象でした。 それにしても気になるのが、『同名異人』と表題作の最後のまとめ方で、これは法律的にまずいでしょう。 |
No.18 | 5点 | 断層- 高木彬光 | 2019/09/06 22:55 |
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タフな私立探偵大前田英策を主役としたシリーズは、神津恭介との共演のため本領が発揮されていない久々登場の『狐の密室』だけしか読んでいなかったのですが、本作はその第3作、1959年発表という時代性からして、事件の裏に隠された秘密など、多少社会派的な要素も入ってきています。一方謎解き的にはシンプルで、ハウダニットの要素はありません。それは神津恭介とは違うものを期待して読んでいるからいいのですが、最後に犯人が仕掛けた罠を大前田英策が見破る決め手について、後から説明されるだけでフェアプレイが全く守られていないのだけはちょっとどうかと思います。
立風書房版には、同じ大前田英策ものの4短編が併録されていますが、中ではSF的な謎と人情噺を融合した『二十三歳の赤ん坊』が気に入りました。『飛びたてぬ鳥』は、同じ効果を出すには死体発見を遅らせる方がよっぽど簡単だろうと思えてしまいます。 |
No.17 | 5点 | 火車と死者- 高木彬光 | 2018/01/12 22:57 |
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神津恭介シリーズの中でも、最初のうち捉えどころのない事件が続くという意味では珍しい作品ではないでしょうか。「火車」とは熊本に伝わる特殊な伝説(という設定)ですが、事件との関わり方はちょっとこじつけめいています。伝説通りに事件が進むのは最初から犯人の意図したものではなかったという解決は、悪くないと思うのですが、だからと言って火車伝説を持ち出す必要もなかったのではないでしょうか。それによって不気味な雰囲気が漂えばいいかもしれませんが、むしろ全体的にはシリーズ中でも軽めの現実的な作風になっています。
謎解き面では、事件が特異なものになった大きな偶然の使い方は鮮やかだと思います。しかしその他にも二重の伝説利用、切断された腕の件など、小さな偶然を重ねすぎているところは不満です。元になるアイディアはいいのに、仕上げが雑になってしまった作品という気がしました。 |
No.16 | 6点 | 追跡- 高木彬光 | 2016/12/30 23:59 |
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1957年に実際に札幌で市警警部が銃殺された白鳥事件をモデルにした作品で、高木作品の中でも同じ百谷泉一郎弁護士シリーズの『人蟻』と並んで社会派要素の強い作品です。
カッパ・ノベルズ版の作者あとがきに、松本清張の『日本の黒い霧』でも同事件が扱われていますが、清張とは別解釈であることが述べられています。共産党地区委員等の刑が確定したものの、冤罪事件なのかそうでないのか、今でも議論のある事件だそうですが、本作は上告審が最高裁で行われていた1962年に発表されました。清張ほどの政治性はありませんが冤罪説という点では共通していて、10年後に新たな殺人事件を起こすことによって、本作はエンタテインメント性を出しています。 百谷弁護士シリーズの中でも、謎解き要素は『人蟻』よりさらに少ないと言えるでしょうが、硬派な主張は伝わってくる作品です。 |
No.15 | 5点 | 悪魔の嘲笑- 高木彬光 | 2016/04/24 21:56 |
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神津恭介シリーズの中でも知名度の低い作品のひとつでしょう。それであまり期待していなかったせいかもしれませんが、意外に楽しめました。巻末解説には犯人は途中で予想できるだろうなどと書いてありますが、う~ん、これはどうなんでしょうね。犯人の名前だけこいつじゃないかと直感したところで、動機やら最高裁判決を待つ被告人の態度やらの謎の見当がつかないままでは、何も推理できていないのと同じです。実際、嘲笑が響き渡るという印象に残る皮肉なラスト・シーンを生み出す真相は、かなり意外性があります。
ただ、毒を飲まされた被害者が犯人の名前を言う直前に、新聞記者真鍋の目の前で死んでしまうというのは、冒頭の1回だけなら問題ありませんが、2回連続となるとさすがにご都合主義が過ぎますし、クライマックス部分はもう少し効果的に見せられなかったかなという気もします。 |
No.14 | 7点 | 人蟻- 高木彬光 | 2016/01/09 22:07 |
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この百谷泉一郎弁護士シリーズの第1作は、高木彬光が社会派的な方向に進んだ最初の作品です。現実に1955~1958年に起こったドミニカ糖輸入事件のある意味後日談的な内容で、企業犯罪を、政治家との癒着も含めて真正面から描いていて、少なくとも今まで読んだ中では、作者の最も社会派的な作品です。作者も気合を入れて執筆したことがうかがわれます。
それだけに、犯人というか悪役は最初からわかっています。途中で章タイトルにもある「特急よりはやい準急」のトリック(偽アリバイのためではありません)は出てきますが、たいしたことはありません。また最後に明かされるシャーロック・ホームズの謎は、たぶん誰でも見当がつくでしょう。しかし技巧的な謎解きの面白さを狙った作品ではないので、欠点とは言えません。 百谷弁護士の成長物語でもあり、また明子夫人との出会いの話でもあるのも興味深いところです。 |
No.13 | 4点 | 白妖鬼- 高木彬光 | 2015/04/03 23:11 |
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酒場での一幕の後、弁護士が、記憶喪失だと言う女を家に連れて帰ったところ、妙な暗号電報を受け取るところから事件は本格的に始まります。ごく簡単な暗号で、解いてみると「白妖鬼」(当時の電報なのでカタカナですが)なる人物からのものだと判明して、というわけで、なぜ暗号にする必要があったのか、「テヲヒケ」とは何からなのか、といった点に疑問を感じながら、なんだか乱歩の通俗作品っぽいなあとも思っていたのですが。
結局、そのあたりの論理的整合性がとれていない作品でした。最大のポイントは第2の殺人でしょうが、これも基本的な発想はなかなかおもしろいのですが、そうする必然性が弱いと言わざるを得ません。また、犯人のキャラクターがあまり印象に残らないのも、不満なところです。第2の殺人の方法に明確な理由を与えられないのならば、むしろに八方破れな通俗作品にしてしまった方がよかったかもしれません。 |
No.12 | 6点 | 魔弾の射手- 高木彬光 | 2014/09/02 22:19 |
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「魔弾」トリックは、海外有名作のコピーであることより、魔弾でなければならない理由が、その元ネタに比べて弱いのが気になりました。しかしそれは、本作においては実は付け足し程度のもので、むしろ顔のない死体のアイディアの方が中心でしょう。このアイディアの変形は、後に国内の某有名作でも使われていました。
冒頭の神津恭介に送られてきた招待状からそのいかにもな「顔のない死体」殺人へと、新聞連載だからということもあったのでしょうが、はったりめいた見せ場を連続させる通俗スリラーっぽい展開です。ただ、その雰囲気も途中からは控えめになり、怪しげな登場人物たちの動向を小出しにして読者の興味をつないでいきます。 犯人の意外性にこの手を使うなら、もっと明確な容疑回避ができそうな点、不満はありますが、動機の問題に対する答等感心するところもあり、かなり楽しめました。 |
No.11 | 9点 | 白昼の死角- 高木彬光 | 2014/04/29 17:03 |
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ある意味困ったことに、最初に読んだ高木彬光作品が本作でした。名作であることは間違いないのですが、この作家としては特に例外的な作品ですので、しばらくは作風に対する誤解をしていたのです。
確かに様々なジャンルへの挑戦を続けた巨匠ではありますが、少なくとも有名な他の作品は社会派であれ歴史ものであれ、基本的には論理的な謎解き要素を持ち、真相を明らかにしていくという構図を保持していました。ところが本作は詐欺師の視点から描かれた戦後の経済状況変遷史とも言えるほどで、ほとんどドキュメンタリー的な迫力を持った大作です。その意味では犯罪者を主人公とはしていても、作中でも比較されるルパンなどの冒険小説系とは一味違います。松本清張の『眼の壁』をミステリとしては絶賛しながらも、はるかに巧妙な詐欺の手口をお見せしようと宣言するプロローグも、リアリティーを演出する手段でしょう。 |
No.10 | 5点 | 白魔の歌- 高木彬光 | 2013/11/12 22:53 |
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半分ぐらい読んだところで、さて犯人は誰かと考えてみると、明らかにこの人物以外ありえないと思える作品です。しかし、だからと言って真相見え見えの駄作かと言えば、そうでもありません。中心となる謎は、被害者は誰になるかということなのです。動機をも含めて、この真相はおそらく簡単には見破れないでしょう。
ただし、全体的には謎解きの観点からするとバランスが悪く、中途半端な感じに終わってしまっていると思います。かなり短い作品なのですが、第1の殺人が起こるまではもう少し短くして、屋敷での警察の捜査、登場人物たちへの尋問をじっくり描きこんでいれば、意外性もより出ていたのではないでしょうか。 毒殺した死体に対する「悪戯」の理由は、海外のある古典短編を思わせますが、最初に書いた中心となる謎と絡めた工夫があり、単なる二番煎じに終わっていないのはさすがです。 |
No.9 | 7点 | 黒白の囮- 高木彬光 | 2011/05/09 21:41 |
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高木彬光久々の読者への挑戦(たぶん『人形~』以来?)は「読者諸君に」としていて、社会派全盛時代だけに初期みたいにはったりめいてはいません。しかしそれでもやはり本作のアイディアには自信があったのでしょう。実際、これはよくできています。一方の謎であった自動車事故偽装トリックは明かしてしまい、アリバイ崩しまでやってのけた後の挑戦。この偽アリバイに加えてクラシックを聴かせる音楽喫茶が出てくるあたり、鮎川哲也を思わせるところもあります。
最後の皮肉な結果と、それに対する近松検事の幕切れ台詞もいいですね。最初の容疑者に任意出頭を求める場面のユーモラスな感じ(刑事たちは苦い顔をしていますが)も意外に記憶に残っていました。 ただし、今回再読してみて動機に説得力があまりないのが気になりました。また推理の後半については、納得はいくものの、挑戦まで入れるにはちょっと論理性不足かなとも思います。 |
No.8 | 6点 | 霧の罠- 高木彬光 | 2010/11/17 21:19 |
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近松茂道検事が活躍する長編第3作は、第1容疑者の設定が最大のポイントになっています。非常に疑わしい人物なのですが、本当に犯人なのかどうか。犯人であるにしてもないにしても、登場人物も非常に少ないですし、裏にどのような状況が隠されているのか、ミステリとしてどこにサプライズを持ってくるのかが問題になります。最後に明かされてみると、さすがに納得のできる筋書きになっています。
全体の流れを後から振り返ってみると、主役は検事であるにもかかわらず、むしろ弁護士的なところもあり、両方の役を兼任しているようなストーリーとも言えそうだと思いました。グズ茂の異名をとる慎重さが、このような役柄を可能にしているのでしょう。いや、本職の弁護士も登場するんですけどね、この弁護士も近松検事の非常にオープンな流儀には面食らっています。 山口警部の視点から書かれた部分がかなりありますが、近松検事に対する彼のぼやきがなかなかユーモラスです。 |
No.7 | 7点 | 成吉思汗の秘密- 高木彬光 | 2010/05/25 22:59 |
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本作執筆にあたって作者が参考にしたのは、まず近代の義経=成吉思汗説の書物だったそうです。ちょっと気になるのはその参考資料が明示されていない点で、著作権法的には微妙なところがあるかもしれません。
これが偶然といえるだろうか、という台詞が何度も繰り返されますが、成吉思汗の側から義経を連想させる固有名詞などを列挙していくことにより、説の蓋然性を高めていくという手法です。一方井村助教授を配しての反論もなかなか手厳しいものがあります。結局、初版最終章(15章)では現実の自殺事件を持ち出して輪廻転生論・宿命論的にまとめたわけで、合理性重視の考え方からは、不満もあります。 サブストーリーについては、初っ端から伏線がやたらに目立ちます。こっち系については高木彬光はどうも(神津恭介ではありませんが)不器用な気がします。 |
No.6 | 6点 | 呪縛の家- 高木彬光 | 2009/12/28 12:51 |
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長編第3作ともなるとヴァン・ダインの呪縛からも開放され、「読者への挑戦」を2度も挿入する(『双頭の悪魔』みたいに複数回の意味があるわけでもなく)という悪ノリぶりを発揮してくれています。
メインの密室トリックは海外有名密室もの古典の応用形で、それに風呂ならではのアイディアを盛り込んで独自なものにしています。現代だったらばれてしまう方法なのはかまわないと思います。ただ、昔は浴室には当然存在していたのだろうけれど、現代ではちょっと想像がつかない物が利用されているのは、今の読者には不利な点でしょうか。7匹の黒猫の消失理由も意外でしたが、その猫の実際の使われ方は、「前世紀的」(近代化以前という意味)な発想だと思えてしまいます。 それにしても、「描き得るかぎりの極悪人」というのは、個人的には大げさな表現としか思えません。そのような「極悪人」が結局殺されるミステリだって多いでしょう。どこまでを予測していればということもありますしね。また、全体的にショックを与える前のタメがあまりきいていなくて、ただ事件があわただしく連続して起こっていくだけという印象もぬぐえませんでした。文章表現も含め、まだ小説としては未熟なところが感じられます。 |
No.5 | 8点 | 刺青殺人事件- 高木彬光 | 2009/09/04 21:26 |
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現在、本作は1953年に約2倍の長さにまで大幅加筆訂正した版だけでなく、乱歩に送ったというオリジナル版も改めて出版されているそうですが、皆さんはどちらを読まれているのでしょうか。私自身が読んだ加筆訂正版は、次作『能面殺人事件』に比べると作家として円熟味が出てきてからの手直しだけに、小説としての充実度は高くなっていると思います。
やはり高木彬光が最初期に最も影響を受けたのはヴァン・ダインからなのでしょう。『カナリヤ殺人事件』と同じ性格判定が取り入れられています。機械的密室構成方法も原理はヴァン・ダインの別作品そのままですが、戸に鍵穴などのすきまがない状況をどう切り抜けるかのアイディアが光ります。しかし、作中で神津恭介も指摘するとおり、その後のアイディアの方がメインなところが、本書の最大の読みどころでしょう。 近年のミステリではだましの定番になっているあるトリックも、すでに使われています。 |
No.4 | 5点 | 能面殺人事件- 高木彬光 | 2009/07/07 20:41 |
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ヴァン・ダインをネタばらししながら引用しているだけあって、その系統の密室トリックが使われていますが、小道具の使い方がうまくできています。しかし、殺人方法については不満があります。1940年台当時では死因は確定できなかったのでしょうが、この方法では皮膚に明らかな痕跡が残るので、この点には当時の法医学検査でも気づくはずです。
それにしても、この犯人の意外性は、私も江守森江さんと同じく、その設定をストーリーの中でどう効果的に使っていくかという工夫が甘いと思いました。読者を欺く語り方は、横溝正史の似た趣向の同時期某作品と較べると(文章表現技術も含め)どうしても見劣りがします。 Eさんの言われるビックリする人物(当然彼自身ですね)の使い方には苦笑しましたが、これもヴァン・ダインの叙述形式をひねったのかも。 |
No.3 | 7点 | 誘拐- 高木彬光 | 2009/01/18 19:15 |
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この作品の誘拐犯は、現実に起こった誘拐事件の裁判を傍聴して、自分の計画を練ったという設定です。その時、裁判所のトイレで百谷弁護士と一瞬出会うのですが、その顔を最後に百谷弁護士がなんとなくでも覚えていたというのは、いくらなんでも記憶力が超人的過ぎると思えます。
まあ、それはともかくとして、この裁判傍聴は別の意味でもキーになっていて、百谷夫妻の思い切った調査法には驚かされました。また、ある「偶然」の使い方も、似た発想がなくはないのですが、このような形で犯行計画に取り入れられたのは非常に珍しいのではないでしょうか。大胆な構成でありながら、細部も緻密に作られた作品でした。 |