皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
miniさん |
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平均点: 5.97点 | 書評数: 728件 |
No.468 | 7点 | 二流小説家- デイヴィッド・ゴードン | 2013/06/05 09:56 |
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本日5日に早川書房ポケミスにてデイヴィッド・ゴードン「ミステリガール」が刊行される、言うまでも無く一昨年のこのミス1位「二流小説家」に続く作者の第2作である
ただなぁ、「二流小説家」の文庫化のスピード考えると、「ミステリガール」もこのミス順位と売行きによってはこれも1年を待たずに文庫化の可能性も有るんだよなぁ、いつ買うか?今でしょ!とは必ずしも言えないよね、文庫化待ちも有るでしょ! 「二流小説家」はたしかにデビュー作としては達者な小説で、もうこの時点で一流小説家の仲間入りしている 一方で不満点も2つほど有るので言及したい 1つ目だが、まずそもそもこの小説がジャンルミックスなのかどうかという点から 実は話の本筋自体はそれほどジャンルがごちゃ混ぜってわけじゃなくて、”本格風サスペンス”というジャンルで割とはっきりしていると思う ジャンルミックス型と言われがちな所以は話の本筋よりも、主人公が複数のペンネームを持つゴーストライター風なので、様々なジャンルの作中作が挿入されている点にあると思う さて問題はこの作中作なのだが、それ自体もまた面白いんだけど、期待したほど話の本筋とは関わってこないんだよなぁ、悪く言えば単なる参考資料でしかない 2つ目は、終盤にちょっとしたサプライズが用意されているんだけど、これが唐突感有るんだよねえ、特にいくら○○だからってそこまでやるか的な不自然さをどうしても感じてしまう と言う訳で不満点も無くは無いが、将来性も強く感じさせるので2作目以降にも期待したい作家だ ところで「二流小説家」は、主演は上川隆也、あの死刑囚役は武田真治で、世界に先駆けて日本で初映画化され今月にも公開予定だ |
No.467 | 6点 | ボニーと砂に消えた男- アーサー・アップフィールド | 2013/06/04 09:59 |
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本日、WC最終予選のオーストラリア戦が行なわれる、日本代表は王手をかけており引き分けでも世界最速に出場が決定する
前回敗れた親善練習試合には不在の本田と岡崎が合流し事実上のベストメンバーだけに期待したい ここ数試合はセットプレーで失点しているのでDF陣の頑張りが鍵だな、オーストラリアは平均身長が高いからなぁ さてオーストラリアのミステリー作家と言えばやはり筆頭に挙げられるのはアーサー・アップフィールドだ、その最初期の出世作が「ボニーと砂に消えた男」である 「砂に消えた男」はそのオーストラリアらしい雄大なトリックで当時話題になったらしいが、これはもうトリックと呼ぶような性質のものではないかも知れない トリックという言葉に変な期待をせずに、作中の雄大な自然を楽しむ類のものだろう ところで論創社ではロジャー・スカーレットの抄訳しかなかった某作の完訳の計画が有るという そんなマイナー作家なんかよりもさ、アップフィールドの数多い未訳作に目を付ける気は無いかねえ どうも日本のクラシック本格マニアってのはさ、やたらとお屋敷もの館ものばかり好む傾向が有るが、もっとアウトドアにも目を向けて欲しいなぁ 現状アップフィールドの翻訳状況は残念の極み、「The Mystery of Swordfish Reef」や「The Will of the Tribe」といったあたりを出してくれる出版社ありませんか |
No.466 | 2点 | くたばれ健康法!- アラン・グリーン | 2013/05/30 09:56 |
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発売中の早川ミステリマガジンの7月号の特集は、”翻案の魅力 「二流小説家」”
ええ?”翻案”と「二流小説家」の間に何か関連あるの?意味分からねえ企画だなぁ、単に2つの別々の企画って事? ただ「二流小説家」の特集の意図は分かる、実は俳優上川隆也主演で日本で映画化されており来月6月に公開予定なのでその連動企画だろうね、例の死刑囚役は武田真治 さてデイヴィッド・ゴードン「二流小説家」は既に読了しているのだが、書評書くのはちょっとだけ延期したい 理由はきっとバレバレでしょうけどね(冷汗) そんなわけで「二流小説家」の書評の代役として何か二流作品を既読の中から探したらこれが思い浮かんだ アラン・グリーン「くたばれ健康法!」はユーモアミステリーの名作みたいに言われているようだが、これがつまらなくてなぁ なんと言ってもユーモアの質と言うのが、ただ大袈裟に煽り立てる文章だけで成立させようってのが気に入らねえんだよなぁ、この手のユーモアには全然笑えなかったぜ 登場人物も割り振られた駒みたいでさぁ印象に残らねえしさ とにかく大袈裟な文章で演出しようという手法は、地味好きな私にとって最も嫌いなタイプのユーモアミステリーだね |
No.465 | 3点 | 魔法人形- マックス・アフォード | 2013/05/24 09:54 |
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ちょっと前に論創社のTwitterに翻訳家の駒月雅子さんが降臨していたのには驚いた、さてその論創社だが
本日24日に論創社からマックス・アフォード「百年祭の殺人」が刊行される、シリーズ第1作目である シリーズ第2作目で作者の初めて邦訳された作が「魔法人形」だ、いつ書評するか?今でしょ!という事で、これは既に書評済だったんだけど一旦削除して再登録 「魔法人形」はねえ、読んだのはかなり前なんだけど読んでたことさえ忘れてたよ、何て言うかさぁ、アフォードみたいな作家の書評するの恥ずかしくってさ(苦笑) だってネット上でのブログとか見るに、未訳作品を翻訳して欲しい作家名として、アフォードと並べて、Pマク、ロード、キング、クレイスン、ペニー、ベロウと言った名前が挙がっているのをよく見かける これらの作家を第1グループとしよう、この手の傾向の作家だけを漁って読んでると思われるのも嫌だったりでね(照れ隠し) 第1グループの作家の翻訳要望するタイプの読者で多い傾向が、イネス、アリンガム、ミッチェルなどはつまらんからもういいよという意見、これらの名前を第2グループとしよう 第1グループと第2グループの顔触れを見ると、明らかに現在の本格主義な読者がミステリーに何を求めているかが良く分かる えっ!これで書評終りかって、だって作家名を並べれば、アフォードという作家が現在の本格主義読者にどんな期待のされ方してるか一目瞭然じゃんか まぁでもそれだけじゃあまりに何なんで一応書評、アフォードってオーストラリアのカーと言われているらしいが、作風的にはどう見てもカーよりクイーンに近いんだよなぁ、特に名前なんか覚えてねえが(苦笑)探偵役の造形なんてクイーン君そのものだし いずれにしてもアフォードが二流作家っぽいのは感じた |
No.464 | 4点 | 怪盗紳士ルパン- モーリス・ルブラン | 2013/05/24 09:51 |
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本日24日に早川文庫からルパンシリーズ幻の最終作「ルパン、最後の恋」が刊行される、訳者は『ズッコケ』の那須正幹
昨年既にポケミスで刊行されていたものに単行本未収録の短篇を追加した文庫化である、ポケミスで買った人はきっと早~と思うのでは 驚いたのは7月以降に多分翻訳者は別だと思うが創元でも「リュパン、最後の恋」の刊行が予定されてるのだ、この作を巡って両出版社が競演するとは思わなかったな さて、ルパンシリーズの最終作と言えば偕成社からその名も「ルパン最後の事件」が昔に出ていて、従来はこれが最終作と思われていた そりゃそうだろう、正式に公に原著が刊行されたものと言えば「ルパン最後の事件」が文字通り最後だからだ ところが幻の未発表原稿が発見され、シリーズ最終作は「ルパン最後の恋」である事が判明したのである さらにポケミス版ではシリーズ第1作目の短編「アルセーヌ・ルパンの逮捕〈初出版〉」も併録されていた 実は原文は後に単行本収録時に一部が書き直されており、日本でこれまで翻訳出版されたものは全て加筆後の単行本ヴァージョンなのだ 早川では昨年ミスマガに掲載済だが、初稿版である雑誌掲載ヴァージョンの「ルパンの逮捕」が単行本に収録されるのは本邦初なのである つまりケミス1冊で、本当のルパンの最初と最後の事件が両方読めるわけだ 「ルパン最後の恋」が本当の最後の事件だとすれば、最初の事件「ルパンの逮捕」が収録された短編集が『怪盗紳士ルパン』なのである 昨年末に既に書評済だが一旦削除して再登録 森事典によるとルパンのデビュー短編「ルパンの逮捕」を書いた時点ではルブランはシリーズにするつもりは無かったらしい 好評に応えて書き続けけられる事とになったわけで、最初の3篇が連作になっているのはそれが理由なんだろうな 中期の短編集『告白』や『八点鐘』に比べると初期の短編集である『怪盗紳士ルパン』はコンゲーム色が強い印象だ 例えば収録の「王妃の首飾り」には探偵役的な人物も登場するが、この短編は探偵役が客観的立場から謎を解いたとは言い難いだろう ところが後の短編集では、ルパンが第三者的立場から事件の謎を解く探偵役そのものみたいになっていく 私は本格に比して他のジャンルを価値の低いものとは見なさない立場だが、怪盗ルパンに関しては謎解きに徹したものの方が魅力的に感じるんだよなぁ 怪盗ルパンって小学生くらいの頃に児童書で読んだという人が一般的にすごく多いのには驚いた 私はホームズですら児童書で読んだ記憶が無いが記憶が飛んでいるだけかも知れない、しかし怪盗ルパンだけは児童書で読んだ事は無いと絶対に断言出来る、大学生以降になって普通の大人向け文庫で初めて接した だから私にとって怪盗ルパンには何等の思い入れも無いのだ ”クリスティとかは大人向けで読むべきだがホームズやルパンは児童書で読んでおけばいい”的な考え方には私は同意出来ない、結果的にそういう風潮が多いのは認めるが だいたいホームズやルパンだって元々が大人向けに書かれたものだし、今では例えばクリスティだって児童向けのリライト版が有る位だからねえ 小学生の頃に読みたいんだったらクリスティもヴァン・ダインもクイーンも全部児童書で読めばいいわけだし、”ホームズとルパンだけを児童書で読むべし”、なんて言うのは一種の差別だと思うなぁ クリスティあたりは文章が平易だから、子供用の翻訳文なら小学生でも充分に理解出来るでしょう ホームズとルパンは書かれた時代が古いからという反論も有ろうが、だったらさらに古いポーを児童向けにリライトしても意味が有るだろうかと私は再反論したい、ポーなどはいくら児童向けに翻訳しても小学生では訳分からんと思うしね ところでフランス語の発音では創元文庫版の”リュパン”の方が近いらしいし、怪盗紳士よりも新潮文庫版の”強盗紳士”の方が単語のニュアンスが近いという説を聞いた事がある しかし「強盗紳士リュパン」だったら日本で人気にならなかっただろうなぁ(笑) |
No.463 | 6点 | 小麦で殺人- エマ・レイサン | 2013/05/17 09:56 |
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アベノミクスで世の中浮かれ気分のようだが、世界の中で突出して急激に通貨安が進んだ日本に対していつまで世界に許容してもらえるかねえ
経済状況の実体も円安で為替相場上の目先の収支改善に助けられている一部輸出企業に支えられている上っ面な好況感も無きにしも非ず 長らく株価低迷で売らずに株を持ち越していた投資家が好況感を世の中に煽って売り抜けを画策していると疑っているのは私がヘソ曲りなせいかな さて経済ミステリーを代表する作家と言えば真先に名前が挙がるのがエマ・レイサンである もちろんもっと古くには夫婦揃って経済学者兼ミステリー作家のコール夫妻なんてのも居るが、コール夫妻の「百万長者の死」などはたしかに本職が経済学者らしい描写も有るには有るが正面きって”経済ミステリー”か?というと微妙だ やはり”経済ミステリー”という分野を意図的にはっきり打ち出した専門家と言えばエマ・レイサンだろう レイサンは珍しい女性同士の共同ペンネームである 上記で名前が出たコール夫妻もそうだが夫婦などの男女合作というのは割とよくあるパターンなのだが、女性同士の合作は珍しくロジャー・スカーレットなどごく一部の作家しかいない 「小麦で殺人」はCWA賞受賞した銀行副頭取サッチャーシリーズの代表作の1つで、書かれた時代的に背景に米ソの冷戦時代末期の国際政治状況があり、その中での小麦取引という経済問題を扱っている ただし誤解してはいけないのはいわゆる政治ミステリーでは全然ない、米ソの確執はあくまでも背景だけであってミステリー的には個人的な動機の普通の本格派作品である 私は本格派に普遍的な要素を求めてはおらず絶対的な評価基準を置いていない、10人の本格派作家が居れば10の作風が有っていいと思っていて、絶対的な1つの本格派のスタイルなどは存在しないと思っているわけだ そもそもレイサンという作家をを選んで読むという事は、経済的な薀蓄を除いたパズル的要素だけを期待しても意味が無いので、政治経済色の強さは作家の個性が濃厚に表れているという事で良い方に解釈したい レイサンはアメリカ作家なのにCWA賞を受賞したのはそういう要素が評価されたのではないかなぁ |
No.462 | 7点 | あなたに似た人- ロアルド・ダール | 2013/05/07 09:59 |
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近日5月10日に早川文庫からロアルド・ダール「あなたに似た人」の新訳版が刊行予定
別に旧訳に問題が有ったとは聞いていないが単なる新訳切り替えの一環なのかも知れん、新訳版では単行本未収録の2篇を加えて2巻に分冊との事だ 「あなたに似た人」は既に書評済だが一旦削除して再登録 異色短編作家ロアルド・ダールは、ミステリーに関心の無い人にとっては世界的には童話作家として認識されている 「グレムリン」という映画があったが、元々飛行機乗りの間で伝説だったいたずらな小鬼をダールがキャラ化したもので、グレムリンを創作したのはダールなのだ ミステリー読者にとってのダールだが、”奇妙な味”という呼称はこの作家の為に創られたと言っていいような存在だ 特に得意なのが賭博に嵌まる人間性をシニカルに見つめる眼差しで、「南から来た男」などは一度読んだら忘れられない ダールは両親がノルウェー人で、北欧系らしい童話的感覚と英国生まれらしいシニカルな感覚が混ざった大人のお伽噺というべき物語性重視な短編作家だと思う それだけに謎解きとしてどうかという視点で評価してもあまり意味がないだろう 英国生まれのダールだが後にアメリカに移住しており、人名録にによってはアメリカ作家と表示しているものも有るかも そもそもダールが作家として評価されたのはアメリカに移住してからなので、CWA賞ではなくてMWA賞(しかも2度)の方を受賞しているのはそうした事情による そう考えると北欧血筋、英国出生、アメリカ的センスの3者が混然とした感じがダールの魅力なんだろう |
No.461 | 6点 | 探偵ダゴベルトの功績と冒険- バルドゥイン・グロラー | 2013/04/30 09:59 |
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昨今は北欧など非英語圏のミステリーがブームだが、最近話題のドイツ産ミステリーは長い間不毛の状態にあった
そりゃそうだろう、第1次大戦で敗北し、大戦間にはナチスの台頭、第2次大戦で再びの敗北、戦後の復興期も東西に分断され、ミステリーどころではなかったのだろう 冷戦時代のスパイ小説が東西ドイツを舞台にしているのに英国作家によって書かれていたのも皮肉な話だ ドイツ語圏ミステリーが注目されだしたのは近年になってからだが、実は注目すべき時代が過去に有ったのだ、それは第1次大戦前、ホームズのライヴァルたちが活躍していた古典時代である 現代のオーストリアという国家は地図上ではアルプス山麓の小さな面積だが、その昔はフランスを別格とすれば欧州に君臨した大帝国であった、現在のドイツの南半分はオーストリアだったのである 帝国の皇帝を代々出していたのが中世以来欧州中部に格式を誇ったハプスブルグ家で、第1次大戦で没落するまで栄華を誇った ドイツ北部には中世以来の神聖ローマ帝国が有ったがナポレオン1世に侵略されて衰退し代わりに台頭したのが鉄血宰相ビスマルクのプロシアである ナポレオン失脚の後を受けて欧州の貴族階級がナポレオンによって乱された秩序回復について議論したのが有名なウィーン会議だ ウィーン会議は各国の利害が対立し遅々と進まず舞踏会に明け暮れていたので”踊る会議”と皮肉られた ここで注目したいのが会議がオーストリアの首都ウィーンで開かれた事だ、つまりウィーンは当時の欧州の中心都市であり貴族階級の拠り所的存在だったのである その後、普墺戦争に敗れたオーストリアはやや衰退しハンガリーとの連合国家オーストリア-ハンガリー帝国になり、プロシアはドイツ帝国へと富国強兵し第1次大戦の足音が近づいていくわけである この「探偵ダゴベルト」が書かれたのは第1次大戦前夜のまだ貴族の権威が有った時代で、ほとんどが貴族階級に起こる事件なのはそうした事情による ”オーストリアのホームズ”と異名を取るだけあって、ダゴベルトは現場に残された遺留品から推理するなどたしかにホームズ風だ 探偵法には心理的証拠重視型と物証重視型が有るが、ダゴベルトのは明らかに物的証拠重視型である こう聞くと、心理型が嫌いで物証重視型を好む読者は興味を持つだろうが、私の印象では往々にして物証重視型は読者が推理に参加出来ないものが多い、まぁ探偵ガリレオみたいな感じかな、案外と心理的証拠重視型の方が読者が推理可能な場合が多い このダゴベルトの場合も、特殊知識や警察資料を基にしているので、物的証拠から読者が推理出来る代物ではない 警察資料の1つがあの「グリーン家殺人事件」でも引き合いに出される『予審判事便覧』なのである、この時代のオーストリアでミステリーが書かれる下地は有ったわけだ 「探偵ダゴベルト」は他のホームズのライヴァルたちと比較すると、トリックでもプロットでもロジックでもなく、ストーリーテリング型だと思う、「功績と冒険」という題名も内容にぴったりだ 犯人が根っからのプロの極悪犯罪者だったりするものも有りそういう面での意外性には乏しいが、とにかく読み出すと世紀末ウィーンの雰囲気と物語に引き込まれる、この時代のドイツ語圏ミステリーのレベルの高さに驚いた こうなるとアウグステ・グローナーのヨーゼフ・ミュラー刑事ものを翻訳しようという出版社が現れませんかね ところでこの創元文庫版は垂野創一郎訳のドイツ語原著からの翻訳と思われる、もちろん英語版は存在するのだろうが、日本語の訳文を見ると、助詞の”てにをは”がはっきりしているなど原文が英語ではなくドイツ語っぽさが感じられるのが面白い アンソロジーに採られた「奇妙な跡」が英語版からの訳であろうから、ドイツ語から直に訳された本邦初のグロラー作品集かも 最初の原著は2年間に渡って少しづつ6冊刊行されたとう事だ、創元のはそれらから採ったオリジナル編集版で、見開きに記された刊行年が1910~12年と幅を持たせているのはそうした理由による |
No.460 | 5点 | 猫はブラームスを演奏する- リリアン・J・ブラウン | 2013/04/25 09:57 |
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本日発売の早川ミステリマガジン6月号の特集は、探偵は“ここ”にいる、再び
大泉洋主演の映画2作目の前宣伝も兼ねているのだろう、連動書評はもちろんシャム猫シリーズ、どちらも”ココ”が重要です あ~あ、またやっちゃったよ * 1913年生まれ、今年が生誕100周年作家を漁る、第2弾はココシリーズのリリアン・J・ブラウンだ 昨年亡くなったのに今年が生誕100周年、という事は高齢だったんだな、合掌 ココシリーズは初期4作がずっと前に書かれたあと、年月を経た後に第5作以降が書かれた 初期4作では大都会シカゴを舞台にした都会的で小粋な話だったが、第5作目以降は舞台をムース郡という半観光地の地方に移して展開される その辺の作者側の事情は知らんけど、シリーズの中断期間にコージー派というジャンルが確立されたという要素もあるんじゃないかなぁ、初期4作が書かれたのが1960年代で第5作が1987年、一方でシャーロット・マクラウドのシャンディ教授シリーズの第1作目が1978年だし つまりだ、コージー派の特徴の1つである、限られたコミュニティー地域の中で起こる事件という流行に乗っかったという理由も有りそうなんだけどなぁ さて、最初に翻訳刊行されたのが1作目ではなく第4作であるなど、よくよく刊行順に因縁が付き纏うシリーズだが、主人公クィラランが都会からムース郡に引っ越す事になるターニングポイント的な第5作と6作目の翻訳が何の事情かずっと後回しになったのである 初期4作の後、既にムース郡に定着した事になっている第7作目をいきなり読まされた当時の読者はきっと目が点だったろうな(笑) 今ではシリーズ全作が揃っているので、シリーズ未読の読者は初期4作の後は順番として必ず第5作の「ブラームスを演奏する」を読むべきである、折角現在では順番通りに読めるのだから と、説明が長くなったが仕方がない、この第5作目だけはそうした翻訳された順番という事情を考慮しなければ書評出来ない性質の作だからね で、やっと内容だが、初期4作とは書かれたのが20年ものブランクが有った割には、最大の特色である登場人物達の粋な会話は健在なので安心して読める 前作「殺しをかぎつける」みたいな特異なトリックとかを期待しなければまあまあ面白かった |
No.459 | 7点 | キャンベル溪谷の激闘- ハモンド・イネス | 2013/04/16 09:55 |
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今年の私的読書テーマ、”生誕100周年作家を漁る”、第2弾は冒険小説の大家ハモンド・イネス
イネスを代表する2トップとして定評があるのが「メリー・ディア号の遭難」と、もう1つが「キャンベル溪谷の激闘」だろう しかしこの2冊、あまりに傾向が異なるのには驚いた もちろん舞台設定が海上と内陸という違いは有る、しかしそれよりも雰囲気がまるで違うのだ 「キャンベル溪谷」は清清しくカラッとした雰囲気の、まさに王道の冒険小説なのである しかも敵味方がはっきりしていて人間関係が分かり易く、冒険小説としては肉体的にちょっと頼りない主人公を周りの人達がサポートするという、ヒューマンドラマ的魅力に溢れているのだ おそらくは根っからの冒険小説ファンには「キャンベル溪谷」の方が間違いなく受けると思う 逆に言えば、物語展開が容易に予測出来てしまったり、ちょっと御都合主義的な締め括りなど真っ当過ぎて、「メリー・ディア号」のようなミステリアスで歪んだ雰囲気には全く欠けている 根暗な話を好む読者には「メリー・ディア号」の方が面白いと思う、裏事情とか終始ミステリアスで最後まで読者を惑わすしね ”最高傑作”と、作者の持ち味が出ているかが重要な要素である”代表作”とは区別して考える私の流儀で言うと 最高傑作は「キャンベル溪谷」でもいいが、海洋冒険小説作家であるイネスの代表作は「メリー・ディア号」だと思うなぁ |
No.458 | 8点 | 死者の身代金- エリス・ピーターズ | 2013/04/09 09:59 |
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* 1913年生まれ、今年が生誕100周年作家を漁る、その第1弾エリス・ピーターズの2冊目
さて修道士カドフェルシリーズを読むのも中盤戦に入ってきた 前回読んだ「聖域の雀」では、歴史的背景が殆ど関わりがなく比較的に平和な時期に起きた民間の事件を扱っていた だから「聖域の雀」はミステリーとしてはシリーズ中でも普通の本格派色が強かった しかしこの次々作「死者の身代金」からは再び戦争の影響に翻弄されてくる スティーヴン王が捕らえられ、女帝モード側が有利と見たウェールズの一部豪族達が動き出したのだ 一応はスティーブン王側のシュールズベリ一帯でも不穏な空気が広がる 今回はシリーズ中でも一種のターニングポイントのような作で、州執行長官が大変な事態になるわ、「死を呼ぶ婚礼」にも登場したあのしっかり者の修道女が再登場するわ、盟友ヒュー・べリンガーは執行副長官の立場上てんてこ舞いだわ、とにかくサービス満点な力作 ほろ苦い真相の謎解き面でも優れており、シリーズ最高傑作の1つと言って良いだろう あっ、でも初めて修道士カドフェルを読もうと思った貴方、これを最初に読んじゃいけませんよ、少なくとも「死体が多すぎる」と「死を呼ぶ婚礼」は前もって読んでおかなくては |
No.457 | 8点 | 厭な物語- アンソロジー(出版社編) | 2013/04/05 09:58 |
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ど~も、グルメリポーターのminiで~す
湊かなえシェフがきっかけとなり昨今巷で話題の”イヤミス味”ブームに乗って先月に開店した後味の悪いレストランの取材に行ってきましたので今日はそのリポートを、その名も文春系列店の『厭な物語』店です ここでは各国から招待された、厭な味の名料理人たちの競演が味わえるのですよ、まさにイヤミス味の宝石箱や~ 出来れば表看板のデザインにはもっとインパクトが欲しかったところでございましょうか、もっと不快で薄気味悪くても良かったですね 各料理人達の国籍もヴァリエーション豊富なんですよ、古いフランス料理から伝統のイギリス料理、チェコのドイツ風不条理料理、ボルシチやピロシキだけじゃないロシア料理まであります 中でもランズデール料理人の作るアメリカ南部の風土料理はゲテモノ美食ファンにはお薦めの逸品でございます アメリカ南部料理で胸焼けを起こしそうになった方には、同じアメリカ料理でもS・ジャクスン料理人のピリッとスパイスの効いた料理や、クリスチャン・マシスン・ソムリエが選ぶ赤ワインが口直しになるでしょう このマシスン・ソムリエはあの伝説のリチャード・マシスン料理人の御子息なのでございます、二世料理人は土井善晴や陳健一だけじゃないんですねえ 食材的には精力付きそうな”すっぽん料理”などもございますが、グルメの私としましてはヌメヌメとした気色悪い生物なども食材に加えて欲しかったところですね ウラジーミル・ソローキンは昨今話題のロシア料理人でございまして、この手のイヤミス料理ではありがちな食材ですが調理法に一工夫凝らしております ローレンス・ブロック料理人は和洋中華と何でも作れちゃう万能シェフでございますが、彼らしい料理でしょう 最後を締め括るデザートにはフレドリック・ブラウン料理人のスイーツが用意されていますが、これがちょっと私には疑問なのでございますねえ 私の採点が三ッ星ならぬ8点なのはそれが理由なのです、内容的には9点なのですが ブラウン料理人の「後見スイーツ」は”イヤミス味”という趣向からはちょっと主旨が外れていると思うのですが それとこの「後見スイーツ」は例えば全国チェーン系列のファストフード店などで食してこそ意味が有ると思われるのですが、このようなレストランで出す意義が感じられません、そんなわけで1点減点しました 企画自体はたいへん面白いので、早川レストランなど他社も追従企画やっても良いのではと思いました 今回行った『厭な物語』店は不快グルメファンには必食ですね、これだけのフルコース料理をワンコインちょっとで楽しめるのですからコストパフォーマンスは抜群 ではこれにてグルメリポートを終わります、また来週 |
No.456 | 3点 | 黄色い部屋はいかに改装されたか?- 評論・エッセイ | 2013/04/02 09:54 |
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発売中の早川ミステリマガジン5月号の特集は、”没後10年・都筑道夫が僕らに教えてくれたこと”
そもそも早川ミスマガの前身の日本版エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン創刊時の初代編集長が都筑だったし、特集の方も都筑ファンには見逃せない内容となっているようだ う~ん、都筑の評論は数多いのに何故「黄色い部屋の改装」だけが突出して有名なのかいまいちピンと来ぬなぁ、私は今回初めて読んでみた(ただし旧版の方ね) 都筑は道草が多いというか話が紆余曲折するんだけどまぁこれはこれでいい、ただ結局のところ出た結論としての論旨がさして目新しさもなく大して面白くもないというのが正直な感想である ※ ところで実はこっちの話の方が書きたかったんだけど、論創社のTwitterに小塚麻衣子氏が降臨していたのには驚いた 小塚氏は早川ミステリマガジンの現編集長の方である 舞子じゃなくて麻衣子ね、小塚舞子だと別人だからね(笑) ミスマガ5月号の宣伝を兼ねて、創刊準備に大きく関わった田中潤司氏への御礼を述べられていた |
No.455 | 6点 | 悪魔と警視庁- E・C・R・ロラック | 2013/03/29 09:58 |
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コリンズ社クライム・クラブは英国ミステリーの歴史そのものみたいな叢書だが、クリスティやマーシュらと並び叢書の看板作家だった1人がE・C・R・ロラックである
英国女流本格派の中でも総著作集が70作以上の作家はクリスティ、ミッチェル、フェラーズなど数人しかいない とりわけ1930年代後期のロラックは創作活動の最盛期と言っても良く、36年に3冊、37年に2冊、38年に3冊と3年間に計8作も上梓している しかも38年の3冊の内2作が作者の代表作のいくつかと目されている「ジョン・ブラウンの死体」とこの「悪魔と警視庁」なのだ ロラックには大きく分けて地方色を描出したものとロンドンを舞台にしたものが有るらしいのだが、「ジョン・ブラウンの死体」は前者、「悪魔と警視庁」は後者である 「悪魔と警視庁」の内容は結構複雑、物語展開もそうだがそれ以上に徐々に明らかにされる人間関係の裏事情がいっそう複雑で頭が混乱しそう しかしこの事情を把握するのが困難な展開こそが一種の魅力になっている作だと思う その代わり謎解きの肝はある○○○○トリックの1点だけと言っても良く、この辺は評価が分かれるかも(トリックの種類はネタバレになりそうなので言えない) ロラックの弱点は探偵役マクドナルド警部の個性が乏しい事だと思っていたが、森英俊の解説を読んで成る程と思った、そうかインテリ警察官探偵の走りなのか、そう捉えると「悪魔と警視庁」では一応個性が発揮されていると言えそうだ でも同じインテリ警察官という括りだと、マーシュのアレン警視に比べるとまだ少々弱いかなという気もするが ロラックで現在入手容易なものはこれと、「ジョン・ブラウンの死体」と「死のチェックメイト」の3作 植草甚一はかつてロラックを”3作に1作は面白いものが有る作家”と評したそうだが、野球で言ったら3割打者、翻訳は数多い全作品中から厳選されるのだろうから今後は打率も上がるのだろうか |
No.454 | 7点 | 消えた玩具屋- エドマンド・クリスピン | 2013/03/27 09:55 |
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一部の書店で先行発売されていたが、エドマンド・クリスピン「列車に御用心」が刊行された、まだ全国的には取り次ぎ状況にばらつきが有るみたいだが
論創社って時々刊行直前に遅滞とか発生するが、まぁ論創には出してくれるだけで感謝なので、この辺は突っ込まない事にしよう クリスピンは長編は9作しか無いが、他に未訳だった短編集が2冊あって「列車に御用心」はその第1短編集の全訳であろう、”クイーンの定員”にも選ばれている さて海外の名作里程標リストなどを見るとクリスピンの代表作としてよく挙げられているのが「消えた玩具屋」である いつ書評するか?今でしょ! 海外と日本で評価が大きく分かれる作品の1つだ 他のネット上の書評を閲覧しても、クリスピン作品を複数読んだ人の中では、他の同著者の作と相対比較して低めの評価が目立つ 私はその原因の1つが邦訳題名だと思うのだよな 原題を直訳すれば『動く玩具店』であって”消えた”じゃないんだ もちろん内容的には”消えた”で正解なんだけど、この”消えた”という語句が誤解を招いているんじゃないかな 語感から日本の読者側が不可能犯罪ものを期待してしまうのではないだろうか、そういう期待値で読むから求めているものと違うみたいな 消えた玩具屋の謎は中途であっさり解明され、主眼がどこに有るかという問題以前に、そもそも不可能犯罪的感覚で書かれてはいないと思うなぁ イネス、ブレイク、ヘアーらと並ぶ英国教養派クリスピンだけに、ある意味「消えた玩具屋」は作者らしさが強烈で代表作に相応しいとも言える オクスフォードを舞台にした御伽噺的感覚で読むのが正しいのではと思う |
No.453 | 4点 | 漢字の玩具箱―ミステリー、落語、恐怖譚などからの漢字遊びと雑学の本- 評論・エッセイ | 2013/03/25 09:58 |
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本日25日発売の早川ミステリマガジン5月号の特集は、”没後10年・都筑道夫が僕らに教えてくれたこと”
そもそも早川ミスマガの前身の日本版エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン創刊時の初代編集長が都筑だったし、特集の方も都筑ファンには見逃せない内容となっているようだ 「婚前一体」「叱るべき処置」「遺産争族」から始まるこのクイズ形式の薀蓄本はいかにもな都筑ワールドだ 今では死語ならぬ死機械と化したワープロ誤変換の話から、著者得意のミステリー・落語・江戸文化・時代小説・怪奇話などを通して漢字クイズを楽しもうという趣向である 頭の悪い私は小学生の頃から漢字が苦手だったので、大人になってからも漢字の知識が身に付きそうな本は物色する習慣が有るのだが、少し前の”読めそうで読めない漢字”ブームの折に偶然古本屋で手に取ったら著者が都筑道夫だったので安かったし買っておいたが、まさかこれの書評書くことになるとはね 単純に問題を並べただけのクイズ本ではなく、雑学と絡めた薀蓄本に近い内容で、流石は雑学博士の面目躍如といったところだ しかし企画力・アイデアの割に出来上がったものが面白いかと言うとそれなりなんだよなぁ 都筑のミステリー作品は例の「猫の舌に釘」しか読んでいないのだが、どうも都筑という人は企画力は凄いんだが、それが結果に結び付いていない印象が有るんだよね 何て言うのか、企画倒れと言うんじゃなくて、企画自体は狙い通りに成功しているんだけど、効果があまり挙がっていない気がする 当サイトで書評済みのマリオン・マナリング「殺人混成曲」の各パート別翻訳者という企画も、結局は作者マナリングの物真似の上手さに助けられてる感じだし でも作家として以外の評論家・ミステリーマニアとしての都筑道夫にもう少し光が当たってもいい気がするよね 「都筑道夫のミステリー読本」「都筑道夫の読ホリデー」さらには「ポケミス全解説」などは当サイトで登録さえ無いしね |
No.452 | 6点 | ジョン・ブラウンの死体- E・C・R・ロラック | 2013/03/22 09:51 |
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昨日21日に創元文庫からE・C・R・ロラック「悪魔と警視庁」が刊行された
藤原編集室の企画らしいが、ロラックの最高傑作の1つと予てから噂が有った作である 一般にセイヤーズ、クリスティ、アリンガム、マーシュの4人は英国4大女流作家と総称されるが、E・C・R・ロラックは戦前黄金時代の1930年代から戦後の50年代まで書き続けている点や総作品数の多さ、さらに当時はクリスティと並んでコリンズ社クライムクラブ叢書の看板作家であったという事実から見ても、1人加えて5大女流作家でもいいんじゃないかと思う えっ?エリザベス・フェラーズも加えて6大だろうって?、いやそれは駄目、フェラーズは総作品数は多いけどデビューが1940年なので、戦前30年代から書いているという条件に当て嵌まらないんだ 加える1人を強いて挙げればグラディス・ミッチェルだな(笑) フェラーズの方は比較的翻訳には恵まれてきたが、唯一海外古典の翻訳の波から取り残されてきた感が有るのがロラックだった 創元では今後、これも代表作の1つと言われる「鐘楼と蝙蝠(仮称)」の刊行計画が有るそうでやっとロラックも陽の目を見る時が来そうだ この調子で初期の代表作の1つと言われる「Murder in St.John's Wood」や、これも最高傑作の1つと言われる「Death at Dyke's Coener」も出して欲しいねえ、あとついでに別名義のキャロル・カーナック名義の作も御願いしたい 便乗企画として「ジョン・ブラウンの死体」をいつ書評するか?今でしょ! 「ジョン・ブラウンの死体」は名前しか聞いた事が無かった「ウィーンの殺人」以来まともに読める初めての作だった クリスティ風の作風だが、人物描写や風景描写に関してはクリスティを上回る しかし当サイトでkanamoriさんも御指摘されている通りで、ロラック最大の弱点は、探偵役のマクドナルド警部が没個性的で全く魅力に乏しい点である ポアロやマープル並とは言わないが、せめてもう少し魅力的な探偵役を創造していたなら、ここまで翻訳が無視される事も無かったろうと惜しまれる と言うのも日本の読者の嗜好を考えるならば、少なくともアリンガムやマーシュよりは日本で人気になったろうと思われるからだ |
No.451 | 7点 | 俳優パズル- パトリック・クェンティン | 2013/03/21 10:00 |
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本日21日に創元文庫からクェンティン「人形パズル」が刊行される、パズルシリーズ第3作だが創元としては復刊ではなくて未訳作では無いにしても過去にまともに紹介されてなかった幻の作だった
創元では題名的にパズルシリーズでは無いけど同じくダルースが登場する「女郎蜘蛛」も新訳復刊予定らしい 便乗企画として「俳優パズル」をいつ書評するか?今でしょ! 「人形パズル」の一つ前、第2作がシリーズ最高傑作との噂が有った「俳優パズル」である 私は書かれた年代を考慮しない書評は意味を成さないという信念が有るのだが、クェンティンのパズルシリーズもその”パズルシリーズ”という通称から誤解を招きやすい典型だと思う シリーズ第1作「迷走パズル」が1936年、この「俳優パズル」が1938年、その後戦争のブランクが有り、戦後の1944年の第3作「人形パズル」以降は毎年コンスタントに書かれている その為1作目・2作目と3作目以降には違いが有り、1・2作目での謎を解く探偵役はレンツ博士であってピーター・ダルースではないのである いやもちろん主役はダルースと彼女のアイリスなのだが、探偵役=主役じゃないのだ、語り手ダルースは単なるワトソン役でもなければ狂言回しでもない、あくまでもダルースが主役なのである でも主役ではないにしても一応の探偵役はやはりレンツ博士なのだ ところが第3作以降になるとレンツ博士は探偵役から外される のりりんの解説にも有るがドイツ生まれのレンツ博士を戦後に書かれた3作目以降には使い難かったという事情ももちろん有ると思う しかしそれだけじゃなくて、そもそもこのパズルシリーズはその通称からガチな謎解きパズラーと思い込みがちだが、それは読者側の勝手な期待であり他の黄金時代本格と同列には扱えないんじゃないだろうか このシリーズが書かれた時期はアメリカン本格が質的変化を起こし、マクロイなどサスペンス風本格へと変遷していく時代と符合する、つまりクェンティンは行き詰まりかけていた他の本格派作家達の轍を踏まず、当時の潮流に乗ったのものだと解釈したい パズルシリーズの何となくシリーズを通した作風の統一感の無さというのはやはり時代背景を考慮しなくてはならないだろうと私は思う 例の二階堂はパズルシリーズについてあまり好みじゃないと以前に述べていた、そりゃそうだよなCCや館ものばかりをを好む二階堂みたいな奴の嗜好にはいかにも合わない感じだ 私は今回「俳優パズル」を読んでこのシリーズを見直した、他の書評済みのシリーズ作も文章と採点を変更した、それは「俳優パズル」が噂に違わない名作だったからだ 特にホワイダニットには感心した、動機が物語全体と有機的に結び付いているのだ 例えばいかにも本格派らしい真相を求める読者は「悪女パズル」の方を好むだろうが、そういう読者ではない私は「悪女パズル」などよりこっちの「俳優パズル」の真相の方が好きだ パズルシリーズはどうもプロットのゴチャゴチャ感が有るのだが、これはサスペンスとパズラーを融合しようとした良い意味での試みだったと解釈し直して、今後は弱点とは思わない事にしようと私は心に決めた |
No.450 | 8点 | 千尋の闇- ロバート・ゴダード | 2013/03/15 09:52 |
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本日15日に講談社文庫からロバート・ゴダード「隠し絵の囚人」が刊行される、MWA賞受賞の美術ミステリーらしい
便乗企画としてゴダードを初めて読んでみた、う~ん、なんでもっと早く読んでおかなかったのだろう、こんな凄い作家だったとは ジャンル投票は迷った、だってジャンルを特定するのが非常に難しい、私は広い意味でサスペンスに投票したが多分kanamoriさんの投票は歴史ミステリと推測しますがこれも充分納得出来る 謎を追及する過程は本格派だし、根本の謎は過去の歴史の中に埋もれた闇なので歴史ミステリでも有り、政治絡みの陰謀諜報スリラーでも通るだろうし、騙し合いなんかはある種スパイ小説そのものであるし、男気を見せるとこなんかはハードボイルドだ しかも全てのジャンルをごちゃ混ぜにしながら尚且つ単独ではどのジャンルにも当て嵌まらない セイヤーズとアンブラーとル・カレとフォーサイスとチャンドラーと、あとついでに高橋克彦まで全部足し合わせて、テイ「時の娘」で割ったような味わいなのである ”このミス”でのゴダードのランクイン作品は「蒼穹のかなたへ」「闇に浮かぶ絵」などごく一部作品に限られ定評有る「リオノーラの肖像」でさえもランキングしてないのは残念だ 「千尋の闇」は文庫で上下巻合わせて600㌻を超えるが、まさに巻を措く能わずで10年に1冊レベルの圧倒的パワーを持っている、”稀代の語り部”という通り文句は本当だった |
No.449 | 7点 | 氷の家- ミネット・ウォルターズ | 2013/03/08 09:58 |
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先月27日に創元文庫からミネット・ウォルターズ「遮断地区」が刊行された、ウォルターズの最高傑作との呼び声が高い作で、年末のこのミスに久々に返り咲くか?といったところか
この作者名を見るとどうも”ミネラル・ウォーター”を連想してしまうんだよなぁ、しかも”氷”じゃなくて”水の家”に見えてくる(笑) 私にとってウォルターズはずっと積読状態だった作家である、別に大した理由は無くて文庫ととしては少々厚かっただけでして(苦笑)、でも上下分冊本とかじゃないんだからもっと早く読むべきだった デビュー作「氷の家」は題名から受ける先入観で”館もの”をイメージするなら完全なる間違いである 題名は庭の一角に”氷室”が備え付けてあるのが由来で、家という建築物的要素が重要なわけでは決して無い、”館もの”だと期待したならそれは読者側の勝手な思い込みが悪いのである しかも”氷”という冬っぽい題名とは裏腹に作中の季節設定は夏だしね ドラマの出来は知らんけど、原作に関しては凡作なんかじゃ絶対にない 嗜好の違いなんか関係ない、この作品は犯人当てパズルにしか興味の無い読者なんかにはどうせ理解が及ばないだろうね、無理に読む必要はないんじゃない |