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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.68 4点 検屍官- パトリシア・コーンウェル 2008/12/06 11:30
日本でも人気があったのに、今ではブックオフで売れ残ったまま並んでいるのが検屍官シリーズ
売れた時期もあったのはなるほどで、ベストセラーはこう書けばいいんだという教科書通りのお手本に則った作法
もうパソコンが広く普及した時代に書かれているので、そういう知識も取り入れ、というか作者が結構パソコン操作が得意だったりして
事件の合い間にはヒロインの私生活や家族の問題も取り入れ、さらに終盤にはこうした女性探偵もののお約束のヒロイン危機一髪もあるし、全体の完成度は高い
実はこうした完成度の高さがマイナスになっていて、文章も読み易いのに、それでいてなにか魅力を感じないんだな

No.67 6点 カナリヤの爪- E・S・ガードナー 2008/12/06 10:59
どうも日本の読者には、作品ごとにムラがある作家の唯一の傑作とか一発屋作家とかの宣伝文句があるとブックオフとか漁ってまで探すくせに、平均して水準以上で作品ごとにバラツキのない安定した作家は好まれない変な風潮がある
作品レベルが安定している作家の方が安心して読めると思うのだが、逆にどれを読んだらいいのか分からないという心理が働くのかもしれない
海外ものがあまり読まれていない現状では、出来不出来がはっきりしている作家の方が、この作家ならこれって感じで、読むべき作品が特定できるし迷わないということなんだろう

そういう意味ではガードナーは損してる作家ではあるが、たしかに突出した超傑作もない代わりに、どれを読んでも水準以上という、特定の一作品を選び難い作家ではある
ペリー・メイスンのシリーズで一作だけ初めての人にお薦めなのを強いて選べば「カナリヤの爪」だろうか
シリーズ長編の中では比較的短いし、解決編でのどんでん返しが鮮やかなので、ガードナーに偏見を持つような本格偏愛読者にも楽しめると思う

No.66 8点 レスター・リースの冒険- E・S・ガードナー 2008/11/29 10:06
どうも日本の読者には、どれも平均以上で作品ごとに出来不出来の少ない職人肌の作家は好まれない傾向があるが、職人肌の作家ガードナーの職人芸が堪能出来るのが怪盗レスター・リースなのである
まだペリー・メイスンものを書き出す以前に、パルプ雑誌に短中編を書きまくっていた時期があるが、その頃の代表的中編シリーズで総数も結構多い

義賊リースは召使のスカットルから面白そうな新聞の犯罪記事を聞き、すぐさま真相を看破して作戦を立て、犯罪者から金品などの獲物を横取りしてしまうのが基本ストーリー
実は召使スカットルは警察側のスパイで、警察ではリースのしっぽを捕まえようとしていたわけだが、リースもスカットルの正体は承知の上で知らない振りをしている
そしてリースはスカットルに作戦に必要な数点の買い物をさせるのだが、当然スカットルは警察本部に報告する
ところが買い物のアイテムだが、例えばキャンデーと半田ごてなど組み合わせが奇妙で、警察側は検討すれどアイテムの使い途がさっぱり分からない
結局リースがまんまと警察側を出し抜いて犯罪者は警察に引き渡す代わりに金品はリースの懐に、というのがお決まりのパターンだ
いかにもパルプ雑誌向けのB級エンターテイメントだが、B級にも一流と二流があり、一流のB級小説というのはこういうのを言うのだろう

No.65 8点 貴婦人として死す- カーター・ディクスン 2008/11/27 10:11
「アクロイド」と比較する人も当然居るだろうね、多分カーも想定してこれ書いたんだろうけど
老医師の手記による1人称なので雰囲気は地味だし怪奇趣味も大して無いが、でもある意味カーらしさが存分に発揮された名作だろう
カーは案外と叙述な仕掛けを施す作家だが、この作品は特に作者の企みを前提に書かれた作品で、狙いは良く分かる
どうしても作者の思惑を考えて読んでしまう自分の性格は、作品鑑賞的に素直に楽しめないので嫌いなんだが、残念ながら真相はほぼ見破ってしまった
足跡トリックの方は、ある手掛りとなる物体に気付いて、トリックと関係ある伏線ではと思っていたのでズバリ
むしろなぜそんな足跡トリックを弄す必要があったのかの理由付けの方が巧妙で看破できなかったな、だからこんな場所を舞台に選んだわけね
さてもう1つの狙い、と言うかこっちの方がメインか。
真犯人の正体も単なる勘だけど想定してた通りだった、冷静に考えればこういう可能性も有るよな、と途中からずっと思っていたのでね
でも上手い、1人称だからこそ出来る芸当、まさに叙述トリックそのもので、これを意図的に使う事を思いついたカーのアイデア勝ちだな

No.64 6点 サファリ殺人事件- エルスペス・ハクスリー 2008/11/24 10:23
新刊が出るたび気になる長崎出版
進化論で有名な生物学者トーマス・ハクスリーや小説家オルダス・ハクスリーなどがいるハクスリー一族の血筋を引く女流作家エルスペス・ハクスリーは、アフリカを舞台にした本格を数冊書いていて、この作品は代表作とも言われるもの
サファリ・ツアーの雰囲気も活写されているし、野生動物の群れの所在位置がアリバイに絡んだり、動物絡みのスリルが盛り込まれるなど、アフリカを舞台にしている特殊性が良く活かされており、たしかになかなか面白く、高い評価も肯ける
アフリカが舞台と言うと、論創社のマシュー・ヘッド「藪に棲む悪魔」があるが、謎解き的にはヘッドよりハクスリーの方が上だろう
ただ人物描写とか文章が醸し出す独特の雰囲気は、私にはヘッドの方が好みには合うが

No.63 6点 死のチェックメイト- E・C・R・ロラック 2008/11/24 10:00
新刊が出るたび気になる長崎出版
ロラックはクリスティと並ぶコリンズ社クライム・クラブの女流看板作家の一人で、長編の総作品数もクリスティと同等以上なのに翻訳が少なすぎる
ロラックの特徴はセイヤーズやナイオ・マーシュなどの物語性重視型ではなく、クリスティ同様の謎解き重視型だ
情景描写や人物の描き分け等はむしろクリスティを上回ってさえいるのだが、如何せん書き方が地味なので損してる感じだ
「死のチェックメイト」は国書刊行会の「ジョン・ブラウンの死体」に比べると雰囲気の点ではちょっと落ちるが、より謎解き一本勝負なので、物語性とかが嫌いで謎解き部分にしか興味のない狭い本格読者には合うと思う

No.62 5点 猫は手がかりを読む- リリアン・J・ブラウン 2008/11/23 12:07
シリーズ第1作目だが、一般的には第4作目の「猫は殺しをかぎつける」から入門する人が圧倒的に多い気がする、翻訳順も先立ったし
これには事情が有って、初期3作は結構古くてアメリカでは1960年代に一旦出たのだが当時は全く受けず、第4作目などは原稿は書かれていたのだがお蔵入りになっていた
ところが年月を経て原稿を見た旦那が刊行を勧めて1986年に陽の目をみたら今度は受けて初期作も復刊されたらしい
第3作目と4作目の間が20年近くも開いているのにはこうした事情が有ったからなのである
この第1作目の「猫は手がかりを読む」では主人公クィラランが猫のココを飼う事になった経緯がたっぷりと描かれており、第2作目では牝猫ヤムヤムが導入される理由も分かる
現在ではシリーズの前期作はほど全巻出揃っており、初めてシリーズを読み出す人には第1作目から順番通りに読む方が適切だろう

「猫は~」で統一されたシリーズ題名だけを見て、”これってさラノベかお子ちゃま向きなんじゃねぇの?”と先入観を持ち、敬遠するとしたら実にもったいない
一言だと”小粋で洒落たミステリー”とでも言おうか、主人公クィラランの小生意気な会話文が魅力
ウィットの分かる大人が読んで面白いという感じで、題名から受ける印象で中高生が読んでも魅力を感じないだろう
粋な大人こそ先入観を持たずに読んで欲しいシリーズだ

No.61 1点 雨の午後の降霊会- マーク・マクシェーン 2008/11/18 14:06
トパーズプレスから出版された後、今年になって創元から復刊されたもの
トパーズプレスだからもちろん瀬戸川猛資氏のお薦めというわけだが、何度も言うように私は瀬戸川氏と相性が悪く、瀬戸川が悪く言うものに良いものが多く、褒めるものは大抵つまらない
この作品も見事に私の法則?に従ったもので、つまらないことこの上ない
犯罪小説として見ると、根本的に犯行計画が杜撰極まりなく、こんなの破綻するに決まってるだろって感じで面白くなるわけがない
私は採点において、10点と1点だけは余程のことがない限り付けない方針だが、これには1点を付けさせてもらう

No.60 7点 ポジオリ教授の冒険- T・S・ストリブリング 2008/11/16 11:02
ポジオリ教授シリーズは書かれた時期で三期に分けられるが、単発で訳されて埋もれたままだった第二期をまとめたもので、つい最近に河出書房から刊行されたばかり
元々が雑誌に掲載された短篇の寄せ集めなので、そうした統一感の無さは3冊の短編集の中では一番あるのは仕方がない
相変わらずのポジオリ教授らしい超論理の推理が楽しめるし、個々の短編の密度の濃さは、第三期の「ポジオリ教授の事件簿」よりは上回る
ただなんて言うのかな作中の空気感のようなものが第一期に比べて緩いかな
やはり第一期の「カリブ諸島の手がかり」はすごい傑作短編集だったんだなと改めて再認識してしまった

No.59 7点 死の舞踏- ヘレン・マクロイ 2008/11/16 10:47
マクロイのデビュー作で、さすがに後の「家蠅とカナリア」や「ひとりで歩く女」と比較するとやや不利だが、デビュー作で既に持ち味が発揮されているのには感心した
冒頭の雪の中で熱を帯びた死体の謎は大した事は無いが、この謎は中盤でネタが明かされていて、トリックとして最後まで真相を引っ張るような性質のものではなく、どちらかと言えばプロット上探偵役が事件にかかわるきっかけの為みたいなものだ
ただしこの謎の真相が後半に動機などと絡んでくるので重要ではある
そしてその動機面がこの作で特に優れている点で、書かれた年代を考えると現代にも通用するような動機なのは驚かざるを得ない
マクロイの実力を改めて再認識した
一つ残念なのは、決め手となる手掛かりが日本語では分かり難いと言うか日本語では作者の意図が伝わらないのだが、翻訳文の中でそれをきちんと説明してしまうとここが手掛りだとバレてしまう
翻訳者にしてみればその辺の加減が難しかったのだろうという面には同情するが、例えばはっきりとは説明しないまでも多少仄めかしヒントは与えるとか、やはりもう少し翻訳者がフォローした方が親切だったんじゃないだろうか

No.58 9点 11の物語- パトリシア・ハイスミス 2008/11/13 10:59
これはもうコメントの必要もないと思う
私は採点として2点以下と9点以上の点は滅多に付けない事にしているが、そんな私でも9点を付けてしまった
ハイスミスの短編集なら別格でしょう

No.57 2点 ハマースミスのうじ虫- ウィリアム・モール 2008/11/13 10:48
植草甚一セレクトの創元クライムクラブに入り幻の名作と言われていたのが文庫で復刊されたもの
植草甚一の推すものには当り外れがあるがこれは外れ
多少擁護すれば雰囲気はなかなか魅力的で、個人的には淡々とした筆致は嫌いじゃない
しかし主人公の、正当防衛でもなんでもないのに獲物を弄ぶ態度には感心出来ない
相手が悪い奴なんだからこのくらいなことはしてもいいんだ的な発想に見えるが共感出来なかった
まぁおそらく、分かる人には分かる、合う人には合う、そういう事なんだろうけどさ、私はこの作品なら理解出来なくてもいいや、とはっきり言える
単にさ非情な犯罪小説っていうのなら別に構わないんだけどさ、背景に階層社会的な匂いのするものは嫌なんだよ

No.56 4点 キングとジョーカー- ピーター・ディキンスン 2008/11/12 11:34
現在非常に高く評価されている作家たちの中で、私にはなんとなく合わない作家の一人がディキンスンである
昔サンリオSF文庫で出たが、長らく絶版で復刊要望が多かった幻の名作として知られていた作品である
そもそもサンリオSF文庫などで出た事自体が間違いで、もう一つの英国王室を舞台にしたパラレルワールドものなのでSF小説と誤解されてしまったのだが、内容は完全に本格ミステリーである
復刊されて早速読んでみた第一印象は、読み難いし微妙
たしかに架空世界を構築する能力は凄いものがあると思うし、それは緻密な描写を見ても感じられる
こんな奇想の中でガチガチの本格を書ける作家はディキンスンくらいだろう
ただディキンスンの弱点は架空世界と物語との融合が上手くいってないところで、それが魅力と感じる人もいるかも知れないが、正直言って本格としても奇想小説としても中途半端な印象である
「ガラス箱の蟻」とか他のピブル警視ものが未読なので推測だが、これだけの筆力があるなら謎解きよりももっと奇想系に比重を移した方が才能が生かせる人なんじゃないかと感じた

No.55 2点 ボーン・コレクター- ジェフリー・ディーヴァー 2008/11/12 11:08
明らかに本格派作家ではないのに、妙に本格偏愛読者に人気がある現代作家がディーヴァーだ
現在最も人気のある作家の一人だが、私には相性の悪い作家
人気の理由は確信がいって、要するに次々に事件が起こってラストにどんでん返しがあるからだろうと思う
今の読者は尋問シーンがちょっと続くだけで、すぐに退屈だとか中弛みとか言うからなあ
次々に事件が起こらないと間が持てないようだが、いったいいつからこんな風潮になってしまったんだろう
尋問シーンなんてミステリーには常套な場面だろうに

そもそもリンカーン・ライムって単に天才的な人間科学鑑識マシーンであって、つまりライムにしか判断出来ないわけで読者側はただ呆然と眺めているより他ない
他の作家ならば日頃から読者が推理に参加できないとか難癖をつけるくせに、ディーヴァーだと手放しに褒める書評がよくあるが、そういう人はライムシリーズを同じ理由で批判しないのだろうか?まさにダブル・スタンダードである
結局ディーヴァーが人気があるのは、次々に事件が起こって、さらにあざとくてもどんでん返しがありさえすれば面白く感じてしまうからなんだろうなあ

No.54 8点 月が昇るとき- グラディス・ミッチェル 2008/11/12 10:51
本格としての面白さは大して無いが、雰囲気勝負としてなら最高峰とも言える傑作中の傑作
”詩情に溢れた”という言葉だけで全編が形容できてしまう稀有な物語だ

No.53 7点 スターヴェルの悲劇- F・W・クロフツ 2008/11/09 15:46
国内ものが中心で海外ものは厳選して読むタイプの読者にとって、読まれているクロフツ作品というとおそらく「樽」と「クロイドン発12時30分」の二冊のみではないだろうか
これではクロフツが最も脂が乗っていた中期の名作群を読み逃してしまうのが残念だ
「樽」は一作目で作者が書き慣れていないのが明らかで、だんだんと上手くなっていったわけだし、「クロイドン」はフレンチ警部の出番が少なく、クロフツ作品としてよりも、倒叙ものの一つという理由で読まれる場合も多い
私見だが、「樽」「クロイドン」などは後回しにして、「スターヴェル」から入るのがいいのではと思う
「スターヴェル」は作者の特徴が発揮されている上に、得意のアリバイ崩しではなく正統フーダニットなので入り易いのだ
実はフレンチ警部の名推理によって事件が解決する訳ではなく、どちらかと言えば探偵役の推理の失敗話に近いのだけれど、それが逆に意外性において効果を挙げているのだ
まぁ慣れた読者なら中途で見当付くけどね

No.52 9点 ある詩人への挽歌- マイケル・イネス 2008/11/09 15:25
社会思想社の現代教養文庫は倒産により埋もれてしまっているが、D・M・ディヴァインなど復刊要望が高い作家もいる
ディヴァインはいかにも本格オタクが好みそうだが、埋もれているのが最も残念なのが単品としてはイネスの「ある詩人への挽歌」で、英国教養派を代表する傑作である
これほどイマジネーションに溢れた物語性と文章で綴られるミステリーというのも滅多に無いだろう

No.51 7点 自殺じゃない!- シリル・ヘアー 2008/11/09 15:18
ヘアーには名作「法の悲劇」があるが、「法の悲劇」は万人向きではなく、トリックや仕掛けしか興味のない人には良さが分り難いだろう
ミステリーそのものに対するパロディみたいな話だし
ヘアーは同時期の英国教養派イネスやブレイクに比べると割とトリッキーな作家で、それが良く出ているのが「自殺じゃない!」である
だから謎解き部分にしか興味のもてない類の偏狭な本格好き読者にもお薦めできる
大まかな真相は読み慣れた読者なら気付くだろうが、終盤で犯人が一人に絞りきれないテクニックも弄し、「法の悲劇」のような別の要素の魅力ではなく、単純にストレートな本格としてはヘアーの代表作と言っていいだろう

No.50 6点 六つの奇妙なもの- クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ 2008/11/08 13:02
若くして夭逝した幻の天才作家スプリッグは古典本格マニアには名前だけは知られていたが、現在普通に手に入るのはこれだけだ
本格なのは間違いないのだが、一般の本格とは全く違う題名通りの奇妙な展開を見せ、中盤での落ち着きの無さなどはサスペンス小説のようでもある
本格しか読まないくせに尋問シーンが退屈で苦手だとか言う読者がよくいるが、そういう読者にはかえって合うんじゃないだろうか
惜しいのは題名の六つの奇妙なものの意味が、解決編で充分に回収されていないと言うか尻つぼみだったのは残念だった

No.49 7点 アプルビイズ・エンド- マイケル・イネス 2008/11/08 12:51
イネスにはファースに属する一連の作品群があって、特に「ストップ・プレス」は最高傑作との呼び声もある
しかし「ストップ・プレス」は大作なので尻込みする読者もいるだろう
実はファース系の中で、分量も手頃でイネスのファースが味わえる作品が在るのだ
それが「アプルビイズ・エンド」で、内容的にはこじんまりとまとめた「ストップ・プレス」という感じで、同様のパターンながら、「アプルビイズ・エンド」もそれほど遜色ないのではとも思えるのだが

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