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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.128 4点 聖域の雀- エリス・ピーターズ 2009/05/08 10:09
前作「氷のなかの処女」は厳寒の真冬の話だったが、5月になって修道院周辺も政治的紛争が小休止して比較的平和な日が続いていた
「聖域の雀」はそんな時期に起きた地味な民間の事件を扱う
前作「氷のなかの処女」が戦闘シーンを満載した冒険活劇要素の強い話だったのに比べて、「聖域の雀」ではそんな派手な活劇場面は極めて少なく、読んだシリーズの中では最も普通の謎解き本格の趣である
まさに動の「氷のなかの処女」、静の「聖域の雀」だ
だからシリーズ中でも「聖域の雀」は、アクションシーンとか冒険小説要素がちょっとでも入るのを嫌がるような本格派しか読みません的な読者には合うと思う
しかしシリーズらしい魅力に欠け、私には全然面白く無かった、プロット上もちょっと終盤を引っ張り過ぎてるし
シリーズ中でもワースト3級のつまらなさだった

No.127 4点 白夫人の幻- ロバート・ファン・ヒューリック 2009/05/05 09:53
* 5月5日だからね(^_^;) *
端午の節句を祝う恒例の行事である龍船競争で、先頭を争う艇の選手の1人が、大監修の面前で突然死亡する
たまたま招かれて見物中の狄(ディー)判事が役職により調査を開始する

「白夫人の幻」は、前回読んだ典型的な嵐の山荘テーマだった「雷鳴の夜」とは違って、容疑者達は皆各々の自宅に住んでいる
狄(ディー)判事も今回は公的立場から正攻法な捜査が中心となり強引な裏捜査的な部分が少ないので、腕力のある副官は必要ないから御馴染みの喬泰(チャオタイ)や馬栄(マーロン)は登場せず、助手は事務官的な存在である洪(ホン)警部1人だ
今回の話ではアクションシーンが殆ど無く、容疑者も一般の民間人だけだから洪警部には合っている
読んだシリーズの中では最も普通の犯人当て本格といった趣で、活劇要素が苦手で本格派しか読みませんってタイプの読者向きで、終盤で3人に絞られた容疑者達を一堂に集めて判事が罠を仕掛けるなど、派手さはなくても本格としてすっきり纏まってはいる
逆に言えば喬泰と馬栄のファンには物足りないし、シリーズらしさを求める読者には魅力に欠け大して面白くない
このシリーズとしては普通のありきたりな本格過ぎてつまらないんだよね
この作品の最大の見せ場は、やはり登場時に何か役に立つのかと思っていたあのアイテムが、あういう使い途があったとはいう犯人指摘シーン
ただ不満を言えば、真犯人の正体があまりに見え透いているのが減点材料だ
それと”白夫人”という怪奇なモチーフが、怪奇性という意味ではあまり怖さが感じられず、もう1つ活かされてないのも不満

No.126 7点 マイアミ・ブルース- チャールズ・ウィルフォード 2009/05/02 09:45
トンプスンの流れを汲むようなノワール作家なのかな、と先入観を持っていたが読後これは違うなと思った
これはまさにエルモア・レナードの世界だろ
ある意味本家レナードよりもレナードっぽいとも言える
プロットなども奔放なレナードよりもしっかりしているし、人物描写もウィルフォードの方が印象に残る
レナードなんて読み終えれば何も心に残らないもんな
いやそれこそがレナードの良さなんだろうけど

No.125 7点 悪魔の栄光- ジョン・エヴァンズ 2009/04/29 10:02
国書や原書房と違い、論創社は本格以外にハードボイルドも拾ってくれるのが嬉しいところで、栄光シリーズ唯一の未訳作だったこの「悪魔の栄光」が訳されたのは感謝である
なお河出文庫の「灰色の栄光」は私立探偵ポール・パインは登場するが、原題にはhaloが入ってないので厳密に栄光シリーズと呼べるか微妙で、それと河出文庫ではジョン・エヴァンズ名義だが原著では本名のハワード・ブラウン名義だったようだ
ハワード・ブラウンはこのサイトでも既に作家登録されているし、ノンシリーズの書評も既にあるようですね

戦後のハードボイルドはチャンドラー~ロスマクと続く正統派と、ややマイナー作家の通俗ハードボイルドに大別できると思うが、ジョン・エヴァンズはまさに正統ハードボイルドの重要作家で活躍時期もチャンドラーとあまり変わらない
私立探偵ポール・パインはマーロウほど格好良くはないが、マーロウにはないちょっとおちゃらけた雰囲気があって面白い
シリーズ1作目で代表作とも言われる「血の栄光」も古本屋漁って本は入手済みだけど、読むのもったいなくてまだ未読なのですよ

No.124 7点 こびと殺人事件- クレイグ・ライス 2009/04/23 10:17
マローンものは早川と創元とで、数的比率では六四くらいな割合で刊行されているが、両社のラインナップを見ると
創元には短編集があるが、「大はずれ」「素晴らしき犯罪」など美味しいところは皆早川が持ってっちゃったよな
非シリーズだが「スイート・ホーム」も早川だし
劣勢の創元にあって、「大はずれ」クラスには対抗できなくても、そこそこ早川に対抗できる手駒が「こびと殺人事件」だ
「こびと」は、傑作「大はずれ」に比べると謎解き面での真相がやや平凡で弱い
しかし都会の夜のナイトクラブの風景とか、シリーズ中でもドタバタ騒ぎが出色だとか、作者の持ち味が良く出ている点などを考えると、もっと評価されて良い力作と思う
個人的には早川の「素晴らしき犯罪」などよりも「こびと殺人事件」の方が好きだけどな

No.123 5点 邪魔な役者は消えていく- サイモン・ブレット 2009/04/21 10:36
ビル・プロンジーニ、W・L・デアンドリア、そしてこのサイモン・ブレット
これらの作家の共通点にお気付きになられたでしょうか?
それは”他に作者のメインとなるようなシリーズものが多数あるのに、そっちのシリーズは全然読まれてなくて、少数の非シリーズ作品の中でも特定の1冊だけが読まれている作家達”である
しかも読まれている非シリーズ作品はどれも一発ネタ式・仕掛け型・サプライズ型といった類で、日本の読者はこういうの好きなんだなあ、とあらためて感じさせる
逆に海外ものでキャラ優先なのは全く人気が無い

ブレットの場合は該当の非シリーズ作品とは「死のようにロマンティック」だが、メインシリーズの俳優探偵チャールズ・パリスものも、どっちにしても絶版だから見付ける方が大変だが
「邪魔な役者は消えていく」は版元がすぐに絶版にしてしまう事で悪名高い角川文庫だったので、私も古本屋探し巡ってやっと見付けた
ブレットは経歴的にも演劇業界には詳しく、作者の最も得意とする分野なので張り切って書いてるなあ、な雰囲気は伝わってくる
特に面白い役どころで登場する演劇研究家のコンビが良い味出していて、おすぎとピーコ風な会話文の翻訳が笑える

No.122 2点 ビーコン街の殺人- ロジャー・スカーレット 2009/04/15 10:49
本国アメリカですら忘れ去られてるのに、世界中でも日本だけで不思議な人気がある作家が何人か居るが、ロジャー・スカーレットはその筆頭に挙げられる存在だろう
お屋敷もの館もの中心で、物語性を膨らませるわけでもなくストレートに謎解きだけ、しかも館もの愛好家が期待するイメージ通りのサスペンスを散りばめてと、まさに日本の読者がいかにも好みそうな作家である
私はCCや館ものには全く興味のない読者で、何で容疑者達がそれぞれの自宅に住んでいて探偵側が尋ね歩く設定じゃだめなんじゃ、といつも疑問に思っている
今の日本でハードボイルド私立探偵小説が人気がないのは、暴力シーンがどうのこうのは後付けの理屈で、私立探偵小説の多くは登場人物が1ヶ所に集合しておらず、各々の自宅を探偵側が訪問するという形式が嫌われるからが理由ではないかと密かに類推しているのである・・多少冗談も入ってますが
「ビーコン街」は作者のデビュー作だが、まるでアマチュアが書いたかのような感じで、物語に膨らみがなく正直言って味気ないという感想しか持てない
真犯人も中途でこの書き方ならこいつしかないだろ、という予想通りだった、というか容疑者自体がかなり限られてるし
これが論創社から出るにあたって二階堂の強い働きかけがあったらしいが、うむたしかに二階堂みたいなのがこういうの好みそうだよな

No.121 8点 武器の道- エリック・アンブラー 2009/04/11 11:24
今年はスパイ小説の巨匠アンブラー生誕100周年
「武器の道」はCWA賞を受賞していて多分中期の代表作なんだろうね
内容は端的に言ってしまえば、東南アジアを舞台に、非公式に入手した武器の密輸と売買契約の顛末
まさに"顛末"の一言で、それ以上でも以下でもない
原題のpassageには両者の駆け引きの意味もあるらしく、武器が辿るルートの他に、売買契約の駆け引きの意味も掛けているのだと思う
武器が辿る道に絡む人間模様を描くだけなのに、一流の作家が書くとこんな面白い話が出来上がるということか
前半を犯罪小説風、後半ではポリティカル・スリラーとなる展開も上手い
本格しか読まない読者には興味のないタイプの小説だろうが、私は結構ツボにはまった

No.120 8点 かくてアドニスは殺された- サラ・コードウェル 2009/04/07 09:45
英国現代本格で、そもそも数年に一作という寡作なのに、これからという時に逝去したのが惜しまれる作家
文章から教養が滲み出るだけでなく、気品のある上質なユーモアも最高だ
この作品でも、あわて者のジュリアからの能天気な手紙にも思わず笑ってしまうが、探偵役テイマー教授の教え子達の手紙に対する冷静皮肉なコメントの数々にはさらに爆笑
英国現代本格ってこういう作家がいるから目が離せないよな

探偵役テイマー教授は翻訳では中年男性風に描かれているが、原著の英語では年齢性別も不詳で、今ではテイマー教授=女性説の方が有力らしい
しかし翻訳者も出版エージェントも、この作者が読者に対して仕掛けた趣向に当時は気付かずに訳された
刊行時はそこそこ話題になったらしいが、たった長編四作なのに全作ポケミスのまま未だに文庫化されてないのも、改訳すべきなのかどうか版元の早川書房も迷ったのが原因ではないだろうか

No.119 7点 不肖の息子- ロバート・バーナード 2009/04/04 09:57
英国現代本格の人気作家の一人なのに、日本では人気がもう一つ盛り上がらない不遇な作家
アガサ・クリスティに関する評論「騙しの天才」の著者でもあるロバート・バーナードは、クリスティのファンにとってはむしろ評論家として知られているかもしれない
流石にクリスティ研究者だけあって、初期の代表作である本書でも敬愛するクリスティを髣髴とさせるものがある
ただ全く似ていない部分もあって、やはり書かれた時代の違いだろうか、バーナードは皮肉に満ちた独特の文体が特徴で、クリスティならこんなシニカルな文章は絶対書かない
翻訳数はそこそこあるのに出版のされ方も問題で、ポケミスで出たものは一つも文庫化されず、逆に最初から文庫で出たものは全て早川書房以外の出版社からで、しかも「暗い夜の記憶」にいたっては倒産したあの現代教養文庫だったという、よくよく日本では運の無い作家だったようだ

No.118 7点 四月の屍衣- レジナルド・ヒル 2009/04/01 10:27
英国現代本格を代表する作家と言えばレジナルド・ヒルだろう
しかも有名なわりに読まれていない感じなのは気のせいか
このサイトでもここまでヒルの書評は1件もなかったし
男性作家だがセイヤーズらの系譜を感じる物語性重視な本格だけに、本格=パズル論者には興味を引かないのだろうか
しかしヒルの人物造形の確かさと自然な会話文は、まるで実在の人物が眼前に存在するかのようだ
ヒルは第一級の文章が書ける作家である
ところで四月に入ったけど、英国の四月ってこんなに洪水に悩まされるとは
ただし日本でイメージする激しい洪水ではなくて、巨大な水溜りのイメージだけどね

No.117 7点 おばちゃまは飛び入りスパイ- ドロシー・ギルマン 2009/03/29 10:27
ブックオフの書棚にシリーズで並んでいるのを以前から見かけて変な題名だなと思ってたが、ある日思い立って気分転換読書のつもりで読んでみた
その結果分かったのは気晴らし読書としては選択の失敗で、意外ときちんとした内容なので逆に気晴らしにならない
こちらの目論見は外れたが、おちゃらけたスパイものと偏見を持っていただけに、これは面白くて予想外の収穫
やはり題名だけで先入観持っちゃいけないんだよなあ

No.116 4点 雷鳴の夜- ロバート・ファン・ヒューリック 2009/03/28 10:17
任地に帰る途中で嵐に遭遇した狄(ディー)判事一行は、道教の寺院に一夜の宿を求めた
寺院なら仏教と思われようが、唐代の中国は国際国家であり仏教は外国輸入の宗教という認識が強く、辺境ではイスラム教徒も居住していた
政治的には儒教でも、宗教的には道教の存在も大きく神秘主義的な怪しさに満ちていた
西洋史で言うとカトリックやプロテスタントに対する第三の宗派、東ローマ(ビザンチン)帝国由来のギリシア正教のような存在だろうか
狄判事は儒教派なので事ある毎に道教を批判している

狄判事シリーズの中で最初にこれを読む人が多いのを以前から不思議に思っていた
たしかに前期五部作の旧訳を除く現行のハヤカワ版の中では翻訳時期が早かったのはあるが、某サイトで理由を発見した
ヒューリック初心者が他者に薦められて「東方の黄金」と「雷鳴の夜」の二冊を買ってきて、まず「黄金」から読み始めたら序盤が肌に合わず中断、「雷鳴の夜」に切り替えたら嵐の山荘テーマというのが好みに合ったので最後まで読んだのだという
そうかそれかよ!典型的な嵐の山荘テーマだもんな
私という人間は、嵐の山荘などのCCものに全く興味が無く、「雷鳴の夜」の舞台設定面には特に魅かれない
狄判事シリーズは前期五部作と後期作では内容にかなり違いがあるのは知られた事だが、やはり本領は前期五部作だろう
初心者の方はぜひ「黄金」「迷路」のどちらかから読み始めることをお薦めする
登場する副官は陶侃(タオガン)一人だけで、おなじみの馬栄も喬泰も洪警部も今回は登場せず
これは水戸黄門に例えると、助さん格さんも由美かおるも登場せず、年老いた風車の矢七だけが同行したようなものだぜ
まあ陶侃だけは必要だったのは、今回は錠前を開ける場面が多かったからな

No.115 7点 白鳥の歌- エドマンド・クリスピン 2009/03/26 10:05
イネス、ブレイク、ヘアーらと並ぶ40年代前後の英国教養派を代表する作家の一人クリスピンは、そのトリッキーさとドタバタ調ユーモアで日本でも人気がある
「白鳥の歌」はファースが足らず持ち味が必ずしも出ていない点で作者の代表作とは言えないが、その代わり謎解き色が強く日本の本格オタクな読者にはクリスピン作品中最も好まれそうだ
大掛かりな物理トリックという点では、初期の「大聖堂は大騒ぎ」の方がトリック自体は豪快だが、あれはトリックマニアにも賛否両論ありそうだし
「白鳥の歌」は物理トリックの部分はありきたりでつまらないが、別の部分に錯綜トリックが仕掛けられており、純粋に謎解きパズルとしては作者の中では最右翼と言えるだろう
難を言えば、クリスピンらしい得意のドタバタ場面が少なく、スラップスティックな味を求めるクリスピンのファンにはちょっと物足らないかもしれない

No.114 4点 セントラル・パーク事件- クレイグ・ライス 2009/03/22 11:27
ライスと言うとマローン弁護士だが、実は創作活動の最盛期にマローンものと並行していくつかの他のシリーズを、複数の出版社との契約の問題もあったのだろうか別名義で書いている
伝説のストリッパーの代筆とも言われるジプシー・ローズ・リー、国書刊行会が出して再評価されたメルヴィル・フェア、そして街頭写真師ビンゴ&ハンサム
「セントラル・パーク事件」はビンゴ&ハンサムのシリーズ第1作で、雰囲気も物語展開もマローンものに近い
でもやはりニューヨークよりも本拠地シカゴを舞台にしたマローンものの方が作者の本領発揮だよなあ
不満なのは頭の回転は少々鈍いが驚異的な記憶力を誇るハンサムの現実離れした人物造形
これってさ、本来なら地道に調査して得られる過去の情報を、面倒くさいからハンサムに全て思い出させようとする、言わば作者に都合のいい手抜きじゃないの
この手法がどうも好きになれず、内容は5点以上は付けられるけど不満の意味を込めて4点とさせていただく

No.113 5点 ソーラー・ポンズの事件簿- オーガスト・ダーレス 2009/03/21 10:07
ホームズのライヴァルの一つで創元文庫版
創元はねえ、企画と編集能力は高いけど詰めが甘いんだよ
何でソーラー・ポンズなんかシリーズに入れたかねえ
どうせならホームズのパスティーシュたちって企画でも立てて、何人かの作家を集めた方がまだ良かったんじゃねえの
ライヴァルたち、と言うからには同型同類は許されても、パスティーシュまで含めちゃ駄目でしょ、ちょっと分野が違うでしょ
だから企画の中でこれだけ浮いてるんだよ
もちろんアプルビイとかも違和感あるんだけどさ、あれは書かれた時代が違い過ぎって意味だからさ
いや時代って言ったらソーラー・ポンズだってさ、書誌的に雑誌掲載されだしたのが30年代で、第1短編集刊行に至っては1945年だぜ
それだとホームズのライヴァルの時代じゃねえだろ、だから創元って出版社は・・・・
あっ、まだ内容について書いてないや
もちろんパスティーシュとしては良く出来てる
「消えた機関車」なんて本家ドイルの「消えた臨急」へのオマージュだし
けれどホームズのパスティーシュなんて世の中には百花繚乱だからね

創元は企画段階から間違えているんだよ
これ入れる位ならさ、科学者探偵クレイグ・ケネディ、心理分析探偵ルーサー・トラント、鉄道探偵ソープ・へイズル、親指探偵ポール・ベックとか他に色々候補はあったはずなのに

No.112 5点 マックス・カラドスの事件簿- アーネスト・ブラマ 2009/03/20 10:00
ホームズのライヴァルの一つで創元文庫版
マックス・カラドスものの特徴は、作者ブラマが類型を嫌うという性格にあると思う
探偵の造形からして然りで、視力にハンデのある探偵という設定自体、当時の他のライヴァルたちとの個性の差別化を計ったのは間違いない
ただこの設定だが、いささかやり過ぎの感もある
あまりにもカラドスの能力がずば抜けていて、例えば指で触っただけでインクで書かれた文字を読み取ってしまう
その為か読んでると探偵が目に障害があることを感じさせないので、一般的な探偵役と印象が変わらなくなってしまっている
当時からこの点を指摘する声はあったようで、後にベイナード・ケンドリックという作家が、目の不自由な人が現実的に受け取れる情報だけで推理した場合を想定した作品を書いている

類型を嫌うという面では、作品も類型化していないのが長所だ
他のライヴァルの中には例えば隅の老人のように全編ワンパターンに陥ってしまっているのもあるが、カラドスにはそれが無い
悪く言えば短篇ごとに趣向や傾向が違い、シリーズとして一定のイメージを捉え難いとも言えるが

あと謎解き面での短所として、これも切れ味鋭い隅の老人とは真逆で解決での切れ味が鈍い事だ
解決部でスカッとした読後感にならず、せっかくの意外な真相も、ダラダラした説明で効果が半減してる作品もある
書き方が下手なのかもしれないが、カラドスものは全体に重厚な作風であり、その重厚さが解決編にまで及んでしまったという事か

No.111 6点 議会に死体- ヘンリー・ウエイド 2009/03/15 09:49
英国では巨匠なのに日本で人気が出るのが遅れた作家は数多いが、ウェイドなどはその最もたる存在だろう
早くから全く翻訳紹介がされなかったわけではないのだが、早くに紹介されたのが戦後の最晩年の作だけでは、まともな評価がされなかったのも仕方が無い
つまり戦前の最盛期の諸作が全く未紹介だったのである
ところが数年前に国書刊行会が作者の本領を発揮していた時期の作を刊行し始めてやっと真っ当な評価をされるようになった
「議会に死体」は原書房の刊行だが、ウェイドの代表作の一つと言ってもいい出来映えである
国書刊行会の「警察官よ汝を守れ」も作者を代表する作品だが、犯人の正体を見抜き易いという弱点があった
本格としては「議会に死体」の方が無難で一般受けしそうだ

No.110 7点 №1レディーズ探偵社、本日開業- アレグザンダー・マコール・スミス 2009/03/14 09:57
サバンナのミス・マープル初登場
緊迫したミステリーばかり読んでると、たまには”ほのぼの”した話を読みたいなあ、と思ったことは皆さんもあるのではないだろうか
そんな気分の時にぴったりなのがこれである

南アフリカに国境を接してボツワナという国があって、アフリカ諸国では珍しく政情が安定した国として定評がある
A・マコール・スミスはジンバブエ生まれの英国人で、ボツワナで暮らした経験もあって、ミス・ラモツエの事件簿は作者のボツワナでの経験が舞台に活かされた物語だ
謎解き部分を吟味するような話ではないが、ミステリーの枠内で心温まる話を綴るのは案外と難しいと思う
流石に児童文学者でもある作者だけに上手く書いているし気分転換には丁度いい

No.109 8点 スティーム・ピッグ- ジェイムズ・マクルーア 2009/03/12 09:33
不思議な事に警察小説というジャンルは、英米よりも異国の地を舞台にしたものに良いものが多い
異国情緒と警察捜査というのが相性が良いのだろうか?
南アフリカで生まれて後に英国に渡ったマクルーアは、南アを舞台にした警察小説を書いたが、この「スティーム・ピッグ」は数ある警察小説の中でも屈指の面白さで、CWA賞を受賞したのも頷ける
まだ南アがアパルトヘイト政策時代の話なので、作者はもちろん白人だがそうした社会制度批判も適度に織り交ぜながら、捜査小説としての魅力も存分に持っている
単に舞台の物珍しさだけで評判になったわけではないのだ

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