皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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miniさん |
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平均点: 5.97点 | 書評数: 728件 |
No.208 | 4点 | ロイストン事件- D・M・ディヴァイン | 2010/05/29 10:14 |
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昨日28日に創元文庫から、社会思想社の倒産以来絶版だった第1作「兄の殺人者」が復刊された
便乗企画として第3作「ロイストン事件」を 私はディヴァイン作品の中で「五番目のコード」に関してはかなり後になって古本屋で見つけたのだが、「ロイストン」は結構早い時期に「兄の殺人者」の次に読んだ 「兄の殺人者」が素晴らしかっただけに期待したが「ロイストン事件」はイマイチ 「兄の殺人者」にはこの一点が分かればそれまでの流れが全て説明できるようなカタルシスがあったが、「ロイストン事件」は解決編で説明を聞いて初めてあぁそうかとなる たしかに犯人特定のロジックは見事で、ロジックに関しては作者の中でも上位に位置すると思うが、話の展開がゴチャゴチャして整理されて無い印象を受けた 犯人の正体も、なんか一番怪しい奴がそのまま真犯人で、評論家筋の高い評価は感じなかったな それと当サイトでkanamoriさんも御指摘の通り、ロイストンという登場人物の役割が今一つはっきりせず、題名にもそぐわない 「ロイストン事件」という題名自体が作者の仕掛けたミスディレクションなのかと邪推しちゃったよ |
No.207 | 5点 | ナイトホークス- マイクル・コナリー | 2010/05/25 09:29 |
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本日発売の早川ミステリマガジン7月号の特集は”マイケル・コナリー・パーク”
パークって何だよ、と思ったら最新刊「エコー・パーク」から採ったのか? コナリーは前から読みたい作家だったのだが後回しになってしまいこれが初読み どれから読むか迷って「ザ・ポエット」あたりからと思っていたが、ネット書評などを見るに、コナリー作品はそれぞれ何らかの繋がりがあったり、一見ノンシリーズっぽくても実はスピンオフ作品だったりで、出来れば順番通り読むほうがいいとあったので、シリーズ第1作のこれからいってみた 作者はチャンドラー論も著している位だから、主人公ボッシュの造形にもマーロウの影響があり、後の作品では刑事職を辞して私立探偵になっているらしい 一匹狼な刑事を描きたかったのだろうが、ボッシュが何かに付け回りに噛み付くのがちょっとウザったくはある それと多分初期作だけなのかも知れないが、抽象的な描写であっさり済ませばいい部分でも、ちょっと具体的な描写がクドくて書き込み過ぎな印象もある 例えば序盤に検死解剖シーンが出てくるが、解剖の手順を具体的に逐一描くのが読んでて疲れる 作者はジャーナリストとしてピューリッツァー賞の候補にもなったらしいから、記者魂として具体的で克明な描写をせずにはいられなかったのだろうか ただボッシュの過去にまつわる因縁話は決してクドくない この因縁話の暗さが無くて単なる爽快な刑事ものだったら逆に魅力半減だろう ところで何で採点がイマイチ高くないのかと言うと、真相はかなり意外なものなのだが、ちょっと見え透いた感もあって、この種の作としては王道的に纏めすぎた気もするんだよなぁ ところでこれは是非言っておきたいのだが、何だこの題名 どう考えても原題通りに『ブラック・エコー』とすべきだろう、内容的にも 第2作ではそのまま原題通り「ブラック・アイス」になってるのに 一方で原題にBlackの入らない第3作は「ブラック・ハート」だ さらに最新刊が「エコー・パーク」だから、第1作と”エコー”で繋がりが出来たのに 扶桑社って角川の次に題名付けの下手糞な出版社だな、もう扶桑社はミステリーから手を引いて欲しいよ、馬鹿出版社め |
No.206 | 6点 | シャッター・アイランド- デニス・ルヘイン | 2010/05/18 10:28 |
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映画公開期間も終盤にさしかかり、私は先ず映像を先に観てから原作をおさらいするという順序は嫌なので、公開終了前に間に合わせて映画を観る前に遅ればせながら原作を先に読んでみた
ルへインは初読み、何となく暗い文章を書く作家という先入観があったがその通りで、私はユーモア調よりも暗い文体が好きなので好みには合ってた 嵐の孤島に建つ精神疾患重犯罪者の収容施設で、密室状態から女性収容者が失踪する CCマニアだと嵐の孤島と聞いて興味を持つかも知れないが、密室とかそういう部分に話のポイントは無い はっきり言ってしまおう、さてこの「シャッター・アイランド」は叙述トリックものである いやどうせ各映画関係のサイトなどでそんな煽り文句で紹介されてるんだから今さら隠す必要も無いでしょ 原著や文庫化前のハードカバーでは終盤が袋綴じになっていたらしい 袋綴じ趣向はバリンジャーの「歯と爪」を思わすが、解説にもあるように内容的にはむしろエリンやリチャード・ニーリィを思わせる 私は好みの作家ではないがニーリィを好んで読むような読者には合いそうだ 解説ではエリンの作品名を挙げていないが多分「鏡よ鏡」だろう しかし「鏡よ鏡」のような叙述仕掛けのための仕掛けに陥らず、物語として読み応えがあるのがルへインの良さなんだろう たしかに各書評での指摘通り、昔から使い古された手法で叙述トリックとしての難易度は高くない おそらくは半分以上の読者は仕掛けに気付くだろう 私が作家なら終盤に二重のどんでん返しを仕掛けて裏の裏をかく展開を思い付いたが、う~む駄目だ、それだと基本の作品世界が壊れてしまう やはり原作通りで正解なんだろうな これだけを読んでルへインという作家を判断してはいけないタイプの作品だろうから、作家を誤解しないように他の作も読む必要はあると思う 映画の方は流石はスコセッシ監督、きめ細かい映像表現はそれは見事なものだし、主演ディカプリオの熱演とも相まって見応えはあった タイタニックのレオ様とは一味違う ただ原作にあまりにも忠実過ぎる創りは、こうした叙述トリック作品だと、もう少しアレンジしても良かったかもと思った |
No.205 | 6点 | 死の配当- ブレット・ハリデイ | 2010/05/12 09:56 |
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ヘレン・マクロイの元旦那だったのがブレット・ハリデイ、後に離婚してしまったけど
ロスマク夫人がマーガレット・ミラーだし、ビル・プロンジーニ夫人がマーシャ・マラー、生島治郎の元夫人は小泉喜美子だから、ハードボイルド作家ってよくよく女流作家が好きなんだな ミラーとロスマクには作風に共通性が有るけれども、マクロイとハリデイはあまり似て無いのが面白い シリーズ第1作のこの作品から赤毛の私立探偵マイケル・シェーンが登場する ハリデイは余程この主人公に愛着があったらしく、名を冠したミステリマガジンの編集にも従事した 通俗ハードボイルドみたいに言われる事もあるけど、そこまで通俗ではなくて、正統派と通俗の中間くらいな感じか ラティマーとかF・グルーバーとか通俗タイプには妙に謎解きにこだわった作家が居るが、ハリデイもそんな感じでハードボイルドの中では謎解き色が強い 「死の配当」「死体が転がりこんできた」と文庫化された二冊共現在絶版なので、こういう作家こそ早川は復刊すべきだよなあ |
No.204 | 5点 | 13のショック- リチャード・マシスン | 2010/05/08 10:03 |
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本日5月8日公開のキャメロン・ディアス主演映画『運命のボタン』
原作は短篇だが、これを表題にした短編集も既に刊行されている 作者はリチャード・マシスン、世の中ちょっとしたマシスンブーム、てなわけでもないか 異色短篇作家リチャード・マシスンは長編もいくつか書いていて、「奇術師の密室」という長編を題名に惹かれて手に取るかも知れない もちろんマシスンの本領は異色短篇で、この「13のショック」は代表的な短編集だ S・キングなどのホラー作家はもちろん、ホラー以外の作家たちも含めた後の作家に影響を与えた点では、数ある異色短篇作家の中でも№1だろう 特に得意なのが精神を侵食されたパラノイアな話で、こういう偏執狂的な話を書かせたら右に出る作家はいない もう一つが視覚イメージに溢れた映像向きな面で、私は観た事が無いがドラマ『トワイライト・ゾーン』の脚本家だったらしい この辺の経歴はロバート・ブロックに似ていて、実際読んだ感じでは他の異色短篇作家の中で誰に似ているかと問われれば、やはりブロックが一番近い しかしブロックのような言葉遊び的な底の浅いネタ落ちとは違って、マシスンの方が物語の展開自体で勝負している 文章も平易だし、異色短篇に入門するならどの作家が向いているかと問われたら、一番にマシスンの名前を挙げる 少なくともダールやスタージョンでは文章的にも内容的にも異色短篇入門には向いていない まぁ直球勝負なエリンや変化球のフィニイあたりから入る手もあるけどね 何か褒めてる割には採点が低いじゃないかと言われそうだが、万人向けで癖の少なさは良いんだけど、私の好みではもう少し好き嫌いが分かれる味の方が好みなので・・・ |
No.203 | 8点 | 利腕- ディック・フランシス | 2010/05/04 10:04 |
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発売中の早川ミステリマガジン6月号の特集は”ディック・フランシスの弔祭” 追悼特集ってわけね
前評判が高過ぎる作品はどうしても身構えて読んでしまうし、結果的に期待外れでガッカリすることも多い それに「利腕」の場合はシッド再登場という要素が余計に評判を押し上げているのではないかと先入観と偏見を持っていた しかし杞憂だったのである これは傑作でしょ!定評に違わぬ傑作だ CWA賞、MWA賞、両賞W受賞は伊達じゃない 初期作品に原点回帰だとか、作者が10年続いた低迷期を脱し復活の狼煙を上げた作品とか言われているが私はそうは受け取らない 少なくとも「重賞」を読む限りでは低迷期と言われている時期の作品も低迷してるとは思わない 低迷期を脱したのが「利腕」が傑作になった理由ではないと思う 「利腕」は単なる原点回帰ではなく初期作よりも物語の膨らませ方に厚味があるのだ 「利腕」以降の作は未読なので、これが一発ホームランなのか、その後の新たな展開に踏み出したのか判断は出来ない しかし「利腕」が傑作であることは疑いの余地はない 格好良いラストに至るまで”不屈の精神”という作者の永遠のテーマが貫かれ、それが抽象的なテーマ性のためのテーマに陥らず、動機など謎解き要素にまで絡んでくる フランシスもここまでの高みに至る作品を書くようになったのかと感慨を新たにしたのであった |
No.202 | 7点 | 疑われざる者- シャーロット・アームストロング | 2010/04/29 09:48 |
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昨日は創元文庫からアームストロング後期の未訳作「風船を売る男」が刊行された
既に忘れられた作家と思っていたから、復刊や新訳とかじゃなくて今になって未訳作を出すとは驚いた 作者の真骨頂はどうやら2系統あるようで 一つは傑作「毒薬の小壜」のように、ある物をキーアイテムにそれに絡む様々な人間模様を描くパターンで、未読だが粗筋などを見るに後期の「始まりはギフトショップ」などがこの系統だろう もう一つがこの「疑われざる者」のような、悪人と思われる人物から狙われているらしい人物を別の人が助けようと奮闘するパターンで、やはり未読だが「疑われざる者」の逆ヴァージョン「見えない蜘蛛の巣」や中期の代表作「サムシング・ブルー」などがこの系統に属すると思われる 「疑われざる者」は作者初期の代表作にして、サスペンス小説の初代女王みたいな存在たらしめた出世作である はっきりとした悪人が登場するのを読者に周知しフーダニット的に隠すわけじゃないし、しかも前半だけだと退屈な展開に、これ本当に名作かいな?と思ったが、読み終わってみれば流石はアームストロングだった 読者側に推察させるような謎らしい謎もないのに、それでいて十分に面白いといういかにもアームストロングらしさ炸裂の展開である 特に終盤のサスペンスの盛り上げはもう読み進むのを止められないほど ただちょっと不満もあって、後半は完全にある女性登場人部の視点で話が進むのだが、これだったら最初から終始この女性を中心に語るべきだったのはないだろうか 前半は誰の視点が中心なのか曖昧で、特に第1部2部と分けて章立てしてるのでもなく、唐突に途中から特定の女性視点だけに絞って語られるのはちょっと違和感が有った |
No.201 | 7点 | 重賞- ディック・フランシス | 2010/04/26 09:52 |
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発売中の早川ミステリマガジン6月号の特集は”ディック・フランシスの弔祭”
パーカーに続いての追悼特集ってわけね 初期6作の内、未読の「飛越」「血統」は後のお楽しみにとっておくとして 第7作目の「罰金」から「利腕」の一つ前の第17作「試走」までの十余作は、フランシスが10年間決定打が打ち出せなかった空回り低迷期だと一般的に言われている 本当にそうなのか1冊試しに読んでみた 「重賞」は「利腕」の数作前の作品で、言われるところの低迷期真っ只中の作ではある しかしこれがすご~く面白かった 低迷期なんて嘘だろ、と言うか、もしかすると初期作から入門したファンにとって、ベクトルが期待する方向性と違ってきているので、単に合わないだけなのではないか、とそう感じた これは低迷期と言われる時期の他の作も読んでみる必要があるな たしかにね、作者らしい”不屈の精神”というスピリットは希薄になっている いやもちろん崇高な精神性は無くは無いんだけど、それは二の次で、面白さの源は純粋にスリラー小説的な部分に負っている 何て言うのか、とにかく読んでる最中が面白ければいいだろ、みたいな、割り切った開き直りさえ感じられる 特に良く似た馬が見つかる件など多分に御都合主義的な展開だし、ヒロインも友人も悪役までもが能天気で深みのある人物造形ではない 良い意味でストレートにただ物語として面白いだけ、読後に何らの感銘も残らない でも面白いのだからそれでいいやという感じなのだ 作者の冒険小説的な精神性に期待するファンには明らかに方向性が違うが、この作家に何の思い入れも無く、ただ面白いスリラー小説を読みたいだけっていうドライな読者には向いている あぁフランシスもこういうのも書くんだ、と変な感銘を受けたのであった |
No.200 | 4点 | 大穴- ディック・フランシス | 2010/04/22 10:01 |
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明後日発売の早川ミステリマガジン6月号の特集は”ディック・フランシスの弔祭”
パーカーに続いての追悼特集ってわけね 原題は”Odds Against"、多分『前評判に逆らって』みたいな意味だろう、だから大穴なのか 第4作目でシッド・ハレーが初登場する しかし「大穴」はフランシス入門にはあまり適していない シッド・ハレー初登場という理由でかこの作から入門する読者も多いみたいだが、そもそもシッドが登場する作品ですら数作に過ぎず大部分は主役を代えた非シリーズなので、シッド登場というのをことさら重要視するのもどうだろうか 「大穴」はフランシスにしては話が難しく、株の買い占めによる競馬場乗っ取りという話の根幹もちょっとピンと来ない また義父の作戦で、シッドの前評判をわざと下げておき、敵を油断させるという題名の由来でもある設定も、物語全体の中でもう一つ活かされていない気がする この前評判が低いという設定はヒロイン役にも使っているが、こちらは上手く使われていて印象に残るヒロイン役だが あとはそうだな競馬シーンが殆んど無いのもさびしい 建築物という意味での”競馬場”シーンならたっぷりあるけどね プロットも上手くまとまっていない感じがして、読まれることの多い初期4作の中では最も劣ると思った やはり入門には「度胸」とか「興奮」などの方が向いているように感じる 特に「度胸」がお薦め アメリカの私立探偵小説の影響を云々する説も有るようだが、たしかに「大穴」でのシッドは探偵社勤めの探偵という設定だからね でもシッドが登場する作品以外では案外とハードボイルド調の作は少なく、やはり作者の基本は英国冒険小説の伝統だろう ところでドラマ化もされているが、フランシスのような文章勝負な作家をドラマを観てストーリーだけ追っても全く意味はない 『パズラーなら本で読む価値はあるが非パズラーはドラマで観ればいい』ってものじゃないからね、むしろ物理トリックなどこそ映像で見れば分かるじゃんってもんだ |
No.199 | 6点 | 本命- ディック・フランシス | 2010/04/22 09:49 |
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明後日発売の早川ミステリマガジン6月号の特集は”ディック・フランシスの弔祭”
パーカーに続いての追悼特集ってわけね フランシスのデビュー第1作が「本命」である しかし「本命」はフランシス入門にはあまり適していない いやもちろん出来は良いし個人的には大好きな作なのだが、後続の作品とは微妙に雰囲気が違い、これを最初に読んでもフランシスの特徴が伝わり難い ”不屈の精神”という作者の永遠のテーマも後の作品ほどまだはっきりとは打ち出されていない その代わり後の作品からはやや控えめになる清々とした高貴な雰囲気が全開で、読んだ中では最も格調がある ちょっと貴族趣味的な雰囲気は好き嫌いが分かれるかも知れないが、渋い枯れた味とは全く反対の、青春小説のような瑞々しい香気は作者の中では異色だろう 異色と言えば、フランシスは犯人の正体などはバレバレでそういう面を重視した作品はあまり多く無いが、「本命」は真相を終盤まで隠すなど珍しく謎解き興味が強い |
No.198 | 7点 | 殺人方程式- グレゴリー・マクドナルド | 2010/04/09 10:03 |
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ロス・マクドナルド、フィリップ・マクドナルド、ジョン・D・マクドナルド以外に第4のマクドナルドがグレゴリー・マクドナルドである
MWA賞にはペイパーバック賞という部門がある 出版社が気合を入れて発行する作品は、まずハードカバーで出して後にペイパーバック叢書で再度出版される まあ要するに日本で言うところの文庫化だな それに対して最初からペイパーバック書き下ろしとして出た作品に与えられるのがペイパーバック賞だ つまりアメリカでは、後に文庫化しても最初はハードカバーで出た作品と、最初から文庫で出た作品とでは与える賞も違うのだ 過去のペイパーバック賞受賞作を概観すると、何となく作家の顔触れもB級っぽい 日本でも知られているところだとデアンドリアの「ホッグ」とか、キース・ピータースン「夏の稲妻」、L・A・モース、リザ・スコットライン、ハーラン・コーベン、ローラ・リップマンらの名前がある デアンドリアのような二流作家が受賞しているのはなるほどペイパーバック賞らしい デアンドリアは前年にマットコブもののデビュー作で新人賞にあたるMWA処女長編賞も受賞しているが、グレゴリー・マクドナルドも同じパターンなのである フレッチシリーズの第1作で処女長編賞、翌年に第2作でペイパーバック賞受賞だ しかしデアンドリアとは才能が違う それはこのデビュー作を読めば一目瞭然で、巧妙なプロットといいベテラン作家かと思うほどだ シリーズの主役フレッチは新聞記者で、キース・ピータースンのウェルズものを思わせるが、ウェルズもののような読んでて読者側が恥ずかしくなるようなクサい芝居みたいな感じはなく、もっとドライでお調子者で軽妙なのだ それにしても角川文庫は邦訳題名の付け方の拙さには定評があるが、原題はシンプルにfletchだぜ、ダサくて余計な副題を追加しやがって |
No.197 | 5点 | 濃紺のさよなら- ジョン・D・マクドナルド | 2010/04/09 09:46 |
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ロス・マクドナルドとフィリップ・マクドナルド以外にもう1人、第3のマクドナルドが居る、ジョン・D・マクドナルドだ
読んだかどうかは問わないが、ロスマクとP・マク以外にジョン・D・マクドナルドという作家が存在することは、名前だけでも知っていなければミステリーファンとは言えない なぜならJ・D・マクドナルドは決してマイナー作家ではないからだ そりゃメジャー級には一歩足りないかもしれないが、作品数の多さといい大衆的人気のあった準メジャークラスなのである J・D・マクドナルドの作家活動は前期と後期で全く異なる 前期では非シリーズのクライムノベルが中心であり、同一主人公を複数の作品で全く使っていない ところがトラヴィス・マッギーが初登場するこの作品で大当たりを取ると、以降は一部例外を除いて極端なくらいトラヴィス・マッギーシリーズしか書いていない 作者を代表するシリーズのトラヴィス・マッギーだが、ヨット上で暮らす高等遊民みたいな奴で、依頼が有ったら仕事をする揉め事処理屋といった風情である あくまでも私立探偵とかじゃなくて揉め事処理屋だから、ハードボイルドではなくて犯罪小説に近い もう一つの特徴は題名に色の名前が必ず入っていることで、その色も中間色の微妙な色も採用しているのでヴァリエーションは豊富だ 未読だがもっと古くにフランシス・クレインという作家が色付題名をシリーズ化した前例はあるが、今ではこの題名手法と言えばジョン・D・マクドナルドという認識が一般的だろう |
No.196 | 5点 | 精神分析殺人事件- アマンダ・クロス | 2010/04/05 09:47 |
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四月は最も残酷な月なり
T・S・エリオットの詩の引用から物語は始まり、数々の引用が文学的香りを醸し出す 女性の大学教授がミステリーを書くことにまだ偏見があった時代にデビューしたアカデミック本格を代表する作者の第1作目 この作品で女探偵ケイト・ファンスラー教授が初登場する 戦前ならともかく戦後のそれも1960年代にもまだそういう時代だったとはね 女性探偵というのが堂々と闊歩するには1980年代まで待たなければならなかったのだ この第1作ですでに作者の個性が出ていて決して悪い作品ではないのだけれど、先に「ハーヴァードの女探偵」を読んでいたので比較すると、「精神分析殺人事件」ではまだ作者の個性が炸裂というところまでは行ってない気もするなぁ 真相のほうもこの作者にはちょっとミスマッチだ ただ本格というものを狭く解釈して型式に当て嵌めて捉えるような読者には、この「精神分析」の方が合うとは思う それにしても原題は”結局のところ、とどのつまり”みたいな意味だろうから、もう少し的確な翻訳題名は付けられなかったのだろうか あと三省堂のノベルス版という出版形態では内容以前にメジャー受けしないよなぁ、せめて早川か創元から出ていれば・・ 海外では定評ある有名な作家なのにな |
No.195 | 5点 | 約束の地- ロバート・B・パーカー | 2010/03/29 10:23 |
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発売中の早川ミステリマガジン5月号の特集は、”追悼特集=ロバート・B・パーカーに献杯”
最近パーカー、フランシスと相次いで巨匠が亡くなったが、偶然にも両作家には共通点があって、翻訳者が菊池光なのだ 菊池光のフランシスの訳にはいくつか問題があるがパーカーには合ってる気がする 「約束の地」はMWA賞を受賞した初期の代表作で、夫婦間の絆というテーマがこってりと描かれ、受賞理由となったのだろう さらに「失投」では出番が少なかった恋人スーザンとの男女間の問題についての饒舌な会話もたっぷりで、読者側の好き嫌いが分かれるところだ まあ良くも悪くもパーカーの特徴が十二分に出ており、代表作には相応しいのだが、パーカー入門にはあっさりした「失投」から入るほうがベターだと思う |
No.194 | 4点 | 失投- ロバート・B・パーカー | 2010/03/25 10:34 |
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本日発売の早川ミステリマガジン5月号の特集は、”追悼特集=ロバート・B・パーカーに献杯”
最近パーカー、フランシスと相次いで巨匠が亡くなったが、パーカーは初めて読んでみた 私はハードボイルドには全く偏見を持ってないのだが、パーカーだけは読まず嫌いだったんだよな だってさ前評判聞くに、健康優良児の私立探偵なんて興味湧かないよな普通 ミステリー小説に出てくる私立探偵なんてワルぶってて丁度良い位に思っていたからさ それにさ、例えば自身もアル中だったチャンドラーなどのように、作家自身にハードボイルドを書くような性格と人生があった作家と違い、パーカーはハメット研究で学位を取った大学教授である 言わば研究の成果を実践に応用しましたって感じで、何て言うのか学者によって計算づくで創られたハードボイルドみたいなのがなぁ で実際読んで見ると、まあ格別良くも無いが、そんなに言われるほど悪くもない ボストンを舞台に、わざとの失投か八百長疑惑の大リーグ投手の身辺を調査する私立探偵スペンサー ボストンと言えば今や松坂大輔も在籍するレッドソックスだ 作者パーカー自身が野球が好きなんだろう、その辺の描写には精彩がある どうもパーカーという作家は、文章は上手いがプロットの構築という点で才能に欠けてる感は否めない 前半の地道な調査の部分はなかなか面白いんだけれど、後半になって単なるヒーロー小説だけになってしまう展開に深味がないんだよな スペンサーシリーズは最初期にはこれといった特徴の無いハードボイルドだったのが、3作目のこの作品からヒーロー小説的傾向が強まる初期の代表作の一つらしい 人間ドラマ的部分はかなり面白いので、ヒーロー小説的な要素で好き嫌いが分かれそうだ |
No.193 | 5点 | 新生の街- S・J・ローザン | 2010/03/08 10:29 |
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街路樹が芽吹き始める3月のニューヨーク
今回はファッションアパレル業界を背景に、リディアとビルが早春の街を駆け巡る 春ものコレクションのデザインスケッチを盗まれた新進服飾デザイナーから買戻しの代理を依頼された女私立探偵リディアだったがまたしても事件が 原題は服飾デザインの固有名称らしいので直訳は困難だろう リディアが主役の2作目は読んだ初期4作の中では最もアクションシーンが少なく大人しい内容だった ビルじゃなくてリディアが主役の場合はこれで良いのだろうが、読者によっては少々物足りなさを感じるかも ただ今回はリディアの兄の一人が出番が多いものの、あまり家族関係の描写が多くないのでウザったい感じは無い 悪く言えばちょっとスッキリし過ぎていて、この作者にしては物語にコクが無いかなとも感じた |
No.192 | 3点 | 三幕の殺人- アガサ・クリスティー | 2010/03/02 10:38 |
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発売中の早川ミステリマガジン4月号は特大号で、特集は”秘密のアガサ・クリスティー”
なぜ特大号扱いなのかというと、最近クリスティー短編2編の幻の未発表原稿が発見されたというニュースはファンなら御存知のことだろう 早川書房は名前の通りいち早く翻訳権利を取得し雑誌掲載となったわけである こういうのが世に出ると真っ先に読みたがる読者も居るのだろうが、その作家の代表的な作品は全部読みましたって読者ならまだしも、私のように一部しか読んでない読者には意味が無い 他社だが近刊情報だとクロフツ唯一の未訳長編も出るらしいが、”幻の”なんて宣伝文句に弱いのはどの世界も同じなのかな 私はそういう売らんかな作戦には便乗したくないぞ そこで同じ便乗するなら負の便乗で、一般的に定評がありながら、個人的に好きじゃない作品を取り上げよう 「三幕の殺人」はクリスティの有名作の中で特に嫌いな作品の1つなのだが、理由は2つある 1つ目はもちろん有名な”動機”の是非 この作品の動機は昔から賛否両論あることで有名だが、私ははっきり言って否定派だ こんな理由で人を殺しちゃ駄目でしょ 動機の謎なら「鏡は横にひび割れて」の方がずっと納得できる 2つ目の理由がサタースウェイト氏の人物造形が嫌いな事 サタースウェイト氏は短編集「謎のクィン氏」でも主役級の人物で、「謎のクィン氏」は質の高さは私も分かっているが、この人物が嫌いなのであまり好きな短編集ではないのだ 作者は人生の傍観者という役割の人物をよく登場させるが、どうも私には相性が悪いようで ただ今回サタースウェイト氏を使って、最後は謎を解くにしても途中経過でポアロを探偵役の中心に据えなかったのは、ポアロに早い段階から探偵をさせては謎の仕掛けから言って都合が悪いという事情もあったのかも知れんな |
No.191 | 5点 | レベル3- ジャック・フィニイ | 2010/02/27 10:16 |
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異色短篇作家ジャック・フィニイは長編も書いているが、いづれにしてもファンタジー系作家と認識されることが多い
特に得意なのが過去への郷愁で、都会を舞台にしながら昔の田園生活にあこがれるような人物がよく登場する 本格編愛読者には時間SFを好む読者がたまにいるが、大抵はその手の読者が好むのはタイムパラドックスであって、SFを読むときでさえパズル的要素ばかり求めるのだろう 私はそういう読者にはなりたくないが、その手の読者にはフィニイは物足りないに違いない なぜならフィニイの作品にはタイムトラベルはあってもパラドックスを論考しようなどという意図は無いからだ フィニイはロジックを展開する作家ではなくて、あくまでも物語の顛末や流れを描く作家である 私はミステリー小説にパズル要素だけを求める姿勢は嫌いだから、本来ならフィニイは合うはずなんだけどねぇ、どうもアイデア自体が格別優れているわけでもないのでね 早川のこの全集の中でもフィニイは特に人気のある作家だが、ずらりと並んだ短篇の名手の中で、フィニイの人気というのがどうも良く分からないというのが正直な感想なのであった ただしもう一つの得意技として、冒頭の引き込みの上手さには脱帽せざるを得ない この事は解説の恩田陸も強調しているが、さり気ない文章なのに読み出したら読者の興味を掴んで離さない |
No.190 | 7点 | 死人はスキーをしない- パトリシア・モイーズ | 2010/02/13 10:18 |
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日本時間で今日バンクーバー五輪が開幕する
何かウィンタースポーツに絡んだ作品をと思ったのだが案外思い浮かばなかった コージー派にはチャーチルの主婦探偵シリーズやデヴィッドソンのクッキングシリーズに、冬のリゾート地を舞台にした作があるらしいが未読 私はスキー経験はなんとか転ばずに下まで降りられるレベルの初級者だけど、トリックにスキーが使われる作はあるらしいが、題名にも内容もスキーが登場するのは既読ではモイーズのデビュー作くらいかな 私は犯人とトリックは見抜いてしまったのだけれど、スキーリゾート地が舞台、無難にまとまった謎解きなど、代表作と言えるくらいモイーズの特徴が出ている 読者によっては動機が個人的なもので無く組織絡みなのを不満に感じるかも知れないが、別に良いんじゃないかなあの程度なら |
No.189 | 5点 | 死者は惜しまない- ナンシー・ピカード | 2010/02/08 10:17 |
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雪に覆われた冬のマサチューセッツ州の地方都市で、市民財団へ寄付金遺贈予定だった資産家が遺言を残して連続して殺される
財団所長のおてんば探偵ジェニー・ケイン初登場の作者のデビュー作 序盤だけ読んだらコージーと勘違いする読者も居そうだが、へヴィーな動機や暗い読後感はコージーとは一線を画す どちらかと言えばパレツキーやグラフトンの系譜だが、探偵役が私立探偵ではなくアマチュアなので、もっとソフトボイルドなネオ4Fとでも呼べそうな感じだ つまりコージーにしてはハードで、4Fとしてはソフト 題名は被害者が慈善家なのが由来 会話文の中に頻繁にアメリカンジョークが出てくるのだけれど、これがちょっとねぇ日本人には理解し難い表現なものが多いのが困り物 それと真相も良く練られているのだが、ものすごく残念なのは彼氏とのロマンスに筆を費やし過ぎて、謎の提示や中盤での謎の吟味が不十分な為に、せっかくの真相の巧妙さが上手く活かされていない 例えば、ある人物が各事件によってアリバイが有ったり無かったりな点などは中盤で読者に対し明確に整理して提示すべきで、でないと意外な真相がピンとこない どうもこの点が不満で、4点以下は絶対付けられないが、7点以上も付けられず、5~6点が妥当なところ ピカードはこの後いろいろな賞を受賞しており、たしかにそれだけの実力はあるので2作目以降に期待 このデビュー作は見所もあるだけに惜しまれる |