皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.125 | 7点 | エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン | 2009/03/23 22:59 |
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少なくとも昔は、国名シリーズ中のベストと一般的に言われていた作品です。乱歩をはじめとする当時の日本ミステリ界では、猟奇的な連続殺人事件というクイーンにしては珍しい「怪奇性」と「中盤のサスペンス」が、好まれたのでしょう。事件の進展が長期間にわたるため、実は個人的には少々退屈なところもあったのですが。
現代において、直感で犯人を当てることは難しくないでしょうが、「結末の意外性」というより推理はやはり見事です。最後の事件現場での手がかりについてはかなりの行数を費やして目立つように書かれていますが、その意味するところを見破るのは至難の業でしょう。そこから連続殺人全体の構図が一気に見通せる気持ちのよさ。 ただ、最後に犯人を追跡していくアクション・サスペンスには、それで逮捕できるのだったら、あの有名な手がかりは結局必要なかったのではないか、とも思ってしまいました。 |
No.124 | 5点 | 仮面荘の怪事件- カーター・ディクスン | 2009/03/22 11:39 |
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『妖魔の森の家』に収録されている元になった短編を以前に読んだ時には、シチュエーションの不可解さとその鮮やかな解決に感心したのですが、長編にまで引き伸ばすには不向きな作品だったような気もします。考えどころが限定されているため、長編ならではの複雑な人間関係や事件のさらなる展開でストーリーを膨らませるのが難しいパターンなのです。
犯人の正体を示す新たな手がかりも、英米でさえ一般的とは言えない歴史的知識がないとよくわかりません(実は私は知っていたにもかかわらず、気づきませんでした)。結局、H・M卿のマジックなど事件自体とは無関係なできごとを入れてページ数を増やしただけ、という感じは否めません。まあ、基になったアイディアがすぐれているので、それなりに読ませてはくれますが。 |
No.123 | 7点 | 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー | 2009/03/20 13:28 |
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クリスティーは別の名探偵が登場するある短編で、本作とほとんど同じアイディアを使っています。つまり、長編としてはたいしたネタではないのですが、村に住む様々な登場人物が絡み合って、読んでいておもしろいのです。
ミス・マープル最初の事件ということで、彼女は最初事件の重要な目撃者として登場します。その後、鋭い指摘を繰り返し、名探偵らしさを発揮していくことになります。ミス・マープルの探偵としての才能に前から気づいていた村の牧師の一人称形式で書かれることで、新たな名探偵の誕生を納得させてくれていると思います。また、筆者が牧師であることにより、村人たちからの相談を受けることが自然になる点も見逃せません。 最後に明かされる謎の婦人の正体も、なかなか意外でした。 |
No.122 | 6点 | 迷路- フィリップ・マクドナルド | 2009/03/19 22:13 |
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完全なフェアプレイ作品ということだったので、期待して読んだのですが…
確かに、構成からしても名探偵は読者と全く同じ情報からのみ(通常、名探偵が見聞きした情報を読者は読むという違いがあります)推理を進めていくのですが、そのこととミステリとしてのおもしろさは別でしょう。検死審問の記録にしては意外に飽きさせない、という程度です。事件解決の手がかりとそこから導き出される推理については、確かに納得はできるのですが、クイーンの国名シリーズほど驚くようなアクロバティックさはありませんでした。それより、後味のちょっと悪い犯人の動機がかなり印象に残ります。 |
No.121 | 8点 | 蝶々殺人事件- 横溝正史 | 2009/03/17 22:38 |
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『本陣殺人事件』に1ヶ月遅れて雑誌連載開始された本作では、作者が戦前から登場させていた由利麟太郎を探偵役として起用しています。クロフツの『樽』を意識したとは言っても、やはり横溝正史の持ち味は綿密な捜査過程ではありません。最後の推理で一気にもつれた謎を解いてしまう構成です。コントラバス・ケースを利用したトリック自体も、むしろなんとなくカーを思わせます。もう一方のトリックは後の長編でもそのまま再利用されていますね。
個人的には、『本陣-』より厳格に構成されているようなところが好きな作品です。 |
No.120 | 5点 | シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー | 2009/03/16 22:06 |
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降霊会で霊が告げたメッセージは、老大佐の死だったという発端は、どう見ても疑わしい感じがします。さて、これはやはり大佐の死を知っていた者のしわざか、それともひょっとして単なるミスリーディングか…
読んでいて、現場付近の位置関係がはっきりしないため、トリックが明らかになってもすっきりとはいきませんでした。またそのトリックも、「それ」が可能なら普通そうするんじゃないの、と思えてしまいます。ポアロもミス・マープルも登場しない作品だからということもあるでしょうが、手がかりが直接的すぎる上フェアな描写と言えない点も気になりました。乱歩などは高く評価していたそうですが、それほどの作品とは思えません。 ただ、直接の動機はなかなか意外でしたし、さらにその直接の動機があるにしても殺人までを決意させた理由も、納得のいくものでした。 |
No.119 | 7点 | エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン | 2009/03/14 12:52 |
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短い中に推理の競い合いの趣向を取り入れた最初の『アフリカ旅商人の冒険』が、解決もきれいにまとまっていて、続く作品の期待を高めますが、次の凶器になり得る物が現場にいくつもあったという謎の『首つりアクロバットの冒険』はいまひとつです。ドイルの『六つのナポレオン胸像』パターンをひねった『1ペニー黒切手の冒険』もおもしろいですが、切手の隠し場所は無茶に思えます。まあ、M.B.リーが切手収集を趣味にしているだけに、あり得ることを確認して書いたのかもしれません。『見えない恋人の冒険』が犯人のトリックも手がかりもよくできた傑作。『双頭の犬の冒険』も謎解きは単純ですが、雰囲気はあります。 |
No.118 | 4点 | 四つの兇器- ジョン・ディクスン・カー | 2009/03/13 22:25 |
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久々に登場するバンコランは、しかし以前のようなおしゃれなところが全くなくなり、かといってフェル博士やH・M卿ほどのあくの強さも感じられません。
タイトル(原題直訳:4つの偽凶器)はチェスタトンを意識したと言われていますが、現場に凶器らしきものがいくつも転がっているというだけでは、カーにしては特に魅力的な謎とは思えません。現場に残された手がかりをつなぎ合わせていくのはミステリの常道であり、本作ではそれらの手がかりがたまたますべて凶器になるものだったというわけです。 実際の凶器は、犯人自身にさえも意外なものだったというオチになっていますが、専門的な知識が必要となるので、一応の伏線があるとはいえ、一般読者が真相を見破ることは不可能でしょう。 最後のカードゲームはなかなか興味深かったのですが、偶然の扱いもすっきりとは言えず、全体的にはいまひとつ冴えない感じでした。 |
No.117 | 6点 | 雷鳴の夜- ロバート・ファン・ヒューリック | 2009/03/11 22:11 |
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1961年の作品ですが、もっと古典的な雰囲気が楽しめました。ひとつには歴史ミステリということもあるでしょうが、謎解き部分に関しては、いわゆる英米の本格派黄金時代以来のフェアプレイ精神より前の時代、ホームズ・シリーズ等を思わせるようなところがあります。ファン・ヒューリック自身が描いた挿絵のうちいくつかには手がかりが隠されているという趣向も、微笑ましい感じです。
ただし、道教の大寺院については全体図はあるのですが、クライマックスの推理と告白(?)の部屋の位置も、その後の天の裁きの場所も、どうにもはっきりしないのが不満です。 ところで、実在の人物だという狄判事はともかくとして、他の登場人物の漢字名は、中国学者でもある作者自身が指定しているのでしょうか。 |
No.116 | 5点 | 沈黙の函- 鮎川哲也 | 2009/03/10 22:49 |
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殺人事件が起こった後、警察の捜査についてはほぼ丹那刑事の視点から書かれていきます。それが残り50ページぐらいになって、突然鬼貫警部が登場して鮮やかに事件の謎を解きほぐすという構成がどうも不自然に感じられます。鬼貫警部も最初から事件を担当していたはずじゃないのか、と思ってしまうのです。その時点になって、たとえばどこかへ長期出張していた鬼貫警部が戻ってきたというような説明もないのですから。
トリック自体はなかなか巧妙ですが、読者は最初からのいきさつを知らされているため、犯人は(行動に多少不自然なところもあり)すぐわかってしまいます。まあ、鮎川作品ですから、それはかまわないのかもしれません。論理的に考えれば、最初の容疑者が本当に犯人だったら、切断した首を発送するなんて愚かなことをするわけがない、という点を警察が無視して捜査を進めているのも気になりました。 |
No.115 | 6点 | 悪の起源- エラリイ・クイーン | 2009/03/08 09:34 |
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久々にハリウッドを舞台にした本作は、しかし以前のハリウッド2作とはまた感じが変わり、やはり直前の『ダブル・ダブル』との共通点が感じられるミッシング・リンク系のプロットになっています。途中に手紙が原文のままが出てくるので、当然手がかりが隠されているはずだとはわかるのですが、英語に堪能でないと、どこがおかしいかには気づかないでしょうね。逆に手紙が英語で書かれているのが当然な英語圏の読者との違いです。
ラストのやりとりは、やはり妙に記憶に残ります。人によってこの部分に対する感じ方はかなり変わってくると思いますが、個人的には意外にすんなり受け入れられました。 |
No.114 | 6点 | 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー | 2009/03/07 14:33 |
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論理性という点では、フォン・アルンハイム男爵が間違っていることを示す手がかりは確かにありますし、特に指紋の問題はその時代ならではの着眼点だと感心しました。
しかし、本作の魅力は何と言っても、火に包まれた被害者が城壁から墜落する印象的な情景から始まる、ゴシック・ロマンを思わせるトーンでしょう。秘密の通路が出てくるなどとここで書いても、全然ネタばらしにはならないようなスタイルの作品です。 |
No.113 | 5点 | ロープとリングの事件- レオ・ブルース | 2009/03/05 21:33 |
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小説としての出来ばえで評価すれば、あまり高い点数は付けられません。いくら犯人の意外性が原理的に独創的で説得力があっても、その意外性を劇的に見せるストーリー構成ができていなければ、効果は半減です。本作では、ごく普通に考えれば第1の事件での犯人像が、明らかな証拠からかなりしぼられてしまうため、ミスディレクションが有効に働いていないのです。
たぶん同時代の巨匠たちに対するコンプレックスに根ざしたと思われる奇妙なユーモアも、それほど楽しめませんでした。ビーフ巡査部長自身はなかなか愉快なキャラクターなのですが。 |
No.112 | 7点 | 夜の終る時- 結城昌治 | 2009/03/04 22:51 |
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日本初の悪徳警官ものという評価が定着している作品ですが、ほとんど3/4近くを占める第1部は、悪徳警官の疑いがある刑事が殺された事件を他の刑事たちが捜査するという筋書きで、ハードボイルド系警察小説という印象を受けました。元々ハードボイルド作品には悪徳警官が登場することはよくありますが、その部分をメインに据えた、ということになるでしょうか。犯人の正体については、疑惑が確信的嫌疑にまで高まったところで、第1部を終えています。
残りの第2部は、その第1部のラストを受けて視点を入れ替え、犯人の側から描かれていくわけですが、この切り替え部分が鮮やかです。中公文庫解説で権田氏は倒叙推理小説の手法と書いていて、確かにそのとおりなのですが、やはりハードボイルドっぽい哀しみを持つこの第2部は、松本清張などでおなじみの最後の犯人告白部分を拡張充実させた構成ともとれると思いました。 |
No.111 | 7点 | エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン | 2009/03/02 22:40 |
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中編『神の灯』は傑作として知られていますが、方法論だけで言えば、約7年も前に別の作家が同じアイディアで長編を書いています。ただし、その長編では本作のような魔術的な効果を演出しているわけではありませんし、策略がうまくいくかどうかも疑問なところがあります。クイーンにしては珍しいことではないかと思うのですが、方法よりも効果の奇抜さが際立つ作品だと思います。
後の作品は全体的に前の『冒険』より短編小説らしい仕上がりになっているものが多いと思いますが、中でも『暗黒の家の冒険』がクイーンらしい論理を見せてくれます。『ハートの4』のポーラ・パリスが出てくるスポーツ物の中では、『人間が犬をかむ』が長編『アメリカ銃の謎』よりすっきりとまとまった解決で、おもしろいと思いました。『正気にかえる』はクイーン自身の某長編と同じ発想。 |
No.110 | 6点 | 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー | 2009/03/01 11:01 |
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クリスティー後期作品の中でも一般的評判の高い本作ですが、個人的にはそれほどの傑作とは思えませんでした。殺人が起こってすぐ、その手の可能性に気づいてしまったからかもしれませんが。
事件の基本的な構造が非常にシンプルなため、第2の事件は間を持たせるため無理に付け足した感じも若干します。首をかしげる手がかりも、納得はできますが驚くほどではありませんでした。(本書を読んでない人には意味不明な文になってすみません) とはいえ、以上は期待が大きすぎたための不満であり、作品としてのできは悪くありません。 クリスティーはちょっと前にも似たパターンのアイディアを部分的に使った作品を書いていますので、それをさらに大胆に展開させて利用したのではないかとも考えられます。 |
No.109 | 8点 | ビロードの悪魔- ジョン・ディクスン・カー | 2009/02/28 12:45 |
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本書が書かれた1950年台初頭は、ミステリ界でもおなじみアシモフ等のハードSFが隆盛してきた時代でもありますが、これはカー流のミステリ的要素を充分取り入れた時代劇冒険SFという感じです。
時間旅行SFにつきもののタイム・パラドックスについては、精神的なタイム・トラベルなのでほとんど問題になりませんが、現代残っている歴史資料との整合性については、ちょっと拍子抜けでした。後はもう、これもおなじみ現代生活とのギャップも描きながらの、剣劇アドベンチャーの世界どっぷりです。悪魔との契約となると、怖い結末が待っているのではないかと気になりますが、それにどう決着をつけるのかも見所です。 なんだか、SF的観点からのみの評になってしまいました。 |
No.108 | 5点 | 名探偵が多すぎる- 西村京太郎 | 2009/02/26 21:32 |
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パロディの名探偵シリーズ第2作では、おなじみポアロ、クイーン、メグレ(メグレ夫人も)、明智の他にルパンと二十面相まで登場してくるにぎやかさです。明智とルパンといえば、乱歩のあの作品を避けて通ることはできませんが、そこはあいまいにごまかしています。
ルパンが名探偵たちに解決してみろと挑戦する事件の顛末はたいしたことはありません。ルパン登場ならではの荒唐無稽さがもっと欲しいところです。二十面相の登場シーンが少ないのも不満ですが、その二十面相が作った完全密室からの「脱出」方法には感心しました。 |
No.107 | 7点 | シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン | 2009/02/25 21:35 |
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前作が、少なくとも共犯者になり得る人間が2万人もいるというシチュエーションだったのに対して、今回は容疑者の数が最初からきわめて限定されています。迫りくる山火事や二転三転する事件の流れなど、サスペンスに重点を置いた、国名シリーズ中の異色作ぶりは、かなり気に入っています。シャム双子に対する作者の視線が横溝正史などと全く違うのにも、好感が持てます。
次作『チャイナ橙』では、前回は読者への挑戦を入れ忘れていた等ととぼけていますが、そうではないでしょう。真犯人を指摘する論理は、クイーンには珍しく弱いものです。もちろん、その答ですべてのつじつまが合ってくることは確かなのですが、いつもと違い、他の可能性を否定しきっていないのです。 ただし、ダイイング・メッセージと、それから導き出される推理については、初めて中心に据えた長編だけに、凝りまくっていながら最終的に不自然でない形にまとめていて、そこはさすがだと思います。 |
No.106 | 6点 | 殺す- J・G・バラード | 2009/02/23 21:38 |
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世界の破滅3部作SFやスピルバーグが映画化した『太陽の帝国』などで知られる作者の中篇と言ってもよい短めの作品ですが、ミステリとしても読むことができるでしょう。
とは言ってもそこはバラードのこと、まともな謎解きは期待できません。舞台設定はほとんど外界から隔離されたコミュニティーという未来的な感じですし、小説の狙いも通常のミステリとは違い、異常な大量殺人事件を引き起こす原因となる社会通念や、その犯罪の持つ現代-近未来社会的な意味を問うというもので、やはりむしろSF的な視点を持っています。犯人像は、通常のミステリには超有名作を初め前例がいくつもありますが、そこが社会病理的テーマ自体になっているというところが、後味の悪さを引き出す佳作だと思います。 |